ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話)   作:さざなみイルカ

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02話『責任/新たなる翼』

 

 ドラグーンベース地下の出撃用ハッチ。そこには、ガイズマシンのコックピットになる小型ポッド“ガンスピーダー”が整然と並んでいる。

 

 乗り込むと、ハッチは自動で閉まった。操作卓(コンソール)にGUYSデバイザーを差し込み、全ての計器に灯りを灯す。

 

 被っていたGxメットのシールドを降ろし、出撃の時を待つ俊太郎。この間、更に下層の格納庫から“GUNヴィカロス”が移動レールとリフトによって運ばれていることだろう。

 

「ねぇ」

 

 座席の後ろから声を掛けられた。共に出撃するマモルである。ガンスピーダーは複座式で、ニ名の隊員が直列並ぶように座って操縦するのだ。

 

「どうしてボクを相方に選んだの?」

 

「ああでも言わないと、俺らを二人きりにさせてくれないだろ」

 

 冗談を一発噛ませて満足した俊太郎は、眼鏡越しに素っ気ない視線をさしてくる未来人に本心を述べる。グドンを逃してから、ヨーの態度は無機質だった。

 

「お前と話がしたかったんだ」

 

「ふーん」

 

「……お前は、マモルの身体から離れる気はないんだな?」

 

「ないよ」

 

「そうか」

 

 弾力のないやり取りだ。俊太郎は胸のポケットからノヴァイスゼラを取り出し、後方の彼に挙げて見せた。

 

「お前はマモルを人質にして、俺はコイツを握っている。今、俺達の立場は対等だ。だが、俺はお前に協力しようと思う。俺はウルトラマンとして戦う」

 

「どうして?」

 

「責任と向き合うためだ」

 

 それが俊太郎の出した答えであり、ウルトラマンとして戦う理由だった。

 

 力ある存在となり、周囲に多大な影響を与えることを、彼は恐れていた。しかし一方で、人々の平和と安全の守護に志を()えた自分という存在に嘘はつけない。

 

 そして、クルーになったことで不本意ながらもX−GUYSの肥大化に加担した大人として、後世の世代――マモルやヨー達の為に組織の暴走を抑止したかったのだ。そのためには、ただ未来人の言いなりになるだけでは都合が悪い。

 

「俺はノヴァの真の力の覚醒に協力するし、お前のいう未来も守る。その代わり、変身するタイミングや戦い方は俺に決めさせてくれ」

 

「……わかった」

 

 フロアにGUNヴィカロスが運ばれた。先に遥とビリーを搭乗させたガンスピーダーαが機体と合体する。コンベアが動き出し、β機もレールの前に移動させられた。

 

「それと、もうひとつ。約束して欲しい」

 

 間もなく、β機も新型機に挿入された。四人を乗せたGUNヴィカロスは、リフトでさらに上へ。地上に姿を表す。

 

「お前の目的を果たした(あかつき)には、マモルの身体を返してくれ」

 

 他の二人に聴かれないよう、通信は切ってあった。

 

 GUNヴィカロスのマキシマムエンジンに火が点り、突き抜けるような噴射音が耳に入ってくる。

 

 俊太郎の願いに対し、少し間を開けてヨーは答えた。

 

「……いいよ」

 

 「交渉成立だな」と俊太郎は返した。間もなく、GUNヴィカロスは離陸する。赤く染まる空と雲を目指して、新たなる翼が飛び立った。

 

 

 

 

 

 グドンが足を踏み入れたのは広大な更地だった。巨大な物流倉庫の建設予定地となっていたエリアである。無論、人はいないし、土地周辺の避難も進んでいる。戦うならこの場所だった。

 

 陽は既に地平に沈みかけていて、夜の闇が浸食を始めている。

 

「グワァゥッ! グワァァゥッ!」

 

 (たけ)り立つグドンの声が、二機のガイズマシンを迎えた。

 

 刺々しい皮膚に紅い眼。曲がった猫背は頭部の角をより前方に突き出し、牙からから(よだれ)が漏れている。凶暴さは相変わらずのようだ。怒りのままに打たれる鞭は、土煙を起こし、残り僅かな夕陽の光を鈍らせる。

 

 鷹屋からの通信が、GUNヴィカロスに乗る四人に送られた。

 

『俺たちは第二空戦部隊のように事前にシュミレートしてきた訳じゃない。あの鞭には十分気を付けろ。それじゃあ、攻撃開始だ!』

 

「「G.I.G.」」

 

 続いて、ガンスピーダーαに乗る遥からβ機の二人に声が届く。

 

『分離するわよ』

 

「おう」

 

『GUNヴィカロス、セパレートッ!』

 

 俊太郎の前面の景色が開けてくる。GUNヴィカロスが上下二機のマシンに別れたのだ。高速戦闘機“GUN(ガン)ウォーリア”と万能可変戦闘機“GUN(ガン)アーチャー”である。

 

 分離すると片割れを夕闇の空に見送り、俊太郎の乗る機体は地上に降下。あらかじめ出しておいたキャタピラーを地面に着ける。GUNアーチャーは戦車に可変できる上、状況に応じて、地中も海中も潜れる。もちろん、空や宇宙も飛べる。正に万能機なのだ。

 

「おい、メガトンカノン砲スタンバイ」

 

「はーい」

 

 長い砲身が展開され、照準スコープがヨーの座席横から現れる。記憶を共有しているというだけあって、ヨーは機器の扱い方を解っていた。

 

 ほどなくして、GUNホークとGUNウォーリアの攻撃が始まった。 

 

「グワァゥッ! グワァァゥッ!」

 

 バルカンに立ち止まるグドン。ダメージを受けたというより、驚いたという様子だ。間髪入れず、鞭の報復を放つ。

 

 熟練の隊長とエースがそれぞれ乗る機体は、それらを即座に(かわ)す。

 

「撃て」

 

 俊太郎の指示で、砲身から弾丸が発射される。轟音を地上に残して翔ぶそれは赤と紫の空の下で放物線を描き、グドンの右肩を直撃させる。

 

「グワァゥッ! グワァァゥッ!」

 

 効いたようだ。GUNアーチャーのメガトンカノン砲は、マニューバーモードを除けば歴代戦闘メカの武装の中で随一の威力を誇る実弾兵器である。

 

「やったー♪ 当たったよー」

 

「見りゃわかる。さっさと次弾装填(そうてん)しろ」

 

「ちぇっ。はーい」

 

 機動性に優れたGUNホークとGUNウォーリアが怪獣の気を引き付けつつ、GUNアーチャーがメガトンカノン砲で砲撃し、その体力を削っていく。それが基本戦術だった。

 

 その作戦は功を奏した。短時間の攻防の末、数発の弾丸をグドンに命中させるに至ったのだ。しかしすると、グドンの狙いは空中で飛び交う戦闘機から、地上の戦車に向く。

 

「グワァゥッ! グワァァゥッ!」

 

 後方や横からの攻撃を無視して、グドンはGUNアーチャーを目指す。一見危機迫る状況だが、これも想定済みである。作戦は第二フェーズに入る。

 

 鷹屋は、発動権限を持つ特務隊隊長の名を呼ぶ。

 

『朱里!』

 

『メテオール解禁!』

 

『『パーミッション・トゥーシフト』』

 

「マニューバーッ!!」

 

 それぞれのガイズマシンが金色の粒子の粒子を纏う。夕闇の空に高音の飛行音が響き始めた。

 

 天駆ける二機は慣性制御翼(イナーシャル・ウィング)を展開している一方で、GUNアーチャーはホバークラフトを発動。下面から圧縮空気を吹きつけて機体地面から離す。

 

 迫るグドン。短い風切り音と共に、鞭が振り下ろされる。

 

「ディストーション・シャウト展開!」

 

 バリアが、グドンの攻撃を弾く。

 

 マニューバーモードを発動したGUNアーチャーは、ドーム状の光の壁を形成できるのだ。しかもその守備範囲は調整可能で、一時的な拠点防御にも使える。

 

 その強度は磁場フィールドの強度に劣らない。グドンら二度三度鞭による打破を試みるも、GUNアーチャーには傷一つつけられなかった。

 

 四度目の攻撃は、バリアすらにも当たらなかった。ホバリングによる高速移動で、GUNアーチャーに逃げられたからだ。その際、ファンタムアビゲーションによる残像を置き残すことも忘れない。

 

 倒したはずの敵の消滅に戸惑う怪獣。鷹屋と遥の機体が高音を放ちながら背後より接近する。

 

「グワァゥッ! グワァァゥッ!」

 

 音は聞き取れても、姿は捉えられない。いくつもの残像が、その赤い眼を惑わす。鞭が叩いたのも全て虚空だった。

 

『シトロネラ・ショック、ファイアッ!』

 

 鳥型に変形していたGUNホークの嘴から電撃弾が発射される。刺々しい体表に当たると、たちまち巨躯に電流が流れる。

 

『今だ、遥!』

 

 夕日と夜闇の間を飛ぶGUNウォーリア。その高度は、グドンの体長をさらに上回る。

 

『トドメよ! メビウム焼夷(しょうい)弾、投下!』

 

 一発のナパーム弾が怪獣の頭上に落とされた。

 

 刹那、光が起こり、轟音が鳴る。舞っていた砂塵はたちまち一帯から退去した。

 

 ウルトラマンメビウスの技、“メビウムバースト”と同等の威力を再現した特殊焼夷弾である。体力を十分に削った怪獣なら、一発で仕留められるはずだ。

 

 砂の次に視界の支配者となった煙。

 

 使用制限時間を超過し、全てのガイズマシンのマニューバーモードは切れてしまう。煙が晴れたとき、そこには巨大な死体が横たわっていることを隊員たちは願った。影が立っていた場合は戦闘続行である。

 

「!?」

 

 しかし、煙が消えた先に待っていたのは、死体でも生体でもなかった。穴である。

 

『逃げられた!?』

 

『ちッ、全員警戒しろッ! 奴はまだ近くに……』

 

 次の瞬間、地面から伸びた一線が、猛禽の身体を打った。火花と爆発が起こり、GUNホークはその飛行から平行性を失う。

 

 鞭の不意打ちだった。

 

「鷹屋隊長ッ!」

 

『クソっ! 情けねえぜ、ガンスピーダーで脱出する!』

 

 破損した機体からコックピットだけ射出された。間もなく、操縦者を失ったGUNホークは地面に叩きつけられる。

 

 ガンスピーダーは単体でも飛行可能である。しかし、その飛行を睨むのは、地中から戻ってきた赤い眼である。

 

「グワァゥッ! グワァァゥッ!」

 

 近い。近過ぎる。たったひと振りで仕留められる距離に、鷹屋はいた。

 

 ガンスピーダーはガイズマシンほどのスピードはない。絶対絶命だった。

 

 俊太郎は咄嗟にノヴァイスゼラを持つ。

 

「いくぞ」

 

「うん」

 

「機体を頼む、……ヨー」

 

 掲げる。

 

「ノヴァァァァァッ!!」


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