ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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case88 Lord Voldemort vs Centurion 〜ヴォルデモートvsセンチュリオン〜

「何だ!?この煙は!」

 

アエーシェマの声が白煙のなかから聞こえる。

 

エントランスホールが白い煙に包まれていた。

 

「発煙弾………」

 

30センチ前すら見えない視界の中でエスペランサは呟く。

この白煙は間違い無く発煙弾だ。

 

そして、発煙弾を魔法界で使う組織は一つしかない。

 

「隊長!無事か!?」

 

白煙の向こうから戦闘服に身を包んだ隊員が2人、エスペランサの横に走ってくる。

コーマックとフナサカだ。

二人とも頭に赤外線暗視ゴーグルをつけ、小銃で武装している。

 

「お前ら……何しに来たんだ?」

 

「決まってるだろ。救援だ。フナサカ、副隊長に連絡しろ」

 

「了解。コントローラー、こちらクルーザー。ハウンドとスナイパーを確保。これより離脱する。支援射撃を要請する。送れ」

 

『コントローラー了解した。これより作戦の第二段階へ移行する。終わり』

 

フナサカは背負っていた軍用無線機AN/PRC-152のレシーバーを掴み、通信を開始した。

 

「一人で戦争おっぱじめやがって……。こんな楽しいパーティーなら誘えってんだ」

 

コーマックは笑いながらエスペランサに肩を貸す。

フナサカはネビルを担ぎ上げていた。

 

「よく言うぜ……。頼みがある。視界が悪くて見えないが、その辺にハリーも倒れている筈だ。助けてやってくれ」

 

「任せとけ、俺達が助けてやる」

 

「すまない。助かった………」

 

身体が限界に達していたエスペランサの意識はそこで途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これも……マグルの武器なのか?」

 

アエーシェマは新たな攻撃に驚いていた。

いや、それよりもエスペランサの仲間がまだ居たことに驚いていた。

 

彼はフローラに「エスペランサを孤立させろ」という指示を出していた。

そして、その思惑通り、エスペランサの組織が分裂した事も確認している。

 

 

「アエーシェマ!これは一体、何だ?」

 

白煙の中からヴォルデモートの声が聞こえる。

 

「我が君!恐らくはルックウッドの仲間の仕業です。この煙は魔法で作られたものではありません」

 

「何!?ルックウッドは部下を掌握出来ていないのではなかったのか?ルックウッドの組織は分裂したのだろう?」

 

「その筈でした……。しかし、奴は何らかの手段で仲間を呼び寄せたようです」

 

アエーシェマは冷静さを取り戻す。

新たな敵の数と戦力を把握するのが先決だ。

 

彼は魔法で風を起こし、発煙弾による白煙を消し飛ばす。

視界が良くなり、エントランスホールが見渡せるようになった。

 

「!?」

 

十数名の隊員が小銃や機関銃、果ては対戦車榴弾をアエーシェマとヴォルデモートに向けているのが見える。

魔法省というマグル禁制の場所に相応しくない光景だ。

 

「間違い無い。奴らはエスペランサ・ルックウッドの作り出した軍隊だ。やはり、奴は全員を掌握したのか」

 

アエーシェマは舌打ちをしつつ、杖を構える。

エスペランサ一人なら脅威にはならなかったが、彼の組織が相手となれば話は別だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法省のエントランスホールに突入した後、即座に発煙弾の発射を指示したのはセオドールだった。

 

発煙弾を使用したのは、ヴォルデモートとアエーシェマに連携を一時的に断絶させる必要があった為だ。

発煙弾によって視界を遮られれば、同士討ちを避ける為に無闇に魔法を使えなくなる。

広範囲を破壊するような強力な魔法なら尚更だ。

 

セオドールが恐れていたのは大規模な攻撃魔法だった。

いくら近代兵器で武装しているとは言え、ヴォルデモートやアエーシェマの使う闇の魔術の方が火力は上だ。

正面から戦えば不利である。

だから、敵の"目"を潰す必要があった。

 

敵が大規模な魔法を使えないうちにエスペランサ達を救出すれば作戦は成功。

あとは敵を牽制しつつ、ホグワーツまで撤退すれば良い。

 

「隊長達は救出した。1分隊は対戦車榴弾で敵を牽制しろ!」

 

コーマック達がエスペランサやネビルを救出して戻ってきたのを確認したセオドールは、隊員に攻撃命令を下す。

 

計5発の対戦車榴弾(パンツァーファウストⅢ)が発射され、ヴォルデモートとアエーシェマに襲いかかった。

 

ドイツのダイナマイト・ノーベル社が開発した携帯型対戦車榴弾であるパンツァーファウストⅢは発射時の反動を抑える為に、後方へカウンターマスという錘を撃ち出すようになっている。

この為、センチュリオンの隊員達は横一列に陣形を組み、榴弾発射時に被害を受けないようにしていた。

 

アエーシェマは盾の呪文を展開して対戦車榴弾の爆発から身を守る。

 

「LAMが全て防がれたぞ!?」

 

「想定内だ。間髪入れずに第2射を撃て」

 

「了解!次弾発射急げ!」

 

再び、5発のパンツァーファウストⅢが発射された。

無論、その5発も防がれてしまう。

 

対戦車榴弾が魔法であっさり防がれてもセオドールは動じなかった。

ヴォルデモートクラスの魔法使いであれば、容易く身を守るだろうと彼は予想していたからだ。

だが、計10発の対戦車榴弾の爆発で、ヴォルデモートとアエーシェマの周りは黒煙につつまれ、再び視界が悪くなっている。

それがセオドールの狙いだ。

 

「敵の視界を奪い、大規模な魔法を使えなくすれば、それで良い」

 

「だが、榴弾の残弾も無限では無い。それに、いつまでも敵が大規模魔術を控えてくれる訳じゃないだろう?そろそろ一斉射撃をして敵を制圧すべきでは?」

 

小銃を構えたアーニーが不安げに言う。

だが、セオドールは表情一つ変えなかった。

 

「まだだ。今攻撃したところで全て防がれるのがオチだ」

 

「しかし、副隊長!ヴォルデモート達が反撃してきたら我々だって無事では済まないぞ!?」

 

「そんなことは百も承知。センチュリオンの火力だけでヴォルデモートを倒せると思うほど僕は楽観的じゃない」

 

「じゃあどうやって………」

 

「来た!」

 

コツコツコツと後方から足音がする。

アーニーを始めとしたセンチュリオンの隊員達が振り向くと、そこには……。

 

「ダ、ダンブルドア校長!?」

 

アルバス・ダンブルドアが居た。

 

「久しいのう。ミスター・ノット。状況が良く分からんのじゃが、後でゆっくりと説明してくれるじゃろうな」

 

「ええ。勿論です。ただし、それは生きて帰れたらの話ですが」

 

「それもそうじゃ。それならここは共同戦線を張るということでどうじゃ?」

 

「よろしくお願いします」

 

横一列に並んだセンチュリオンの隊列にダンブルドアが加わる。

 

魔法界最強クラスの助っ人の参戦にセンチュリオンの士気は上がった。

 

「副隊長はこれを狙っていたのか」

 

意識を失っていたエスペランサ達を物陰に避難させていたコーマックが呟く。

 

セオドールはセンチュリオンの戦力ではヴォルデモートは勿論、アエーシェマにも勝てないと踏んでいた。

故に作戦目標は「エスペランサ及びネビルの救出」に絞る。

決して、「ヴォルデモートの殺害」という実現不可能な目標は立てなかった。

 

しかし、エスペランサとネビルを救出する過程でアエーシェマやヴォルデモートと戦闘になった場合、味方の損失を出さずに撤退する事は困難である。

 

そこでセオドールは既に不死鳥の騎士団の面々には魔法省で戦闘が開始された情報が伝わっている事を思い出した。

不死鳥の騎士団に情報が伝わっているなら、当然、ダンブルドアにも情報は伝わる筈。

それならば、必ずダンブルドアは魔法省に現れるだろう。

 

ダンブルドアが現れるまでの間、持ち堪えれば良い。

その為の発煙弾であり、そして、対戦車榴弾だった。

 

「総員、射撃用意」

 

ダンブルドアが杖を構えるのと同時に、隊員達は小銃、もしくは機関銃を構える。

セレクトレバーは全て連射に合わせてある。

 

アエーシェマとヴォルデモートもダンブルドアの存在に気付いた。

 

「トム。今夜ここに現れたのは間違いじゃったようだな。間もなく、闇払いがここに来ておぬしを拘束するじゃろう」

 

「闇払いが何人来ても俺様は負けん。そして、ダンブルドア!貴様を殺す!」

 

ヴォルデモートは杖から悪霊の炎を出現させる。

桁違いの出力で出現した悪霊の炎は蛇の姿に形を変え、ダンブルドアと隊員達に襲いかかった。

ダンブルドアは杖から金色に光る盾を出現させて、攻撃を防ぐ。

炎で出来た蛇と金色の盾が空中で衝突し、空気を揺らした。

 

「副隊長!射撃用意よし!」

 

「了解した。撃ち方始め」

 

「撃ち方始め!」

 

この機を逃すまいとセオドールは射撃命令を出す。

15名の隊員がM733とM249による射撃を開始した。

マズルフラッシュと共に無数の銃弾が射出され、ヴォルデモートとアエーシェマを襲う。

 

セオドールも自身の持つ小銃を構え、伏せ撃ちの姿勢で射撃を開始する。

 

「雑魚の相手は私一人で十分だ!プロテゴ・リフレクション」

 

アエーシェマが降り注ぐ5.56ミリNATO弾を弾き返した。

かつてスネイプがエスペランサとの戦闘で見せた攻撃を反射する防御魔法だ。

 

5.56ミリ弾は見事に反射され、逆にセンチュリオンの隊員達に襲いかかった。

 

「副隊長!」

 

「これも想定内だ。コーマック、フナサカ!迎撃しろ」

 

「「 プロテゴ・マキシマ! 」」

 

透明なシールドが展開され、最大級の盾の魔法が発動する。

その隙に何人かの隊員は弾倉を新しいものに入れ替えた。

 

「弾幕を切らすな!敵の動きを封じ続けろ」

 

ダンブルドアはニワトコの杖というチートアイテムを持っているにも関わらず、ヴォルデモートを圧倒出来ていなかった。

ダンブルドアが高齢により弱体化していたというのもあるが、ヴォルデモートが強過ぎたのだ。

 

単純な戦闘力で言えば、ヴォルデモートはダンブルドアを上回る。

センチュリオンが小火器によってアエーシェマを抑えつけていなければ敗北していたかもしれない。

 

ヴォルデモートは付近に散乱していた瓦礫を全て宙に浮かび上がらせると、それを高速で射出した。

ダンブルドアはギリギリのところでそれらを防ぐ。

 

「このままではジリ貧か。アンソニー。スタン・グレネードを投擲しろ」

 

「了解!スタン・グレネードだ!総員、目を瞑れ」

 

セオドールの指示でスタン・グレネードが投擲される。

爆音と光が炸裂し、アエーシェマとヴォルデモートの視覚と聴覚を奪い去った。

ダンブルドアはエスペランサの戦闘を知っていたため、スタン・グレネードの被害を防ぐ事が出来た。

 

「クソっ!目眩しか!?」

 

アエーシェマは視覚と聴覚を奪われ、一瞬、防御の手を緩めてしまう。

その隙をセオドールは見逃さなかった。

 

「火力をアエーシェマに集中してダンブルドアを援護せよ!」

 

隊員達はありったけの弾丸を撃ち込む。

防御呪文の途切れた僅かな隙間に5.56ミリ弾が入り込み、アエーシェマの右腕を貫いた。

 

耐え難い激痛が彼を襲う。

 

「ぐあっ!?く、なかなかやるじゃないか……。流石に、この場は不利だな」

 

5.56ミリ弾が貫通した事で右腕は使い物にならない。

これ以上の戦闘継続は不可能と判断したアエーシェマは後退を開始した。

 

「アエーシェマが後退するぞ!この機を逃すな。持てる全火力を使ってヴォルデモートを制圧する!フナサカ、ミニガン用意」

 

「了解!エレクト・テーレム・リミット・ミニガン」

 

フナサカが後方に温存しておいたミニガンに向かって呪文を唱える。

自動で武器を起動させる魔法だ。

バッテリーが自動で接続され、初弾も装填される。

 

そして、ブウウウウウンという音と共に無数の7.62ミリ弾が射出された。

 

ダンブルドアを僅かに圧倒していたヴォルデモートはミニガンの攻撃に怯んだ。

毎分3000発という規格外のキルマシーンの攻撃を防ぎつつ、ダンブルドアと戦闘を行うのは、いくらヴォルデモートでも不可能である。

ダンブルドアとセンチュリオンの共同戦線はヴォルデモートの戦力を上回った。

 

ヴォルデモートも馬鹿では無い。

冷静に戦力を分析して、自分の方が不利である事を悟っていた。

 

小銃、機関銃から撃ち込まれる5.56ミリ弾。

ミニガンから撃ち込まれる7.62ミリ弾。

そして、ダンブルドアの魔法攻撃。

これらを同時に防ぐ事はヴォルデモートにも不可能だ。

 

「これ以上の継戦は無謀か……。ここは一旦、退いてやろう。だが、俺様は必ずや貴様らを殺し、魔法界を奪いに戻って来る!それまで、精々恐怖に震えているが良い」

 

そう言い残してヴォルデモートは姿を眩ませた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴォルデモートの姿が消えたのをダンブルドアと隊員達は確認した。

恐らく、姿くらましを使用したのだろう。

 

「ヴォルデモートは撤退した。総員、撃ち方待て」

 

隊員達は射撃を中止する。

セオドールは額に流れる汗を拭き、深く息を吐いた。

なんとかヴォルデモートを撃退した。

しかし、状況はまだ終わった訳では無い。

 

「戦闘員は被害と残弾を確認せよ。衛生、それから遊撃班は負傷者をホグワーツまで移送。まだ神秘部に死喰い人の残党が残っている筈だ。警戒を怠るな。準備が出来次第、残党を殲滅しに行く」

 

セオドールは一通りの指示を出し、自身の装備を点検した。

必要の部屋からかなりの弾薬を運び出したが、それでも、半数以上を消費している。

 

「後方に新手!」

 

隊員の一人が叫ぶ。

 

装具の点検をしていた他の隊員達は一斉に後方へ銃を向けた。

 

エントランスホールの両脇に備えられた暖炉が次々とエメラルド色に燃え、続々と魔法使いが現れる。

そのほとんどは魔法省の職員だ。

 

「魔法省の職員達だ。銃口を下げろ」

 

セオドールの指示で隊員は銃を下ろす。

 

「だ…大臣!私は見ました!あの人が……例のあの人があそこに!」

 

「ああ。ああ!私も見た!あろう事か……この魔法省で!いや、それよりも…混乱して何が何だか。君達は一体何者なんだ?」

 

いつの間にか現れていたコーネリウス・ファッジがセンチュリオンとダンブルドアを交互に見て言う。

魔法省にヴォルデモートが現れたことも、ダンブルドアがこの場にいる事も、そして、得体の知れない武装組織がいる事も、ファッジにとっては信じ難かった。

 

困惑するファッジを尻目にして隊員達が残弾と被害の報告をセオドールにする。

 

「1、2分隊共に負傷者無し。隊長とネビルはポッターと共に搬送中。武器弾薬は5.56ミリ弾が約3000発。対戦車榴弾とミニガンは残弾無し。その他、手榴弾と各種爆薬には若干の余裕があります」

 

「了解した。これより、1、2分隊合同で神秘部へ前進する。目的は死喰い人の残党を殲滅する事、並びに、ダンブルドア軍団の救出だ」

 

「待て!待つんだ!君はノット家の息子だな?ここで、何があったんだ!」

 

ファッジがセオドールに詰め寄る。

 

「大臣。時間が惜しいので端的に言う。我々はダンブルドアと共にヴォルデモートと戦闘を行ない、結果としてヴォルデモートを撃退した。だが、死喰い人の残党が神秘部に残っているので後始末に行く」

 

「ミスター・ノット。それには及ばんよ。死喰い人の残りはわしとキングズリーとで捕縛した。無論、何人かには逃げられてしもうたがな。ミス・グレンジャーやミスター・ウィーズリーは闇払いが救出した」

 

ダンブルドアが横から口を挟む。

ダンブルドアはセンチュリオンの救援に来る前に、神秘部の死喰い人を片っ端から捕獲していた。

ただし、ドロホフやオーガスタス・ルックウッドをはじめとする何名かには逃げられていたが。

 

「そう…ですか。出来れば残党は全滅させておきたかったが。まあ、高望みは出来ない。味方の損害をゼロに出来ただけでも良しとしなければ」

 

「そうじゃのう。ミスター・ノット。君は実に良く戦った。ここに居る他の生徒もじゃが、君は優れた統率力を発揮して冷静に部下を動かしていた」

 

ダンブルドアはセンチュリオンの隊員を見渡す。

 

寮も学年も性別もバラバラ。

しかし、見事に統率され、精強な顔立ちが並んでいる。

 

「買い被り過ぎです。我々を一つにまとめ上げたのはエスペランサ・ルックウッドです。自分は、彼の代役に過ぎない」

 

「そうとも言えるし、違うとも言える。恐らく、君がいなければ、この組織の力は半分も出せていないじゃろう。まあ、ホグワーツ内で秘密裏に武装組織を作っていた件は後で聞くとして、まずは、良くやったと褒めるべきかのう」

 

「褒められるような働きはしていません。我々はまだ、勝利した訳ではありませんから」

 

そう。

本日の戦闘は勝利ではない。

 

ヴォルデモートもアエーシェマも仕留められず、多くの死喰い人に逃げられた。

 

結果的にセンチュリオンがしたのは……。

 

「宣戦布告……だけだ」

 

セオドールは呟く。

 

センチュリオンはヴォルデモート勢力に正面から宣戦布告をした。

彼が最も避けたいと思っていた事であるが、してしまったものは仕方が無い。

 

ならば、この戦争に勝利する方法を考えるまでだ。

 

「ダンブルドア!あなたは……、いや、ここで何が起きたのか説明…してくれるんだろうな?」

 

ファッジが目を泳がせつつ言う。

 

「もちろんじゃ。君に今夜、わしの時間を30分だけやろう。30分あれば全てを説明出来る。この一年、大臣が如何に間違えた事をしていたのかも分かるじゃろう」

 

「…………」

 

「それから、君はドローレス・アンブリッジを解雇し、ハグリッドの追放を止めなければならん。それをしない限り、わしは何も話さん」

 

「しかし……それは、あー、良いだろう。その通りにしよう」

 

ファッジは項垂れて、それ以上は何も言わなかった。

この一年、自分がしてきた行いが間違いであった事をもう受け入れるしか無かったからだ。

 

「副隊長。我々は………?」

 

「我々はホグワーツに帰投する。どうやら、ダンブルドア校長が残党狩りをしてくれたみたいだからな。今後の事は……隊長が復帰してから決めないといけない」

 

「大丈夫さ。副隊長!我々はヴォルデモートを撃退出来たんだ!ダンブルドアと共同戦線を張れば向かうところ敵無しさ」

 

アーニーが陽気に言い、他の隊員達も笑う。

ヴォルデモートを撃退出来たという事実が彼等を自信付けていた。

しかし、セオドールは堅い表情を崩さなかった。

 

「言っておくが、我々は勝った訳では無い。これから地獄の様な戦いが始まるんだ。そして、それを始めたのは我々だ。我々、センチュリオンが戦争を始めたんだ。もう後戻りは出来ない。勝つか、負けるか、生きるか、死ぬか。退路は無いんだ」

 

これは始まりに過ぎない。

ヴォルデモートの復活は魔法界中に広まるだろう。

何せ、魔法省がその復活を認めたのだから。

 

もう、ヴォルデモートは自身の存在を隠匿する必要が無くなった。

であるならば、近いうちに魔法界に対して宣戦布告をしてくる。

 

攻撃を仕掛けてくるのも時間の問題だ。

戦火は英国中に広まり、やがて、センチュリオンとの全面戦争になるだろう。

騎士団や闇払い、果てはマグルの軍隊まで巻き込み、壮絶な戦いが繰り広げられるに違いない。

 

「そう。我々の戦いは今、始まったんだ」

 

セオドールは自分に言い聞かせるようにそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

逃げ切った死喰い人達は地下に潜っていた。

 

ドロホフは7.62ミリ弾にやられた右腕を魔法で治癒しながら、生き残りに目をやる。

逃げ切ったのはベラトリックスとルックウッド、それにアエーシェマのみ。

ルシウス達は全員、ダンブルドアに拘束されてしまっていた。

 

「クソっ。なんて様だ。あんなガキに苦戦するなんて……」

 

ベラトリックスが悪態を吐く。

 

「ベラ。あのエスペランサという奴は俺達以上に実戦経験があるみたいだ。ガキだからといって油断は出来ん」

 

今回出動した死喰い人は手練ればかり。

それを壊滅させたのはエスペランサの功績だ。

死喰い人側が油断していたのもあるが、エスペランサの活躍は目覚ましかった。

 

「ルックウッドは単体では然程脅威では無い。だが、奴が自分の部下を掌握していたのは驚いた」

 

「どういう意味さ?」

 

「私は娘のフローラにルックウッドを孤立させる工作をするように指示をしていたんだが、まあ、裏切られたようだな。これはまた折檻の必要があるか?」

 

「相変わらず汚ねえ手を使う野郎だ。しかし、どうする?正直、連中は騎士団より厄介だ。あんな武器見たこともねえ。おい、マグルってのはあんな武器を使ってんのか?」

 

ドロホフは信じられないと言わんばかりだ。

 

「ああ。連中が使う武器は紛れもなくマグルの武器だ。それも、オーソドックスな物ばかり。人を殺す武器の開発に関してはマグルの右に出る者は居ない」

 

マグルを見下していたベラトリックスはその言葉を否定したかった。

だが、マグルの武器によって苦しめられたのもまた事実。

 

「今後は……戦い方を考えないといけねえな。そう言えば、オーガスタス。お前、あのエスペランサという餓鬼とはどういう関係なんだ?姓が同じだろう?」

 

「……………」

 

「黙秘する気か?神秘部の無言者様はここでも無口なのか」

 

ドロホフが皮肉混じりに言うが、オーガスタスは何も言わなかった。

 

そんな時だった。

バーンという音と共に、ヴォルデモートが姿現しで戻ってきた。

 

「我が君………」

 

「我が君!申し訳ございません!予言も、ポッターも取り逃してしまいました。それに、参加した死喰い人の半数以上が戦死、もしくは投獄されました」

 

ベラトリックスが真っ先にヴォルデモートの足元に跪く。

他の死喰い人もそれに倣った。

 

「確かにお前達の任務は失敗に終わった。だが、俺様はお前達を責めはしない。任務の失敗は大方、ルシウスの所為だ。生き残ったお前達は最後まで俺様の為に戦った優秀な部下だ」

 

「有り難き幸せ」

 

珍しくヴォルデモートは部下を褒めた。

期待以上の働きをしたアエーシェマやドロホフにヴォルデモートは満足していたし、並ならぬ忠誠心を持つベラトリックスを罰する必要はないと彼は考えていた。

 

「捕まった死喰い人達はすぐにでも救い出す。吸魂鬼は既に俺様の手中だ。近日中にアズカバンを襲撃する。その指揮はアエーシェマ、お前に任そう」

 

「喜んで引き受けます」

 

「予言については、残念だが諦めるとする。ルシウスに期待した俺様が愚かだった。それに、もう少し強力な杖が無ければ敵を圧倒する事も出来ん」

 

ヴォルデモートは苛立ちながら言う。

予言の確保に失敗したのは痛手だった。

 

それに加えて彼は自分の杖に不満を抱きつつある。

杖自体の性能は申し分無い。

しかし、昨年、ハリーとの戦闘で引き分けた事や今回の戦闘結果から、より強力な杖が欲しいと思うようになったのだ。

 

「ドロホフ。オリバンダーを拉致しろ。俺様には奴が必要だ」

 

「承知しました。戦力が整い次第、実行に移します」

 

「うむ。俺様の姿は魔法省職員や大臣にも見られた。近日中に闇の帝王の復活は周知の事実になるだろう。ならば、もうコソコソ活動する必要も無い」

 

ヴォルデモートは部下を見渡す。

 

「俺様は魔法界に宣戦布告をする。手始めにアズカバンの襲撃だ。それから、巨人も呼び戻し、手当たり次第に町を襲撃させる。マクネアが戦死したのは痛手だが、何人か巨人と意思疎通が出来る連中が地下に潜っている筈だ。魔法界を恐怖のどん底に叩き落とし、俺様の時代を再び作る」

 




いよいよ開戦です!

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