FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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六魔将軍現る!

「「子ども?」」

「驚いたな……この子達が……」

「ウェンディと……テューズ……?」

 

 二人を見た魔導士達がそれぞれ反応を見せる。しかし、そのどれもが困惑を含んだものだった。

 彼らは六魔将軍を倒すために各ギルドの最大戦力を集めたこの連合に、化け猫の宿から参加するのはたった2人だと聞いていた。

 その少ない数に対しどれ程の化け物が来るのかと期待を抱いていた訳だが、蓋を開けてみればその正体はギルドの最大戦力とは思えないような子供2人だったのだ。

 

「……これで全てのギルドが揃った」

 

 戸惑いを隠せない面々の中、これまた逸早く我を取り戻したのはジュラだった。何事もなかったかのように平然と話を進めようとする。

 

「この大がかりな作戦にこんなお子さまをよこすなんて……化け猫の宿はどういうおつもりですの?」

 

 期待外れだったと溜息を漏らすリオンの隣で、真面目に六魔将軍を討つつもりがあるのかと疑問に思ったシェリーは顔を顰める。

 不満げな表情で二人を吟味するシェリーに、二人はオドオドとしながら目に涙を浮かべた。

 ギルドの仲間に温かく見守られながら育ったウェンディ達は、他人に睨まれるということに対しての耐性が全くと言っていいほどなかった。

 

「あら、その子達だけじゃないわよ。ケバいお姉さん」

 

 そんなテューズ達のさらに後方。突然響いた声は、その場に居る全員の視線を一瞬で集めた。

 腕を組み、フンッと鼻を鳴らす機嫌の悪そうな白い猫とその一歩後ろを気まずそうに歩く紫色の猫は、逆光に照らされながら堂々とテューズ達の元へ向かう。

 

「シャルル……付いてきたの?」

「フィールまで……」

 

 半ば喧嘩別れの様な状態だったテューズ達は気まずそうにしていた。フィールも彼らから視線を逸らしたりと多少気まずさを感じてはいるが、シャルルは来て当然でしょ、と気にしている様子はない。

 連合への参加に反対はしていたが、ドラゴンに関する手掛かりを長年探している彼らには何を言っても無駄だろうと予想し、初めからついて行くつもりではあったのだ。

 出来れば行って欲しくは無かったのだが、予想通り行くと聞かない彼らの後を二人はこっそりつけていた。

 そして、2匹の猫を見て驚愕する皆とは少し違う反応を見せた者が、いや猫がいた。妖精の尻尾のハッピーだ。

 控える様に後ろに佇んでいるフィールの影響もあり、その堂々とした態度からハッピーの目にはシャルルがお嬢様の様に見えた。

 

「ねぇルーシィ、あの子達にオイラの魚あげてきて」

「えぇ!? もしかして一目惚れ? ……でもきっかけは自分で作らなきゃダメよ?」

 

 一目見ただけでシャルルに心を奪われたハッピーは恥ずかしそうにルーシィに頼んだが、ルーシィはそれを断り、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこれまでの仕返しだと言わんばかりにハッピーをからかい始める。

 ハッピーの視線に気づいたシャルルは興味がないとそっぽを向くが、その態度を照れているのだと判断したハッピーは可愛い、と骨抜きにされていた。

 そんな中、口を開いたテューズ達に再び視線が集まる。

 

「あの、僕達戦闘は全然出来ませんけど……」

「皆さんの役に立つサポートの魔法なら、いっぱい使えます……だから……だから、仲間外れにしないでください!」

 

 必死に頭を下げる2人に、シャルルはそんな弱気だからあんた達は嘗められるのだと厳しい意見をぶつけた。

 ごめんと謝りながら小さくなるテューズに、すぐに謝るなとフィールが溜息混じりに指摘する。

 再びごめんと謝罪が喉元まで出てきたのを何とか堪えるテューズを見て、これは先が思いやられるとフィールは眉間を抑えた。

 

「すまんな……少々驚いたが仲間外れにするつもりなど毛頭ない。2人共よろしく頼む」

 

 怖がらせてしまったな、と優しく微笑むエルザに、ウェンディは感激していた。

 今まで話を聞いたことなどはあったが、実際にあってみると噂通りの綺麗な女性。その上戦闘能力もずば抜けて高く、同じ女性魔道士として密かに憧れを抱いていた。

 期待通りの容姿にシャルルやフィールもエルザに対する評価は高く、中々良い女じゃないと満足そうな様子。

 

「可愛いお嬢さん。こちらへどうぞどうぞ」

 

 青い天馬の精鋭であるトライメンズ、ヒビキ、イヴ、レンの3人に連れられ、ウェンディはテーブル付きのソファへと案内される。

 ソファの中心に座るよう案内されたウェンディの右隣にはレン、左隣にはイヴが座り、床に跪いたヒビキはウェンディへおしぼりを差し出す。

 取り残されたテューズ達が呆気に取られているのを余所に、トライメンズは飲み物などでウェンディを丁重にもてなし始める。

 男性に慣れていないウェンディが困惑していることを気にしていない様子のトライメンズに、青筋を立てたシャルルは文句の一つでも言ってやろうとウェンディの救出を兼ねて彼らの元へ向かう。

 しかし、シャルルが彼らの元へ着くよりも早くに、馬鹿者! という怒号が部屋中に響いた。

 

「何をしているお前たち! 麗しきレディ2人と少年を放置するなど言語道断! それでも紳士か!」

「「「すみません先生!!」」」

 

 トライメンズは一瞬で腕を組む一夜の前に正座すると深々と頭を下げ、次の瞬間にはテューズとフィールをソファへ案内するとウェンディと同じようにもてなし始めた。

 文句を言おうとしていたためテューズ達とは距離があったシャルルの元には一夜が赴き、膝をついてシャルルの手を握る。

 

「申し訳ありませんレディ。貴方を不快にさせてしまったお詫びをさせていただけませんか?」

 

 顔を上げ、ウインクする一夜をシャルルは消えてと一蹴した。哀れ一夜。その心の広さや気遣いなど、人が内面のみを評価していたなら彼は殆どの女性を魅了していただろう。

 しかし現実は無情。一夜の申し出は容赦なく切り捨てられ、シャルルは一夜の触れた部分をハンカチで拭いていた。

 撃沈する一夜に哀れみの眼差しを向けていたグレイは隣にいるナツが珍しく寡黙な事に気づき、一体どうしたのかと尋ねてみる。

 何処かで聞いたことのあるような名前に、謎の既視感。何かを忘れているような感覚に頭を捻るナツはテューズとウェンディを交互に見るも、やはり思い出せそうにない。

 

「ねぇテューズ、ナツさんがこっち見てるよ」

 

 視線に気づいたウェンディはナツを見つめながらテューズ声をかけたが、それに対する返答はなかった。

 疑問に思ってテューズへ視線を向けると、そこにはイヴに絡まれているテューズの姿があった。

 対応に困っている様子に共感を覚えたウェンディは苦笑いを浮かべるが、決して他人事ではない。

 

「ウェンディちゃんはああいう子がタイプなのかな?」

 

 突然耳元で囁かれた声に驚いたウェンディが振り返る。彼女も彼女で絡まれており、振り返った先にあるその端正な顔立ちに顔が真っ赤に染まる。

 年の近い男性はテューズしかおらず、男性に対する免疫など無いに等しい彼女は真っ赤な顔を隠すように頭から湯気を出して俯いてしまった。

 その様子をニコニコと眺めながら可愛いねと優しく声をかける辺りに、彼の経験豊富さが窺える。

 今まで数多くの女性を見てきたヒビキでもウェンディほど免疫のない女性は異例であったが、それでも今まで積み重ねてきた経験を用いて、ウェンディが会話ができ、尚且つ遠すぎないという絶妙な距離感を見つけ出した。

 

「ウェンディちゃん、男の人と話すことは少ないのかな?」

 

 ヒビキの問いにウェンディは僅かに頷いた。やはりそうかとヒビキは表情を崩さずに、どう彼女の緊張をほぐそうかと頭の中で幾つかのプランを立てる。しかし、それらが実行されることはなかった。

 

「失礼、そろそろ作戦の確認をしたいのだが」

 

 ジュラの提案にショックから復活した一夜はすぐに片付けるよう指示を出す。すると、トライメンズは尊敬する一夜の指示に従い、テーブルやソファなどを瞬く間に片付けてしまった。

 

「気を取り直して、私の方から作戦を説明しよう。まずは六魔将軍が集結していると思われる場所なのだが……と、その前にトイレの香り(パルファム)を……」

「そこに香り(パルファム)をつけるんじゃねぇよ!」

 

 グレイのツッコミを背に受けながら一夜は部屋の奥へと消えていく。天馬のノリにこれで六魔を討てるのだろうかと頭を抱える者も多数いたが、テューズはその雰囲気が有り難く感じていた。

 初めて他のギルドと協力し、初めて強大な敵と戦う。初めてのことばかりで吐きそうなほど緊張し、昨日はよく眠れなかった。

 もし天馬のノリがなく全員が至極真面目に六魔を討とうとしていたのなら、張り詰めた空気に彼の緊張は限界を迎えていたかもしれない。

 その点で言えば、この少し呆れてしまうくらいのノリには非常に助けられていた。

 

「待たせてすまない。ここから進んだ先にワース樹海が広がっているのだが、その樹海には強大な魔法が古代人達の手によって封印されたと言われている。その名は……()()()()()()

 

 トイレより戻ってきた一夜達の説明に全員が首を傾げる。各ギルドの精鋭達でさえも知らない魔法に、一部の人間は僅かな悪寒を感じていた。

 一夜の持っている情報も古代人が封印するほどの破壊魔法ということだけで、どんな魔法なのかはともかく、その封印場所すらも分かっていない。

 

「六魔将軍が樹海に集結したのはきっと、ニルヴァーナを手に入れるためなんだ」

「我々はそれを阻止し、六魔将軍を討つ!」

 

 ただ六魔将軍を討つのではなく、ニルヴァーナの入手も阻止しなくてはならない。

 その為にも敵の情報はある程度知っておきたいとフィールが考えていた時、それを読んだかのようにヒビキは空中に文字や映像を幾つも展開した。

 

「僕達は六魔将軍について、僅かだが情報を手に入れたんだ。こっちは13人、対して敵は6人」

「この6人がまたとんでもなく強いんだ。一人一人が一騎当千の力を持ち、その魔力はギルド一つをたった一人で潰せる程だと言われている」

 

 イヴの説明に合わせて計6枚の画像が映し出される。

 褐色肌に赤茶色の逆立った髪。男を優に超える程の大蛇を従えた毒蛇使いの魔導士、“コブラ”。

 特徴的な長い鼻とモヒカンヘア、サングラスをかけて素顔を隠している男。その名からしてスピード系の魔法を連想させる"レーサー"。

 角張った顔わした本を抱える大柄の男。大金を積めば一人でも軍の一部隊を壊滅させる程の魔導士、天眼の“ホットアイ”。

 天使を連想させる白い服に身を包む心を覗けるという女、“エンジェル”。

 魔法に関する情報の少ない、眠りながら浮遊している絨毯に座る“ミッドナイト”と呼ばれている男。

 そして、褐色肌に白髪のオールバック。髑髏の杖を持ち、体中に線の模様が刻まれている彼らの司令塔、“ブレイン”。

 

「1対1を避け、常に数的有利を取り続ければきっと対抗出来る筈だ」

「あの….あたしは頭数に入れないで欲しいんだけど……」

「私も戦うのは苦手です……」

「僕も戦闘はちょっと……」

 

 ルーシィに続き、ウェンディとテューズも自身が戦力にならないことを告げる。

 その弱気の姿勢にシャルルは激怒しているが、こればかりは仕方ない。戦えないのに見栄を張った所で、瞬殺されるどころか他の邪魔になる可能性だってあるのだから。

 そうは心の中で思っていても、それを真正面からシャルルに言う勇気がテューズにはなかった。

 

「安心したまえ……我々の作戦は戦闘だけにあらず。奴らの拠点を見つけてくれればいい」

「拠点?」

「あぁそうだ。今はまだ捕捉していないが……」

「樹海には、奴らの仮設拠点があると推測されるんだ」

 

 古文書により樹海全体の映像が表示される。この広い樹海から拠点を見つけ出すというのも骨が折れるだろうが、戦闘に比べれば楽な方ではあるだろう。

 ただ見つかるのであればの話だが。

 一夜の作戦は、ただ拠点を見つけるだけでは不十分だった。拠点を発見し、可能ならば全員をそこに集めること。

 結局のところ戦闘は絶対に避けられないだろうが、真正面から討ち倒すよりも拠点に集合させる方が被害も少なく済む。

 

「であれば、戦闘の苦手な捜索班と相手を拠点に誘導、又は拠点から逃げられないよう妨害をする戦闘班で分けた方がいいのでは?」

 

 フィールの提案に反対意見は無く、早速どちらの班に加わるか意見が出始める。

 絶対に戦闘班だと気合十分のナツは一人樹海へ向かおうとしたが、エルザにマフラーを掴まれて止められしまい、不服そうに彼女を睨む。

 

「それで、奴らを集めてどうするつもりだ」

 

 文句を言い暴れるナツを睨みで黙らせ、エルザは一夜に問いを投げる。その問いに一夜はニヤリと口角を上げ、手を掲げると天井の先、遥か上空を指差した。

 

「我がギルドが大陸に誇る天馬、その名も“クリスティーナ”で拠点もろとも葬り去る」

「それって魔導爆撃艇のことですの?」

 

 青い天馬のクリスティーナといえば、大抵の魔導士ならば聞いたことがあるだろう青い天馬の有する空中戦艦。

 いくら敵が強大とはいえ、高が6人相手にそんな大層な兵器まで出てくることにシェリーは困惑を隠せずにいた。

 同様にルーシィもやり過ぎじゃないの? と若干引いている。そんな彼女達に対し、ジュラはそれ程の相手なのだと険しい顔で断言した。

 こうした認識の齟齬は後々命取りにまでなることをジュラはよく知っている。彼女達も決して嘗めているわけではないのだが、それでもジュラから見ると認識が甘い。

 今まで何度も闇ギルドと戦ってきた彼だからこそ、たった6人でバラム同盟の一角にまで上り詰めた異常さがよく分かっていた。

 

「よいか! 戦闘になっても、決して一人で戦ってはいかん。敵一人に対して、必ず最低二人以上でやるんだ!」

 

 ジュラの言葉に一同は頷いたが、一部の者はこれから始まる戦いに不安を募らせている。

 その内の一人であるテューズも「僕、戦えないけど大丈夫かな……」とぶつぶつ弱音を吐いていたが、情けないこと言ってんじゃないわよ! とシャルルに一蹴され、彼女に足を蹴られる。

 

「おし! 燃えてきたぞ……6人まとめてオレが相手してやらぁ!!」

 

 一度お預けを食らったナツは今度こそ扉を壊して樹海へと走り出す。先頭を走る彼に他の者は呆れと、本当に作戦を理解しているのか? という不安を抱きながら続々と樹海へ向かう。

 

 

 

 

「おっ! 見えてきた! 樹海だ!」

「おい待てよナツ!」

「バカ者! 一人で先走るんじゃない!」

 

 先頭を走るナツをグレイとエルザが追いかける。

 

「へへ! オレに先取られんのがそんなに悔しいのかよ!」

「なに!? 貴様という奴は!!」

 

 ナツの挑発にエルザは鬼の形相に一変する。その顔を見たナツの思考は停止してしまい、後ろを見ていたせいか前方の崖に気づかず飛出、真っ逆さまに悲鳴を上げて落ちていく。

 

「あんた達! もたもたしない!」

「だってぇ……」

「オイラも! 頑張るからねぇ!!」

 

 ナツ達を見失わないようシャルルはウェンディの手を引いて駆けているのだが、シャルルにいい所を見せようと必死に走るハッピーには見向きもしない。

 

「フィール達は飛べば楽なんじゃないの?」

「魔力の温存です。いざという時に飛べなければ意味がありませんから」

 

 フィールからの返答に、あぁなるほどと納得する。万が一何かが起こり逃走するとなると、やはり一番逃走率が高い選択肢は飛んで逃げる事だろう。

 生い茂る木々に邪魔される事なく自由な方向へ逃げられるし、なによりスピードが速い。

 

「そんな事態にならないよう、しっかりして下さいね? 期待してますから」

「そんなぁ……」

 

 クスリと笑みを浮かべるフィールに見られ、プレッシャーを感じたテューズは小さくなる。

 無論フィールが本気でそう言っているわけではない事は分かっていたが、実際のところ、テューズ達5人の中で危険な役割を担うとするなら間違いなく自分がするべきだ。

 その事に対して文句はないが、それでも怖いものは怖かった。

 

「大丈夫だよ! みんなはオイラが守るから安心して!」

 

 任せてよ! と胸を叩くハッピーはチラチラとシャルルの盗み見る。その様子が微笑ましくテューズ達は笑みを浮かべたが、当のシャルルは未だ無視を決め込んでいた。

 ハッピーもハッピーでそれを無視ではなく照れ隠しと受け取っているようなので、問題なさそうではあるが。

 

 

 

 

「うぅ……痛ってぇ……しかし、妙な匂いがすんな……ここ」

 

 頭部にたんこぶを作ったナツと合流し、エルザ達は樹海を走る。

 当初はあの高さから落ちたにも関わらずたんこぶ一つで済んだナツの頑丈さに呆れていた一同だったが、現在は険しい表情で小まめに周囲を確認していた。

 

「気づいたか?」

「あぁ……よく分かんねぇが、異様なムードだ」

「油断するな、シェリー」

「は、はい」

 

 他とは何か違う緊張感に警戒を強めながら進むと、樹海を抜けたようで多少見晴らしのいい場所にでた。

 そこは高台になっていたようで、その先にも広がっている樹海を一望できる。

 

「見ろ!」

「「おぉ!」」

 

 何かに気づいたエルザの指差す先へ視線を向け、その光景に皆は感嘆の声をあげた。

 視線の先には、双翼を広げ、上空を悠々と飛行する天馬を模した魔導爆撃艇クリスティーナ。

 青い天馬の切り札だけあってその大きさは中々のものであり、太陽光を遮って彼らの周辺に巨大な影を作っている。

 

「すごい……」

「ちょっとは期待できそうね」

 

 少し遅れて到着したルーシィや化け猫の宿組もクリスティーナに見惚れており、その場に居る全員がこれなら勝てるのではと期待を寄せていた。

 しかし、その期待は無残に打ち破られてしまう。

 突如としてクリスティーナの左胴体から轟音と共に黒煙が吹き出し、バランスを崩したクリスティーナが右へ大きく傾いた。

 彼らが状況を掴めずに驚駭する最中も船の至る所から爆発が起こり続け、クリスティーナは舵や破損した装甲の欠片を撒き散らしながらバランスを崩し、遂には墜落。閃光と共に樹海へ姿を消した。

 

「……誰か来たぞ!」

 

 スンスンと鼻を鳴らし、逸早く敵の接近に気づいたナツ。彼の言葉に皆が警戒を高めていると、クリスティーナの墜落によって立ち昇っていた黒煙の中より六つの影が現れた。

 それらは全てヒビキの古文書に映し出されていた人物。今回の目標である六魔将軍に他ならない。

 連合を見渡した後、褐色肌の男──ブレインは忌々しそうに顔を顰める。

 

「ウジ共が……群がりおって」

「君達の考えはお見通しだゾ」

「ジュラと一夜もやっつけたぞ!」

「どーだ! どーだ!」

 

 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるエンジェルの両脇に漂うマスコットの様な2人が言い放った言葉に、蛇姫の鱗と青い天馬のメンバーは衝撃を受けた。

 ジュラも一夜も両ギルドの誇る最高戦力とも言える実力者。

 普段の彼らであればそんな事はありえないと、そう言って敵を睨みつける事も出来たであろう。

 しかし、クリスティーナを目の前で墜落させられた彼らの脳裏にはまさか、という考えが過ぎってしまい、敵の言葉を否定出来なかった。

 

「動揺しているな、聞こえるぞ……」

「仕事は早ぇ方がいい。それにはあんたら邪魔なんだよ」

「お金は人を強くする、デスネ! いいことを教えましょう、世の中は金が全て……そして!」

「「お前は黙ってろ、ホットアイ!」」

 

 連合の反応にニヤつくコブラはレーサーと共にホットアイのスイッチが入る前にツッコミを入れ、そのようなやりとりをする彼らからは余裕が滲み出ている。

 

「まさか、そっちから現れるとはな」

 

 エルザの言葉に緊張が走り、睨み合う両者。先に動いたのはナツとグレイの二人だ。

 我先にと六魔将軍に向かってくる二人を見たブレインは迎撃するよう指示をだす。

 指示を受けたレーサーは瞬く間に二人の背後へと移動、それぞれの背中に回し蹴りを喰らわせて地面に叩きつけた。

 

「「ナツ! グレイ!」」

 

 蹴り飛ばされた二人の名を叫ぶルーシィだったが、なぜか彼女の声は隣からも響き、二重に重なった。

 違和感に気付いたルーシィが隣を向くと、そこにいたのは自分と同じ姿。

 状況を理解できず、まるで鏡合わせかのように呆けていた二人だったが、突如として一方のルーシィの態度は急変し、未だ呆けているもう一人のルーシィを鞭で打ちはじめた。

 

「ばーか!」

「え? ちょっ!? なにこれ!! あたしが!?」

 

 攻撃され、更に混乱してしまったルーシィは反撃できずに一方的に嬲られ、その光景を見たエンジェルは目を細めて笑みを浮かべる。

 一方、ホットアイと交戦していたリオン、シェリーの両名もホットアイによって沼のように柔らかくされた地面にはまってしまい、身動きが取れずにいた。

 トライメンズも六魔将軍を倒すべく向かっていったが、目で追えないほどの速度で動くレーサーに圧倒されてしまう。

 

「換装! 舞え、剣達よ!」

 

 コブラと対峙したエルザは跳躍し、天輪の鎧に換装すると無数の剣を雨のように降らせる。

 しかし、コブラは放たれた剣を顔色一つ変えずに、最小限の動きで全て躱して見せた。 

 

「太刀筋が読まれている!?」

 

 自らの剣を全て躱された事に驚くエルザの背後に、突然現れたレーサーが蹴りを放つ。

 既の所でそれに気づいたエルザはレーサーの蹴りを剣盾に防ぎ、そのスピードに対応する為瞬時に飛翔の鎧に換装。レーサーの動きを追い剣を振るう。

 

「お、速ぇな! 速ぇ事はいいことだ!」

「だがな……聞こえるぞ、妖精女王(ティターニア)。次の動きが!」

 

 エルザの背後に回ったコブラは彼女の脇腹に蹴りを放ち、エルザの体がくの字に曲がる。

 痛みに顔を歪ませながらも空中で体を捻り、コブラと向き合う形で着地する。

 

「読まれてるだ? 違うだろ……聞こえるって言ってんだよ」

 

 今のコブラの言葉は、動きが読まれているという決して言葉にはしていないエルザの思考に対する返答だ。

 動きを読むのではなく、思考を読む。自身の考えていた以上に厄介な能力に、エルザの顔が険しくなる。

 

「うぅ…くっそぉ!」

 

 ナツが起き上がると、眠ったまま動く気配がないミッドナイトに気が付く。

 

「お前! なに寝てんだこのやろう!! 起きろやコラァ!!」

 

 自分達を前に眠り、全く相手にされていないその態度に腹を立てミッドナイトにブレスを放つナツ。

 しかし、そのブレスはミッドナイトを避けるかのように折れ曲がり、当たることはなかった。

 

「な、なんだ今の!? 魔法が当たらねぇ!?」

「よせよ、ミッドナイトは起こすと恐ぇ」

 

 魔法が当たらないことに驚愕するナツの後ろにレーサーが現れる。ナツがレーサーの存在に気づいた時には既にレーサーの脚はふるわれており、ガードする間もなく攻撃をもろに喰らう。

 それぞれ交戦していた連合の面々もナツ同様六魔将軍圧倒され、連合が地に伏すその光景にブレインはニヤリと笑みを浮かべた。残るは後一人。

 

「ほう、これがエルザ・スカーレットか……」

 

 思考を読まれているにも関わらず、それでも尚コブラと渡り合うエルザにブレインは感嘆を漏らした。

 凄まじい速度で剣を振るうエルザとそれを全て正確に避けるコブラ。動きを読み、剣の柄頭を掴んだコブラのカウンターをエルザもまた防ぐ。

 

「聞こえるんだよ。その動き、その息遣い、筋肉の伸縮、思考もな………ッ!?」

 

 組み合っていたコブラは何を聞いたのか突然後方へ飛び、エルザから距離を取る。

 先ほどまでニヤついていた顔に汗を浮かべ、一変した様子に驚いたエルザだが、すぐに思考を切り替えコブラに斬りかかる。

 目を見開き、固まるコブラに剣を振り上げる。あと少しで剣が届くというところでエルザの足元の土が盛り上がり、上空へと打ち上げられたエルザをレーサーが追撃した。

 

「コブラ! もたついてんじゃねぇぞ!」

「チッ……キュベリオス!」

 

 レーサーの怒号に顔を顰めながらコブラはキュべリオスに指示を出し、その大蛇は主人の命ずるがままエルザの腕に食らいついた。

 腕を押さえ、顔を歪めるエルザをコブラは口角を上げる。

 

「キュベリオスの毒はすぐには効かねぇ、苦しみながら息絶えるがいい」

「……ゴミどもめ。まとめて消え去るがいい」 

 

 地に伏し、満身創痍の連合に止めを刺そうとブレインは大気が震える程の禍々しい魔力を杖に集めていたが、それを放つ既の所で集めていた魔力が大気中に分散した。

 

「? どうしたブレイン。何故魔法を止める」 

 

 不審に思ったレーサーの声に反応せず、ブレインは顔中に汗を滲ませながらただ一点を見つめ続けている。

 その視線の先にいたのは、岩に隠れ様子を見ていた二人の少年少女。

 

「……ウェンディ……テューズ……」

 

 

 


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