ウルトラマンノヴァ シーズンⅠ(00〜03話)   作:さざなみイルカ

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03話『姉弟/サイバーカード』

 

 二七歳といえば“いい年齢”である。当人が思っていようがいまいが、そう見られてしまう。まこと、不愉快な話だった。

 

 俊太郎はこの日、スーツを来て戦っていた。数人の女性と。戦ったが、負けた。選ばれなかったのだ。

 

「くそう、今日はダメかよ」

 

 お見合いパーティーである。彼はいわゆる、婚活中だったのだ。

 

 出されていたノンアルコール飲料を流し込んで、司会者言葉を聞き流す。もはやどうでも良かった。彼はさっさとこの場から去りたい気分だった。願いはすぐに叶った。会場の外では、同じ“運命の相手”とやらに出会えなかった男女が延長戦を行っていたが、俊太郎はそれを尻目に車に向かった。

 

 X−GUYSクルーに貸し出される隊車両である。宿舎で暮らす俊太郎は、申請すればいつでも基地から車をレンタルできるのだ。無論、私的利用でもかまわない。ただ、GPS搭載で行く先は基地に知れてしまうが。

 

 車を発進させる前に、俊太郎はネクタイを外して考え事をした。

 

 今日出会った女性達は決して悪い人ではない。ただ、対峙しているとどこか自分が不自然になる。相手に気を使うのだ。それがどうも疲れる。結婚相手となると、将来家庭を共営し、ほとんどの時間を一緒に過ごすことが前提となる。自然体で振る舞えない相手を選ぶべきではない、と俊太郎は思っていた。ときめきによる結婚、というのを信じていないわけではないが、はじめからそれを期待して人生設計を組むのは夢見がちというものだろう。

 

 自然体。そのワードを聞くと、どうも自分が見えなくなっていく。俊太郎は時々、自分の内面にある矛盾にアイデンティティーを揺らがされるときがあった。

 

 彼には幼稚さに執着する面と、成熟を求める面がある。同僚たちに無謀な対決を挑んだり、自分の器用さをひけらかしてりする一方で、X−GUYSが社会にもたらす影響を懸念し、自分にできることや果たすべき責任に尽力する。

 

 好意的な者は「(おど)けてみせて、実は思慮遠望の人」と言ってくれるかもしれない。また、疑り深い奴は「浅はか奴が、教養人を気取っているだけ」と指摘するかもしれない。俊太郎に言わせてみれば、どちらも間違っておらず、どちらも正確ではなかった。

 

 頭を掻いた。考えていても仕方がない。キーを回し、エンジンをつけた。車を発進させる。

 

 駐車場を出ると、再び脳裏に下らない思案が巡る。

 

 結局、“いい年齢”になっても自分のことなんて分からない。他人のことだってそうだ。しかし、知りたいとは思う。あるいは、知らなければならないと思う。俊太郎に積極的な結婚願望があるわけではない。しかし、自分を知るための手掛かりとして、また、他人を理解する力を養う一環として、妻帯が必要に思えたのだ。

 

「ん?」

 

 信号で止まったとき、横断歩道に見覚えのある横顔を見つけた。ボブカットの黒髪と中性的な顔立ち、そして、黒縁の眼鏡。

 

 俊太郎は本来直進するはずだった道を右折する。人を尾行する趣味があるわけではないが、その人物には目を光らせておく必要があった。増して、見慣れない誰かと夜の街で歩いているとあっては。

 

 手を繋いでいる。一緒にいるのは女性だった。彼は背が低いが、女性も同じくらい低い。赤いストラップシューズに膝丈くらいのスカート。ベージュ色の小さな鞄。フリルがあしらわれたカーディガンを可愛らしく着こなしている。顔は見えないが、おそらく可憐な女性なのだろう。そうでなければ腹が立つが、そうだったとしても愉快ではない。

 

 駅に近づくと、二人は手を振って別れた。彼はその場に残り、女性は改札に向かって歩いていった。

 

 俊太郎は軽くクラクションを鳴らす。

 

「うわっ、ビックリした」

 

 後輩の身体に取り憑いている未来人は、俊太郎の車に駆け寄ってきた。彼も私服である。

 

「やっほー」

 

「やっほーじゃねーよ。何やってんだよこんなところで」

 

「デートだよ、デート」

 

「デートぉ?」

 

「俊は今から基地に戻るの?」

 

「そうだけど」

 

「よかった♪」

 

 「乗っていい?」とも訊かず、ヨーは助手席に座った。厚かましいことに、送っていけ、と言いたいようだ。

 

 決して好ましくないが、放置するのも不安なので承諾する俊太郎。

 

「マモルの家ってどこだ?」

 

「いや、ボクも基地に行く」

 

「あいよ」

 

 面倒くさげに返事をして再び車を走らせた。

 

「で、さっき一緒にいた子誰だよ」

 

「ネットで知り合ったの。一緒にケーキ食べに行ってたんだよ」

 

「おい」

 

 流し目で抗議する。相手には上手く伝わらなかった。

 

「今時インターネットで知り合う男女は多いんだよ」

 

「そういう問題じゃねーよ」

 

 街灯の流れる光が、車内の明度に波を与える。車は幹線道路に出た。

 

「それはマモルの身体だろうが」

 

「いいじゃん、別に」

 

「よかねぇよ」

 

「どうして?」

 

「どうしてって、勝手に恋人をつくるなよ。相手が本気になったらどうするだ」

 

「ただケーキ食べてただけじゃない。そんな関係にはならないよ」

 

 俊太郎は前髪を掻く。

 

 彼が言っているとおりなら問題はなかった。ただそれでも、ヨーの身勝手さには目が余る。これではいつかマモルの人格を取り戻したとき、彼が激変した人間関係に困惑するのではないか。

 

「お前、その身体が他人のものだってこと忘れてないか?」

 

「覚えてるよ」

 

「だったら勝手なことをするな」

 

「勝手なことって、例えば?」

 

「ネットで知り合った女の子とデートしたり、実の姉に反発したりだよ」

 

「どっちも大切なことじゃない。身体の持ち主も経験することだよ」

 

「だったら、本人に経験させろ」

 

「してるよ。人格は別でも記憶や体験は身体に残るから、今日身に起こった出来事は全て彼の経験にもなる」

 

 ヨー(いわ)く、人間の身体は刺激などの情報を受信し記憶する装置であり、心はそれを元に判断を下す操縦者らしい。ヨーはマモルに取り憑いたときから彼と記憶を共有しており、周囲が知り得ないマモルのことを知っていたりする。ただ、ヨーが知っているのはマモルが見てきた景色や体験した出来事であり、それに対してマモルがどう思っていたのかは彼にもわからない。それでも、情報量は誰よりも勝っていた。

 

 車は止まった。赤信号である。

 

 俊太郎は一つ、確認しておきたいことを訊ねた。

 

「お前は、マモルのことをどう思っているんだ?」

 

「好きか、嫌いかってこと?」

 

「そうじゃない。ただの人質だからどうなってもいいと思っているのか、って意味だ」

 

 少し間があく。マモルが再び口を開いたのは、再びアクセルが踏まれた時だった。

 

「大切にしていないわけじゃないよ。人質としては重要だし。ただ、同情はしてるよ」

 

「同情?」

 

 その語句は、少し聞き手の感情を刺激する。反意を語尾に含めて、俊太郎は言葉を返した。

 

「得体の知らない存在に身体を乗っ取られた不幸な若者にか?」

 

「自由になれるのに、いろんなものに縛られている不幸な若者にだよ」

 

 次の回答は早い。怯んだが、言葉の意味を脳内で整理して確認する。

 

「マモルは不自由だったって言いたいのか」

 

「俊はそう思わなかったの?」

 

 何も反論できなかった。俊太郎は歯痒(はがゆ)さを飲み込んで、ハンドルを切った。

 

 ドラグーンベースの敷地内に入る。ゲートで隊員証を見せて、そのまま車を走らせる。

 

「ボクだって好きで人質をとっているわけじゃないよ。この身体の持ち主には悪いと思っている。でも、どの道活動するためには身体が必要だし、保険は欲しい」

 

 レール・カーの線路の前に差し掛かったので一時停止。左右確認を終えてブレーキを離す。

 

「だから、いつかこの身体を彼に返したとき、以前よりも周りの環境が良くなっているようにしたいんだ」

 

「今日のデートもその罪滅ぼし計画の一環なのか?」

 

「ううん、あれはケーキが食べたかっただけ」

 

「おい」

 

「あっ、ここで降ろして」

 

 レール・カー搭乗ホーム付近で車を止めた。ヨーは車を降り、去る前に運転席を覗いた。

 

「ボクは彼の全てを知っているわけじゃないけれど、彼が日々何を望んでいたのかは予想できるよ。それを叶えてあげようと思うの」

 

「何する気だ」

 

「近いうちわかるよ」

 

 レール・カーがやってくる。

 

 じゃあね、と言い残してヨーはそのまま駆けていった。

 

 俊太郎は未だ、あの未来人についてのほとんどを知らない。無論、心を許している訳でもない。ただ、一定の信頼は置いている。ひとつはそうせざるを得ない運命共同体だからであり、またひとつは彼にはそれなりの能力があるからだ。

 

 今日、理由はさらにひとつ増えたのかもしれない。

 

 しかしまだまだ、油断できない存在だ。

 

「ったく」

 

 俊太郎は頭を掻いて、再び車を走らせる。

 

 

 

 

 翌日、遥・ビリーとオフィスの自動ドアをくぐると、夜雲姉弟が話している姿が見えた。隊長用の執務室だったが、ガラス張りなので下のフロアからでもその姿が筒抜けだったのだ。

 

「どうして、最近家に帰ってこなかったの?」

 

 朱里は肘を天板につけて弟を詰問していた。腰を据えている姉に対して、弟は立っている。

 

「最近、いろいろやってて。基地に泊まってるの」

 

「きちんと説明しなさい。何をしているの」

 

 きな臭い空気が執務室から漏れ出す。三人は立ち止まって姉弟の会話を静観した。

 

「それは、隊長として聞いてるの? それとも家族として聞いてるの?」

 

「両方よ」

 

「どっちにせよ、答える義務はないよ」

 

「…………」

 

 朱里の瞳孔が(かす)かに動いたのがわかった。(かん)(さわ)ったのだ。彼の不誠実さではなく、正確な指摘がである。

 

 見るに耐えられなかった俊太郎は、透明の扉をノックした。

 

「隊長」

 

 予定の時刻と入室していた部下の存在に気付き、朱里は不穏な空気を退散させた。後からやってきたドン助、タマゴとともに会議室に集合。朝のミーティングが始める。

 

 最初に発言を求めたのはドン助だった。かねてより開発していた新兵器の報告である。

 

 彼が提示したのは、一枚のカードだった。

 

「サイバーカード?」

 

「左様。怪獣や宇宙人の能力をデータ化して記録したカードでゴワス」

 

「カードにする必然性ってあるんですか」

 

 遥から回された現物を俊太郎も眺めた。見た目こそトレーディングカードだが、触った質感が違う。紙よりも少し厚い。

 

 表面にはそのデータの(もと)となった宇宙人の姿が描かれている。

 

「で、このカードが何に使えるんですか。まさか、マケット怪獣みたいに出現させられるとか?」

 

「カードに記録されたデータを転送して、データ中の能力をウルトラマンに付加させることができるでゴワス。つまり、ウルトラマンに怪獣や宇宙人の力を与えることができる」

 

「そんなウソみたいな話、本当に可能なんですか」

 

「ウソみないとは失敬な」

 

 ドン助によると、ウルトラマンに新たな力を与えるメテオールは一〇年前から開発が進んでいたらしい。今回形にできたのは、宇宙人コンサルタントであるタマゴの協力があったからだという。

 

「記念すべきサイバーカード第一号に選ばれたのが、宇宙剣豪ザムシャーでゴワス」

 

 ザムシャー。

 

 かつて銀河に名を馳せていたとされる“宇宙の剣豪”で、一二年前、オオシマ彗星の飛来と共に地球にやってきた。己の剣の腕に絶対の自信を持つ宇宙人で、その技は同時に出現したバルキー星人を瞬時に(ほふ)るほど。

 

 ザムシャーは二度地球を訪れている。最初は当時何度も出現が確認されていたハンターナイト・ツルギ――ウルトラマンヒカリ――と果し合いをするためだった。その時何があったのかは記録にないが、二度目に出現したときは地球人の味方をし、ウルトラマンヒカリと共闘してエンペラー星人に立ち向かい、その戦いの果てに絶命した。

 

「力を求めた剣豪、時を経て力になるってか」

 

 上手くもない世辞(せじ)をカードに述べる俊太郎。実際使用されるとすれば、ウルトラマンである彼にザムシャーの力が加わることとなるわけだが、それをどう思うべきかはわからなかった。面白いかも知れないが、想像が難しい。

 

 すると、ビリーが手を挙げた。

 

「で、力が加わるって実際どんなイメージなんですか。ミスター」

 

「うむ、それじゃあ実際使ってみるでゴワス」

 

 彼に言われて、カードを返す俊太郎。

 

「タマゴ殿」

 

「コケっ」

 

 ガッツ星人のコンサルタントが起立し、机から距離を置く。

 

「いくでゴワス!」

 

 カードをGUYSデバイザーに読み込ませる。デバイザーの画面は青白く光り、機械音が流れた。

 

《エフェクト・リンク! ザムシャー!》

 

 デバイザーをGxブラスターと連結させるドン助。そして、データをビームの様にタマゴに放った。タマゴの首元に閃光が命中したとき、その煌めきは彼の身体に浸透。波紋となって彼の身体に広がっていく。

 

《OK! ザムシャー!》

 

 すると、軽妙な音楽が流れ彼の上半身に紫を基調とした勇ましい武士の鎧が形成される。

 

《一刀両断っ♪ ホシキリブレードぅ♪》

 

「コケー!」

 

 その手に出現した刀を振り回して、付加されたザムシャーの力を披露する分身宇宙人。その片目はザムシャーと同様眼帯がされている。

 

「こういった具合でゴワス」

 

「「おおー」」

 

 これは凄い、俊太郎も同感だった。

 

「どうでゴワスか、タマゴ殿」

 

「コケっ、力が(みなぎ)ってくるぜ」

 

 ウルトラマンに限らず、サイバーカードは様々な宇宙人に装備可能らしい。フェルシア器官と呼ばれる、地球人には無い電波などを受信する器官を通じて、データを体内に取り込むのだ。

 

 タマゴはもう一度、得た剣技をひけらかす。

 

「おい貴様ら、ここはこのオイラ、ミスター・タマゴが占拠した。刀の錆になりたくなかったら、今すぐ地球を降伏させ……」

 

「ビリー」

 

 遥の声を受け、白人隊員はスタスタと彼の横に歩いていく。そして、刀持つ彼の腕を軽く(ひね)った。

 

「コケぇーッ! ギブ、ギブ! 調子に乗ってごめんなさいぃぃ!」

 

「おい、敗けてんじゃねーか。いろんな意味で大丈夫なのか、この新兵器」

 

 このやり取りは無意味な茶番だが、そこには切実な問題点も隠れていた。ウルトラマン以外にも使える武器となれば、当然、敵に利用される可能性もある。サイバーカードの管理にはかなりの厳重さが求められた。

 

 不意に、ドン助が手にしていたカードを取って、眼鏡の隊員は言った。

 

「じゃあこれ、ボクが持つ」

 

 カードを見遣るマモル。その中に未来人が取り憑いていることを知っているのは、俊太郎だけだった。朱里は怪訝(けげん)そうな表情を浮かべて弟であるはずの隊員に視線を投げる。

 

「あなたが?」

 

「いいでしょ? ボク、この中で一番ウルトラマンノヴァについて詳しいし」

 

「ウルトラマンノヴァ?」

 

「考えてみたの、レジストコード。ただのウルトラマンじゃあ、パッとしないでしょ」

 

 笑顔の弟と、半ば睨むような姉。またもオフィスに不穏な空気が湧き上がる。肌で感じずにはいられない。

 

 白々しいが、彼の言っていることは事実だ。何故なら、マモルは――ヨーは他のメンバーが知り得ないウルトラマンの情報を握っているからだ。その正体が俊太郎であるという情報を。もちろん、彼が情報を握っていることも、その仕掛け人が彼の中に居座る異な存在であることも、周囲は知る由もない。

 

「ダメよ」

 

「それはどっちが?」

 

「あなたがサイバーカードを所持することがよ」

 

 レジストコードは後に検討する、と付け加えた後、朱里は理由を述べる。

 

「所持すれば今後、外敵に狙われる可能性があるわ。あなたが持つのは危険よ」

 

 「あなたが持つのは危険」。それは言い得て妙だと俊太郎は思った。もっとも、それはマモルが標的になるからではなく、ヨーの力が増えることがである。

 

「多数決できめようよ、()()。いつもメンバー全員の意見を聞いてるじゃない」

 

 不遜な上、挑発的に返す彼。いつもその態度が指摘されないのは、その発言が的を射ているからに他ならない。

 

 科学特務隊は、メンバーの自発的な発言を尊重していた。そのために、朱里は今まで自分の強権を行使して部下を黙らせることを常に避けてきた。ただ、マモルに関しては――とりわけ最近は、その理性に揺らぎが生じる場面を何度も晒していた。

 

 朱里は首を振りつつ承諾する。

 

「わかったわ。皆の意見も聞くわ。遥、あなたはどう思う?」

 

 最初に発言を求められた遥は、ごく形式的な口調で答えた。

 

「私は彼の意見に反対です。カードを持つのは、白兵戦に優れたビリーか、隊長が持つべきだと考えます」

 

 彼女らしい答えだった。遥は、革新や融通よりも保守や原則に寄った思考の持ち主である。独創性には欠くが、もっとも常識的な感覚だ。

 

 その個性が尊重されているせいか、メンバー全員の意見を問うとき、朱里は一番最初に彼女の常識論を求める。遥の意見を軸とすることで、独創的な他のメンバーの見識を際立たせることができるのだ。

 

 そのことは、メンバー全員理解している。そのため、遥の次に発言するのは、彼女の対極の意見を持つ者という不文律があった。そして大体、その役は自分に回ってくる。

 

 通例に従い、俊太郎は挙手した。

 

「俺はマモルに賛成です」

 

 無論、それは周囲の空気を読んでではなく、純粋な意見だった。

 

「サイバーカードがウルトラマンの援護を目的として使用されるなら、その使用者はウルトラマンに詳しい者が担うのが適任であると思えます。加えて、ビリーは白兵戦担当、隊長は指揮と狙撃をされており、マモルには決まった担当がありません。役割分担の利から言っても、彼が持つのがチーム全体としても良いと考えます」

 

 などと、表面上理由を取り(つくろ)ったが、本音はやや異なる。

 

 ウルトラマンとしては、正体を知る彼に持ってもらう方がより安心できるのだ。それに、俊太郎はヨーを全面的に信用しているわけではないものの、その頭の切れには大きな信頼を置いていた。変身中はテレパシーで意思疎通もできる。

 

 しかし正直、このの提案が可決されるとは思っていなかった。自分と彼以外のメンバーが賛同すると、俊太郎は思っていなかったのだ。

 

 そのため、ドン助が「賛成」と言ったときは内心で驚いた。

 

「おいどんも彼が持つべきと考えるでゴワス」

 

「なぜかしら」

 

 朱里は問うた。ドン助は突き出た腹を隊長の方に向けて答える。

 

「彼はウルトラマンの行動パターンを熟知している。彼がまとめたあのウルトラマンのデータは、このホシキリブレードのデザイン調整にとても貢献したでゴワス」

 

 「マジか」と俊太郎は心のなかで呟いた。

 

 彼は最近基地に泊まり込んでいると聞いたが、どうやらデータ編纂(へんさん)などの作業をしていたらしい。なかなか熱心な話だが、これが他のメンバーを味方につける工作だったとしたら、かなりの策士である。

 

「ミスターは?」

 

「コケっ、オイラは反対だ。やっぱりウルトラマンと同じ宇宙人であるオイラが……」

 

「自分が持ちたいだけでしょーが」

 

 と、遥が一蹴した。

 

「ビリー、あなたは誰が持つべきだと思う?」

 

 賛成と反対が拮抗したとなると、最後の白人隊員の意見に注目が集まった。自らの顎を一度撫でてから、ビリーは吹き替え声優のようなハッキリとした声で賛否を述べる。

 

「賛成です」

 

 少し、間があいた。「何故かしら」朱里がその理由を求める。

 

「俺はここ数日、彼に頼まれて、彼に個人的な体術訓練をレッスンしています」

 

「マジか」

 

 と俊太郎が訊くと、

 

「マジ」

 

 とリズム良くビリーは返した。

 

「彼の上達には見張るものがあります。おそらく、襲われても自分の身は自分で守れるでしょう。加えて、俊やドンさんたちの意見を(かんが)みて、彼が適任だと俺は考えます」

 

「これで決まりだね♪」

 

 賛成四人。過半数だった。当人と俊太郎はともかく、ドン助とビリーの示した根拠はさすがに強く、反対票の面々も納得せざるを得ない。最終的な決定権のある朱里ですら、何も言い返せなかった。

 

「これは、ボクが持つよ」

 

 サイバーカードを胸にしまうマモル。

 


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