ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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case32 Dementor 吸魂鬼・ディメンター〜

夏季休暇はあっという間に終わった。

 

結局、休暇中にバジリスクの毒が量産されることは無かったが、ボージン曰く強力な毒の量産には相当な時間が必要であるらしい。

1度に量産できる量にも限りがあるため、実戦配備は当分先のことになるとエスペランサは思った。

 

バジリスクの毒が早急に必要となる事態にはならないだろうし、そんな簡単に毒の量産が出来るとは思ってなかったので彼は落胆していない。

 

 

 

 

 

ホグワーツへ向かう特急の中でエスペランサは彼の作ろうとしている部隊の編成を練っていた。

 

部隊にヘッドハンティングするつもりの学生に関しては目処が立っているが、まだ彼らに声はかけていない。

果たして、全員が全員、エスペランサの考えに同調して部隊に入ってくれるかどうか………。

彼の懸念事項はそこだ。

 

また、いくら有能な学生を集めたとしても、彼らは現代戦闘に関してはずぶの素人である。

銃の取り扱いから戦闘隊形に至るまで一から教育をしなくてはならない。

エスペランサは特殊部隊の傭兵出身であったが、部下を持った事はなかった。

故に戦闘訓練を指揮したことも教育した事もない。

彼とて部隊運営に関してはずぶの素人なのである。

 

素人集団を数年でどこまでの精鋭部隊に育成できるか………。

 

彼は頭を悩ませる。

 

 

コンパートメントの窓にザーザーと打ち付ける雨を睨みながら思考に耽るエスペランサを他所に、ハリー、ロン、ハーマイオニーは「凶悪犯シリウス・ブラック」についてあれやこれやと議論をしていた。

 

ちなみに彼らの居るコンパートメントには先客が居る。

リーマス・ルーピンという新たな教師だ。

ボロボロのローブを毛布代わりにして眠りこけるその教師は顔色が悪くやせ細り、スラム街にでも居そうな風貌である。

ハリーたちの議論が白熱しても一向に起きる気配が無いところを見るに、相当疲れているのだろう。

 

 

「今までアズカバンを脱獄した魔法使いは居ないんだ。そんな奴がうろついてるからファッジはハリーを保護しようとしたんだよ」

 

ロンが言う。

 

シリウス・ブラックという名前はエスペランサも知っていた。

何せ、魔法界だけではなくマグル界でも新聞に載るような凶悪犯だからである。

 

どうもこのブラックという男は10年以上前に、10人ものマグルの命を一瞬にして葬ったらしい。

その行為を知って無論、エスペランサは憤りを感じた。

 

10人の人間を殺害するのは実は魔法使いにとってそう難しくは無い。

例えば「コンフリンゴ 爆発せよ」という魔法を使えば一度に十人単位の人間を吹き飛ばせるだろう。

物は試しでエスペランサもこの爆破呪文を使ってみた事があるが、威力は60ミリの迫撃砲弾と同程度であった。

とにかく、10人の人間を殺すのに闇の魔術や強力な魔力は必要としないのである。

故に闇払いが総出でかかればブラックを倒すのは不可能ではないだろう。

 

しかし、難攻不落のアズカバンを脱獄出来たブラックの底力は計り知れない。

一説にはブラックはヴォルデモートの手下であったというものもあり、もしかしたらヴォルデモートにアズカバンを脱獄できるような強力な魔法を授けられた可能性もある。

 

 

「でもブラックはどうやって脱獄したんだろう?」

 

「きっと強力な闇の魔術に違いないわ。だってブラックは例のあの人の信望者だったんでしょう?でも、ホグワーツなら安全ね。だってダンブルドアがいるし………」

 

 

ハーマイオニーはダンブルドアがいる限りホグワーツにブラックが侵入する事はないだろうと言う。

 

その意見に関してはエスペランサは同意しかねていた。

一昨年はダンブルドアが居てもヴォルデモートがホグワーツ内に侵入した、という事実がある。

 

ちなみにブラックはどうもハリーの命を狙っているらしい。

ヴォルデモートの仇討ちとでも思っているのだろう。

3年連続でヴォルデモート勢力から命を狙われるハリーにエスペランサは同情した。

 

 

そんな時である。

 

ガタンゴトンと走っていた列車が急に停止したのは。

 

 

「何だ?到着したのかな?」

 

「まだ、到着するには早い時間だと思うわ。もうすぐ到着っていうアナウンスもされていないもの」

 

「じゃあ故障?」

 

 

ハリーたちが不安がる。

 

他のコンパートメントにいた学生も急な停車を不審に思ったのか、続々と狭い廊下に出てきていた。

相変わらず外はひどい雨と霧で視界が制限されている。

しかし、窓越しに外の様子を伺っていたエスペランサは列車に何者かが乗ってくるのをはっきりと見た。

 

 

「誰かが乗ってきたな。乗り遅れた学生が遅れて乗ってきたのか?」

 

そう呟きつつも、彼はトランクの中から拳銃と弾倉を取り出す。

M92Fベレッタ。

何度も命を預けてきた彼の愛銃である。

 

弾倉を本体にガシャリとはめ込み、弾丸を装填する。

 

 

エスペランサが銃を構えたのとほぼ同時に列車内の照明が全て消えた。

 

 

 

「!!!??」

 

「うわっ」

 

「なんだ?停電か???」

 

 

ロンやハーマイオニーだけでなく廊下に出ていた他の生徒も突然の停電に驚く。

 

 

「どうしたんだろう?ちょっと前の方を見てくるよ」

 

ハリーがおもむろに立ち上がる。

エスペランサもコンパートメントを出ようとしていた。

が、しかし。

 

「いや、あまり動かないほうが良い。連中は非常に厄介だからね」

 

銃を構えてコンパートメントから出ようとするエスペランサを止める声がした。

声の出所を見ると、いつの間にかリーマス・ルーピンが目を覚まして杖を構えている。

 

「“ルーモス 光よ”」

 

杖先に光を灯したルーピンは廊下の様子を伺う。

 

「厄介な連中?それは生徒に害を与える者ですか?」

 

「ああ。そうだ。非常に危険な連中で下手をすると無事では済まない………っておい!」

 

エスペランサは“危険な連中”と“下手をすると無事では済まない”という言葉を聞くや否や拳銃を片手に廊下へ飛び出した。

 

 

「おい!君っ!」

 

ルーピンが引き留めようとする声を背後に聞きながら彼は列車内の廊下を走る。

廊下にはいまだに多くの生徒がたむろしていたが、その生徒らを無理やり押しのけながら先頭車両へ向かう。

 

 

(敵が何者かは知らないが、ルーピンという教師が相当警戒する相手だ。闇の魔法使いか魔法生物か………。どちらにせよ早急に排除しないと生徒の命が危ない)

 

 

ルーピンという教師は「連中は非常に厄介」と言っていた。

その言葉を聞いたエスペランサは即座に列車内に“招かざる敵”が侵入したのだと判断したわけである。

 

連中、というからには複数の敵が侵入してきたのだろう。

 

 

(敵勢力は少なくとも2人以上。侵入口は列車の構造からして先頭車両からだ)

 

 

ホグワーツ特急には複数の列車が連結されている。

そのうちで列車内の照明を操作できる車両は運転席のある1号車のみであった。

敵が初手で照明を使用不能にしたのなら、確実に1号車に侵入したはずである。

 

 

「総員、後方の車両まで退避しろ!敵襲だ!!!」

 

 

怒鳴り散らしながら先頭車両に向けて前進するエスペランサ。

彼の声を聞いた学生は一目散に後方車両へ逃げ出した。

 

 

敵勢力が先頭車両に投入されてからまだ1分しか経っていない。

その間、爆発音も破裂音も何も聞こえてこないことから敵は「まだ何もしていない」ことがわかる。

 

3両目の車両に突入したエスペランサはコンパートメントのひとつに入り、息を潜めた。

 

 

「ここで迎え撃つ………か」

 

 

列車内は無数のコンパートメントが存在するために死角が多い。

その環境下で最も得策といえる戦い方は待ち伏せて奇襲する、というものだ。

 

ただし、周囲にはまだ何人かの逃げ遅れた学生も居る。

故に制圧火器は拳銃に限定し、手榴弾の類の使用は控えなくてはならなかった。

 

 

(とするならば、敵がこの3号車に侵入した瞬間にスタングレネードを投擲。動きを封じた瞬間に拳銃で殲滅すれば良い)

 

 

作戦としては至ってシンプルで簡単なもので、特殊部隊時代に何度も行ったことがある内容だ。

 

 

(しかし、突然、ホグワーツ特急に攻撃を仕掛けてくるとは………いったい何者なんだ?)

 

 

懐からスタングレネードを取り出しつつ、彼は考える。

しかし、考えても無駄だと思い、再び警戒態勢をとった。

 

 

 

「うわああああああああ!!!」

 

 

「きゃああああ!!!」

 

 

 

不意に3号車の前のほうにあるコンパートメントから悲鳴が聞こえた。

 

どうも敵が3号車に侵入し、潜んでいた何人かの生徒に接触したらしい。

 

 

4人ほどの生徒が廊下を転がりながら逃げてくる。

 

 

 

「くそ!まだこんなに逃げ遅れた生徒が居たのか!?これじゃ発砲できない!」

 

 

混乱して逃げまどってる生徒が居る狭い車内で発砲することは非常に危険だった。

跳弾で生徒に被害が出る可能性もある。

 

エスペランサはスタングレネードの投擲を諦め、隠れていたコンパートメントから走り出た。

 

 

「ぼさっとするな!後方の車両へ退避しろ!!」

 

 

床に転がる生徒を叱咤して避難させ、自分は敵のいるであろう方向へ向かう。

 

 

(何だ?この気配は………。さっきまで暑かったのに、急に真冬のような寒さになっている………??)

 

 

現在の季節は夏である。

先程までは腕まくりをしても暑いと思うような気候だったが、突然、エスペランサは冷蔵庫の中に入れられたように寒さを感じた。

 

全身に鳥肌が立つのを感じる。

 

しかし、その鳥肌は寒さだけが原因ではない。

 

エスペランサのその先にいる「何か」が身も心も凍るような冷気を発しているのだ。

 

 

 

「う……うう………」

 

 

ふと足元を見ると、一人の見慣れた生徒がうずくまっているのが見える。

 

 

「!?フローラ!!!」

 

 

両膝を床につけたまま頭を抱えてうずくまっているのはフローラ・カローであった。

どうも彼女も逃げ遅れていたらしい。

 

 

「どうした!?敵に襲われたのか!?」

 

 

思わず駆け寄って様子を見るエスペランサであったが、彼女は思ったよりも重症のようだった。

 

ガタガタと肩を震わせ、顔を真っ青にし、意識は朦朧としている。

まるで何かに怯えているような………?

 

 

「大丈夫か!?しっかりしろ!とにかくここから離脱するぞ!!」

 

エスペランサはそんなフローラを無理やり連れだそうとする。

 

 

「い………嫌……。行きたくない………。行きたくない…………」

 

「ど、どうしたんだ………」

 

 

半ば意識を失いかけているフローラはうわ言を繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

ヒュー  ヒュー

 

 

 

 

 

フローラを担ごうとするエスペランサの耳に“人間のものとは思えない呼吸音”が届く。

 

 

「誰だ!?」

 

 

エスペランサはフローラを傍らのコンパートメントに押し込み、その後、拳銃を構える。

 

 

 

 

ヒュー  ヒュー  ヒュー

 

 

 

 

何の明かりもなく、ほぼ真っ暗な車内に“何者かたち”が侵入してくるのがわかった。

 

ゆっくりと、ゆっくりと。

彼らは近づいてくる。

 

 

目の慣れてきたエスペランサはその“何者かたち”が人の形をしていることに気が付いた。

 

しかし、不思議なことに足音は聞こえない。

 

 

 

 

「止まれ!!止まらないと撃つぞ!!」

 

 

 

拳銃の射撃姿勢を取り、銃口をまだはっきりとは見えない敵に向け、エスペランサは叫ぶ。

 

 

(何者なんだ………こいつらは!!!???)

 

 

敵は止まらなかった。

 

むしろ、エスペランサに近づいてくる。

 

 

距離はもう5メートルもない。

 

暗がりでも、敵の姿ははっきりと視認できる距離になった。

 

 

 

 

「???フードを被った人間………なのか?………!!!!?????うううう!!??」

 

 

 

エスペランサは敵の姿を見た。

 

高さは3メートル弱。

フードのようなボロボロの黒い布を羽織っている“人の形をしたもの”。

 

顔は見えないが、おそらく人間ではない生物だ。

 

いや、生物なのだろうか?

 

歩いているのか浮いているのかも定かではない。

例えるなら海中に漂う昆布を人型にして禍々しくしたもの、だろうか。

 

見るからに悍ましい見た目をした敵の数は3。

 

咄嗟に発砲しようとしたエスペランサであるが、その直後、彼を恐怖が襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

燃え盛る炎。

 

破壊されつくした街。

 

吹き飛ばされ、原形を失った人間。

 

 

 

そして、血。

 

 

 

 

あの日。

 

ダンブルドアと出会ったあの日の光景だ。

彼の人生で最も悲惨で、悲劇的で、最悪の日の光景である。

 

 

 

 

そう。

 

あの最悪の日を彼は鮮明に思い出してしまっていた。

 

 

 

 

(何だ……なぜあの日の光景を思い出す!?それもこんなに鮮明に!!??)

 

 

 

鮮明に思い出したあの日の記憶。

 

しかし、思い出したのは“あの日”だけではなかった。

 

 

 

 

ー助けてくれ

 

 

ー嫌だ!死にたくない!!!

 

 

 

ー見逃してくれ……

 

 

ーぎゃあああああああああ

 

 

 

 

エスペランサが今までに殺した人間の顔が、彼らの死に様が、脳裏に蘇る。

 

 

はじめて殺した敵兵の顔。

 

ゲリラ掃討時に殺害した少年兵。

 

テロリストの盾にされて掃射された民間人。

 

 

 

銃弾の前に血しぶきをあげて倒れていった人間たちを鮮明に思い出したエスペランサは身体から力が抜け、崩れ落ちる。

 

 

 

 

敵を殺すことには何のためらいもない。

 

何とも思わない。

 

そう思っていたのに…………。

 

 

 

 

力なく崩れ落ち、床に膝をついたエスペランサにフードを被った“それ”の1体が近づいて行った。

 

 

 

 

 

戦意喪失し、意識を失いかけるエスペランサであった。

しかし、意識を失う直前、彼の司会の片隅にコンパートメント内に横たわったフローラ・カローが映り込む。

 

 

 

 

(ダメだ………。まだ倒れるわけには………。フローラを……この車内に居る生徒を……救わなくては…………)

 

 

 

その思いが、途切れかけていた彼の意識を繋ぎ止めた。

 

冷え切った身体に体温が戻り、失われた戦意を取り戻す。

過去の最悪な記憶たちを全て振り切り、エスペランサはふたたび立ち上がった。

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

足に力を入れ、立ち上がった彼は拳銃を構え、“それ”に向ける。

 

 

(この至近距離で銃弾を食らって無事な生物など存在しない!!!)

 

 

フード姿の敵との距離は目と鼻の先である。

いくら威力の弱い拳銃といえども、それほどの至近距離で撃てば致命傷を与えられるだろう。

 

 

 

「食らえ!!!!」

 

 

 

エスペランサは引き金を引いた。

 

 

 

 

 

 

ダン  ダンダンダン

 

 

 

 

続けざまに4発。

 

M92Fベレッタの銃口からマズルフラッシュとともに放たれた9ミリパラベラム弾は全て、敵の身体を撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

と思われた。

 

 

 

 

 

 

「なっ………!?」

 

 

 

 

 

効果がない。

 

手ごたえがない。

 

 

 

 

9ミリパラベラム弾は確かに、敵のその黒いフードに命中した。

 

しかし、銃弾は敵の身体をすり抜け、天井にあたる。

 

まるで霧に銃弾を撃ち込んでいるようだった。

 

 

 

 

「物理攻撃が………通用しないのか!?」

 

 

 

エスペランサは驚愕する。

 

敵の身体をすり抜けた4発の銃弾は天井に穴をあけ、その穴からは雨水がしたたり落ちてきていた。

 

 

 

ヒュー  ヒュー

 

 

 

相変わらずフードを被った敵は掠れた呼吸をしていたが、心なしか怒っているように見える。

 

ジワリジワリと近づいてくる敵にエスペランサは思わず後ずさりをした。

 

 

 

「くそ!くそったれがああああ!!!!」

 

 

 

エスペランサは拳銃に残っていた弾丸を全て撃つ。

 

 

 

 

ダン

ダンダン  ダンダンダンダン

 

 

 

無論効果はない。

 

 

近づいてきた敵はおもむろにフードを取り払い、顔を近づけて来る。

 

 

 

 

結局、エスペランサは敵の顔を見ることはできなかった。

 

敵がフードを取り払う瞬間に意識を失ったからだ。

 

 

 

 

意識を失い、床に倒れる瞬間、彼は後方から一人の人間が走ってきて杖から何やら光り輝く霧のようなものを射出するのを見る。

 

それが、いったい何だったのかはわからない。

薄れゆく意識の中で、彼は正体不明の敵に敗北した事実のみをかみしめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハリー曰く「ディメンターにパンチなんて効かない」だそうなので銃弾も効果なし、と。
あと列車内の照明はディメンターが侵入した際に自然に消えたことになっています。
主人公はディメンターが手動で1号車で照明を消したのだと思い込んでいることになりますね。

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