ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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大変遅くなりました!
申し訳ありません。
仕事の方が思った以上に多忙でして……
感想等ありがとうございます!
落ち着いて来たので更新再開出来ます!



case89 The night before the start of the war 〜開戦前夜〜

「こ…ここは?」

 

エスペランサは目を覚ました。

見覚えのある部屋だ。

蜘蛛の巣が張り、薄暗く埃っぽい天井。

間違い無い。

ここは……。

 

「ホグワーツの医務室か……」

 

医務室のベッドの上に寝かされていたエスペランサは起き上がろうとしたが、その瞬間に身体中を激痛が襲う。

 

「痛っ!」

 

見れば手も足も包帯でぐるぐる巻きだった。

何箇所か骨が折れているみたいだ。

 

「目が覚めたみたいだね」

 

隣のベッドから声がする。

見れば、隣のベッドにはネビルが寝かされていた。

彼も身体中ボロボロだ。

 

「何て様だ。だが、痛みがあるって事は生きてる証拠だな」

 

「僕も両足の骨が粉々になってたみたい。マダム・ポンフリーにしばらくは入院しろって言われちゃった」

 

エスペランサは記憶を辿る。

確か、コーマックとフナサカに助けられた筈だ。

ネビルも自分も生きているという事は戦闘に勝ったのかもしれない。

 

「そうだ。ハリー達はどうした?」

 

「みんな無事だったよ。ほら……」

 

ネビルが向かい側のベッドを指差す。

ハリー達がベッドの上で談笑していた。

 

「あ、エスペランサが目を覚ましたぜ?」

 

頭に包帯を巻いたロンが言う。

火傷の痕が少し残っている他に外傷は見られない。

 

エスペランサはベッドの脇に置かれた山のような菓子類に手を出した。

 

「この菓子は誰の差し入れだ?」

 

「あなたのお仲間が持ってきたのよ?他にもウイスキーとかワインとか煙草とかも差し入れられてたんだけど、マダム・ポンフリーが没収していったわ」

 

ハーマイオニーが呆れたように言った。

 

「そうか。あいつらが………」

 

エスペランサの危機に駆けつけた隊員達を指揮していたのは間違い無くセオドールだ。

何故、彼が急に心変わりを起こしたのかは分からない。

 

「見て。魔法省での出来事がもう新聞に載ってるわ」

 

ハーマイオニーが手に持っていた日刊予言者新聞を投げて寄越した。

エスペランサは新聞の一面に目を落とす。

見出しは「例のあの人復活する」だった。

 

『英国魔法大臣コーネリウス・ファッジは昨日の夜、「名前を呼んではいけないあの人」が復活し、再び活動を始めたことを発表した。記者会見で大臣は「遺憾ながら、例のあの人が生きて戻って来ました。私を含む何名かの職員が、魔法省内でその存在を確認したのです。詳細については現在調査中ですが、国民においては、十分に警戒すると共にパニックを起こさず、秩序ある行動をしてください」と、記者団に語った。また、アズカバンの吸魂鬼が、魔法省に引き続き雇用されることを忌避し、一斉蜂起したことも明らかになった。吸魂鬼は現在、例のあの人の支配下にあると専門家は見ている。魔法省は英国魔法界に緊急事態宣言を出すと共に、各家庭および個人の防衛に関する初歩的心得を作成中であり、一ヵ月以内に全魔法世帯に無料配布する予定だそうだ。例のあの人の復活を否定していた魔法省が突然、意見を180度変えたことに市民は困惑している』

 

「ヴォルデモートの復活はこれで周知の事実になったわけだな。良かったじゃねえかハリー。もう嘘吐き呼ばわりはされないみたいだ」

 

「そうだね……」

 

ハリーは静かに頷く。

やけに元気がないな、とエスペランサは思った。

シリウス・ブラックが戦死した事を引きずっているのだろう。

 

エスペランサは再び新聞に目を落とす。

 

『例のあの人と死喰い人が、魔法省に侵入したのは事実であり、細部は公表されていないが、闇祓いとの戦闘が行われたとみられている。何名かの死喰い人が死亡し、運び出されるところを目撃したという情報もあった。アルバス・ダンブルドア(ホグワーツ魔法魔術学校校長として復職、国際魔法使い連盟会員資格復活、ウィゼンガモット最高裁主席魔法戦士として復帰)からのコメントは、これまでのところまだ得られていない。この一年間、同氏は、例のあの人が死んだという大方の希望的観測を否定し、実は再び権力を握るべく仲間を集めている、と主張し続けていた。一方、「生き残った男の子」は―――』

 

新聞にはハリーを賞賛する記事が延々と書かれていた。

 

「手のひら返しが酷いな。ハリーが英雄扱いだ」

 

「ええ。一番ハリーを誹謗中傷したのは日刊予言者新聞だっていうのにね。クィブラーが載せたハリーのインタビュー記事まで載せてるわ」

 

見れば、「ハリー・ポッター独占インタビュー」という記事が記載されていた。

 

「パパが予言者新聞にクィブラーの記事を高値で売ったんだよ。お陰で夏休みはスウェーデンに旅行に行けるんだ」

 

ルーナがにっこりして言う。

 

「そうか。それは…良かったな」

 

エスペランサはそう言うと、痛む身体に鞭を打って、ベッドから立ち上がる。

 

「おいおい。ポンフリーはまだ寝てろって言ってたぜ?君とネビルは特に身体がヤバい状態になってたんだ」

 

「大丈夫だ。ロン。走れはしないが、歩ける。自主退院だ」

 

エスペランサはロン達の静止を振り切って医務室を後にした。

 

足はやはり思うように動いてくれない。

ベット脇に置かれていた小銃を杖の代わりにして、なんとか階段を降りる。

 

行く宛は考えていなかった。

だが、彼は自分の部隊の隊員に会いたかった。

 

あの地獄のような戦場から全員が生きて帰って来れたのは奇跡に等しい。

一歩間違えれば全滅していてもおかしくは無かった。

それを防いだのは、やはり、センチュリオンの隊員達だ。

 

彼らに一言お礼を言わなくてはならない。

 

そして、離脱しておきながらノコノコと戦場に現れて戦い始めた身勝手さに一喝するべきだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休日のホグワーツの中庭は生徒達で賑わっていた。

初夏の日差しの中、身体を焼く者がいたり、湖で泳ぐ者がいたり、箒で遊ぶ者もいた。

 

彼らは、銃を片手に歩いてくるエスペランサの姿を見ると、興味津々といった顔で見てくる。

どうやら、魔法省での一件は全生徒の知るところらしい。

 

つまるところ、エスペランサが死喰い人数人を殺害したのも生徒は薄々知っていた。

故に生徒達は彼を恐れた。

相手が死喰い人とはいえ、殺人をして顔色ひとつ変えていない人間は恐怖の対象である。

 

しかし、そんな彼に対して恐怖ではなく好意の感情を抱いて待ち続けていた者も居た。

 

「フローラ……」

 

湖畔に佇んでいた一人の少女に気付いたエスペランサは思わず声を出す。

金色に輝く髪を風になびかせながら、フローラ・カローが立っていた。

 

エスペランサの姿を見たフローラは思わず駆け寄ってくる。

そして、彼の身体に体当たりし、胸に顔を埋めた。

 

「……痛っ。一応、まだ骨が折れたままなんだぞ」

 

フローラの華奢な身体を支えながらエスペランサは言う。

彼は彼で、フローラの事を一人の女性として見てしまっている自分に戸惑っていた。

金木犀に似た匂いが鼻をつく。

その匂いがフローラのものである事に気付くのに少し時間がかかった。

 

「自業自得……です。止めたにも関わらず……また勝手に、無謀な戦いを挑んで……」

 

彼女の声は震えていた。

 

「それは、悪いと思ってる」

 

「嘘です……。悪いとなんて思っていませんよね?何の躊躇いもなくあなたは魔法省に向かったのですから。あなたに死んで欲しくない人だって居るんです。私は……あなたを失いたくなかったんです」

 

「俺を失いたく無い……か」

 

誰も失いたく無いという一心で戦ってきたエスペランサ。

だが、他人から失いたく無いと思われているとは考えてもみなかった。

 

「そうです。だから、あなたがもう戦えないように工作をしました。あなたに死んで欲しくないから……。戦って欲しくないから……。止めても無駄な事なんて分かりきっていたのに……」

 

「当たり前だ。俺は仲間を奪われた"あの日"以来、戦い抜く事を決めているんだから。止まりゃしねえ」

 

フローラはエスペランサから離れ、俯いたまま話を続けた。

 

「最低ですよね……私。裏切って、孤立させて、それなのにあなたに当たり散らして……。私にはあなたの側に居る資格なんて無いんです」

 

「そうだな。そんな資格無いかもしれん」

 

「………ええ。そうですよ」

 

「だが……だったら、俺がフローラの側に居れば良い話だ。違うか?」

 

「え?」

 

フローラが顔を上げる。

 

「あの戦いの最中……。俺は死を覚悟した。中東で戦ってた時に俺の目の前で一人の仲間が戦死したんだが、彼は死に際に最愛の人の事を思い出していた。俺は……死を目の前にして、フローラの事を思い出した」

 

「それは………つまり、どういう?」

 

「珍しく察しが悪いな。俺は戦場では常に死を意識している。死ぬ事を恐れていては戦えないからな。だが、今回、初めて死にたくないと思った。もう一度、お前に会いたいと思ったから、死にたくないと思った。側に居たいと思った。そういうことだ」

 

フローラは目を丸くしたが、やがて弱々しく微笑んだ。

 

「本当にあなたは……戦闘以外の事は不器用ですね。それなら……私もあなたの側に居ます。放っておいたら…また勝手に一人で戦い始めそうですから」

 

彼女はそう言ってエスペランサの手を握る。

 

「もう、この手は離しません。二度とあなたを一人にしたりはしません。ずっと、これからもあなたの隣で戦い続けます。私の家も、闇の魔法使いも、あなたと一緒なら倒せる気がします。もう、恐れたりしません」

 

「ああ。共に戦おう」

 

エスペランサもフローラの手を強く握り返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マダム・ポンフリーにかかれば骨折程度の怪我、1日で治せるらしい。

エスペランサは一晩医務室で入院した後、すぐに回復して退院した。

M733を背負い、医務室を後にする。

 

医務室を出ると、そこにはセオドールが待ち構えていた。

 

「副隊長………」

 

「こうやって話すのは…久々だな」

 

バツの悪そうな顔をしながらセオドールが口を開いた。

 

「ああ」

 

「先に言っておく。僕は、魔法省で戦闘に参加する事に終始反対の立場を取っていた。戦闘への介入は不本意だ。その意見は今も変わらん。結果的にヴォルデモートを撃退することは出来たが、それは運が良かっただけだ」

 

「そう、だろうな」

 

一度は銃を向けあった二人。

しかし、エスペランサはセオドールを恨みきれなかったし、セオドールはエスペランサを見捨てきれなかった。

二人の信頼関係は結局、離反前から変わっていない。

 

「だが、こうなった以上、もう戦闘を止めることは出来ない。だから、僕は戦う………。いや、違うな。これは本心じゃない。というか、何を言っても君を納得させる言い訳は思いつかないだろうな」

 

「副隊長?」

 

「僕が……いや、"俺"が今回、戦闘に参加した理由は……俺もセンチュリオンの隊員だからだ」

 

「理論家の副隊長にしてはやけに抽象的な理由だ」

 

「"俺"もそう思う。だが、これ以上の言葉は思いつかん。一度、失った信頼を取り戻せるとも思わん。しかし、もう一度、センチュリオンの隊員として世界を救う機会があるのなら………」

 

「分かっている。俺にはお前が必要だ。悪いが、最後まで付き合ってもらうぞ?」

 

エスペランサは右手を差し出した。

セオドールはその手を取る。

 

「任せろ。最後まで共に戦う。それに、俺以外の隊員も同じ気持ちらしい」

 

セオドールが後ろを指差す。

いつの間にかセンチュリオンの隊員達が整列していた。

 

「お前ら………」

 

コーマック、フナサカ、チョウ、ダフネ、ザビニ、アーニー、アンソニー………。

センチュリオンの隊員全員が戦闘服に身を包んで、整列していた。

 

セオドールは一歩下がり、そして敬礼をする。

 

「セオドール・ノット以下17名。再び、隊長の指揮下に入ります!」

 

他の16名の隊員も敬礼をした。

エスペランサは答礼をする。

 

「諸君らの復帰を歓迎する」

 

彼は隊員達を見渡した。

 

「当面の目標はヴォルデモート勢力の殲滅だ。連中は明日明後日にも魔法界に宣戦布告をするだろう。そして、その事はマグル界にも伝わる。英国軍は魔法界を制圧する準備をし始める筈だ。だが、我々はマグルが介入してくる前に奴らを叩く。厳しい戦いになるぞ?それでも、付いてくるか?」

 

隊員達は何も言わない。

だが、彼らの目をみれば分かった。

彼らの目は戦士の目だ。

 

戦う覚悟を全員が決めていた。

 

幾多の戦場を経て精強になった隊員達はもう迷わないだろう。

 

センチュリオンは今、ここに復活した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また1年が過ぎた」

 

学年末パーティーはいつものようにダンブルドアの一言から始まった。

大広間の長机にはやはりご馳走が並び、ゴーストが勢揃いしていた。

 

しかし、生徒達の顔は暗い。

当たり前だ。

ヴォルデモートの復活が真実だったのだから。

薄々とヴォルデモート復活を信じつつあった生徒達ではあるが、やはりショックは大きかったのだ。

 

「まずは寮対抗杯の結果から発表しようかの。今年の優勝はスリザリンじゃ。スリザリンおめでとう」

 

スリザリンは尋問官親衛隊の横暴もあって圧倒的な点数差で優勝した。

スリザリンの生徒達は歓声を上げたが、その声もあまり元気とは言えなかった。

死喰い人やヴォルデモート支持者の親を持つ生徒達はダンブルドアと敵対関係にある。

その複雑な立ち位置と心境から祝福のムードにはなれていない。

 

また、いつもなら歓声を上げるマルフォイ達は親がアズカバンに投獄されている現状で喜べる筈もなかった。

特にクラッブとゴイルの父親はエスペランサの銃撃によって重傷を負っていて、聖マンゴの病床を動けない。

5.56ミリ弾によって破壊された神経は魔法を使っても修復困難なのだそうだ。

 

「皆ももう知っているとは思うが、ヴォルデモートは復活した。じゃが、わしが居る限り、ホグワーツは安全じゃ。ホグワーツでは助けを求めた者にそれが与えられる。この危機を乗り越える為にも……全員が協力し合うのじゃ」

 

生徒達は黙って聞いていたが、チラチラとダンブルドアの横を見ていた。

 

ダンブルドアは職員席の前に立っていたのだが、その横には戦闘服姿のセンチュリオンの隊員18名が整列していたからだ。

 

「うむ。皆も気になっているじゃろうし、そろそろ、演台をミスター・ルックウッドに譲ろうかの」

 

ダンブルドアはエスペランサに演台を譲った。

 

「エスペランサ・ルックウッドだ。少しだけ俺に話をする時間をくれ」

 

突然喋り始めたエスペランサに生徒達はざわつく。

 

「俺はこのホグワーツで生徒主体の軍隊を作った。その名をセンチュリオンという。目的は、魔法界だけでなくマグル界を含めた世界平和の実現だ。魔法と近代兵器を駆使して、あらゆるこの世の悪を排除する。それが我々の任務だ。我々の存在は校則に違反していたが、先日、校長が全てを認めてくれた。つまるところ、校内での武器携行や使用の許可だ」

 

これに関しては一悶着あった。

噛みつきフリスビーですら校則違反になるホグワーツだ。

武器の使用や戦闘が簡単に許可される筈もない。

 

「世界平和の実現を目指す我々にとって、ヴォルデモートの存在はハッキリ言って邪魔だ。故に、我々はヴォルデモート並びに闇の勢力に対して宣戦布告をした。それが、先日の魔法省での戦いだ」

 

「無理だろそんなの!」

 

「死喰い人や例のあの人にお前達が勝てる筈がない!」

 

「だいたい、ホグワーツでお前らは何をしようとしてるんだ!」

 

生徒達が批判する。

彼らのほとんどは監督生だった。

 

「我々は先日の戦いに参加した死喰い人の半数以上を戦闘不能にし、ヴォルデモートを撃退した。また、昨年はクラウチJr.との戦闘に勝利し、その前は吸魂鬼約100体を殲滅している。これが我々センチュリオンの力だ。闇の勢力と渡り合うことも不可能ではない」

 

いよいよセンチュリオンの戦力を公にする時が来た。

吸魂鬼をも倒す戦力。

その開示をリコメンドしたのはセオドールだ。

 

「嘘だ!」

 

「そんな事出来るはず無い」

 

「茶番も良い加減にしろ」

 

観衆は相変わらずヤジを飛ばす。

しかし、エスペランサはそれらを無視して言葉を続けた。

 

「魔法省の公式記録を見ればわかる。一昨年、ホグワーツを警備していた吸魂鬼の存在が抹消されている筈だ。それは我々が消し去ったからに他ならん」

 

ざわめきが消える。

数百の吸魂鬼が忽然と消えた噂は誰しもが耳にしていた。

 

「さて、本題だ。我々センチュリオンはヴォルデモート勢力と全面的に戦闘を行う予定だ。無論、ダンブルドア、魔法省と共同戦線ではある。もし、ここに居る諸君らの中に我々と共に戦いたいという者が居るのであれば、我々は歓迎する」

ではある。もし、ここに居る諸君らの中に我々と共に戦いたいという者が居るのであれば、我々は歓迎する」

 

エスペランサはセオドールに目配せをした。

今度はエスペランサの代わりにセオドールが演台に立つ。

 

「今、隊長からあった通り、我々は戦力になる隊員を募集している。寮、学年、性別問わず、入隊希望者は申し出てくれ。ただし、入隊は学科や体力試験を突破することが条件だ。そして、闇陣営のスパイが入隊する事を防ぐために、真実薬を用いた面接も実施する」

 

センチュリオンは人数が足りない。

その為、ここ1年間、リクルートに向けて準備をしてきてはいた。

だが、ヴォルデモートの復活が公になった以上、もう公募をして人数を集めるしかない。

 

生徒達は案の定、困惑した。

 

戦闘組織をホグワーツ内で作るという事だけでも驚愕だが、まさか公募までするとは誰も思っていなかったからである。

 

そもそも、教師がそれを許す筈もないだろう。

しかし、教師陣はセオドールの公募を止めなかった。

エスペランサとセオドールは既に教師陣からセンチュリオンの活動と公募の許可を取っていたからである。

 

「これ以上ここで議論をするつもりはない。我々はヴォルデモート勢力を殲滅する為に戦闘を行う。加入したい者は申し出て欲しい。話は以上だ」

 

そう言い残してエスペランサとセオドールは壇上から降りた。

 

昨日まで仮初ではあるが、平和な日々を謳歌していた生徒達は不安と不満を露わにしている。

彼らにとって戦争とは過去の世界、もしくは遠い世界の出来事と思っていた。

だから、急にヴォルデモートと戦争をすると公言したセンチュリオンと、それを許した教師陣を身勝手だと思ったのだ。

戦争になれば自分たちの命も危なくなるかもしれない。

生徒達のヘイトは教師陣やエスペランサに向けられる。

 

「やはり、こうなったな。平和ボケしている生徒達に我々の戦闘行為が肯定される筈がない」

 

非難を受けながらセオドールはエスペランサに言う。

教師陣は生徒達を静めようとしていたが、もはや収拾がつかなくなっていた。

 

「民主主義の国はどこだってそうさ。戦争を肯定し続ける国の方が異常なんだ」

 

「異常……か。外敵から国民を守ることを否定する国家も異常だろう」

 

「そんな異常な状態の国だからこそ、ヴォルデモートの暴挙を許してしまった。平和というのは古来より戦争の果てに作られてきた物だ。ヴォルデモートとの戦争に勝たない限り、平和は訪れない」

 

「ホグワーツ生は歴史に疎いからな。そんな事を理解している奴は一握りしかいないだろう」

 

「そうだな。やはりビンズ先生はクビにするべきなのかもしれんぞ」

 

エスペランサは冗談混じりに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は1日前まで遡る。

 

「どういうつもりなんですか!?」

 

奇跡的に復活したマグゴナガルが叫ぶ。

 

場所はホグワーツの職員室。

ダンブルドアを含めた全教職員とセンチュリオンの一部隊員が集まっていた。

センチュリオン側からはエスペランサとセオドール、それに各責任者が4名参加している。

 

「生徒達だけで戦闘組織を作り、例のあの人と戦闘をするなんて、許可出来ません!」

 

マグゴナガルが言う。

 

エスペランサ達は今まで必要の部屋で戦闘組織を作り活動して来たこと等を全て教師陣に打ち明けた。

理由は単純。

ヴォルデモートとの戦闘を公にする為である。

 

ヴォルデモートの存在が公になり、魔法省での戦闘がスクープされた今、センチュリオンの存在を隠匿する必要はなくなっていた。

 

「ルックウッド達の行いは校則に違反していますな。これは然るべき措置が必要でしょう」

 

「私もそう思いますぞ」

 

ねっとりとスネイプが言い、フリットウィックが同意した。

 

「戦時下になったというのに校則なんて言ってる場合ではないでしょう?」

 

セオドールが呆れる。

 

「お前達はホグワーツの生徒に過ぎんのだ。戦闘に参加するのは闇祓いや我々騎士団等のプロに任せておけば良い。半人前の魔法使いが居ても足手纏いになる」

 

「スネイプ教授。それは認識が違う。闇祓いや騎士団より我々の方が戦闘に特化している。我々の火力は貴方達が思っている以上に強力だ。こと対人戦闘に関して言えばマグルの方が遥かに研究も進んでいる。正直な話、闇祓いとて、合衆国軍に比べれば素人同然だ」

 

「ミスター・ノット。あなたは戦争がどういうものなのかを知らないのです。私は生徒を危険な目に遭わせるわけにはいきません。確かに、ルックウッドは多少なりとも戦闘に秀でている面はあります。それは、私どもも認めるところです。しかし、だからといって私は彼を再び戦場に送る真似はしたくありません」

 

「それも認識が違います。マグゴナガル先生。少なくともエスペランサ・ルックウッドはここの教師陣よりも遥かに戦争に詳しい。所詮は決闘の延長線上にある魔法使いの戦争よりも、もっと過酷なマグルの戦場を経験した彼にその理屈は通用しません」

 

セオドールが反論した。

 

「ルックウッドは私の寮生です。彼を戦場に送るわけにはいかないのです」

 

「では、騎士団だけでヴォルデモート勢力に勝てますか?この1年を見ていたらそうは思えない。騎士団にはもう抑止の力は無い。だいたい、魔法省の戦いにおける騎士団や闇祓いの戦果よりも、センチュリオンの戦果の方が大きかったでしょう?」

 

魔法省の戦いで死喰い人の多くが投獄された。

それはエスペランサとネビルが戦闘不能にしたおかげである。

闇祓いや騎士団は敵の殺傷を躊躇し、終始、失神光線しか使っていない(ムーディを除く)。

 

「まあ先生方が学徒出陣に反対なのは理解出来ます。というより反対しない教師なんて居ないでしょう。そんな状況になってたらいよいよ魔法界も終わりだ」

 

エスペランサが口を挟む。

元々、彼は教師陣を説得出来るとは思っていなかった。

 

「当たり前です。私達は親御さんから大切な子供を預かっている身なんです。生徒を戦場に向かわせるなんて以ての外です」

 

「だが、先生。この戦いは我々、いや、俺がおっ始めた物なんです。そのケジメは俺が付けないといけない」

 

「そんな理屈は通用しません」

 

「何と言われようと我々が戦闘行為を止める事はありません。ついでに言えば、校則や魔法界の法律で"マグルの武器を使う軍隊を組織する"事を禁じるものは存在しません。現行法では我々は合法的存在です。それにヴォルデモート勢力との戦闘を"防衛"と解釈すれば、敵の殺傷も合法になる。違いますか」

 

アンブリッジが居た時は非合法だったセンチュリオンだが、その効力が無い現在は合法である。

 

また、魔法界では銃刀法も無い。

護身のための戦闘は合法とされている。

それに、マグル界ではとうに禁止された決闘が魔法界では合法なのだ。

 

センチュリオンの活動を停止させる根拠が実は存在しない。

一応、吸魂鬼の殲滅に関しては魔法省の所有物を破壊した扱いになり犯罪となるのだが、現在、吸魂鬼はアズカバンを放棄したので無効である。

 

「詭弁です。そもそも未成年の魔法使いがホグワーツ以外で魔法を使用する事は禁止されています。あなた達がホグワーツの外で戦う事は不可能です」

 

「自身の生命に危険が迫った時には魔法の使用が許可されます。それに、隊員の半数以上はもうじき成人になる。ホグワーツ外での戦闘は十分可能だ」

 

「ふむ。これ以上議論しても無駄じゃろう。止めようと思えば無理矢理にでもエスペランサを止める事は出来るじゃろうが、果たしてそれは魔法界の利益になるとも思えん。だからといってわしは生徒を第一線に送りたいとも思えんのじゃ」

 

「校長!」

 

「そうじゃのう。エスペランサのセンチュリオンをホグワーツの常設軍という扱いにしてはどうじゃ?わしとお主らは利害が一致しておるし、ホグワーツで活動するのならそっちの方が何かと都合が良いじゃろう」

 

「それは、つまり……。我々がダンブルドア先生の指揮下に入るという事ですか?」

 

エスペランサの後ろにいたザビニが不満そうに言う。

センチュリオンの最高指揮官はエスペランサであり、そして独立した武装組織だ。

他の勢力の下に入るのは癪である。

 

「如何にもそうじゃ」

 

「その場合、我々にとってメリットはありますか?」

 

「まず、必要の部屋をはじめとした校内施設の使用を全面的に許可しよう。それから、煙突飛行ネットワークの使用もじゃな。それに、騎士団や闇祓いとの連携も可能にする。共同訓練も可能にしよう」

 

「どうする?隊長?」

 

「確かに、騎士団や闇祓いと連携が取れれば、作戦に幅が出来る。我々も人員と情報が不足しているから、これはメリットだ。だが、上手い話には裏がある」

 

「無論じゃ。わしの指揮下に入るとなれば、戦闘を行う際にわしの許可が必要となるし、わしの要請する作戦には有無を言わず参加してもらう事になる」

 

「それでは我々の戦闘行動を制限するようなものだ」

 

セオドールが憤慨した。

 

「左様。君達を出動させるかどうかは、わしが決める。じゃが、心配せんでも良い。君達の戦力はわしも認めるところじゃ。吸魂鬼を倒すことの出来る組織は英国内では今のところ君達だけじゃしのう。吸魂鬼や闇の生物が暴れれば、君達を出動させる事は約束する」

 

「もし、断ると言ったら?」

 

「ホグワーツ内での火器使用の禁止、必要の部屋の使用制限をする。忘れてはならんが、この校内ではわしの命令は絶対じゃ」

 

「なるほど。拒否権は無いに等しいという事か………。やはり、校長は教師というより政治家の方が向いている」

 

ダンブルドアはセンチュリオンの行動を制限しようとしているのでは無い。

十中八九、利用しようとしている。

マグゴナガルやスネイプは気付いていなかったが、エスペランサとセオドールは確信していた。

 

優しさも捨て切れないが、野心も捨て切れない。

それがダンブルドアだ。

 

「副隊長。及第点だ。我々は対ヴォルデモート戦においてダンブルドアの指揮下に入り、ホグワーツの常設軍となる」

 

「そうだな。仕方あるまい。他に選択肢も無いようだし……。しかし、校長、我々からも幾つか条件は出させてもらう」

 

「なんじゃろうか?」

 

「一つ、先程言ったように、ホグワーツ内での火器使用及び、部隊運用の全面的な許可をしてもらう」

 

「門限を破らなければ許可しよう」

 

「二つ、必要の部屋の管理を我々にさせて欲しい。また、保全上、必要の部屋には常に当直員を立直させ、当該隊員には門限の免除をさせる」

 

「まあ、良いじゃろう」

 

「三つ、煙突飛行ネットワークの使用と闇祓いとの通信を確保させて欲しい」

 

「キングズリーに頼んでおくとしよう」

 

「四つ、騎士団が入手した情報を我々にも共有して欲しい」

 

「センチュリオンの入手した情報を開示するのなら許可する」

 

「これが最後です。五つ、ホグワーツの生徒から今後、隊員を公募する事を許可して欲しい」

 

「………選考方法は?」

 

「筆記と体力試験、それから精神判定。さらに面接だ。面接に際してはスパイ防止のために真実薬を投与したい」

 

「言っておくが、我輩はお前達に真実薬を供給しないぞ?」

 

スネイプが言う。

 

「必要ありません。真実薬ならフローラが調合出来る。現に真実薬は量産体制にあります」

 

「いつの間に………」

 

エスペランサも知らない話だった。

彼は横に立つフローラを見る。

 

「OWL試験期間中です」

 

「OWL期間中だって!?いや、それはまあ良い。新規隊員の獲得を認めてもらわなければ……。我々も人手不足が深刻なんでね」

 

「よかろう。ただし、入隊試験にはわしも立ち会う」

 

「立ち会いか……まあ、問題はないでしょう。しかし、忘れないで頂きたい。我々センチュリオンはホグワーツ常設軍として一時的にダンブルドア校長の指揮系統内に入るものの、立場は対等であり、戦闘中の指揮は部隊の長、つまり、俺が執ることになります。また、我々は決してホグワーツを守る部隊では無いことを忘れないで頂きたい」

 

「ホグワーツを守ることと、君たちの理念は一致しているのではないのかね?」

 

「一致していません。ホグワーツの生徒、職員の中に敵対勢力の人間が居れば、我々は容赦なく排除する。我々は決してホグワーツを守るのでは無い」

 

「そうか。しかし、君は少し重荷を背負いすぎるようにも感じる。ホグワーツでは助けを求める者に救いが与えられる。君も助けを求めて救われる事が出来るのじゃよ?」

 

「ホグワーツでは助けを求めたものが救われる、か。なるほど、誰も助けようとは思わない。助けを求めるばかりで誰も誰かを救おうとは思わない。先生、我々は助ける側に回ろうとしただけだ。その為に我々は杖では無く銃を手にしたに過ぎない」

 

それがエスペランサ、いや、センチュリオンの本音であった。

 

 

 

 

 




感想等ありがとうございます!
更新頑張ります!

まあ、今回からセンチュリオン隊員の一人称が全て"僕"から"俺"に変わります。
これはずっと前から構想していたもので、やっと隊員達が生徒から軍人になった事を表しています。

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