ハリーポッターと機関銃   作:グリボーバルシステム

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誤字報告もありがとうございます!

見直していても誤字が無くなりません……
ケータイで入力しているからかな…




case96 Cabinet shelves and tricks 〜キャビネット棚と策略〜

マダム・マルキンはホグワーツの制服をはじめとして様々な服を売る老舗だ。

 

老舗故にホグワーツとの癒着も激しい。

ホグワーツの制服を公式に取り揃えているのはマルキンの店だけであり(他にもローブを取り扱うメーカーはあるが非常に高額)、その儲けはグリンゴッツの金庫数個分にも及ぶそうだ。

 

余談だが、魔法界で使われるローブの原材料はマグル製である。

というよりも魔法界では石油も絹糸も食料も産出しないし、そもそも技術が無い。

 

なので衣服に使われる材料はマグル界から取り寄せた物を魔法で複製している。

では、マグル界からどうやって材料を手に入れるかというとグリンゴッツが一枚噛んでいた。

 

グリンゴッツではマグル界の金と魔法界の金貨を両替する部署がある。

ここで両替されたマグル界の紙幣を魔法省が買い取り、その紙幣でマグル製品を仕入れているのだ。

 

燃料油や衣服の原材料、その他日用品に関しては魔法でいくらでも増やせるが、食料に関してはその限りではない。

食料は実は魔法では量産が出来ない。

これはガンプ元素変容の法則の5つの例外に含まれる食料は魔法で作り出せないのだ。

 

つまるところ魔法界では食料自給率が極端に低く(農民も生産プラントも無い。魔法生物を材料とする食品に関しては例外だが)、実はマグル界に頼っている節がある。

 

人口の多いアジアやアフリカでは農業や漁業、酪農をする魔法使いやスクイブも多いが英国魔法界は1次産業に割ける人員が居ないのだ。

これを知ったセオドールは補給戦という面で魔法族はマグルに勝つことが出来ないと嘆いている。

 

それはさておき、マルキンの店には先客が居た。

ドラコ・マルフォイとその母親のナルシッサだ。

 

「母上。何か臭いと思ったら穢れた血と血を裏切る者が入店したみたいですよ」

 

マルフォイがハリー一行を目敏く見つけて憎まれ口を叩く。

 

だが、ハリー達3人の後ろからエスペランサを先頭にしたセンチュリオンの隊員が入店するのを見てその表情を硬くした。

 

「店でそんな差別用語を使って欲しくありませんね!それから杖も出さないで下さい!」

 

マルキンがマルフォイや杖を取り出して臨戦状態のハリーとロンに言う。

だが、ハリーもロンも杖を下ろさない。

 

「やめて!挑発に乗っちゃダメよ?そんな価値も無いわ」

 

ハーマイオニーが止めようとした。

エスペランサは傍観している。

マルフォイもナルシッサも厳密には死喰い人では無いから拘束は出来ない。

 

「学校の外では魔法を使う勇気もない癖に偉そうに……」

 

「そうかな?試してやろうかマルフォイ」

 

「杖を下ろしてしまいなさいポッター。もし魔法を使えばそれがあなたの最後の仕業になりますよ?」

 

ナルシッサがハリーを冷たく睨みながら言った。

だが、ハリーは薄ら笑いを浮かべただけで逆に挑発し始める。

 

「へえ?仲間の死喰い人を呼んで僕達を始末するつもりなのか?うわー怖いな!今はダンブルドアも居ないし死喰い人に襲われるかもしれない」

 

「ダンブルドアのお気に入りだからといって調子に乗らないことね。どうやら間違った安全感覚をお持ちで……。ダンブルドアがいつもあなたを護ってくれる訳ではないのよ」

 

その言葉に反応したのはエスペランサだった。

 

「聞き捨てならん。もし仮にあんたが死喰い人を連れ立ってハリーを襲おうとするのなら、悪いがここで死んでもらわないといけない」

 

彼は腰のホルスターから拳銃を抜いた。

 

「そんなもので私達を黙らせられると思っているのかしら?」

 

「何人かは永遠に黙らせた筈だ。ベラトリックスの旦那とかな。あんたの旦那を蜂の巣に出来なかったのは残念でならない。幸運にもアズカバンでのうのうと生きているみたいじゃねえか」

 

「あら、あなたやポッターにはアズカバンよりも棺桶がお似合いのようね。もうじき愛するシリウスやセドリックの元に届けてあげましょうか?」

 

エスペランサの中に殺意が込み上げてくる。

だが、彼が銃の安全装置を外す前にフローラが止めに入った。

 

「あなたは挑発に乗り過ぎです。とりあえず銃を下ろしてください。あなたは杖を下ろしてくださいね」

 

冷静さを取り戻したエスペランサは銃を下ろす。

 

「あなたはカロー家の娘ね?」

 

「"元"カロー家の娘です。私はあの家を捨てています」

 

「あの家から逃げられると思っているのかしら?」

 

「思っていますよ?それに将来的にあの家は潰しますから」

 

「そんなことが出来ると思っているの?」

 

「思っているから私はこの人の組織に加わったんです。指揮官が優秀な組織は悪くないですよ?それに比べてあなた達死喰い人の指揮官は……無能みたいですね」

 

死喰い人の指揮官=ヴォルデモートだ。

 

それはこの場にいる全員が知っている。

それを無能と言い切ったフローラに一同、唖然としていた。

 

「あなた達が隊長やポッターを恨むのは逆恨みです。ルシウス・マルフォイはポッターとその学友を魔法省で確実に殺そうとしていた。そして、ヴォルデモートに手を貸した。ルシウス・マルフォイは犯罪者でテロリストです。投獄で済んだだけまだマシでしょう」

 

「僕の父上を侮辱するな。例えスリザリンのお前でも許さないぞ?」

 

「あら?侮辱ではなく事実を言ったまででしたが……。あなたは本当に父親に正義があると思っているのですか?」

 

「お前たちの掲げる正義なんてクソ喰らえだ。母上、こんな店でローブを買いたくはありません。別のところに行きましょう」

 

マルフォイはナルシッサと共に店を出て行った。

 

その姿をアストリアだけが哀しげに見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フレッドとジョージが開店したWWW(ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ)は沈みきったダイアゴン横丁の中で唯一賑わっていた。

 

ハリー達を護衛する為にエスペランサ達も店に入ったのだが、あっという間に人混みにもみくちゃにされる。

 

「なるほど、あの双子には確かに商才があるみたいだ」

 

エスペランサは棚に並べられた商品やド派手な看板、ひしめき合う客を眺めて感心したように言う。

ロンは片っ端から悪戯グッズを買い漁ろうとしていたし、ジニーもピグミーパフというペットに夢中だ。

アーサーとモリーは呆れている一方で少し嬉しそうに店内を見て回っている。

 

暗く落ち込んだ時代だが、店内にいる子供達は皆楽しそうだ。

子供達に希望を与えているのは魔法省でもセンチュリオンでもなく、フレッドとジョージである。

 

ハリーがフレッドとジョージに連れられて店の奥に行ってしまったので慌ててエスペランサも店内に入った。

 

「これすごいね!全部双子のウィーズリーが考えたのかな?」

 

ダフネが騙し杖やズル休みスナックボックスを抱えながら言う。

 

「それ買うのか?」

 

「面白そうだしね!あ、これはなんだろう?」

 

「特急白昼夢呪文……?」

 

アストリアが箱を持ち上げた。

箱の絵柄からして未成年には刺激の強い魔法なのだろう。

見ればハーマイオニーもジニーもこの白昼夢呪文とやらを買おうか真剣に迷っているようだった。

 

「なあフレッド?これはエロいやつなのか?」

 

ハリーを案内し終えて戻ってきたフレッドにエスペランサが聞く。

 

「使ってみればわかるさ。そうだ、君に商談があったんだ」

 

「商談?俺たちは悪戯グッズで戦おうとしてるわけじゃないぞ?」

 

「そりゃそうさ。まあこれを見てくれ」

 

フレッドが他のグッズに比べると地味な箱を持ってくる。

箱の中にはありふれたローブが入っていた。

 

「盾のローブだ。僕達が最近はじめた真面目路線のグッズさ。このローブを着ていれば中堅どころの攻撃魔法を自動で防いでくれる」

 

「他にもあるぜ?盾の帽子とか盾のマントとか。魔法省が大量に注文してくる程度には信頼性のある商品さ」

 

ジョージが他のグッズを持ってくる。

 

「こいつらも役に立つ商品だ。おとり爆弾にインスタント煙幕。インスタント煙幕はライセンス生産だけど、おとり爆弾は君達の戦い方からヒントを得たんだ」

 

エスペランサはおとり爆弾の説明書を読んだ。

確かに陽動作戦には使えそうな道具である。

 

他にもセンチュリオンの戦い方からヒントを得て作り出したのだろう商品がたくさんあった。

クソ爆弾を遠距離まで射出可能な小型迫撃砲などだ。

 

「この盾のマントや盾のローブを君達の戦闘服にしたらどうかって商談だ」

 

「確かにそれは良いアイデアだ。だが、我々センチュリオンの戦闘服は米海兵隊のものを統制して使っているからなぁ」

 

「そいつも折り込み済みさ。僕達はマルキンをはじめとして幾つかの洋服店と提携している。そこに盾の呪文を搭載した戦闘服を受注しようかと思っているんだ」

 

エスペランサは考えた。

センチュリオンの戦闘服は卸売りされた米海兵隊のものだ。

独自の戦闘服が欲しいとは思っていた。

 

しかし、軍隊の戦闘服というのは実はかなり高度な技術が施されていて赤外線センサーの対策がされていたりする。

 

「俺達の戦闘服はマグルの科学が詰まっているんだ。それを再現するのは難しいと思う」

 

「それも何とかするさ。僕達は僕達なりに君達の組織に協力したいんだ」

 

「分かった。細かい交渉はまた今度やろう」

 

そこまで話した時、エスペランサの目の端でハリー達が透明マントを取り出して、マントに潜り込むのが見えた。

 

ホグワーツでは見慣れた光景だが、戦時下の今、ハリー達に透明マントで勝手に動かれるのは困る。

エスペランサは店内にいたフローラを連れてハリー達を追うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリー達はマルフォイの事を追っていた。

マルフォイが単独行動しているのを目撃した彼らは不審に思い尾行しようと思ったのだ。

 

マルフォイはノクターン横丁に入り、ボージンアンドバークスという闇の道具も取り揃える店に入ったようだ。

 

「おい。お前ら何やってるんだ?」

 

不意に声をかけられたハリー達は驚いて後ろを振り返る。

 

そこには戦闘服姿のエスペランサとフローラが立っていた。

 

「え?なんで分かったの?透明マントを被ってたのに……」

 

ハリーがマントを脱ぎながら言う。

 

「バレバレなんだよ。足元が隠せてなかったしな……。で、ありゃマルフォイか?」

 

「そうなんだ。マルフォイの奴、一人でこんな所に来て……。何を企んでいるか確かめてやろうってね」

 

ボージンアンドバークスはショウウィンドウ越しに店内を見る事が出来る。

見れば店内でマルフォイとボージンが話し込んでいた。

 

恐らくは売り物なのだろう黒いキャビネットの向こうでマルフォイが捲し立てて話している。

ボージンの表情からは憤りと恐れが伺えた。

 

「見たところ……マルフォイがボージンを脅しているようにも見える。だが、ここからでは何を話しているか聞くことも出来ねえな」

 

エスペランサは自身に目眩しの魔法をかけながらボヤく。

ハリー達は透明マントに入ったままだったが、エスペランサとフローラは姿を隠していなかったのだ。

 

未成年が学外で魔法を使うことは禁止されていたが、実のところ未成年が魔法を使ったかどうかを探知する事は不可能である上にセンチュリオンの隊員は学外での魔法使用が全面的に許可されていた。

 

「それなら出来るさ。ちょっと待ってくれ、さっき買ったやつがある。ほら、伸び耳だ!」

 

「すごいわロン!」

 

ロンが取り出したのはWWWで購入した盗聴用の悪戯道具である伸び耳だった。

 

「ドアには盗聴避け呪文はかかってなさそうだ。聞けるぜ」

 

伸び耳からは店内の声がラジオのように聞こえてきた。

 

『直し方を知っているのか?』

 

『お店の方に持って来て頂ければ直せるかもしれませんが、この道具は複雑で修復も大変で……』

 

『店頭に持ってくることは出来ない。やり方を教えてくれればそれで良い』

 

『しかしですね、実物を見ないと……。それに、専門の職人でも修復には数ヶ月かかります。今ここでノウハウを教えることは難しいです』

 

『ふん。非協力的だな。これを見ろ。これでお前も協力的になるだろう』

 

マルフォイがボージンに何かを見せた。

ボージンはその何かを見て恐れ慄く。

 

『そ、それは……しかし』

 

『誰かに話してみろ。痛い目をみるぞ。そうだ、フェンリール・グレイバックを知っているな。僕の家族と仲が良い。お前を奴に監視させる事も出来る』

 

『え、でもフェンリール・グレイバックはダイアゴン横丁で起きた戦闘で部下を多数失って再起には時間がかかるのでは?』

 

『何っ!?どういうことだ?』

 

『若様は知らなかったのですか?グレイバックの拠点は片っ端から魔法省とセンチュリオンの連合に潰されているんです』

 

『またしても……奴等の仕業か。まあ良い、とにかくこれは絶対に売るな。僕には必要なものだ。それから僕が来た事も誰にも言うな』

 

『勿論ですとも若様』

 

マルフォイは苛立ちを隠せない様子で店を出て行った。

残されたボージンは凍りついたように立っていた。

 

「どういうことだろう?何かを直したがっていたようだけど?」

 

「だけど何を直そうとしているのかは分からなかったわ。ちょっと待ってて。確かめてくるわ」

 

ハーマイオニーがマントから出てボージンの店に入ろうとする。

それをエスペランサは慌てて止めた。

 

「待て待て。ハーマイオニーが行ってもボージンは教えないだろう。俺とフローラで行く。ボージンはセンチュリオンの協力者だからな」

 

「そうなの?それは知らなかったわ」

 

エスペランサとフローラは目眩しの魔法を解除してボージンの店に入った。

ボージンは一瞬驚いたが、客がエスペランサだと分かると安堵する。

 

「何だ、おめえらか。何か用か?」

 

「ああ、単刀直入に聞く。マルフォイは何を企んでいる?」

 

「お前……。さっきの会話を聞いていたのか」

 

「まあな」

 

「盗聴とは趣味が悪い。まあ、本来なら顧客の情報は売れない。特にマルフォイ家の倅とあれば……。だが、あんたらには守ってもらっているしなぁ」

 

ボージンアンドバークスはセンチュリオンと協定を結んでいる。

センチュリオンにポイズンバレットや補給物資を提供する代わりにボージンとバークの命を保障し、有事の際は保護するというものだ。

また、センチュリオンに協力している間は魔法省のガサ入れも免除される。

 

ボージンの店はヴォルデモート勢力とも密接な関係があったが、今はセンチュリオン側の勢力となっていた。

 

「頼む。教えてくれ。マルフォイは何を修理しようとしていたんだ?」

 

「これだ。このキャビネットだ」

 

ボージンは店に置かれた黒い薄汚れたキャビネット棚を指さした。

黒い塗装は剥げかけているし、あちらこちら欠けている。

そんなに貴重なものにも思えなかった。

 

「こんなものを?これは何だ?」

 

「姿をくらますキャビネット棚です。簡単に言えば対となるキャビネット棚に瞬間移動出来る道具です」

 

フローラが言う。

 

「詳しいな。まあ、そういうこった。こいつは例のあの人の全盛期に重宝されていた。まあここにある奴は壊れているし、対となるキャビネットはどうもマルフォイの倅が持っているらしい」

 

「そんなキャビネットをマルフォイが必要としている訳か……。何故なんだろう?」

 

「さあな。そいつは俺も知らん。だがまあ、マルフォイ家は今、例のあの人とズブズブだ。あまり良い事には使われそうに無い。だから、俺としても協力はしたかねえんだよ」

 

「なるほど。てことはさっきの言葉も嘘なんだな。実際、あんたならこのキャビネットを何日で直せるんだ?」

 

「2日あれば十分だろう。バークなら1日で直すぜ?」

 

ボージンは自信満々にそう言った。

つまるところ、ボージンはマルフォイへの協力を拒否していたのだ。

 

「流石だな。もしこれ以降でマルフォイや敵陣営の人間からの接触があればすぐに我々に通報して欲しい」

 

「それは構わんが、情報料は頂くからな?」

 

「やれやれ、相変わらずだな」

 

エスペランサはため息を吐く。

だか、その直後に手持ちの無線が入電した。

 

『ハウンド、こちらコントローラー応答してくれ!緊急事態だ』

 

「こちらハウンド。どうした?」

 

無線の相手は魔法省にいる筈のセオドールからだった。

只ならぬ気配にフローラもボージンも不安そうな顔になる。

 

『敵襲だ。至急、ダイアゴン横丁に展開中の隊員を出動させてくれ』

 

「敵襲だと!?敵の数は?場所はどこだ?」

 

『ロンドンから100キロ離れた港だ。敵は……亡者の軍団だ』

 

「亡者……だと?」

 

エスペランサは絶句した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エスペランサ達がボージンの店に立ち寄る少し前の事。

セオドールは魔法省にいた。

 

スクリムジョール政権発足後、はじめての魔法省上層部の会議に彼が呼ばれたのだ。

 

魔法省の地下に作られた会議場には各部署のトップが集まっている。

部屋の真ん中には巨大な円卓が置かれ、大臣も役人も席についていた。

 

「待っていたよセオドール君。いや、センチュリオン副隊長と呼んだほうが良いかね?」

 

「お好きなようにして下さい」

 

スクリムジョールに促されてセオドールも席についた。

彼は役人達の顔触れを見る。

元闇祓い局長のスクリムジョールが集めただけあって優秀な人材が揃えられていた。

 

だが何人かはファッジ政権下の生き残りであり、明らかにこの場に居てはならない人物だった。

その筆頭がアンブリッジだろう。

 

踏ん反り返るようにして座るアンブリッジを目にしたセオドールはスクリムジョールにその事を追及し始めた。

 

「大臣。何故、この女がここに居る?」

 

「この女とはドローレスの事かね?」

 

「そうです。この女は死喰い人との戦争を行う上で足枷にしかならない。いや、それどころか自陣を弱体化させる原因になる。何故採用したのか理解に苦しみます」

 

セオドールの過激な発言にファッジ政権時に重役だった役人達が非難の声を上げた。

 

「立場を弁えたまえ。君達は確かに戦果を上げたかもしれんが、ここではオブザーバーの立場に過ぎんのだ」

 

「そうとも。魔法省高官に向かって何という口の利き方だ!?」

 

だがセオドールも負けてはいない。

 

「立場がどうとか言っている場合では無いだろう!?俺達が血を流して戦っている間、あんたらは何をしていた?ダンブルドアのネガティブキャンペーンをして魔法界を危機に陥れていたのはあんた達ではないのか?大臣、お言葉ですが、この連中が居る場でセンチュリオンの作戦を公言は出来ません」

 

「君の言う事はもっともだ……。いや、私も前大臣の顔を立てて忖度しようとしていたのだが……。やはり考えを改めないといけないようだな」

 

スクリムジョールはアンブリッジをはじめとしたファッジ政権下の役人達に会議場を出て行くように指示する。

 

役人達は抵抗しようとしたが、この場にいる役人の大半はスクリムジョール派の人間であるため諦めたようだった。

アンブリッジは唯一、何も言わずに会議場を立ち退いたが、部屋から出る間際、セオドールの事を恨みの篭った目で睨みつけていった。

 

「すまなかったな。だが、魔法省も人手不足で多少は前政権から継続任用者を出さざるを得なかったんだ」

 

「分かっていますとも」

 

「残念なことに魔法省の中には君達の敵も多いのだ。正直な話、ここまで上層部が腐っているとは思っていなかった。何とか使える人材をかき集めたのだが、それでも手薄なのは否定出来ない」

 

スクリムジョールは会議室の扉に盗聴魔法がかけられていないかどうかを確認する。

魔法省の中はスパイだらけだ。

 

「さて、本日の議題は今後の死喰い人達との戦い方についてだ。先日の戦闘で敵の勢力をある程度削ぐ事は出来たが、一方で闇祓いにも被害が出た。戦力の立て直しには時間がかかる。正直な話、センチュリオンの戦力に頼らなければ治安維持が出来ない状況だ」

 

「大臣。そんなに闇祓いは被害を受けたのですか?」

 

「ああ。主力の闇祓いが10人も聖マンゴ送りになった。命に別状は無いが、現場復帰にはまだ時間がかかるそうだ」

 

「ということは今、死喰い人が攻めてきたら対抗しようがない……ということですな」

 

運輸部の局長が唸るように言う。

 

「我々センチュリオンは全力で敵の侵攻を阻止しますが、それでも状況は悪いですね」

 

セオドールが手元にあった資料を役人に配った。

その資料には敵の戦力分析が事細かに書いてある。

 

彼は資料の説明をはじめた。

 

「この資料は我々が独自に入手した敵の情報をまとめたものです。吸魂鬼がアズカバンを放棄したことにより投獄されていた闇の魔法使い達が全員脱獄したので敵は全盛期の力を取り戻しつつあると考えられます」

 

「吸魂鬼がアズカバンを放棄……か。嘆かわしい話だ」

 

「国外からも元死喰い人が巨人を引き連れて帰国しています。死喰い人を含めた敵の人数は軽く1000人を超えているかと……。それに巨人や闇の生物が味方しています。これに対してセンチュリオンの隊員は新規隊員を含めても40名弱。闇祓いや魔法警察、それにダンブルドア配下の戦闘員をかき集めたとしても味方勢力はせいぜい100名といったところでしょう」

 

「たったの100名しかいないのか……。いや、前回の戦争の時もそんなものだった気がするが」

 

「もっとも、ダンブルドアシンパの魔法使いは多いので実際はもう少し多く戦力が確保出来るかもしれません。しかし、そうだとしても味方勢力はまともに戦闘訓練をしたことのない集団です。敵が組織的な戦闘を仕掛けてきたらどう逆立ちしても勝てない」

 

セオドールの言葉に役人達は絶望的な顔をする。

彼らは前回のヴォルデモートとの戦争で前線で戦っていた者ばかりだ。

 

その時、味方陣営の人間が如何に少なかったかは身をもって知っている。

 

「ノット君。状況が悪いのは分かった。その上でどう戦うべきかを説明して欲しい」

 

スクリムジョールが言う。

 

「はい。敵は数の上では有利ですが、その実、戦闘組織としては素人集団です。個々の力が強くても連携が取れていない。そこが弱点です。魔法界での戦闘は決闘方式、つまり個人間の戦闘が主流。マグル界では遥か昔に否定された戦闘形態です」

 

セオドールは杖を取り出して宙に文字と図を浮かび上がらせた。

 

「戦争における戦闘形態はフランス革命時代から現代に至るまでに変化を重ねてきました。横隊から縦隊・散兵、それが群となり、第一次世界大戦で戦闘群の戦いとなる。その間に兵器も進化を遂げ、現代戦では3次元空間が戦闘地域となっています。無論、我々センチュリオンも複数の戦闘群を用いて3次元での戦闘を想定しています」

 

「3次元の戦闘というのがよく分からない。しかし、神秘部での戦闘を見る限り、君達の使う武器はどれも射程が長く、威力も強い。その利点を活かすのであれば、接近戦を避けて遠距離からの飽和攻撃に徹するのが良いのでは無いか?」

 

スクリムジョールの横にいたキングズリーが発言する。

 

「そうです。だが、我々の武器は魔法で防ぐ事も出来る。それに、ロングレンジを活かした戦いの出来る場所に敵を誘導するのも簡単ではないでしょう」

 

セオドールは近代兵器のみで死喰い人を圧倒出来ると考えてはいなかった。

敵も馬鹿では無い。

何回かの戦闘で近代兵器に対抗する案を生み出してくるだろう。

 

「会議中失礼します!緊急事態です!」

 

突然、若手の役人が会議室に入ってくる。

息を切らせたその役人の顔は青ざめていた。

 

「どうした!?今、この部屋は立ち入り禁止にしておいた筈だぞ?」

 

スクリムジョールが叱責する。

 

「し、失礼致しました……。し、しかし、大変な事態が起きています!」

 

「落ち着け。何があったか言ってみろ」

 

「亡者です!亡者が現れました!それも大量に!」

 

役人の言葉に会議室にいた魔法使い達は騒つく。

ヴォルデモートが亡者を使役するのは周知の事実だったが、襲撃は突然過ぎた。

 

「場所はどこだ?」

 

「ここから100キロ離れた港湾です。その場に居合わせた魔女から通報がありました。既に何人ものマグルが犠牲になっているとの事です……」

 

スクリムジョールは血相を変えてキングズリーに指示を出す。

 

「キングズリー!闇祓いと魔法警察、それに忘却術士を派遣しろ!」

 

「承知しました。しかしながら、闇祓いの主力は先日の戦闘で聖マンゴに入院中です。派遣出来る人間は限られています」

 

亡者との戦闘を経験している魔法使いは少ない。

亡者の大群を相手にすることの出来る組織は今のところセンチュリオンのみだ。

センチュリオンの出動にはダンブルドアの了解が必要となるが、現に被害が拡大しているのであれば出動を躊躇っている余裕は無い。

 

「大臣、我々が出動します。我々の火力であれば亡者に対しても十分に戦える筈です」

 

「センチュリオンが!?出動にはどれくらいの時間がかかる?」

 

「隠れ穴に駐屯している隊員に準備をさせれば30分以内に出動可能です。大臣にはダンブルドアに我々の出動許可を取ってもらいたいのですが?」

 

「任せろ。一刻も争う事態だ」

 

セオドールは持ち込んでいた無線機の送話器を掴む。

センチュリオンで使用している無線機は電波ではなく魔法力の流れを利用しているから周波数帯等の制約が無い。

 

つまり、魔法力の存在する地域であればどこでも通信が可能なのだ。

 

この夏、2回目の大規模戦闘が始まろうとしていた。

 

 

 

 




遅ればせながらゾンビランドサガにハマりました
というわけで次回は対亡者戦です

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