FAIRY TAIL 海竜の子   作:エクシード

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投稿遅れて申し訳ありませんでした!
言い訳させてもらいますと、土曜日までだった筈の用事が少しばかり長引いてしまい、執筆することは出来ませんでした……誤字報告等は空き時間に確認出来たんですがね……本当に申し訳ないです。




バイバイ エドラス

 

 

 

 

 

「んなっははははは!!!」

 

頭に角を着け、黒いマントをはためかせて哄笑上げる一人の男。建物の屋根から住人の皆さんを見下しているのは、大魔王ドラグニルことナツさんだ。

 

ナディさんから、ミストガンがリリーさんに自分を殺させて事態を収集しようとしていることを聞いた僕達は、ミストガンの代わりに憎まれ役を演じる事にした。

 

「我が名は大魔王ドラグニル! この世界の魔力はオレ様が頂いた!」

 

ナツさんの言葉に混乱する住人の皆さんの中からエドナツさんが何をしてるのかと尋ねるが、ナツさんはエドナツさんを無視して笑い続け、舌舐めずりをしてニヤリと笑う。

 

「貴様等の王は、オレ様が仕留めた! 特別に命だけは助けてやったがなァ? フハハハハ!」

 

ナツさんの隣で縛られた国王の姿を見せると住人達に動揺が走り、ナツさんに憎悪の視線が注がれる。

 

「レッドフォックス! バーラム! マーベル! 我が下僕達よ、街を破壊せよ!」

 

ナツさんの指示した刹那、腕を剣に変えたガジルさんが建物を倒壊させる。

ガジルさんが住人達の前に姿を現すと、腕が剣になっているガジルさんを見て住人達は驚愕し、怪物だと言って恐怖している。

 

「あれはこの街を滅ぼそうとする大悪人! それはそれは、悪魔のような連中です!」

 

エドガジルさんが住人達にそう伝えるのを聞いて、僕は近くに居た女の子に腕を上げて威嚇する。

 

「ガォォォ! 食べちゃうぞぉ!!」

 

「ふぇ!? ママァァ!!」

 

涙を流して母親の元へ駆け寄る女の子の後ろ姿を見て、少しばかり心が痛む。

 

(ごめんね……)

 

と心の中で女の子に謝っていると、隣でウェンディが男の子を威嚇しているが、男の子は何食わぬ顔でいる。

すると、凄い形相のガジルさんがウェンディの後ろに立ち、ガジルさんを見た男の子は一目散に逃げ出していった。

 

「ご覧なさい! 全てはあいつらのせいです!」

 

僕達がやりやすいよう住人達を煽ってくれているエドガジルさんとガジルさんが互いを見て口角を上げていると、「もっと街を破壊するんだ、下僕共!」とナツさんが指示を出す。

 

「下僕下僕うるせぇぞ! この野郎!」

 

「いいからやるのじゃ!」

 

「口調変わってんじゃねぇか……」

 

ガジルさんは拳を握って抗議したが、ナツさんの口調が変わったのを見て呆れている。

 

「あいつらが……! あいつらがエドラスの魔力を奪ったのか! 大魔王ドラグニル!」

 

「そうです! 我々の幸せを奪った張本人です!」

 

エドガジルさんに焚き付けられた住人達が魔力を返せとナツに野次を飛ばすが、ナツさんは嫌だと一蹴する。

 

「オレ様に逆らうものは全員――!」

 

そう言いいながら、ナツさんは言葉を続けずに空に向かって炎を吹いた。

エドラスにおいて魔法とは、エドラスの人間が体内に魔力を持たない為に剣等の道具から発せられる。その為口から炎を吹き出したナツさんに、住人達は酷く驚いて恐れを抱いた。

 

 

「――よせ! ナツ!!」

 

 

「ぁん?」

 

突如響いた声が住人達の思考を遮り、声の発生源である城に全員の視線が集まった。

 

「オレ様は大魔王ドラグニルだ!」

 

「バカな真似はよせ! 王は倒れた。これ以上王都に攻撃など――」

 

「――ファイアァァ!!」

 

ミストガンがナツさんを説得しようとするが、ナツさんは耳を貸さずに住人達に向け炎を吹き出す。

悲鳴を上げて逃げ惑う住人達を見たミストガンがもう一度よせとナツさんに叫ぶと、ナツさんはミストガンに視線を移してニヤリと笑った。

 

「お前にオレ様が止められるかな? エドラスの王子さんよぉ!」

 

ナツさんの発した王子と言う単語に住人達がどよめき、余裕の表情のナツさんは片手で手招きして挑発する。

 

「来いよ。 来ねぇとこの街を跡形もなく消してやる」

 

ナツさんの挑発を受けてミストガンが表情を歪ませているが、住人達はミストガンを王子かどうか信用しきれずに混乱していた。

 

「ナツ! そこを動くな!」

 

「ナツではない。大魔王ドラグニルだ」

 

ナツさんは城から飛び降りてナツさんの元へ駆けるミストガンにそう訂正し、僕とウェンディ、ガジルさんの三人は腕を組んで待ち構える。

 

「あれが王子だ! あの魔王とか言う奴と戦うつもりなのか!? 相手は火を吹く怪物だぞ!?」

 

住人の中に紛れているエドガジルさんが住人達を煽り、住人達は徐々にミストガンを王子だと信じ始める。

 

「――眠れ!!」

 

ミストガンは杖を取り出して魔法を使用しようとするが、魔力がアニマに吸われて不発に終わった。

 

「どうした! 魔力がねぇと怖ぇか? そうだよな……魔法は――力だ!!」

 

そう言ってナツさんは炎で建物を倒壊させ、住人達は瓦礫の下敷きにならないよう逃げ始める。

 

「ナツさん、やり過ぎですよ!」

 

「もうちょっと加減を――」

 

「いいんだよ。これで強大な魔力を持つ悪に、魔力を持たない英雄が立ち向かう構図になるんだ」

 

ガジルさんの言葉通り、魔法で倒壊させた建物の瓦礫の上に立つナツさんの前に、アニマの影響で魔法を使えないミストガンが立ちはだかる。

 

「もうよせ、ナツ。私は英雄にはなれないし、お前も倒れたふりなど、この群衆には通じんぞ」

 

「ヒヒッ! 勝負だ!!」

 

ナツさんは勝負と言って、説得しようとするミストガンを突然殴り、ミストガンは防御出来ずに倒れてしまう。

 

「王子!」

 

「何て凶暴な奴なんだ!」

 

住人達がナツさんに非難の声を浴びせていると、ミストガンが立ち上がった。

 

「茶番だ……こんなことで民を一つになど、出来るものかっ!!」

 

ミストガンはナツさんを殴ろうと拳を突き出したが、ナツさんはそれを片手で受け止める。

 

「……本気で来いよ」

 

ナツさんがそう言うと、ミストガンは空いている左手でナツの顎を殴り飛ばした。

 

「いいぞ! 王子!」

 

「頑張って!」

 

住人達からの応援にミストガンは周囲を見回して困惑し、ナツは「ギャラリーもノってきたぞ!」とニヤリと笑う。

 

「バカ者! やらせなんだから、今ので倒れておけ!」

 

「やなこった!」

 

ナツさんはミストガンの腹に一撃を入れ、ミストガンも負けじと殴り返す。

殴られたナツさんはアッパーで反撃しようとするが、ミストガンはナツさんの腕を掴んでナツさんの拳を自身に当たる前に止める。

 

「これはオレ流の、妖精の尻尾(フェアリーテイル)式壮行会だ。妖精の尻尾(フェアリーテイル)を抜ける者には、3つの掟を伝えなきゃならねぇ」

 

「――1つ! 妖精の尻尾(フェアリーテイル)の不利益になる情報は、生涯他言してはならない!!」

 

そう叫びながら何度も繰り出されるナツさんの拳をミストガンは避け、避けられない攻撃は腕を交差させて防御しながらナツさんの言葉に耳を傾ける。

 

「――2つ! い゛づっ!? 何だっけ……!?」

 

ナツさんは2つ目を言おうとした時にミストガンの反撃を諸に食らい、そのせいか元々なのか2つ目を思い出せずにいた。

 

「過去の依頼者に濫に接触し、個人的な利益を生んではならない!!」

 

「へへ、そうそう……」

 

先程と攻守が逆転してミストガンの連撃を防いでいたナツさんはニヤリと笑って、ミストガンの腹にアッパーを食らわせる。

 

「――3つ! たとえ道は違えど、強く力の限り生きていかなければならない。決して自らの命を小さなものとして見てはならない。愛した友の事を――」

 

「――生涯忘れてはならない」

 

ナツさんの言葉の続きをミストガンが述べ、二人はニヤリと笑うと互いの顔面に一撃を入れて体勢を崩す。

 

「届いたか? ギルドの精神があれば、出来ねぇ事なんかねぇ。また会えるといいな、ミストガン!」

 

ナツさんは笑顔で倒れ、ミストガンは足を踏ん張り立ち続ける。

大魔王ドラグニルを倒したミストガンに住人達から歓声が起こった時、ナツさんや僕達の体が光り始めた。

 

「始まった……」

 

「えと……苦しめばいいんでしたよね……」

 

「おう、派手に苦しんでやるか!」

 

逆展開されたアニマは、エドラスにある全ての魔力をアースランドに送りだす。つまり、体内に魔力を持つ僕達もその対象に入る。

苦しむ演技をしながらアニマに吸い寄せられていく最中、暫く上昇した所でルーシィさん達の姿が見えた。

 

「お? ルーシィ、ハッピー!」

 

ナツさんがルーシィさん達に声をかけると、ルーシィさん達は僕達に気づいて振り返る。

 

「無事だったか、ナツ!」

 

グレイさんがそう言った時、街にいるエドルーシィさんに声をかけられた。視線を向けると、本当にエドラスから魔力が消える事を知ったギルドメンバーのみんながこれからどうするかと言う内容の会話が聞こえてきた。

 

「そんな顔するなよ、ギルドってのは魔力がねぇとやっていけねぇのか?」

 

グレイさんの言葉にエドグレイさんはハッとしたように僕達を見上げ、グレイさんは自分の胸を叩いた後に拳を突き出す。

 

「仲間が居れば、それがギルドだ!」

 

それを聞いたみんなは互いを見合うと、小さく笑って僕達を見上げる。

 

「っておい! 群衆がこっち見てんぞ!?」

 

ガジルさんに言われて慌てて街を見回すと、確かに住人達が僕達を見つめていた。

 

「く、苦しめっ!」

 

「ぐ、ぐわぁぁぁ!!」

 

苦しむ演技をしながらアニマに吸い込まれていくと、住人達は魔王が空に流されていくと言って喜び、ミストガンに感謝を述べている。

 

「バイバイエドルーシィ! もう一つの妖精の尻尾(フェアリーテイル)!」

 

ルーシィさんが手を振るとエドルーシィはルーシィさんに笑顔を向ける。

 

「みんな! またね!!」

 

「何言ってるんですか……」

 

「もう会えないのよ、二度と」

 

みんなに手を振っていたハッピーはシャルルとフィールにそう指摘され、手を振る速度を速める。

 

僕もエドラスの自分に何か言おうかと見てみると、エドラスの僕はウェンディの隣で青筋を立てていた。

何かと思って目を凝らして見ると、エドラスの僕とウェンディは周りのみんなに気づかれずに互いの足を踏みあっていた。

 

その事に苦笑いを浮かべながらウェンディを見ると、ウェンディもエドラスの自分達に気づいたようで苦笑いを浮かべている。

 

 

 

 

 

かくして僕達は、アースランドに帰る。

 

アースランドに帰る直前に見えたミストガン――ジェラールは、僕が今まで見てきた中で一番の笑顔を浮かべていた。

 

僕はその後のエドラスを知らない。

でもエドラスは大丈夫だと、みんな力強く生きていると胸を張って言える。

 

何故なら、あそこには優しく、強く、頼りになる、僕の大好きな恩人(ジェラール)が居るのだから。

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

「「「「うわぁぁぁ!?」」」」

 

アニマに吸い込まれた僕達はアースランドの森の中に空から落とされ、直に地面と接触したナツさんの上に全員が積み重なっていった。

 

僕達が退けると、ナツさんは周囲を見回して匂いを嗅ぎ、諸手を上げて歓喜する。

 

「帰ってきたぞぉぉ!!」

 

「マグノリアの街も元通りですね!」

 

みんなで喜んでいるとエルザさんが、喜ぶのは人々の安全を確認してからだと僕達に注意する。

 

「大丈夫だよ!」

 

その直後、突然聞こえてきた声に驚いて空を見上げると、無数のエクシード達が僕達の上を飛んでおり、それを見た僕達は愕然とする。

 

「一足先にアースランドに着いたからね、色々飛び回ってきたんだ!」

 

「ギルドも街の人も、みんな無事だったよ。魔水晶(ラクリマ)にされたことも覚えてないみたい!」

 

「どういう事よ!?」

 

「何故エクシードがアースランドに……!」

 

シャルルとフィールが困惑しながらエクシードに対して警戒する構えを取ると、シャゴットさんを含めたエクシード達が僕達の前に降り立った。

 

僕達も状況が掴めずに困惑していると、シャルルがシャゴットさん達エクシードを指差してフィールと一緒に睨み付ける。

 

「冗談じゃないわよ! こいつらは危険!」

 

「エドラスに返すべき……ですかね」

 

「まぁまぁ……」

 

ハッピーがシャルルとフィールを宥め、僕とウェンディも膝を折って二人に目線を合わせる。

 

「エクスタリアも無くなっちゃったんだよ?」

 

「許してあげよ――」

 

「イヤよ」

「イヤです」

 

腕を組んでそっぽ向いてしまった二人に、エクシードのみんなは石を投げた事を謝罪し、これから改心するから許して欲しいと二人に頼む。

 

「そんな事はどうでもいいんです!」

 

「あんた達は私に、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)を抹殺するよう使命を与えて、アースランドに送り込んだ!」

 

二人が怒りを露にすると、木の影から「そうだ!」と言って白いエクシードが顔を出した。

 

「女王はオイラ達の卵を奪った! 忘れたとは言わせねぇ! カー!」

 

ハッピーからこの白いエクシード――ラッキーさんに助けられたと説明されている間にも話は進み、シャゴットさんの後ろにいた老人達が口を開く。

 

「まだきちんと説明してませんでしたな……」

 

「これは6年前の話になります」

 

「女王シャゴットには未来を見る力がある事は、もうお話ししましたね……」

 

そうして、老人達は事の真相を教えてくれた。

 

ある日エクスタリアの崩壊を予知したシャゴットさん達はそれを人間のせいだと考えた。人間と戦っても勝てないため、争いに巻き込まぬよう子供達を逃がすことにした。

 

エクスタリアの崩壊から逃がすとは言えないため、シャゴットさんは滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)抹殺と言う名目で子供達を逃がすことにしたらしい。

 

「女王に嘘を言わせるのは心苦しかったが、やむをえなかった……」

 

「エクスタリアが地に落ちるなど、口にできるわけなかったでの……」

 

「勿論、滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)に恨みがあった訳ではありません」

 

僕達を見てそう言った老人に「分かってます」と返すと、老人はペコリと頭を下げる。

 

「本当の事を言ってたら、きっとパニックになってたわ……」

 

悲しげな表情で言うルーシィさんにグレイさんが賛同すると、暗い顔のシャゴットさんがシャルルを見つめて口を開く。

 

「人間のアニマを借り、私達の作戦は成功しました。しかし、たった一つだけ計算外のことが起きたのです……それはシャルル、貴女の力」

 

突然名前を出されて驚くシャルルに、シャゴットさんはシャルルには予言の力があると伝える。

 

「しかし、それは無意識に発動しているようで……貴女の記憶を混乱させたのです。避難させた百人のエクシードの内、貴女だけが……」

 

シャゴットさんの言葉を受けて、シャルルは目を見開く。

 

シャゴットさんの推測によれば、シャルルはエドラスの断片的な未来を予言してしまい、それを使命だと勘違いしてしまった。

 

「そんな……!」

 

「じゃあオイラは……?」

 

ハッピーが不安げに聞き返すと、紫色のエクシード――ディムさんが、元々そんな使命はなかったと述べる。

 

「不運に不運が重なり、貴女はありもしない使命を作り出してしまったのです」

 

シャルルが俯いて考え込んでいると、ナディさんが、シャルルが自分の力を知らないのをいいことに、さもナディさん達が操っていたように言っていただけだと告白する。

 

「ごめんね……」

 

「全ては女王様の威厳を演出するための猿芝居……本当に申し訳ない」

 

片手を頭に添えたニチヤさんがシャルルに謝罪するが、シャルルは俯いたままで反応はない。

 

「沢山の不運と、民や人間に対する私の虚勢が貴女を苦しめてしまった……いいえ、6年前卵を取り上げた全ての家族達を、不幸にしてしまった……だから私は、貴女に剣を渡したのです。悪いのはエクシード全てじゃない、私一人です」

 

全ての罪を自分一人で背負おうとするシャゴットさんにニチヤさんは涙を流し、ナディさんはそれは違うと訂正する。

 

「女王様の行動は、全て私達を思ってのこと!」

 

「オレ達だって、自分達の存在を過信していたわけだし……」

 

「せっかくアースランドに来たんだし、みんなで6年前に避難させた子供達を探そうよ!」

 

その言葉を聞いたエクシード達は新しい目標が出来たと言って翼を広げて空を旋回する。

前向きに進もうとするみんなにシャゴットさん達が涙を流していると、シャルルがそれを見てため息をつく。

 

「いいわ、認めてあげる……でも、何で私にあんたと同じ力がある訳?」

 

シャゴットさん達に尋ねると、彼女たちは目を泳がせ始めたそれをシャルルが「何か怪しいわね……」と凝視する。

 

「ねぇおじさん、女王様とシャルルって何か似てない?」

 

「そうかい?」

 

「あい! ほら、動きとか」

 

「動きだぁ?」

 

全く同じ動きをしながらそんな会話をするハッピーとラッキーさんを見てマールさんはクスリと笑う。

その横で、フィールとディムさんがシャルルとシャゴットさんを見ながら苦笑いを浮かべていた。

 

「シャゴット様……あれで誤魔化せると思っているのでしょうか……?」

 

「シャルルも何故気づかないんでしょうか……」

 

「似た者親子と言うやつですかね?」

 

「ですかね?」

 

と二人で顔を合わせて笑い合う。

 

「取り敢えず、無事に終わって良かったな!」

 

「はい!」

 

膝を折ったナツさんがナディ同様右手を振りながらナディに話しかけ、グレイさんが「おい、感染ってんぞナツ」と笑顔で指摘するが、当のグレイさんも右手を振っているためルーシィさんにツッコまれてしまう。

 

「私達は取り敢えず、この近くに住もうと思います」

 

シャゴットさんに、「いつでも会えますね」とウェンディが嬉しそうに言う横で「なに嬉しそうにしてんのよ」とシャルルが顔を逸らす。

 

「そう、いつでも会えるわ。シャルル」

 

「ちょっ……と……」

 

シャゴットさんに抱き締められたシャルルは初めは抵抗しようとしたが、次第に安心したような表情に変わる。

 

「また……会ってくれますか?」

 

「えぇ、貴女とはまた話がしたいので」

 

そう言って笑顔を向けるフィールの手を握り、ディムさんは薄らと目に涙を浮かべ、はにかんだ笑顔を返す。

 

「いつでも遊びに来なさい。ハッピー」

 

優しくそう言われたハッピーは「あい!」と元気よく返事をするが、「カー! 来なくていいわ!」とラッキーさんに怒鳴られてしまう。

 

「でもオイラ、おじさんとおばさんの匂いが好きなんだ。なんでだろ?」

 

少し照れたハッピーが頭を掻きながらそう二人に伝えると、ラッキーさんは鼻をすすり、マールさんは手で口を押さえて涙を浮かべる。

 

「カー! 匂いを嗅ぐなんて百年早ぇんだよ!」

 

「あいぃぃ!!!」

 

ハッピーを嬉しそうに追いかけるラッキーさんの横でマールさんがハンカチで涙を拭っていると、準備が出来たエクシード達が来てもう行くと言う。

 

「またね!!」

 

「おう!」

 

翼を広げて飛びさって行くエクシード達に手を振って見送ると、ナツさんが体を伸ばす。

 

「ん~~……よし! オレ達もギルドに戻るぞ!」

 

「みんなにどうやって報告しよう?」

 

「いや、みんな気づいてねぇんだろ? 今回の件」

 

「しかし、ミストガンの件だけは黙っておけんぞ?」

 

みんなで真面目な話をしているのだが、ナディさんのように右手を振りながら話しているためなんだか少し可笑しな光景になっている。

 

「ちょっ! ちょっと待て!」

 

「どおしたガジル! お前もやりてぇのか?」

 

「楽しいですよ?」

 

「一緒にやりましょう?」

 

みんなに制止をかけたガジルさんに右手を振りながらそう勧めると、ガジルさんは「それに価値があるならな!」とツッコんで面倒そうな顔をする。

 

「リリーは何処だ! パンサー・リリーの姿が何処にもねぇ!」

 

そう叫んでガジルさんが辺りを見回すと、リリーについて疑問符を浮かべるグレイさんにルーシィさんがあのゴツくて黒いエクシードだと説明する。

 

「オレならここにいる」

 

その言葉と共に現れたのは何故か縄を握った黒いエクシード。その姿に僕達は驚愕した。

雰囲気、声、目付き、色等はリリーさんとおなじなのだが、体の大きさがハッピー達と同じなのだ。

 

「随分可愛くなったね?」

 

額に汗を浮かべたハッピーが尋ねると、リリーさんは「どうやらアースランドとオレの体格は合わなかったらしいな」と淡々と告げる。

 

「あんた……体、なんともないの?」

 

「今のところはな……オレは、王子が世話になったギルドに入りたい。約束通り、入れてくれるんだろうな? ガジル」

 

シャルルの質問に答えたリリーさんがガジルさんを指差してそう言うと、ガジルさんは「勿論だぜ! 相棒!」と涙を流してリリーさんを抱き締める。

 

「で、それとは別に怪しい奴を捕まえたんだ」

 

「おぉ! 早速手柄か! 流石オレの猫!」

 

ガジルさんが期待の眼差しを向ける中、リリーさんが手に持った縄を引くと、「ちょっと! 私別に、怪しくなんか!」と言う声と共に銀髪の女性が姿を現した。

 

「私も妖精の尻尾(フェアリーテイル)の一員なんだけど!」

 

見覚えのある顔。確か、エドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)にいたリサーナさん。

 

「そんな……まさか!?」

 

「リサーナ!?」

 

エドラスでリサーナさんを見ていないグレイさんとエルザさんは愕然とし、アースランドのリサーナさんが死去した後に妖精の尻尾(フェアリーテイル)に加入した僕達とルーシィさんで、エドラスのリサーナさんがこっちに来たと推測していた。

 

「ナツゥ――!!」

 

「どわぁ!?」

 

「また本物のナツに会えた」と感涙するリサーナさんを見て僕達が困惑していると、リサーナさんはハッピーに頬擦りをして抱き締めた後、グレイさん達に視線を移す。

 

「グレイとエルザも久し振りだね! うわぁ! 懐かしいなぁ……その子達は新しいギルドのメンバーかしら?  小さいウェンディとテューズに……もしかしてルーシィ?」

 

「ちょ、ちょっと待て……お前……まさかっ! アースランド(こっち)のリサーナ……?」

 

嬉しそうに話すリサーナさんに動揺したグレイさんがそう尋ねると、リサーナさんは小さく首肯する。

 

「生き返ったのか!!」

 

「うわぁぁい!!」

 

「ま、待て!」

 

それを見たナツさんとハッピーがリサーナさんに抱きつこうとするが、エルザさんが二人の襟首を掴んで制止する。

 

「お前は二年前……死んだはずだ……生き返るなどあり得ん……」

 

エルザさんにそう言われたリサーナさんは俯いて、死んでいなかったと、話を始めた。

 

「二年前のエルフ兄ちゃんの暴走……多分、その時アニマに吸い込まれたんだと思う。当時、アースランドには小さなアニマが沢山あったんじゃないかな? 

 

エドラスで目が覚めた私は驚いた。みんな少し雰囲気が違ってたけど、私の知ってる人達がそこには居た。しかも、みんなが私をエドラスのリサーナだと思い込んでたの。……多分、エドラスのリサーナは、既に死んでいるんだと思った。ギルドの雰囲気がね……そんな感じだった。

 

その時はよく分からなかったけど、今にして思えば、エドラスのリサーナが死んだ事によって、世界に足りない分を補完するために、アニマが私を吸収したのかもしれない。

 

――私は本当の事を言えなかった。エドラスのリサーナのふりをしたの」

 

リサーナさんによって語られた真実にその場に居た全員が言葉を失い、ナツさんは口を開けたままリサーナさんを見つめていた。

 

「最初は戸惑ったけど、記憶が混乱してる事にして、少エドラスの事を少しずつ学んで、みんなに合わせながら……段々、エドラスの生活にも慣れてきた。そして二年が過ぎて……六日前、アースランドのナツとハッピーがやって来た」

 

「あん時か……!」

 

ナツさんが思い出したのは僕達が初めてエドラスの妖精の尻尾(フェアリーテイル)に行った時の事。

リサーナさんに抱きつこうとしたナツさん達がエドルーシィさんに蹴り飛ばされた時の事だ。

 

「何であん時に本当の事を言わなかったんだよ!」

 

ナツさんがそう問い詰めると、リサーナさんは申し訳なさそうに顔を逸らす。

 

「言えなかったんだ……私はエドラスのミラ姉達を悲しませたくなかった……だけど、本当はみんな分かってて、エドラスのミラ姉達に見送られて、アースランドに戻ってきたの」

 

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

僕達はカルディア大聖堂に移動した。

今日はミラさん達がリサーナさんのお墓参りに来ている為だ。

 

「ミラ姉ぇ――!!! エルフ兄ちゃん――!!!」

 

ミラさん達を見たリサーナさんが一心不乱に走りだし、名前を呼ばれて振り向いた二人は、目を見開いた。エルフマンさんは余りの事に傘を落とす。

 

「うそ……リサーナ!」

 

「うぁ……あぁぁ……!」

 

リサーナさんが涙ながらにミラさんに抱きつき、三人は力強く抱き締め合う。

 

 

「ただいま……!」

 

 

「……お帰りなさい!」

 

 

――雨雲の間から射し込んだ光に照らされたミラさん達の笑顔は、とても美しいものだった。

 

 

 

 

 

 





エドラス編終了ですね……長かった……
次はどうしようかと迷ってます。日常編の短い話は二つ程思い付いてはいるんですが、書くかどうかは分からないですね……

そして、お気に入りが200を突破しました!
感謝しかないです! まだまだ至らぬ点も多いですがこれからも頑張りますので、応援の程よろしくお願いします。


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