FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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 すみません。かなり遅れてしまいました……
 10月に入って急に忙しくなってしまいました。先週に更新する予定だったんですが、中々書く時間が取れなくて……申し訳ありませんでした。

 今回で天狼島編は終了です。今回はかなり遅れたので取り敢えず誤字確認する前に更新しておきます。




手を繋ごう

 

 

 

 

 

 

「終わったな……」

 

「あぁ」

 

 ふぅと息をつくグレイさんの言葉に同意し、エルザさんはいつもの鎧姿に戻った。

 

「私達、勝ったんだよね!」

 

「うん! ハデスを倒したから、きっとこれで終わ――」

 

「うわぁぁぁ!!! 助けてナ゛ヅゥ~!!」

 

 ウェンディと話していた僕の言葉を遮った絶叫に驚き、視線を向ける。

 そこには、涙を流しながら僕達に駆け寄ってくるハッピーと、額に汗を浮かべながら駆けるシャルル達。

 そして、そのハッピー達の後を大量の悪魔の心臓(グリモアハート)の兵達が追いかけていた。

 

「まずいぞ……」

 

「くそっ! 流石にもう魔力が空だ……」

 

 ハデスに全魔力を使った僕達にはもう魔力が残っておらず、リリーも魔力が尽きているらしい。

 

 

「――そこまでじゃ!!」

 

 

 突如僕達の後ろに現れたマスターやガジルさん達に、ナツさん達は歓喜して笑みを浮かべる。

 天狼樹が元に戻った事によって加護も回復したらしく、回復したマスター達と倒れているハデスを見た敵兵達がどよめき始めた。

 

「今すぐこの島から出ていけ」

 

 動揺する敵兵達をマスターが睨み付けると敵兵達は一目散に逃げだし、帰り支度を始めた。ようやく訪れた平穏に全員が安堵し、僕は近くに居たフィールを思いっきり抱き締める。

 

「フィールもお疲れ様」

 

「……苦しいです」

 

 照れるように顔を逸らすフィールが可愛くて更に力を入れると、フィールに僕の顎を押し上げられて「汚いです」と一蹴された。

 確かに戦った後だから埃なども沢山ついているだろうが、そうきっぱりと言われると流石に傷つくというものだ。

 

 だから抵抗するフィールを放さない事にした。

 こうなったら意地でも放してやるものか。このままキャンプに帰るまで解放してあげない。

 そう思って頬を膨らませる僕にフィールも諦めたらしく、腕の中で大人しくなった。

 

 

 

「さぁて、試験の続きだ!!」

 

 ウェンディと話していると突然ナツさんの声が耳に入り、ウェンディは驚いて肩が跳ねさせていた。

 

「二次試験は邪魔されたからな、ノーカウントだ! この際分かりやすくバトルでやろうぜ! バトルで!」

 

 ナツさんはやる気満々らしく、シャドーを行いながらニシシと笑っている。

 

「てめぇの頭はどうなってんだ! そんなボロボロでオレに勝てるとでも思ってんのか! あァ!?」

 

「や、やめなよガジル……」

 

 全身に包帯を巻いたガジルさんをレビィさんが止めようといているが、当然止まるはずもなく、ナツさんとガジルさんは額を合わせて睨み合う。

 

「あぁ余裕だね! 今のオレは雷炎りゅ――う……ぁ……」

 

「お、おい……」

 

「ナツ!?」

 

 ニヤリと笑ってガジルさんを挑発しようとしたナツさんだったが、突然気絶して倒れてしまった。

 エルザさんによると炎以外の魔法を食べた代償らしく、困惑していたガジルさんは、どんな気絶の仕方だよ! とツッコミをいれた。

 

「取り敢えず、キャンプまで戻りませんか?」

 

「少しは休まないと、体が持たないわよ」

 

「怪我なら僕達で治しますから」

 

「というか、そろそろ放してほしいんですが?」

 

 その光景を苦笑いしながら眺めていた僕達がそう提言すると、それもそうだな、と皆さん同意してくれて移動を開始し、僕も腕の中で何か言っているフィールを無視して後を付いていく。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

「痛みが消えた……治癒魔法とは便利なものだな」

 

 キャンプでリリーの怪我を治療すると、リリーは何度か手を握って口角を上げる。

 感心したように呟かれた言葉に笑顔を返すと、リリーは休まなくていいのかと尋ねてきた。

 

 確かにハデスとの戦いで魔力は全て使ったが、天狼樹が元に戻ったお陰なのか、魔力の回復の調子も治癒魔法の調子も頗る良い。

 そう返すとリリーも、確かに魔力がいつもより回復しているな、と同意し、ハッピーを治癒しているウェンディも調子が良さそうだった。

 

「僕は全然平気だから。次はリサーナさんですね」

 

「よろしくね」

 

 リサーナさんを治癒していると、ギルダーツさんに挑み、一撃で返り討ちにあってたんこぶを作っていてるナツさんが列に並ぶ。

 

「な、なんか行列になっちゃったね……」

 

「大丈夫です! こういう時こそお役に立てるし!」

 

「そもそも僕は回復係としてこの試験に参加してますからね」

 

 ウェンディの治療を受けているレビィさんは、そう言えばそうだったね、と苦笑いを浮かべている。

 治癒を続ける僕達に、無理しちゃダメよ、と心配するシャルル達が去った直後に、エルザさんが変わろうか? と尋ねながら僕達の前に現れた。

 

 その声に振り返った僕達はエルザさんの姿を見て目を丸くする。

 エルザさんはナース服を着ており、それによって胸や腰、体のラインがくっきりと出ていて、ミニスカートであることも合わさって目のやり場に困る。

 

「エルザさんに治癒の力なんてありませんよね……?」

 

「勝負に能力の差は関係ないぞ? 試されるのは心だ!」

 

「ふぇ!? 勝負ですか!?」

 

 勝負という言葉に反応してウェンディは目に涙を浮かべ、レビィさんとリサーナさんはエルザさんに呆れている。

 そんな僕達を他所にエルザさんは座って足を組み、強調された太腿を見せながらニヤリと笑う。

 

「さぁ、素直に言ってみろ。痛いところは何処だ? まずは熱を測ってやろうか? それとも注射がいいか?」

 

 愚痴愚痴と言いながらもみんなはエルザさんの方に並び、ナツさん達に至ってはちゃんと列に並ばずに割り込んでいる。

 

「ほ、ほら! 少し休めるからよかったじゃない!」

 

「そうだよ! やっぱり休憩も必要だしね!」

 

「やっぱり……お胸の差でしょうか……」

 

 僕達を励まそうとあたふたするレビィさん達だったが、ぼそりと呟かれたウェンディの言葉にレビィさんもダメージを受けていた。

 一方、エルザさんは慣れていないのかナツさん達を包帯で縛って踏みつけており、ナツさん達はエルザさんに踏まれて悲鳴を上げている。

 

「グレイ様……お仕置きするよりお仕置きされる方が好きだなんて……! ジュビア、ショック……」

 

「ガジルゥ……!!」

 

「ナツ……」

 

 ジュビアさん、レビィさん、リサーナさんがそれぞれ“治療”を受ける者の名前を口にしながらエルザさん達を見ていたが、僕はそれよりもウェンディを励ます事にする。

 僕はそこまでショックを受けていないが、ウェンディは胸の事を気にしていた分余計にダメージを食らっていそうだ。

 

「えぇと……大丈夫? ウェンディ」

 

「……テューズは、大きい胸と小さい胸、どっちが好き?」

 

「…………小さい方……です……」

 

 ついあった方が良いと言いそうになったのを我慢してそう返すと、ウェンディは涙目で本当かと聞いてくる。

 僕はその質問に答えられずに視線をウェンディから逸らした。

 

「うわぁぁ! バカバカバカバカバカァ!!」

 

 ポコポコと僕を殴るウェンディには取り敢えず、きっと成長するから! と言って慰めてはおいたが、僕はこの時治癒魔法で心の傷も治せないかと本気で思ったりした。

 

 その後、重要な話があるらしいマスターに全員が集められ、S級魔導士昇格試験は中止になるという発表があった。

 今回の試験は、候補者の中に評議員が居たり、悪魔の心臓(グリモアハート)が攻めてきたりと、色々あったからだろう。

 

 グレイさん達はマスターの決定に渋々納得していたが、ナツさんはやはり納得がいかないらしく、子供のようにS級になるんだと駄々をこねている。

 

「しょうがないの……特別じゃ! 今から最終試験を始めよう! 儂に勝てたらナツをS級にしてやる」

 

「本当かじっちゃん! 燃えてきたぁ!!」

 

 手招きして挑発するマスターにナツさんがかかっていくと、マスターは腕を巨大化させてナツさんを木に叩きつけた。叩きつけられたナツさんがピクピクと痙攣していた。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

「あの、グレイさん。お願いしたい事があるんですけ――グ、グレイさん!? 何に座ってるんですか……」

 

「何って、椅子に決まって――のわぁ!?」

 

 グレイさんに頼みたい事があって来たのだが、グレイさんの姿を見た僕は困惑する。

 というのも、グレイさんが当たり前のようにジュビアさんの上に座っていたからだ。

 

「お、お前! いつの間に!?」

 

「ゼレフを逃がしたジュビアは、グレイ様の椅子がお似合いですわ!」

 

「オレにそんな趣味はねぇって!!」

 

 ジュビアさんから離れて鳥肌をたてるグレイさんに、頼みたい事を話すため、改めて近づこうとする。

 瞬間、カタカタと小さな地響きがして周囲を見回していると、何かの叫び声が聞こえてきた。

 

「ドラゴンの鳴き声……!」

 

「えっ!? ドラゴン!?」

 

 ウェンディの言葉にリサーナさん達の表情が驚愕に染まり、耳を塞ぎたくなるような鳴き声が響きわたった。

 この鳴き声は確かにドラゴンのものだが、何かが違う。リヴァルターニから感じられたような優しさは無く、聞いた者に恐怖を植え付けるような声。

 

「みんな! 大丈夫!?」

 

「凄い声だ!」

 

 ルーシィさん達が先程の声を聞いて戻ってきたが、突然ギルダーツさんが左腕を押さえ始めた。

 

「古傷が疼いてきやがった……間違いねぇ。ヤツだ! ヤツが来るぞ……!」

 

「……おい、上を見ろ! なにか来るぞ!」

 

 リリーの指差した方向に視線を向けると、遥か上空から翼を広げ、咆哮を上げながら黒いドラゴンが迫って来ていた。

 

「マジかよ……!?」

 

「本物の……ドラゴン!?」

 

「やっぱり……ドラゴンはまだ生きていたんだ……」

 

 ナツさんやウェンディ達滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は黒いドラゴンを見て目を見開き愕然としているが、僕は何故かあの黒いドラゴンを見てから動悸が激しくなり、胸の奥が熱くなっている。

 

(この感じ……懐かしい? 匂い? いや、違う……なんだこれ……リヴァルターニの魔力?)

 

 この島に居ないはずのリヴァルターニの魔力をほんの僅かに感じる。

 それに、会った事がないはずのあのドラゴンが憎いと思う。殺してやりたいほどに。

 

「黙示録にある黒き竜――アクノロギアだというのか!?」

 

 驚愕するマスターにギルダーツさんは、あぁそうだと、アクノロギアから視線を外さずに答える。

 

「お前! イグニールが今何処に居るか知ってるか? 後、グランディーネとリヴァルターニ、メタリカーナも!」

 

「よせナツ! ヤツを挑発するな! お前には話したはずだ。何故オレがこの腕――この体になったのか!」

 

 ナツさんの声に我に返って顔を上げると先程までの感覚は消えており、ギルダーツさんは張り詰めた表情でナツさんの肩を掴んで説得していた。

 しかし、既にアクノロギアは暴風を起こしながら天狼島に降り立っており、ギルダーツさんは小さく舌打ちする。

 

「こいつはお前らの知ってるような優しいドラゴンじゃねぇ……こいつは人類の敵だ!」

 

「じゃあ、こいつと戦うのか!?」

 

「いいや違う。そうじゃねぇんだよ、ナツ……勝つか負けるかじゃねぇ。こいつからどうやって逃げるか……いや、オレ達の内誰が生き残れるかって話なんだよ……!」

 

 その時、アクノロギアが雄叫びを上げ、ギルダーツさんは全員に逃げろと叫ぶ。

 おぞましい声は大きくなり、アクノロギアの咆哮だけで辺り周辺の木々は全てなぎ倒されてしまっていた。

 

 アクノロギアは再度舞い上がり、上空から僕達の様子を眺めている。ギルダーツさんによると、今ので挨拶代わりらしい。

 

「みんなまだ生きてるな! びびってる暇はねぇぞ! すぐにこの島から離れるんだ! 船まで急げッ!!」

 

 ギルダーツさんの指示で全員が船へと走り出し、僕もウェンディやフィール達と走り出す。

 今まで上空から様子を眺めていたアクノロギアは、逃げ出す僕達を見て低空を飛行しながらこちらを狙う。

 

「あんた達、竜と話せるんじゃなかった!? 何とかならないの!?」

 

「私が話せるんじゃないよ! 竜はみんな高い知性を持ってるの!」

 

「だから、あいつは僕達と話す気なんてないんだよ!」

 

 シャルルの問いにそう返した刹那、アクノロギアは先回りして道を塞ぎ、フリードさんとビックスローさんに突進する。

 

「どうしてこんなことを……! 答えてッ!」

 

 ウェンディの問いにアクノロギアは僕達を一瞥したが、それでも言葉は発しない。

 アクノロギアは赤子が遊ぶように腕を降り下ろし、尻尾を振るってエルフマンさんを弾き飛ばした。

 

「エルフマン!!」

 

 羽を広げたエバーグリーンさんが空中でエルフマンをキャッチしたが、巨漢を抱えたエバーグリーンさんは格好の的となってしまい、アクノロギアによって叩き落とされてしまう。

 

「船まで走れぇ!!」

 

 上着を脱ぎ捨てたマスターはそう叫びながら巨大化し、アクノロギアと対峙した。そして、アクノロギアの首を抱えたところで顔を歪める。

 エルザさん達に止めてくれと切望されたが、マスターは走れと言って聞かず、ならばと全員がアクノロギアと戦う意思を見せた。

 

 

「最後くらいマスターの言うことが聞けんのか! クソガキがァ!!」

 

 

 その言葉に全員が言葉を失って硬直し、それでも尚残ると言って騒ぐナツさんをラクサスが掴んで船へと向かう。

 走り出す時に見えたラクサスさんの涙を見てエルザさん達も走り出すが、涙は全員の目に浮かんでいた。

 

 聞こえてくる轟音を背に船へと走る。

 

 

――これでいいの?

 

 仕方ない。これがマスターの意思なんだから。

 

――本当にいいの? 優しく頭を撫でてくれた、あの強くて優しいマスターを見捨てて。

 

 足が止まる。ウェンディがそれに気づいて振り返るが、僕への問いかけはまた頭の中に響いてくる。

 

――自分の為にマスターを、仲間を、家族を見殺しにするのか? 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士として、そなたは本当にそれで良いのか?

 

「――いいわけ無いだろ……!」

 

「……テューズ?」

 

 ウェンディの手を振り払うとエルザさん達も僕に気づいたようで、早く船へ向かうようにと肩を掴まれる。

 

「……嫌です」

 

「それは私達だって同じだ! でも我慢しろ! これがマスターの意思なんだ!」

 

「これがマスターの意思だとしても……それでも絶対嫌だ!」

 

「何で――!」

「仲間を――家族を見捨てるくらいなら、死んだ方がましだッ!!!」

 

 エルザさんの目を見てそう叫ぶと、エルザさんは肩を放して後退り、代わりに視界の端を桜色の髪が横切った。

 

「……よく言った。オレ達だけでも行くぞ」

 

 その言葉に頷き、不安そうに僕達を見つめるウェンディを一瞥して背を向ける。

 ナツさんと共にマスターの元へ戻ろうと一歩踏み出した時、エルザさんに腕を掴まれて視線を向ける。

 

「……お前達だけを行かせるわけにはいかない……私も行こう」

 

 俯いたまま発せられたエルザさんの言葉に続き、グレイさんやガジルさん達もやってやろうと拳を鳴らし始めた。

 その光景を見ていたギルダーツさんは大きなため息をつきながら頭を掻き、真面目な面持ちで僕を見つめる。

 

「オレ達じゃ絶対にあいつは倒せねぇ。走りながらで良い、何かマスターを助け出す策を考えろ」

 

「策ですか……それなら私に考えがありますよ」

 

 策と言われ、一瞬考え込む僕をフィールが覗きこんできた。

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

 僕達が駆けつけた時、アクノロギアはマスターに馬乗りになって腕を振りかざしていた。

 それを見たナツさんは我慢出来ず、飛び出して行ってしまう。

 

「じっちゃんを返せッ!!」

 

 アクノロギアは飛び出して来たナツさんをマスター共々尻尾で薙ぎ払い、吹き飛ばす。

 巨人の魔法が解けてしまったマスターを庇うようにしてエルザさんが立ち、各々がフィールに言われた地点へと駆ける。

 

水流昇霞(ウォーターネブラ)!」

 

「カードマジック・祈り子の噴水!」

 

 ジュビアさんとカナさんの水が地面から吹き出してアクノロギアの翼を飲み込んだ時、グレイさんがその水を一瞬で凍結させてアクノロギアの翼を封じた。

 しかし、それもほんの僅かな間だけ。

 アクノロギアはニヤリと笑みを浮かべると、氷柱を粉々にして翼を広げる。

 

 そのまま上昇しようとしたアクノロギアだが、全身接収(テイクオーバー)したエルフマンさんに尻尾をがっしりと掴まれて横目でエルフマンさんを一瞥した。

 

「エバ! ビックスロー! 頼む!」

 

「ったく! フィールも無茶言ってくれるわよ!」

 

「でもやるしかねぇだろ! 耐えてくれよ、エルフマン!」

 

 エバーグリーンさんは愚痴を言いながらも眼鏡を外し、ビックスローさんも兜を外して二人は石化眼(ストーン・アイズ)造形眼(フィギュア・アイズ)を発動させた。

 エルフマンさんの下半身は石と化し、ビックスローさんが操作しているためエルフマンさんは限界がきてもアクノロギアの尻尾を掴んでいられる。

 

「出来たよ! フリード!」

 

「上出来だ、レビィ! 術式――《この術式に居る者の能力を強化、体重を倍加する》」

 

 エルフマンさんの足元に文字が浮かび上がり、術式が発動される。

 エルフマンさんは上昇しようとするアクノロギアをしっかりと掴んで離さず、今までアクノロギアの頭上を旋回して気を引いていたミラさん達は、アクノロギアの翼を攻撃して地に落とす。

 

 この時、今まで攻撃らしい攻撃はせずに遊んでいたアクノロギアは、ようやく反撃を開始した。

 翼で暴風を起こしてエルフマンさん達を吹き飛ばすと、アクノロギアは地面を抉り、駆けてくるギルダーツさんを薙ぎ払う。

 

 空中へ放り出されたギルダーツさんだったが、アクノロギアが追撃を加える前に手を巨大化させたにマスターに回収された。

 そして、獲物を横取りされたアクノロギアは静かにマスターを睨み付ける。

 

「まずいッ! マスターを守れ!!」

 

 アクノロギアとの戦いで傷を負っているマスターを守るためにエルザさんが指示を出すと、アクノロギアの背後に複数の人影が飛び出した。

 それをアクノロギアは尻尾で一閃。真っ二つに切り裂かれてしまったが、真っ二つにされたのは人ではなく氷だったため、アクノロギアは僅かに目を見開いた。

 

「アイスメイク――(デコイ)

 

 続いてアクノロギアを攻撃するみんなに囮の氷が混じり始める。狙いが定まらないアクノロギアの爪が貫いているのは氷だけだった。

 一方、ギルダーツさんを助けたマスターも限界が来ており、ギルダーツさんも満足に戦える状態ではない。

 そんな二人を守ろうと、カナさんは二人とアクノロギアの間に立つ。

 

「カナ!? よせ! 逃げろ!」

 

「うるさい! 少し黙ってて!」

 

 カナさんは腕を掴んできたギルダーツさんの手を声を荒げて振り払い、自身の腕を空に掲げる。

 

(初代……どうか私にもう一度力を貸してください。私の後ろに居る、二人の親を守るための力を!)

 

 すると、カナさんの腕には紋章が浮かび上がり、周囲の魔力がカナさんの腕に集まっていく。

 魔力が集まっていく光景を見て、アクノロギアは標的をカナさんに絞って迫る。

 

「させねぇよ! アイスメイク――城壁(ランパード)!」

 

 アクノロギアとカナさんの間に三つの城壁が造形された。しかし、内二つはアクノロギアの頭突きに破壊され、残った一つもアクノロギアが腕を振るっただけで粉々にされてしまう。

 

「――集え! 妖精に導かれし光の川よ!」

 

 更にアクノロギアを足止めするためにエルザさんは金剛の鎧に換装し、魔法陣を展開してアクノロギアを受け止めたが、魔法陣は数秒で砕かれてしまった。

 

「――照らせ、邪なる牙を滅する為に!」

 

 

「お願い! ロキ!」

 

「任せて、ルーシィ!」

 

 ルーシィは鍵を降り下ろしてロキさんを召喚すると、ロキさんは跳躍してアクノロギアの目の前に躍り出る。

 

「――獅子光耀!!」

 

「オォォォ!?」

 

 ロキさんはアクノロギアの目の前で強烈な光を発し、光を直視したアクノロギアは目を押さえて苦しみ出す。

 

「全員退けな! ぶちかますよ――妖精の輝き(フェアリーグリッター)ァァ!!」

 

 ブルーノートに放った時とは桁違いの輝きが、無防備なアクノロギアを襲う。

 それは以前とは違う、完全な妖精の輝き(フェアリーグリッター)。その輝きは直視出来ないほどに凄まじく、アクノロギアを中心に光輝く。

 

 しかし、その輝きは突然"消えた"。

 防がれたのではなく、突如消滅した。

 驚きのあまり絶句するみんなを他所にアクノロギアはニヤリと笑って上昇し、魔力を集めて咆哮(ブレス)を放とうとする。

 

「今だ! 出し惜しみするんじゃねぇぞ!」

 

「いきます! ――海竜の咆哮ォォ!!!」

 

 全魔力を乗せてガジルさんに咆哮(ブレス)を放ち、ガジルさんは僕の咆哮(ブレス)の中で回転しながらアクノロギアに迫る。

 今僕達がいるのはアクノロギアの更に上。地上のみんなに気を取られているアクノロギアは僕達に気がついていない。

 

「滅竜奥義――業魔・鉄螺旋!!」

 

 僕の咆哮(ブレス)による回転も合わさったガジルさんの一撃はアクノロギアの後頭部に直撃し、アクノロギアは衝撃で口を閉じた。

 口が閉じられた為に収縮されていた高魔力は逃げ場を失い、アクノロギアの口内で暴発した。

 

 流石に自分の咆哮(ブレス)はダメージが大きかったらしく、アクノロギアは口から黒い煙を出しながらフラフラ落ちていき、地上に待機していたナツさんはアクノロギアに向かって跳躍する。

 

「今だ! ウェンディ!」

 

「はい! ――天竜の咆哮ォォ!!!」

 

 ナツさんはアクノロギアの腹部に命中した咆哮(ブレス)の中に入り、その中で魔力を解放する。

 

「滅竜奥義――紅蓮爆炎刃!!」

 

 咆哮(ブレス)の回転によって勢いが強化され、更に風は炎を大きく燃え上がらせて威力も高まっていく。

 

「決めろ、ラクサス!」

 

 ナツさんの炎を受けて上半身が反れたアクノロギアにに向かい、ラクサスさんは腕に雷を集中させる。

 

「食らいやがれ! 滅竜奥義――鳴御雷!!」

 

 ラクサスさんがアクノロギアを殴り付けると、アクノロギアの体には電撃が走り、島の外へと吹き飛ばす。

 アクノロギアが落ちた場所は大きな水柱が立ち、僕達はそれを見ながら地上に降りた。

 

「……やった?」

 

「違う。化け物が……あの野郎。吹き飛ばされる時に笑ってやがった。あいつは遊んでいるだけだ!」

 

「なっ!?」

 

 ラクサスの言葉に驚いてナツさんが海を確認した時、地鳴りを起こしながらアクノロギアが海から現れた。

 アクノロギアは上昇すると再び咆哮(ブレス)を放とうと息を大きく吸い、防御魔法を使えるフリードさん達に手を繋いで魔力を集めるようミラさん達に言われる。

 

「帰ろう、テューズ。こんなところで諦めちゃダメだよ」

 

「うん。やれるだけの事をやろう!」

 

 ウェンディに差し出された手を握ると、ウェンディは頷いて手を握り返してくる。

 

「みんなの力を一つにするんだ! ギルドの絆を見せてやろうじゃねぇか!」

 

 グレイさんがそう言うとジュビアさんは笑みを浮かべてグレイさんの手を握り、全員が力を合わせる光景にマスターは涙ぐみながらラクサスさんの手を握る。

 

「そうじゃ……みんなで帰ろう――」

 

 

 

 

「「「――妖精の尻尾(フェアリーテイル)へ!!」」」

 

 

 

 

 

 

 784年、12月16日。

 天狼島、アクノロギアにより消滅。

 

 アクノロギアは再び姿を消した。

 

 その後、半年に渡り近海の調査を行ったが、生存者は確認出来ず。

 

 

 

 

 

 

********

 

 

 

 

 

『……リヴァルターニ、あなた――』

 

「いい、私も分かっている」

 

 小さな声を発して竜は首を横に振り、光を見つめる。

 

『……私達には限界がある、アクノロギアを見て我慢出来なかったのも分かるわ。漏れた魔力は仕方がないけれど、それと一緒に漏れた憎悪の感情はあの子に伝染した。もうこんなことは無いようにしてちょうだい』

 

「もう良い。それについては反省している。用はそれだけなのだろう? ならば私の前から消えろ」

 

 舌打ちをして光から視線を逸らす竜に、光はクスクスと笑いながら竜の周りを浮遊して喋りだす。

 

『あら、私が気づかないと思った? 口調を変えてバレないようにあの子を説得していたでしょ? でも最後の方ではいつものアナタだったわよ?』

 

「なに……!? ……ま、まぁそんな事はいい。問題はアクノロギアだ。そなたは魂竜の術を解こうとした私を全員集まってからだと言って止めたが、全員集まると確信しているのか?」

 

『えぇ、そうよ。それに、アクノロギアから身を守るために展開されたあの魔法……余程強力な結界だったのかしら、あれが展開される前と今では外の魔力濃度が違う』

 

 その言葉を聞いて時代が変わっているのかと推測する竜の意見を光が肯定すると、竜は少し思考してから大きなため息をつく。

 

「ならばバイスロギア達の子も充分成長しているだろう。それに、我々の目的である抗体も既に完成している」

 

『竜王祭もいよいよ近いということね……その前に、もう一度アナタに会いに来られるかしら?』

 

「もう来るな。早く失せよ」

 

『冷たいわね……また会いましょう、リヴァルターニ?』

 

 クスリと言う笑い声を残し、光は見えなくなっていった。

 

 

 

 

 

 






 今回はアクノロギアとの戦闘を多めにしました。
 やはり文での戦闘はイメージ通りに表現するのが難しいですね。

 次の更新は今回程遅れないように何とか頑張ります……


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