FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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ニルヴァーナ編
連合軍、集結!


 

 

 空が茜色に染まる頃。草原に座り談笑する少年少女たちのうち、真っ白な猫は立ち上がると、スカートに付いた汚れを払った。

 

「そろそろいい時間だし、ギルドに帰りましょうか」

 

 彼女がそう言うと、テューズ達3人は立ち上がり談笑を続けながら先頭を歩くシャルルの後に続く。

 日頃はギルド近くの草原で様々な遊びをして暇を潰している彼らは昔、時間を忘れ、周囲が暗くなった頃にギルド帰った事があった。

 当時はまだ幼かった彼らの帰りが遅い事にギルドメンバーは酷く心配し、総出で捜索するという事態になってしまったことがある。

 今となっては多少あどけなさは残っているものの、彼らも成長している。

 もう帰りが遅いくらいでそこまで心配されることも無いだろうが、それでも日が落ちる頃にはギルドへ帰ることにしていた。

 テューズ達4人が無事にギルドへ着くと、ギルドマスターであるローバウルに呼び出された。

 何かしてしまったのかと一抹の不安を抱えながらマスターの元へ向かう。

 

「なぶら…。お前達はバラム同盟を知っているか?」

 

 着いて早々投げかけられた問いにテューズは首を傾げる。

 バラム同盟という存在は知ってた。六魔将軍(オラシオンセイス)悪魔の心臓(グリモアハート)冥府の門(タルタロス)。この3つのギルドから構成されている闇の最大勢力。しかし、何故その名称が話題に上がったのかは分からなかった。

 

「先日の定例会で、その内の一つである六魔将軍が動きを見せている事がわかった」

「大丈夫なんですか? それ」

 

 不安げな表情のウェンディの問いに対する答えはない。沈黙の中、ローバウルは神妙な面持ちでグラスに酒を半分程まで注ぎ、ボトルの中に残った酒を呷った。

 ボトルで飲むのなら何故グラスに注ぐのかと彼らは長年疑問に思っていたが、もうこれはそういうものなのだと半ば諦めていた。

 

「おぼおばびおんべいぶばば」

「「飲んでから喋ってください!!」」

 

 酒を口に含んだ状態で話始めたローバウルを、テューズとウェンディは同時に指摘した。

 あんな状態で喋った所で何を言っているかなど当然分からないし、口内に含まれていた酒は殆どが滝のように溢れてしまっている。

 ローバウルにテューズとウェンディがツッコミ、その隣でシャルルとフィールは嘆息をもらす。最早このやり取りも定番になっている。

 先程までの真面目な雰囲気をぶち壊した張本人であるローバウルは、咳払いをするととんでもない事を言ってのけた。

 

「その六魔将軍じゃがな、我々で叩くことになった」

 

 瞬間、場の空気が凍りつく。

 ローバウルの言葉はテューズの頭の中で何度も繰り返され、そもそもこのギルドにそんな大層な敵と戦えるほどの実力を持つ魔導士などいないというのに、何故その話を受けてしまったのかとシャルルは頭を抱えていた。

 まさかこんな出鱈目な話だとは思っていなかったフィールもあまりの衝撃に口が開きっぱなしになっており、ウェンディに至ってはもう放心してしまっている。

 

「安心せい、我々だけが戦うのではない。連合を組んで戦うのじゃ」

 

 愕然としている彼らを見かねたローバウルの発言に、シャルル、そしてフィールはあぁ成る程と事の大凡を理解したが、残った2人は未だに疑問符を浮かべている。

 

「それで?  連合の詳細は? 」

「うむ。まず我々化け猫の宿(ケットシェルター)、そして青い天馬(ブルーペガサス)蛇姫の鱗(ラミアスケイル)妖精の尻尾(フェアリーテイル)、以上4つのギルドよりそれぞれ精鋭を数名ずつだす」

 

 彼の答えに、質問したフィールは思案顔で黙り込む。同時にテューズ達も漸く自分達だけで戦うわけではないと理解し、ホッと胸を撫で下ろした。

 連合に参加するギルドは、ギルド以外の人間と殆ど交流のない彼らでも知っているような有名所ばかり。

 それらの精鋭達が手を組むのなら、中々良い勝負になるかもしれない。

 

「そこで、我々化け猫の宿からはお前達2人を参加させることにした」

「わ、私達ですか!?」

 

 今日何度目かの驚愕。彼らも滅竜魔導士ではあるが、戦闘など出来ないし、乱闘にでもなってしまえば足手まといになってしまうだろう。

 回復魔法こそ役に立つだろうが、子供が2人だけというのは酷い話である。それでもローバウルはこの決定を変更するつもりは無いようで、どうか頼むと深々と頭を下げた。

 マスターである彼にそこまでされてしまうと流石に断りづらいようで、テューズも困ったように眉を顰める。

 

「私は……参加します」

 

 沈黙を破ったウェンディの言葉に全員が目を見開く。ローバウルでさえこんなに早く頼みを呑んでくれた事に驚きを隠せなかった。

 一旦冷静になれ、もう一度考え直せとシャルルが必死に説得しているがウェンディの決意は変わらない。

 こういう時のウェンディは非常に頑固な事を知っているフィールは、もう説得は不可能だと内心諦めていた。

 

「妖精の尻尾が参加するなら、きっとあのナツさんも参加する。そしたら消えたグランディーネについて何か聞けるかもしれない!」

 

 ウェンディの意見に、テューズも一考する。確かに同じ滅竜魔導士であるナツならば、突然姿を消したドラゴンについて何か知っているかもしれないと。

 その様子にフィールもこれはマズイと慌て始めた。ウェンディだけでなくテューズまで行くとなってしまうといよいよ止められなくなってしまう。

 参加しようとしているのがウェンディ1人だけならば、1人では危ないからと理由をつけて辞退させようと考えていた。しかし、テューズも参加するのであればその作戦が使えなくなってしまう。

 何とかテューズを説得出来ないかとその頭脳をフル回転させたが、ついにテューズは参加を決意してしまった。

 戦闘能力のない2人を命の危険がある戦いに参加させまいとシャルル達はどうにか粘ったが、共通して変な所で頑固な2人が意思を変えることはなかった。

 

 

 

 

 翌日。2人はシャルル達の反対を押し切ってギルドを飛び出し、指定された連合の集合地点へと向かう。

 勢いよくギルドを立った時とは打って変わり、戦う事が出来ないため仲間外れにされるのではないかと2人の足取りは重かった。

 一体どんな人達が集まっているのか、怖い人は居ないかと、考えれば考えるほど不安は大きくなる。

 やはりこれから強大な敵と戦うのに戦力にならないなどあまり良い印象を与えないと、ウェンディは涙目になりながらトボトボと足を進める。

 

「だ、大丈夫だよ。きっとみんな優しい人達だと……思う……」

 

 何とか励まそうとするテューズ自身も不安に押しつぶされそうになり、段々と声が小さくなる。こういったネガティブな方向に思考を巡らせるのは2人の悪い癖だ。こういう時、普段なら考えすぎよ! だとか、ウジウジしない! などと叱咤激励してくれる相棒達も今はギルドにおり、2人の不安は進むにつれどんどんと大きくなっていく。

 テューズは深呼吸すると、このままではいけないと両頬を叩いた。突然の行動に驚くウェンディの手を取り、勇気を振り絞って駆け出す。困惑しながらも手を引かれ、ウェンディがしっかりとついてきている事を確認すると、スピードを上げて目的地まで駆け抜ける。

 進んだ先で木々の間から顔を覗かせているのは、薄いピンク色に染まった外壁にハート型の窓が施してある城の様な建物。

 指定された集合地点で間違いないだろうと2人は顔を見合わせ、覚悟を決めて内部へと向かった。

 他ギルドの面々は既に到着しており、入り口に背を向けて話し合っている。恐らく自分達が最後だと察した2人は焦ってしまった。

 焦るウェンディは躓いてしまい、テューズを巻き込んで盛大に転んでしまう。

 ゴッという音が響き、勢いよく床に額をぶつけたテューズは呻き声を上げる。

 

「ご、ごめん!」

 

 彼の背に覆い被さる形で転んだウェンディはアワアワとしながら体を起こし、心配そうに手を差し伸べた。

 ジンジンと痛みの残る額を片手で抑えながら、テューズは平気だと言ってもう片方の手でウェンディの手を掴み起き上がる。

 本当にごめんと申し訳なさそうにする少女と、全然平気だからと苦笑いを浮かべる少年。

 突如現れた謎の2人に困惑する連合の中、いち早く我を取り戻したジュラは幼さの残る二人組に声をかけた。

 

「君達は……?」

 

 声をかけられた2人は自分達が何をしにここへ来たのかを思い出し、慌てて頭を下げる。

 

「遅れてごめんなさい! 化け猫の宿からきました…ウェンディです!」

「同じく化け猫の宿から来ました。テューズです! よ、よろしくお願いします!」

 

 表情が強張り、硬い動きで頭を下げたテューズと名乗る少年と、その少し後ろで身を縮めるウェンディと名乗った気の弱そうな少女。

 彼らに謎の既視感を感じ、ナツは2人を凝視していた。




 現在内容の修正をしていますが、恐らくそれが原因で次話との間に地の文の量や、視点の差が発生しています。急に雰囲気が変わり読みにくく感じるかもしれません。
 ご了承ください。

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