おめでとうございます。
前回の七夕記念回は事前に書いておき、7月7日の0時に投稿予約をしていたんですが……
ハッピーがウェンディに結婚と言わせようとするシーン、まさか現実で佐藤聡美さんがご結婚されたとは知らずに書いてしまいました。
申し訳ありません。編集しておきました。
普段Twitterなどほとんど開かないのですが、ネットニュース等はちゃんとチェックした方が良さそうですね。
「つうと、なにか? お前らはアースランドとか言うもう一つの世界から、仲間を救うためにエドラスに来たってのか?」
僕達はエドラスのみんなに、自分達がアースランドから来た事や、事情を全て話した。
「そっちの世界にも妖精の尻尾があって、そっちじゃエルザは味方だって?」
「はい、私達の仲間でした」
「ざっくり言うとね」
「あい」
初めはみんな僕達の話を信じていなかったが、アースランドのナツさんを見て「確かにこのナツはオレ達の知ってるナツじゃねぇしな」と言って信じてくれる。
「この子がそっちの世界の私!?」
「ど、どうも……」
アースランドのウェンディを見て驚いているエドラスのウェンディの横で、ナブさんが「小っちゃくなったな、ウェンディ!」と笑っている光景を見ていていると、横から視線を感じた。
「この子供が……オレ……?」
僕を見て眉を顰めるエドラスの僕。
「へぇ……そっちのテューズもウェンディみたいに小さくなってるんだ」
好奇の目つきで僕とウェンディを交互に見るグレイさんの胸ぐらをエドラスの僕が掴み、左手に持った短剣を突きつける。
「あの女と一緒にするな」
「次にそいつと一緒にしたら容赦しないわよ」
いつの間にか近くに来ていたエドラスのウェンディもグレイさんにトンファーを向け、グレイさんは冷や汗をかきながら首を縦に振る。
「で、王都への行き方を教えてくんねぇか?」
ナツさんがみんなにそう尋ねると、みんなの顔に動揺が走る。
「私達の仲間が、この世界の王に吸収されちゃったんです!」
「早く助けに行かないとみんなが魔力に……形の無いものになっちゃうんです!!」
そう主張すると、エドウェンディが一歩前に出て僕達にやめるように促す。
「小さい私には悪いけどさ、やめておいた方が身のためよ。エドラスの王に歯向かった者の命はないわ。それほど強大な王国なの」
エドウェンディに続いてエドテューズが、僕達にこの世界について説明してくれる。
「この世界じゃ魔力は有限、限りあるもの。言い換えればいずれなくなるものだ。それを危惧したエドラス王は魔法を独占しようとし、その結果、全ての魔導士ギルドに解散命令が出された」
次第に、みんなの顔が暗くなっていく。
「初めのうちはみんな抵抗したさ。……けど、王国軍魔戦部隊の前に次々と潰されていった」
「残るギルドはここだけ……もちろんオレ達だって無傷じゃない。仲間の半分を失い、マスターだって……ちくしょう……」
涙を流して語るみんなに、ナツさんがもう一度王都への道を教えてほしいと頼み込む。
「オレは仲間を助けるんだ。絶対にな」
********
あの後、王都への道を教えてもらった僕達は、砂漠を歩いていたのだが、
「よーし……動くなよ………どらぁ! あ、待て!!」
珍しい蛙を見つけたナツさんは「ルーシィへの土産にするんだ!」と言ってピンク色の蛙を追いかけている。
「王都まではまだまだかかるのかな……」
「オイラもう疲れたよ」と弱音を吐くハッピーに、シャルルが「何言ってんのよ!」と怒鳴り付ける。
「ハッピー、さっき出発したばかりじゃないですか……」
「5日は歩くって言ってたよね」
「途中で休憩できる町もあるらしいから、そこまで頑張ろ?」
「あい……」
ハッピーが返事をすると、フィールが沈んだ顔で「なんだか
「オイラ達、本当に魔法使えなくなっちゃったの……?」
「わからない。先が思いやられるわ……」
とため息をつくシャルルの向こうで、ナツさんが巨大な蛙に衝突したのが見えた。
蛙は唸り声を上げながら、ナツさんを踏み潰そうと手を振り上げる。
「ナツ! 襲いかかってくるよ!?」
「よーし……火竜の……」
ナツさんは蛙を迎撃しようと袖を捲って構えるが、魔法が使えないため全員で蛙から逃走する。
「忘れてた! 魔法は使えねんだった! 二人も魔法使えねぇのか!?」
ナツさんに言われ、手に力を入れて試してみるが、魔法が発動する気配はない。
「やっぱり僕の魔法も使えません!」
「私もダメです!」
「くっそぉぉ!! こうなったら魔法が使えなくてもやってやんぞコラァ!!!」
ナツさんは足を止めて振り返り、蛙を殴り付けるが、果たしてダメージはないようで返り討ちにあう。
「ナツさん!!」
宙に浮いたナツさんに止めをさそうと迫る蛙を、突如現れたルーシィさんが見事に撃退した。
「怖いルーシィ!」
「怖いルーシィさん!」
「怖くて強いルーシィさん!」
「喧嘩売ってんのかお前ら!?」
ルーシィさんが僕達に怒鳴っている隙に、さっきの蛙が逃げ去っていく。
シャルルがルーシィさんになぜここにいるのかを聞くと、ルーシィさんは頬を染めてナツさんを一瞥する。
「心配してるわけじゃねぇからな……」
「何だかんだ言ってもやっぱルーシィだな、お前」
ナツさんはそう言いながらルーシィさんの肩に手を置いた。
「どんなまとめ方だよ!」
「そういうツッコミとか!」
と言ってエドルーシィさんの肩を叩くナツさんの元にハッピーが行き、二人で悪戯な笑みを浮かべる。
「ルーシィにこの怖いルーシィ見せたいね!」
「どんな顔すんだろうな……本物は!」
ニヤニヤと笑う二人に、ルーシィさんの「私は偽物かい!」という叫び声と共に放たれた強烈な蹴りが炸裂する。
蹴られた頬を押さえ悶絶するナツさんにルーシィさんは技をかけて追い討ちし、それを見た僕達は震え上がっていた。
「やっぱり怖い……」
「この光景が5日も……」
「恐ろしいですね……」
「ホントに先が思いやられるわ……もぅ……」
********
エドルーシィさんと合流して数日後。
魔法の武器を持たずに旅を続けるのは難しいという事で、僕達はルーエンの町に来ていた。
「ちょっと前までは、魔法は普通に売買されてたんだ。でも王国のギルド狩りがあって、今は魔法の売買は禁止されている。それどころか、所持しているだけで罪になるんだ」
魔法を売っている店に行くためルーシィさんの後をついて歩いていると、エドラスに起こったことを語ってくれる。
所持しているだけで罪になると聞いたウェンディが、元から魔法を使える人はどうなるのかを尋ねる。
「え? どうって……魔法を手放せばいいだけだろ? つぅか、魔法を元から使える人ってなんだよ?」
返ってきた思いがけない回答に、僕達は顔を見合わせる。
「なるほど……そういう事ですか」
顎に手を添えたフィールが何か分かったらしく、どういう事か解説してもらう。
フィールの考察によると、こっちの世界じゃ魔法は物みたいなもののようで、僕達のように体内に魔力を持つ人間はいないと言う。
魔力を持つのはラクリマ等の物質で、それを武器や生活用品に組み合わせた魔法の道具。それらを総称して魔法と読んでいるらしい。
「こっちの魔導士って、魔法の道具を使うだけなのか?」
ナツさんの疑問に、シャルルが「さぁ?」と言葉を返すと、ルーシィさんが足を止める。
「着いたよ、この地下に魔法の闇市がある。旅をするなら必要だからね」
口角を吊り上げたルーシィさんが先導して地下に入り、その先にあった店で魔法を探す。
ウェンディやエクシード達と一緒に魔法を見て回り、側にあった棚の一番下を覗いて見ると、ハッピーが興味を示した。
「おぉ……なんか怪しい物がいっぱい並んでる!」
「て言うかこの店、なんかカビ臭いわね……」
「商品も埃をかぶってますし……」
懸念を抱くシャルルとフィールに、その会話が聞こえていたのか店主さんが反応する。
「ほほほ……そりゃ何てったって歴史深い骨董品が多いですからな。カビとか傷とか匂いとかは、いわゆる味と言うやつですよ、お客さん」
「味なんてどうでもいいんだよ……大事なのは使えるかどうか、結構パチもんも多いから買う時はよく点検しな」
ルーシィさんの忠告を聞き、ナツさんは店主さんに炎系の魔法はないかと尋ねると、店主さんは笑みを浮かべながら赤色の柄を取り出す。
「こちらなんかどうでしょう? エドラス魔法、"封炎剣"。ここをこうやって……」
店主さんが魔法道具をいじると、炎の刀身が出現する。
ナツさんは「ショボい炎だな……」と不満を言っていたが、その道具を購入するようだ。
「あ、これとかどうかな?」
ウェンディが手に取ったのは青色の筒状の物体。
「なにそれ?」
「小さくて可愛いでしょ? テューズの分もあるよ!」
そう言ってウェンディは棚から同じ形状の赤色の物を取り出して僕に渡す。
というか僕のはそれで決定なのだろうか。
「それは"空烈砲"と言いましてな……外見はただの可愛い小箱ですが、ここをこうして少し開ければ!」
店主さんが空烈砲を開けると周囲に風が発生し、ウェンディはその魔法を「なんかロマンチック……」と言って購入を決める。
次に店主さんは僕の前に来たので、手に持っている道具を渡してどんな魔法かを説明してもらう。
「そちらは空烈砲と同系の魔法、"水烈砲"でございます。同じようにこうして開けば……」
「おぉ……」
すると、さっきとは違って周囲に水が発生した。
元々水の魔法を使う僕は水烈砲を気に入ったので、これを購入することにする。
「よし、この三つをくれ」
選んだ魔法をナツさんが手渡し、店主さんが会計をする。三つで30000のところを27000に割り引きしてくれると言うが、ナツさんはその値段に顔をしかめる。
「たけぇな……」
「何分品物も少なくて貴重なので……」
「つぅか、大事なこと忘れてたけどお前ら金は?」
ルーシィさんの問いに、ナツさんは笑いながら持っていないと告白する。
当然僕もウェンディもお金を持っていない。
「ルーシィ、払っておいてくれ」
「……まぁいい! ここは私が奢ってやるよ」
とルーシィさんが言うと、店主さんは慌ててお金はいらないと言い始める。
何でも以前ルーシィさんに助けてもらったのだとか。
「じゃあ、遠慮なくいただくよ」
「ありがとな、おっちゃん」
僕達も店主さんにお辞儀をして店を出る。
「あっちのルーシィとは違って、怖いルーシィは頼りになるね!」
「だから、怖いをつけるなって……!」
店を出るとハッピーがルーシィさんを褒めようとするが、"怖い"という部分に反応したルーシィさんは青筋を立て、口元をひくひくと引き攣らせる。
「しかも、ここらじゃ結構顔って感じだもんな!」
「ホント助かりました!」
「ありがとうございます!」
みんなで感謝を述べると、ルーシィさんは僅かに頬を染めて僕達から視線を外し、頬をかきながら僕達の世界のルーシィさんについて尋ねてくる。
********
「ぷははははは!!!!」
場所を広場に移し、そこにあったテーブルに座ってルーシィさんがどういう人物かを話すと、エドルーシィさんはテーブルを叩きながら涙を浮かべて腹を抱える。
「あたしが小説書いてんの!? そんでもってお嬢様で、鍵の魔法使って……あははははは!! ダメだ、想像したら笑いが……ぷっ……くく……」
「喧しいとこはそっくりだな!」
と笑顔で言い放ったナツさんに、ルーシィさんは「喧しい言うな!」と言って目を吊り上げる。
「さっき買ったこれ、どう使うんだっけ? テューズ分かる?」
ウェンディに言われて水烈砲を開こうと弄ってみるが、全く開かない。
考えてみれば僕達は店主さんが使うのを見ただけで、どうやって使うのか説明を受けてなかった。
「バカッ! 人前で魔法を見せるな!!」
ルーシィさんは血相を変えて僕達の手を掴んでテーブルの下に隠すと、周囲を見回して何も起こらないことを確認する。
「今現在、魔法は世界中で禁止されてるって言っただろ」
「「ごめんなさい」」
と謝ると、フィールが「でも、魔法は元々生活の一部だったんですよね? 一体何のために?」とルーシィさんに問いかける。
「自分達だけで独占するためだよ」
「じゃあ、王国の奴らやっつければまた世界に魔法が戻ってくるかもな!」
笑いながら話すナツさんの言葉を聞いたルーシィさんは、音を立てて立ち上がる。
「なにバカなこと言ってんだよ!? 王国軍となんか戦えるわけねぇだろ!」
「だったら、何でついてきたんだ?」
「それは……王都までの道を教えてやろうと……戦うつもりなんて無かったんだ」
ルーシィさんは視線を逸らし、悲しげにそう言うが、ナツさんはそんなルーシィさんに「そっか、ありがとな!」と満面の笑みで言う。
言われたルーシィさんが顔を赤くし、悔しそうに唇を噛み締めた時、怒号が響いた。
「いたぞ!! あっちの出入口を封鎖しろ!」
声の発せられた方に目を向けると、武装した集団が僕達に迫っていた。
「妖精の尻尾の魔導士だな! そこを動くな!」
「王国軍!? もうばれたのか!?」
「よーし……早速手に入れた魔法で――」
ナツさんが懐から封炎剣を取り出すのを見てたルーシィさんが制止をかけるが、ナツさんは聞こえてないようで兵士達に向かって炎を射出する。
「テューズ! これどうやって使うんだっけ!?」
「分かんないよ!」
僕達が魔法を発動させるために箱を開こうと四苦八苦していると、ナツさんが炎を止める。
「へへへ……どうよ!――って盾!?」
炎が晴れ、見えた光景は透明なバリアを張っている無傷の兵士達の姿だった。
ナツさんはもう一度魔法を発動させようとするが、柄からは炎ではなく煙が発生し、不発に終わる。
「魔力は有限だって言っただろ! 全部の魔法に使用回数が決まってるんだ!」
「一回かよこれ!?」
「出力を考えれば100回位は使えたんだよ!!」
僕達が魔法を使えない事を確認した兵士達は、不敵な笑みを浮かべて僕達に迫ってくる。
「不味いよぉ!」
というハッピーの悲鳴を聞きながら水烈砲を捻り、力一杯に引っ張ると開いた。
隣のウェンディも同じく空烈砲が開いたが、さっき店主さんが見せてくれた時の出力とだいぶ違う。
「「あれ?」」
と僕達が疑問に思った刹那、水と風の竜巻が発生して僕達を呑み込む。
「お前ら何したぁぁ!?」
と言うナツさんの絶叫と共に、竜巻は遠くの民家に衝突して消え去った。
「いたたた……」
痛む体を起こして周りを見ると、みんなも体を起こし始める。
「なんとか助かった見たいね……」
シャルルは体にかかった塵を払いながら辺りを見回す。
「ここが誰も住んでいない家でよかったわね」
ここは家畜用の家だったようで生活用品などは一切なく、代わりにあるのは床いっぱいに敷き詰められた藁や、鍬だけだった。
「藁が敷いてあったのは幸運だった、全員怪我はねぇな?」
安否を確認するルーシィさんに無事を告げた時、外が騒がしくなってきた事に気づいた。
「王国軍が追ってきたのかな……」
ハッピーの不安を聞き、ルーシィさんは扉に空いた穴から外の様子を覗く。
「これじゃあ出れそうにないな……」
「不便だな……こっちの魔法」
封炎剣をいじりながら不満を漏らすナツさんに同意すると、フィールが「別の出入口は無いみたいですね」と報告してくれる。
「居たぞ! 妖精の尻尾だ!」
突然聞こえた声に全員の肩がビクッと跳ねる。
「離してよ!」
聞こえてきた聞き覚えのある声に、少しだけ扉を開けて様子を見る。
「お前はルーシィだな!」
「確かにルーシィだけど、何なの一体!」
兵士に捕まった不機嫌そうな表情のルーシィさんを見て、僕達の目が点になる。
「ルーシィ!?」
「私!?」
「痛いってば!」
兵士が掴む力を強めたのか、ルーシィさんの顔が苦痛に歪む。
「助けねぇと!」
ナツさんがエドルーシィさんの制止を振り切って飛び出した時、ルーシィさんが金色に輝く鍵を振りかざす。
「開け、天蝎宮の扉――!」
「ダメですルーシィさん!」
「こっちの世界じゃ魔法は使えないんです!」
と僕とウェンディが叫ぶが、ルーシィさんは鍵を降り下ろす。
「――スコーピオン!!」
「ウィーアー!!」
光と共に現れたスコーピオンさん。
魔法は使えないはずのルーシィさんが星霊魔法を使えたことに、全員が驚きを隠せずにいる。
「サンドバスター!」
スコーピオンさんが尻尾から砂嵐を巻き起こし、兵士達を撃退する。
「魔法……」
「なんで……?」
「オレっちこれからアクエリアスとデートなんで」
と告げて姿を消すスコーピオンさん。
ナツさんがルーシィさんに声をかけると、ルーシィさんがこっちに気づいて駆けてくる。
「みんな……会いたかったぁ!!」
「何がどうなってるんだ……」
「あい……」
笑みを浮かべ、手を大きく振りながら駆けてくるルーシィさんだが、エドルーシィの姿を見て動きが止め、少しの沈黙の後に驚愕の叫びを上げた。
「あたしぃぃ!?」
至らぬ点などあれば、言っていただけると嬉しいです。