ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくです。


コミックマーケット行ってきました!

相変わらず比村サーキットは速いですね。
アニメーター本も手に入れることが出来て満足です。


case25 Escape 〜撤退〜

「アクシオ・手榴弾!!!」

 

 

呼び寄せ呪文でエスペランサは鞄の中から手榴弾を取り出した。

 

安全ピンを引っこ抜いて背後から襲い掛かってくるアクロマンチュラの一群に手榴弾を放り投げる。

 

 

 

 

ズン

 

 

 

 

鈍い音と共に炸裂した手榴弾によって数匹の巨大な蜘蛛が吹き飛ばされた。

 

 

しかし、今度は頭上の大木から4匹の新たな蜘蛛が襲い掛かってくる。

 

足元に置いておいたG3A3バトルライフルを拾い上げて、すかさず応戦するエスペランサの表情には焦りが見え始めていた。

 

 

戦闘開始からすでに20分が経過している。

 

倒したアクロマンチュラの数は50匹を超えているだろう。

しかし、それだけ倒しても、襲い掛かってくる敵は減少したように思えず、むしろ増えているようにも思えた。

 

エスペランサは知る由も無かったが、アラゴクの家族の総数は500匹を超える。

 

 

エスペランサの持つ検知不可能拡大呪文のかけられたかばんには無数の武器弾薬を入れることが出来る。

 

彼は当初、1万発ほどの小銃弾と数十個の手榴弾を入れていたが、20分間の戦いでその弾薬は8割近くを使い切ってしまっていた。

 

 

エスペランサの所有する小火器は全て、“弾丸が目標に確実に命中する”魔法がかけられているが、この魔法には1つだけ欠点があった。

 

それは、“目標に銃弾を命中させるためには、銃手が目標を目視出来なくてはならない”という制限があることだ。

 

樹木が生い茂る夜の禁じられた森は視界がすこぶる悪い。

敵の蜘蛛がどこに潜んでいるかもわからない状況である。

 

銃弾を襲い掛かってくる蜘蛛に確実に命中させるには、エスペランサ自身が蜘蛛を完璧に目視しなくてはならなかったのだが、この条件下では不可能だった。

それ故に、思うように銃弾を蜘蛛に命中させることが出来ないでいたのである。

 

また、対戦車榴弾をはじめとした重火器の使用が制限されている以上(山火事防止のため)、彼が頼れる武器は小銃に機関銃、破片手りゅう弾などに限られてしまう。

 

日中に戦えるのであれば、一瞬で蜘蛛を一掃できたのだが、夜間の戦闘では苦戦を強いられてしまうのだ。

 

 

(暗視ゴーグルをしても樹木が邪魔をして敵の姿を捉えられない!照明弾は残弾がもうない!最終手段は火炎放射器による蜘蛛の一掃だが、それはなるべく避けたい………)

 

 

火力も視界も制限されたエスペランサは非常に窮屈な戦闘をせざるを得なかった。

 

 

 

 

「襲え!襲え!我らの家族がこれ程までに殺されたのだ!もはや楽には殺さんぞ、ハグリッドの友人たちよ。貴様らは生きながらにして苦しみを味合わせなければ気が済まぬわ」

 

 

遠くからアラゴクの声が聞こえる。

 

自分たちから襲っておいて、反撃されたら激怒するとは理不尽極まりないな、とエスペランサはボンヤリ思った。

 

 

 

 

「“アラーモニア・エグゼメ!”。どうしよう数が多すぎる!このままじゃ囲まれちゃうよ!」

 

 

ハリーも20分間、必死で戦っていたが、そろそろ限界がきているようだ。

 

軍隊で訓練を重ねてきたエスペランサは長時間の戦闘にも耐えることの出来る体力と精神力を持っていたが、ハリーにそれは無い。

それに、ホグワーツには体育が無く(飛行訓練やクィディッチはあったが、基本的に箒に乗ったままなので全く体力がつかない)、マグルの子供に比べて、魔法族の子供は低体力であった。

だから、ハリーもロンもヘトヘトになってしまっている。

 

 

また、次々に巨大な蜘蛛が襲い掛かってくるという恐怖に精神が保たなくなるのも時間の問題であった。

 

 

 

「耐えろ!ハリー。この蜘蛛たちの数も無限ではないはずだ」

 

「でも蜘蛛の数が全然減ってない。さっきよりも増えてるくらいだ。エスペランサはもっと強力な武器は持ってないの?爆弾とか」

 

「あるけど使えない。威力が強すぎて森ごと炎上させちまう。そうしたら蜘蛛以外の生物も全滅だ」

 

「その前に僕たちが全滅しそうだけどね。“アラーモニア・エグゼメ”!」

 

 

 

いきなり背後から出現した蜘蛛にハリーが呪文を浴びせる。

 

残弾が少なくなり、弾幕が薄くなったためか、襲い掛かってくる蜘蛛の数が多くなったように思える。

 

 

空になった弾倉を銃から取り外して、新たな弾倉を取り付けたエスペランサは3メートルほど前にある岩の陰に隠れていた子供と思われる蜘蛛に銃弾を浴びせた。

 

 

 

 

タタタタタタ

 

 

タタタン

 

タタタタタタ

 

 

 

岩陰に居た4匹の蜘蛛は体液をまき散らしながら倒れたが、そのさらに後ろから新たな蜘蛛がわさわさと出現する。

 

 

頭上の大木の枝からは糸を伝って、3匹の蜘蛛が襲い掛かってこようとしているのが見えた。

 

 

 

「“アクシオ・5.56ミリ弾”。あれ?“アクシオ”!」

 

 

呼び寄せ呪文で5.56ミリNATO弾の弾倉を鞄から取り寄せようとしたエスペランサであったが、いくら呪文を唱えても弾倉が出てくることは無かった。

 

遂に5.56ミリ普通弾の残弾が底を尽いてしまったのである。

 

 

 

「しまった弾切れだ」

 

「そんな!他に武器は無いの???」

 

「拳銃弾と重機関銃の50口径は底を尽いていないが、この調子で戦い続けたら5分で無くなる」

 

 

 

主力であった手銃弾が無くなったことにより、絶体絶命の窮地に立たされるエスペランサ。

 

 

(くそ。もう火炎放射器や対戦車榴弾を使って森ごと蜘蛛を葬り去るしかないのか)

 

 

必要の部屋で手に入れた火炎放射器や対戦車榴弾であるパンツァーファウストⅢは絶大な威力で蜘蛛を全滅させることが出来るだろう。

そうすればエスペランサたち3人は生き残ることが出来る。

 

その代償として、ケンタウロスやユニコーンも全滅するだろうが、もう他に方法は残されていなかった。

 

 

 

 

「ハハハハハ!ついにその魔法道具の神通力が切れたようだな。もはやこれまでだ。苦しみぬいて、そして食われるがよい!」

 

 

アラゴクのしわがれた声が森の中に響く。

 

その声を聞いた生き残りの蜘蛛たちがガシャガシャと歓声を上げた。

 

 

 

「どうするの!?エスペランサ!」

 

「…………仕方ない。火炎放射器で蜘蛛を一掃する。下がってろ………」

 

 

 

許せ、森の生き物たち。

森にすむ数々の生物に心の中で謝罪をしたエスペランサは鞄から火炎放射器を取り出そうとした。

 

 

 

 

 

 

 

ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 

 

 

 

 

 

「エンジン音だと!?」

 

 

「あれは………パパの車だ!」

 

 

 

鞄から火炎放射器を取り出そうとしていた時、突如として自動車のエンジン音が森に響き渡る。

 

魔法生物がうごめく禁じられた森に響き渡る、マグルの文明が生み出した科学の産物である自動車のエンジン音はどうにもミスマッチであった。

しかし、今のエスペランサたち3人にとってはそのエンジン音が天使の歌声にも聞こえる。

 

大木の間を縫うようにして疾走してくる旧式のフォードアングリアはロンの父親の持ち物であった車で間違いない。

今年度がはじまる最初に、ハリーとロンが暴れ柳に激突させた挙句に禁じられた森に放流してしまった自動車だ。

 

あれから数か月。

とっくにガソリンは底を尽き、バッテリーも残っていないのに、何故か爆走し、ヘッドライトを光らせているフォードアングリアは数匹のアクロマンチュラを轢殺しながらエスペランサたちの目の前に停車した。

 

 

 

「こいつ。僕たちのことを覚えてたんだ。完全に野生化しちゃってるけど」

 

 

ロンがまるでペットを撫でるかのようにフォードアングリアのボディを触る。

 

 

「ロン。この車はとっくに燃料を切らしてるはずだ。なんで動くんだ?」

 

「さあ?でも多分、魔法のせいだと思うよ。ほら、魔法って便利なものじゃないか」

 

「そうだな。便利で、都合が良過ぎるのが魔法ってやつだ」

 

 

 

急に出現した自動車にアクロマンチュラたちは少なからず恐怖を覚えたらしい。

 

煌々と眩しく光るヘッドライトから逃げるように蜘蛛たちは後退していた。

 

 

 

「皆!怖気づくな!所詮、マグルの道具が一つ増えたに過ぎん。我々の森で好き勝手走り回るそのガラクタも、人間諸々、食いちぎってやれ」

 

 

アラゴクが叫ぶ。

 

アラゴクの声で我に返った蜘蛛たちは、再び、エスペランサたちの方に襲い掛かってこようとしていた。

 

 

 

「ロン。この車の運転は出来るか?」

 

「もちのロンさ。でも、大丈夫かな?暴れ柳にぶつかった時に僕たちこの車を怒らせちゃったみたいで………。言う事を聞いてくれるかどうか」

 

 

ロンが心配そうに言う。

 

しかし、その声を聞いたフォードアングリアは従順な僕が主人に敬意を表すようにヘッドライトを2,3回点滅させた後、両サイドのドアを自動で開けた。

 

 

「もう怒ってないみたいだね」

 

ハリーがほっとしたように言う。

 

「よし。ロンは運転に専念してくれ。ハリーは助手席の窓から襲い掛かってくる蜘蛛を杖で迎撃」

 

「エスペランサはどうするの?まさか、残って戦うとか言わないよな?」

 

「まさか。森の中はヘッドライトの明かりを使っても暗くて視界が悪い。俺は車の上に乗ってロンに進行方向の指示を出す。ま、戦車の車長をやるようなもんだ」

 

 

そう言ってエスペランサはロンに携帯無線機とヘッドセットをカバンから取り出して渡した。

 

 

「何だい?これ。パパが似たようなものを買ってきたことがあったけど」

 

「そいつは無線機だ。既に通信できるようにセットしてある」

 

 

民間でも市販されている簡易的なトランシーバーであったが、運転席と車の上程度の短距離であったならば十分に通信が可能だ。

 

エスペランサはボンネットを踏み台にして、フォードアングリアの車上に乗ると、鞄から重機関銃を取り出した。

 

 

ブローニングM2。

12.7ミリ重機関銃。

 

開発されたのは第二次世界大戦前にも関わらず、いまだに世界中で使われているのは、この銃を越える50口径の重機関銃が開発されていないためだ。

それほどまでにM2は名銃であった。

 

引き金は自動小銃のように指をかけて引くタイプではなく、押し込み式であり、対空用の機銃としても重宝される。

アクロマンチュラの大群を相手にするには丁度良いだろう。

 

エスペランサはM2の脚を立て、車の上に固定した後、杖を取り出して呪文を唱えた。

 

 

「“テナーチェ 接着せよ”」

 

 

物と物とを簡易的に接着させる呪文を車のボディと重機関銃にかける。

ついでに、彼の片方の靴の裏と車のボディの間にも同様の魔法をかけた。

 

これで、エスペランサが走行中に車から落ちることは無いだろう。

 

用意が整ったところで彼は無線機のマイクに呼びかけをした。

 

 

「ロン。こっちは準備完了だ。車は出せるか?」

 

『わおっ。ハリー。本当に声が聞こえるよ。これ。話電(フォンテレ)の一種なのかい?』

 

「似たようなものだ」

 

 

ロンとハリーは

 

 

そんな会話をしている間に、体制を整えたアクロマンチュラの一群がフォードアングリアの正面から攻めてきた。

 

エスペランサはスライドを引き、12.7ミリの弾薬を装填する。

そして、引き金を押し込んだ。

 

 

 

ズドドドドドッド

 

 

 

古い漁船のエンジンのような音と共に、12.7ミリの巨大な弾が蜘蛛たちに襲い掛かった。

 

眩いマズルフラッシュと、轟音にひるんだ数匹の蜘蛛は直後、木端微塵に四散する。

 

 

「敵襲だ!早く出してくれ!!!」

 

『わかった!ハリー。掴まってて!!!!』

 

 

 

アクセルをふかす音と共にフォードアングリアが微速前進する。

 

ギアのシフトチェンジが下手なのだろう。

車体がガクガクと小刻みに揺れる。

 

 

「ロン!前進じゃない。バックしろ」

 

『ごめん!レバーをドライブに入れちゃったんだ。うわ!!!』

 

 

前進した車は蜘蛛の何匹かに正面衝突する。

それを機会と見たのか、蜘蛛たちは車に追い縋ってきた。

 

フロントガラスが割れ、子供蜘蛛が助手席のハリーに襲い掛かったが、それをハリーは呪文で撃退する。

 

ボンネットの上に飛びかかってきた2匹はエスペランサによって粉砕された。

 

 

『周りは蜘蛛だらけだよ!どっちに行けば良い?指示を出して!!!』

 

ロンの悲痛な叫びが無線越しに聞こえる。

 

「今退路を開いてやる。ちょっと待ってろ!アクセルは踏みっぱなしにしておけよ」

 

 

エスペランサは重機関銃を2時方向に向け、引き金を押し込んだ。

 

 

小銃の連続射撃音とは比べ物にならない音と共に放たれる50口径の機関銃弾は道を塞いでいた無数の蜘蛛たちを片っ端から粉砕していく。

重機関銃は威力が高い故に連射をし過ぎると暴発する。

なので、ある程度の区切りを入れて射撃を行わなくてはならなかった。

 

8発に1発の割合で入れられた曳光弾が闇夜を照らし、砕け散った蜘蛛の残骸を照らしていく。

蜘蛛嫌いのロンにとってそれは地獄のような光景でしかなかった。

 

一連の射撃によって車一台は通れそうな道が確保できたことを確かめたエスペランサはすかさず、ロンに指示を出した。

 

 

「2時の方向に前進しろ!そこなら蜘蛛も手薄になっている。左右に大木があるが、この車の車幅なら突破できそうだ!」

 

『分かった!!任せてくれ!』

 

 

フォードアングリアは唸り声をあげ、前進する。

時速15キロを刺していたメーターの針は、30キロを越す勢いだった。

 

オフロード用の車ではないフォードアングリアのタイヤは限界のようだったが、それでもパンクしなかったのはやはり魔法のせいだろう。

 

だが、車は無事でも、乗っている人間は無事ではない。

 

ロンもハリーも顔は真っ青であったし、戦闘車両に乗り慣れたエスペランサでも吐き気を催したほどだ。

喉から湧き上がってくる嘔吐物を何とかして飲み込んだ彼は、しつこく追いかけてくる蜘蛛たちに重機関銃の掃射を浴びせる。

 

 

将棋倒しになる蜘蛛の群れと車の距離は徐々に広がっていった。

 

巨大な蜘蛛であろうと、マグルの科学の結晶である自動車の速度には追い付けない。

 

 

 

「良いぞロン。このまま速度を上げて敵を振り切る!」

 

『うっぷ………。もう無理……。吐きそうだよ。おええええ』

 

 

吐きそうと言った矢先に嘔吐したロンであったが、それでもアクセルを踏み込んで車の時速を上げた。

 

 

蜘蛛たちは速度の上がった車に追いつけないと悟ると、追いかけるのを止めたらしい。

 

既に、その足は停止していた。

 

蜘蛛が車を追うのを諦めたのはエスペランサにとってもありがたいことだった。

M2に装填されていた200発の12.7ミリ弾はほとんどを使い切ってしまっていたためだ。

これ以上の戦闘を継続する弾薬は無かったのである。

 

 

 

 

爆走して逃げ去るフォードアングリアの姿を生き残ったアクロマンチュラたちは悔しそうに見送る。

 

久々の新鮮な肉が食べられなかったという悔しさもあるが、何よりも同胞が数多く殺されたという事実に悔しさを感じていた。

 

一連の戦闘を通して生存したアクロマンチュラは、当初の半分以下。

アラゴクの家族は事実上、壊滅したわけである。

それに対して、味方の損害は0だ。

 

たった3人の人間に数百匹のアクロマンチュラがやられたのである。

 

 

やり場のない怒りと悲しみを表すために、手足をガシャガシャと動かすアクロマンチュラたちをアラゴクは静かに見ていた。

 

この敗北は自分の責任である。

 

そう、アラゴクは思った。

 

たった3人だと侮って敵の戦力を過小評価した。

敵を侮り、相手の持つ武器の性能を知らずして随時戦力を投入するのは作戦として間違っている。

情報不足の中で随時戦力投入を行うのは愚策にもほどがあった。

 

何よりも、彼は家族である蜘蛛たちを敵の銃弾の前に特攻させたのである。

 

 

その結果が、これだ。

 

 

戦力の半数を失った部隊は「壊滅」したと言って良い。

アラゴク率いるアクロマンチュラの集団はエスペランサ・ルックウッドという一人の人間によってその戦闘能力を奪われたのであった。

 

 

「あの小僧………。必ずこのわしが……殺してやる」

 

 

アラゴクは言う。

 

他の蜘蛛たちもエスペランサに憤りを感じていたため、アラゴクに賛同していた。

彼ら蜘蛛たちは「エスペランサ・ルックウッドを殺す」という明確な目標の前に一致団結していたわけである。

 

 

だが、彼らはまだ知らない。

 

エスペランサは蜘蛛たちを完全に無力化するために、ある置き土産を脱出の際に置いていったことを。

 

アラゴクとその家族がワイワイガヤガヤと集まるその後方に複数個設置された、金属製の箱の正面には「FRONT TOWARD ENEMY」と書かれている。

マグルの世界では「クレイモア対人地雷」と呼ばれるその箱はリモコン式で作動できるようになっている。

 

魔法界でも電子機器を使えるようにしたエスペランサは対人地雷のリモコン作動も可能にしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アズカバンから帰ってきたルビウス・ハグリッドが無残な姿になったアラゴクの家族を発見するのは数か月後の話である。

 

 

 

 

 

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森を抜けて、ハグリッドの小屋の前まで戻ってきたエスペランサたちは車から降りた瞬間に嘔吐した。

 

ロンは吐き出すものが無くなって、遂には胃液を吐き出すほどになっていた。

 

 

 

「うっ。こんなに吐いたのはナメクジ以来だ。あ、ナメクジを思い出したらまた吐き気が。おええええええ」

 

 

ハグリッドの小屋の前に嘔吐物が広がるのを嫌そうに見つめるファングを余所に、エスペランサは水筒を取り出して、水を飲んだ。

 

長期間の戦闘でカラカラになっていた喉を水が癒す。

ハリーとロンにも鞄から取り出した水筒を渡し、彼は座り込んだ。

 

 

 

役目を終えたフォードアングリアは一回だけクラクションを鳴らすと、再び森の中に消えて行ってしまう。

 

 

「ありがとうロンのパパの車。でも、もう2度とあんなドライブしたくないね」

 

「僕もだよハリー。でも、ハグリッドの奴。次会ったらぶん殴ってやる。何が蜘蛛を追いかければ謎が解ける、だ。危うく僕らはハグリッドの“小さなお友達”に食われるところだったんだぞ。で、エスペランサはさっきから何をしてるの?」

 

 

吐瀉物の横でエスペランサがリモコンのようなものをいじるのを見てロンが言う。

 

 

「ああ。これは、害虫駆除だよ」

 

 

エスペランサがリモコンのボタンを押すと同時に森の奥から小さな爆発音が聞こえた。

 

 

「これで蜘蛛は駆除完了だ。ハグリッドが泣くかもしれないけどな」

 

「最高だよエスペランサ。さあ、ハグリッドに何て言うか言い訳を考えなくちゃ」

 

 

喜ぶロンとエスペランサにハリーが話しかけてくる。

 

 

「でも、森に行ってひとつだけ分かったことがあるよ。2人とも」

 

「何だい?蜘蛛の好物が人間っていうのは分かったけど」

 

「ハグリッドは犯人じゃなかった。そして、アラゴクも犯人じゃない。50年前には1人の生徒が殺された。殺された場所は女子トイレだ」

 

「そういや。そんなことを言ってたな。あの蜘蛛は。だけど、そんなことは分かり切ってたことじゃないか?ハグリッドが継承者なわけないし、蜘蛛が人間を石にできる筈がないだろ。結局のところ、何も収穫はなしってことだ」

 

 

エスペランサは既に怪物の正体がバジリスクだという事を知っている。

 

故に、ハグリッドとアラゴクが犯人ではないと言う事を確信していたわけであるが、ハリーたちは違った。

 

 

「そこじゃないよ。エスペランサ。蜘蛛もハグリッドも犯人じゃないのは分かり切ってる。ダンブルドアがハグリッドを疑っていなかったしね。多分、ハグリッドは冤罪だろう。トム・リドルは早とちりしてハグリッドを犯人にしてしまったんだ。50年前、トイレで一人の生徒が殺されたってアラゴクは言ってたよね。もし、その殺された生徒がまだそこにゴーストとして存在しているとしたら?」

 

「それって、嘆きのマートル?」

 

水筒の中身を飲みながらロンがハリーに尋ねた。

 

「誰だそれ」

 

「ああ。エスペランサはポリジュース薬作りに参加してないから知らないのか。3階の女子トイレに住み着くゴーストだよ。生前はホグワーツの生徒だったんだ。そういえばマートル以外に生徒のゴーストっていないな。なら、その殺された生徒っていうのがマートルっていうのも正しいかもしれない」

 

 

ハリーとロンが頷く。

 

エスペランサはそのマートルというゴーストを知らないので話についていけなかったが、それでも気が付いたことがあった。

 

 

 

(3階の便所っていうのはミセス・ノリスが襲われた場所と近い。50年前に生徒が殺された場所と何か関係があるのかもしれない)

 

 

何はともあれ、エスペランサは近いうちにマートルというゴーストに会いに行くことを決意したわけである。

 

 




アラゴクはまだ生きています。
安心してください。

子供たちが盾となってギリギリ対人地雷から生き延びました。
アラゴクがいないと6巻やるときに支障が出てしまうので………。

今回、アクロマンチュラを虐殺してしまったために今後の戦いで、エスペランサは苦戦することになるかも………。

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