ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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感想などありがとうございます!
今日は総火演の実況がありましたね!
作中に出してる81ミリ迫撃砲の突撃支援射撃をドローンで撮影していたのには感激でした。


case55 Unexpected challenges 〜予期せぬ課題〜

ハリーポッターにモテ期襲来。

 

第一の課題が終わってからクリスマスダンスパーティーの告知がマクゴナガルからされた。

クリスマスダンスパーティーは3校対抗試合の伝統らしく、今回も例外なく開催されるそうである。

センチュリオンの中でもクリスマスダンスパーティーの話題が四六時中されていた。

 

「ドレスローブを持って来いってのはこの時のためだったのか」

 

定期訓練後の武器整備の時間。

女性隊員たちがキャアキャア言いながら盛り上がるのを横目にエスペランサは一人納得していた。

 

「隊長殿はあまり興味がなさそうですな」

 

コーマックが銃を分解しながら言う。

 

「女子たちは兎も角、男子たちはダンスパーティーに興味なんてないだろ?」

 

「ところがどっこい。そうでもないんだ。思春期男子にとって女子と踊るなんて夢のような話だろ。興味ないのは隊長くらいなもんだ」

 

エスペランサは周囲で銃の整備をする男性隊員を見渡す。

確かにソワソワしている隊員が多い。

 

「セオドールも興味あるのか?」

 

「僕は幼い頃からこの手のパーティーには結構参加してきたから、今更興味は湧かない。純血家庭はだいたいパーティーを開くものさ」

 

センチュリオンの隊員には純血家系が何名か含まれている。

セオドールやグリーングラス姉妹、フローラやネビルだ。

その他にも魔法界では上流階級の家出身の隊員も多い。

マグル出身はエスペランサやフナサカくらいなものであり、皆、パーティー慣れしているのだろう。

 

「僕はパーティーなんて参加したことないよ。婆ちゃんがそういうの好きじゃないし」

 

ネビルが言う。

 

「まあ今はダンスパーティーに興味がある無しの話よりも、誰を誘うかの話をした方が良いんじゃないか?」

 

「そりゃそうだ。でも、アーニー。誰を誘ったら良いんだ?」

 

「手軽なとこで言えばうちの隊員だな。頼みやすいから楽だろう」

 

確かにセンチュリオンの隊員たちは数々の修羅場を乗り越えてきたことで強固な絆がある。

ダンスパーティーに誘うくらい何てことはないだろう。

 

「いやいや。待て待て。それじゃ面白くないだろ!」

 

「そうだそうだ。隊員とダンスパーティーに行っても普段の訓練と何ら変わりないじゃないか」

 

「我々は"沙婆“の女子と、こう、なんというか、イチャつきたいんだよ」

 

隊員たちが口々に叫ぶ。

その叫びを女性隊員たちは冷めた目で見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスペランサは勿論、ダンスパーティーに参加する気は毛頭無かった。

マクゴナガル主催のダンスレッスンは全てサボるつもりだった。

 

「何でハリーはこんなにゲッソリしてるんだ?」

 

寮の談話室に戻ったエスペランサは暖炉の前で虚な目をするハリーを目撃した。

 

「ハリーは今日、3人もの女の子からダンスパーティーのパートナーを申し込まれたのよ」

 

「僕からしたら羨ましい限りだけどね。代表選手は女の子を取っ替え引っ替えさ」

 

女慣れしていないハリーには相当堪えたらしい。

見事なチェリーボーイっぷりである。

 

「誘われたならオッケーすれば良かったじゃないか」

 

「だって皆、知らない人や上級生ばかりだったし」

 

「別に知らない人でも構わないだろ。それとも何だ?誘いたい人でもいるのか?」

 

エスペランサの何気ない一言にハリーは一瞬、固まった。

どうも図星らしい。

 

「代表選手も大変だな。全員の前で代表して踊るんだから、サボることもできない」

 

「エスペランサはサボるつもりなのかい?」

 

ロンが目を丸くして言う。

ダンスパーティーは4学年以上はほぼ強制参加である。

だがしかし、サボることは容易だ。

別に出席をとられるわけではないのだから。

 

「当たり前だ。だいたい、俺はチャラチャラした催しが苦手なんだよ」

 

「へぇ。君はとっくに相手を見つけてると思ったんだけどなー」

 

「そんなわけないだろ。俺をダンスパーティーに誘うような変人がホグワーツにいると思うか?」

 

エスペランサのホグワーツでの立ち位置は常時武器を持ち歩く物騒な変態である。

女子はおろか、男子からも距離を取られることが多々あった。

勿論、センチュリオンの隊員は除く。

 

「うーん。見た目は問題ないけど、中身の問題なのよね」

 

「ハーマイオニー。失礼だな。中身の問題って何だよ」

 

「まあ、エスペランサは兎も角、僕らはやばいぜ。ハリー。僕らもフレッドのようにチョチョイと相手を見つけないと」

 

ロンの兄であるフレッドは談話室であっさりとアンジェリーナを誘い、了承を得たみたいだ。

 

「ハリーは誘いたいような子がいるのか?」

 

「えっ!?いや、あの。別にそんな人はいないよ!」

 

エスペランサの何気ない問いに慌てふためくハリー。

露骨な反応過ぎて笑えもしない。

 

「だがハリー。僕たちも行動すべきだぞ。じゃないとトロールと踊る羽目になりそうだ」

 

ロンが言う。

 

「あら?ロン?トロールですって?」

 

「ああ。まあ、そうさ。残り物の、例えばエロイーズ・ミジョンとかと行くくらいなら一人で行く方がマシってものさ」

 

エロイーズ・ミジョンは痘痕面が酷い女子生徒である。

確かに美人とは言い難いが、性格は良いことでも有名だった。

 

「酷いわ、ロン。あの子のニキビはこの頃良くなってきたのよ?それにとっても良い子だわ」

 

ハーマイオニーが憤慨する。

 

「つまりロンは性格は兎も角、可愛い子と行きたいわけだ」

 

「そりゃそうだろ?その点、エスペランサは良いじゃないか。性格は兎も角として、可愛い子と仲良いし、簡単に誘えそうじゃないか?」

 

「は?どういうことだ?」

 

「だって、君は妹の方のカローやグリーングラス姉妹とかと仲良いだろ?チョウ・チャンと話してるのもよく見かけるし」

 

チョウの名前が出てきたところでハリーの顔色が変わったのを敢えて無視したエスペランサは首を傾げる。

 

「フローラのことか?それにダフネたち?いや、あいつらを誘おうとは考えてもいないんだが。そもそも俺はダンスパーティーに行く気すらない」

 

「そりゃ勿体ないぜ?カローはスリザリン生だし、生意気でいけすかない奴らだが顔だけは良いんだから」

 

フローラの容姿はホグワーツでも5本の指には入る。

ただし、無口でちっとも笑わなく、ついでにカロー家という曰く付きの家の娘であることからほとんどの生徒は近寄りたがらない。

逆にダフネとアストリアのグリーングラス姉妹は人懐っこい性格と幼げな容姿で人気がある。

 

ただし、フローラのことを良く知るエスペランサは彼女が本当は他の生徒よりも優しく正義感もあり、ちょっと弱虫なところも分かっていた。

 

そのせいなのか、それとも他に思うところがあるためかは知らないが、エスペランサはロンの「生意気でいけすかない」というフローラに対する評価に少し腹を立てた。

 

「ロン。お前がスリザリン生を嫌うのは知っているが、フローラは良い奴なんだ。その悪口は聞き捨てならんな」

 

「あら。やけに彼女のことを庇うのね?」

 

それまでムスッとしていたハーマイオニーが興味津々といったかんじで言う。

 

「そりゃあ、そうだろ。だって・・・・・・」

 

「だって?」

 

「・・・・・・」

 

フローラが悪く言われることに反発心を抱く理由がエスペランサには上手く説明できなかった。

 

「俺のことは置いておいて、問題はハリーだろ?代表選手がパートナー無しとか洒落にならん。最悪の場合、嘆きのマートルとダンスしたらどうだ?」

 

「笑えないよ。全校生徒の前でダンスするなんて。第一の課題の方が楽だったと感じるよ」

 

「第一の課題か。俺もハリーの活躍見てたぜ。見事なもんだった」

 

「ありがとう。でも、ハーマイオニーとムーディーの助力がなければ僕、課題をクリアできなかった」

 

「ムーディー?」

 

「うん。ムーディーが箒を使うっていうアドバイスをくれたんだ」

 

「へえ。やけにムーディーはハリーのことを気に入ってるんだな」

 

そういえばムーディーは授業でもハリーを気にかけているようだった。

エスペランサは実践的な授業をするムーディーをかなり評価している。

センチュリオンの隊員たちも同様だ。

 

「うん。でも、それが何故かはわからない」

 

「ハリーは間接的に死喰い人を壊滅させた張本人だから、ムーディーも思うところがあるんだろう。あの手の人間が味方っていうのは心強いぞ」

 

「エスペランサ。今はムーディーのことはどうでも良いんだよ。問題はダンスパーティーさ」

 

ロンが混ぜっ返した。

 

「ロンはそんなにパーティーに行きたいのか?俺と一緒にサボれば良いだろ?」

 

「クリスマス休暇に在校する上級生は強制参加なんだぜ?サボれないよ」

 

「仮病でも使えば良いさ。ほら、フレッドとジョージが開発したズル休みスナックボックスとやらを使えば良いだろ?何にせよ、俺はあの手の催しは苦手なんだ」

 

「あら?マグルの軍隊の士官って社交ダンスが教養って聞いたわよ?」

 

「そら士官はそうさ。だが、俺の肩書は元傭兵で特殊工作要員。そんな教養持ち合わせちゃいない」

 

「あなたって人は・・・・・・」

 

ハーマイオニーは呆れ返っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日間のうちにダンスパーティーのパートナーはほぼ決まりつつあった。

ホグワーツの男女比は若干男子の方が多い。

ダームストラングは男子校で、ボーバトンは共学とはいえほぼ女子校。

つまるところ、全体的に男子の方が多かった。

うかうかしてるとパートナー無しでダンスパーティーに参加する羽目になるというわけである。

 

センチュリオンの隊員たちはほとんどがパートナーを見つけているらしい。

元々、社交性の高い人間が多いからだろう。

 

ダンスパーティー前夜の今、センチュリオンの隊員たちも浮き足立っている。

やはり、色恋沙汰は士気を下げ、規律を乱す。

嘆かわしいことだとエスペランサは一人頭を抱えている。

 

気晴らしに図書館にでも行こうかと思い、彼は寮を出て、城の廊下をフラフラと歩いていた。

 

そんな時である。

 

「なあ。どうせまだ相手いないんだろ?なら僕のパートナーになってくれても良いじゃないか?」

 

階段の踊り場でしきりにパーティーに誘う男子生徒とそれを迷惑そうに断る女子生徒をエスペランサは見つけた。

 

女子生徒の方はエスペランサが良く知る生徒である。

 

フローラだ。

 

「ですから、私は参加しないと言っているんですが?」

 

「そんなこと家が許してくれるはずないだろ?僕なら純血のスリザリン家系だ。不足はないはずだ」

 

「そのような家柄に囚われた考えは好きではないので。他をあたってください」

 

男子生徒の執拗な誘いにうんざりしている彼女を見兼ねて、エスペランサは助け舟を出すことにした。

 

「白昼堂々と逢引とは大胆じゃねえか」

 

「あなたは・・・・・・」

 

唐突に現れたエスペランサに気づいたフローラが少し驚いた声をだす。

 

「ルックウッドか。なんだ?君のような異端児に話しかけられる謂れはないんだけどね」

 

一々尺に触る話し方をするこの男子生徒はスリザリンのグラハム・モンタギューという学生だったはずだ。

記憶が正しければ、1学年の時、同じように図書館でフローラに言い寄っていてエスペランサに撃退された哀れな生徒である。

 

ついでに言えば、彼は双子のウィーズリーと犬猿の仲であった。

事あるごとにモンタギューが双子にちょっかいを出す。

しかし、残念ながら勝敗は128戦120敗8引き分けだ。

毎回、返り討ちに遭って悪戯グッズの実験台にされている。

フレッドがいちいち勝敗をノートにつけているので勝敗の数は正確な筈だ。

 

「見た感じだとフローラをパートナーに誘って断られている最中か?哀れなことだな」

 

「何だと?」

 

「お前のような小物に彼女が扱える筈ないだろうに。悪いことは言わない。手を引け」

 

「生意気な。自分の立場をわかっていないようだ」

 

モンタギューは顔を真っ赤にして杖を取り出す。

3年前は呆気なくエスペランサに撃退されたが、この3年で魔法の腕に自信を持ったのだろう。

彼はエスペランサを恐れなくなっているらしい。

 

「その棒切れを振り回して俺と戦おうってか?」

 

「舐めるな。というか、お前に僕の妨害をする権利なんてないだろう。僕は単に彼女をパートナーとして誘っているだけだ」

 

「断られているらしいがな?」

 

エスペランサも杖を取り出す。

モンタギュー程度の学生相手なら銃を使わずとも倒せると判断したためだ。

 

「カローは本家からふくろう便で純血で名家の生徒をパートナーとして選ぶように今朝指示されたんだ。僕は善意から名乗り出ただけだ」

 

「そうなのか?」

 

「不本意ではありますが。家からはそう指示されました。少し訂正をするなら家からの命令は"ダンスパーティーに参加して名家や政界の人間とコネクションを作れ"です。パートナーにしろとは言われてません」

 

フローラはカロー家で政略結婚の道具として使われている。

本家からそのような指示がされても不思議ではない。

そして、立場上、彼女はそれを断ることはできないだろう。

フローラがカロー家でどのような目に遭ってきたのかをエスペランサも理解している。

 

「でも、この男とは行きたくない、と?」

 

「私にも相手を選ぶ権利くらいはあると思います。残念ながらこの方を選ぼうとは思えません」

 

相変わらずの無表情でフローラは答える。

その言葉に激情したモンタギューは杖をエスペランサからフローラに向け直した。

 

「調子に乗るな。お前のような顔だけの奴は黙って家の命令に従っていれば良いんだ」

 

「それ以上その口が動けば、お前の頭が吹き飛ぶぞ?」

 

エスペランサは杖を持っていない方の手で懐から拳銃を取り出してモンタギューの頭に銃口を向ける。

それと同時に、自分でも意外な程に頭に血が上り、冷静さを失っていることに気付いた。

 

何故、ここまで感情的になったのだろうか?

 

エスペランサは自問する。

 

フローラはセンチュリオン創設からの仲間で同時に部隊では部下に値する。

つまり、自分の部下が悪意に晒されていることに腹を立てているのだろうか?

エスペランサは自分の感情が昂った理由をとりあえず用意できた。

 

 

「ふん。またその妙な道具か?今度は3年前みたいにはいかないぞ。エクスペリa ・・・・・・」

 

モンタギューが呪文を唱える寸前、エスペランサは銃と杖を投げ捨て、彼に向かって突進する。

 

「え?」

 

彼はモンタギューの鳩尾付近に体当たりをかまして、呼吸を奪った。

 

「がはっ」

 

すかさず顎に頭突きを喰らわせ、怯んだところで相手の腕を捻り上げ、関節技を決める。

徒手格闘はあまり得意としないエスペランサであるが、格闘技など知らない魔法使い相手であれば充分にマウントが取れる。

 

「痛い!痛い!やめてくれ!」

 

「俺とお前の距離は3メートルも無かった。それなら魔法を使うよりも格闘戦に持ち込んだ方が勝率はあがる」

 

「グアッ」

 

後ろに捻り上げた腕をさらに上に持ち上げる。

激痛にモンタギューは喘いだ。

 

「そのくらいで良いと思います。あまり騒ぎになるとあなたにとっても不都合ですよ?」

 

エスペランサの背後に回ったフローラが言う。

確かにこの場面を教師に見られて罰則でも課せられたらセンチュリオンの活動に支障が出る。

エスペランサは大人しくモンタギューの腕を離して解放した。

 

「ぐっ。覚えてろよ?そのうち痛い目に・・・」

 

解放されて床に膝をついたモンタギューは恨めしそうにエスペランサを見る。

そんな彼にエスペランサは拾い上げた杖を向けた。

 

「今ここで痛い目に遭いたくないのならとっとと失せることだ」

 

「くそっ」

 

モンタギューはそそくさとスリザリンの寮がある方へ逃げ出した。

 

「すぐにカッとなって手を上げるところは直すべきところだと思います」

 

モンタギューが完全に去ったところでフローラが口を開いた。

 

「戦争は政治的交渉の継続だぞ?」

 

「は?」

 

「つまり、武力の行使も問題を解決する手段として有効ってことだよ。クラウゼヴィッツが言ってた」

 

「そうやって自分の行動を正当化するのも相変わらずですね。問題の解決には暴力的手段も厭わない、ということですか」

 

「センチュリオンが武装しているのは戦闘行為によって平和を維持するためだ。武力行使による問題の解決を否定したら我々の存在意義そのものが揺らぐ」

 

「あなたにしては理屈っぽいですね。その手の役回りは最近だとセオドールが受け持っているという認識だったのですが?」

 

「偶には俺だってインテリジェンスっぽくなっても良いだろ?」

 

「はあ。まあ、何にせよ助かりました。一応、感謝しておきます」

 

フローラは顔色一つ変えずに感謝の言葉を述べた。

 

「感謝されてるようには思えんが?」

 

「いえ、感謝はしているんですよ?ただ、このようなことはここ1週間毎日のように行われてきたので・・・・・・」

 

「毎日?」

 

「ええ。スリザリン内で正統な純血家系であるカロー家はブランドなので、ダンスパーティーにパートナーとして誘いたがる人も多いのでしょうね。今日だけでも3人から誘いを受けました」

 

「そりゃあ災難だ。でも、誰か一人は良い奴はいなかったのか?」

 

「残念ながら。一様に純血思想に染まった人ばかりで。好意から誘ってくる人はいません」

 

フローラは少し寂しそうに言った。

 

「セオドールや他の隊員たちは?」

 

「もうパートナーがいますよ。知りませんでしたか?」

 

「知らん。そもそも俺は行くつもりすら無かった」

 

「4学年以上の学生でクリスマスに残留する生徒は強制参加と言われてますが?」

 

「腹を壊したとか嘘をついてサボる予定だった」

 

「私もそう出来たら良かったんですけどね」

 

フローラの立場は複雑だ。

家の命令に背くことは難しい。

ならば、適当にパートナーを作ってしまえば良いとも思えるが、言い寄って来る男連中は先程のモンタギューのような者ばかりときた。

 

「なあ。フローラが誰かを誘うってのは駄目なのか?」

 

「誰を誘うんですか?他寮の生徒はカロー家と聞いただけで嫌な顔をしますし、スリザリン生は一部を除いて相容れない存在ばかり。センチュリオンの隊員はもうパートナーが決まっている・・・・・・」

 

「そうか。それもそうだな」

 

なら余っているハリーやロンあたりをあてがってみても良いのではとエスペランサは考えた。

しかし、スリザリンアレルギーのあるロンは拒否するだろう。

ハリーは闇陣営とは敵対関係にある故に現実的ではない。

 

それならば。

 

「いっそのこと・・・。俺と参加すれば良いんじゃないか?」

 

「え?・・・・・・え?」

 

「あ、いや。つまりだ。フローラはダンスパーティーに参加してコネクションを作れと命令されてるんだろ?だから、参加さえしてしまえば良い訳だ。それでもって、パートナーは、まあ、俺なら偏った純血思想に染まってるわけじゃないし、一応、センチュリオンの仲間だ。さっきのモンタギューよりはマシじゃないかと思ったんだが」

 

「・・・・・・」

 

「あー。変なこと言ったな。そもそも、ダンスパーティー関係で俺はお前のことを怒らせてたんだっけ?悪い。今のは無しだ。忘れてくれ」

 

「・・・・・・いえ。私でよろしいのですか?」

 

「あ?」

 

「ですから、あなたはダンスパーティーという催し自体が苦手で参加しない予定だったんですよね?でも、私のために参加することになるのは・・・・・・。私も嫌々付き合わせるようなことはしたくありませんので」

 

「ああ。そうだな。乗り気な訳じゃない。だが、困っている隊員のために動くのが隊長ってもんだ」

 

「そうですか。でも、本当によろしいのですか?相手が私で・・・・・・。こう言っては何ですが、カロー家の人間とダンスパーティーに行ったりしたらスリザリン生からもグリフィンドール生からもバッシングを受けることになりますよ?それに、私と行っても・・・・・・楽しくは無いかと」

 

「元々、俺は寮同士の対立とは無縁なアウトロー的存在だ。そんなこと気にもしない。それに、確かにダンスパーティーなんて興味も無いし、苦手でもあるが、フローラと行くのなら少しは楽しめそうな・・・・・・気もする」

 

「そう・・・・・・ですか。それでしたら、そのお誘い、ありがたく引き受けます」

 

「お、おう。任せとけ?」

 

エスペランサは何故、自分がこのような提案をしてしまったのか自分でも理解していなかった。

何があってもサボろうとしていたのに、フローラの寂しそうな顔を見たら、誘いの言葉をかけずにはいられなくなったのである。

 

本来、エスペランサ・ルックウッドとはこんな人格の人間ではなかったはずだ。

 

「では、クリスマスの日にまた」

 

小さくお辞儀をしてからフローラはスリザリンの寮の方へ走り去ってしまう。

その姿を見送りながらエスペランサはやはり、自身の心境の変化に戸惑いを覚えていた。

 

故に遠くの方で「僕ダンパティいたい」という聞き覚えのある声が聞こえてきても彼はかまっている余裕がない。

 

「あ、ドレスローブってやつを買わないといけないのか」

 

ふと自分がドレスローブを持たず、ついでに一度もダンスの練習をしていないことに気づいたエスペランサは、ドレスローブを入手するためにそそくさとグリフィンドールの寮に帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スリザリンの寮は湖の下、つまり地下にある。

故に窓は無く、年間を通して談話室は薄暗いし、ジメジメしていた。

窓は無いが、湖底をガラス越しに見通すことは出来る。

他寮の生徒が見れば居心地の悪い寮だと言うだろうが、スリザリン生は気にしていない。

元々、彼らは明る過ぎる部屋を好まないためだ。

 

エスペランサと別れたフローラはそんなスリザリンの談話室に戻って来ると、暖炉の前で雑談をしているセオドールやダフネたちの元へ近づいた。

 

グリフィンドールの寮の談話室では、生徒はウィーズリー製の悪戯グッズで遊んだり、馬鹿騒ぎしたりするのが常だ。

だが、スリザリン生はそうではない。

幼少時から高等教育をされた者が多いためかもしれないが、大抵は勉学に勤しむか、あるいは社会情勢等について語り合っている。

あとは派閥争いをしているグループが少々。

 

暖炉前のソファに座りながら語り合っているのはセオドールとグリーングラス姉妹、それにザビニという黒人の生徒だ。

全員、センチュリオンの隊員である。

ザビニは元々、親マルフォイ派であり、セオドールの思う純血主義とは敵対する思想を持つ学生であった。

しかし、彼は3学年の最初にホグワーツ特急でフローラ同様、エスペランサに吸魂鬼から救ってもらった出来事を境に考えを改めたそうである。

もし、自分がエスペランサの立場なら敵対関係にある者の命を救おうとはしなかった。

だが、エスペランサはそんなことは気にせず、あの場にいた生徒全員を救おうとした。

 

フローラはエスペランサが別にザビニを救おうとして吸魂鬼に戦いを挑んだわけではないことを知っていたが、ザビニはいたく感激したようである。

なので、フローラはザビニをセンチュリオンに誘った。

ザビニは魔法の能力こそ並ではあるが、手先の器用さで右に出る者はいない。

センチュリオンではフナサカの武器開発のサポートもしている。

 

「お、フローラか。君の留守中に3人の男がパートナーの誘いに来たぞ」

 

セオドールがフローラの姿を見て言う。

フローラはセオドールの座るソファとは逆の位置に置かれたソファに座った。

 

「そうですか」

 

「どうするんだ?やはり、僕といく方が無難だとは思うが」

 

「いえ。お気遣いは無用です。それに、あなたはダフネと行くことになっているのでしょう?」

 

フローラはセオドールの横に座るダフネをちらりと見ながら言った。

 

ダフネ・グリーングラスがセオドールをパーティーに誘おうと躍起になっていたことをフローラは知っている。

毎晩毎晩、枕を相手にして誘いの練習をしていたダフネを見ていたためだ。

 

「それに問題は解決しました。先程、ある方がパートナーを名乗り出てくれましたので」

 

「うえ?誰が誰が?」

 

ダフネが興味津々といった様子で聞いてくる。

 

「隊長・・・・・・ですが」

 

「なんだと⁈」

 

フローラの回答にザビニが持っていたカボチャジュースを床に落とす。

 

「あのパーティーとは無縁そうな隊長が?恋人は対戦車榴弾とか言いそうな隊長が?錯乱の呪文をかけたか愛の妙薬でも盛ったのか?」

 

「かけてませんし、盛ってもいません」

 

驚愕するザビニを他所に、ダフネはニヨニヨと笑っていた。

 

「ふーん。道理でちょっと嬉しそうな訳なんだね」

 

「はあ?どういう意味でしょうか?」

 

「いやべっつにー」

 

「そういうあなたこそ嬉しそうですよね?」

 

「え?」

 

「念願でしたもんね?毎晩毎晩、どうやって誘おうか頭を悩まして・・・・・・。セオドールをパー・・・・・・」

 

「わー!わー!」

 

「なんだ?僕がどうかしたか?」

 

「なんでもないの!なんでも!」

 

ギャーギャー騒ぐダフネの声に反応して談話室にいた他の学生が近寄ってくる。

 

「へえ。君の相手はあのルックウッドなのか?」

 

ドラコ・マルフォイである。

 

今日は珍しく腰巾着二人を従えていない。

 

「そうですが?」

 

「君も変わり者だな。グリフィンドール生と行くというだけでも異端だが、まさかあの変わり者とは」

 

「そういう君は誰と行くんだ?」

 

「僕はパンジーと行く」

 

セオドールの問いにマルフォイは素っ気なく答えた。

 

「あの二人は?クラッブとゴイル」

 

「あいつらはまだパートナーを見つけていない。パートナーを誘えるほどの言語能力があるかも怪しいところだからな」

 

辛辣であるが、その通りであった。

彼らの言語能力は日常生活に支障があるレベルで低い。

マルフォイも意思疎通には四苦八苦していた。

 

マルフォイもザビニと同様に3学年の時、エスペランサに吸魂鬼から救ってもらった過去がある。

それ故、マルフォイはエスペランサに対して一目置いている節があった。

表には出さないが。

 

「そうだ。ルックウッドと言えば、僕はあいつの出身に興味がある」

 

マルフォイが言う。

 

「出身?エスペランサの出身は中東だ。特殊な過去を持つことには変わりないが」

 

「ああ。そうらしい。だが、ルックウッドと言う姓が少し引っかかるんだ」

 

「それ程珍しい名前では無いと思うが」

 

「そうかい?セオドール。君の父ならルックウッドという姓には覚えがあると思っていたんだが」

 

「ああ。それか」

 

ルックウッドという姓は英国魔法界では少しばかり有名だった。

悪い意味で、である。

 

「エスペランサ・ルックウッドと"あのルックウッド"との間に繋がりはありません。それは私だけでなく、他のスリザリン生も調べたことだとは思います」

 

「僕はそうは思わない。僕の父が言うには"あのルックウッド"をアズカバンに投獄したのは、あの老いぼれムーディーらしい。そして、奴が投獄する前にムーディーに何やら意味深なことを言い残したようだ」

 

「やけに詳しいな」

 

「ムーディーの弱みを握って潰してやろうと思って色々調べたんだ。その過程で、この情報を仕入れた。父に闇払い局の資料を手に入れてもらうのは容易かったさ」

 

「で、その意味深なこととは?」

 

「そこまではわからない。ムーディー本人に聞けばわかるんじゃないか?僕はごめんだけどね」

 

エスペランサ・ルックウッドはマグル出身だ。

中東で米軍傘下の部隊で戦っていたのだから、英国魔法界とは無縁であるはず。

 

しかし、中東の魔法使いは中東にある魔法学校に通うのが普通だ。

にも関わらず、エスペランサは英国のホグワーツに入校した。

ダンブルドアに誘われたかららしいが、なぜ、ダンブルドアは中東まで行って、わざわざエスペランサを連れてきたのだろうか。

 

セオドールは考え込む。

もしかしたら、ムーディーは何か知っているのかもしれない。

 

「ところで、ドラコは何でパンジーとダンスパーティーに?」

 

長考に入ったセオドールを他所に、アステリア・グリーングラスがマルフォイに聞いた。

 

「誘われたからだ。僕としても断る理由はない」

 

「そっか。ふーん」

 

アステリアは何故かマルフォイを気にかけている。

姉のダフネは一度、そのことに言及したことがあった。

その時、アステリアは「何か保護欲がそそられるから気にかけちゃう」と答えている。

 

どうもダンスパーティーは生徒間の関係を露わにするイベントでもあるらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スリザリンの学生たちがダンスパーティーの話で盛り上がっているのと同時刻。

 

ホグワーツから数百キロ離れたリトルハングルトン村。

寂れて過疎化の進んだ小さな村に、軍用車輌が数台乗り込んできていた。

 

村人は突然現れた迷彩服に身を染めた集団に警戒心を露わにする。

迷彩服の種類と車輌から英国軍に間違い無いが、何故、英国軍の1個小隊が寂れた村に訪れたのかは見当もつかなかった。

 

最近起きたリドルの館での殺人事件が唯一、事件らしい事件ではあったが、こちらはすでに警察が捜査済みである。

警察組織ではなく軍隊が出動してくるようなことは無かった筈だ。

 

村人の心配を他所にして、迷彩服の男たちは村はずれに存在するリドルの館に踏み入っていく。

全員が小銃を携行し、何をするのかもわからないような大掛かりな機材も運び込まれた。

 

 

「ここが、リドルの館か」

 

「ええ。ここでフランク・ブライスという男が殺されていました」

 

リドルの館は廃屋としては整備されている。

その理由は、管理人が存在して、定期的に整備していたからだ。

そして、その管理人であるフランクという76歳の男は数ヶ月前にこの館で殺されている。

軍人たちはリドルの館の2階に存在する、一見普通の客室に集まっていた。

 

集まった軍人の指揮官と見られる男は薄汚れた客室を見渡しながら会話を続けた。

 

「そのフランクという男は1943年、この屋敷の人間、つまりリドル一家が皆殺しにあった事件で容疑者となっている。しかし、すぐに釈放された」

 

「当時の資料によれば、殺害されたリドル一家は外傷もなく死因がはっきりしなかったそうですね?」

 

部下と思わしき隊員の一人が言う。

 

「十中八九、魔法使いによる犯行だ。恐らく、ヴォルデモートのな」

 

「ヴォルデモートの父親がこの屋敷に住んでいたトム・リドルだというのは調べがついていますからね。しかし、今回の事件の犯人がヴォルデモートであるとは思えません。奴は弱体化して、死にかけであるという報告が3年前にされています」

 

「私も君の意見に賛成だ。現在のヴォルデモートに全盛期の力は無いだろう。だが、ここはリトルハングルトンのリドルの館だ。ここで起きた殺人事件とヴォルデモートは何らかの関係があると思うのが筋だろう?」

 

そう言いながら指揮官は他の隊員を見る。

 

隊員たちは現場に残されていた椅子やテーブルなどを運び出したり、写真を撮影したりしている。

最新鋭のコンピュータや解析機器と思われる機材を発電機に接続して起動させる隊員もいた。

 

「何にせよ、フランクという男には同情する。調べれば彼は第二次世界大戦で活躍した兵士だったそうじゃないか。我々の大先輩だ」

 

「はあ」

 

「言わなかったか?私の親父も大戦ではベルリンに攻め込んでいた。殺されたフランクという男と親父の姿を重ねてしまうんだ」

 

指揮官の男は部屋の窓際に立ち、外の様子を伺う。

もうすぐ、日も落ちる頃だ。

寂れた村を囲む山々が夕暮れに染まっていた。

 

「ここで起きた殺人事件の犯人がヴォルデモートだとして、奴が徒党を組んでいる可能性は低い。しかし、複数人の協力者が存在していることは確定だ」

 

「そうですか?」

 

「これを見ろ。無人だった屋敷にしては整備されている」

 

指揮官は窓の淵を指でなぞった。

埃が少ない。

家具も長年放置していたにしては綺麗な状態であるし、蜘蛛の巣一つこの部屋にはなかった。

それだけでなく、床には埃が積もっていない部分もある。

恐らく、椅子かテーブルを動かした跡だろう。

何者かがこの部屋を使っていたことは明らかだ。

 

「お前がもし、魔法を使えたとして、潜伏し、殺人をした部屋をどうする?」

 

「魔法を使って証拠隠滅、ですね」

 

「そうだ。魔法を使えば完璧に証拠隠滅ができる。もし、非魔法使いならここまで綺麗な現場にはならない。綺麗過ぎるんだ。何も跡が無いのが不気味過ぎる」

 

「とすれば、ここには複数名の魔法使いが潜伏していた。そして、その魔法使いはヴォルデモート一派である可能性が高い。さらに、彼らは屋敷に訪れたフランクという男を殺した」

 

「ご名答」

 

「大尉。機材の設置が完了しました。これより、解析に入ります。また、B小隊とC小隊は各ポイントに観測所を設けたそうです」

 

「そうか。引き続き作業を続けろ」

 

他の隊員の一人が報告してくる。

 

「当面の間、我々もこの村に潜伏だ。使用された魔法の分析と、犯人に関する調査、それから、新たな魔法使いが現れないか監視するためにな」

 

「犯人たちは我々の動きに気づかないでしょうか?」

 

「気づいたところで問題ない。奴らは我々マグルを舐めている。そして、科学を知らない」

 

「はあ」

 

「家具に付着した指紋かや食器などに付着したDNAから犯人を特定することもできる。奴らはこれらの技術を知らない。逆に我々はすでに魔法をある程度は分析済み。情報戦ではすでにこちらに分がある」

 

かつて、彼らマグルは闇の魔法使い達に煮え湯を飲まされた。

大規模なマグル狩り。

巨人の暴走。

だが、ここ数年でマグルの科学技術と軍事力は飛躍的に進歩した。

もうただやられるだけではない。

 

「クィデッチワールドカップとやらの時の魔法省の対応を見れば、魔法省が役に立たないのははっきりと分かる。我々が動かねば、また闇の魔法使いがのさばる事態になるだろう。それは何としても止めなくてはならん」




クリスマスダンスパーティーあたりを書くとどうしてもラブコメ色が強くなります。
なんかムズムズしたのでラストの方のエピソードをぶっこんで緩和しました。

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