ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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感想、誤字報告ありがとうございます!
しばらくエスペランサは出て来ません。


case103 Bystander of history 〜歴史に紛れ込んだ異物達〜

ケイティに突然襲われ、呪いのネックレスを押し付けられたエスペランサが宙を舞い、雪の中に倒れ込んだのを目の当たりにしたセオドールは咄嗟にM733を構えた。

 

銃口はまっすぐにケイティに向けている。

 

彼は冷静さを失ってはいけないと自分に言い聞かせつつも、感情が抑えられなかった。

 

 

「隊長がやられた……。殺せ!」

 

そう言うが早いか、セオドールは引き金に指をかけ、ケイティを射殺しようとする。

 

「ノット!駄目だ!やめろ!!!」

 

血相を変えたハリーが銃を構えるセオドールに体当たりをした。

不意の攻撃にセオドールは雪の中に倒れ込む。

 

引き金に指がかかっていたため、数発の弾丸が発射されるが、それは明後日の方向へ飛んでいった。

 

「退けポッター!奴は敵だ!」

 

「きっと服従の呪文かなにかで操られてるんだ!殺しちゃだめだ」

 

ハリーはセオドールを必死に押さえ付けようとした。

 

「ペトリフィカストタルス・石になれ!」

 

ハーマイオニーが咄嗟にケイティに全身金縛りの魔法をかける。

彼女は途端に石のように固くなり、雪の中に突っ伏した。

 

「ネビルとダフネはケイティ・ベルを拘束。私は隊長を救出します」

 

「り…了解」

 

フローラがネビルとダフネに指示を飛ばす。

ネビル達はケイティを魔法で拘束した。

 

フローラは倒れて動かなくなったエスペランサのところへ駆け寄る。

目を閉じて雪に埋もれるエスペランサはまるで死んでいるようだったが、かすかに息をしていた。

 

フローラは安堵し、震える手で杖を取り出した。

 

「やはり、呪いのネックレスですね。ボージンの店で売られていた曰く付きの品物です」

 

「呪いのネックレス?何それ?」

 

雪を掻き分けてダフネも近付いてきた。

 

「魔法界に存在する呪いは多くあります。ダフネも良く知る"血の呪い"などです。このネックレスはその中でも特A級の呪いが込められたもので、今までに数百人の命を奪ってきた物なんです」

 

「じ、じゃあ隊長は!?」

 

「安心して下さい。まだ息はあります。ネックレスと接触した時間が短かったか、隊長がタフだったか、どちらにせよ生きてます」

 

とは言いつつ、フローラの手は相変わらず震えている。

呪いのネックレスに侵された人間が無事な訳がない。

このまま永久に目覚めなかったり、何らかの後遺症を残す可能性もある。

最愛の人がそのような状態になっても尚、冷静でいられたのはフローラの精神面がここ数年で鍛えられていたからに他ならない。

 

「油断していた。敵にとっては隊長も、何なら俺達だって標的なんだ。もう少し警戒していればこんな事にはならなかった」

 

冷静さを取り戻したセオドールがハリー達を引き連れてやってくる。

ネビルは携帯していた無線で城へ連絡を取っていた。

 

「と言うことはケイティを操っていた犯人はハリーではなくエスペランサを狙っていたってことか?」

 

ロンが言う。

 

「ああ。恐らくは……。俺達は死喰い人に少なくないダメージを与えてきた。奴らにとってセンチュリオンは目の上のたんこぶだ。隊長を狙うのも頷ける」

 

「マルフォイだ。犯人はマルフォイだ」

 

ハリーが呟いた。

 

「マルフォイだって?」

 

「その呪いのネックレスはボージン・アンド・バークスで売られていた物だ。そして、その呪いのネックレスをマルフォイが買ったに違いない」

 

フローラが魔法で回収しようとしていたネックレスをハリーが指差す。

 

「マルフォイが?いや、その話は後で聞こう。今は隊長を運ぶのが先だ」

 

見れば豪雪の中、連絡を受けたセンチュリオンの衛生班と戦闘部隊がホグワーツ城から走ってくるのが見える。

 

幾度もの戦闘で奇跡的な結果を残し、何度も生き延びてきたエスペランサ・ルックウッドが呆気なくやられた事にセオドールもフローラもネビルもダフネも少なからずショックを受けている。

 

セオドールの中でエスペランサという存在は大きく、彼が戦闘不能になる事などあり得ないとも思っていた。

しかし、それは違った。

 

エスペランサも所詮はただの人間。

奇襲や呪いを受ければ簡単に死んでしまう。

 

エスペランサという柱を一時的に失ったセンチュリオンは果たして戦闘組織として機能するのか。

そんな不安を感じつつも、セオドールはまだ見ぬ黒幕への復讐を考え始めていた。

 

 

「必ず敵は炙り出す。そして、必ず倒す。俺の頭が動いているうちは決して逃がさない」

 

豪雪の中彼は一人誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスペランサが呪いのネックレスによって医務室に運ばれたという話は全生徒に伝わった。

 

バジリスクを退け、神秘部では何人もの死喰い人を亡き者にしたエスペランサが倒れたという事実は少なからず生徒に衝撃を与えている。

セオドールも冷静さを取り繕ってはいたが、その実、動揺していた。

 

こうも簡単に部隊の長がやられるとは思ってなかったからである。

 

「俺が迂闊だった。ダンブルドアだけでなくエスペランサも暗殺対象となり得る。一歩間違えれば俺達は指揮官を失っていた」

 

医務室のベットで横たわるエスペランサを見ながらセオドールは呟いた。

マダム・ポンフリーは反対したが、エスペランサの病棟は隊員が24時間制で見張りをしている。

 

「それを言えば、私達だって暗殺の対象です」

 

ベットの側に置かれた椅子に腰をかけながらフローラが言う。

彼女は授業と訓練以外、ほとんどの時間、エスペランサの見舞いに来ていた。

エスペランサはここ2日間目を覚ましていない。

 

マダム・ポンフリー曰く、ここまで強力な呪いを受けた人間は生きているだけでも不思議なくらいなのだそうだ。

故にエスペランサが目を覚ますかどうかは誰にも分からない。

 

ダンブルドアなら何とかしてくれるかも知れなかったが、残念ながら不在である。

 

「敵は思ったよりも策士だった。ケイティ・ベルが呪いのネックレスの被害を受けた事を服従の呪文で演じさせ、近付いてきた隊長を襲わせたんだ。最初から隊長狙いでないと思いつかない策だろう」

 

ケイティ・ベルは呪いのネックレスに触れていなかった。

彼女の手に保護魔法の施された手袋が付けられていたのは、後になって知った事である。

犯人は想像以上に策士だった。

ケイティに服従の呪文をかけ、あたかも呪いのネックレスによって死にかけているように演技をさせていたのだ。

 

そして、近寄って来たエスペランサに呪いのネックレスを押し付けた。

 

単純だが、非常に効果のある方法だ。

 

「やっぱりマルフォイが犯人だ」

 

センチュリオンの面々と共に見舞いに来ていたハリーが言う。

セオドールはハーマイオニーと違い、ハリーの話を重要視しており、呼んでいたのである。

 

「ポッター。ドラコはアリバイがある。あの日、奴はマクゴナガルの罰則を受けてホグワーツ内に居たんだぜ?」

 

ザビニが反論した。

 

「共犯者が居たんだ。クラッブかゴイルか……。それにマルフォイはボージンの店で何かを欲しがっていたし、今年度は何かを企んでる。クィディッチの試合をサボって城内で何かやっていたのだって怪しい」

 

「確かにポッターの言う通りだ。今年のドラコはどこか様子がおかしい」

 

「そうなんだ。それなのにロンもハーマイオニーも全然相手にしてくれなくて……」

 

クラッブとゴイルによる必要の部屋の襲撃。

ケイティを利用したエスペランサへの攻撃。

そして様子のおかしいマルフォイ。

 

これらは必ず繋がっている。

そう考えるのはハリーだけでなくセオドールもだった。

 

「それならマルフォイの奴を尋問してやろうぜ?鉛玉の一つでも喰らわせれば本当の事を吐くだろうさ」

 

コーマックが言うと、周りの隊員もそうだそうだと賛同した。

センチュリオンの隊員達は皆、隊長の仇打ちをしようと血の気が多くなっている。

 

「皆、落ち着け。残念ながら我々に生徒の尋問権は無いし、許可を取ろうにもダンブルドアは不在だ」

 

「だが、副隊長!このまま黙っていられるか?隊長がやられたんだぞ?」

 

「そうだぜ?マルフォイが犯人だとしたら血祭りに上げてやるところだ!」

 

医務室の中には現在、10人以上の隊員が居るが、彼らは皆、義憤に駆られている。

良くない兆候だ。

このままでは指揮統制が取れなくなる。

 

「皆さん。少し冷静になりましょう」

 

フローラが静かに言った。

この隊員達の中で最もエスペランサのことを大切に思っているだろう彼女の言葉に一同、大人しくなる。

 

「こんなに騒いでいたらマダム・ポンフリーに追い出されます。それから、隊長が戦闘不能になったからといって感情的になり、統率に乱れが出来たらそれこそ敵の思う壺です」

 

「だけどこのままだと隊長だけじゃなくて他の隊員にも犠牲者が出るかもしれない。やはり対策はするべきじゃない?これ以上仲間がやられるのは嫌だし」

 

つい最近、母親が死喰い人に殺されたハンナが発言した。

彼女は母親の葬儀に参加していて、ついさっき帰還したのである。

 

「その事だが、俺に策がある」

 

セオドールが前に出た。

 

「犯人探しをしたいところだが、その為に割く人的リソースは不足している。だからまずは、敵に"センチュリオンを襲えば痛い目に遭う"と思わせ、襲撃を躊躇わせる策が必要だ」

 

「その策ってのは何だ?」

 

「既に作戦は考えてある。そして、この作戦にはポッターと"黄金虫"が必要になるだろう」

 

「え、僕が?」

 

「ああそうだ。無論、ダンブルドアに許可をもらわんといけないが、ポッターを餌にして敵に敢えてホグワーツを襲撃させる。そして、そこに打撃を与える事で今回の事件の黒幕にこれ以上の襲撃が無意味だと思わせ、また、エスペランサ抜きのセンチュリオンも脅威であると実感させるんだ」

 

「なるほど。確かに有効かもしれない」

 

「良し。では作戦会議を行う為、隊長の警備をする隊員を残し、全員、必要の部屋に集まってくれ。あとフィルチさんも呼んで欲しい。それからポッター。君も来てくれ。今回の作戦は君がキーパーソンとなる」

 

「良いけど……一体、何をしようというんだ?」

 

「俺達やポッターを襲撃するとどうなるかって敵に思い知らせてやるのさ」

 

セオドールはそう言うと、必要の部屋に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

必要の部屋のブリーフィングルームにセンチュリオンの隊員とスクリムジョール、ボージン、フィルチ、そしてハリーが揃った。

 

スクリムジョールと犬猿の仲であるハリーは嫌な顔をしていた。

何とも奇妙な面子である。

 

ちなみにボージンもバークも呪いのネックレスを販売した相手の事は知らないそうだ。

どうやら通信販売でアウトローな連中が買ったらしい(セオドールは憤慨してポイズンバレットの値下げを要求した)。

 

 

「全員揃ったな。まず現状の共有をしようと思う。昨日、隊長のエスペランサが服従の呪文で操られた生徒に襲撃された。隊長は意識不明。復帰の目処は立たない。襲撃に使われた呪いのネックレスはここにいるボージンの店で売られていたものだ。だが、犯人は不明。ネックレスに関してはスネイプ教授が保管している」

 

セオドールは総員の前に立ち話し始めた。

 

「俺はヴォルデモートが狙っているのはポッターかダンブルドアの命だと思っていたが、どうやら隊長が狙いだったらしい。そして、恐らく、センチュリオンの隊員も標的にされる可能性は十分にある」

 

隊員の何人かが頷いた。

スクリムジョールも同感のようだ。

 

「我々は自衛手段として火器使用を許可されてはいるが、今回のような襲撃が重なれば隊員に被害が出るだろう。故に対策が必要だ」

 

セオドールはホワイトボードにホグワーツ城の地図を貼り付けた。

このホグワーツ城の地図はホムンクルスの魔法を活用したもので、ハリーの持つ忍びの地図の下位互換である。

 

「これはホグワーツの地図か。ということは主戦場はホグワーツということかな?」

 

「そうです大臣。今回の作戦は簡単に言えば囮作戦だ。ホグワーツの警備に意図的に綻びを作り、そこへ敢えてハリー・ポッターを無防備な状態で放り出す。そうすれば敵は必ずポッターを襲撃するだろう。そこを叩く」

 

「いやいや待て待て。仮に今回の襲撃の犯人がヴォルデモート勢力の人間だとして、奴らはどうやってホグワーツの警備に綻びが出来たことや、ハリーが無防備で放り出されている事を知るんだ?」

 

アーニーが質問した。

 

「そこが今回の作戦の鍵だ。今回の事案からするに、黒幕はホグワーツ内に潜んでいる可能性が高い。そこで、"ホグワーツの警備に穴が出来たこと"そして、"そこへハリー・ポッターが現れる"という情報を校内に意図的に流す」

 

「そうか。そうすれば今回の黒幕は死喰い人を呼び寄せ、ハリー・ポッターを襲撃するという訳か」

 

スクリムジョールが言う。

 

ケイティを操り、エスペランサを襲わせた犯人がホグワーツに存在するという前提の作戦であるため、成功するかは五分五分といったところだった。

しかし、セオドールは犯人がホグワーツに存在すると考えていたし、何ならその犯人がマルフォイである事まで目星をつけていた。

 

ハリーのホグワーツ特急で聞いたと言うマルフォイの発言。

クラッブとゴイルの襲撃。

マルフォイ自身の雰囲気が変わった事。

スネイプがやたらとマルフォイを庇う事。

 

確固たる証拠ではないがファクターは多く存在する。

 

また、ルシウス・マルフォイの失態をヴォルデモートが許す筈もなく、その埋め合わせとしてマルフォイがダンブルドアやハリー、そしてセンチュリオンの殲滅の命を受けたという考えも捨て切れない。

 

エスペランサがホグズミード村に行っていた事を知っているのはホグワーツの人間だけであるから、仮に犯人がマルフォイでなくても、黒幕はホグワーツにいることになる。

 

とするのであれば、ホグワーツの警備に穴が出来た事とハリー・ポッターを狙うチャンスがあると言う情報を流せば必ず黒幕は動く。

この黒幕がヴォルデモート勢力と繋がっているのであれば、死喰い人を呼び寄せる可能性も大きい。

 

そして、その襲撃を見事に撃滅すれば、今後、この黒幕の人間が隊員やハリーを暗殺するのが困難であると認識するだろう。

要するに抑止の為の作戦だ。

 

「だけど、そんなに上手くいくか?黒幕がホグワーツ内に居なかったり、死喰い人が襲撃してこなかったりしたら骨折り損だぜ?」

 

「それならそれで構わん。その場合は戦闘は行われず、我々の損害はゼロになるのだからな。時間は無駄になるが、デメリットにはなり得ない」

 

「ふむ。興味深い作戦だ。しかし、ホグワーツの警備を司るのはダンブルドアだ。一部の警備を解除するにはダンブルドアの許可が必要だが、果たして、彼が許可してくれるだろうか」

 

スクリムジョールが言う。

 

「だいたい、ホグワーツのどこの警備を緩めるんだ?お前達を信用しない訳では無いが、管理人としては気になるところだ」

 

スクリムジョールの横に居たフィルチも発言した。

 

「その指摘はもっともだ。ダンブルドアはポッターを贔屓している節があるからな。囮に使う事には難色を示すだろう」

 

「僕は贔屓なんてされてない!贔屓されてたらダンブルドアは僕に何でもかんでも教えてくれる筈だ」

 

「言い方が悪かったな。ダンブルドアは少なくともポッターに利用価値を見出しているから、囮に使うことには反対の立場なはずだ」

 

ハリーは尚も何か言いたげだったが、セオドールは無視した。

 

「だが、ダンブルドアを言い包める策は練ってある。黄金虫が良い情報をくれたのでな。それから、フィルチさんの質問の回答だが、これについては馬車道を利用する」

 

「馬車道って新学期にセストラルに引かれて登ってくるあの道の事?」

 

ハリーが質問する。

 

「そうだ。ホグズミード村の駅から城門に続く馬車道は直線距離にして1キロ程度。登り坂になっていて、さらに左右は森に囲まれているため味方に有利な地形だ」

 

「じゃあ僕はその道にノコノコと現れれば良い訳か。でも、何と言うか、何も用件が無いのにあの道に僕が現れるっていうのは怪し過ぎないか?敵も罠だと疑うような気がするけど?」

 

「そうだな。何の理由も無しに保護魔法の切れた馬車道にポッターが現れるなんて情報を敵が聞いたら、それこそ罠を疑うだろう。そこで……」

 

セオドールに促されてダフネが何か魔法で書かれたパネルを持ってきた。

テレビで使うようなカンペにも見えるそのパネルにはカラフルな文字でこう書かれている。

 

『ハリー・ポッターとジニー・ウィーズリーの愛の逢引き物語』

 

その文字を見た隊員達は肩を震わせた。

一方のハリーは顔を真っ赤にしている。

 

「一体、何なんだその題名は!?ふざけてるのかい?」

 

「いや、至って真面目だ。ダフネ、説明を宜しく」

 

「了解!」

 

ダフネが意気揚々と前に出てきた。

 

「ストーリーはこうだよ。"ホグワーツのホグズミード村に続く道の保護魔法が一定の期間解除されるという情報を偶然知ったハリー・ポッター。彼は愛しのジネブラ・ウィーズリーと乳繰り合う場所を探していたが、ホグワーツ内では兄のロナルドが眼を光らせているため中々、難しい。そこで、保護魔法が解除されたその時間を狙い、ホグズミード村へ二人で出掛け、村にある連れ込み宿で毎週、チュッチュイチャイチャラブラブをしている"という噂をホグワーツ内に流すの。それを聞きつけた敵は、その時間を狙い、死喰い人を呼び寄せるって訳」

 

「今、ダフネが説明した通りだ。ホグワーツ生はミーハーだからな。この手の噂はすぐに広まるだろう。ダンブルドアの許可が取れ次第、工作を行う」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!こんなの僕が晒し者じゃないか!それにジニーは今、ディーンと付き合ってるんだ!」

 

「ああ、そうだったな。じゃあ寝取れ」

 

「冗談じゃない!僕は兎も角としてジニーもディーンもついでにロンも許す筈が無いだろ」

 

「ジネブラ・ウィーズリーからは既に了解を得ている。本人はやる気満々だったぞ?ちなみにこの作戦の原案は実を言えば隊長が起案したものだ。ディーン・トーマスとロナルド・ウィーズリーからの許可は取ってないが、まあそこは何とかするさ」

 

「え?エスペランサが!?いや、それ以前になんでジニーなんだ!?」

 

「エスペランサが"ハリーはジニーにお熱だからな"とか言っていた。俺は半信半疑だったが"黄金虫"が調べ上げてくれてな。違うのか?」

 

「ち、違う!違うさ。ジニーはロンの妹だ」

 

ハリーの顔は瞬間湯沸かし器のようになっていた。

 

「俺にとってはどちらでも良い。ジネブラがダメならうちの隊員の誰かでも良いぞ。ああ、フローラはやめとけよ。隊長が知ったらポッターが半殺しにされちまうからな」

 

唖然とするハリーを差し置いて、センチュリオンの隊員達は笑っていた。

こうして、ハリーの意思を完全に無視した形で作戦は立てられていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここは一体どこだ?

 

自分は誰だ?

 

真っ暗闇で何も見えない。

 

何も思い出せない。

 

いや、何か大切な事を忘れているだけ。

 

 

 

 

 

ふと目を凝らすと光が見える。

 

その光は徐々に広がり、そして………。

 

光が収束すると共に周囲の光景が目に入るようになった。

男が二人、自分のことを覗き込んでいる。

 

一人は顔色の悪い痘痕面の男。

もう一人はフードを被っているため、顔が分からない。

 

 

『闇の帝王の復活と共に更なる闇がこの世を覆う。災いを引き起こす源は我々とは相違する英知とそれをもたらす者にある。しかし、引き起こすのは災いのみならず。闇を払う力も同時に教示する存在と彼はなるであろう』

 

「なるほど。それが予言か。確かに"正史"には存在しなかったイレギュラーな予言だ」

 

フードの男が言う。

 

「本来、シビル・トレローニーの我が君に関する予言は一つだけだったのですね?では、一体、何故このような予言がこの世界では生まれたのでしょう?」

 

今度は痘痕面の男が口を開いた。

 

「この私がこの世界の歴史に手を加えた為……イレギュラーが生じた。或いは、歴史の修正力が私というイレギュラーを抹殺するためにカウンターウェポンとしてこの世界にこの子供を発生させたのか」

 

「イレギュラー……。私は今でも信じられません。あなたのような存在が英国魔法界に居るとは」

 

「私も私自身の数奇な運命を未だに信じられてはいない。だが、現に私はここに居るし、この子供が存在している。そうとも、オーガスタス。お前は本来、その生涯を終えるまで子供を作らなかった」

 

「それが正史における私だったのですね……」

 

「左様だ。歴史から爪弾きにされた私が何度も見てきた世界の中で、お前は生涯独身だった。だが、私が手を加えたこの世界において、この子供が生まれ、そして、予言が生まれた」

 

「あのソール・クローカーでさえ貴方の存在は発見出来なかった。いや、あのクローカーが貴方を生み出したと言うべきか。しかし、疑問です。確かあの1899年の試みに挑戦した貴方は史実では女性だったはず。しかし……」

 

「如何にも。私は男性であり、あの女史とは別人だ。それに関しては追々、話すとしよう。思えばあの1899年の出来事が全ての始まりであり、そして、2019年に全てが終わったのだ。オーガスタス、この子供は確実に処分しておけ」

 

「はい。そうします……」

 

-----------------暗転。

 

 

 

 

 

場面が変わり、痘痕面の男が血だらけになりながら自分のことを見つめている。

 

「私はもう駄目だ。恐らくはアズカバンに入れられる。その運命は受け入れよう。しかし、お前だけは……生きろ」

 

遠くの方から怒声が聞こえた。

痘痕面の男はどうやら何者かから逃げているようだ。

 

「お前は闇に堕ちた私にとって唯一の"希望"なのだ。魔法界とは縁もないマグルの世界で……。魔法界の歴史とは関わりのないところで……生きてくれ、エスペランサ」

 

 

 

------------------暗転

 

 

エスペランサとは誰のことだろう。

 

聞き馴染みのあるその名前を反芻している内に、また暗闇が自分を襲った。

 

 

 

 

 

 




そろそろ物語の重要なところを出していかないとな、と思い最後を追加しました。

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