GATE ~幻影 彼の空にて 斯く戦えり~(更新停止中) 作:べっけべけ
「バッカヤロォォォ!!」
場所は特地、航空自衛隊管轄区域の
午前6:00というまだ夜明けのすぐ後の時刻だった。
突然響き渡った怒声に驚き、野鳥達が慌てふためいて空へと羽ばたいていく。
「テメェらなんて事してくれてんだぁ!」
そう部下を怒鳴りつけるのは整備班班長、黒田准尉。
彼がワナワナと怒りに震える中、その視線の先には1機のF-4EJ改。
一見何処にも異常は見られないが、今ここでは事故が発生していた。
灰色の翼、黒い機首。いつもと変わらない姿に思えたが、実はその主翼の右翼端に異常が起きていた。
翼端の先端に設けられた黒い部分。J/ARP-6レーダー警戒アンテナの丸みを帯びている筈の先端はべっこりとひしゃげ、何かにぶつけたのは明らかだった。
「ちゃんと確認してねぇのか!?」
「まぁ、いけるかな~……と」
辿々しく答えるのは彼の部下の1人。
ヨレヨレの作業着の裾が彼の気だるさを代弁するかのように垂れ下がっていた。
「はぁ……で?コレどうするんだ?」
「とりあえずは代換え部品の要請ですかねー」
(よくもまぁぬけぬけと……)
あっけらかんとして言い放つ彼はいわば【お試し自衛官】。なんとなくで入り、なんとなくで辞めていく……意欲も技術も持っていないし持とうともしない、ただそこにいるだけになっているタイプの人間だった。
(何でよりによってコイツに機体の移動をさせたんだ……)
「たぶんこれ弁償になるぞ、お前」
「えー?んな事ある訳ないじゃないですかー」
ヘラヘラと笑い飛ばす彼の目には反省の色など一切見当たらず、ますます黒田准尉の脳内の血流が増すばかりだった。
(見た感じ……カバーだけか?なら2万円かそこらか)
反省しない目の前の若者に対し罪悪感というものを教えてやろうと考えていた彼はまだ知らない。
その後の点検では警戒装置のカバーのみならず、その内部の精密機器にも多少の破損が見られた事により、損傷の被害額が30万円に達するという事を。
そして最近ではやらかした際、部隊の予算から引くのではなく個人に被害額を全て背負わせる事例が増えてきている事を彼らはその後知るのだった。
「……って事があったらしい」
「あらまー……ついにやっちゃったかあの変な大卒の人」
場所は変わって難民キャンプの居酒屋。いつもの如く飲みニケーションをしていた俺達4人は一つのテーブルをそれぞれカーキ色やブラックのフライトジャケットを着て囲んでいた。
皆、肩には所属する部隊を表すワッペンが貼られている他、特地オリジナルのものやF-4EJ改乗りを表すものなどを各々好きに付けていた。
「すんませーん、マンガ串ひとつー」
「マンガじゃなくてマ・ヌガ、な。まぁどうせ俺達の発音じゃちゃんと伝わってるかもわからんが」
「通じるよ。たぶん、きっと、めいびー」
「適当だな」
「適当でいいんだよ」
瑞原からの指摘を受け流し、ジョッキに注がれた中身を胃に流す。
ビールではなく、たしか特地の家畜の乳だったはず。市販の牛乳ともまた違った味に俺はハマっていた。安いのに搾りたての生乳っぽいのだ。
「おいあんまり変なもん飲むなよ?」
そう警告を出すのは久里浜さん。彼がそう警告する理由は俺達の職種、戦闘機乗りにあった。
低気圧、高G、低G。過酷な環境が身体を襲ってくるわけだが、変に腹の中でガスを発生させるような物を飲み食いすると……機動中に内蔵が圧迫され、悶え苦しむのだ。
その為、この人は毎朝納豆を口にしているのは多くの人に知れ渡っている。
なんでもガスの発生を抑えるとかなんとか。
そしてこの人は滅多に酒類を口にしない事で有名である。別に下戸というわけでもないのだが、いつでも出撃できるようにという意識しているのと、あまり酒を好んで飲むわけでもないらしい。
(まぁ俺がビールの美味さがわからんのと同じなんだろうなぁ)
なんて自己完結をし、マンガ肉ことマ・ヌガ肉の串を口に頬張る。
少し脂が多めの濃い味が広がる。酒のつまみにはピッタリなのかもしれない味だ。
(やっぱ鹿とか熊の方も捨てがたいな)
個人的にはあの脂身の少ない赤身も魅力的だ。
周りを見渡せば客の大多数は陸上自衛官で、俺達の格好は現地民達から不思議に思われているようだった。
この間だってそうだ。
「なぁなぁ、おっちゃん達は【緑の人】じゃねーのか?」
ケモ耳を頭に生やした少年にそう問いかけられ、とりあえず彼らとは所属が違うとだけ答えたのは記憶に新しい。
海上自衛官に至ってはもはや絶滅危惧種レベルで見かけない。少し前にヘロヘロに疲れた佐官クラスの幹部がアルヌスでチラリと見た程度だ。
もっと東に行けば、
しかしそこまで船舶や潜水艦を持って行く手段が無いし、万が一放棄してきても大丈夫な船ってあるのだろうか。俺は機密満載のイージス艦ってイメージがあるのだが……。
「俺達は次の任務があるまで
酔いが回ってきたのか、頬をやや赤くした神子田隊長が口にする。
酔ってる筈なのにこの人はいつもの報告やら反省がちゃんとしている。普通なら支離滅裂な事を言うが、隊長は酔うと馬鹿みたいに固くなるのだ。
……まあクリボーのように暴れ回るのではない為こちらは大助かりなわけだが。
ちなみに、俺は酔うと速攻で寝るらしい。
顔が赤くなってきたかと思うと、突然操り人形の糸が切れたかのようにプツリと意識を失ったとの事。その後はただひたすらイビキをかいていたと親父に昔言われた。
寝たら最後、死体のように動かないのであまり飲み会で多く飲む事ができない……自力じゃ帰られないから。それなので基本的に俺はこうして牛乳かお茶、ジュースを飲んでいる。
「にしても今朝の
「ええ。もう数回繰り返したら郡本部とかから検閲が入るんでしょうね」
「だとしたらめんどくさいな。こっちにまで飛び火が掛かりそうだ」
世間とは思いのほか狭苦しいものだ。普通なら郡内での噂話が流れるが、
小さな離島と似たようなものだ。実際には、異界なのだが。
「あ、これ美味い」
「マジ?ちょっとくれ」
「イイっすよ」
そうして世間話をしつつ、箸を進める。
ここの居酒屋じゃあまりにも自衛官が来るとの事で、とうとう備え付きの箸が置かれるようになっていた。
「これじゃ飲み会ってかメシ会だな」
「ははっ確かに。でも実際酒より飯が良いです、自分」
久里浜さんが零すが、仕方が無い。何故なら俺達は酒よりもカツ丼とかに惹かれる輩なので、飲酒もほろ酔いかそこらにしておき残りの胃の容量は全て食べ物で埋める方だ。
「そういやこの世界って魚卵とか食うんすかね」
「魚卵かぁ……俺らの年齢じゃもう食えねぇな……」
「やっぱ血ですか?」
「ああ」
時折訪れる身体検査。その中の血液検査でよく引っかかるのが魚卵などコレステロールだのなんだのと検索結果の数値をスパーンと跳ねあげるものが含まれている為、特に高カロリーなものなどが大好きな人には辛いかもしれないが自分で制限を掛けなければいけない。
ただ、定年退職後に即効でイクラ丼を頬張っていた人を俺は一人知っている。だが再就職後の数年で腰のベルトの上に脂肪がドドンッと乗っかる体型になっていまっていたのだが。
「外国でもキャビアとかあるし十分可能性はあるだろ」
「陸さん達が炎龍討伐作戦の時に遭遇したっていう水棲の民族とかだったら知ってそうですね」
「なんだそれ、俺は聞いたことないぞ」
「いや、新しく友達になった陸の倉田って人が知り合いから送ってもらったっていう画像を貰ったんですよ」
そう言いつつスマホをポケットから取り出し、電源を付ける。すぐにホーム画面のギャラリーを開き、保存していた画像を隊長達に見せた。
「ほー……特地にゃこんな奴らも居るのか」
「こんなの初めて知ったぞ……」
隊長と久里浜さんが呟き、ほんの少し愚痴り出す。
「なんでこうも陸と空じゃ情報が伝達されないもんかねぇ」
「ホント。この前は特地の情報漏洩だとかでうちら全員の携帯の履歴を提出したってのにな」
変なところで情報が届かず、変なところで情報が漏れる。一般企業にも言える事だが、こうした情報規制だとかは未だに十分ではないので昔から自衛隊の問題となっている。
「そういや陸自の倉田とかは月刊ム〇に投稿したかったけど上に聞いたらダメだったって言ってましたね」
「まだ聞いてるだけいいじゃねえか。勝手にやるバカもいるだろうしよ」
最近はネット環境も整えられてきた為、掲示板や動画投稿サイトに色々投稿する者が居たのだ。
誰でも投稿できる環境にある為、保全隊などによるネットパトロールが現在強化中だった。
しかしいくらか情報は既に漏れており、74式戦車に施した改装や難民キャンプの様子などの画像は既に他者により保存され二度と消せない状況にあるらしい。
なお、それらの画像を安易に漏らした隊員は既に特定され、ボーナスをかなりの額減らされたと聞いている。
「お前らもちゃんと許可取れよ?」
「「あいあいさー」」
若い俺達コンビはそういった問題を起こさないか危惧される。まあ今回の問題がどれも若い隊員ばかりだった為仕方がないだろう。
「次に俺達が展開するのはいったいいつでしょうねー」
「んなもんしなくていい。
そう愚痴りつつそれぞれ飲食を進めていく。
それぞれ日本語に翻訳済みのメニューに目を通し、注文していった。
会計を現地通貨で済ませ、俺達は店の外に出ていた。
「タクシーがあればなぁ……」
相方の瑞原がふとこぼす。
時刻は22:25。特地勤務の自衛官は基本的に24:00までに門をくぐらなければならない。
「んじゃ、行きますか……」
誰かの呟きを合図に四人のシンデレラは歩き出す。
異世界の夜空に広がる星々はやけに輝いているような気がした。
さてこの小説……どこで終わらせましょうか(白目
個人的にはアニメに合わせようかなって思ってます