ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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大変お待たせしました
半年以上休載してしまって申し訳ありません!
身辺で色々な変化があり(私事ながら一児の父親にもうすぐなる…とか)、筆が進まないという……
リハビリがてらとりあえず一話投稿します。
エタらないよう頑張ります。

遅筆な私にも関わらず感想や誤字報告をして下さる方々、ありがとうございます。


case107 universe 〜三千世界〜

「ここは……どこだ?」

 

見渡す限り真っ白な世界だった。

 

一切の汚れの無い、本当に純白の世界に彼は居た。

 

 

「目が覚めたようだね。いや、まだ覚めていない…か」

 

 

不意に後ろから声がした。

振り向けば、そこに懐かしい顔が居た。

 

 

「セドリック………」

 

「僕の存在が分かる、ということは君はもう自分が誰かを思い出しているだろうね」

 

「俺は……俺は、エスペランサ・ルックウッドだ」

 

そこでやっと彼は自分が誰かという事を思い出した。

エスペランサ・ルックウッド。

それが自分の名前だ。

 

「俺は……死んだのか?確か、ケイティに襲われて……」

 

「正確に言うと死んではいない」

 

「じゃあ何でセドリックがここに居る?ここは死後の世界では無いのか?」

 

セドリックは曖昧に微笑んだ。

この真っ白な世界にはエスペランサとセドリックしかいない。

 

そして、二人ともセンチュリオンの戦闘服を着ていた。

 

「少し歩きながら話そう。といってもこの世界には何も存在しないけどね」

 

二人はゆっくりと歩き始める。

 

「死後の世界でないとしたら……何故、セドリックと俺が話せているんだ?」

 

「そうだね。実を言えば僕はセドリックでは無いんだ。君が意識を失う前に、"呪いのネックレス"を見なかったかい?」

 

「あ、ああ。あれか。ケイティが俺に押し付けてきた奴だな」

 

「僕はあのネックレスに宿っていた"呪い"その物なんだ。でも、呪いという概念は口を持たないから……。君の記憶にある死者の姿を借りて具現化したんだよ」

 

「なるほど……お前はセドリックの姿をした呪いという訳だ。だが、何のために?」

 

「君と話がしたかったからさ」

 

「俺と?」

 

「僕は呪いの効力によって今までに何人もの人を殺してきた。君も殺す予定だった。だけど、君を呪おうとしたら……君は僕以上に呪いその物だった」

 

「言っている意味が分からない。俺は生憎と呪いじゃない」

 

「いや、呪いになり得るさ。何せ僕が呪い殺した人の数の数倍の人間を君は殺していたんだから」

 

「ああ。そういうことか。呪い以上に人を殺していた俺の存在は邪悪な物と見られていたんだな」

 

だが、それを言えば古今東西、軍人は呪いを凌駕する存在になってしまうだろう。

 

そんなエスペランサの疑問を感じ取ったセドリック、いや、"呪い"が言葉を続けた。

 

「ヴォルデモートだって直接手を下した人間は数十人だ。だけど、マグル界では一度に数十万人を殺せる武器が存在する。僕は呪いという概念だから魔法界だけでなくマグル界にも精通してるから大量殺戮兵器の存在も知っている。つまりね、魔法族というのは極悪人であっても殺害した人数はマグルの軍人よりも遥かに少ないんだ。そして、これがまた不思議なんだけど、マグルの軍人は基本的には悪意を持って人を殺していない」

 

例外は沢山あるけど、とセドリック、いや、呪いは付け足した。

 

「それはそうだ。俺達は命令に従って戦っていた。誰かを守るためにな。そこに悪意は存在しない。個人的な感情を持てば軍人失格だ」

 

「悪意を持って数十人を殺すか、悪意無しに数十万人を殺すか。どちらの方が罪が重いんだろうね」

 

エスペランサは黙り込む。

戦争で殺した相手が悪者かと言われればそうではない。

敵もまた命令に従い、戦っているのだ。

 

敵がテロリストであればまた話は別だが、国家間の戦争において敵が絶対悪かと言われればそれは否である。

少なくともエスペランサはそう思う。

 

戦時には殺人が正当化される。

平時には殺人をした者が悪人とされ、戦場では殺人をした者が英雄となる。

誰かを守るために人を殺しているからか、命令に従い人を殺しているからか……。

果たしてそれは罪なのだろうか。

 

「僕は呪いという悪意の集合体だからね。こういう倫理的な話は好まない。でも、魔法界の極悪人よりもマグルの方が遥かに残虐な事を悪意無しで出来るんだ。魔法族というのは過激で残酷に見えるけど、案外、弱い存在なのさ。だから呪いにも弱い」

 

「マグルだって呪われたら死ぬんじゃ無いのか?」

 

「エスペランサは呪いというものに詳しくは無いよね。呪いというのはね、呪いという存在を強く信じている人程、影響を受け易い。マグルがまだ呪いや魔法を信じていた時代は夥しい死者が出たよ。でも、現代では呪いを信じているマグルの方が少ない。だから、呪いが廃れていった」

 

「呪いよりも恐ろしい戦争を経験してきたからな。マグルの歴史は魔法界の歴史より遥かに血塗られている」

 

魔法界がマグル界との接触を避けているのはそんなマグルの習性を理解していたからなのかもしれない。

 

魔法族はマグルの残虐さを知っていたからこそ魔法を隠したのだろう。

この場合、マグルが悪役になる訳だが、エスペランサはそれを否定するつもりは無かった。

 

この地球上でマグル以外の生物は皆、マグルを脅威だと感じるだろうからだ。

魔法使いの歴史も大概、血に染められているがマグルの歴史はそれ以上に血塗られている。

 

現に今も、マグル界ではガロン単位で血が流されているだろう。

 

「君を呪い殺す事はそれでも難しくは無い。ネックレスにかけられた呪いは数世紀に渡り蓄積された強力なものだからね。だけど、君を呪い殺すのは惜しい。呪い以上に呪いである君の存在が魔法界に何をもたらすか……。僕はそれを見ていたいから」

 

「"呪い"というのは随分とロマンチストみたいだな。もっと禍々しく、凶暴な性格をしていると思っていたぞ」

 

「そういう呪いもたくさんある。僕は呪いでありながら、この世界の観測者になりたいのさ。だから有史以来、ずっと生き延びてきた」

 

「世界の観測者………」

 

「そう。この世には"世界"というものが数多に存在する。そのうちの一つであるこの世界は君の存在により、他の世界の結末とは大きく変わるだろう。それを僕は観測したいのさ」

 

「それは、俺の存在が本来あるべき世界の形を変える……という事なのか?」

 

「可能性はある。僕自身、数多ある並行世界に存在し、パスで繋がっている。だから分かるんだが、君の存在は他の世界では観測出来なかった。君に興味を持ったのはそれ故でもあるのさ」

 

「他の世界線に……俺は居ないということか」

 

「そうだ。何らかの力が働き、この世界が君という存在を必要としたのか、あるいは、ただのパラドクスによる産物なのか。いずれにせよ、君の存在が数多ある世界の中で異質な物に変わりはない」

 

並行世界という存在、その全てに繋がっているという呪いの存在。

エスペランサにはにわかに信じられない事であった。

 

そして、他の世界線にはエスペランサが存在しないという事実。

それが何を意味するのか……。

 

「さて、そんな異質な存在である君が何を僕に見せてくれるのか。早く見せて欲しいからね。とっとと現実世界に戻ると良い」

 

「戻ると言っても、どうやって現実世界に戻るんだ?だいたい今、俺の身体はどうなってる?」

 

「君が望めばすぐにでも戻れるさ。君が現実世界に戻りたいと思えるような存在があれば戻れる」

 

「俺が……戻りたいと思えるような存在」

 

エスペランサは目を閉じた。

 

ハリー達友人。

セオドールやネビルといった隊員達。

 

そして、フローラ。

 

『早く戻って来てください』

 

幻聴だったのかもしれない。

だが、はっきりとエスペランサの耳にフローラの声が聞こえた。

 

「ああ。戻るさ。まだやり残した事が山程あるからな」

 

魔法界入りしたあの日。

エスペランサは確かに誓った。

魔法という力を持って世界に恒久的な平和を創り上げると。

 

エスペランサの身体が真っ白な世界の中で光りだす。

恐らく現実世界に戻る前兆だろう。

 

「戻る気になったんだね」

 

「当たり前だ。世話になったな」

 

「ああ。君のことを観測しているよ。せいぜい僕を楽しませてくれ」

 

セドリックの姿をした"呪い"は微笑んだ。

呪いはエスペランサの味方という訳では無かったのだろう。

 

それでも、エスペランサはこの"呪い"に悪い感情は抱かなかった。

 

「そうだ、言い忘れていた。この世界には君の他にもう1人だけ異質な存在が紛れ込んでいる」

 

「誰だ……それは」

 

「そいつの名前は………」

 

名前を全て聞き終える前にエスペランサの意識は薄れ、元の世界へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めると、そこには見慣れた風景が広がっていた。

 

何のことはない。

ホグワーツの医務室である。

 

エスペランサは深呼吸をする。

 

あれがただの夢であったのか、それとも現実の出来事であったのか。

ふと、目を移すと、医務室のベッドからは壁にかけられたカレンダーが見えた。

 

どうやらかなり長い期間、眠りについていたらしい。

ベットから起き上がり、足元を見れば、誰が置いたのかはわからないが、戦闘服1式と半長靴があった。

 

「本当に、魔法界というファンタジックな世界にはミスマッチな服装だな」

 

そう呟きながら彼は戦闘服を手に取る。

 

「あなた!目覚めたなら声をかけてください!それにまだ安静にしていないといけません!」

 

「マダム・ポンフリー?」

 

「強い呪いにかけられていたから、もう目を覚ますことがないかもしれないと思っていましたが、安心しました。さあ、ベッドに横になって、先生を呼んでこなくては……」

 

小走りにマダム・ポンフリーがやってきてエスペランサを寝かせようとしてくる。

だが、エスペランサはそれを振り切り、医務室から出ようとした。

 

「待ちなさい。どこへ行くんです!?寝てなさいと言っているでしょう?これだからグリフィンドールの生徒は困るんです!」

 

「どこへ行くか……か。そうだな。戦線に復帰する。今も俺の仲間は戦っているんだろ?」

 

「え……?」

 

「この音。間違いなく迫撃砲の射撃音だ」

 

遠くから聞こえる炸裂音がエスペランサの耳をくすぐる。

間違いない。

81ミリ迫撃砲L16の音だ。

 

「ええ。確かにあなたのお友達は戦っています。だからといって目が覚めたばかりのあなたが戦線に復帰して何になるんですか?それに、まだ呪いが解けているという確証もありません。少なくも今はまだ戦いに参加させることはできませんよ!」

 

「呪いなら解けた。もっと邪悪な呪いかと思ったが……案外、話の分かる奴だったよ」

 

「は?何を言ってるんですか?」

 

エスペランサは机に立て掛けてあった自分の杖を手に取り、グリフィンドール寮のある方向へ真っ直ぐに向けた。

 

「アクシオ・M733」

 

呪文を唱えてから僅かに十数秒。

廊下の向こうから高速で飛んできたアサルトライフルが医務室の中に飛び込み、エスペランサの横に転がった。

 

小銃としてはやや小振りだが、センチュリオンの正式採用銃として誰もが信頼を置いている武器である。

エスペランサは銃のスライドを引いて、薬室を確認する。

目立った汚れも無く、装弾不良の可能性も低い。

 

「まさか、今から行く気ですか!?」

 

マダム・ポンフリーが素っ頓狂な声を上げてエスペランサを止めようと立ち塞がる。

 

「どいてくれ」

 

「ダメです!あなたは寝ていなさい!」

 

「もう一生分寝たよ。それに、今戦っているのは俺が指揮官の部隊だ。仲間が命をかけて戦っている時に、ベッドで眠りこけることなんて俺には出来ない」

 

尚もマダム・ポンフリーはエスペランサを止めようとした。

だが、彼の放つ異様なオーラに呑まれ、結局、最後まで止めることは出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センチュリオンと死喰い人の攻防が繰り広げられている中、必要の部屋の前に2人の隊員がフル装備で立っていた。

 

本隊が死喰い人の集団と戦闘をしている今、必要の部屋本部の防備は手薄になっている。

 

そのため、警備要員として2名の隊員が配置されていた。

2人とも魔法警察パトロール出身であり、戦闘経験は乏しいものの、腕は確かである。

そのため、今回は必要の部屋の保守要員に抜擢されていた。

 

「とは言え、本隊が戦闘をしている中、何もしていないというのは嫌なものだな」

 

「そうか?」

 

「そりゃあだって、お前。仲間が命懸けで戦闘してるのにさ、こっちはお留守番だぜ?」

 

「俺はこっちの任務の方が良いよ。安全だし、危険じゃない」

 

「お前なぁ。じゃあ何でセンチュリオンに入隊したんだよ。この組織に入ったら嫌でも命の危険があるって分かってただろ?」

 

「当たり前だ。俺だって親族を死喰い人に殺されてんだから、死喰い人憎しで入隊したよ。だけど、それはセンチュリオンの戦力が死喰い人を圧倒してるって噂で聞いたからだ」

 

この隊員は安全なところから一方的に攻撃できる近代兵器があるから、センチュリオンに入隊していた。

 

もう1人の隊員は呆れたようにため息を吐く。

 

そんな時である。

 

「おーい!今すぐ必要の部屋を開けてくれー!」

 

廊下の端からそんな声が聞こえ、隊員達は声の方向に銃を向けた。

志はともかくとして、魔法警察で活動していたため、判断が早い。

 

「誰だ!名乗れ!」

 

「俺だよ。アーニー。アーニー・マクミランだ」

 

走ってきたのはアーニーだった。

肩で息をしている。

しかし、不思議なことに戦闘服ではなくローブを着用していた。

 

「何でここにいるんだ。お前は戦闘部隊だろ。そう言えばお前、戦闘服じゃ無くて何でローブを着ているんだ?」

 

「どうだっていいだろ?そんなこと。それよりも、必要の部屋を開けてくれ!」

 

「駄目だ。作戦時は必要の部屋は封鎖。緊急時以外は装備を持ち出さないという規則だぞ」

 

「今が緊急時なんだ!本隊の武器が足りなくて取ってきてくれとセオドールに言われたんだ」

 

「副隊長の指示か?」

 

「そうだ!早く開けてくれ」

 

隊員達は顔を見合わせる。

そのような指示は無線では来ていない。

本隊は戦闘継続中であり、そんな余裕もないのかもしれないが、だからと言ってアーニーだけを寄越すだろうか。

 

「どうする?規則には反するが、戦況を左右するなら現場判断で開けるべきだが」

 

「無線で副隊長に聞いてみよう」

 

「いや、その必要はない。セオドールが"僕"をここに寄越したのは、連絡手段が壊れて使えないからだ」

 

「無線が壊れたのか?そんなのは魔法ですぐ直せるんじゃないのか?」

 

「待てよ、そう言えばこの間も回線がどうのこうので無線が不調になっただろ。フナサカが嘆いてた」

 

「とにかく緊急だ!武器を持ったらすぐに戦線に戻らないといけない!」

 

必死のアーニーを見て隊員は仕方無しに必要の部屋を開放した。

 

「俺達は手伝わなくて大丈夫か?」

 

「大丈夫だ!すぐに出る」

 

アーニーは走って必要の部屋の中に入っていった。

 

そして、数分後。

彼は手ぶらで部屋から出てきた。

 

「おいおい。武器はどうしたんだ」

 

「縮小呪文でポケットに入れた。今からまた戦闘に戻る」

 

「お、おう。気をつけろよ?」

 

隊員達は色々と疑問に思いながらも、アーニーを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セオドールは慢心していない。

 

しかし、今回の作戦に関しては勝ちを確信していた。

敵勢力の数はすでに若干名。

おまけに森の中で身動きを取れなくされている。

 

「トドメを刺すぞ。森をナパーム弾で焼き払う。残弾を全て投入しろ」

 

「了解」

 

本部天幕後方の補給所に隊員が走っていく。

かつて吸魂鬼を倒したナパーム弾はセンチュリオンにとっての虎の子だ。

 

ナパーム弾による攻撃も魔法使いなら防ぐことが出来る。

相手がドロホフなら尚更だ。

しかし、継続的なナパーム弾による酸欠と一酸化炭素中毒は防げない。

 

確実に敵を殲滅するならこの手しかない。

 

「ナパーム弾投擲準備完了。いつでもいけます」

 

「了解。しくじるなよ」

 

セオドールは双眼鏡で敵が潜伏する森を見た。

今のところ大きな動きはない。

 

あとはあそこに温存していたナパーム弾を撃ち込めば終わる。

それでドロホフもベラトリックスも亡き者に出来る。

 

「副隊長!敵が動き始めた!森から出ようとしている」

 

「何だと!?」

 

「上空警戒中の遊撃部隊から報告があった!生き残りの死喰い人数人を先頭にして杖を片手に森を抜けようとしているらしい!」

 

セオドールは舌打ちをしながら森を見た。

森の奥から死喰い達がキルゾーンである馬車道に戻ろうとしているのが木立の間に見える。

 

「血迷って特攻をしかけてきたか。スナイパー、狙撃しろ。重火器班は火力を集中させろ」

 

「「 了解 」」

 

各所から返答があり、直後に特効をしかけてきた死喰い人達に対して榴弾による攻撃が仕掛けられた。

 

夥しい数の対戦車榴弾が飛来し、死喰い人達の直上で炸裂する。

 

死喰い人の人数はドロホフとベラトリックス含めても5名程度。

それならば火力で制圧できる。

セオドールを含め、隊員達は誰しもがそう思っていた。

 

炸裂する榴弾や、銃弾を先頭の年若い死喰い人が防ぎ、ドロホフとベラトリックスはその後ろから前進するだけ。

練度不足からか、年若い死喰い人は完璧に防御が出来ているわけでなく、榴弾の破片により、負傷していく。

 

それでも、死喰い人達は前進をやめない。

 

1人倒れ、また1人傷ついても防御魔法を途切れさせることなく、彼らは真っ直ぐに向かってきた。

 

「副隊長……あいつら無茶苦茶に突っ込んでくるだけで反撃してきませんよ?」

 

入隊から日が浅い隊員が弾薬の補給をしながら言う。

 

「奴らは特攻を仕掛けてきたんじゃない」

 

「へ?ただ突撃してくるだけに見えますけど」

 

「敵のフォーメーションを良く見ろ」

 

セオドールは表情を固くした。

彼はドロホフの考えを即時見破っていたのだ。

 

「ドロホフとベラトリックスをここまで辿り着かせるために他の死喰い人は全員、防御に徹している。その身を犠牲にして……。つまり、連中の狙いは主力の2人だけでも我々の本陣に送り込むことだ」

 

ドロホフとベラトリックス。こいつら2人はセンチュリオンの1個小隊を壊滅させられるだけの能力がある。

その二人は絶対に本陣に辿り着かせてはいけない。

 

「全隊員!火力を集中しつつ、陣形を組み直せ!」

 

『そんなことしなくても空中から攻撃しちまえばこっちのもんだろ!』

 

セオドールの指示を無視して空中警戒中だったコーマックとチョウが空から攻撃を仕掛けようとした。

 

「馬鹿!やめろ!」

 

その瞬間、今まで動きを見せなかったドロホフが杖から紫色の炎の鞭を出現させ、遊撃部隊に攻撃を仕掛けた。

 

油断していたコーマックとチョウは攻撃をモロに喰らい、キリキリ舞になりながら地面に墜落する。

 

「糞っ!衛生班は救助にいけ!2分隊は援護しろ」

 

ドロホフの使う炎は悪霊の炎を応用させた攻撃法だ。

処置が遅れれば死に至る。

 

フローラ率いる衛生班とアンソニーが指揮する2分隊が墜落した二人の救助に向かった。

だが、そのせいで正面の守りが薄くなる。

 

「副隊長!敵が近くなり過ぎました!榴弾の最小射程です!弾頭が炸裂しません」

 

「無反動砲もグレネードもダメです」

 

「攻撃手段を重火器から小火器に切り替えろ。前方のラインを突撃破砕線に設定。弾幕を張れ!」

 

「り、了解!」

 

ドロホフ達は隙をついてセンチュリオン陣地の目と鼻の先まで迫っていた。

ここまで近づかれると榴弾は使用できない。

 

余裕が出たベラトリックスが死の呪いを連射してくる。

だが、掩体に潜む隊員にはなかなか呪いが当たらない。

 

「ネビル!狙撃しろ!」

 

「まかせろ!!」

 

M24による狙撃攻撃をネビルが始めた。

先頭の死喰い人がバタバタと倒れる。

 

これで残るはドロホフとベラトリックスのみだった。

ドロホフは倒れた死喰い人には目もくれず、爆破呪文を連発する。

 

激しい爆発がセンチュリオンの防御陣地を襲い、隊員ごと掩体を吹き飛ばした。

 

銃に頼り、杖を構えていない隊員達が攻撃を生身で受けてしまい、倒れる。

 

「正面の陣地がやられた!負傷者多数!被害甚大」

 

「救助に行く!」

 

セオドールの周りで戦っていた第1分隊の隊員たちがM733を引っ掴んで倒れた隊員たちの救出に向かおうとする。

 

「やめろ!戦闘は継続中だ!今は攻撃に専念しろ」

 

「しかし、このままでは彼らを見殺しにすることになる!」

 

隊員達は良い意味でも悪い意味でも仲間思いだ。

今回はそれが仇となった。

 

ドロホフが目と鼻の先まで迫っているのにも関わらず、倒れた仲間の救助を優先させようとしてしまったのである。

 

この混乱をドロホフは見逃さなかった。

 

特大の悪霊の炎を噴出させると、鞭のように振るい、広範囲の攻撃を仕掛ける。

対応しきれなかった隊員数名が吹き飛ばされた。

 

咄嗟に反撃の銃撃をしようとした元魔法省職員の隊員が数名いたが、残念なことに、彼らの弾倉はすでに空だった。

ベラトリックスに狙い撃ちされ、後方に吹き飛ぶ。

死の呪いではなく爆破呪文だったのが幸いして、即死とはならなかったが、重症だ。

放置すれば確実に死ぬだろう。

 

あっという間に体勢が崩れ、被害が増えていく。

 

セオドールは掩体横の弾箱に立てかけてあった銃を掴み、既に陣地に侵入してきたベラトリックスに5.56ミリ弾を叩き込んだ。

 

「うぎゃ!」

 

ベラトリックスの腹部に数発命中し、彼女は地面に倒れる。

だが、その数発でセオドールの銃は動かなくなった。

見ればスライドが止まっている。

装弾不良だ。

 

彼はM733を投げ捨て、腰のホルスターから拳銃を取り出した。

 

「副隊長を援護しろ!」

 

既に弾の尽きたM24を捨て、杖を構えたネビルが周囲の隊員に叫ぶ。

まだ動ける隊員達が一斉に銃を構えたが、撃てない。

 

ドロホフが既にセオドールの目と鼻の先まで迫っていたせいで、狙いが定められないのだ。

 

センチュリオンの隊員達の銃はクィレル発案の自動照準魔法がかけられているから必ず命中する。

しかし、セオドールとドロホフが近くなり過ぎると誤ってセオドールを射撃してしまう可能性があった。

 

セオドールはドロホフに拳銃を向け、引き金を引く。

合計10発の弾丸が発射されたが、ドロホフは驚異的な反射神経で盾の呪文を巧みに使い、回避に成功する。

 

「悪いな、ノットの倅よ。先に地獄に堕ちろ」

 

「畜生が」

 

万策尽きたセオドールに反撃の術はない。

ここまでか……と諦めかけたその時だった。

 

「伏せろ!副隊長!!」

 

どこからともなく声が聞こえ、セオドールは反射的に伏せた。

そんな彼の頭上に5.56ミリ弾が飛来する。

 

一歩間違えればセオドールの頭蓋を撃ち抜いてしまうような射撃だ。

だが、射手はセオドールが必ず伏せると確信して撃っていた。

 

咄嗟に盾の呪文を展開し、銃弾を防いだドロホフは声の聞こえた方向に目を向ける。

 

「なんだと……。何故、奴があそこにいる!?」

 

センチュリオンの陣地の後方100メートル。

ホグワーツ城の方向から全力疾走してくる男が見えた。

 

「まさか……あれは!?」

 

走りながらM733を真っ直ぐにドロホフに向けている戦闘服姿の男。

 

見間違う筈もなかった。

 

 

「隊長!!!!」

 

 

エスペランサ・ルックウッド。

 

センチュリオン隊長が戦線に復帰した瞬間である。

 




久々の投稿です。
久々過ぎて文の書き方とか忘れてました。
年末までどんどん投稿出来たら良いな…

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