何か感動しました。
「オーガスタス・ルックウッドだと?」
「はい。オーガスタス・ルックウッドです。死喰い人の」
セオドールの問い掛けにムーディは眉を潜めた。
「奴の事は確かに良く知っている。同時期に魔法省で働いていたからな。奴は神秘部で働く無言者だった。そして、闇陣営の二重スパイでもあった」
「みたいですね。魔法省の情報を死喰い人側に流し、さらに、死喰い人を魔法省内に潜伏させる主導者。それが、オーガスタス・ルックウッド。カルカロフが法廷で告発したことで現在はアズカバンに収監されている、と」
「随分と詳しいな。まあ、お前の父親も死喰い人だった訳だし。当たり前か」
「ええ。まあ、調べるのに苦労はしませんでした。そして、オーガスタス・ルックウッドは自身がアズカバンに収監されると分かった後に、魔法省から逃亡。逃亡中に当時、闇払いをしていたムーディ先生に確保される。ここまでは魔法省の公式記録にも残っています」
「ふむ。確かにワシがアズカバンにぶち込んだ。それは間違い無い」
「では、彼に子供がいたかどうかは分かりますか?」
「何?」
「オーガスタス・ルックウッドに子供はいましたか?」
ムーディはセオドールの質問の意味を理解した。
オーガスタス・ルックウッド。
エスペランサ・ルックウッド。
この二人に何らかの関係性があるのか、ということを知りたいのだろう。
「オーガスタス・ルックウッドは独身だった。故に子供はおらん」
「後見人とか名付け親も存在しない、と?」
「そうだ。ワシの知る限り、な。質問はそれだけか?」
「いえ、もう一つあります」
セオドールがオーガスタス・ルックウッドという死喰い人を調べた理由は、エスペランサ・ルックウッドとの関係を知りたいからというのもあったが、理由はそれだけでは無かった。
オーガスタス・ルックウッドはマッドアイ・ムーディに捕まる前に、神秘部から予言を一つ、盗み出したという噂がある。
この噂は主に元死喰い人、つまりセオドールの父親たちの間で囁かれていた。
それを、夏休みに偶然、耳にしたセオドールはその噂に興味を持つ。
もし、噂が本当であれば、オーガスタスを捕まえた際に、ムーディは盗まれた予言についても何か知っているかもしれない。
セオドールはそう思ったのだ。
「オーガスタスがアズカバンに送られる前に神秘部から予言を一つ盗んだ、という話を聞いたことはありますか?」
「ある。その話は魔法省の中では有名だ。しかし、神秘部に存在する予言は無数にあるから、盗まれたところで、何が盗まれたのかを把握出来るのは無言者、つまり、神秘部の職員だけだろう。故に、オーガスタスが予言を持ち出してしまえば、神秘部以外の職員は予言が盗まれたことに気付く訳がない」
「なるほど。噂、と言うよりも真偽が分からない話、と言う訳ですね」
オーガスタスとエスペランサに何らかの関係があると見て、オーガスタスが盗んだ予言について知ろうとしたが、これでは何も知ることは出来ない。
中東出身なのに、中東の魔法学校ではなく英国の魔法学校に招待されたエスペランサ。
それは、つまり、魔法界での国籍は英国であったという証拠だ。
つまり、彼の親は英国に居る。
そして、英国魔法界でルックウッドといえはオーガスタス・ルックウッドだ。
だが、やはり、エスペランサとオーガスタスには繋がりは無いのだろうか?
「質問は終わりか?」
「はい。あ、もう一つ。質問と言うか、オーガスタスを捕まえた時の話を詳しく聞かせてくれませんか?」
「さあな。昔の話だ。この頃、歳のせいか忘れっぽくてな。そんな詳しい話は覚えとらんのだ」
「そう、ですか」
セオドールはふと考える。
ムーディがオーガスタスに関する何かしらの機密情報を持っていて、隠そうとしてはいないだろうか。
ひょっとして覚えていない、というのは嘘なのではないか、と。
(そう言えば、エスペランサに聞いたことがある。人間は嘘を吐くときに、右上を咄嗟に見てしまうのだと)
ムーディは先程から話している最中に何回も右上に目線が行っていた。
彼は嘘を吐いているのだろうか?
「セオドール・ノット、と言ったか。今日の課題だが、ルックウッドが大きく関わっているな」
「え?」
「ディゴリーの持つ武器は間違い無くルックウッドの影響を受けたものだろう。どこで調達したのかは分からんが、魔法界に存在するものではない」
「そうですね。あれらはマグルの道具です」
「そして、観客や審査員はパニックに陥っていたから気付いていなかったが、観客席からマグルの武器でルックウッドの行動を支援していた者が少なからず存在した。お前もその一人だろう?」
「まあ、エスペランサと仲の良い生徒が、感化されてマグルの武器を使い始めたというのは確かです。教職員もそのことは知っています」
教職員がエスペランサの派閥について問題視しているのはセオドールも知っている。
しかし、校内での規則を司る管理人のフィルチはセンチュリオンの協力者であるし、必要の部屋という基地はまずバレない。
故に、教職員はセンチュリオンの存在を未だに知らないのだ。
「珍しいことだ。グリフィンドールとスリザリンの生徒が徒党を組むことは。お前も、スリザリン生とは思えん。今のスリザリン生はグリフィンドール生やマグル生まれを片っ端から差別する風潮があるが、お前はそうではないようだ」
「誤解されているかもしれないので一応、言っておきますが、僕も純血主義には変わりありません。ただし、原理的純血主義ですけどね。今の純血主義は単純に差別思考の延長でしか無い。元々、純血主義は魔法族の存続を謳ったものであったのに、いつの間にかマグル差別と純血至上主義に変わってしまった」
「ふむ。なるほど。今のスリザリン生が掲げる純血主義とは唯の差別思考である、と?」
「死喰い人たちの掲げていた純血主義も、ヴォルデモートの掲げた純血主義も同じようなものです」
ヴォルデモートという単語にムーディはギョっとする。
センチュリオンの隊員はヴォルデモートという名前を既に恐怖とは思わなくなっていたので、セオドールはつい名前で呼んでしまった。
しかし、歴戦の闇払いであるムーディがヴォルデモートの名前にギョっとするのは意外でもあった。
「死喰い人もヴォル………例のあの人も、マグルやマグル生まれを差別せずには自身の存在価値を見いだせなかった、というのが僕の考えです。まあ、スリザリン生は元々、他寮から疎まれていた日陰者的な存在ですし、死喰い人たちの気持ちは分からなくは無いですが」
「ほう。死喰い人の気持ちは分かるというのに、それでも、お前は死喰い人を否定するのか?」
「そうですね。僕がエスペランサと出会う事が無ければ、もしかしたら僕も他のスリザリン生と同じ様にマグル生まれの差別をしたり、グリフィンドール生を目の敵にしていたかもしれません」
ホグワーツ1年生の時。
セオドールはマルフォイたちが他寮の生徒、特にグリフィンドールのハーマイオニーやロンを馬鹿にして差別するのにうんざりしていた。
だが、その一方でその気持ちも理解出来てしまっていた。
グリフィンドール生はスリザリン生というだけで冷ややかな目をして、まるで犯罪者のように扱ってくる。
ハッフルパフもレイブンクローも同じようなものだ。
だから、セオドールは原理的純血主義を捨てて、マルフォイ側に付くことを考えていた。
だが。
『ルックウッドという生徒を知っていますか?あの人は私がスリザリン生であるにも関わらず助けてくれたんですよ?』
いつになく饒舌になったフローラがセオドールに報告してきたのはハロウィンの日だった。
エスペランサ・ルックウッドはその頃には既にスリザリンでも有名な変わり者であった。
あまり他人と接点を持ちたがらないフローラが興味を示す人間だ。
セオドールとしても少し気になる。
その日以降、彼はエスペランサを観察することにした。
エスペランサ・ルックウッドはセオドールが今までに見た事がない人間だった。
いや、恐らく、ホグワーツに居る誰しもが彼の様な人間を見たことはないだろう。
思考も、主義も、ホグワーツというか魔法界に存在しないものだ。
加えて、マグルの軍隊出身故に英国魔法界の抱える問題を見抜くことが出来ていた。
そして、彼は何よりも正義を求めていた。
エスペランサの掲げる正義が絶対だとは思わない。
第一、セオドールの好む原理的純血主義は魔法族の事しか考えておらず、マグルも魔法族も救おうとするエスペランサの正義とは根元から異なるものだ。
それでも、セオドールはエスペランサに近づいた。
もし、また魔法界に戦乱が起こった場合、セオドールは間違い無く、エスペランサの下で戦うだろう。
それは、エスペランサが強いからという理由ではない。
彼なら戦場において正しい戦う意味を示してくれそうだったからである。
何が正義なのか。
それはセオドールだけでなくエスペランサにも分からない。
セオドールもエスペランサも未熟過ぎたためだ。
それでも、セオドールはエスペランサの率いる部隊が見たかった。
「ムーディ先生。僕はエスペランサ・ルックウッドの作る世界が見てみたいんです。彼の作る世界が僕の理想に最も近い形であると思うから」
「ルックウッドの作る世界、か。その世界は恐らくワシの嫌う世界なのだろうな」
「え?」
「老人の戯言だ。忘れろ」
ムーディは義足を引きずりながら城へと帰っていく。
セオドールはその姿を見送った。
『ハリーポッターの密かな胸の痛み』
という題名の記事が週刊魔女という雑誌に掲載された。
記者はリータ・スキータである。
どこで入手したのかは知らないが、マルフォイはこの雑誌をご丁寧にハリー本人に渡した。
マルフォイの横でパンジー・パーキンソンも笑っていることから、彼女が持っていた雑誌なのかもしれない。
記事の内容はハリーというよりも主にハーマイオニーに関するものだった。
ハリーとクラムを手玉に取る魔女としてハーマイオニーが紹介されている。
魔法薬の授業が終わり、エスペランサはハリーたち3人と中庭の木陰に座りながら記事を読んでいた。
「愛を奪われた14歳のハリーポッターはホグワーツでマグル出身のハーマイオニー・グレンジャーというガールフレンドを得て安らぎを見出していた」
「エスペランサ。頼むから音読するのはやめてくれないか?恥ずかしさで死にそうだ」
「すまんすまん。だが、リータ・スキータは案外、文才があるのかもしれんな。実に読ませる文章だ」
「エスペランサ?あなたは誰の味方なの?」
「悪い悪い。でも、リータはハーマイオニーとクラムの関係をどこで知ったんだ?クラムがハーマイオニーのことをブルガリアに招待した事なんて、俺らでも知らない事だぞ」
「ええ。そこなのよ。あの女はどうやって情報を収集してるのかしら?」
それに関してはエスペランサも謎であった。
リータは何故、センチュリオンの存在を知り得たのだろうか。
「もしかして、ハーマイオニーに盗聴器を仕掛けたんじゃないかな?」
ハリーが言う。
「盗聴器?」
「ああ。ロンは分からないか。マグルの道具でね、遠くに居る人の話し声を盗み聞き出来る道具があるんだ」
「へえ。そりゃ便利だ。じゃあきっとリータはそれを使ったに違いない」
「あなたたちねえ。ホグワーツの歴史にマグルの電子機器はホグワーツ内で使えなくなるって書いてあるのよ?」
「でも、エスペランサは使ってるじゃないか」
「あー。それもそうね」
エスペランサはマグルの電子機器を狂わせる魔法から電子機器を守る魔法を使っている。
最も、これはエスペランサが開発したものでは無い。
ロンの父親が空飛ぶ車にかけていた魔法を参考にしたまでだ。
この魔法のおかげで、例のフォードアングリアはホグワーツ敷地内でも走行が出来た訳であるし、センチュリオンは無線機などを使う事が出来ている。
「だが、リータは盗聴器なんて使ってないと思うぞ」
「何で言い切れるのさ」
「うーん。それはなぁ」
銃の存在も知らなかったリータが盗聴器なんて知らないだろうとエスペランサは思ったが、それを口にする事は出来ない。
「兎に角、リータ・スキータには用心しろって事だ。どこで聞き耳立ててるかも分からねえしな」
誤魔化しながらエスペランサは忠告だけする。
「あ、こんなところに居たんですか?探したんですよ?」
不意に話しかけられるエスペランサ。
彼が顔を上げると、そこにはフラーの妹のガブリエルが立っていた。
「ああ。えーと、君は」
「ガブリエルです。フラー・デラクールの妹です!」
「そうだ。ガブリエルだ。何か姉のフラーよりも英語が上手じゃないか?」
「練習したんです。あなたにお礼が言いたくて。あ、そっちの人にも」
ガブリエルはエスペランサの横に居たハリーにも笑顔を見せる。
姉のフラーと似て、ガブリエルもかなりの美人であったが、姉よりも身長は低く、顔には幼さが残っている。
フローラを社交的にしたらこんな感じなのだろう、とエスペランサは思った。
「あれは俺が勝手にしたことだ。それに、俺はセドリックを助ける為に動いただけで、君を助けようとは考えていなかった」
「でも、あなたが居なかったら私は溺れていたと思います。あの時は溺れかけて何も見えてなかったけど、セドリックさんが色々と教えてくれました」
「あの野郎…………」
「それに、セドリックさんはこうも言っていました。"エスペランサは素直じゃない。お礼を言っても素直に聞いてはくれないだろう"って」
「あいつ!」
へへへ、とガブリエルが笑う。
とても愛嬌のある笑顔だ。
ヴィーラの血が入っていることもあって、その笑顔にハリーとロンが釘付けになっている。
「それで、お礼と言っては何ですが、良かったら私たちの馬車に来ませんか?」
「は?」
「馬車の中は私たちの居住区になっているんですけど、そこで何かもてなす事が出来ればと…………」
ガブリエルが上目遣いでエスペランサを誘う。
エスペランサは困惑した。
罠か?
ボーバトンの居住区にホグワーツの生徒、しかも、セドリックの仲間であるエスペランサを誘うというのは、どう考えても罠でしか無いだろう。
しかし、このガブリエルという娘は純粋な眼差しでエスペランサの事を見ている。
一体………………。
「何を企んでいるのですか?ミス・デラクール?」
エスペランサに代わって疑問をぶつけてくれたのは、いつの間にか近くまで来ていたフローラであった。
彼女は手に何かの資料を持っている。
どうやら、その資料をエスペランサに見せるために来ていたようだ。
「フローラ。いつの間に?」
「あなたに渡す資料があったので、随分と長い時間、城の中を探させて頂きました」
「何だか俺が悪いみたいな言い方だ」
「で、彼を馬車に誘い込んで何をしようとしていたのですか?拷問ですか?」
冷ややかな目をするフローラにガブリエルはムッとした表情をする。
「違います!私はただ、エスペランサさんにお礼がしたくて!」
「名前で呼ぶとは随分馴れ馴れしいですね」
「べ、別に良いじゃないですか!というか、あなた誰ですか?彼の何なんですか?」
「え、私は………。ええと、あなたの何なんでしょうか?」
「俺に聞くなよ」
口論になるフローラとガブリエルだったが、二人とも小柄なので子供の喧嘩にしか見えない。
口論の内容も幼稚である。
だが、普段は冷静なフローラがこうも取り乱すところをエスペランサは始めて見た。
それは、他の生徒も同じだったようである。
「おったまげー。あのカローが熱くなってるよ。すげえや」
ロンも驚いていた。
「兎に角、私は今からこの人に用件があるんです」
「ちょっと!私が先に誘っていたんですよ?泥棒猫!」
フローラは相変わらず無表情だが、目の下がピクピクと動いている。
「聞き捨てなりませんね。泥棒猫ってどういうことですか?」
「その名の通りです!人の恋路を邪魔して!」
「「 は?恋路? 」」
エスペランサとフローラが同時に言葉を出した。
「そうですよ!私、この人のこと好きになっちゃいましたから!邪魔しないで下さいね」
この台詞にエスペランサとフローラだけでなく、ハリーたちも、そして、偶々通りかかった他の生徒たちも目を丸くする。
「気は確かか?」
「そうだよ。相手はエスペランサだぜ?」
「ムーディに服従の呪文でもかけられたんじゃないのか?」
皆、口々に叫ぶ。
「お前ら言いたい放題言いやがって。君も冗談はやめてくれ」
「冗談じゃありません。本気です!」
ガブリエルはエスペランサの目を真っ直ぐに見て言う。
「何で俺なんだ?セドリックじゃないのか?」
「だって、水魔と戦う姿がカッコ良かったんですもん」
彼女はモジモジとして、顔を赤くしながら呟く。
エスペランサは困り果ててしまった。
「なあ。好意はありがたいが、俺はその好意を受け取るわけには………」
「分かってます。でも、安心しました。普通の男の人なら私やお姉ちゃんに告白されたらイチコロなんですけど、エスペランサさんはそうじゃないみたいですね。落とし甲斐があるってもんです」
ガブリエルはニヤリとする。
「お前。良い性格してるわ」
「えへへ。必ずあなたのことをメロメロにしてみせますから、覚悟しておいて下さいね」
彼女はそう言い残して足早にその場を去っていった。
残されたエスペランサたちは空いた口が塞がらない。
「なあ、俺はどうすりゃ良いんだ?」
「知りません」
「ところで、フローラは俺に何の用件があって来たんだ?」
「ああ。これです。新規隊員の素質がある生徒の名簿を渡しに来ました」
「それはありがたい」
それから数週間、センチュリオンの隊員たちは平和な日々を送っていた。
セドリックが第二の課題をクリアして安堵していたと言うのもあるし、日々の訓練以外に特に戦闘がある訳でもなかったためだ。
ただし、エスペランサとセオドールは密かにセンチュリオンの戦力増強のために動いていた。
フナサカと手先の器用な隊員たちには機動車輌の開発をさせていたし、ナパーム弾を簡易的なお手製のロケットランチャーによって射出することにも成功していた。
バジリスクの毒から精製したポイズン・バレットの増産もしている。
さらに、ホグワーツ城内に予備の武器庫や火薬庫を設けた。
元々、エスペランサは対バジリスク用に、城内のあちこちに爆薬や弾薬庫を設置していたのだが、それの数を増やしたのである。
理由は、ここ数日でキナ臭い事件が度々起こったためだ。
「ポッターの話を信じるのなら狂ったクラウチ氏がクラムを襲ったという訳か」
「ああ。どうもそうらしい」
廊下にある隠し扉の裏に5.56ミリ弾の弾箱を押し込みながらエスペランサは言う。
彼らは城内の隠し扉という隠し扉全てに弾薬を搬入していた。
「クラウチ氏が病気なのは新聞で知っていたが、まさか、精神病だとはな」
審査員の一人、バーティ・クラウチは病気故に審査員をパーシーに任せて、療養していたと聞く。
しかし、数日前にハリーとクラムが禁じられた森の近くを歩いていると、浮浪者のような格好をしたクラウチがどこからともなく現れたようだ。
そして、ハリーがクラムをその場に残し、ダンブルドアにその旨を報告しに行ったのだが、その隙にクラウチはクラムを襲い、逃亡したとのことである。
「それだけじゃない。学校外では魔法省の職員であるバーサって女が行方不明になっているし、そもそも、ハリーが代表選手になったのだって事件だ」
「ふむ。確かに今年のホグワーツはおかしい。いや、毎年おかしいんだがな」
弾薬の搬入を終えた二人は廊下を歩きながら話す。
「そうだ。セオドールは憂の篩って知ってるか?」
「ああ。聞いたことはある。ペンシーブのことだろ?人間の記憶を補完することのできる魔法道具だ」
「なら話は早い。ハリーがダンブルドアのペンシーブをこの間、覗いたらしいんだ」
「何て怖いもの知らずな奴なんだ。僕は偶にポッターの好奇心が怖くなる」
「俺もさ。それで、ダンブルドアのペンシーブにはクラウチの息子がアズカバンに送られる時の記憶が入っていたらしい」
「へえ。それは興味深い」
「記憶では、カルカロフは死喰い人の名前をクラウチに教える代わりにアズカバン送りを免れようとしたらしい。それで、カルカロフはクラウチの息子が死喰い人だということを法廷でバラした」
「それは有名な話だな。ついでに言えばクラウチの息子はネビルの両親の拷問に関わっている」
「初耳だ。それで、まあ、クラウチの息子は最後までクラウチに助けを懇願していたらしいが、有無を言わさずにアズカバンに送られたっていう話だ」
「クラウチの息子、つまりクラウチJr.がネビルの両親を拷問したのは間違い無い。クラウチJr.は根っからの死喰い人だったというのは僕の父も認めている」
「何で死喰い人になったんだろうな?元々、クラウチJr.って野郎は優秀だったんだろ?」
「さあね。それは本人にしか分からないさ。ところで、第3の課題の内容が発表された訳だが、セドリックは優勝できると思うか?」
セオドールが話題を変えた。
第3の課題の内容はバグマンによって既に公表されている。
クィデッチ競技場に巨大な迷路が作られ、その中に潜むトラップを突破しながらゴールを目指すというものだ。
「実戦経験豊富なセドリックには有利な課題だ。迷路の中には様々な魔法生物が配置されるらしいが、まあ、これらはセンチュリオンの持つ武器で一蹴出来るだろう」
「我々がセドリックに出来る支援は?」
「ほとんど無いだろうな。祈るくらいしか出来ないさ」
エスペランサは作りかけの迷路を偵察しに行っていたが、外からは迷路内の様子が全く見えなかった。
これでは、支援は出来ない。
だが、彼はセドリックに使えそうな装備を既に渡し、戦闘訓練も行なっていた。
「そうだな。じゃあ僕も気休めに祈るとしよう」
セオドールは苦笑いしながらそう呟いた。
「あ、居た居た!探したんですよー」
廊下の端からエスペランサたちの方へ手を振る生徒がいた。
ガブリエルだ。
あの日以来、彼女はエスペランサの行く先々に姿を表すようになっていた。
「また出た。今日は何の用だ?」
「特に用はありません。おや?こちらの方は?」
「俺の仲間のセオドールだ」
セオドールは興味津々でガブリエルのことを見る。
「へえ。この子が例のガブリエルか。エスペランサから話は聞いている」
「はじめまして!ガブリエルです!」
「愛想も良いし、可愛いし、こんな子に好かれてるなんて良かったじゃないか」
「ちっとも良くねえ。最近は、半分ストーカーになって来てるし。やっぱり水魔に食わせとくべきだった」
「酷いですよ!あの時は必死で助けてくれたのに」
「だから、別にお前を助けた訳じゃ無い」
エスペランサとガブリエルのやり取りをセオドールは笑いながら見ている。
「エスペランサは変な女にモテるようだな」
「勘弁して欲しいものだ。というか、お前、俺らに絡んでて大丈夫なのか?一応、ボーバトンの代表の妹だろうが。敵対する選手の仲間とつるんでいるのはよろしく無いだろ」
「それなら問題無いですよ。そもそもこの大会は3校の生徒の融和団結を目標としたものなんです。だから、ホグワーツの生徒と仲良くするのも大会の醍醐味ですよ」
「意外とまともな事を言う。ホグワーツの生徒よりよっぽどしっかりとしてる」
セオドールが感心した。
「そうですよ!それに、お姉ちゃんは絶対に優勝します!前回は水魔相手に遅れを取りましたが、今回は負けませんから」
「へえ。余程自信があるみたいだな。だが、勝つのはセドリックだ。賭けても良い」
「言いましたね。じゃあ、賭けましょうか。そうですね。もしセドリックさんが勝てば、私は大広間を逆立ちで1周してあげます」
「何だそりゃ。じゃあ、そうだな。もしフラーが勝ったら、うちのエスペランサを1日好きなように使って良いぞ」
「は?セオドール。お前、何を言ってるんだ」
「決まりです!うわー。楽しみだなぁ」
ガブリエルはスキップしながら、大広間の方へ行ってしまった。
「おいおい。何してくれてるんだ。聞いてないぞ」
「隊長。セドリックが勝つに決まってるだろ?隊長は隊員のことを信じてあげないといけないだろうが」
「それは、そうだが。お前、楽しんでるだろ?」
「さあ?」
第3の課題は目前に迫っていた。
ガブリエルを登場させたのには意味があります。