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ホグワーツの生徒はすぐに手の平を返す。
分かりきっていたことだが、やはり釈然としないものがある。
エスペランサはホグワーツの生徒たちに腹を立てていた。
ハリーが何故か代表選手に選ばれてから早3日。
今やホグワーツの生徒の6割が彼の敵だった。
ハッフルパフの生徒はまあ仕方が無い。
普段目立たない彼らはセドリックという代表選手が選ばれたにも関わらずハリーも選ばれたということに腹を立てていたからだ。
フェアプレイを好む真面目な生徒が多いレイブンクローもハリーを敵視した。
スリザリンは言うまでも無い。
しかし、ハリーが年齢線を超えられないことも、ハリーが代表選手を望まないことも、冷静に考えればわかることだ。
それにも関わらず、彼らはハリーを姑息な奴だと罵る。
バジリスクを倒し、ヴォルデモートを打ち破ったホグワーツの救世主ということをすっかり忘れているのだろう。
グリフィンドールの生徒にしても、グリフィンドールから代表選手が選ばれたことを喜ぶばかりで、ハリーの身を案じたりする学生は少ない。
「エスペランサとハーマイオニーくらいだよ。僕を信じてくれるのは」
談話室でハリーはボソリとこぼした。
「そりゃあハリー。ハリーが年齢線を超えるような力量を持ってるとは思わないし、それにゴブレットがハリーを選ぶとも思わないからな」
「それ、励ましてるつもりなの?」
ハァとハリーはため息を吐く。
時刻は21時を超えている。
グリフィンドールの談話室に居るのはハリーとエスペランサ、それにハーマイオニーだけだ。
「しかし、ロンがハリーのことを信じていないとはな。意外だった」
「あら、ロンは信じていると思うわ。ただ、彼はちょっと・・・」
ロンはまたもやハリーが注目されていることに嫉妬しているらしい。
「気持ちは分からないでも無い。他の優秀な兄に比較され、ハリーに話題をかっさらわれ、少しばかり劣等感を感じているのかもしれないな。軍隊でもそういう奴はいた」
「あいつのことなんて知るもんか。僕は進んで有名になりたいなんて思ったことない!」
「ハリー落ち着いて。そんなことはわかっているわ」
「そうだ。それに今は誰がハリーを陥れたのかを考えないといけない」
エスペランサはフィルチに炎のゴブレットに関する情報を聞いていた。
彼曰く、炎のゴブレットは高度な魔法道具らしく、並の魔法使いでは騙すことはできないそうである。
となると、誰がハリーの名前をゴブレットに入れたのだろうか。
「単純に考えればハリーの命を狙っている人間が入れたってことになるわね。でも、誰が?」
「俺もわからん。こっちはこっちで調べてみる」
「よろしく頼むよ。僕はもう何が何だか」
そこでハリーは再びため息をついた。
「まあ、ポッターが自分で名前を入れたってことはないだろうな」
セオドールが羽ペンをクルクルと回しながら言う。
センチュリオンの定期訓練後、エスペランサはセオドールを呼んで、ハリーの件について相談した。
場所は図書館。
必要の部屋ではフナサカが迫撃砲の発煙弾を魔法で改良するテストを行なっているため、場所を移したのだった。
ちなみに、センチュリオンの隊員たちはハリーが自分で羊皮紙を入れたとは思っていなかった。
彼らには冷静な思考回路が残っていたし、それよりもセドリックが選ばれた喜びが上回っているようだ。
セドリックはセンチュリオンの隊員たちに胴上げされたり、バタービールをかけられたりして祝福されている。
「ポッターの名前をゴブレットに入れるだけなら、ポッターは選ばれない。セドリックが選ばれている以上、代表選手の枠がないからだ」
「なるほど」
「だからもっと別の方法、例えばそうだな。ゴブレットを錯乱の呪文か何かで4校目の学校があると思い込ませ、ポッターを4校目の学校の代表選手候補として立候補させれば良い。これなら幻の4校目の代表選手候補はポッター1人になるから当然選ばれる」
「そんなことが可能なのか?」
「出来るのは教職員レベルの魔法使いだけだろうな」
セオドールは分析する。
「それなら犯人は絞られてくるな」
「まず、生徒である可能性は低い。ゴブレットを騙す技量もないし、ポッターを代表選手にするメリットもない」
「そうか?ハリーに恥をかかせたり、危ない目に合わせることを目的としたスリザリン生なら・・・」
「有り得ない。エスペランサ。僕はスリザリン生を君以上に知っているが、彼らは愛寮心だけなら他の寮に引けを取らない。つまり、グリフィンドールから代表選手が選ばれたりするなど、脚光を浴びることを嫌う。ついでに言うならば、ポッターを危ない目に合わせることを目的とするならば、そんなまどろっこしいことはしないだろう」
「つまり、ハリーの命を狙うのが目的なら、3校対抗試合期間でなくても、いつでも出来るってことか」
「そうだ。同様の理由で他の寮の生徒と教職員も除外される。これらの人間は今じゃなくてもハリーの命を狙おうとすれば簡単に狙えるからな。唯一の例外はムーディか。だが、ムーディは闇払い出身だ。ポッターの命を狙うことはないだろう」
「てことは3校対抗試合のために外部から来た人間が犯人ってことか」
「その線が妥当だろう。ダームストラングの生徒とカルカロフ、ボーバトンの生徒とマクシーム、それからクラウチとバグマンか」
セオドールが目を閉じて考える。
目を閉じて考えごとをするのは彼の癖だ。
「普通に考えればカルカロフじゃないか?あいつは元死喰い人って話だ」
「そうだな。だが、ちょっとそれが引っかかる。カルカロフはクラムが選ばれたことにとてつもなく喜んでいた上に、ポッターが選ばれたことに激怒していた」
「そういう演技をしていたんだろう。裏では3校対抗試合を利用してハリーを殺そうと」
「そこだ。そこが引っかかるんだ。今回の3校対抗試合は魔法省が完璧な安全対策を講じたという。つまり、競技で命を落とす可能性は低い。ポッターの命を狙うのならばそもそも3校対抗試合にポッターを引き摺り出すというやり方自体が間違っている」
「じゃあ、なんだ。やはり、ハリーを代表選手にして優勝させることを願う誰かが入れたってことになるのか?」
「そう思っている奴は山程いそうだが、例えばクリービーとかだが、残念ながらそいつらに年齢線を越える技量はないと思う」
「そうか」
セオドールは羽ペンをクルクルさせるのをやめて、再び思考しはじめる。
「とするなら、ポッターの名前を入れた犯人の目的はポッターを3校対抗試合で命を落とさせることでも、優勝させることでも無いということになる。3校対抗試合に出場させるということそのものを目的とした・・・と考えれば」
「どういうことだ?3校対抗試合に出場させるということは、命を狙うか優勝させるかどちらかの目的を前提にしたものじゃないのか?」
「命を狙うという目的は変わらない。ただ、それは3校対抗試合の競技で命を落とさせることを目指すのではなく、3校対抗試合を利用して、ポッターを殺そうとしている、ということだ」
エスペランサはセオドールの言っていることが理解できた。
つまり、犯人は3校対抗試合にハリーを出場させることをハリー殺害のプロセスといているに過ぎず、3校対抗試合の競技中にハリーが命を落とすことには何の期待もしていないということだ。
「ハリーも災難だな。毎年のように命を狙われて。人気者じゃねえか」
「僕としても彼には同情するさ。トレローニーがいつもポッターの死の予言をしてるみたいだが、あながちそれも間違いではないかもしれない」
「笑えない冗談だな」
エスペランサは苦笑して椅子の背もたれに体重を預けた。
翌日。
魔法薬学の授業が始まる前のこと。
マルフォイをはじめとするスリザリン生の何名かがローブに自作と思われるバッジをつけてきた。
バッジには「セドリックを応援しよう!ホグワーツの真のチャンピオンを」という文字が光っている。
「へえ。セドリック応援バッジか。案外、良いこともするじゃねえか」
エスペランサはニヤニヤ笑いながらバッジをつけるマルフォイを見て言う。
しかし、少し離れたところに居るセオドールとフローラ、それにダフネといったセンチュリオンのメンバーであるスリザリン生は頭を抱えていた。
「面白いだろ。ルックウッド。これにはもう一つ機能があるんだ」
そう言ってマルフォイは自分の胸につけたバッジを軽く押した。
すると、バッジの文字は「汚いぞポッター」に変わる。
スリザリン生は爆笑し、ハリーは顔を真っ赤にした。
「悪趣味っていうか。才能の無駄遣いというか。人を不快にさせることに関しては天才的だなマルフォイ」
エスペランサはセオドールたちが頭を抱えていた理由が分かった。
「あらとってもお洒落じゃない」
ハーマイオニーが皮肉たっぷりに言う。
こういう時、真っ先に起こるのはロンの筈だが、彼は首を突っ込んで来ない。
「グレンジャー。ひとつあげようか。だけど、今は僕に触れないでくれ。手を洗ったばかりでね。汚れた血がうつると困るんだよ」
マルフォイが冷ややかに言う。
その瞬間、ハリーの怒りが爆発した。
ハリーは杖を抜いてマルフォイに向けている。
ハリーは割と切れやすい。
そして、切れると爆発する。
まるでマッチが入っている火薬庫のようだ。
「やれよ。ポッター。ここにはムーディもいないぞ!」
マルフォイも杖を抜く。
そして互いに呪いをかけあった。
バーン!
杖から飛び出した呪文は空中で衝突し、それぞれ、ハーマイオニーとゴイルに当たった。
ゴイルは呪文が顔面に直撃し、「ウホッ」という奇妙な奇声をあげてひっくり返る。
ハーマイオニーはビーバーも驚くだろうほどに歯が大きくなり、ゴイルの鼻は毒キノコのようになっていた。
「何だ!何の騒ぎだ」
そんな中にスネイプがやってくる。
「ポッターが呪いをかけてきたんです!ゴイルを見て下さい!」
マルフォイがスネイプにゴイルを差し出す。
スネイプは一瞬、ゴイルの醜い顔から目を逸らしたが、その後「ゴイルを医務室へ」と言った。
「先生!マルフォイがハーマイオニーに呪いをかけたんです!見て下さい!」
ロンが騒ぎの中央に躍り出てハーマイオニーをスネイプに見せた。
彼女の歯は床につきそうな勢いである。
「いつもと変わりは無い」
スネイプは冷酷に言い放った。
ハーマイオニーは泣きながら医務室に走っていく。
ハリーとロンはそんなスネイプに放送禁止用語並みの罵声を浴びせた。
「ポッター、ウィーズリー。50点減点だ。それから罰則!」
スネイプは憤怒して言い放つ。
「けっ。相変わらずの贔屓野郎だ。そんなんだから童貞なんだ」
エスペランサはボソッと言う。
「何か言ったか?ルックウッド?」
「いえ、何も」
「他の者もさっさと教室に入れ。それからルックウッド。貴様も50点減点だ」
「聞こえてたんじゃねえかよ!」
「そろそろ真面目に話す時が来た」
「何だ?スネイプが童貞かどうかってことをか?」
「真面目に聞けエスペランサ。あと、下ネタも止めろ。フローラが睨んでくるだろ」
必要の部屋でセンチュリオンの隊員数名が集まっていた。
各分隊長や責任者である。
呼んだのはセオドールだ。
「3校対抗試合の初戦が近くなった。流石に事前準備無しにはセドリックも戦えん。今日は戦略会議だ」
セオドールが言う。
「セオドール。僕なら平気だ。僕は僕の力で勝つ」
「そうは言うが、セドリック。何の策も無しには戦えんだろ」
3校対抗試合の初戦まで残りは2週間も無い。
選手には事前に何の情報も知らされていないため、選手たちはぶっつけ本番で何らかの脅威と戦わなくてはならない。
「セオドールの言う通りだ。それに、たぶんクラムやフラーは各学校長から情報が渡されている。カンニングは3校対抗試合の伝統みたいなものらしいからな」
エスペランサは必要の部屋のブリーフィングルームの机に置かれた資料を取り上げて言う。
この資料はセンチュリオンの隊員たちが図書館からかき集めてきた3校対抗試合に関するデータであった。
「だけど、選手は競技に杖しか持ち込めない。センチュリオンの武器も使えないし、隊員の支援も受けられない」
「そう。そこだ。だが、事前準備であれば最大限の支援ができる。そこで、これだ」
セオドールは資料の中から1枚の紙をとりだした。
「これは英国魔法省が公式に発表している魔法省の輸入品目一覧表だ。これを基にして、今回は競技が何であるのかを考察したい」
「そんなものよく手に入ったな」
「スリザリンはコネクションが多いのさ。さて、この品目の中に不可解なものがある」
「どれだ?輸入品目は大鍋大鍋大鍋・・・大鍋が多いな。パーシーのせいだな。それからエジプトから危険生物が1、ノルウェーやハンガリー、それに中国とかからも危険生物か」
エスペランサが資料を見て言う。
「本来なら危険生物は名称が記載される。しかし、今回はそれが伏せられている。十中八九、競技に使われるものだろう」
危険生物。
魔法省が定める危険生物は多い。
セストラルやヒッポグリフも危険生物に含まれるのだ。
「中国から輸入する生物というと、キョンシーや麒麟、あとは龍とかですね。エジプトならスフィンクスや魔人の類でしょうか?」
フローラが首を傾げる。
「何にせよ危険だ。吸魂鬼よかましだが」
「それらの生物相手なら通常の魔法は効果が無い。特にスフィンクスは危険過ぎる。戦うなら50口径以上の銃器、野戦砲、対戦車榴弾が必要になるぞ。エスペランサはバジリスクやトロール、アクロマンチュラとの戦闘経験がある。そのノウハウを使いたい」
エスペランサは何度か魔法生物と戦闘したことがある。
だが、その時はフローラに譲渡された検知不可能拡大呪文のかかった鞄と大量の武器があった。
今回はそれがない。
「分隊単位で部隊を投入できるなら話は簡単だが、今回はセドリックが単独で戦わなくてはいけないからな。となれば携帯できる火器は限られている。81Mは携帯出来ないし、小銃は火力不足。それなら・・・」
センチュリオンが保有する重火器の中で迫撃砲の次に強力なものは対戦車榴弾パンツァーファウストだ。
これを縮小呪文で小型化し、ローブの中に隠して持っていけば勝算はある。
だが、問題は魔法省の役人がいる中でマグルの武器を大量に展開しなくてはならないということだ。
「解決しないといけない問題は山積みだな」
そう言って考え込むセオドールはどこか楽しそうだった。
だが、第一の課題の内容は思わぬ形でセドリックに知らされることになった。
「セドリック!第一の課題はドラゴンだ!」
「え?どういうこと?」
授業に向かう途中、セドリックはハリーに第一の課題の内容を知らされた。
「ドラゴンなんだ。僕たちは1人1体ドラゴンを相手にしないといけない。ドラゴンを出し抜かないといけないんだ」
「確かなのか?いや、そもそもどうやって知ったんだ?」
セドリックは怪訝な顔をする。
ハリーが第一の課題の内容を何故知り得たのかも疑問であるし、彼がセドリックに課題の内容を教えるメリットも思いつかなかったからだ。
「確かだよ。僕見たんだ。どうやって見たかは聞かないでくれると助かるんだけど」
「どうして僕に教えてくれるんだい?」
「クラムもフラーもたぶん知ってる。君だけ知らないのはフェアじゃないだろ?」
ハリーは大真面目だ。
セドリックはエスペランサからハリーが3校対抗試合に無理矢理参加させられた旨を聞いている。
セドリック自身もハリーが嘘をつくような人間とは思っていなかった。
「そうか。ありがとう!」
その後、ハリーは突然訪れたムーディに連れられてどこかへ行ってしまう。
セドリックは1人廊下に残された。
「ドラゴン・・・か。面白いじゃないか」
もし彼が、どこか別の世界線で、エスペランサが存在せず、センチュリオンが誕生しない世界線が存在したら。
セドリックはドラゴンを相手にすると知って恐怖に身体が震えたかもしれない。
しかし、この世界線ではセドリックは恐怖心を感じなかった。
彼はドラゴンという強敵を前にして、何故か彼は高揚感を覚えた。
そして、恐怖ではない感情で震えたのである。
「なるほど。ドラゴンか」
セオドールは唸った。
おおよそ考えられる危険生物の中でもっとも強力で攻略が難しいのがドラゴンである。
「しかし、ポッターはよく教えてくれたな。僕なら敵に塩を贈ることはしない」
「ハリーはそういう奴だ。ついでに、彼の名誉の為に言うなら、ハリーが第一の課題の内容を知ったのは偶然、というかハグリッドの策略だ。ハグリッドがホグワーツに秘密裏に運び込まれたドラゴンの世話を禁じられた森でしてるからな」
エスペランサはハリーがハグリッドに呼ばれて禁じられた森に行った件を話した。
ハリーが規則違反をしたことをバラすことになったが、彼が進んでカンニングをしたと思われない為である。
「なるほど。で、セドリック。ドラゴン対策は何か考えているのか?」
「いや、流石に考えていない。ドラゴンは飼育そのものが不可能に近く、ドラゴン専門のチームがいるくらいだ。ほら、チャーリー・ウィーズリーがそうだ」
「ドラゴンのスペックがわかるやつはセンチュリオンの隊員でいるだろうか?」
現在、必要の部屋に集まった隊員は分隊長であるエスペランサとセオドール、セドリックの代わりに遊撃班の長になったコーマック、支援要員のフナサカ、人事責任者のフローラを加えた6名である。
「ドラゴンの詳細については既にまとめています。皮膚の硬さは種族と部位にもよりますが、戦車の複合装甲並といったところです。また、対魔法能力も備えられています」
フローラが手元の資料をめくりながら言う。
「何もドラゴンを倒す必要は無いんだろ?出し抜けば良いって話じゃないか」
「そうは言っても、コーマック。出し抜くってのは単純に倒すよりも難しい。我々は強力な火器を持つから、倒すための作戦は立てやすいが、出し抜くための作戦は立案が困難なんだ」
出ている情報はドラゴンを相手に出し抜く、というものだけ。
具体的な課題内容は知らされていない。
センチュリオンの頭脳として働くセオドールは暫し考えた。
「やはり、これしかないか」
「考えがあるみたいだなセオドール」
「ああ。課題の内容がどうであれ、要するに脅威であるドラゴンが居なくなればそれで解決する。しかし、ドラゴンに魔法はほぼ通用しない。大の大人が複数人で失神光線を浴びせてはじめて倒せる相手だからな。とするならやはり、近代兵器を駆使して倒してしまうのが手っ取り早い」
「そうは言っても複合装甲並の硬さだぞ。俺は中東で戦車を相手に戦ったことがあるが、パンツァーファウストどころかMAT(対戦車ミサイル)ですら、正面の装甲を破れなかった」
「エスペランサ。君が相手にした戦車とやらは機械だ。生きてはいない。だが、ドラゴンは生き物だ。痛覚というものがある」
「というと?」
「戦車は完全に破壊して戦闘能力を奪う必要があるが、ドラゴンはその限りではない。完全に破壊する必要はないんだ。例えば、君は腹部に9ミリ弾を食らえば、身体は自由に動かなくなるし、戦意も喪失するだろう?ドラゴンも同じさ」
「つまるところ、ドラゴンにミサイルや榴弾で攻撃し、痛みを与え、ドラゴンの戦意を奪うってことか。だが、どのていどの痛みを与えればドラゴンから戦意を奪えるかは未知数だぞ」
「そもそも杖一本しか持ち込めないのにどうするんだい?試合前には手荷物検査もあるんだ。ここは正攻法で魔法のみで課題をクリアすべきだと」
セドリックが言う。
確かに彼の言う通りだ。
持ち込みは杖一本のみ。
兵器の持ち込みは出来ない。
手荷物検査をされるなら隠し持つことも出来ないだろう。
「それは何とでもなる」
「何か策があるのか?」
「無論だ。僕はドラゴンを含めて様々な魔法生物と戦うことを想定した作戦を立てた。課題が行われる競技場の地形確認も実施済み。プランはほぼ完成している」
セオドールの言葉にエスペランサは感心した。
エスペランサも対ゲリコマ作戦の立案には才がある。
だが、対魔法生物や魔法使い相手の作戦は知識の差からセオドールに一任していた。
それでも、エスペランサはセオドールよりもこと戦闘に関しては頭が回ると自負していた。
しかし、ここに来てその考えを改める。
恐らく、セオドールはエスペランサ以上に頭が回るのだろう。
「作戦の詳細は今夜、僕がまとめておく。悪いが、エスペランサとセドリックは付き合ってくれ。それと、フナサカは僕が指示する武器を揃えること。フローラとコーマックは作戦の詳細を渡し次第、臨時の部隊編成を考えてもらう」
セオドールはそう指示を飛ばして会議を解散させた。
第一の課題2日前。
必要の部屋の武器庫から武器弾薬、資材が搬出される。
81ミリ迫撃砲L16と測距儀。
携帯型無線機と最大倍率の双眼鏡。
91式携帯型対空誘導弾ハンドアロー。
そして、M733コマンドと5.56ミリの弾薬である。
既に隊員には作戦の全容が知らされている。
「持ち込みは杖のみだが、あらかじめ会場に武器を搬入しておけば問題はない。ルールにこれは明記されていないからな。グレーゾーンだが」
「考えたな。これなら我々の武器を最大限に活用できる」
隊員たちが武器庫から武器弾薬を搬出する様子を見ながらエスペランサは言う。
作戦は至ってシンプルなものだ。
あらかじめ、ドラゴンに有効と考えられる武器を会場に搬入して隠しておく。
あとは課題が開始された後、それらを取り出してドラゴンにぶち込むだけ。
ただし、武器使用を審査員をはじめとする部外者に見られてはいけない。
そのために、会場の外に設置した迫撃砲から発煙弾を撃ち込み、会場の視界を奪ってしまう。
センチュリオンが持つ81ミリ迫撃砲の最大射程は5キロを越えるため、迫撃砲の使用が審査員にバレる恐れは少ない。
「問題は迫撃砲の射撃精度と使うタイミングだな。場外の隊員と観測係の連携が肝となるだろう」
セオドールは作戦の概要を記した資料が挟まれたバインダーを手に取る。
資料には事細かにメモ書きがされていて、彼が作戦を試行錯誤していたことが伺える。
今回の作戦はセドリックを除くと、3つの班に分かれることになっていた。
まず、迫撃砲班である。
これは吸魂鬼撃滅作戦での実績があるアーニーとダフネを指揮官として合計5名の隊員が配属された。
今回は弾着点が見えない程の遠距離からの砲撃になるため、目標を目視していなければ使えない自動追尾の魔法は無意味となる。
とすると、マグルの軍隊と同じ運用の仕方をしなければならない。
必然的に人数が増えたのである。
次に迫撃砲班と会場の通信を行う支援班。
これはエスペランサが指揮を執る本隊的役割を果たす。
会場の様子と弾着修正を迫撃砲班に伝えるためにスタンドの端に通信機も設置した。
最後に、万が一、セドリックの身が危なくなったときに支援できるように重火器を装備した切り込み部隊を会場の外に待機させる。
この指揮はコーマックが行う。
必要の部屋で武器を縮小呪文で小さくし、鞄に押し込んで出発した19名の隊員は暗闇の中を競技場まで走る。
時刻は21時過ぎ。
外出禁止時間だが、センチュリオンの隊員たちはフィルチとミセス・ノリスを味方につけているため、安心して城内外を行き来できる。
「ほら。これが競技場の鍵だ。競技場は普段はクィデッチで使っている会場だが、3校対抗試合のために中を先日改装した」
「ありがとう。フィルチさん」
クィデッチ競技場の入り口で待っていたフィルチに競技場の鍵をもらう。
第一の課題の会場はクィデッチ競技場であった。
「本番2日前だから警備はほぼ無い。もっとも、本番前に会場に細工をしようとする奴がいるとは魔法省も考えてないんだろうが」
フィルチはぶっきらぼうにそう言って入り口脇にあったボロボロのベンチに腰掛ける。
「ワシ以外の教職員が巡回するかもしれんから作業は早めに終わらせろ」
「もちろんだとも。30分もあれば十分だ」
エスペランサはフィルチにもらった鍵で競技場の入り口扉を開く。
開いた瞬間に7名の隊員が競技場へ走り込んだ。
頼りになるのは月明かりとルーモスのみ。
僅かな光量の中で隊員は作業しなくてはならない。
競技場の中はクィデッチ競技場とは打って変わっていた。
一面が荒野のようになり、スタンドには強固な柵が作られている。
「コロッセオみたいだな」
エスペランサの感想だ。
隊員達は杖を荒野と化したフィールドに向け、「デューロ 掘れ」と唱えて穴を掘っている。
穴の深さは1メートルも無い。
その複数の穴の中に、すぐに撃てるように調整された(バッテリーは未接続)91式携帯型対空誘導弾を袋に詰めてから入れていく。
「こいつが今回の作戦の要ってわけだな」
「ああ。発煙弾で視界を制限されたとなれば、自動追尾魔法も意味がない。なら、熱源誘導式のミサイルで対応せねば」
「でもこれ威力は低いんだろ?」
穴掘りに参加しているネビルが不安そうに言った。
「そのために複数個埋めてるんだ。流石のドラゴンも至近距離でSAMを何発も食らえば戦意喪失くらいするだろう」
一方でフナサカを含めた数名はスタンドの端に通信機とアンテナを設置していた。
通信機は外側を変身術でただの木箱のように見せてカモフラージュしている。
また、万が一の重火器装備班は縮小した武器弾薬を清掃用具庫に押し込んでいた。
「あとは当日の朝にここから3キロ離れた地点に迫撃砲陣地を構築。それとセドリックに最終的な作戦の確認とシミュレーションを行わせらば良い」
手を泥だらけにしたセオドールがエスペランサに話しかけた。
この現場指揮もセオドールが計画したものだ。
彼は今回、参謀としての力を遺憾なく発揮している。
「ああ。全て首尾良く運べばセドリックは無傷でドラゴンを倒せる。まあ、未だかつてセンチュリオンの作戦が首尾良くいったことはないんだが」
「吸魂鬼の時は狼男が出現したりしたからな。今回はそうならないように周辺の警戒にも人員を割いている。同じ誤ちは繰り返さないさ」
そう言い残してセオドールは現場の最終チェックに向かった。
セオドールと入れ替わりにセドリックがエスペランサのもとに来る。
「どうした?やはり不安か?」
「いや、そうじゃないんだ」
セドリックは浮かない顔をしている。
「僕ばかり、他の選手と違って大勢の支援を受けて、あらかじめ武器まで用意して。なんだかフェアじゃない気がしてね。これじゃあ、僕一人の力で課題をクリアしたとは言えない。代表選手になった意味がないのではと思ったんだ」
実にセドリックらしい悩みだ。
そうエスペランサは思った。
「確かにそうかもしれん。だが、戦争ってのは土台、フェアに出来てはいないのさ。先手を打ち、ズルをして、使えるものは全て使って、そして勝つ。勝った方が正義なんだよ。そして、俺はセドリック。お前が勝って正義になって欲しいと思っている」
「3校対抗試合は戦争じゃない。代表選手は自分の実力を示さなくてはならないんだ」
「いや。そうじゃないさ。セドリック。お前はホグワーツの代表選手として戦うんだ。ホグワーツの旗を、それだけじゃない。我々センチュリオンの旗を掲げて戦うんだ。だから、お前はホグワーツ全生徒とセンチュリオンの隊員のために何がなんでも勝たなくてはならない。そして、そのために我々は全力で支援を行う。これは戦争と同じだ」
セドリックは暫し考える。
果たしてその理屈は正しいのだろうか。
自己弁護のための言い訳じゃないだろうか。
「正直な話、僕は僕一人で立ち向かい、そして、僕の実力を試したかった。だけど、今回、君やセオドールを見ていて思ってしまったんだ。君やセオドールがもし、代表選手だったら、簡単に優勝してしまうのではないかってね。うん。ただの嫉妬さ。だから、僕は一人で臨みたいと思ってしまった」
「セドリック・・・」
「でもね、今は無理でも、いつかきっと君やセオドールのような隊員になってみせるさ。僕はまだ僕の力を諦めたわけじゃないんだ」
セドリックはいつもと変わらぬ、爽やかな笑顔でそう言った。
「さあ、エスペランサ。作業を早く終わらせよう。さもないとフィルチさんがカンカンに怒るかもしれないからね」
そう言って彼は再び作業に参加しに行った。
いよいよ第一の課題。
ここで対空ミサイルを登場させたいとずっと思ってたんです。