ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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case99 Magic drug teacher 〜ホラス・スラグホーン〜

4

 

突然襲撃してきた死喰い人が狙撃され海中に落下したのをエスペランサ達も確認していた。

 

「これで邪魔者は居なくなった。作戦決行だ!」

 

エスペランサの指示で元闇祓いの隊員が杖を取り出す。

魔法に関してはエキスパートだった彼等はアルミニウム製の給油口からガソリンを魔法で噴出させ、次々に海面へ注ぎ込んでいった。

 

まるで見えない透明な管の中を通るように海面へガソリンが送り込まれる。

その量はタンカー1隻分にも相当するだろう。

 

マグルの科学による火力と魔法による応用性。

それが合わさった攻撃方法に亡者が太刀打ち出来るはずが無い。

 

湾内の海面にガソリンが充満した事を確認したエスペランサは杖を取り出す。

そして、杖先を海面に向けた。

 

「インセンディオ・燃えよ」

 

杖先から発射された閃光によりガソリンが着火。

紅蓮の炎が湾内の海面をあっという間に覆った。

 

「す、凄い……」

 

圧倒的な炎に戦闘中だった隊員達は唖然とする。

最早、芸術的とも言える光景だった。

 

亡者達はあっという間に炎に飲まれる。

ガソリンと亡者の燃える臭いが充満した。

 

「勝った……みたいだな」

 

隊員の一人が呟く。

だが、少なくない犠牲者を出した事にエスペランサは複雑な心境だった。

 

ヴォルデモート勢力と戦闘を行う上で戦死者が出る事は昨年から覚悟していたことである。

しかし、亡者に襲われ生きながらにして喰われた隊員の事を思うと煮え切らない思いだ。

 

そんなエスペランサに生き残った沿岸警備隊の隊員が声を掛ける。

 

「ありがとう魔法使いさん。我々はあなた方と戦えた事を光栄に思います」

 

「いや……我々の力不足で犠牲者を出してしまいました。それにあの亡者は魔法使いの……」

 

「それ以上言わんで下さい。この英国に存在する魔法使いに貴方達のような人が居るという事実を知れただけで良いんです。私は今日の事を一生忘れない」

 

沿岸警備隊の隊員はそう言った。

 

だが、彼らはヴォルデモート勢力とセンチュリオンの戦闘に巻き込まれただけなのだ。

それに、彼らはこの後で魔法省の職員により記憶を消されてしまう。

 

エスペランサ達の事もすっかり忘れてしまうのだ。

 

そして、亡者に襲われた事は災害か事故で処理される。

 

「我々も貴方達の事は忘れない。決して今日の犠牲を忘れたりはしない」

 

エスペランサは力強くそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

亡者をガソリンで燃やし尽くした事は魔法省にも無線で伝えられた。

数百の亡者を一度に葬るという大戦果に大臣をはじめとした魔法省の役人達は歓声をあげる。

それもその筈だ。

彼等は今までヴォルデモート側に煮湯を飲まされ続けてきた者ばかり。

やっとのことで白星を上げられたのは喜ばしい事この上無いのだ。

 

しかし、そんな中で一人、セオドールだけは険しい表情を崩さなかった。

 

「どうした?センチュリオン副隊長殿。君達のおかげで亡者を撃退する事は出来たのだ。少なくない犠牲は出てしまったが、誇りに思いなさい」

 

スクリムジョールがセオドールに声をかける。

まるで教師が生徒を褒めるようだ。

 

「大臣……敵は何が目的で亡者にマグルの街を襲撃させたんでしょうか?」

 

「何故…か。死喰い人は過去にも不特定多数のマグルを襲っているから特に目的など無いのではないか?」

 

「そう言ってしまえばそうなんですが。しかし、私利私欲でマグルを襲うのなら大量の亡者を出現させる必要は無い」

 

死喰い人がマグルを襲う事例は過去にも多くあった。

故に今回の事案も死喰い人が快楽の為に起こしたものなのだろう、というのが魔法省の人間の解釈だ。

 

だが、セオドールの考えは違う。

数百の亡者というのはヴォルデモートにとっても貴重な戦力だろう。

それを動員するということは必ず戦略的な意味がある。

かつて英国魔法界を支配しかけたヴォルデモートには軍略家としての才が少なからずあった。

そして、セオドールはそれを恐れている。

 

 

この会議室でセオドールの他にもう一人だけ浮かない顔をしている男が居た。

パーシー・ウィーズリーだ。

 

パーシーは親ファッジ派であり、昨年はダンブルドアと対立していた他、アンブリッジの息もかかっていた。

にも関わらず、スクリムジョール政権内で重宝されていたのは彼が"ウィーズリー"だったからである。

 

ファッジ政権下でウィーズリー家の名前は疎まれ、蔑まれ、昇進に不利な要素の一つだった。

しかしながら、ヴォルデモートの復活を世間が認め、対ヴォルデモートを全面に押し出すスクリムジョール政権ではウィーズリー家の名前はある種の特権である。

 

ダンブルドアから一定以上の信頼を置かれ、選ばれし者であるハリー・ポッターと親しい家。

家族は歴代グリフィンドールのエリート揃いで闇の勢力に対抗する能力も持っている。

しかも、先日の神秘部の戦いではロンとジニーが活躍したばかり。

 

スクリムジョールとしてはウィーズリー家の人間を身近に置かない理由がなかったのである。

 

とは言え、パーシーの心情は複雑だ。

彼はウィーズリーであるが故に魔法省内で肩身が狭い思いをファッジ政権下で少なからずしてきた。

それが、今や逆なのである。

ウィーズリーだからスクリムジョールに裁かれなかった。

 

あれ程までにダンブルドアと対立し、ハリーを裏切ったにも関わらず対ヴォルデモート戦線のメンバーに自動的に割り振られたのだ。

 

結局のところ、ファッジもスクリムジョールもパーシーの能力に価値は見出していないのである。

ファッジもスクリムジョールも家柄と血統で人を見るという点において、根っこの部分は同じなのだ。

 

そのことに気付きつつもスクリムジョールの下で働き続けたのは、対ヴォルデモート戦線において少しでも力になりたいと思っていたからだ。

 

それに、既に絶縁状態にある両親や兄弟達に負い目を感じているのも少しある。

 

さて、そんな彼が何故浮かない顔をしていたのかと言えば、亡者との戦闘にガールフレンドであるペネロピーが参加していたからだ。

 

亡者との戦闘終結は分かったが、ペネロピーの安否は確認出来ていない。

 

「なあ、ノット。亡者との戦いで犠牲者が出たという話だが……」

 

パーシーはセオドールに話しかけた。

直接話した事は無いが一応セオドールもパーシーとは面識がある。

 

「ああ。あなたはウィーズリー家の長男のパーシー・ウィーズリーだったな」

 

「僕は長男じゃなくて三男だ。いや、まあそれはどうでも良い。それよりも、亡者との戦いには運輸部のペネロピーが参加していた筈だ。彼女の安否が知りたい」

 

「ペネロピー……。通報者の魔女か。確かレイブンクローの監督生だった人だよな。少し待ってくれ」

 

セオドールは無線機を取り出してエスペランサを呼び出した。

無線機はアーサーが隠れ穴にコレクションしていた事もあり、パーシーも見たことがある。

 

しかし、セオドールが使っている無線機はアーサーのコレクションよりもずっと新品で、しかも上等だ。

 

 

「ハウンド、こちらコントローラー送れ」

 

『こちらハウンド。どうした?こちらは今魔法省職員と一緒に"後片付け"の最中だ。記憶巻き戻し部隊の応援も欲しいとこだから急かしてくれ』

 

「了解した。それよりも一つ聞きたいことがある。通報者のペネロピー・クリアウォーターは無事か?」

 

『ああ。彼女なら無事だ。正面の亡者を迎撃出来たのは彼女の力があってこそだった。マーリン勲章をあげたいくらいだ。後で大臣にリコメンドしておいてくれ』

 

「気が向いたらな。待機中だった他の隊員もそちらへ応援に向かわせる。彼等が到着したら戦闘員は後退させよう。彼等には休息が必要だ。それにメンタルヘルスも」

 

『そうだな。少なからず隊員から犠牲者が出た事に動揺している奴も多い。じゃあな』

 

セオドールは無線機を置く。

 

「ペネロピーとやらは無事だそうだ。彼女、運が良ければマーリン勲章を貰えるかもしれんぞ」

 

「そうか……良かった」

 

パーシーは安堵した。

 

「俺も一つ聞いて良いか?あんたは昨年、ファッジに手を貸し、ダンブルドアのネガティブキャンペーンに加担した。冷静に物事を考える頭がある奴ならファッジやアンブリッジに正義を見出す事は無いだろう。俺の記憶が正しければあんたは相当に優秀だった筈だ。なのに、何故ファッジに従っていたんだ?」

 

これはセオドールがずっと疑問に思っていた事である。

実のところセオドールはパーシーに一目置いていた。

頭脳的な優秀さと権力に対する貪欲な姿勢。

どちらかと言えばスリザリン的な人物だとも思っていたからである。

 

それがなのに何故、パーシーはファッジの本質を見抜けなかったのか。

 

「僕は……別に間違った選択肢をしたとは思っていない。僕にとって出世は名誉であり、そして魔法省で重要なポジションに就くことは夢だったからだ。それが、ウィーズリー家の地位向上に繋がるし家計も助けられると思っていた」

 

「なるほど。野心だけはスリザリン的だと思っていたが、根本ではやはりグリフィンドールの適正があるみたいだな」

 

「僕も君に聞きたいことがある。君はスリザリン生だろう?なのに何故、エスペランサと一緒に戦うんだ?」

 

「グリフィンドール生のスリザリンへの偏見には閉口せざるを得ん」

 

セオドールは溜息を吐いた。

実際のところ魔法界で起きている事案のほとんどはスリザリンのOBが関わっているからスリザリン差別も一概に否定は出来なかったが。

 

「俺の掲げる原理的純血主義というのはマグルから魔法族を守るという考えだ。それがかつての純血主義だった。それにはマグル生まれもスクイブも含まれている。純血の者はノブレスオブリージュの精神を持って全ての民を救うべしってのが本来の考え方だ。だが、今の純血主義の連中はただの差別主義者で排他的だ。これでは魔法界は滅びる。魔法界を救うために俺はエスペランサ側に付いただけだった」

 

「エスペランサは魔法族だけでなくマグルも救うことを信条としている筈だ。それだと、君と彼の考え方は……」

 

「ああ、勿論。その点で隊長と俺の目的は異なっている。隊長はリアリストではなくロマンチストだ。しかし、それを羨ましいと思うし、隊長が奇跡のような勝利を獲得してきたのも見た。だから、俺はエスペランサ・ルックウッドという人間を信じて戦う」

 

「そうか……。君は僕と違って人を見る目があったんだろうな」

 

パーシーはそう言って弱々しく笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新学期がやってきた。

例年と違うのはホグワーツ特急の最後尾の車両をセンチュリオンが占領していることだろう。

 

隠れ穴前線基地に持ち込んでいた装備をホグワーツに運び込む為というのもある。

だが、本当の目的は別にあった。

 

ホグワーツには少なからず親が死喰い人である生徒が居る。

死喰い人でなくてもヴォルデモート新派の生徒が居る。

その生徒達がセンチュリオンの隊員を攻撃してくる可能性は捨て切れない。

 

故にエスペランサは隊員達に常に2人以上のペアで行動するように徹底させたし、校内において銃器を携行する許可をダンブルドアに貰っていた。

 

「隊長やネビル達は良いさ。問題はスリザリン生の隊員である俺やフローラ、ダフネ達だ。最悪、ヴォルデモート新派の生徒に寝首をかかれる可能性だってある」

 

最後尾のコンパートメントに入ったセオドールがエスペランサに愚痴をこぼした。

 

「そんなにスリザリン生にはヴォルデモート新派が多いのか?」

 

「ドラコを筆頭にして20人近くは居るだろう。俺だって君に出会わなければヴォルデモート新派の一人だった」

 

「20人か……多いな。だが、そいつらは死喰い人って訳じゃないんだろう。中には反ヴォルデモート派も居るんじゃないか?」

 

「そうとも言えない。スリザリンの貴族連中はヴォルデモートに感化された純血主義がほとんどだ。スリザリン寮に居れば分かるが、奴らが俺達を襲ってくる可能性は非常に高い。特にクラッブとゴイルあたりは要注意だ。神秘部の戦いで誰かさんがあいつらの親を聖マンゴ送りにしたからな」

 

コンパートメントに移動販売の魔女が来たのでエスペランサは日刊預言者新聞と蛙チョコを購入した。

 

現在、このコンパートメントにはエスペランサとセオドールの他にフローラ、グリーングラス姉妹、ザビニが居る。

よく考えればエスペランサ以外は全員スリザリン生だ。

 

他の隊員も別のコンパートメントに武器弾薬と共に分散している。

また、元魔法省職員の隊員も乗り込んでいた。

彼等はホグワーツでセンチュリオンと共に訓練をするので、今年一年は必要の部屋で生活する。

 

「副隊長、それからザビニ。新しい教師のスラグホーンからこんなものを預かってきたぞ」

 

コンパートメントの扉が開き、コーマックが顔を出した。

彼は1枚の羊皮紙を持っている。

 

「スラグホーンからの招待状だ。晩餐会に来ないかってさ。コーマックも呼ばれたのか?」

 

「まあな。俺だけじゃなくネビルとマーカスも呼ばれてる。何の集まりだろう?」

 

「スラグホーンは有望そうな生徒を集めて会合をするのが好きみたいなの。多分それで呼ばれたんじゃない?」

 

ダフネが口を挟んだ。

 

「言われてみればザビニもコーマックも親が有名人だな。しかし、セオドールは?」

 

「最近魔法省に何回も顔を出していたから、多分それを聞きつけたんだろう。スラグホーンは魔法薬の専門家として名高いし、顔を出すのも面白そうだ」

 

セオドールとザビニは席を立ち、スラグホーンの居るコンパートメントへ向かった。

 

「え、スラグホーンって魔法薬専門なのか?ハリーは闇の魔術に対する防衛術の先生って言ってたぞ?」

 

エスペランサはハリーの言葉を思い出していた。

 

「どうやら違うみたいですね。という事は今年の闇の魔術に対する防衛術は……スネイプ先生が教えるんでしょうか」

 

「普通に考えればそうだろう。こりゃハリーにとっては厄年だな」

 

「ハリー・ポッターは毎年厄年でしょう」

 

「それは間違い無いが、それを言えば俺だって毎年死にかけてる」

 

「自業自得ですよ」

 

数ヶ月前の戦闘で死を覚悟した故に、エスペランサは今こうして生きている事に、そしてフローラと過ごす事が出来ていることに喜びを感じる。

その喜びは決して戦場では味わえなかったものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

スラグ・クラブというのは簡単に言えばホラス・スラグホーンのお気に入りの(将来有望そうな)生徒を集める会合だった。

 

面子はハリーとジニーを除いて全員センチュリオンの隊員なのは偶然だろう。

 

教職員用の一際大きいコンパートメントに最後に現れたのはハリーだ。

彼の登場にでっぷりと椅子に座っていたスラグホーンは歓喜の声をあげる。

 

「やあやあハリー!来てくれて嬉しい」

 

スラグホーンに促されてハリーは円卓の空いている席に腰を下ろした。

 

「さてさて、皆よく来てくれた。私は自分の昼食を用意していてね。ホグワーツ特急で出るお菓子は年寄りの腹には厳しいのだ」

 

その割には脂肪の多いスラグホーンの腹を見ながらセオドールは軽く溜息をついた。

 

「どうだいべルビィ。雉肉はどうかな?」

 

スラグホーンはマーカス・べルビィに雉肉を勧めた。

マーカスはセンチュリオン古参の隊員だが、神経質そうな見た目と寡黙な態度からあまり目立たない。

だが、どんなに辛い訓練でも文句一つ言わずに乗り越えるガッツをエスペランサは賞賛している。

 

「このマーカス君の叔父のダモクレスは優秀な生徒だった。トリカブト薬の開発でマーリン勲章を貰っているね。君は叔父さんとは良く会うのかな?」

 

「……叔父とは関係が良くないのであまり会いません」

 

相変わらず必要最小限の言葉しか出さないマーカス。

スラグホーンは少し落胆したようだった。

だが、ふとマーカスがセオドールやコーマック達と同様に迷彩柄の戦闘服を着ている事に気が付く。

 

「おや、べルビィもコーマックもザビニもネビルも不可思議な服を着ているね。……これはひょっとすると?」

 

「ええ。我々はセンチュリオンの隊員です」

 

仕方無しにセオドールが答えた。

 

「すると……君達もあの魔法省の戦いに参加していたのか。しかも、あの例のあの人を撃退した!」

 

「撃退したのは実質的にはダンブルドアです。それに、神秘部の戦闘で活躍したのは主にそこに居るネビルとウィーズリー、それからポッターです」

 

「これはこれは何とも凄い。いや、このコンパートメントには勇猛果敢な生徒が揃っている訳だ」

 

スラグホーンは歓喜していた。

彼が集めた生徒が全員、魔法省で戦闘に参加していたのもまた偶然だろう。

 

「センチュリオンの情報は私の魔法省の伝を使っても知る事が出来なくてね。何せ、皆口が固い。しかし、聞くところによれば君達の戦力は闇の陣営にも匹敵するという噂だ。そこのところはどうなのかね?」

 

スラグホーンはセンチュリオンに興味を示した。

無理も無い。

現在の魔法界で最も注目されている組織だ。

センチュリオンの隊員はスラグクラブにとって喉から手が出る程欲しい人材なのだろう。

 

「我々の戦力については機密情報です。公式に発表している以上の事は言えませんし、それに自分は副隊長なので、部隊に関する事は隊長にお聞きください」

 

「隊長?君が隊長では無いのかね?君が良く魔法省に出入りしていると聞いていたのだが。では一体誰が……?」

 

「エスペランサ・ルックウッドという生徒が隊長をしています」

 

「ルックウッド……?ルックウッド家の者か?」

 

「さあ。彼はマグル界出身なので」

 

スラグホーンは目を瞑って考え込んだ。

恐らくはエスペランサをスラグクラブに呼ぶかどうか迷っているのだろう。

 

酒さえ用意されていればエスペランサは喜んで参加するだろうとセオドールは一人笑った。

 

「エスペランサ……ルックウッドか。もし良ければ次は彼も呼んで来なさい。面白そうな生徒だ」

 

「まあ、そうですね。面白い奴ですよ。でなければ俺はセンチュリオンに入ろうとは思わなかった。彼に会わなければ俺は今頃、下らない血統主義にのめり込んでいたでしょう」

 

ザビニが独り言のように呟いた。

この台詞に驚いたのはハリーとジニーである。

ハリー達はザビニもスリザリンにどっぷりの生徒だと思っていたのだ。

 

だが、思い返してみれば神秘部でハリー達の窮地を救ったメンバーの中にはセオドールやザビニ、フローラ、グリーングラス姉妹というスリザリンの生徒が大勢居た。

 

「ザビニ君はスリザリン生だったね。セオドールも。元スリザリンの寮監だった身からするとスリザリン生がセンチュリオンという組織に属するのは非常に興味深い事だ」

 

「センチュリオンは既に寮という枠組みを超えて活動しています」

 

元スリザリンの寮監だったスラグホーンは面食らったような顔をする。

 

「いつの時代でもホグワーツの生徒は少なからず寮の色に染まったものだ。それは偉大なるダンブルドアでも同じ事だった」

 

寮という枠組みを壊して新たな組織を作る。

ハリーもダンブルドア軍団という寮の垣根を越えた組織を作ってはいた。

しかし、ダンブルドア軍団にスリザリン生は居ない。

 

それを考えるとセンチュリオンは本当の意味でホグワーツの体制に抗ったのだ。

 

恐らくエスペランサはホグワーツ創設者の考え等どうでも良いのだろう。

その型にはまらない行動はやがて魔法界に変革を起こしてしまうかもしれない。

 

スラグホーンはエスペランサに興味を持つと共に得体の知れない恐怖も感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホグワーツ新学期初日の晩餐。

もうすぐ組み分けの儀式が始まる。

生徒達は新入生を含めて不安そうに席に座っていた。

 

それもその筈だ。

 

大広間の四隅には戦闘服姿の魔法省職員(センチュリオンの新規隊員だ)が整列休めの姿勢で立ち、また、各寮のテーブルにも同じく戦闘服姿の生徒が大勢座っていたからである。

 

しかも、その隊員達は皆、短機関銃を携行していた。

 

ホグワーツの生徒はエスペランサによって多かれ少なかれ機関銃という武器がどのようなものなのかを知っている。

また、その機関銃によってこの夏、死喰い人が殺された事も知っていた。

 

不安に思うのも無理無いだろう。

 

不安事項と言えばハリーがまだ大広間に現れていない事もそうだ。

エスペランサはホグワーツ特急からハリーが降りてきていない事に気付き、センチュリオンの隊員を数名派遣した。

闇祓いのトンクスも一緒だ。

 

ヴォルデモート勢力がハリーを狙っている事と、ヴォルデモート新派の生徒がホグワーツにも存在する事からハリーの護衛は必須である。

故にエスペランサはハリーの安否を数時間毎に確認していたのだ。

 

新入生の組み分け儀式が始まってもハリーが現れない事に不安を感じつつ、エスペランサは晩飯を食べる。

この晩飯にも毒が盛られている可能性は捨てきれない。

ヴォルデモート新派の生徒が厨房に忍び込み、飯に毒を盛ればセンチュリオンは壊滅する。

 

それ故にエスペランサは厨房を元魔法警察の隊員に警備させる事にした。

 

二つ目のチキンを口に入れようとしていた時、大広間にハリーが入って来た。

今魔法界で時の人となっているハリーはそれだけで目立つ。

加えてこの時の彼は何故かマグルの格好でしかも血だらけだった。

 

ハリーの後ろには彼を探しに行ったセンチュリオンの隊員がいる。

 

「ハリーは在学中組み分けの儀式が見れない呪いでもかかっているのかね?」

 

内心ホッとしたエスペランサはチキンを無理矢理胃袋に押し込み、ハリーのために席を開けた。

 

「どうしたのハリー!?血だらけじゃない!」

 

ハーマイオニーが素っ頓狂な声をあげ、そして魔法でハリーの血を拭った。

 

「ありがと……。鼻は大丈夫?曲がってたりしない?」

 

「大丈夫だ。いつもと変わらん。いつもの顔がひん曲がってると言われたらそれまでだけどな。何があった?」

 

「あとで話すよ。エスペランサの仲間の隊員が来なかったら僕は今頃ホグワーツ特急の中で馬鹿みたいに転がってた」

 

ハリーはあまり話したがらなかったが、口調からして大した事は無いらしい。

 

「生徒諸君。よく帰ってきた!新入生諸君ははじめましてじゃな」

 

ダンブルドアが生徒達の前に立ち、話し始めた。

よく見るとダンブルドアの右手が壊死したように爛れている。

エスペランサはそれを隠れ穴で確認していたが、ハーマイオニー達は初見故に驚いていた。

 

「まず、フィルチさんからウィーズリー・ウィザード・ウィーズの商品は全面的に持ち込み禁止との事じゃ。次にクィデッチの選抜じゃが、例年通り各寮の寮監に申し出る事。それから、新しい先生を紹介しよう。ホラス・スラグホーン先生じゃ。魔法薬を教えて下さる」

 

「え?魔法薬!?」

 

ロンが驚く。

 

「ハリーは闇の魔術に対する防衛術の先生って言ってたじゃないか!」

 

「そう思ってたんだ。ということは……」

 

ざわつく生徒を無視してダンブルドアは言葉を続けた。

 

「闇の魔術に対する防衛術はスネイプ先生が教えて下さる」

 

「そんな!」

 

ハリーが大声を上げる。

他のスリザリン以外の生徒もこれにはショックを受けたようだ。

逆にスリザリン生は歓声をあげていた。

 

スネイプは少し頭を下げただけだったが、口がニヤついている。

 

「さて、この広間におる者は誰もが知ってのとおり、ヴォルデモート卿とその従者たちが力を強めておる。この夏で城の防衛が強化された。強力な魔法で、我々は保護されておる。しかし、生徒や教職員の皆が、軽率なことをせぬように慎重を期さねばならんのじゃ。それじゃから皆に言うておく。どんなにうんざりするようなことであろうと、先生方が生徒の皆に課す安全上の制約事項を遵守するように。特に、決められた時間以降は、夜間、ベッドを抜け出してはならぬ」

 

ただし…とダンブルドアは付け加えた。

 

「ヴォルデモートと対抗する為に組織されたセンチュリオンの隊員に関しては例外を認めざるを得ないのじゃ。隊員は基本わしの命令で戦闘を行う事を義務付けておるが、咄嗟の有事の際に備えて武器弾薬の携行を認める。また、一部の部屋の無期限使用と部屋の保安の為に夜間の哨戒を認める。また、魔法省職員や闇祓いからセンチュリオンに加入した隊員もホグワーツに常駐することになる」

 

この言葉にマグゴナガルを含めた一部の教師は顔を顰めていた。

マグゴナガルは生徒が軍事組織に入ることに最後まで反対した一人である。

 

ホグワーツ生徒内にも親ヴォルデモート派がいる以上、センチュリオンの隊員は自衛の為の手段が必要だ。

故に武器弾薬の携行と二人以上での行動を義務化したし、ダンブルドアに許可を貰った。

 

さらに保安の為、必要の部屋に隊員を常駐させる事も許可を得た。

常駐するのは元魔法省職員の隊員やスリザリン生の隊員がほとんどだ。

 

スリザリン生の隊員はスリザリンの寮内だと危険過ぎたのである。

 

「さて、もうそろそろ眠い時間じゃろう。ベッドが待っておる。皆が望みうるかぎり最高にふかふかで暖かいベッドじゃ。皆にとっていちばん大切なのは、ゆっくり休んで明日からの授業に備えることじゃろう。それではおやすみの挨拶じゃ。そーれ行け、ピッピッ」

 

ダンブルドアの言葉で生徒達は寮へ戻っていく。

 

「おいおい、君達の武装をダンブルドアは全面的に認めたのかよ」

 

ロンが目を丸くしてエスペランサに聞いた。

 

「まあな。マグゴナガルには反対されたが、今は戦時中だ。非常事態が起きれば授業そっちのけで俺らは出動する」

 

「必要の部屋は今年いっぱいは貴方達が貸し切るってことなのね?」

 

「そうだ。俺達の主力武器は全て必要の部屋にあるからな。正直、あそこがやられたらセンチュリオンに勝ち目は無い。ところでハリーは何で血だらけだったんだ?」

 

「寝る前に話すよ。今は忘れてくれ……」

 

どうやらハリーにとっては不名誉な負傷だったようだ。

 

一方、ハリーの鼻をへし折り、血だらけにした元凶であるマルフォイであったが、彼は彼で軽い絶望感を味わっていた。

理由はセンチュリオンが必要の部屋を独占するという事実を知ったからである。

 

マルフォイの考えていた計画が新学期初日から崩れ去ったのだ。

 

 

 




ファンタビ観に行かねば!

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