オリジナルの戦闘シーンは難しいです……
「えと……こっちかな……」
走り去ってしまったナツさんの僅かに残った匂いを追って森の中を歩いているのだが、知らない匂いが多過ぎて判別が難しい。
似たような匂いを追って進むと、細い道に出た。右側は急な斜面になっており、下の方に薄らと川が見える。
「結構歩き難いな……気をつけて、ウェンディ」
「う、うん……」
隣の枝を掴みながら振り返って見ると、ウェンディは下を見て涙目で歩いている。
足元が若干震えているのに気づいて手を差し伸べると、ウェンディは「ありがとう」と言いながら僕の手を握った。
「こういう高い所って、落ちた時を考えると怖くて――!?」
「ウェンディ!?」
安心したウェンディは足を踏み外し、僕もウェンディに引っ張られて落ちそうになってしまう。
掴んでいた枝のお陰で何とか耐え、道に戻ろうと右手に力を入れる。その瞬間、枝は僕達二人の体重に耐えられずに根本から折れてしまい、支えを失った僕達は坂道を転がって川に落ちてしまった。
「だ、大丈夫!?」
「うん……また私のせいで迷惑かけて……本当にごめんね……」
「い、いや、大丈夫だよ! 迷惑なんて思ってないから!?」
落ち込むウェンディを狼狽えながら励ましていると、知らない人が僕達を見ている事に気づいた。
「ッ誰!?」
ウェンディを手で庇い、警戒してその人を睨むと、その人はキョロキョロと周りを見て自分を指差す。
自分のことだと思っていなかったらしい挙動不審な男に警戒心を高めて頷くと、男は「ウーウェ」と奇妙な声を上げながら僕達に近づいてきた。
「じ、自分は
「七眷属!?」
その言葉に衝撃を受けて目を見開き、ウェンディを一瞥する。
今この場に居るのは僕達だけで、運良く誰かが助けが来るとも思えない。僕達が戦うしかないという事はウェンディも分かっているらしく、目の動きだけで意思を交わして後ろへ跳び、華院=ヒカルから距離を取った。
「「"アームズ"! "バーニア"!」」
華院=ヒカルと戦うために
「な、なんすかそれ……? あぁ! 分かったッス! それが
自己解決した華院=ヒカルは四股を踏み、手招きをして僕達を煽る。
少しの間様子を窺ってから体を低くして一気に走り出すと、僕の上をウェンディの
「そんなもん……効かないッス!!」
「!?」
華院=ヒカルは溜めを作り、張り手を放つ。直感的に危機感を感じて横に跳ぶと、張り手の風圧で
「
「自分七眷属ッスから、強いッスよ?」
「ッ! ――海竜の鉤爪!」
唇を噛み、自分を奮い立たせて華院=ヒカルに蹴りを放つが、華院=ヒカルはそれを片手で受け止めて放り投げる。
「テューズ!」
「いったぁ……」
尻餅をついて体を起こすと、ウェンディが「痛む?」と聞きながら肩を貸してくれ、ウェンディの肩を掴んで立ち上がる。
「イチャイチャしおって……! ま、まぁ、自分は器の大きい男ッスから、子供がイチャイチャする位の事に嫉妬なんてしないッス」
「「イチャイチャなんてしてないです!!」」
否定の言葉を叫んだものの、華院=ヒカルは「
「これはノーロさんと言って、付けた髪の毛の持ち主を操れる呪殺魔法ッス。そしてここにさっき放り投げた時に取っておいた髪の毛が……」
いつの間に髪の毛を取られたのかと驚愕していると、華院=ヒカルは紅色の髪をノーロさんの頭に取り付けた。その瞬間、体が何かに掴まれているかのように動かなくなる。
華院=ヒカルがノーロさんを操作すると、体が自分の意思とは別に勝手に動き、ぎこちない動きでウェンディに近づいていって、何故かウェンディを抱き締めた。
「自分が二人の後押しをしてあげるッス」
「いや……別にそういうのじゃないですし……」
「そんなッ!? 折角後押ししてあげようとしたのに!?」
華院=ヒカルは表情を驚愕に染め、次第にその表情は怒りへ変わっていく。
「騙したんスね……自分の純粋な心を!!」
華院=ヒカルが僕の髪の毛をノーロさんから取り外し、自由になったためウェンディを放して華院=ヒカルに向き直る。
それと同時に、華院=ヒカルは自分の髪を抜いてノーロさんに取り付けた。
「ノーロさんはこんなことも出来るんスよ……自分強化、"光源体"!」
ノーロさんが発光すると共に華院=ヒカルも全身から光を放ち、手を引いて力を溜める。
「"シャイニングどどすこーい"!!」
「ぐっ!?」
光を伴った張り手は僕達を吹き飛ばし、華院=ヒカルは自分の体を綿に変えて僕達の頭上まで浮遊すると、今度は体を鉄に変えて僕達目掛けて落下してきた。
それを後ろへ跳んで回避して距離を取ろうとすると、華院=ヒカルは僕達を追いかけてくる。
「待つッス!」
華院=ヒカルは両手で交互に張り手を繰り出しながら追ってきているのだが、誰も操作していないノーロさんが華院=ヒカルと同じ動きをしていることに気づいた。
「こうなったら自分から来てもらう事にするッス」
そう言って華院=ヒカルはノーロさんから自分の髪を取り外し、僕の髪をノーロさんに付ける。
先程と同じように体が動かなくなったが、それは上半身だけで下半身は自由に動く。
(やってみるしかない!)
自分の推測を信じて何もない後ろに蹴りを放つ。するとノーロさんも僕の動きに連動して後ろに蹴りを放ち、華院=ヒカルの顔面に命中した。
不意の攻撃を食らった華院=ヒカルは体を仰け反らせ、ノーロさんを手離してしまう。
華院=ヒカルがノーロさんを手離した事によって上半身が自由になり、頭の上を手で払う。動きに連動したノーロさんも頭の上を手で払い、ノーロさんから僕の髪の毛が取れた。
「ウェンディ!」
「うん! 見様見真似――天竜の翼撃!!」
風の渦と共に華院=ヒカルに迫っていき、ウェンディの風に巻き込まれないよう跳躍してウェンディと同じ様にナツさんの技を模倣する。
思い出すのはザンクロウと戦っていたナツさんの姿。
「右手の水と左手の水を合わせて――」
記憶の中のナツさんの動きに合わせ、水を纏った両手を目の前で合わせる。
二つの水塊が合わさって球体になり、回転する水の球体を華院=ヒカルに全力で叩きつけた。
「――海竜の碧水!!」
水の球体は、腕を交差させてウェンディの風を防ぐ華院=ヒカルに命中して爆発し、水は螺旋回転する半球体を作り出す。
「今のは中々効いたッスよ……」
水が消滅すると華院=ヒカルが姿を現し、川に手を突っ込んで何かを探している。
「こうなったらノーロさんで一気に――あ、あれ? 確かこの辺りに……ちょ、ちょっと待ってるッス。この辺りに落とした筈……ノーロさ~ん?」
華院=ヒカルはノーロさんを紛失したらしく、川の中を探るが、見つからない。
ウェンディの暴風に水の爆発と螺旋回転。あれなら紛失するのも無理はないだろう。
「……効いてない?」
全力で攻撃したというのに、未だノーロさんを探している華院=ヒカルには怪我はなく、ピンピンしている。
多少のダメージはあったのだろうが、思っていた程のダメージではないらしい。
「テューズ、力を合わせよう」
「力を合わせるって……これ以上どうやって……?」
「
ウェンディは強い目線で僕を見つめて手を差し出してくるが、その手を掴むのに若干の抵抗がある。
つまり、これは賭けだ。たとえ成功したとしても華院=ヒカルを倒しきれなければ意味がない。
だが、それでもこれしか手がない。他に華院=ヒカルを倒せる方法が思い付かない以上、やるしかない。
「……分かった。やろう」
「うん!」
ウェンディの手を掴んで華院=ヒカルに向き直る。
息を吐き、目を閉じる。意識、思考を魔法を発動させる事だけに集中させると、次第にウェンディの魔力を強く感じるようになった。
静かに目を開くと頬を風が撫で、周辺の川から水の柱が立っている。
「な、なんすかそれ……」
華院=ヒカルが此方に気付き、冷や汗を浮かべて後退りする。
腕を引いて繋いでいた手を離すと手と手の間に水と風の魔力が集まって合わさり、川は波打って周囲の風が強まった。
「な……ド、ドラゴン!?」
荒れ狂う水と風は華院=ヒカルに二頭の竜を幻視させ、華院=ヒカルは初めて見た竜の迫力に顔を引き攣らせる。
「ま、待っ――」
「「――
突き出した手から水と風の混合した波動が放たれた。波動は華院=ヒカルを飲み込むが、華院=ヒカルは腕を交差させて踏ん張り、波動を押し返そうと前進し始める。
「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「はぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ぬぬぬぬ……!!」
雄叫びを上げて更に魔力を解放すると波動が太くなって勢いが増し、華院=ヒカルは耐えられずに完全に波動に飲み込まれる。
飲み込まれた華院=ヒカルの足は中に浮き、波動と共に川を越えて岩壁に衝突して岩壁に大きな罅を入れた。
「ウー……ウェ……」
白目を剥いた華院=ヒカルは意識を失って倒れ、その上に崩れた岩壁の瓦礫が積み重なる。
「……やった……」
「倒した……」
華院=ヒカルを倒した安心感で体中から力が抜けて膝をつき、失った魔力を川の水を食べて回復させていると、僕達を呼ぶ声が耳に入ってきたので驚いて振り返る。
「ハッピー! ナツさんにルーシィさんも!?」
どうしてここに居るのかと尋ねると、ナツさんは不機嫌そうに鼻を鳴らし、ルーシィさんは肩を縮めてしまう。
「ルーシィのせいであいつに逃げられたんだ」
「「あいつ?」」
「わざとじゃないわよ! 私だってカナが居なくなって焦ってたんだもん!」
何でも、ナツさんが敵と戦っているときに飛び出してきたルーシィさんがナツさんに衝突し、その隙に敵が逃げてしまったらしい。
「でもナツも結構苦戦してたし、あのまま戦ってたらヤバかったんじゃない?」
「全然苦戦なんてしてねーし! 次に会ったら絶対ぶっ飛ばすぞ!! ごらぁぁぁ!!」
ハッピーにそう言葉を返す隣で、ナツさんが雄叫びを上げながら上空に炎を吐き出している。
そんなナツさんを他所に、ルーシィさんにここで何をしていたのかと聞かれ、ウェンディと事情を説明する。
「ノーロさんか……結構面倒そうね……」
「でも七眷属の一人を倒したんでしょ? 二人共凄いよ!」
ハッピーに褒められて照れていると、ナツさんが「やるじゃねぇか!」と言って僕の頭を乱暴に撫でてくれた。
ナツさんは僕の頭から手を離すと笑顔で手を差し出し、ナツさんとハイタッチした。
「で、二人共ナツを追ってきてたのよね? ナツとは合流出来たんだし、シャルル達の所へ行きましょ?」
ウェンディとハイタッチしていたルーシィさんの言葉に頷いて同意し、シャルル達の元へ帰ろうと足を踏み出した時、突然ルーシィさんが派手に転んだ。
「ルーシィだっせぇ!」と大笑いするナツさんに、転んだ体勢から動かないルーシィさんは体が勝手に転んだと反論するが、ナツさんはそんな訳ないと更に笑う。
「うぅ……どうなってるのよ……!」
「うぷぷぷぷ……」
涙目のルーシィさんの頭上から笑い声が聞こえ、視線をそちらに移すとハッピーが片手で口を押さえながらルーシィさんの頭上を飛んでいた。
「見て見てルーシィ。そこで拾ったノーロさん」
ハッピーの手に握られているのは金色の髪が付いたノーロさん。ノーロさんはルーシィさんが転んだ時の体勢を取っており、それを見たルーシィさんは目を吊り上げてハッピーに飛びかかる。
「こんのバカ猫!!!」
「えい」
「いだだだだ!! 死ぬ! これ以上はあたし死ぬって!!」
ハッピーがノーロさんを仰け反らせた影響でルーシィさんも体を仰け反らせるが、その姿勢は見るからに無理がある。
ルーシィさんの言葉を聞いたハッピーは「仕方ないなぁ」と言って地面に降り、ブレイクダンスと言ってノーロさんの頭を地面に付けて回転させる。
「いやぁぁぁ!!!」
「更に更に、グラビアの、恥ずかしポーズ、三連発」
「やめてぇ~!」
ノーロさんと同じ様にポーズを取るルーシィさんを見たハッピーは「ルーシィ結構楽しんでる?」と問うが、それはすぐにルーシィさんに否定される。
「ハッピーそれおもしれぇな! オレにも貸してくれよ!」
「あい!」
「あたしを玩具にするなァァァ!!」
結局ノーロさんはルーシィさんによって遠くに放り投げられ、ナツさん達は渋々ノーロさんを諦めた。
それらを苦笑いを浮かべて眺めていた僕達はルーシィさんにシャルル達の所へ戻ろうと提言し、今度こそシャルル達の所に戻るために歩を進めた。
という事で、華院=ヒカルとの戦闘回でした。
そしてオリジナル展開だったせいか、いつもより字数は少なかったです。