ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

80 / 112
更新が1ヶ月以上も遅れました!
申し訳ありません!
久々の投稿です!
何卒本年もよろしくお願いします!


case76 Pact and hesitation 〜盟約と迷いと〜

4

 

アンブリッジの査察は軍隊における教育支援部隊の査察に比べれば甘っちょろい物だとエスペランサは思った。

 

アンブリッジは生徒や教師に質問するだけだが、軍の教育支援部隊は怒鳴るし手も出るし、追加訓練もやらせてくる。

 

センチュリオンの訓練から帰ってきた彼は暖炉の前で何やら真剣に話しているハリー達を見つけて話しかけた。

 

「よう。何話してるんだ?」

 

「やあ、エスペランサ。どこに行ってたんだい?」

 

「一服つけてきたのさ。あん?ハリー。その手はどうしたんだ?」

 

エスペランサはハリーが右手をマートラップをすり潰して作る薬品が入ったボウルに浸けているのを見た。

 

ハリーの手には"僕は嘘はついてはいけない"と生々しく刻まれ、血が滲んでいた。

 

 

「アンブリッジの罰則さ。僕はこの事をマグゴナガルに報告しろって言ってるんだけど、ハリーは聞かなくて」

 

ロンが答えた。

 

 

「随分と陰湿な罰則だな。軍隊とは大違いだ」

 

「あら。軍隊も罰則は陰湿なんじゃないの?」

 

「馬鹿言え。確かに軍隊ではミスをしたら殴られる。だが、それはミスをする事で仲間の命の危険が出るから、身体で覚えさせるためにやってるんだ。殴った後で分かるまで確実に教えるのが軍隊の指導ってもんだ」

 

軍隊の体罰を陰湿な物だと捉えるのは、所詮、軍隊での経験が無い一般市民たちなのだ。

少なくともエスペランサはそう考える。

 

次にミスしないよう身体で覚えさせる。

自分のミスが如何に危険なのかを覚えるために暴力が伴う指導を行う。

暴力は伴うが、当人が確実に覚えるまで諦めずに教える。

それが軍隊の指導というものだ。

 

国民の命を守り、時に危険を顧みずに職務に専念する軍隊だからこそ、このような指導をしているのだ。

 

それを軍隊の経験が無い一般市民や政治家に否定される事をエスペランサは嫌っていた。

 

塀の中は軍人のテリトリーなのだ。

干渉される筋合いは無い。

 

無論、時代と共に指導は変わっていくし、コードレッドが蔓延るようなことはあってはならない。

軍隊には問題のある軍人と指導が存在しているのもまた事実。

 

ここら辺が非常に難しいところなのだ。

 

 

「指導ってのは人それぞれだ。厳しい人もいれば、暴力を伴う人もいる。優しく教える人もいる。いずれも根底にあるのは部下を成長させるという思いは変わらない。だが、アンブリッジにはそれが無い。奴は指導者として失格だ。それを見抜けない魔法大臣も無能だな。軍隊なら即行で素行がバレて懲戒免職だぜ」

 

「エスペランサの言う通りだわ。アンブリッジは教師失格よ。何も教えてくれないもの。だから、私達が何とかするしか無い」

 

「何とかって何をするんだい?」

 

「そうね。私、考えたんだけど、闇の魔術に対する防衛術を自習するのはどうかしら」

 

「おいおい。これ以上僕らに勉強させようってのかい!勘弁してくれよ。まだ2週目なのにこんなに宿題が溜まってるんだぜ?それにクィデッチの練習もある」

 

ロンが羊皮紙の束を指さした。

 

ハリーもロンも宿題が溜まり過ぎている。

 

ちなみに、エスペランサは手書きを嫌って必要の部屋に置いてあるワープロと印刷機を活用していた。

引用する時は教科書をコピーして羊皮紙に糊で貼り付けたりしているので圧倒的に早く宿題を終わらせる事が出来る。

 

センチュリオンの隊員達が宿題に追われて訓練が出来ないということが無いように工夫しているのだ。

 

「エスペランサは宿題終わってるの?」

 

「もちのロンだ。ほれ」

 

エスペランサはA4のコピー用紙の束を談話室の隅から呼び寄せてロンに見せた。

 

「え?何これ。君が書いたんじゃないよな?」

 

「ワープロとコピー機を使った。手書きよりよっぽど早い」

 

「エスペランサ。あなた、ワープロなんてどこで手に入れたの?というかマグルの電子機器はここでは使えない筈よ?」

 

「電子機器は2年の時に使えるようにした。ワープロの入手経路は極秘。トップシークレット」

 

「うわぁ!僕もそのわーぷろってやつを使えばすぐに宿題終わらせられるかな?」

 

「無理だろうな。キーボードの入力に慣れてないと」

 

「あの、話を戻して良いかしら?」

 

ハーマイオニーが少しイライラして言う。

 

「悪い悪い続けてくれ」

 

「えー、オホン。私が考えるのは勉強会なんかじゃなく、ハリーが最初のアンブリッジの授業で言ったように、外の世界で待ち受けているものに対して準備をするのよ。それは、私たちが確実に自己防衛できるようにするということなの」

 

「でも僕らだけじゃ大した事は出来ないぜ?」

 

「そうね。私達に必要なのは闇の魔術に対する防衛術を学ばせてくれる先生よ」

 

ハーマイオニーの言葉にエスペランサは暫し考え込んだ。

彼女の思惑は理解出来るが、外からの脅威、つまりヴォルデモート勢力から自己を守る術を教えられる人は少ない。

 

教師陣ならダンブルドアやマグゴナガル、フリットウィックにスネイプあたりが該当しそうだが、アンブリッジの監視下で協力を得る事は出来なそうだ。

 

では、同じ生徒ならどうだろう。

 

センチュリオンの隊員は通常の戦闘訓練に加えて、魔法による戦闘能力もある程度は鍛えられている。

全員が最大の盾の呪文を行使する事だって可能だ。

 

「私はね、ハリー。あなたが先生になるべきだと思うわ」

 

ハーマイオニーが言った。

 

「え?僕?」

 

「そりゃ良いや!君なら最適だ!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ。何で僕なんだい?」

 

「それはね、ハリー。あなたが闇の魔術に対する防衛術で学年1位の成績を取っているからよ」

 

「そんな筈ないよ。少なくともハーマイオニーは僕よりも成績が上の筈だ」

 

「いいえ。そうでもないの。3年生の時、ルーピン先生の試験で間違いなくあなたは私よりも上の成績を取ったわ」

 

 

エスペランサは3年生の時の闇の魔術に対する防衛術の試験を思い出す。

確か魔法生物を倒しながら進む障害物走のようなものだった。

彼は勿論、マグルの武器を駆使して試験を突発した。

 

「でもね、ハリー。私が言いたいのは成績ではなく、あなたが今まで何をしてきたかって事なのよ。あなたは賢者の石を守り、バジリスクを倒し、吸魂鬼を追い払ったわ」

 

「それは違う!バジリスクを倒したのはエスペランサ、クィレルを倒したのもエスペランサだろう?吸魂鬼だってエスペランサが壊滅させたんじゃないか。僕よりもエスペランサの方が先生に向いてる」

 

ハリーはエスペランサを指差して捲し立てた。

 

「そうだな。バジリスクはプラスチック爆弾で吹き飛ばしたし、吸魂鬼はナパーム弾で消し炭にした。だが、ハーマイオニーが教わりたいのはC4の取り扱いでも、爆薬の仕掛け方でも無いんだろ?闇の魔術に対する防衛術を教わりたいんだ。それならハリーが適任かもしれん」

 

とは言いつつ、エスペランサは心の中でそうは思っていなかった。

 

ハリー相手ならマグルの武器を使わなくても勝てる自信が彼にはあったからだ。

 

それに、闇の魔術に対する防衛術の自習ごときで死喰い人やヴォルデモートから身を守る事が出来る筈も無い。

死喰い人になれないゴロツキは学生でも倒せるかもしれないが、死喰い人自体の能力は決して低く無いことをエスペランサは知っている。

 

例えば、セブルス・スネイプ。

 

彼は元死喰い人だ。

エスペランサは銃火器をフルに使用して戦った事があるが、残念ながら完敗している。

 

ハリー達の実力ではヴォルデモートの勢力に太刀打ち出来ない。

 

かと言ってエスペランサはハーマイオニーの企てを止める気も無かったが。

 

「ええそうね。ハリーが適任よ。それにエスペランサが顧問として戦い方を教えてくれたら完璧」

 

「は?俺も巻き込むのか?」

 

「勿論よ。クラウチJr.を倒したのはエスペランサでしょ?死喰い人との戦い方を熟知してる生徒は他に居ないわ」

 

クラウチJr.を倒す事が出来たのはセンチュリオンという組織をフルに活用したからだ。

エスペランサ個人の力では無い。

 

「悪いがお前達に俺の戦い方を教えたところで役に立つとは思えん。俺の戦い方はそもそもマグルの武器を使う前提の物だし、"防衛術"では無く先制攻撃を仕掛ける術がメインだ。それに、何より敵を殺傷する戦い方だぞ?」

 

エスペランサの言葉にハーマイオニーは口を閉じた。

 

エスペランサが専守防衛という考えに否定的なのは今に始まった事ではない。

彼は米軍出身。

攻撃こそ最大の防御であり、強力な軍事力の保有こそが身を守る最大の方法だと考えるのは当たり前だった。

 

エスペランサが教える防衛術というのは、"相手を圧倒出来る火力を常に保有して、場合によっては先制攻撃で叩く"というもの。

ハーマイオニーが考える"防衛術を学ぶ会"とは思想が相反する。

 

「ハーマイオニー。もし本当に死喰い人から身を守る術を教わりたいのなら、教えてやる。だがその時は杖だけじゃなく銃で武装して、敵を殺す覚悟を持ってもらわないといけない。戦場は学校で教わる呪文を使えば勝てるような甘い場所じゃないんだ」

 

「エスペランサの言う通りだ。死喰い人やヴォルデモートと戦うっていうのは、授業なんかとは訳が違う。ごっそり呪文を覚えて、投げつけたところで意味なんて無い。自分と死との間に、防いでくれるものなんか何にもない。自分の頭と気力で何とかするしか無いんだ。殺されるか、拷問されるか、友達が死ぬのを見せつけられるか、そんな中で、まともに考えなきゃいけないんだ。授業でそんなことを教えてくれたことはない。そんな状況にどう立ち向かうかなんて誰も教えちゃくれない。君たちは暢気なもんだよ。君たちはわかっちゃいない。紙一重で僕が殺られてたかもしれないんだ」

 

ハリーが機関銃のように喚き散らした。

エスペランサもハリーの意見に概ね同意している。

 

銃弾の飛び交う戦場でまともな思考は働かない。

だからこそ、日頃から訓練を重ねて、身体だけは無意識に正しく動かせるようにしておくのだ。

 

戦闘訓練というのは戦場で頭が真っ白になっても身体だけは動くようにするというものであり、ハーマイオニーが考えるような勉強会とは訳が違うのだ。

 

「二人が言いたい事は理解出来るわ。だから……だからこそ私達にはあなたが必要なの……私たち、知る必要があるの。ほ、本当はどういうことなのかって……あの人と戦うすことが……ヴォ、ヴォルデモートと戦う事がどういう事かって」

 

ハーマイオニーが初めてヴォルデモートという単語を口にした事に誰もが驚いた。

 

「ハーマイオニー。ヴォルデモートと戦う必要なんて無い。そういう役割は……」

 

「いいえ。だってハリーの両親も、他の人達もいきなりヴォ、ヴォルデモートに襲われたのよ?私達だっていつ襲われるか分からない。それなら、戦う術を身に付けるべきだわ!」

 

「それは、そうかもしれんが」

 

「ねえ。少しで良いから考えておいてね。私達に防衛術を教えるという件について」

 

ハーマイオニーはそれを言って、寝室に戻ってしまう。

 

残されたハリー、エスペランサ、ロンは互いに顔を見合わせた。

 

「僕はハーマイオニーが正しいと思う。僕らは危険から身を守る術を覚えるべきだ」

 

最初に口を開いたのはロンだった。

 

「そうかもしれん。自衛の為の手段を何も知らないまま卒業するのは、このご時世、あまりにも危険だからな……」

 

エスペランサも頷いた。

だからと言って、彼はハーマイオニー達に戦闘技術を学ばせようとは思わなかったが。

 

死喰い人との本格的な戦闘はセンチュリオンが担えば良いのだ。

血生臭い戦闘に、ハーマイオニーのような"敵を殺傷する事を否定しそうな"人間を巻き込んではいけない。

 

では、センチュリオンの隊員達は躊躇いなく敵を殺傷する事が出来るのだろうか。

その疑問に対する解答は戦ってみなければ分からないだろう。

 

エスペランサは形の無い不安を胸に抱いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

校庭で寝転がりながらエスペランサはハーマイオニーの提案を考えていた。

夏が終わり肌寒い気候となってきたが、彼は相変わらずローブを着ずに、OD色のTシャツに戦闘服という格好で過ごしている。

ホグワーツの制服はマグル界の学校の制服にローブを羽織るというものなのだが、エスペランサはあまりこの格好を好んでいない。

何年経っても軍人時代の格好の方が過ごしやすいのだ。

 

日差しに照らされて光る湖を眺めながらエスペランサは再び考え込む。

 

ハーマイオニーは闇の魔術に対する防衛術を学び、ヴォルデモート勢力から身を守る組織を作ろうとしていた。

 

目的は違うが、戦闘組織を作るという面ではエスペランサのやってきた事と同じ事をしようとしている。

 

だが、所詮は素人の集まりだ。

実戦経験のあるハリーと言えど、エスペランサには遥かに経験で劣る。

 

もし仮にヴォルデモート勢力との戦闘を想定するのであれば、センチュリオン並みの戦力を整えなければ歯が立たないだろう。

 

(いっそのことハーマイオニー達をセンチュリオンに入れれば問題は解決するのだが)

 

エスペランサがハリー達をセンチュリオンに入隊させようとしなかったのは彼らがエスペランサの考えに同意しないだろうと勝手に考えたからだ。

 

目的の為には敵の殺傷も厭わない。

 

センチュリオンの隊員達は恐らく、死喰い人を殺害する事に何の抵抗無いだろう。

だが、ハリー達はきっとそれを良しとはしない筈だ。

 

だから、エスペランサはハリー達を入隊させなかった。

逆に言えばセンチュリオンに勧誘した生徒達は敵を殺傷する事が出来るであろう人材だったわけだ。

 

「考え事ですか?」

 

寝転がっているエスペランサの元にフローラが近付いてきた。

フローラはエスペランサが昼休みや放課後にダラダラしているのを目敏く見つけて話しかけてくる事が多い。

大抵は業務連絡なのだが、ひょっとして発信機でもつけられてるのではないかと、疑った事もある。

 

「ん?ああ。まあな」

 

「私でよろしければ相談に乗りますよ?」

 

エスペランサの寝転がっている横にちょこんと腰を下ろしたフローラを見て、彼は話を切り出した。

 

「うーん。そうだな。フローラはセンチュリオンの初期メンバーを選出する時、何を考えて選出した?」

 

「え?そうですね。特出した能力を持っていたり、あなたの考えに同意しそうな思想を持っていたり、それから、時には冷酷になれるような精神を持っていたり。そういう素質のある生徒を選んでました」

 

「そうだよな。もし仮に、ハリー達3人をセンチュリオンに入れたらどうなると思う?」

 

「あの3人を入れたいのですか?」

 

「仮定の話だよ」

 

「成程。まず、ハリー・ポッターはセンチュリオンにとって悪影響しか与えないと思います。癇癪持ちですし、感情を優先して任務を放棄する事が容易に想像出来ます。ハーマイオニー・グレンジャーは上官に意見をし過ぎて任務を阻害しそうなので、こちらも駄目ですね。ウィーズリーは案外、良い人材かも知れません。彼は意外と監督生業務も真面目にこなしているので」

 

「へえ。ロンは真面目にやってるのか」

 

「スリザリンの監督生に比べたら大真面目ですよ。ドラコ・マルフォイやパンジー・パーキンソンが真面目にやってると思いますか?」

 

「思わない。何であの二人なんだろうな。それこそセオドールが監督生向きだろ」

 

「セオドールは監督生のオファーを断ったんですよ。知りませんでしたか?」

 

「え?そうなのか?」

 

「ええ。キャラじゃないんだそうです」

 

「キャラじゃないって……。というか監督生って断れたんだな」

 

「前代未聞でしょうね。スネイプ先生も慌てたみたいです」

 

確かにセオドールは監督生のPバッジをつけて下級生に指導をするようなキャラでは無い気もする。

 

「フローラはオファー来なかったのか?」

 

「私はスリザリンの中でも避けられている人なので……。監督生になっても人望は得られないでしょう」

 

「そうかな?パーキンソンよりはマシな気もするぞ」

 

「スリザリンの監督生人事は他の寮より難しいんですよ。家柄、血筋、人望、能力。これらのバランスを考えて無難な人材を監督生にしなくてはならないんです。私はカロー家の人間とは言え、養子に過ぎませんし、ついでに言えば、カロー家の人間はスリザリンの中では恐れられる類の人間なので人望もありません」

 

「実に前時代的だな。いや、マグル界も同じような所はある。そう言えば、何年か前にスリザリンの監督生をしていたジェマ・ファーレイって生徒はなかなかの人物だったが、あの手の生徒はもうスリザリンには居ないのか?」

 

「現状では居ませんね。今のスリザリンを統率出来る人なんていませんよ」

 

親が死喰い人、もしくは死喰い人にはなれないものの、ヴォルデモート派の生徒。

善良な生徒。

マグル生まれという少数派派閥。

純血主義だが反ヴォルデモートの平和主義者。

これらが入り乱れるスリザリンはもはや意志の統一など不可能な状態であった。

 

生徒の団結が最も強いとされるスリザリンも、ヴォルデモートの復活と魔法省の介入によって統率がとれなくなってしまったらしい。

 

もっとも、この裏にはセンチュリオンの隊員であるセオドール達がヴォルデモート派が一般生徒を取り込んで勢力を拡大させないように工作したという事実がある。

 

 

「スリザリンですら内部分裂してるのか。ホグワーツはこれからどうなっちまうんだろうな。ま、俺には関係ないか」

 

エスペランサは他人事のように呟く。

 

「他人事なんですね」

 

「まあな。結局のところ、ヴォルデモートを倒せば万事解決だ。ホグワーツがしっちゃかめっちゃになろうと、センチュリオンが存在すれば何の問題も無いんだ」

 

「そう……ですよね」

 

楽観的な彼の発言にフローラは少しだけ顔を曇らせた。

 

「さて、そろそろ次の授業が始まるから城に戻るとするか」

 

「あの!」

 

ホグワーツ城の中へ戻ろうとしたエスペランサをフローラが呼び止めた。

 

「えっと、その。今週末、空いてますか?」

 

「今週末って言うと、ホグズミートに出れる休暇か。まあ、俺は暇だ」

 

ホグズミート遠征に際し、エスペランサはホッグズヘッドで酒でも飲もうと考えていた。

要するに暇な訳である。

 

「あの、よろしければ、その。一緒に行きませんか?」

 

「え?」

 

「ダフネ達は急用が出来たらしいんです。だから、一緒に行く人が居ないので……」

 

「他にも誰か居るんじゃないのか?センチュリオンの女性隊員とか」

 

「駄目……でしょうか?」

 

「うっ」

 

やけにしおらしく、上目遣いで誘ってくるフローラにエスペランサは戸惑いを覚えた。

鼓動が早くなり、つい、彼女から目線を逸らす。

 

「まあ、俺も暇だしな。あ、午後からでも良いか?午前は野暮用があるんだ」

 

「はい!では、午後にお会いしましょう」

 

パッと顔が明るくなったフローラはエスペランサを追い越して足早に城へと戻っていく。

 

ここ数年でフローラの表情は豊かになった。

 

そして、エスペランサはそんな彼女と週末にホグズミードで過ごす事に高揚感を覚えていた。

 

(一体、この感情は何なのだろうか?)

 

彼にとって、フローラ・カローという人間は部下であり、仲間である。

それ以上でも以下でも無い筈だ。

 

だが、彼女に対する感情は仲間や部下や友人に対する物とはかなり違う気がしてならなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっとのことでやってきたホグズミード外出許可が出た週末。

本日はセンチュリオンの訓練も休みなので隊員達も足取り軽やかにホグズミード村に出かけている。

城の出口で手荷物検査を不機嫌そう行なっているフィルチに隊員たちは「土産買ってくるからクソ爆弾買ってきても見逃して下さい」とか声をかけていた。

 

エスペランサはと言えば、ハーマイオニーから「ホッグズヘッドっていう飲み屋に来て!絶対だから!」と一方的に予定を入れられてしまったのでホッグズ・ヘッドに向かった。

ハーマイオニーに呼ばれたのは彼だけではなく、ネビルやチョウといった隊員達も声をかけられているらしい。

 

そして、午後からはフローラと会う予定がある。

何とも忙しい一日だ、とエスペランサは思っていた。

 

ホッグズ・ヘッドの店主とエスペランサは顔馴染みである。

 

学生相手に酒を出す店はホッグズ・ヘッドしか無く、そして、ホグズミードで酒を飲む学生はエスペランサしか居ない。

 

いつもは一人で来るエスペランサだったが、今日はネビル、アーニー、ハンナ、スーザン、チョウ、アンソニーといった面々と共に来ていた。

理由は簡単。

彼らもまた前述の通り、ハーマイオニーに召集をかけられたからである。

 

「ご注文は?」

 

「俺はニコラシカ。ショットで頼みます。あと灰皿一つ」

 

「僕も同じので」

 

「僕はギムレット」

 

「私マティーニで」

 

「サイドカー」

 

「オリジナルのカクテルってないんですか?」

 

「あそこの棚にあるヴィンテージもののワインって売り物ですか?」

 

ぶっきらぼうに言うマスターにエスペランサ達は注文をした。

流石のマスターもこれには驚いたようで、必要以上に長く白い髭を弄りながら目を丸くする。

 

「あー。待ちな。そんなすぐには出せねえ。にしても最近の学生の風紀はどうなってるんだ」

 

ぶつぶつ言いながらもマスターは酒を用意し始める。

 

机も椅子も樽も埃を被ったり破損していたりするが、酒の入ったボトルだけは新品だ。

何故なら、それらのボトルは全てエスペランサが持ち込んだものだったからである。

 

「で、グレンジャーは何を企てているんだ?」

 

アンソニーがカウンターテーブルにくっついていた蜘蛛の巣をつまみあげ、不快そうな顔をして言う。

彼はセンチュリオンで内務を担当する事になっていたので、不衛生で整頓されていない店を快く思っていなそうだ。

 

そもそも魔法界はあまり衛生的でない。

 

ホグワーツ城にしてもあまり清掃されておらず、あちこち埃だらけだ。

ホグワーツの中で一番綺麗な場所はセンチュリオンの基地である。

 

エスペランサが隊員に整理整頓と清掃を厳にするよう呼び掛けているからだ。

 

 

「ハーマイオニーは闇の魔術に対する防衛術の自習クラブを作ろうとしてるらしいよ。ほら、アンブリッジがアレだから」

 

エスペランサの代わりにネビルが答える。

 

「良い試みだと思うけど正直、私たちには必要ないんじゃないの?」

 

「ああ。僕もそう思う。グレンジャーは確かに優秀だが、個人の戦闘力はセンチュリオンの隊員の足元にも及ばないだろう」

 

自信家のアーニーはそう言い切ったが、エスペランサとてそれを否定はしなかった。

ほぼ毎日訓練している隊員と、座学ばかりの一般生徒では戦闘力に差が出来すぎている。

 

「ほらよ!酒だ。学校にバレても知らんからな?」

 

マスターがグラスを雑に置く。

 

「私、あのマスターが誰かに似てるような気がするんだけど」

 

マスターが店の奥に引っ込んだ後で、チョウが囁く。

 

「僕もそう思う。誰だろう。何か見覚えがあるんだけど」

 

「そうだな。うーん。どことなくダンブルドアに似てるような気がする」

 

「あー。それだ!ダンブルドアに似てるんだ。目元とか」

 

隊員たちは合点がいったとばかりに盛り上がった。

 

「似てるかもしれないが、ダンブルドアとあのマスターじゃ月とスッポンだ。それに、噂だけど、あのマスターってヤギに恋愛感情を抱く変態らしいぜ?」

 

ホッグズ・ヘッドのマスターがヤギに興奮する異常性癖の持ち主という噂の話をしようとしたエスペランサであったが、ハーマイオニーとハリーが店に入って来たので、止めた。

 

日頃から下品な話をするエスペランサはハーマイオニーに一度、監督生権限で減点されているのだ。

 

ハリーは店に入ると、エスペランサ達を目敏く見つけた。

それと同時に驚いた様な顔をして、最終的には何故か顔を赤くした。

 

エスペランサはハリーの目線の先にチョウが居ることに気付いて納得した。

ハリーはチョウに好意を寄せている。

しかし、残念なことにチョウがハリーに気があるかと言えば、それは否であった。

彼女の目にはセドリックしか映っていないのだ。

過去もそして今も。

 

大切な人を失った傷はそう簡単に癒えるものではない。

 

その後、他の生徒たちも続々とホッグズヘッドに集まり始めた。

パチル姉妹にルーナ、グリフィンドールのチェイサー集団とクリービー兄弟。

マイケル・コーナーやテリー・ブート、ザカリアス・スミスの後に双子のウィーズリーとリー・ジョーダンがぞろぞろと入って来た。

 

よく見ればチョウの友人であるマリエッタ・エッジコムも居る。

渋々来たような面をしていた。

 

「偶々、一緒に居たから誘わざるを得なかったの」

 

チョウがエスペランサに囁いた。

 

やってきた生徒はエスペランサ達を含めて約30名。

員数ではセンチュリオンに勝る勢力だ。

 

人数分のバタービール(一部カクテル)を苛立ちと驚きの表情を顔に出したマスターが運び終えた後で、ハーマイオニーが演説を始めた。

生徒達はオンボロで埃の被っている椅子に座りつつ傾聴する。

 

「さて……えーと……さて、みなさん、なぜここに集まったかは分かっていると思いますが、えーと……ここにいるハリーの考えでは……」

 

ハリーが思いっきりハーマイオニーを睨みつけた。

 

「ごめんなさい。私の考えでは、いい考えだと思うんだけど、闇の魔術に対する防衛術を学びたい人が……つまり、アンブリッジが教えてるような座学ではなく、実践を含む勉強をしたい人は大勢居ると思います。あの授業は誰が見ても闇の魔術に対する防衛術とは言えません」

 

ちびちび酒を飲みつつアンソニーが「まあ、そうだろうな」と相槌を打った。

 

「それで、私はこの件は自分たちで自主的にやってはどうかと考えました。つまり、実践的な防衛術を自習するんです」

 

なるほど、という声がちらほらと上がる。

センチュリオンの隊員達は曖昧に顔を見合わせていたが、何人かはハーマイオニーの意見に同意したみたいである。

 

「でも、OWLも控えているし、そんな事を自習している暇なんてあるのかい?」

 

マイケル・コーナーが質問した。

 

「ええ。あります。何故なら、ヴォルデモートが戻ってきたからです!」

 

ハーマイオニーの突然のヴォルデモート発言に生徒の半数が悲鳴をあげたり、ひっくり返ったりした。

 

だが、センチュリオンの隊員達はヴォルデモートの名前を恐れなくなっていたので無反応だ。

ハリーはヴォルデモートという名に一切反応しないネビルやアンソニー、チョウ達に少し違和感を覚えていた。

 

「待て待て待て。例のあの人が戻ってきたかどうかなんて誰が信じてるんだ?少なくとも僕は信じられない」

 

「そりゃ、ダンブルドアが信じてるわ」

 

「それだって根拠のない話さ。僕らはあの夜、何が起きたか正確に知る権利があると思うけどね」

 

不快な発言だ、と思いエスペランサは声の持ち主を見た。

持ち主はザカリアス・スミスである。

 

「ちょっと待ちなさい。この会合の目的は……」

 

「構わないよ。ハーマイオニー。知りたいなら教えてやるさ。僕がなぜ、ヴォルデモートが戻ってきたと言うのかって?僕はやつを見たんだ。だけど、先学期ダンブルドアが、何が起きたのかを全校生に話した。それが全てだ。だから、君がそのときダンブルドアを信じなかったのなら、僕のことも信じないだろう。僕は誰かを信用させるために、午後一杯をむだにするつもりはない」

 

ハリーがまたも癇癪を起こしかける。

だが、ザカリアスも負けていない。

 

「ダンブルドアはセドリックが例のあの人に殺されたという事しか話していない。具体的にどうやって殺したかは誰も知らない。僕らはそれを知りたい」

 

「セドリックの殺され方を知りたいとは、なかなか残虐な性癖をお持ちのようだな」

 

今まで黙っていたエスペランサが口を開いた。

ニコラシカのショットはとっくに飲み干され(そもそもちびちび飲むような物でも無いが)、若干、顔が赤くなっている。

 

「何だよルックウッド。僕はただ……」

 

「セドリックがどう殺されたかは知らんが、そんなのを知って何になるってんだ?ああ、そうか。お前は人がどう殺されるのかを知って快楽を得る変態野郎って訳だ」

 

エスペランサの言葉にザカリアスは黙り込む。

エスペランサは溜息を吐いた後、2杯目の酒を注文するためにカウンター奥のボトルの並べられた棚を眺め始めた。

 

「ねえねえハリー。あなた、有体の守護霊を出せるって本当なの?」

 

不意に端に座っていたスーザンがハリーに声をかけた。

気まずくなった空気を変えるための行動なのだろうが、突然の質問にハリーは戸惑っている。

 

「え?まあ。君、マダム・ボーンズを知っているのかい?」

 

「私の叔母よ。尋問での事を話してくれたわ。じゃあ、本当に守護霊が出せるのね?」

 

「そりゃあ出せるよ。出せるから尋問されたんだしね」

 

ハリーの言葉に生徒達が歓声をあげる。

 

「すげえ!マジかよハリー」

 

「全然知らなかったぜ?」

 

「それに、校長室にあるグリフィンドールの剣でバジリスクを倒したんだろ?校長室に行った時に肖像画が話してくれたんだ」

 

テリー・ブートが興奮して言う。

 

「ええと、あれは……」

 

ハリーはチラリとエスペランサの方を見た。

バジリスクを無力化したのは間違いなくエスペランサだったからだ。

ハリーはどちらかと言えばトム・リドルを倒す事に一躍買った。

 

「それに一年生の時に賢者の石も守ったよね。僕の事を石にしてまで守りに行ったんだから良く覚えてるよ」

 

ネビルが言う。

 

「あー。それも少し違う……」

 

ハリーは再びエスペランサをチラリと見た。

 

クィレルと戦闘を繰り広げたのは紛れもなくエスペランサだった。

しかし、当の本人は現在、2杯目の酒を何にしようかと棚に並べられたボトルを眺めるのに夢中で話に加わる気配は無かった。

 

「それだけじゃないわ。ハリーは3校対抗試合でドラゴンや水魔を出し抜く実力もあるのよ?」

 

「え?」

 

「セドリックが褒めてたわ。ハリーはとても実力がある生徒だって」

 

チョウに褒められたのでハリーの顔はさらに赤くなっていた。

 

「僕、何も謙遜する訳じゃ無いけど、いつも助けられて生き延びてきたんだ。僕一人じゃ生き延びる事は出来なかった。何度かは自分の力で生き延びたかも知れないけど、奇跡みたいなものだった」

 

ハリーは全員を見つめる。

 

スミスは何か言いたそうだったが、エスペランサがいる前では言いたい事も言えない様子だった。

 

「ヴォルデモートが復活した以上、皆もいつ危険な目に遭うか分からない。ホグワーツだって安全じゃない。秘密の部屋が開かれた時は一般生徒が何人も襲われた。だから、僕ら一人一人が防衛術を学ぶ事には意義があると思う。そして、僕はまあ、君達より少しだけ防衛術を多く知ってるから教える事は出来ると思うんだ」

 

「ハリーもこう言ってるし、皆、ハリーから防衛術を学ぶ事に異存は無いかしら?」

 

ハーマイオニーの発言に生徒たちは頷いた。

 

「それじゃあ、集まる時間と場所を決めないとね。頻度はどれくらいが良いかしら?」

 

「クィデッチの練習があるから、それとは被らないようにさせてもらいたいな」

 

「ああ。僕たちもだ」

 

現クィデッチキャプテンのアンジェリーナや他の寮の選手が口々に唱える。

 

「そうね。都合の良い日程を見つけて連絡するわ。でも、勘違いしないで欲しいんだけど、この会合はとても大切なものなのよ?」

 

「その通りだ!これはとても大切な事だ!例えOWLが控えていたとしても。それに、何で魔法省はあんなアンブリッジみたいな奴をホグワーツに寄越してきたのか理解に苦しむ。まるで、僕らに防衛術を学ばせたく無いみたいじゃないか」

 

「それは、魔法省が、いえ、ファッジがダンブルドアが私的な軍団を持とうとしていると勝手に考えているからよ。権力に味を占めたファッジはダンブルドアが力を持つ事を恐れているわ」

 

今まで黙っていたのに、いきなりドヤ顔で発言しだしたマイケル・コーナーを怪訝そうな顔で見ながらハーマイオニーが回答した。

 

「いや、ファッジの考えはあながち間違いでも無いぜ?」

 

エスペランサが発言の機会を求めた。

 

「どういうこと?あなたはファッジが正しいと思っているの?」

 

「ファッジはあれでも魔法大臣という魔法界の治安を守る役目を担っている人間だからな。政府が公認していない武装組織が国内に出来る事に抵抗を感じるのは致し方無いだろう。逆にハーマイオニーに聞くが、英国マグル界の唯の学校で校長主導の武装組織が出来たら政府は必ず鎮圧しようとするだろう?」

 

「ええ。そうね。でも、その魔法省がヴォルデモートという脅威を認めていない以上、私達は自分の身を守る手段を身に付けないといけないわ」

 

ここでエスペランサとハーマイオニーの目的に大きな違いがあるのが分かった。

 

エスペランサは魔法省がヴォルデモートという脅威を認識しないのであれば、代わりにセンチュリオンを駆使してヴォルデモート勢力を殲滅しようと考える。

たが、ハーマイオニーはあくまでも自分たちの身を守る事のみに徹しようとしているのだ。

つまり、学生達だけではヴォルデモート勢力を殲滅する事は不可能であると理解している訳である。

 

 

「まあ、ハーマイオニーの意見は正しい。だが、身を護るっていうのは口で言うほど簡単じゃない。ましてや相手は手段を選ばない闇の魔法使い達だ」

 

「うん。そうだね。エスペランサの言う事は僕も良く分かる。クィレルと戦った時も、バジリスクと戦った時も、戦うという事がどれだけ大変で覚悟の必要な事か痛い程理解したよ」

 

ハリーも頷いた。

 

「だけど、ほとんどの生徒は戦う覚悟なんて無いと思う。だから、僕は戦う術では無く、防衛する術を教えたい。もう二度とセドリックのように友達が死ぬのを見たく無いから」

 

ハリーは友達が死ぬのを見たくない。

だから、皆に身を護る術を学ばせようとしているのだった。

 

「じゃあ決まりね。時間は後で調整するとして、問題は場所よね。どこが良いかしら?」

 

「図書館はどうだ?あそこならこの人数でも収まるだろう」

 

「いや、図書館だとマダム・ピンスが良い顔をしないぞ。叫びの屋敷ばどうだ?」

 

「暴れ柳のところまで行くのは手間だし、あそこはそんなに広くないだろ。空き教室はどうだろう」

 

「マグゴナガルが許可しないし、アンブリッジに見つかる可能性もある」

 

生徒達は口々に意見を言うが、良い案は結局、出てこなかった。

これ以上の議論は無駄と判断したハーマイオニーは会話を中断させ、代わりに鞄から何やら羊皮紙の様なものを取り出す。

 

「まあ良いわ。場所もどこか探しておきます。それで、皆にはこの羊皮紙にサインをして欲しいの。これはメンバーの名簿であると共に、アンブリッジに集会の事を密告しない宣誓書の様なものなんだけど」

 

「宣誓書?どういうことだ?ただの名簿じゃないってことか?」

 

「ええ。まあ、そうね。ここに名前を書いた人は決して裏切らないと誓った事になるわ」

 

「署名しないと活動には参加出来ないのか?」

 

「勿論そうよ」

 

それを聞いてセンチュリオンの隊員達は一瞬、エスペランサの方を見た。

センチュリオンという軍事組織に所属している以上、他組織に加入するには隊長であるエスペランサの許可が必要だと考えた為だ。

加えて、彼等は防衛術を学ぶ為だけの組織に加入する事にメリットを感じていない。

何せセンチュリオンでは魔法と現代兵器を駆使した実戦的訓練を毎日行なっているのだ。

 

ネビルやチョウはハリーから学ぶ事もあるだろうと考え、即座にサインを書こうとしたが、アンソニーやハンナ達はサインをしようとしなかった。

 

無論、エスペランサもだ。

 

「ハーマイオニー。この会合への加入に関しては少し考える時間をくれないか?」

 

「え?どうして?エスペランサなら入ってくれると思っていたのだけれど?」

 

「即座に入れと言われても、すぐには決められん。まあ、少し個人的な理由ではあるんだがな。他にも即断出来ない生徒は何人かいる」

 

エスペランサは後ろでサインをしようとしていない隊員達を指差して言った。

 

「でも、あなたも防衛術を学ぶ必要性は理解しているでしょう?」

 

「それは理解出来る。ハーマイオニーの考えを否定するつもりは無いし、組織に入らないと言っている訳じゃない。ただ、俺は考える時間をくれと言っているだけだ」

 

ほとんどの生徒がサインをし終え(ザカリアス・スミスも渋々サインをしていた)るのを横目で見ながらエスペランサはハーマイオニーを諭す。

彼は、この防衛術を学ぶ会合に参加するよりも、その時間をセンチュリオンの戦力増強に充てた方が有意義だと考えていたし、第一、隊長の自分が勝手に他組織に加盟するなど前代未聞だ。

参加するにしてもセオドール達に一言言う必要はあるだろう。

 

「何か事情があるのね?」

 

ハーマイオニーはエスペランサの後ろに控えるアンソニーやハンナ達を見た。

 

2年程前。

禁じられた森でエスペランサと共に何人もの生徒が吸魂鬼をナパーム弾で倒す光景をハーマイオニーは目撃している。

そして、朧げな記憶ではあるが、その生徒の中に彼等は居たのだ。

 

あの日以来、ハーマイオニーはエスペランサが陰で何をしているのかを追求する事はあまり無かった。

しかし、エスペランサが何らかの組織を作っている事は察していた。

 

急成長するネビルや、銃で武装するセドリック、寮の垣根を超えて深い絆で結ばれた生徒達。

 

「そうだ。少し事情がある。この件に関しては検討させてくれ」

 

「分かったわ。なるべく早く返事を頂戴。それから」

 

「アンブリッジには密告しない。そこは約束する」

 

「それなら安心ね」

 

ハーマイオニーは承知したようだが、ロンやハリーは納得していないようだった。

ハーマイオニーは何か言いたげな二人を宥めながら店を後にした。

 

他の生徒達もとっくに店を出ており、店の中にはエスペランサ以下センチュリオンの隊員達と元々居た何やら怪しげな客が2名、それにマスターのみとなった。

 

「現段階でハーマイオニーの企画した会合に参加しようと思っている奴は申し出てくれ」

 

エスペランサは残った隊員達に聞いた。

 

手を挙げたのはネビルとチョウ、それからスーザンだった。

 

アンソニーとアーニー、ハンナは挙げていない。

 

「おいおいネビル。お前は会合に参加する必要ないだろ。2年前なら兎も角、今じゃセンチュリオン有数の戦力になったお前がハリーに何か教わる必要があるのか?」

 

アーニーがネビルに聞く。

 

「あるよ。僕は銃の扱いには慣れたけど杖捌きはまだまだ練度が低いからね」

 

「杖捌きならセオドール達に教われば良いだろう?それにセンチュリオンでも定期的に魔法を使った戦闘訓練はしている」

 

「でもセンチュリオンでは守護霊の魔法の練習はしていないわよ?ハリーは守護霊が使えるし、守護霊の魔法を習得するには良いチャンスじゃないかしら」

 

スーザンが言う。

 

「僕らにはナパーム弾もポイズンバレットもある守護霊の呪文は必須な技能じゃない」

 

「いえ。そんな事もないわよ?禁じられた森で吸魂鬼と戦闘を行った時、遊撃班が守護霊の魔法を使えていれば、吸魂鬼をキルポイントに誘い込むのはもっと簡単だったはずでしょ?」

 

遊撃部隊が吸魂鬼誘導に苦労した経験を思い出しながらチョウが反論した。

 

「それに、ハリーはセドリックでさえ苦労した課題を潜り抜けてきたし、ヴォルデモートから生き延びたのよ?学ぶべき事は多くあると思うわ。ねえ?隊長」

 

「うむ。確かに守護霊の呪文を使える隊員が部隊にいた方が今後の吸魂鬼戦は楽になる可能性はある。だが、まずは副隊長達と相談してから決める。今は結論を出すべきではないだろう」

 

エスペランサは結論を先延ばしにした。

 

チョウとスーザンが言うように守護霊の呪文は対吸魂鬼戦において必要不可欠とは言わないまでも、使えれば便利な代物だ。

 

だが、幸福な過去が少ないエスペランサやフローラには行使がほぼ不可能である。

ならば、チョウやスーザン達に習得させるのも一つの手なのかもしれない。

 

これ以上議論の余地が無くなったエスペランサたちはホッグズヘッドを後にした。

 

そして、エスペランサはネビル達と別れ、フローラとの待ち合わせ場所に向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




不死鳥の騎士団は戦闘系イベント少ないので中弛みしそうです。
でも、後半はガッツリバトる予定なので!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。