ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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誤字報告ありがとうございます!
最近ちょっと悪いこと続きでブルーな気分…


case102 Winter without a captain 〜倒れた英雄〜

翌日。

クラッブとゴイルがセンチュリオンを襲撃した事件はホグワーツ中に知られる事になった。

 

エスペランサとセオドールの考えで敢えて襲撃の噂を生徒中に流したからである。

 

襲撃すれば返り討ちに遭うという事実を知らしめる事である種の抑止力とする。

それが狙いだ。

 

エスペランサがそんな工作をしている時、ハリー達はハグリッドとの関係修復を図っていたらしい。

ハリー達曰く、ハグリッドはアラゴグが衰弱している事で精神的に不安定になっているそうだ。

 

エスペランサは2学年の時、アラゴグの家族を住処ごと爆破した。

故にアラゴグは死んだと思っていたのだが、生きていたようである。

 

その件があったからかは知らないが、アラゴグは弱体化し、生存していたアラゴグの家族達はハグリッドを含む人間に対して明確な敵意を持つようになったとのことだ。

 

精神的に不安定と言えば、クィディッチの試合が近くなったロンの精神も弱ってきていた。

昨年、ある程度メンタルが強くなった彼だが、まだ不安定なところがあるみたいだ。

 

そこで、ハリーはロンの精神力を鍛えるにはどうしたら良いかをエスペランサに尋ねた。

 

 

その結果が………。 

 

 

 

「腰が上がってるぞ!膝をつくな!あと50回だ!!ガッツを見せろ!」

 

「も、もう無理。限界だ……」

 

「弱音を吐くんじゃねえ!おい、ハリー。お前もバディを応援しろ!ほら、だから膝をつくな!」

 

「な、何で僕も一緒にやらないといけないんだ」

 

ロンと(何故か)ハリーは精神力を鍛える為にセンチュリオンの新隊員教育に体験参加させられていた。

ハリーはエスペランサに相談した事を後悔している。

 

彼らがまずやらされたのは腕立て伏せだ。

 

「背中は一直線にして腰を曲げるな!」

 

限界が来て体勢を崩そうとしたハリーの腰をエスペランサが掴み、膝をつけさせないようにした。

 

課せられた目標は100回。

鍛えていればそこまで大変な回数では無いが、筋トレ等した事もないハリーとロンにはハード過ぎるメニューだった。

 

ロンの方がハリーより筋力があるようで、ロンが現在50回、ハリーは40回で止まっている。

 

「駄目だ……。もう腕が上がらない……」

 

「分かった。二人合わせて100回にしてやる。おい、ロン。ハリーは残念ながら限界らしい。お前がハリーの分もやってやるんだ」

 

エスペランサがハリーも参加させたのには意味がある。

ハリーとロンをバディにして二人で訓練を乗り越えさせる事で仲間意識を強くさせているのだ。

 

「う、51…52……53」

 

「いいぞ!ロン頑張れ!ハリーも応援するんだ!」

 

ネビルがやってきてロンの前で一緒に腕立てを始める。

必要の部屋に設けられたこの陸上訓練場ではハリーとロンだけではなく他の新隊員も現在訓練をしていた。

 

長時間の戦闘に耐え得る体力と精神を鍛えるには厳しい体力練成がやはり効果的だ。

というわけでエスペランサ達は軍隊式の体力練成訓練を頻繁に行っている。

 

必要の部屋の中に設けられた陸上訓練場は懸垂場やトラックの他にも障害物走が出来るコースなどが設けられていて、傍にはプールまで出来ていた。

 

もはや必要の部屋は部屋ではなく一つの駐屯地になっている。

 

やっとのことで合計100回の腕立てを終えたハリーとロンにエスペランサはラバー銃を渡す。

 

「まだ終わっちゃいねえぞ。ハリーとロンは今から第1小隊に加わり、ハイポートだ」

 

「そんな無茶な。腕立ての前に懸垂とか障害物だってやったんだ。もう身体が動かない。限界だよ」

 

「限界を自分で決めるんじゃねえ。まだ減らず口が叩けるくらいの余裕があるじゃねえか。ほら、立て!走れ走れ!遅れたら連帯責任で腕立て追加だ!」

 

エスペランサに急かされて立ち上がったハリーとロンだが、渡されたラバー銃が思ったよりも重く、フラついてしまう。

ラバー銃はゴムで出来た訓練用の銃だが、その重さは本物と変わりない。

 

これを持って走ると思うと気が遠くなった。

 

陸上訓練場の中央には既に第1小隊の面々が揃っていた。

全員、フル武装で手にはM733を持っている。

 

先頭の隊員は小隊旗を手にしていた。

 

「皆、紹介するぞ。こちらは体験入隊中のハリーとロンだ。新入隊員は知らないかも知れんが、魔法省の戦いではセンチュリオンと共同戦線を張っていた戦友である」

 

エスペランサに促されてハリーとロンは隊員達の前へ出た。

隊員がかなり増えた事もあり、センチュリオンの編成もかなり変化した。

 

この第1小隊はエスペランサが指揮をする小隊であるが、前身は第1分隊である。

小隊の人数は15名。

その内の半数は新規入隊の生徒、もしくは元闇祓いや魔法警察の隊員だ。

 

ハリーは隊員を見渡す。

 

知り合いも多いし、ダンブルドア軍団に所属していたメンバーも居た。

 

隊員達はハリーとロンを拍手で迎えると、2列縦隊で並ぶ。

 

「よし。健康状態に異状のある者はいるか?」

 

「「「 無し! 」」」

 

「では、本日最後の訓練だ。これから俺が止めるまでハイポートで走るぞ。どうしても体調が悪くなった者は申し出ろ。それじゃ行くぞ。前へ進め……駆け足、進め!」

 

2列縦隊になった15名の隊員とハリー達二人は走り出す。

前から一人ずつ号令をかけて歩調を合わせながら走るのは慣れていないハリー達や新入隊員には酷だった。

 

「イチ、イチ、イチニー」

 

「「「 そーれ 」」」

 

「イチ、イチ、イチニー」

 

「「「 そーれ 」」」

 

「連続歩調ー歩調、歩調、歩調調調調調、数え!」

 

歴戦の隊員達は呼吸を乱さずに走るが、やがてハリーとロンが遅れ始めた。

 

「遅れるな!足を動かすんだ!」

 

エスペランサがハリー達の後ろにやってくる。

 

「む、無理……呼吸が」

 

「呼吸を乱すと余計に疲れるぞ!おい、ネビル!士気を上げるぞ!新隊員も遅れ始めてる」

 

慣れない半長靴に重いラバー銃。

ホグワーツでは唯一と言って良いスポーツである。

 

やがてハリーとロン以外はゴール地点まで辿り着いてしまった。

ゴールに辿り着いた新規隊員や教官役の古参隊員は手を振ってハリー達二人を応援する。

 

何人かは二人と一緒に並走して走り始めた。

 

そして、数分後。

ハリーとロンも無事、ゴール地点に辿り着く。

その時点で体力が限界だったのだろう。

二人は芝生の地面に倒れ込んだ。

 

「お疲れ様でした」

 

相変わらずの無表情でやってきたフローラがハリーとロンに水筒を渡した。

彼女の左腕には赤十字マークのついた腕章が付けられている。

 

「え?あ、ありがとう……」

 

大量の汗を流しながらハリーは水筒の中の水を口に含んだ。

魔法で冷却されているのだろう。

水は適度に冷えていて気持ちが良い。

 

「動けるなら少しでも歩いた方が良いぞ。心臓に負荷がかかってるからな。それからウィーズリー。水は少しずつ口に含んで飲んだ方が良い」

 

セオドールもハリーのもとにやってきて彼にタオルを渡した。

 

「あ、ああ。ありがとう。でも、良いの?僕らはグリフィンドールのクィディッチ強化の為に今回の訓練に参加したんだ。君達スリザリン生にとっては敵に塩を送るようなものなんじゃないか?」

 

ハリーがセオドールに言う。

 

「一流のスポーツ選手なら、試合相手が強い方が燃えるものだろう?それに俺は今のスリザリンからハブられている人間だ」

 

そんなセオドールとハリーの横ではコーマックがロンと話していた。

 

「ナイスファイトだロン。だが、お前は俺の代わりに試合で飛ぶんだから無様な試合だけはするなよ?」

 

「ええと、君は確か……」

 

「コーマックだ。同じ寮だし、何ならこの間の選抜にも居たぞ。去年のお前の試合は見事なもんだった。今年も勝てよ?」

 

コーマックはロンにタオルを渡した。

ロンはそれを受け取る。

 

「僕、君の事あんまり好きじゃなかったし嫌な奴だと思っていたけど……。君、最高に良い奴だな」

 

「お前、失礼な奴だな……。だが、あながち間違ってもいない。4年くらい前の俺は自分で言うのも何だが、自信家で嫌な奴だった。性格だって良くは無かった。だけど、このセンチュリオンに入隊して変わったのさ」

 

「変わった?」

 

「ああ。俺だけじゃない。ほら、あれを見てみろ」

 

コーマックが指差す先にはザビニやダフネ達と楽しそうに話すネビルの姿があった。

 

「ネビルがスリザリン生と楽しそうに話してる……。こりゃマーリンの髭だ」

 

「俺もグリフィンドール生だからな。まさかスリザリンの連中と肩を並べて戦い、同じ釜の飯を食べるようになるとは思わなかったよ。多分、セオドールやザビニも俺と同じ事を思ってる筈だ」

 

見渡せばセンチュリオンの隊員は寮も家柄もバラバラだ。

 

「ザビニもセオドールも……エスペランサに会わなければ今頃はヴォルデモートシンパに加わっていたかもしれん。俺は俺で相変わらずスリザリンを憎たらしく思っていたかもしれない」

 

エスペランサが存在しない世界線があったとしたら、その世界でセオドールやザビニはどうなっていたのだろう。

やはりヴォルデモート側についていたのだろうか。

 

ザビニ達だけではない。

 

ネビルとコーマックは互いの背中を任せるような関係にならなかっただろうし、フローラは闇の中で倒れていただろう。

チョウはセドリックの死を乗り越えられず、アンソニーは唯の監督生で終わっていたかもしれない。

 

「ここに居る連中は全員、センチュリオンに入り、変わった。この組織には嫌な奴も屑も存在しない」

 

「でも僕はまだスリザリン生の事を完全に信用は出来ないよ。ノットやカローの親は死喰い人だ」

 

「そうだな。何十年にも渡る禍根を解消するのはダンブルドアにも不可能だった。でもな、俺たちはこの数年で力ずくで鍛えられ、互いを信頼できるようになった。以前、エスペランサが言っていたんだが、軍隊というのは優秀な兵士を作るんじゃなくて、屑の居ない組織を作るんだと。一人の屑が居たら部隊は壊滅する。だから、軍隊は落ちこぼれを作らないように訓練するんだ。決して見捨てずにな。ホグワーツとはまるで逆じゃねえか。センチュリオンなら寮間の壁も簡単に取っ払える。俺はそう思う」

 

ホグワーツが一つになれない理由はそこにある。

軍隊にも競技会等が存在するから寮対抗杯やクィディッチで競い合うのは良い事だ。

しかし、それは切磋琢磨するという意味である。

 

今のホグワーツでは寮間の足の引っ張り合いや対立が顕著になり、特にグリフィンドールとスリザリンは憎しみあっていると言っても過言ではない。

互いに相反する正義があり、主義があり、思想がある。

 

「屑を作らない組織……か。何でエスペランサは僕だけじゃなくてハリーも訓練に参加させたのか何となく分かった気がする。ハリーはDAのリーダーはしたことがあるけど、指揮官を経験した事は無いと言っても良い。組織を育成するのも未知の世界だから……」

 

「まあエスペランサなりにそんな考えがあったんだろう」

 

或いは……。

ハリーは今後、ヴォルデモートと全面的な戦いになった時にキーパーソンになる。

戦いが数年に渡り長引けば、もしかすると組織のリーダーとして戦闘に参加するかもしれない。

 

その時の事を見越してエスペランサはハリーの精神や能力を少しずつ育成しようとしているのでは無いか。

 

ロンはふとそんな事を考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クィディッチの試合は見事にグリフィンドールが勝利した。

その勝利の余韻に浸ったまま迎えたのがホグズミード村の遠足だ。

 

生憎、天候は豪雪で数メートル先も見渡せない荒天だったが、それでも生徒たちはホグズミードに足を伸ばした。

 

センチュリオンも非番の者はほとんどが出掛けている。

エスペランサも例外では無い。

 

偶には羽を伸ばさないといけないと考え、朝からずっと戦闘計画を練っていたセオドールの首根っこを掴んで、ホグズミードにやってきた。

途中、フローラやダフネ、それにネビルとも合流して束の間の休息をとったわけである。

 

そんな帰り道。

 

エスペランサ達は豪雪の中、ホグワーツへ帰ろうとしていた。

視界は悪いが、彼らの数メートル先にはハリー達いつもの3人組が歩き、さらにその先にはケイティ・ベルとその友人が歩いているのが薄ら見えている。

 

「この豪雪……何とかならないかな?」

 

ダフネが雪を掻き分けながら歩く。

他の隊員より身長が低いフローラはもう3回くらい雪に足を取られて転倒していた(転倒した際に鼻で笑ったエスペランサは問答無用でつねられた)。

 

「おい、エスペランサ。何か前の集団の様子がおかしくないか?」

 

「え?ハリー達の事か?そんな変には見えないが」

 

「いや、あいつらじゃない。あのケイティ・ベルの方だ」

 

良く見ればケイティが友人と口論している。

それだけなら別におかしくもない光景だ。

 

しかし、ケイティの挙動は不可解だった

何者かに操られているパペットのようにギクシャクと動いている。

 

そして……。

 

「ケイティ!!!」

 

前触れもなくケイティが宙を舞い、積雪の中に倒れた。

 

ハーマイオニーが悲鳴を上げ、ハリーとロンが杖を取り出し、ケイティに駆け寄ろうとする。

 

「ハリー!ロン!近づくな!!敵の罠かもしれん」

 

エスペランサは咄嗟に二人を止めた。

 

突然倒れ込んだケイティは、普通に考えれば何者かに攻撃を受けたのだろう。

この場に居るのはセンチュリオンだけではない。

ハリーも居る。

 

ということは敵の目標はハリーだ。

 

エスペランサはそう考えた。

 

「総員、フォーメーションデルタでハリーを護衛しろ!敵の狙いは恐らくハリーだ。四周を警戒!」

 

セオドール、フローラ、ネビル、ダフネの4人がすかさずハリーを囲み四周に銃口を向けた。

豪雪により視界は悪く、敵の姿は見えない。

 

しかし、ケイティを襲った敵はすぐ近くに居るはずだ。

隊員達は神経を尖らせた。

 

エスペランサは姿勢を低くし、素早く倒れたケイティに接近した。

雪の中に埋もれる形で倒れたケイティを彼は観察する。

 

目を閉じたまま倒れているケイティだが、息はある。

顔色も悪くは無い。

彼女の片手には薄気味悪い骨董品のネックレスが握られていたが、それ以外に外傷等は見られない。

 

「ど、どうしよう。ケイティがいきなりおかしくなって……。雪の中に倒れちゃうから」

 

彼女の友人が泣きながら言う。

 

「大丈夫だ。死んでない。恐らく何らかの魔法攻撃を受けただけだろう。これならマダム・ポンフリーが治せる」

 

エスペランサは安堵しつつ、意識を失っているケイティを抱え上げようとした。

 

その時。

 

「え…?」

 

ケイティが急遽、目を覚ました。

ギョロリと開けた目で瞬き一つせず、エスペランサの事を直視している。

 

エスペランサはケイティの意識が戻った事を喜ばなかった。

彼女の目は明らかに正気では無いからだ。

 

それに、エスペランサを見つめる彼女の目には明らかな殺意が込められている。

彼は咄嗟にケイティとの距離を取り、射撃姿勢を取ろうとした。

だが、30センチを超える積雪に足を取られたことと、また、彼女を抱き抱えようとした際にM733を傍に置いたのが致命的だった。

 

積雪でバランスを崩したエスペランサに正気を失ったケイティが馬乗りになり、彼の動きを封じる。

本来なら軍人上がりのエスペランサがケイティに力負けする事は無い。

 

しかし、何故かケイティの力はエスペランサを上回っていた。

 

考えられる可能性は一つだけ。

 

「ふ…服従の呪文か!?最初から狙いは俺だった訳か!」

 

エスペランサは懐から杖を取り出そうとした。

が、それよりも先にケイティが自身の持つ不気味なネックレスを彼の心臓付近に押し付けた。

 

 

 

ドクン

 

 

刹那。

何か得体の知れない何かが大量にエスペランサの中に入ってくる。

 

この世の憎悪を凝縮したような、悪意の塊が彼の心身を満たしていく。

 

エスペランサの視界は途端に暗黒になり、光が何も見えなくなった。

遠くで誰かが叫んでいる。

セオドールか、それともフローラか……。

確認する術は無い。

助けて欲しくても助けを求めることは出来ない。

 

五感が麻痺しているのだ。

そして、そのうち思考すら出来なくなり………。

 

 

 

 

 

彼の意識はそこで途絶えた。

 

 




主人公は無敵じゃない方が面白いですよね!
シンウルトラマン観に行きました!

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