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エスペランサは観客席で課題の行く末を見守っていた。
と言っても、見えるのは緑色に輝く湖面のみだ。
「しっかし、セドリックは大丈夫なのか?クラムは浮上してきたけど、その他の選手は全然上がってこないじゃねえか」
エスペランサの横に座るコーマックがボヤいた。
センチュリオンの隊員たちは固まって課題を見学している。
「地図も武器もあるんだ。真っ先に課題をクリアするだろうと思っていたんだが、何かトラブルに巻き込まれたんだろうか?」
セオドールも心配した。
湖底に潜む脅威は水魔と水中人のみ。
前者は水中銃が無くても、魔法が使えれば撃退可能。
後者は原始的な武器しか持っていないのでセドリックが遅れを取ることはない。
「おっハリーが浮上したぞ!」
コーマックやネビルといったグリフィンドールの隊員が歓声をあげる。
グリフィンドールの生徒が固まっている観客席も歓声をあげている。
スリザリン生たちはこれ見よがしに「汚いぞポッター」のバッジを光らせていた。
「残り時間、10分ですね」
フローラが腕時計を見ながら言う。
「おいおい。ポッターの奴、チョウも救出してるぞ。どうなってるんだ?」
「ハリーのことだから、全員助けようとしたんじゃ?」
「いや、それならフラーの人質も一緒に助けるだろう?」
隊員たちがざわつきだす。
「これは、あれだよ。ドロドロな愛憎劇ですな」
フローラの横に居たダフネがニヨニヨしながら言う。
「あ、愛憎劇?」
「うん。ポッターはチョウのことが好きだったみたいだし、セドリックを出し抜いてチョウを助けたんだよ。うあー。面白くなってきたー!」
「お前は一体誰の味方なんだ?」
一人興奮するダフネを無視して、エスペランサは双眼鏡で湖面を見る。
チョウとロンを抱えたハリーは疲労困憊といった様子だ。
ハリーは審査員とスタッフの待機している桟橋へ何か叫びながら泳いでいく。
「ハリーは何を叫んでいるんだろうか?」
「うーん?ん?エスペランサ、あそこを見てくれ」
「あれは!」
ハリーが浮上した位置から少し離れた湖面からセドリックが浮上してくる。
だが、その身体はボロボロになっていた。
肩は何かに裂かれ、出血している。
顔面は血やどす黒い液体に塗れていた。
そして、彼はフラーの妹を抱えている。
「セドリックは何でフラーの妹を助けたんだ?」
エスペランサは疑問に思ったが、その疑問はすぐに解消された。
フラーは開始早々に水魔に襲われてリタイアしている。
故にフラーの妹を助ける人間は存在しない。
だが、セドリックとハリーは全員を助けようとしたのだろう。
「あの馬鹿。全員助けようとしたのか。それで勝機を逃すとは。誰の影響なんだろうな?」
セオドールが溜息を吐きながら言う。
その誰かさんであるエスペランサはセドリックの周囲の異変に気づいていた。
まず、フラーの妹が目を覚ましてしまい、パニックに陥っている。
溺れかけてパニックになった人間を水中で助けるのは非常に難しい。
下手をすれば救助者も溺れてしまう。
故にこういった場合、一旦、溺者を離さなくてはならないのだが、現状、それも出来ない。
何故なら、セドリックたちの周囲は無数の水魔に囲まれていたからだ。
「やべえ!やべえぞ!どうする?エスペランサ!」
「どうするも何も、こうなれば審査員かスタッフが何とかするだろう」
「いや、でも何か審査員たち何もしてねえぞ」
審査員たちは何もしていない。
と言うよりも何も出来ないようだ。
まず、ほとんどのスタッフがハリーたちの救助に出払っている。
カルカロフは見て見ぬ振りをしている。
フラーは泣き叫び、マダム・マグシームがそれをなだめていた。
頼みの綱はバグマンやパーシー、ダンブルドアたち教職員だ。
「エスペランサ。どうして職員はセドリックを助けないんだ?」
「助けたくても助けられないんだ。まだ、試合が終わっていないから手を貸せないってのもあるんだろう。だが、まず、セドリックたちと水魔の距離が近過ぎる。水魔に魔法を当てようとしたらセドリックたちに誤射してしまう距離だ」
セドリックと水魔の距離はほぼゼロである。
セドリックはパニックに陥ったフラーの妹を必死で助けようとしているために水魔の攻撃を防ぐことが出来ない。
彼の身体には既に5匹の水魔が纏わりついて、皮膚を喰いちぎり始めていた。
フラーの妹がまだノーダメージなのはセドリックの異常なまでの体力と気力のおかげだろう。
それも、もう保たない。
「なるほど。敵が近過ぎて手が出せないのか。でも、何とかする魔法がある筈だ。ダンブルドアなら!」
「いや、ダンブルドアにはセドリックを助けさせない」
エスペランサが言う。
「え?」
「ダンブルドアは審査員だ。ダンブルドアや他の審査員に助けられたとしたら、セドリックはその時点で失格になるか、大幅な減点を食らう」
「でも、このままじゃ!」
フラーの妹はかなり水を飲んだのかグッタリとし始めた。
セドリックはそんな彼女を何とか湖面に引き上げつつ、水魔の攻撃から守っている。
水魔はセドリックが反撃しないことをいいことに、更なる追い討ちをかけていた。
観客席の生徒たちは悲鳴をあげている。
ダンブルドアやマクゴナガルといった面々が杖を持って立ち上がるのを目視したエスペランサは決意する。
「俺が行く。課題の妨害とみなされるかもしれんが、関係ないだろっ!」
そう言ってエスペランサはコートやローブ、靴を脱ぎ捨てて、観客席から桟橋へと駆けていく。
「くそっ!セドリックがセドリックなら隊長も隊長で馬鹿だ!総員、隊長を援護しろ!」
セオドールは隊員たちに指示を飛ばす。
隊員たちは各人が隠し持っていた武器を湖面に向かって構え始めた。
拳銃、サブマシンガン、自動小銃。
ネビルはM24狙撃銃を構えて、スライドを引いた。
彼らの持つ銃には自動追尾の魔法がかけられている。
手ブレによって命中率の下がる魔法よりも遥かに命中精度が良い。
「絶対に隊長たちに当てるなよ!水魔だけを狙え!」
ベレッタを取り出しつつ、セオドールは声を上げた。
Tシャツとズボンのみになったエスペランサは桟橋から勢い良く湖に飛び込んだ。
「くそっ!思ったよりも冷たいじゃねえか!」
身体を突き刺すような冷たさを全身で感じつつ、エスペランサはセドリックの元にクロールで泳いでいく。
あっという間にセドリックの元に辿り着いたエスペランサは、飛びかかってきた水魔2匹を素手で掴み、それを二つに引き裂いた。
観客席からはその光景を見て悲鳴をあげる生徒の声が聞こえる。
「セドリック!大丈夫か!」
「ガバッ。だ、大丈夫、だ」
「その様子だと助けが必要なようだな」
水をがぶがぶ飲みながらも必死でもがくセドリックを助けるべく、エスペランサは彼の腰にぶら下がっていたサバイバルナイフを抜き取って、さらにもう3匹の水魔を倒す。
「セドリック!その娘の頭に泡頭呪文をかけろ!それで溺れはしなくなる。俺は襲ってくる水魔を倒す」
「ああ!わかった!」
セドリックは溺れかけていたフラーの妹に泡頭呪文をかける。
新鮮な空気を確保した彼女は落ち着きを取り戻した。
エスペランサが来ただけで、戦況は変わっていく。
セドリックは彼が隊長を務めることが出来ている理由が何となく分かった。
エスペランサの姿を見て、尽きかけていた体力が元に戻っていく気がした。
タタタン
タタタタン
ターン
遠くで乾いた射撃音が聞こえる。
間違いない。
センチュリオンの隊員たちがセオドール指揮の下で射撃をしているのだ。
彼らの放つ銃弾は見事に全て水魔に命中していく。
「立ち泳ぎしながらの戦闘は、疲れる。うらっ」
水面に顔を出しながらエスペランサは襲いかかってきた水魔を次々に倒していく。
射撃と相まって水魔の数は激減した。
その機を逃さず、セドリックはフラーの妹を連れて桟橋まで泳いで行く。
「大丈夫か!」
「よし!今引き上げてやる!」
「しっかりしろ!」
桟橋にはスタッフや審査員、職員を押し退けてセンチュリオンの射撃に参加していなかった隊員たちが待ち構えていた。
マイケル、フナサカ、ザビニに支えられてセドリックは桟橋の上に引き揚げられる。
フラーの妹はグリーングラス姉妹が引き揚げ、フローラが疲労回復の魔法をかけまくっていた。
「た、助かった。ありがとう」
「お礼なら後で隊長に言っておけ」
「ああ。そうするよ」
セドリックは湖面の方を向く。
エスペランサは水魔を何とか撃退し、自力で桟橋へ戻ってきていた。
流石の彼も疲れ切っているようだ。
桟橋に上がったエスペランサはすぐに地面に倒れ込む。
「もう、二度とごめんだ。水魔なんて大嫌いだ。あいつらズボンの中に入り込んで攻撃してきやがった」
「良かったじゃないか。必要の部屋にはまだ沢山の弾がある。二つくらい無くなっても問題ないだろ」
エスペランサの言葉を聞いたフナサカがニヤリとして返す。
その言葉の意味を理解した女性隊員たちが冷たい目を向けていた。
「ガブリエル!ガブリエル!あの子は平気なの?」
和やかな雰囲気の隊員たちを押し退けてタオルを身体に巻いたフラーが走り込んで来る。
「大丈夫です。意識も回復していますし………」
「ああ!」
フローラがフラーに報告し終わらない内に彼女は妹のガブリエルに抱きついた。
見ればフラーの身体も傷だらけである。
恐らく水魔にやられたのだろう。
「お、お姉ちゃん。私は大丈夫だから」
「本当に?怪我とかは無いの?」
「うん。あの人たちが助けてくれたから」
フラーの妹はフローラの魔法による治療の甲斐もあって、喋ることが出来るまでに回復していた。
「妹を助けてくれてありがとうございます」
フラーがセドリックとエスペランサに言う。
「いや。僕は別に。助けたのは僕だけじゃなくて、ハリーもだ。それに、隊長、じゃなかった。エスペランサが居なければ無事に戻って来れなかった」
「ええ。ええ!本当にありがとう!」
辿々しい英語でお礼を言った後で、彼女はセドリックとハリー、そして、サバイバルナイフについた水魔の血を拭き取る最中だったエスペランサの両頬にキスをかました。
「は?」
ハリーは顔を真っ赤にし、セドリックはチョウが近くに居ないことを確認し、そして、エスペランサは持っていたナイフを湖に落としてしまった。
「あ、やっちまった」
エスペランサは何が起きたか分からなかった。
「うおおおお!」
「あの隊長にキスをする猛者がここに居ようとは!」
「どうだ?はじめての感想は!?」
「おーい!誰かチョウを呼んでこい!」
「あー!今この場にコリンが居て、写真を撮ってくれていたらなー。ピュリッツァー賞取れるぜ?」
隊員たちが囃立てる。
フラーはまた妹のガブリエルに抱きついていた。
放心状態のエスペランサはこの和やかな雰囲気の場にも関わらず、殺気を感じとった。
振り向けば、フローラをはじめとする女性隊員たちが冷ややかな目で見ている。
「あー。俺も奇襲には弱いらしいな。宣戦布告も無しにキスされたら堪らん」
「へえ。じゃあ宣戦布告したら良いんですか?」
フローラが冷たく言う。
「あ?何を言って?」
「のぼせて頭が回ってないみたいですね。もう一度、湖で冷やしてくると良いんじゃないですか?」
そう言いながらフローラはエスペランサの背中を蹴飛ばした。
彼は頭から湖に落下する。
ブクブクと湖に沈みながらエスペランサはこの身に起きた理不尽について嘆いていた。
結果はクラムが1位でハリーとセドリックが同率で2位。
フラーは脱落したので3位であった。
水中人がセドリックが最初に辿り着いたことと、ハリーと協力して人質全員を解放しようとしたことをダンブルドアに報告したためだ。
ハリーが鰓昆布というものを使ったことは審査員のバグマンの解説ではじめて分かったことである。
セオドールは「その手があったか」と嘆いていた。
湖から引き揚げられてガタガタ震えていたエスペランサには鰓昆布がどのようなものなのかは分からなかった。
セドリックは桟橋に到着した時点で1分オーバーしており、ハリーはギリギリ間に合っていたらしい。
だが、道徳的であったとして、カルカロフを除く全員の審査員は高得点を与えてくれたようである。
バグマンは最後に、第3の課題が6月24日に行われることを発表して幕を閉じさせた。
生徒たちが散々午後、城へ戻っていく中で、セオドールは湖畔に残っていた。
「先生。ムーディー先生」
セオドールと同じく、湖畔に残っていたムーディーを呼び止める。
彼は足が悪いため、他の職員よりも城に戻るのが遅れていた。
「どうした?他の生徒は皆、城へ向かったぞ」
「そのようですね。そっちの方が好都合です」
「何?」
「他の生徒には聞かれたくないので。特に、エスペランサには」
セオドールは周りにもう生徒や職員が残っていないことを確認して、ムーディーに近づいた。
「何の話だ?」
ムーディーの声音に警戒心が宿る。
「先生は闇祓い時代、多くの死喰い人をアズカバンに送ったそうですね」
「ああ。そうだ。送り損ねた奴も居るがな。お前の父親とか」
「僕の父の話はまた今度しましょう。今日は別の死喰い人の件で聞きたいことがあって来ました」
「ふむ。誰の話だ?」
「オーガスタス・ルックウッドです」
少し短いですがキリが良いので投稿しました。
第3の課題は6月24日。全世界的にUFOの日ですね。
イリヤの空、おすすめです。