月日は流れ、苦戦はしたもののリヴァルターニは自身の持つ魔法をなんとか知識としてテューズに伝えることができた。攻撃魔法や治癒魔法、補助魔法に滅竜奥義に至るまで全てを叩き込んだ。
後はテューズの成長に伴い使えるようになっていくだろうと考え、リヴァルターニはテューズを連れて恒例の集会へと向かっていた。
「大丈夫か? テューズ」
「うん、大丈夫。心配しないで」
リヴァルターニの背に乗るテューズは出会った当初と比べて流暢になり、集会で会うアンナによって読み書きに関してもある程度は出来る様になっている。しかし良いことばかりという訳でもなく、リヴァルターニはその集会に気が進まなかった。
「テューズ! こっちこっち!」
リヴァルターニを視認した金髪の少年が空に向かって両手を振る。少年に気付いたリヴァルターニが着地すると、テューズは背中から飛び降りて少年の元へ駆けて行った。
「スティング君! 久しぶり!」
「みんなもう来てる。行こうぜ!」
スティングに手を引かれ森の奥へ消えて行った二人を見送り、リヴァルターニは別方向へ進んでいく。これから始まるであろう事を考えると気が乗らず、自分もテューズの方へ行きたいと心の中で愚痴を零した。
「浮かない顔だな。幸せが逃げるぞ」
「幸せならついさっきまで背中に居たが、そなたの子に連れられて行った」
声をかけてきた長い髭を生やした白竜に溜息まじりに返答すると、リヴァルターニは既に集まっている5頭の竜達の顔を見渡した。
顔や胸に傷痕を付けたニヤニヤと笑う赤い竜、イグニール。鱗ではなく全身に鋼鉄纏う銀色の鉄竜メタリカーナ。リヴァルターニを温かい目で見る白い羽に覆われた天竜グランディーネ。先程声をかけてきたバイスロギア。赤い目に真っ黒な体が特徴的な影竜スキアドラム。
皆テューズを拾う前からリヴァルターニと交流があり、そして彼が人間に敵対していた時には対立していた古くからの友人達だ。
「人間嫌いのリヴァルターニがこうも変わるとはな。"あの"リヴァルターニが」
「人間と共存するなど愚かしい…だったか? 共存するくらいなら死を選ぶ〜とも言っていたな」
「くっ、うるさいぞバイスロギア、メタリカーナ。だからここに来るのは嫌だったんだ…!」
会う度以前と比べられて揶揄われ続け、リヴァルターニは頬を膨らませてそっぽを向く。このやり取りの起点となるのは総じてリヴァルターニの親バカ発言なのだが、当の本人はその事実に気付いていない。
「このやり取りを見られるのも後少しか…名残惜しいな、リヴァルターニ」
「私としては清々するのだが?」
「またそんな事を言って…でも本当は私に会えなくなるのは寂しいでしょう?」
「くたばれ、二度とその面見せるな」
イグニールの言葉には苛立ちを隠して返答していたリヴァルターニだが、グランディーネに対しては感情を一切隠さず顔を顰めて返答した。その言葉におよおよと嘘泣きをするグランディーネを慰め、竜達はリヴァルターニにブーイングを浴びせる。
「えぇい喧しい! とっとと本題に入れ!」
青筋を立てて叫ぶリヴァルターニに他の竜達は渋々といった様子で従い、真面目な表情へと切り替わった。
「エクリプスを開く日が決まった。7月7日だ。恐らくこの集会もこれが最後だろう」
「では、それまでに
「…本当にやるのか?」
不安そうな眼差しを向けてくるリヴァルターニに、スキアドラムは小さく頷いた。
彼が計画しているのは、自身の体内にある魔水晶を彼の子どもであるローグに埋め込み、更には竜を殺したという実績を与えるためローグがスキアドラムを殺したと記憶改竄するというものだ。
スキアドラムの他にその計画を実施しようとしているのはバイスロギアのみであり、リヴァルターニはその計画に乗る気はなかった。
「幾らなんでも、子に親を殺させるというのはな…」
「ほう? テューズは好きだが他の人間は嫌い、とか言っていたのに」
「テューズ以外の心配もするのか」
「貴様らは…ッ! いちいちそれを挟まなければ会話出来んのか!」
いつものようにからかってくる二頭に苛立ち、地団駄を踏むリヴァルターニの鼻息が荒くなる。
その様子に満足したメタリカーナとバイスロギアはニヤニヤと笑いながら謝罪を述べ、リヴァルターニも落ち着きを取り戻した。
「…はぁ、そなたらがやると決めたのなら何も言わん」
「心配するな。その辺りもちゃんと考えている」
スキアドラムがそう言うと、リヴァルターニもその言葉を信じて納得し彼らの話題はそれぞれの近状報告に移っていく。自分の教えた魔法をすぐに覚えただとか、自分にこんな事をしてくれたなどと子ども自慢に花を咲かせながらも、今後の計画についてしっかりと話し合い段取りを確認した。
一方、スティングに連れられて行ったテューズは頬を膨らませ目に涙を浮かべていた。
「僕も抱っこ!」
「ダメだ! 今オレの番だから」
「さっきからずっとナツの番だもん!」
アンナの膝の上に座るナツは腕を引っ張るテューズに抵抗し、つい突き飛ばしてしまった。その様子を見ていたアンナは尻餅をつき唇を噛み締めて泣くのを堪えるテューズを抱き上げて膝に乗せ、泣きそうなテューズを見て動揺していたナツの頭を撫でてやる。
「こうして二人で座ればいいでしょう?」
二人を抱きしめ、優げな声色でそう言葉をかけるとテューズは黙ってそれに頷き、ナツは恥ずかしさから顔を赤くしてアンナの膝から降りてしまった。
「抱っこなんかの何処がいいんだか…イカれてるぜ」
そう吐き捨ててそっぽを向くガジルをローグは目を輝かせて見ていたが、滅竜魔導士の優れた聴覚でガジルの言葉を聞いたナツがガジルを元へやってきた事によって物陰に隠れてしまう。
「アンナ先生ってなんかいい匂いするんだよ」
「? だったら別に抱っこじゃなくてもいいだろ」
「確かに…頭良いな、お前」
「バカにしてんのか!?」
なるほどと感嘆した様子のナツに呆れながらガジルはアンナを一瞥する。甘えたい気持ちはあるのだが、ナツ以外の子ども達が自分より幼い中それに混じるというのはプライドが許さなかった。
「いい歳して抱っこなんて…だせぇな」
「あ?」
それ故に、自分と同年代であるにも関わらず小さい子達に混じっているナツについ悪態をついてしまう。今の言葉に腹を立てたナツとガンを飛ばしあい、一触即発の二人をスティングとローグは少し離れたところからジッと見つめる。
「今日はナツさんが勝つな!」
「いや、今回もガジルが勝つ」
「でもその前はナツさんが勝ってた」
「その前の前はガジルだ」
普段は仲の良い二人なのだが、互いに憧れの人の勝利を主張しているため段々と口論に変わっていく。そこからどちらが勝つかではなくナツとガジル、それぞれの凄いところを言い合うように話が変わっていった。
当のナツとガジルが二人を見てる事に気付かずに二人はヒートアップしていき、恥ずかしさから二人を止めようとナツ達は仲裁に入る。
「良かった。また喧嘩しなくて」
安堵して言葉を漏らしたウェンディにアンナはそうねと返答した。ナツとガジルが衝突するたびにウェンディやテューズが仲裁しようとしてくれるのだが、まだ幼い二人ではどうすることも出来ずに泣いてしまう事も多い。
アンナもナツ達の喧嘩には手を焼いていたが、こうしてスティングとローグがこうして意図せずに喧嘩を止めることもあった。
「あら? …終わったみたいね」
アンナがそう呟くと同時に空からドラゴン達が各々の子どもを迎えに飛来し、子ども達は別れを惜しみながらドラゴンに連れられて帰っていく。
リヴァルターニの背に乗るテューズは何度も名残惜しそうに振り返り、次に会えるのはいつなのかと尋ねた。
「近いうちにまた会えるだろう。今日は楽しかったか?」
「うん。スティング君とローグ君とはいっぱい話せたし、書ける文字が増えてアンナ先生に褒めてもらった! ウェンディと治癒魔法の練習もしたよ」
リヴァルターニからはテューズの表情は見えないが、楽しそうに話す表情がありありと浮かび笑みが溢れる。
テューズに絆された事により心に隙ができ、テューズという大きな弱点も増えたというのにリヴァルターニはこの変化が心地よく感じていた。
風切音の中、人間より発達した聴覚を持つリヴァルターニはテューズのお腹が鳴った微かな音を拾い食料を調達するために一度森へ降りた。
「ここで待っていろ」
そう言い残して果実を探しに行ったリヴァルターニを待つテューズは木の幹に背中を預けて座り込む。次第に段々と目蓋が重くなり、船を漕ぎ始めた。
*
鼻腔をくすぐる草の匂いに目を覚ます。まだ重い目蓋を擦り、何とか目を開けたテューズはくらくらする頭で周囲を見渡した。
リヴァルターニと住んでいた海蝕洞ではなく、目の前に広がるのは森。ここが何処なのかが分からず、自身の記憶を探ってみる。
(…確か、リヴァルターニと一緒に遠出してたんだっけ)
彼の中に眠る最後の記憶を掘り起こし、思い出しのはリヴァルターニの提案で遠くへ来ていた事。そして、そこで食料を調達する為にリヴァルターニは果実を探しに行った事だ。
しかし、その記憶すらも靄がかかったようで曖昧な物になっていた。
「…リヴァルターニ? どこ?」
よく知らない所に一人でいる不安から、涙声でリヴァルターニの名前を呼ぶも返事はない。段々と不安だけでなく恐怖を感じ始め、小走りで周囲を探して回る。
その努力も虚しく、幾ら探してもリヴァルターニは見つからない。それどころかあの大きな足跡もなく、リヴァルターニの匂いすらも一切感じられなかった。
「…もうやだ。帰りたいよ…」
探せど探せど見つからないため、テューズは膝を抱えて蹲る。潮の香りを感じなられないことから海がこの近くにない事が分かり、自力で帰る事も不可能だ。
暫く蹲っていたテューズは手の甲で涙を拭って立ち上がると、ここでジッとしていても仕方がないと意を決してリヴァルターニを探す為に歩みを進めた。
*
リヴァルターニを探し始めてから1年の月日が流れた。
テューズはあちこちを転々としながらリヴァルターニの情報を探しているが、未だに有力な情報は無い。
1年と言う月日の間に多くの村や街を周り、幼い少年が一人で旅をしている事を心配した大人達に一緒に住むよう提案されたり、時には迷子として保護されかけた事もあった。
今日もまた保護されそうになったところを逃げ出して来た所で、肩で息をしながら後方を確認しうまく撒いたことを確認する。
「…ここまで来れば大丈夫」
近くの森まで逃げたテューズが安堵の息を漏らしたその時、空から何かが落ちるのが見えた。落ちた物が何なのか好奇心に駆られたテューズは茂みをかきわけて向かってみる。
(これって…卵…なの?)
その先で見つけたのは紫色の模様が入った白い卵のような物。そのあまりの大きさにこれが本当に卵なのかと疑問に思い、テューズは何度か叩いてみた。
他にも匂いを嗅いでみたりしたが結局分からず、卵なのだろうと思う事にしたテューズは次に何故これが空から落ちてきたのかという疑問が浮かぶ。
まだ幼いテューズが答えを導き出せる筈もなくウンウンと唸っていると、自分と同じように茂みを掻き分け何かを探す少年を見つけた。
「君! この辺りに何か落ちてこなかったか!?」
どうかしたのかと近づいたテューズに気付いた青髪の少年はテューズの肩を掴み、必死の形相でそう問いかけた。いきなりの事にビクビクと体を震わせながら先ほど見つけた卵の方を指差すと、少年は卵の方へ駆け寄って行った。
「エクシードの卵。何でアースランドに…」
顎に手を添えてぶつぶつと何かを呟く少年は振り返ると、恐る恐る声をかけようとするテューズの元へ戻ってくる。
「あの…」
「怪我は無かったかい?」
「へ? う、うん」
「それは良かった…オレはジェラール。詳しくは言えないけれど、怪しい者じゃないんだ」
先程の形相とは一転して優しげに笑うジェラールを見て、テューズは動揺しながらも軽く自己紹介する。
実は、先程アニマの気配を感じたジェラールはその方向で空から何かが落ちるのを目撃し、エドラスからアニマを通じて何かが送り込まれたのではないかと思い捜索に来ていたのだ。
故に、そんな事をテューズに言える筈もなかった。
「ジェラールは、あの卵について何か知ってるの?」
「え? …いや…知らないかな?」
「でもさっきエクシード? の卵って言ってたでしょ?」
「聞こえていたのか!?」
驚くジェラールに頷いて肯定するテューズ。滅竜魔導士であるテューズの聴覚は発達しているため、普通では聞き逃してしまうような呟きも拾う事ができる。
「エクシードってどんな動物?」
「えぇと…それは…」
テューズをエドラスの件に巻き込むわけにもいかない為どう誤魔化そうか思考していたジェラールに追い討ちをかけるように質問するテューズは、自分の知らない未知の存在に目を輝かせていた。
「この卵、孵すの?」
テューズから投げかけられたその疑問にジェラールは言葉が詰まってしまった。正直言ってそんな事考えていなかったのだ。エクシードの卵だと知ったのもついさっきで、見つけてからはテューズをどう誤魔化すかに頭を働かせていた為この先の事など一切考えていなかった。
どうしようかと考えた時、ジェラールの脳裏に浮かんだのは自身を救ってくれたエクシードの姿。彼がしてくれたように自分もこのエクシードを面倒を見る。それが恩人への恩返しになるような気がして、ジェラールはこの卵を返す事を決心した。
「じゃあ、それまで僕もついて行っていい?」
「えぇ!? そ、それは危険だからダメだ」
「お願い! 僕、そのエクシードっていうのを見てみたいんだ!」
両手を合わせ、頭を下げるテューズの姿が以前老人の元に預けてきた少女と何処か重なって見えた。
それだけでなく、エクシードが帰るまでの間ならあまり危険な事もできない事や、そもそも一人でいる幼い少年を放っておく事もできないなど考えれば考えるほど断る理由が無くなっていき、結局ジェラールはテューズの同行を受け入れる事にした。
*
「じゃあ、君はそのドラゴンを探して…?」
卵を孵す為に洞窟を探し出し、その洞窟内で卵を温めている最中にテューズから話を聞いたジェラールは非常に驚いた。
何処かウェンディに似た雰囲気を持つ子だと思っていたが、まさか彼女と同じように育て親のドラゴンを探しているなんて想像もつかなかったからだ。
「海竜リヴァルターニっていうの。知ってる?」
「いや、聞いたことないな」
ウェンディと別れた後も彼女の為に竜の情報を集めていたジェラールだが、初めて聞く名前に首を横に振る。そもそもドラゴンの噂なんてものは滅多に耳にしないし、あったとしてもそれらは出任せばかり。実際に本物のドラゴンを見たであろう人間はウェンディくらいだった。
「以前君と同じようにドラゴンを探していた子を知ってるけど、その子も手がかりは何一つなかったと思う」
「僕以外にもドラゴンに育てられた人が居たんだ…」
自分以外にも同じ境遇の人間がいると聞いて、テューズの口元が緩む。今までドラゴンについて尋ねた際には冗談だと思われたり、酷い時には妄想だ、ドラゴンなんて実在しないと一蹴された事もあった。
1年間もそれが続き、もしかして本当にドラゴンは実在しなかったのではないかという最悪の考えが何度か脳裏をチラついていたのだが、ジェラールの話でその考えは間違いだと安心できた。
「もしかしたら君達以外にもいるのかもしれないな」
「うん!」
頷くテューズの頭をジェラールが撫でる。テューズにはそれが何処か懐かしく感じられ、酷く安心できる。
最初はジェラールに対して幾許かの警戒心を持っていたテューズだが、今ではすっかりジェラールに懐いていた。
そうして二人が卵の面倒を見続けていると、初めは稀に動く程度だった卵は日が経つにつれて段々と動く頻度が短くなり、ジェラールはそろそろ孵化する頃だろうと推測していた。
「ねぇジェラール、早く話の続きが知りたい!」
「今は食事中だろ? 話はこれを食べてからだな」
ジェラールがそう言うと、テューズは果実を早く食べようと口に目一杯詰め込んだ。ジェラールは今まで旅をしてきて見たものをテューズに話して聞かせていたのだが、テューズはその話を気に入ったようで毎日聞かせて欲しいと言っていた。
「こら、ちゃんと味わって食べないとダメだぞ」
「むぐ!? むむむ…」
ジェラールがそう言うと、テューズは渋々と言った様子でさらに詰め込もうと両手に持っていた果実を置きゆっくりと咀嚼する。
その様子を苦笑いを浮かべながら眺めていたジェラールはふと卵が気になり、そちらに視線を移すと卵に罅が入っている事に気がついた。
「テューズ! 卵に罅が!」
「ん"ぐ!?」
「だ、大丈夫か!?」
驚いて喉に詰まらせたテューズに水を渡して胃に流し込ませ、無事を確認したジェラールは卵を回転させてテューズに罅の入った面を向けて見せてやる。
「本当だ…じゃあもう生まれるの?」
「あぁ、多分もうすぐ──」
テューズの疑問に答えようとしたジェラールの言葉を遮るように卵は強い光を放ち、二人は余りの眩しさに目を瞑る。
光が消えて目を開けた二人の前には真っ二つに割れた卵。そして、その中心にはちょこんと座る紫色の猫がいた。
「ジェラール! 生まれた! 生まれたよ!」
「良かった…」
待ち侘びた瞬間にテューズは興奮して飛び跳ね、ジェラールは無事に孵化させる事ができて安堵の息を漏らした。
「ねぇジェラール、エクシードって猫の事だったの?」
「いや、エクシードは大きな特徴として
ジェラールが生まれたエクシードの羽を探して背中を覗き込むが、見つからない。このままでは翼があると聞いて期待の眼差しを送るテューズをがっかりさせてしまうのではと危惧したジェラールが脂汗を浮かべると、彼の心情を読んだのかエクシードは翼を生やすとテューズ前を幾度か舞い、元の位置に戻った。
「凄い! 本当に飛んだ! ねぇねぇ、この子の名前はどうするの?」
「名前か…綺麗な紫色だし、パープルなんてどうかな?」
テューズとジェラールが何度かパープルと呼びかけてみたが、パープルは不服そうに目線を逸らし、遂には二人から顔を背けてしまう。
「あれ…? 気に入らなかったのかな…。テューズは何かいい名前あるかい?」
「え? …えぇと、どうしようかな…」
首に手を添え、熟考の末に色々な事を感じられるようにという願いを込めて"フィール"という名前を提案した。その提案を聞いたエクシードは顔を顰めた後、妥協したように溜息をつくとフラフラと飛んでテューズの頭に着地する。
「これは…気に入ったのか…?」
「どうだろ…?」
試しにテューズがフィールと呼んでみると、返事のかわりなのかペシペシとテューズの頭が叩かれた。それがYESという意味なのか、それともNOなのか判断がつかずあたふたするテューズ。
そんなテューズに、先程自分が提案したパープルに比べれば反応があるだけ良い方だろうと考えたジェラールは多分気に入ってるから大丈夫と声をかける。
「そうなの? フィール」
テューズがそう問いかけると、頭上のフィールはフイッと顔を背ける。しかしそれは先程とは違い、ジェラールの目には照れているように見えた。
「それじゃあフィールに決定かな」
「よろしくね、フィール!」
そう言って頭上のフィールを顔の前に抱えると、テューズは満面の笑みを浮かべた。
ー本文では説明していなかったことー
・テューズが目覚めた時、明確に文字にはしていませんでしたが既に魂竜の術が発動し、x777年になっていました。
・パープル-フィールの最初の名前、多分ミストガンのネーミングセンスはジェラールと似ていると予想して出来たもの。編集時に付け足されたシーンになりますね。