ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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寒くなってきました。


case74 Tongue battle 〜舌戦〜

大広間で組分けの儀式を見るのはこれで5回目になる。

 

この儀式が軍の入隊式もしくは銃貸与式に似ていると思うエスペランサであったが、無論、だれも同意はしてくれない。

 

職員席にハグリッドが居ないことを除けばいつもと何ら変わりないホグワーツだったが、組分け帽子の歌だけは例年と変わっていた。

 

要約すると、寮同士結束して敵から身を守れというものだ。

 

出されたご馳走をここぞとばかり腹に入れたエスペランサは、早くも睡魔に襲われる。

ウトウトと居眠りをしようとする彼をハーマイオニーが何度もツネって起こした。

 

「寝ちゃだめよ!」

 

「すまんすまん。ええと儀式はどこまでいったのかな?」

 

「今、ダンブルドアの挨拶が始まったところよ。まったくもう」

 

エスペランサが職員席に顔を向けるとダンブルドアが話し始めていた。

 

「さて、すばらしいご馳走を、みなが消化しているところで、学年度始めのいつものお知らせに、少し時間をいただこうかの」

 

「一年生に注意しておくが、校庭内の禁じられた森は生徒立ち入り禁止じゃ――上級生の何人かも、そのことはもうわかっておることじゃろう」

 

ハリー、ロン、ハーマイオニーはニヤリとした。

エスペランサをはじめとしたセンチュリオンの隊員達は苦笑する。

禁じられた森はセンチュリオンの演習場でもあった。

森に居るケンタウロス達に演習場として場所を借りるのは簡単ではなかったが、エスペランサの交渉によって成功している。

 

「フィルチさんからの要請で、これが462回目になるそうじゃが、全生徒に伝えてほしいとのことじゃ。授業と授業の間に廊下で魔法を使ってはならん。その他の禁止事項じゃが、すべて長い一覧表になって、いまはフィルチさんの事務所のドアに貼り出してあるので、確かめられるとのことじゃ。確かめたい人が居ればの話じゃがのう」

 

職員席の端でフィルチがミセス・ノリスを抱えつつ、渋い顔をしていた。

彼からの手紙によれば、持病のリュウマチが悪化しているらしい。

 

「今年は先生が二人替わった。グラブリー・プランク先生がお戻りになったのを、心から歓迎申し上げる。魔法生物飼育学の担当じゃ。さらに、ドローレス・アンブリッジ先生。闇の魔術に対する防衛術の新任教授じゃ」

 

エスペランサはグラブリー・プランクと呼ばれた老婆には見覚えがあったが、ドローレス・アンブリッジは初めて見た。

 

そして、この女とは絶対に馬が合わないだろうと確信した。

 

ガマガエルにピンクのフリフリの服を着せたようなアンブリッジの目は、明らかに悪人のソレだった。

しかも、このタイミングで魔法省から送られて来たのだから、何か裏があるのだろう。

 

「ハリー。あの女を知ってるか?」

 

「うん。ファッジの部下だ。法廷で居た。嫌な女だよ」

 

「なるほど。ファッジの刺客か」

 

要注意人物だな、とエスペランサは思う。

アンブリッジとやらにセンチュリオンの存在がバレるのは何としても避けなくてはならない。

 

「さて、今年度のクィデッチじゃが……」

 

「ェヘン、ェヘン」

 

ダンブルドアの言葉を遮るようにしてアンブリッジが咳払いをした。

 

「……どうぞ、アンブリッジ先生」

 

ダンブルドアは一瞬だけ驚いたような顔をしたが、アンブリッジに発言の場を譲る。

他の教職員や生徒は不快感を露わにした。

校長の発言を妨害する等、前代未聞だったからだ。

 

「さて、ホグワーツに戻ってこられて、本当にうれしいですわ!そして、みなさんの幸せそうなかわいい顔がわたくしを見上げているのは素敵ですわ!」  

 

甘ったるい声でアンブリッジが言う。

エスペランサは軽い吐き気を催したが、他の生徒も同様だったようだ。

 

ハリーもロンも顔が引き攣っている。

 

「みなさんとお知り合いになれるのを、とても楽しみにしております。きっとよいお友達になれますわよ!」

 

アンブリッジがニッコリと(側から見たらニッコリでは無くニンマリとという表現が正しい)生徒に微笑みかけた。

 

耐えられなくなったコーマックが胃の中の物をテーブルに吐き出すのが見えた。

コーマックはそのままテーブルに突っ伏して動けなくなっている。

 

「魔法省は、若い魔法使いや魔女の教育は非常に重要であると、常にそう考えてきました。みなさんが持って生まれた稀なる才能は、慎重に教え導き、養って磨かなければものになりません。魔法界独自の古来からの技を、後代に伝えていかなければ、永久に失われてしまいます。われらが祖先が集大成した魔法の知識の宝庫は、教育という気高い天職を持つものにより、守り、補い、磨かれていかねばなりません」  

 

アンブリッジは先程とは打って変わって機械的に喋り始めた。

 

ほとんどの生徒は目を点にしてポカーンと聞くか、もしくは、ぺちゃくちゃ喋り始める。

だが、エスペランサやハーマイオニー、センチュリオンの隊員達はその言葉に耳を傾けていた。

 

「ホグワーツの歴代校長は、この歴史ある学校を治める重職を務めるにあたり、何らかの新規なものを導入してきました。そうあるべきです。進歩がなければ停滞と衰退あるのみ。しかしながら、進歩のための進歩は奨励されるべきではありません。なぜなら、試練を受け、証明された伝統は、手を加える必要がないからです。そうなると、バランスが大切です。古きものと新しきもの、恒久的なものと変化、伝統と革新……」

 

なるほど、とエスペランサは思う。

これはつまり、魔法省がホグワーツの教育に干渉してくるという事だ。

 

だが、たかがアンブリッジ一人でホグワーツの教育に干渉する事が出来るのだろうか。

 

いや、そもそも、干渉してどうするつもりなのだろう。

 

「ハーマイオニー。魔法省の狙いは何だ?」

 

エスペランサが小声でハーマイオニーに聞いた。

 

「魔法省がホグワーツに干渉するってことよ」

 

「それは分かってる。だが、干渉してどうするんだ?魔法省にとってのメリットが分からんのだ」

 

「それはね。魔法省というよりファッジはダンブルドアが軍団を作る事を恐れているわ。もしかしたら、生徒を使って軍団を作るんじゃないかってね。だから、ホグワーツの教育に干渉して、ダンブルドアの行動を牽制しようとしているんじゃないかしら」

 

「無意味な事を……」

 

ダンブルドアが生徒を使って軍を組織する事などあり得ない。

だが、ホグワーツには既に組織された軍隊が存在している。

 

もしセンチュリオンの存在が露見すれば、アンブリッジもファッジも必ず潰しに来るだろう。

 

「なぜなら、変化には改善の変化もある一方、時満ちれば、判断の誤りと認められるような変化もあるからです。古き慣習のいくつかは維持され、当然そうあるべきですが、陳腐化し、時代遅れとなったものは放棄されるべきです。保持すべきは保持し、正すべきは正し、禁ずべきやり方とわかったものは何であれ切り捨て、いざ、前進しようではありませんか。開放的で効果的で、かつ責任ある新しい時代へ」

 

アンブリッジの長々とした演説が終わり、まばらな拍手が起きる。

 

ダンブルドアは「まさに啓発的じゃった」という感想を残し、遮られた話を続けた。

 

 

「実に啓発的だったわ」

 

ハーマイオニーが言う。

 

「冗談だろ。あの演説はパーシーの話よりつまらなかったぜ?」

 

「啓発的だと、言ったのよ。誰も面白かったとは言ってないわ。アンブリッジの話の裏を読むと、魔法省がホグワーツに干渉してくる事が分かるのよ」

 

「そう言う事だ。ハリー。あのアンブリッジって女に気をつけろ」

 

「え?どうして」

 

「どうしてもこうしても無い。あの女が送られてきた理由は、ハーマイオニーが言う通りホグワーツに干渉する為だろうが、その大元にはファッジの邪魔になる存在を消すって思想がある」

 

「それと僕に何の関係があるの?」

 

「ファッジが消したい存在はダンブルドアとハリーだ。ヴォルデモートが復活した事を公言する存在は今のところこの二人だから、ファッジとしては両者とも消し去りたい筈だ」

 

「そうよハリー。アンブリッジはファッジが送り込んだんだから、気を付けないと!」

 

 

エスペランサは職員席に座るアンブリッジを見た。

 

アンブリッジがセンチュリオンの脅威となるだろうか、と考える。

 

魔法大臣付なのだから魔法力はそこそこあるに違いない。

しかし、ホグワーツにアンブリッジの味方は現状、存在しない。

もし仮にアンブリッジと戦闘を行う事になれば、センチュリオンが圧倒するに違い無い。

 

だから、もし、センチュリオンの存在がアンブリッジにバレたところで恐る必要は無いだろう。

とっ捕まえて忘却の呪文をかければ問題無い。

 

 

それに、アンブリッジはダンブルドアとハリーを監視しに魔法省から来ているのだ。

 

エスペランサやセンチュリオンの隊員達を監視しようとすることは無いだろう。

と、この時のエスペランサは楽観視していた。

 

 

まもなく、その認識が大いに間違っていたと知る事になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツの生徒はすぐに手の平を返す。

 

そのことはここ数年で嫌という程知っていた。

 

生徒の大勢はダンブルドアとハリーを虚言癖で狂った人間だと思い込み、あちこちで悪口を言っていた。

 

冷静に考えれば、ヴォルデモートに殺されかけたハリーがヴォルデモート復活を喜んで発言することなんて無い。

本気で魔法界に警告をしたいからこそ、ダンブルドアもハリーも公言したのだ。

 

だが、魔法省は彼らに嘘つきのレッテルを貼る事に全力を注いでいる。

 

しかも、魔法省はどうやらシリウス・ブラックとハリーが組んでいると考えているらしい。

論理が破綻し過ぎてエスペランサは呆れていた。

 

まともな頭を持っていれば魔法省も日刊預言者新聞も信用出来ないと思える筈なのだが、どうもホグワーツの生徒は頭が足りない様だ。

 

グリフィンドールでもシェーマスやラベンダーがハリーを疑っていた。

 

「ホグワーツは政治経済とか公民関係の授業を取り入れるべきだ」

 

セオドールが言う。

 

着校日の次の日。

朝食の席でセオドールがエスペランサに話しかけてきたのだ。

 

久々に会うセオドールは以前よりも少し暗い顔をしていた。

 

「魔法史が一応、公民も取り扱っているそうだが。ビンズの授業をまともに聞いてる奴なんでハーマイオニーくらいなもんだろ」

 

「お言葉だが、僕もちゃんと聞いている」

 

エスペランサは苦笑しながら、テーブルに置いておいたソフトドリンクのペットボトルを手にとって飲んだ。

 

ホグワーツの朝食では紅茶やカボチャジュースが出てくるのだが、米軍育ちの彼にはどうも合わないのだ。

故に、定期的にマグル界のコーラやドクターペッパー等を輸入している。

 

ちなみにノクターン横丁のボージンを経由してホグワーツにフクロウで配達させていた。

 

「で、セオドール。お前はアンブリッジについてどう思う?」

 

「どう思うも、見たまんまの人物だろう。あれは相当な悪だ。ザビニにアンブリッジの情報を集めてもらってるが、まあ、良い話は聞かないね」

 

「だろうな。ダンブルドアは何故、アンブリッジを採用したんだ?」

 

「ホグワーツの人事決定権をダンブルドアが失ったからだ。魔法省がダンブルドアから幾つかの役職を奪ったのは知っているだろう?」

 

「そうだったな。そう言えばグリフィンドールは今日の午後に闇の魔術に対する防衛術の授業が2コマある。そこで、アンブリッジがどういう人物か嫌でも知る事になりそうだ」

 

グリフィンドールは本日、魔法史と魔法薬学、占い学に闇の魔術に対する防衛術というヘビーな時間割だった。

 

「ご愁傷様。あのアンブリッジのピンクのフリフリ服を見るだけでも拷問だ。昨日なんてコーマックがアンブリッジを見て嘔吐してたじゃないか」

 

「あれはアンブリッジを見て吐いたんじゃなく、ドクシーの卵を食べたからだそうだ」

 

コーマックは昨夜、医務室に運ばれた。

 

エスペランサが聞いたところ、賭けで負けてドクシーの卵をたらふく食べさせられたらしい。

全治1週間。

おかけでクィデッチの選抜試験に参加出来なくなったそうだ。

病床で嘆くコーマックにエスペランサは呆れて物も言えなかった。

 

復帰したらセンチュリオンの隊員の前で腕立ての罰でもやらせるかと本気で考えてもいた。

 

「お、噂をすればアンブリッジが登場だ」

 

職員席にアンブリッジが座り、朝食を食べ始めた。

今日もピンク一色できめてきている。

 

「あれを毎日見る事になるのか。服もリボンも真っピンク。下着もピンク色なんじゃねえのか」

 

「やめてくれ。想像したら食欲が無くなる」

 

「確かめてみるか?アクシオ・アンブリッジの下着、って唱えれば確かめられるぜ?」

 

エスペランサがケラケラ笑う。

 

「おぞましい提案をするな。絶対にやるなよ?」

 

「やるわけ無いだろ。いや、でも待てよ。ちょいと閃いた。アンブリッジの下着を呼び寄せるのはやりたく無いが、呼び寄せ呪文を悪用すれば、女子生徒の……」

 

 

「もし、今思いついた事を実行したら、二度と口を利きませんからね?」

 

 

いつの間にかエスペランサとセオドールの後ろに立っていたフローラがゴミを見る様な目をして冷たく言い放った。

 

彼女の後ろにはグリーングラス姉妹も居たが、二人とも「さいてー」と呟いている。

 

 

「うおっ。居たのか。いつからそこに居たんだ」

 

「つい先程からです。貴方たちが非常に下品な話をしていたので、来てみたんですが」

 

 

エスペランサが魔法を使った新手のセクハラを思いついた事にフローラは腹を立てていた。

 

「あのね。ホグワーツでは魔法を使ってセクハラしようとしても無駄だよ」

 

ダフネが溜息混じりに言う。

 

「そうなのか?」

 

「毎年、何人もの男子が呼び寄せ呪文で女子の私物を盗もうとしたり、目眩しの呪文を使ってシャワー室に忍び込もうとするんだけど、防止呪文が城全体にかけられているからすぐにバレるんだよ」

 

「それは知らなかった。でも、防止呪文なんて簡単に破れるだろ。俺らはマグルの電子機器を狂わせる魔法すら突破してるんだから」

 

「そうですね。ちょっと魔法が上手い生徒なら突破出来るでしょう。でも、そんな事したら絶交しますから」

 

「冗談だ。冗談。俺がそんなことをする人間に見えるか?」

 

エスペランサは必死で弁明しようとしたが、フローラ達は何も言わずに冷ややかな視線を浴びせ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期最初の魔法薬学の授業。

 

スネイプは地下牢教室に入って早々、長々と普通魔法使いレベル試験、すなわち、OWL試験について演説した。

 

OWL試験というのはOrdinary Wizarding Levels試験の略であり、ホグワーツ5学年の生徒が一斉に受ける試験だ。

 

この試験の結果で、将来の仕事も決まる様なもので、OWLにおいて一定の成績を修めた生徒だけが6年生からのNEWT試験レベルの授業を受講出来るとされている。

管轄は魔法省の魔法試験局である。

 

科目は最大で12。

 

中には講義がされていない錬金術などの科目もある。

錬金術は受講希望者が居る期別のみ、開講されるそうだ。

 

英国マグル界のGCEという中等教育終了試験に該当するのではないか、というのが英国マグル界出身の生徒の見解である。

 

「言うまでもなく、来年から何人かは我輩の授業を去ることになろう。我輩は、もっとも優秀なる者、すなわち、Oの評価を修めた者にしか NEWTレベルの魔法薬の受講を許さん。つまり、何人かは必ずや別れを告げるということだ」

 

スネイプはねっとりとした目で席に座るハリーを見ていた。

 

余談だが、ネビルはセンチュリオンに入隊してからスネイプを恐れなくなり、結果として魔法薬学の成績は悪くない物になっていた。

 

コーマック等はこれを「ネビルの覚醒」と呼んでいたが、実際、ネビルの能力の飛躍には目を見張る物がある。

 

ネビル曰く、「魔法薬学も狙撃も同じだよ。如何に集中して己の世界に入り込むかどうかなんだ」だそうだ。

 

「今日は、普通魔法使いレベル試験にしばしば出てくる魔法薬の調合をする。安らぎの水薬だ。不安を鎮め、動揺を和らげる。注意事項。成分が強すぎると、飲んだ者は深い眠りに落ち、死に至ることもある。故に、調合には細心の注意を払いたまえ」

 

スネイプが解説した。

 

エスペランサは教科書を広げて、該当するページを開いた。

うんざりする様な手順を踏まなければ調合出来ない薬のようだ。

 

「こりゃまた大変そうだ。鎮静剤を買った方が早いんじゃねえのか?」

 

彼の嘆きを無視したスネイプは黒板に魔法で調合方法と材料一覧を現した。

 

「制限時間は90分。無駄口を叩かずに始めたまえ」

 

生徒達は各々、調合を開始する。

 

魔法薬の調合は面倒臭いが、手順に沿って行えば必ず完成するものだ。

原理を理解する必要は無い。

テキスト通りに手を動かせば良い。

 

魔法薬の原理を理解している生徒はハーマイオニーやセオドール、それにフローラくらいな物である。

 

「エスペランサ。それ何してるんだ?」

 

「ん?ああ。これは蛍光ペンだ。教科書の既に行った手順を蛍光ペンで塗り潰していけば、手順を抜かす事が無くなるだろ?」

 

彼は終わった手順が記載されている行を蛍光ペンでなぞっていた。

軍にいた頃も作業では良くチェックシートを作り、抜けがないかどうか確認していたものだ。

 

「へえ。意外とマメなんだね」

 

エスペランサの隣で調合していたディーン・トーマスが言う。

彼の大鍋の中は何故かドス黒い液体で溢れていた。

 

汗をかきながら30分も調合していると、完成形が見えてくる。

 

「これは意外と良い出来かもしれないな」

 

大鍋から銀色の煙が上ってきていることから、魔法薬の調合は半ば成功しているように思える。

周りを見渡してみると、ハーマイオニーの大鍋からはエスペランサの物よりも光輝く銀色の煙が上っていた。

エスペランサは少し自信を無くした。

 

「手順は間違えてない筈なのに何故、差が出るんですか?」

 

彼は生徒の鍋を見回っていたスネイプに質問する。

 

グリフィンドールの生徒でスネイプに質問をする生徒はエスペランサとハーマイオニーくらいな物だ。

 

「ふむ。ルックウッド。魔法薬というのは繊細かつ緻密な技術なのだ。お前は手順通りに行っているが、材料を雑に扱い過ぎている」

 

スネイプはエスペランサの使っている机を見た。

 

薬草をサバイバルナイフ(鋭利過ぎて逆に使い難い)で滅多切りにした痕跡がある。

また、アナログな天秤を使うのを面倒がり、必要の部屋から調達した電子天秤などの機器が散乱していた。

 

「これは何だ?」

 

「電子天秤です。この装置に置くだけで物の重量が計測出来るんですよ」

 

電子天秤の上には刻まれたイモリの内臓が置かれ、デジタル表記盤にグラム単位の数値が表示されていた。

 

「言っておくが、OWLでマグルの道具の持ち込みは禁止されている」

 

「そんな!便利なのに」

 

スネイプはエスペランサを残し、他の生徒の様子を見に行ったが、電子天秤には興味を持った様である。

魔法が使えない反面、マグルは薬品開発の為の道具を発達させてきた。

 

センチュリオンでもナパーム材の生成やTNT(トリニトロトルエン)の精製に魔法とマグルの機器をフル活用している。

 

 

「ポッター。これは何のつもりだ」

 

「安らぎの水薬です」

 

「教えてくれ。ポッター。字が読めるのか?」

 

スリザリン生の一部が一斉に笑った。

 

「黒板の調合法の3行目を読んだかね?」

 

「月長石の粉を加え、右に三回攪拌し、七分間ぐつぐつ煮る。そのあと、バイアン草のエキスを二滴加える。あっ」

 

「そうだ。ポッター。お前は3行目の手順を抜かしている。よってこの魔法薬は何の役にも立たん」

 

スネイプはハリーの大鍋を魔法で空にしてしまった。

 

「何とか文字が読めた生徒は、完成した薬品を提出せよ。採点をしてやろう」

 

生徒達はいそいそとフラスコに入れた魔法薬を教室の前にある机に提出し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

午後の授業は闇の魔術に対する防衛術である。

授業で使う教科書はウィルバードなんちゃらという教授の書いた「防衛術の理論」という凄まじくつまらない本であった。

書いている本人も不本意で書いたのでは無いかとエスペランサは思う。

 

「こんにちわ皆さん!」

 

生徒が教室に着席するなり、アンブリッジが不自然な程の笑顔で挨拶した。

 

生徒達はボソボソと挨拶する。

 

「駄目です。駄目です。良いですか?皆さんは、元気良く"こんにちわ、アンブリッジ先生"と言うのですよ」

 

「「 こんにちわ!アンブリッジ先生! 」」

 

「よろしいですわ」

 

生徒達は不満そうだが、エスペランサは少しアンブリッジに共感した。

挨拶は組織を良くする第一歩だ。

それは軍隊でも変わらない。

 

「では、杖をしまって、羽ペンと教科書を出して下さいね」

 

そう言いつつ、アンブリッジは黒板に魔法で文字を写した。

 

1.防衛術の基礎となる原理を理解すること 2.防衛術が合法的に行使される状況認識を学習すること

3.防衛術の行使を、実践的な枠組みに当てはめること

 

「これをノートに写して下さい」

 

「なるほど。授業開始時に授業の目的と目標を共有する訳か」

 

これはエスペランサが訓練毎に行う手法と同じだ。

目的を知らずに行う訓練程無意味な事はない。

 

内容も分かり易く、悪くは無い。

彼は素直に感心した。

 

「あら。理解が早くて助かるわ」

 

エスペランサの独り言にアンブリッジは気を良くしたみたいである。

 

「では、教科書の5ページを開いてください。『第一章、初心者の基礎』。おしゃべりはしないこと」

 

生徒達は教科書を読み始める。

 

教科書の内容は前述の通り、非常につまらない。

一通り目を通したエスペランサは、教科書を開かずに手を上げるハーマイオニーに気付いた。

 

「何かこの章について質問があるの?」

 

アンブリッジが散々躊躇った後でハーマイオニーに聞いた。

 

「いえ、違います」

 

「今は教科書を読む時間よ?」

 

「ですが、先生。授業の目的に防衛呪文を使う事が書いてありません」

 

その言葉にハリー達が一斉に黒板を見つめた。

 

「あなたのお名前は?」

 

「ハーマイオニー・グレンジャーです」

 

「では、グレンジャー。このクラスで、あなたが防衛呪文を使う必要があるような状況が起こると思いますか?まさか、授業中に襲われるなんて思ってはいないでしょう?」

 

「ですが、先生。闇の魔術に対する防衛術の授業では、防衛呪文を訓練することが重要では無いのですか?」

 

ハーマイオニーは食い下がる。

 

ロックハートの授業を全面肯定していた彼女がそれを言うのか、とエスペランサは突っ込もうとしたが止めた。

 

「グレンジャー。あなたは教育の専門家ですか?この授業の指導要領はあなたより賢く偉い人達が決めた物です。あなた方が防衛呪文について学ぶのは、安全で危険のない方法です」

 

「そんなの何の役に立つ。僕たちが襲われたら防衛呪文を使わなければならないんだ」

 

ハリーが突然発言した。

 

「挙手しなさい。ポッター!」

 

ハリーは握り拳を上げて挙手した。

しかし、ハリー以外にも挙手した生徒が大勢いる。

 

「あなたは?」

 

「ディーン・トーマスです。ハリーの言う通り、襲われた時に必要なのは防衛呪文ですよね?」

 

「襲われる危険なんてどこにあるんです?」

 

「いや、あるだろ」

 

エスペランサはつい言葉を出してしまった。

言葉を出した後で取ってつけたように手を挙げた。

ハリー同様に握り拳を上げたが、軍隊では挙手をする際に握り拳で統制されていた為だ。

 

「えーと、あなたは?」

 

「エスペランサ・ルックウッドです」

 

アンブリッジの目が警戒心を帯び、細くなる。

 

「あなたがルックウッド……」

 

「自分の事をご存知で?」

 

「いえ、何でもありません。続けて」

 

「はい。あー、少なくともここ数年、ホグワーツの生徒は何回か危険に晒されて襲われていますよね。バジリスクにトロール、吸魂鬼。襲われる確率がゼロという事は決して無いと思いますが?」

 

「確かに、そんなこともありました。ですが、それはホグワーツの教員が安全対策を怠った怠慢の結果です。魔法省がホグワーツを管轄すればそんなことは決してありません」

 

「吸魂鬼は魔法省が送り込んだのに無責任な発言ですね。それに、魔法省ならバジリスクを倒せたと本気で思っているんですか?バジリスクは対戦車榴弾とプラスチック爆弾を大量に使ってやっと倒せた生物ですよ?」

 

秘密の部屋での死闘が思い出される。

 

バーレット重狙撃銃の弾丸でも倒れないバジリスクはまさに脅威であった。

 

「はっきり言いますが、これまでのホグワーツの教師は無責任な人達ばかりでした。中には半獣もいました」

 

「ルーピン先生の事を言っているのなら、これまでで一番良い先生だった!」

 

「発言するなら挙手しなさい。ミスター・トーマス。あなた達は年齢にふさわしくない複雑で不適切な呪文、しかも命取りになりかねない呪文を教えられてきました。恐怖に駆られ、一日おきに闇の襲撃を受けるのではないかと信じ込むようになったと我々は考えます」

 

「そんな事はありません!」

 

「だから、挙手しなさい。グレンジャー」

 

「私の前任者は違法な呪文を皆さんの前でやって見せたばかりか、実際みなさんに呪文をかけたと聞きました」

 

「でも、あれはムーディの偽物で狂っていたって話だ。それでも、色んな事を教えてくれた」

 

ディーンが熱くなる。

 

「ついでに言えば、魔法省が勝手に吸魂鬼に接吻させたよな」

 

エスペランサも発言したが、アンブリッジに無視された。

 

「結局、学校は試験をパスする為に教育をするところです。理論を理解していればOWLは突破出来ます。実践は必要ありません。ええと、あなたは?」

 

「パーバディー・パチルです。OWLでは実技も出るんじゃないですか?それなら、実践もしないといけないと思います」

 

「理論を理解すれば試験も突破可能です!」

 

「で、その理論が現実世界で何の役に立つんですか?」

 

ハリーが蒸し返した。

 

「ポッター。ここは学校です。それに外の世界でもあなたのような子供を襲う物なんてあると思いますか?」

 

「えーと、例えば、ヴォルデモートとか?」

 

ハリーのヴォルデモート発言に何人かの生徒がひっくり返った。

 

表情を変えなかったのはエスペランサとネビル、それに、驚くべき事にアンブリッジだ。

 

「グリフィンドール10点減点です。そうですね。いくつかはっきりさせましょう。ここの校長は例の闇の魔法使いが復活したと言っていますが、これは嘘です」

 

「違う!戻ってきたんだ!僕は見た。あいつと戦ったんだ」

 

「ポッター。罰則です。これ以上嘘を吐かないように気をつけなさい」

 

ハリーは尚も何かを言いかけたが、エスペランサがそれを阻止して発言した。

 

「確かに、ヴォルデモートが復活したという証拠は無い。ハリーの証言だけでは信憑性も薄い。クラウチJr.があんたらに処刑されなければ、違ったかもしれませんが」

 

「何が言いたいんですか?ルックウッド」

 

アンブリッジはルックウッドを警戒した。

癇癪を起こしたハリーよりも、冷静な顔をしたエスペランサの方が危険性は高いと判断した為だ。

 

「ハリーの証言が本当なのかを確かめる術はありませんが、嘘だと断定出来る証拠もありません。魔法省は何を根拠にダンブルドアとハリーの発言を嘘だと断定しているのでしょうか?」

 

「………」

 

アンブリッジは言葉を出さなかった。

エスペランサの言う通り、魔法省は一方的にダンブルドアとハリーを嘘吐き呼ばわりしているだけで、そこに根拠は無い。

 

「ポッターは今までも虚言を繰り返して来ました。昨年の新聞を読めば分かると思いますが……」

 

「それは根拠にならない。まあ、ハリーの証言が正しいとする根拠もありませんから、これ以上は水掛け論になってしまいます。だから議論の余地は無い。しかし、セドリック・ディゴリーは何故、死亡したか。これに関して魔法省が第三者委員会も設置せず、ろくに調査もしていないのに、ハリーを虚言癖扱いとは片腹痛い限りです。まるで、セドリックの死を調査したら不都合でもあるみたいですね」

 

セドリックの死は新聞にすら載らなかった。

魔法省は死体解剖もせず、調査をしていない。

 

「ディゴリーの死は……悲しい事故でした。あなたは知らないでしょうが、魔法省はちゃんと調査しました。彼が第3の課題の中で不慮の事故に遭っていたのは分かりきった事です」

 

セドリックの死を冒涜する魔法省とアンブリッジにエスペランサは激しい怒りを感じた。

 

「セドリックは多少の外傷はあったものの、死に至る外傷は無かった。明らかに死の呪いを受けて戦死した。それならばセドリックを殺した人物が存在する筈だ!」

 

「それも魔法省は調査しています。シリウス・ブラックです。彼がディゴリーを殺しました。ブラックはポッターの命も狙っているのですから、辻褄は合います。恐らく、ブラックはポッターの記憶を操作したのでしょう。そして、嘘の記憶を塗り固められたポッターの言う事をダンブルドアは愚かにも信じた。そういう事です」

 

「なるほど。納得は出来ませんが、一応、筋は通っている」

 

エスペランサはそれ以上発言をしなかった。

言い争うだけ無駄な事が分かった為だ。

 

エスペランサが黙った代わりにハリーが今度は癇癪を起こしたが、アンブリッジに授業を抜けてマグゴナガルの所へ行くように指示され、そこで終わりとなる。

 

アンブリッジは授業を続けた(とは言え、教科書を読むだけだが)が、その間、ずっとエスペランサを観察していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センチュリオンの訓練はほぼ毎日、放課後に行われる。

内容は射撃訓練や体力錬成、武器の扱い方に市街地戦闘訓練などに加えて、訓育や戦史講和も行われていた。

 

現隊員達は将来的に指揮官となる予定なので、訓練毎に指揮官を交代したりもしている。

 

クィデッチの練習や罰則がある隊員はあらかじめその旨を分隊長と当直の隊員に報告することになっていた。

当直は日毎に代わり、その任務は人員掌握や伝達、武器の管理等で、必要の部屋に泊まり込みとなっている。

 

必要の部屋の入り口にある人員掌握ボードを見て、本日の欠員を確認したエスペランサは隊員を集めた。

雑談したり、自主的にトレーニングをしていた隊員たちが、集まってくる。

 

「事故の内訳はクィデッチの練習が2と病欠が1です。レイブンクローが1900までクィデッチの練習をしています。病欠はコーマックです」

 

フローラが報告した。

鉄帽を被りつつエスペランサは頷く。

 

「レイブンクローのチームか。チョウの調子はどうだ?」

 

「良くありません。当分、訓練は出来ないかもしれませんね」

 

「そうか。女性隊員を中心にメンタルヘルスをさせてくれ」

 

エスペランサは武器庫横に集まった隊員達に本日の訓練内容を下達し始める。

 

「本日は各自、受け持ちの装備の点検を行う。休暇中は整備が出来なかったからな。錆を落としたら武器係の隊員に点検を受けろ。作動確認も兼ねて、整備後は射撃訓練だ。第2分隊の射撃員は弾薬庫から5.56ミリ弾の段箱を受領せよ。受領後には簿冊に記入を忘れるな。前の期の期末点検の際に何件か記載漏れが確認されてるからな。週末には休暇で鈍っている身体を元に戻す為に障害走と戦闘訓練を予定している。セオドールは訓練内容を起案しておいてくれ」

 

隊員達は返事をし、武器庫に向かう。

 

武器庫前では当直に当たっていたアーニーと武器係であるフナサカが武器庫の鍵(3重になっている上に電子ロックも採用されていた)を解放している。

 

隊員達はそれぞれの小銃や装備と、整備用のブラシや油、銃口通し等を取り出して、安全確認をした後にブリーフィングルームで整備を開始した。

 

「ザビニ。ちょっと来てくれ」

 

「なんだい?」

 

エスペランサは整備をしようとしていたザビニを呼んだ。

 

「今年はセンチュリオンを本格的な軍事組織にする為に動きたい。その為に今から1ヶ月、お前には働いてもらう事になる」

 

「ああ。その事か。勿論良いとも」

 

ザビニはエスペランサに情報戦の備えをするべきだと進言していた。

 

まず、センチュリオンで作成した文書に分類番号や緩急指定を割り当て、外部への流出を防ぐ。

また、敵の情報や魔法界の情勢を知る為にもあらゆる情報を集め、データベースを作成する。

隊員には情報保全を徹底させる。

 

これらをエスペランサはザビニに一任する事にした。

 

「ホグワーツで情報収集するのは難しい。例のリータを使っても集められる情報は限られている。ヴォルデモートが復活した以上、敵の情報を集めるのは必要不可欠だ」

 

「そうとも。あ、そうだ。これを見て欲しい」

 

ザビニはポケットから羊皮紙を取り出した。

 

「これは?」

 

「ホグワーツの地図だ。だが、ただの地図じゃない。どこに誰が居るかが表示されるようになっている」

 

羊皮紙にはホグワーツの地図が描かれ、生徒や職員がリアルタイムで何処にいるかが示されていた。

 

エスペランサはハリーが持っている忍びの地図を思い出した。

 

だが、忍びの地図よりもホグワーツの地図は正確では無い。

幾つかの秘密の抜け道が記載されていないからだ。

 

生徒や職員の動きにもラグがある。

 

忍びの地図が如何に高性能な物なのかをエスペランサは実感した。

 

その代わりに、ザビニ作の地図にはセンチュリオンが戦闘を行う際の持ち場や弾薬の保管場所が記されている。

 

「ホムンクルスの魔法を使ったんだ。まだプロトタイプだから性能はあまり良く無い。今年一年かけてアップデートしていくつもりでね」

 

「素晴らしい。短期間で良くやってくれた」

 

「他にも幾つかのアイデアがある。楽しみにしててくれ」

 

 

ザビニは親指を立てると、再び武器整備に戻って行った。

 

ザビニと入れ替わるように、必要の部屋に入って来た人物が居た。

 

管理人のフィルチだ。

 

 

「フィルチさん。久しぶりですね。休暇はどうでしたか?」

 

「どうもこうも無い。ピーブズを相手にしていたら休暇が終わっていた」

 

 

足を引きずりながらフィルチはエスペランサの元まで歩いて来る。

 

「立ち話も何です。椅子をお持ちしましょう」

 

「いーや、結構。すぐに2階の廊下に戻らにゃいけないからな」

 

「2階の廊下?」

 

「双子のウィーズリーが廊下に花火をぶち撒けやがった。それに、ピーブズも暴れ回っている」

 

「花火ならまだ可愛い方ですね。爆薬の類じゃないだけまだマシってもんです」

 

「マシなものか。今年こそあいつらを鞭打ちの刑にしたいところだ。アンブリッジ教授に掛け合えば鞭打ちの許可が降りるかもしれん」

 

「アンブリッジねぇ」

 

魔法省の高官が鞭打ちを許可する訳がないと思ったエスペランサだったが、アンブリッジならやりかねない。

 

「お前さんはアンブリッジが嫌いだろう」

 

フィルチが言う。

 

「当たり前だ。俺に限らず好きな奴なんて居ないでしょう」

 

「わしは好感を持っておるぞ。昨日、アンブリッジ教授はピーブズ追放の為に魔法省を動かしてくれると言ってくれたしな」

 

「へえ。でも、それも徒労に終わりそうですな。数世紀前にピーブズ追放を実現しようとした魔法省が結局、ピーブズに負けて、逆に権限を与えてしまった事は有名だ」

 

フィルチはフンと鼻を鳴らす。

彼もピーブズを追放する事やウィーズリーを止めることが不可能であるのは承知しているのだろう。

 

「そんな事より、フィルチさんが必要の部屋にわざわざ来るなんて珍しいじゃないですか。何か用件でも?」

 

「用件というか、警告をしに来た」

 

「警告?」

 

「そうだ。警告だ。アンブリッジ教授に関する警告だ」

 

「アンブリッジ?」

 

「どうもアンブリッジ教授はお前の事を探っているらしい。昨日もピーブズ追放に協力する代わりにルックウッドの情報を全て教えろ、と言ってきたんだ」

 

「アンブリッジが俺の情報を欲しがっているんですか?」

 

「その通りだ」

 

「で、フィルチさんは俺の情報を快く渡した、と?」

 

「そんなことはせん。わしはアンブリッジ教授に好感を持っているが、お前達を売り飛ばす様な事はしないさ」

 

「フィルチさん……」

 

 

もし、エスペランサに出会わなければ、フィルチは間違い無くアンブリッジに協力し、魔法省のホグワーツ支配に加担していただろう。

だが、フィルチはアンブリッジをはじめとした魔法省の一部の者たちが魔法界にとって悪だという事をしっかりと理解していた。

彼の人生はエスペランサによって大きく変わったのである。

 

エスペランサ、そしてセンチュリオンが次々と奇跡のような戦績を残すのを間近で見てきたのだ。

そして、センチュリオンはフィルチを頼りにして慕っている。

魔法を使えないスクイブであることに長年、負い目を感じていたが、世界を救おうとするセンチュリオンの為に自分にも出来ることがあるのだと彼は思い知った。

 

それが誇らしくて仕方無い。

 

「アンブリッジ教授はお前の動きを逐一報告しろ、とわしに言ってきた。どうやらポッター以上にお前の事を警戒しているようだ」

 

「それは意外だな。俺も人気者になったものだ」

 

「笑い事ではないぞ。兎に角、校内で銃をぶっ放すのは当分控えろ」

 

フィルチの顔は真剣そのものだった。

 

「だが、フィルチさん。夜間に校内で市街地近接戦闘の訓練をしないといけないし、禁じられた森での演習も控えているんだ」

 

「禁じられた森はまあ良いが、校内はやめておけ。アンブリッジ教授は校内も隅々まで監視しようとしている。わしがお前達を庇うのにも限界があるぞ」

 

そう言い残してフィルチは必要の部屋を去っていった。

 

エスペランサはアンブリッジの監視をそれ程、脅威とは感じていない。

人避けの魔法やマフリアートをフルに使用して行っている校内訓練は今まで一度も教職員にバレてはいなかったからだ。

 

 

「エスペランサ。総員、整備作業終了。これから実弾射撃を行う。君も参加するだろう?」

 

手を油まみれにさせたネビルがM24を抱えて近付いてきた。

 

「ああ。俺も参加する。最近は魔法に頼ってばかりだったから腕が鈍って仕方無い」

 

実際、エスペランサの射撃能力は全盛期よりも衰えている。

それは本人も自覚していた。

 

自動追尾の魔法に頼り過ぎていた為だ。

 

武器庫からM733ではなく、かつてセドリックが使っていたG3A3を取り出し、彼は射場に向かう。

 

このG3A3は死亡したセドリックが最後まで握りしめていた銃だ。

エスペランサはこの銃でセドリックを殺したアエーシェマの息の根を止める事を心に決めていたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作読み直してるとハリー5巻で何回癇癪起こしてるんだよってなります。

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