ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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感想、誤字報告ありがとうございます!
炎のゴブレット編もクライマックスです。

加筆修正しました。


case62 Hunters and soldiers 〜狩人と軍人〜

セドリックは地面に倒れていた。

湿り気を帯びた土の感触を掌に感じた彼は、迷路とは別の場所に飛ばされたことを察する。

 

優勝杯が移動キーになっていて、彼はハリーと共にどこか迷路とは別の場所に飛ばされたのだ。

 

移動キーはかなり酔う移動手段である。

かつて、魔法大臣のオッタリン・ギャンボルがホグワーツ特急を発案する前の時代。

ホグワーツへの登校の手段のほとんどは移動キーであった。

しかし、生徒たちの多くが移動キー酔いをして、初日から医務室に搬送されていたそうだ。

 

セドリックは箒に乗ることを得意とするが、それでも移動キーでの旅は苦手である。

エスペランサは移動キーでの移動をヘリコプターのオートローテーションと例えていた。

セドリックにはその例えが分からなかったが、エスペランサも移動キーは苦手なようである。

 

「ここは、どこだ?」

 

セドリックは立ち上がりながら周囲を見渡す。

雲がかかっている為、月明かりも弱い。

目が慣れていないこともあって周囲の地形を把握出来なかった。

 

彼は移動キーとなっていた優勝杯の横に転がっているG3A3を拾い上げる。

軽く機能点検をしてみたが、問題は無い。

武器を手に取り、気持ちに余裕が出来たセドリックは同じく地面に倒れていたハリーに声をかけた。

 

「大丈夫か?ハリー」

 

「うん。何とかね。それよりもここはどこだろう?」

 

「課題の続きかもしれない。一応、杖を出しておくべきだ」

 

そう言いつつ、セドリックは腰元から信号拳銃を取り出す。

単装式のそれの中には照明弾が装填されていた。

セドリックは暗視ゴーグルを持つが、ハリーは持っていない。

ハリーの為にも照明弾を利用して周囲を照らした方が良いだろうと考えたのだ。

 

バシュという音と共に信号拳銃から飛び出した照明弾は花火の様に夜空で破裂し、辺りを昼間のように照らした。

 

 

「これで周りが見渡せるだろう」

 

「ありがとう。えーと、ここは墓地かな?」

 

「どうもそのようだね」

 

雑草の生茂る墓地だった。

照明弾に照らされて古びた墓石が複数、視認出来る。

イチイの木の向こうには小さな教会があり、また、丘の上には大きな屋敷が存在していた。

 

田舎の村外れといった感じだ。

少なくともホグズミート村では無いだろう。

もしかしたらマグルの村なのかもしれない。

 

セドリックは無線機を使ってエスペランサに報告しようとする。

しかし、ヘッドセットからはノイズばかりで何も応答が無い。

 

「無線も繋がらない。魔法界でも使えるように細工されてる筈なんだけど」

 

「ひょっとして無線機の電波が届かない程遠い場所に飛ばされたのかも」

 

ハリーが言う。

 

「あっ!誰か来るぞ!」

 

照明弾に照らされた墓石群の間から人影がこちらに向かってくるのが見えた。

何かを大事そうに抱えている。

照明弾に照らされているが、顔は影になって見えない。

 

だが、センチュリオンで鍛えられたセドリックの第六感が危険信号を発している。

あの人影は敵かもしれない。

 

迷わず、彼は小銃を人影に向けた。

 

「誰だ!答えろ!」

 

照星の中に人影を入れながらセドリックが命じる。

人影もセドリックの存在に気づいたらしい。

 

小柄な男だ。

毛布に包まれた何かを抱えている。

左手に持っているのは杖に違いない。

ならば魔法使いだろう。

 

「痛っ!」

 

刹那、横に居たハリーが額の傷を抑えながら倒れる。

杖を地面に落とし、痛みに耐えているハリーを横目にセドリックは混乱した。

 

「邪魔者は殺せ」

 

小柄な男の抱えている"何か"が声を上げた。

 

「アバダ・ケダブラ!」

 

男の杖から発射された緑の閃光がセドリックを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、しかし。

 

 

 

「さ、避けた!?」

 

セドリックは左へ咄嗟に倒れ込み、死の呪いを回避する。

左腕が全体重を受け止めて鈍い痛みが走るが、今は気にしていられない。

相手は死の呪いを躊躇無く撃ってきたのだ。

もうこれは課題では無い。

 

セドリックはCQBで言うところのコンタクト・ライトの姿勢を取った。

 

 

 

ズガァーン

 

 

 

すかさず反撃。

 

ほぼ反射的に撃った7.62ミリの弾丸は小柄な男の杖を持つ手を貫通する。

 

「ギャァア!」

 

激痛に杖と"何か"を地面に落としてしまう男。

"何か"はドサッという音と共に雑草の中に消える。

 

「ぐはっ。ワームテール!俺様を落とすとは何をしているのだ!」

 

「申し訳ありません。ご主人様!」

 

ワームテールと呼ばれた男はノロノロと立ち上がろうとした。

 

「わ、ワームテールだって?」

 

「知り合いか!?」

 

痛みを堪えながらハリーが反応した。

 

「セドリック!あいつは危険だ!逃げるんだ!」

 

「逃げるって言ってもどこへ?」

 

セドリックは銃口をワームテールと呼ばれた男に向け直す。

そして、2発目の弾丸を放った。

 

弾丸はワームテールの右肩を貫通する。

男は絶叫して地面をのたうち回った。

 

ハリーが危険と言う割には弱々しい相手である。

 

「あいつは!ワームテールの抱えていたアレは、多分だけどヴォルデモートだ!」

 

「何だって!?」

 

セドリックの思考が乱れた。

 

何故ここにヴォルデモートが出てくる。

ヴォルデモートは3年前にエスペランサによって無力化された筈だ。

 

だが、考えている暇は無い。

 

もし仮に、ワームテールが地面に落とした"モノ"がヴォルデモートなのだとしたら。

 

「ハリー。任せとけ!僕が息の根を止める」

 

ヴォルデモートは丸腰。

それに対してセドリックは小銃を持っている。

 

引き金を引けば勝負は終わるのだ。

 

センチュリオンの総力を動員する必要も無い。

たった一発の弾丸で全てが終わる。

 

 

「くだばれヴォルデモート!」

 

セドリックはヴォルデモートと思われる"モノ"に向けて射撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「迂闊ですな。我が君」

 

結論から言えば、セドリックの攻撃は防がれた。

 

ヴォルデモートに命中する筈の7.62ミリ弾は見えないシールドによって防がれている。

 

盾の呪文だ。

 

 

「盾の呪文だと?誰が!?」

 

セドリックは周囲を見渡した。

 

照明弾は既に効果を失っているが、雲が無くなり、月明かりによって墓所が照らされている。

 

丘の向こうから一人の男が歩いてきていた。

 

セドリックはその男に見覚えのある。

 

「アエーシェマ・カロー!」

 

フローラ・カローの義理の父親である。

 

「私は忠告しました。ペティグリューの様な雑魚に護衛を任せられる筈が無いと」

 

アエーシェマが杖を構えながらヴォルデモートの落ちている場所へ近づいてくる。

 

「アエーシェマよ。俺様はお前を高く評価するが、完全に信用してはいない。お前は俺様の強さに忠誠を誓うが、俺様自身に忠誠は誓っていない。今の弱り切った俺様に、お前は忠誠を誓わないだろう?」

 

ヒューヒューという音と共にヴォルデモートが話す。

 

「違いありませんな。私が11年間の間、貴方を探さなかった理由はそこにある。貴方程の魔法使いなら死の底から自力で蘇ってくるだろうと思っていましたし、その時こそ忠誠を誓う時だろうと考えておりました。ですが…………」

 

「そうだ。俺様は他人の生に縋り付かなくては生きられぬ身体となっていた。お前が失望する気も理解出来よう。俺様がお前を評価し、罰も与えぬ理由はそこにある」

 

「では、我が君よ。私が貴方の復活を支援するとしましょう。この平和で退屈な世界にも飽きていたのでね」

 

 

ニヤリと笑いながらアエーシェマはセドリックの方へ杖を向ける。

 

その顔を見てセドリックは軽い恐怖を覚えた。

今までに一度も見たことのない人の顔だ。

人を殺す事を何とも思っていないような。

 

そして、この状況を楽しむサディストのような。

 

喉の奥で笑いながらアエーシェマはセドリックに話しかける。

 

 

「そうか。なるほど。お前はディゴリーの倅だな。そして、その武器」

 

「銃を知っているのか?」

 

「勿論だとも。エスペランサ・ルックウッドに私は多大なる興味があるからな」

 

「エスペランサを………?」

 

「ああ。私としてはお前ではなく、ルックウッドと戦いたかったが………。まあ、メインディッシュの前に前菜から摘むとするか。おい!ワームテール!我が君を拾い上げて退避しておけ!」

 

「は、はひぃ」

 

慌ててワームテールはヴォルデモートと思われる"ソレ"を拾い上げた。

毛布の間からチラリと見えたが、ヴォルデモートはどうも赤ん坊のような姿をしている。

やはり、弱体化しているのだろうか。

 

「さて、と。ディゴリーの倅よ。名は何と言ったか?」

 

「セドリック・ディゴリーだ。お前は?」

 

「アエーシェマ・カロー。精々足掻いて欲しいものだな。久々の狩りだ」

 

セドリックは銃を構え、アエーシェマは杖を構える。

月明かりが二人を照らし、それぞれの武器が光った。

 

 

「さあ始めよう!楽しい殺しの時間だ!」

 

 

アエーシェマは蛇を連想させる邪悪な笑いと共に高らかに宣言した。




今回は短めです。
キリが良かったので。


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