コードギアス・謀略のカナメ   作:JALBAS

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副司令の肩書を手に入れ、無理にゼロの弱みを握る必要も無くなった扇。
しかし、昔の恋人に似たヴィレッタに、徐々に心が惹かれていってしまいます。
そんな折、ひょんな事からふたりで租界に出掛ける羽目に……




《 第九話 ―― その名前で ―― 》

第二次枢木政権時の官房長官、澤崎敦が、亡命した中華連邦の協力を得てキュウシュウブロックのフクオカ基地を占拠し、“独立主権国家日本”を謳って来た。

テレビでは、黒の騎士団が関与しているかどうかは調査中と言っていたが、

「関係ねえって!」

玉城が、テレビに向かって文句を言う。

「京都は、何と言ってるんだ?」

俺は、ディートハルトに確認する。

「ああ、知らなかったようです。サクラダイトの採掘権についてのみ、一方的に通告して来たと。」

「ゼロ、私達どうすれば?」

カレンが、ゼロに問い掛ける。ゼロは、その場では何も言わなかった。

 

当然コーネリア軍はこれを殲滅に向かったが、悪天候も災いして上陸もままならなかった。

沈黙を続けていたゼロは、作戦室に全員を集め、黒の騎士団の対応を発表する。

「澤崎とは合流しない。あれは独立では無く、傀儡政府だ。中華連邦のな。」

「しかし、日本を名乗っている。」

「名前と主君が変わるだけ、未来は無い。無視するべきだ、あの日本を。」

「ふ~ん、でもさあ、それって……」

「ブリタニアの行動も放っておくのか?」

朝比奈と卜部の言葉に、ディートハルトが進言する。

「ゼロ、組織としての方針を明確にしておいた方が。」

「そうだな、澤崎の件は置いておくとしても、当面の目的くらいは。」

俺も続く。それに対してのゼロの答えは、

「東京に独立国を造る。」

艦内は騒然とする。

「待ってくれ!いくら黒の騎士団が大きくなったと言っても……」

俺の言葉に続き、幹部達からも反発の声が……

「敵は世界の1/3以上を占める大国。」

「俺達だけでそんな事を?」

「では聞こう!お前達は、誰かがブリタニアを倒してくれるのを待つつもりか?誰かが、自分の代わりにやってくれる?待っていれば、いつかはチャンスが来る?甘えるな!自らが動かない限り、そんないつかは絶対に来ない!」

この言葉に、皆、沈黙してしまう。

「但し、澤崎の日本は認めないが、放置もしない。」

「え?どういう事だ?」

俺の問いに、ゼロは、

「黒の騎士団は、正義の味方だろ?」

その後ゼロは、C.C.と共にガウェインに乗り込み、単独で発進して行く。

 

嵐がおさまり、コーネリア軍は再び作戦を再会する。加えて本隊が上陸するまでの搖動も兼ね、枢木スザクがランスロットで単身本陣に切り込んだ。しかし、流石に多勢に無勢、エナジーフィラーも尽きて万事急須となるところに、ゼロの駆るガウェインが介入した。

完成したハドロン砲で、中華連邦のガン・ルゥを一掃し、ランスロットに替えのエナジーフィラーを渡す。そして共に、敵司令部を強襲する。

ガウェインとランスロットが共闘する事により、コーネリアの本隊到着前に、澤崎を捕獲してしまった。

俺達は、モニターでこの光景を見詰めていた。

「ブリタニアから逃れるためにも、ガウェイン単独での作戦は成功でしたな。」

ディートハルトの言葉にカレンは、

「でも、紅蓮が壁になればもっと楽に。どうせ私はもう家にも学校にも帰れないし、今更、ランスロットなんかと手を組まなくたって……」

「必要な事は、勝利ではありません。」

「え?」

「この戦いに、黒の騎士団が参加したという事実です。無論、表立っての報道はなされないでしょうが、噂は流せます。ゼロが言う通り、これは私達の立場を、全世界に伝える役に立つでしょう。」

ディートハルトはこの介入に意味のある事を皆に解いた。

 

その後、事実この件は噂になり、ゲットーに住む日本人達の心も揺れていた。

「ゲットーでも意見が分かれてるんだって?」

「恭順派と反抗派でね。」

格納庫内で、旧レジスタンスメンバーがこの件について話している。俺は、壁に寄り掛かって、他の事を考えていた。そう、あの女の事を……

「しかし、皆驚くだろうな。ゼロが、国を造るつもりだって知ったら。」

「そうそう、無茶苦茶だよ。」

「もう少し現実的に……」

「俺は賛成だ、ゼロに。」

玉城が言う。

『えっ?』

全員が、意外そうな声を上げる。

「だってそうだろ!あいつに付いて行けば、人生一発大逆転だ。官僚になるって、俺の夢も……」

ずいぶんゼロに懐いたようだな?以前は、何かにつけてゼロに反発していた癖に。単純な男だからな、一度信じれば、もう何の疑いも持たないんだろう。

「官僚?本気で?」

カレンが突っ込む。

「あったんだよ!俺にだって夢が。黒の騎士団やってなきゃ、今頃リフレインでも決めてるって!」

「リフレインって、お前……」

俺は、その言葉にはっとする。頭に、あの女の顔が浮かぶ。

リフレインなら過去を、ゼロの正体を……しかし、知ってどうする?もう、必要な地位は手に入れた。これ以上、高望みしなくとも、俺は……

「扇さん?」

「うっ……」

カレンに呼ばれて、我に返る。

「例の件ですけど、指示を仰ごうにもゼロと連絡が取れなくて……」

「じゃあ、予定通り俺が……」

「罠だって!やめとけよ!」

玉城が言う。

「でも、情報ルートは必要よ!あそこには、入団希望者も居るって言うし……それに、ディートハルトが作った逃走ルートが使えるのは、明日しか……」

先日の神根島の一件で、カレンが黒の騎士団の紅蓮弐式のパイロットである事が、枢木スザクに知られてしまった。そのため、その情報はブリタニア軍にも東京租界にも知られ、アッシュフォード学園にも知れ渡っていると思われた。

しかし、カレンの元にアッシュフォード学園生徒会長のミレイさんから連絡があった。明日の学園祭に、是非参加して欲しいと。という事は、アッシュフォード学園には、カレンの正体は知られていない。枢木スザクが漏らしていないという事になる。ならば、カレンは学生として、アッシュフォード学園に潜入できる。情報ルートとしてまだ使えるという事だ。更に、アッシュフォード学園内でメイドとして働いている、篠崎咲世子という女性からの入団希望も来ている。

もちろん、罠の可能性もある。だが、明日は学園祭のため、ディートハルトが逃走ルートとして放送車両を学内に配置する事も出来る。

結局、カレン自らが確認しに行く事となった。但し、念のため、俺も学校の外から見張る事にした。

 

そして当日、イレブンがひとりで租界をうろうろすると怪しまれるので、カモフラージュのためにあの女にも同行してもらった。

「すまない、ゲットーのイレブンがひとりで出歩くと……」

「いえ。」

「ブリタニアが怖いようなら……」

「そんなに、気にしなくても……それより、こんな事が、お仕事の助けになるんですか?」

彼女は足を止め、手前に指を翳す。そこに、飛んで来た蝶が止まる

「ああ、開発計画の資料集めだから。」

俺も足を止め、振り向いて答える。

「そうですか、良かった。」

笑う彼女に、俺も笑みを返す。

何やってるんだ、俺は。できれば、このまま彼女を警察か病院に……いや、駄目か、俺の情報が漏れると、他の皆を巻き込んでしまう。だからと言って、始末するなんて俺には……

そんな事を考えながら歩いていると、目的地の、アッシュフォード学園の正門の前に着いた。

「ここだな?」

「どうかしました?」

「あ、いや、昔学校の先生やってたから、懐かしいなって……」

「どうして、辞めちゃったんですか?」

「子供の頃からの親友が居てね、けど死んじゃって……そいつの夢を、俺が代わりにって……」

これも嘘だ。大学で教職課程を学んでいたが、ブリタニアの侵略で卒業は出来なかった。租界で教師をやるには、名誉ブリタニア人にならなきゃならない。ゲットーで教師の真似事もやったが、あんな環境じゃまともな授業はできない。ブリタニアの監視も厳しい。下手な事を教えれば、直ぐテロ予備軍として拘束される。

ふっ……また、嘘ばかり付いているな、俺は。それが全部ばれて、千草は去って行ったってのに……

すると、突然彼女は俺の腕を掴み、学校の門の方に引っ張る。

「な?」

「入りましょ!」

「え?……な……中はちょっと、それに、イレブンは……」

そこに、門の中に居た学生達が寄って来る。

「関係無いでしょ!」

「うちはオープンですから!」

「おふたりさんごあんな~い!」

学生達に引っ張られ、俺達は中に連れ込まれてしまう。

その後、案内されるままに学内を回った後、お化け屋敷に入った。流石にここでは無粋と思ったのか、案内の学生は居なくなった。ふたりで、お化け屋敷の中を回る。時折仕掛けに驚いて、彼女が俺に抱き付いて来る。何か、学生時代に戻ったようで、悪い気はしない。

そこまでの仕掛けは大した事は無かったので、俺は驚かなかったが、突然目の前の墓石が捲れ上がってゾンビが、

「早くしろお!」

と大声まで上げたので、俺も驚いて目を瞑ってしまう。

「あれ?扇さん?」

「え?」

名前を呼ばれて目を開けると、目の前に居るのは、ゾンビに扮したカレンだった。

「……無事だったのか?」

「……お陰様で……」

その後、着替えたカレンに連れられ、備品倉庫に移動する。

「どうして学校の中まで?」

「あ……私が……」

カレンの問いに、とっさに彼女が答える。

「誰ですか?あなた。イレブンじゃありませんよね?名前は?」

「あ……」

彼女は、返答に困って俺の顔を見る。

「こ……この人は、俺の……」

「カレンか?ここは関係者以外立ち入り禁止だから、早く外に……」

奥から、学生がひとり出て来る。カレンの友達か?まずいな、あまり顔を見られるのは……

「あれ?カレン?」

更に、入り口からもう2人……え?後ろに居るのって、枢木じゃ?

「ひと騒ぎ起こします。その隙に……」

カレンはわざと悲鳴を上げ、パネルを崩して騒ぎを起こす。何故か、煙まで噴出して来る。俺達は、その隙に何とか外に逃げ出した。

校舎裏の大きな木の所で、俺達は息を整える。

「すみません、変な事に巻き込んで。」

「いいえ、何だか楽しかったです。こういうドキドキって久しぶり。」

俺は体を起こし、彼女を見詰める。

そうだな、もう彼女の記憶を無理に戻す必要も無い。記憶が戻らなければ、大人しいただの女だ。俺達の障害になる事も無い。

「出ませんか?エリア11を?そうすれば、あなたを撃った人も追って来ないかと。」

「扇さん、以前の私、今よりも幸せだったのでしょうか?だから……」

「え?」

「さっきの言葉の続き、聞かせてもらえませんか?」

「な?」

「この人は、俺の……何ですか?」

「そ……それは……」

「私、イレブンになってもいいです。」

「そ……そんな、君は、千草じゃ無いんだから……」

「千草?」

し……しまった!つい……

「それ、私に付けてくれた名前ですか?」

「い……いや、違うんだ!この名前は……」

「私を、その名前で呼んで頂けますか?」

「え?」

「お願いします。」

彼女は、すがるような目で俺を見詰めている。

だが、結局俺は、彼女をその名で呼ぶ事は出来なかった。

彼女は、酷く寂しそうだった…………

 

カレンの無事が確認されたので、俺達はそのままゲットーに戻った。

篠崎との接触は、ディートハルトが行った。

しかし、その後にひと騒動起こっていた。エリア11副総督のユーフェミアが、お忍びで学園祭に来ていて、それが発覚して学園内はパニック状態になった。

しかもその席で、ユーフェミアはとんでもない発表を行ったのだ。

 

エリア11内に、“行政特区日本”を設立すると。

 





今回は、ちょっとメロドラマ風になってしまいました。
話も、かなりアレンジしてしまっています。
原作では、何でカレンや扇が学園祭に行ったのか、良く分かりませんでした。自分なりにカレンの言葉をキーワードに推察して、この話の展開になりました。咲世子は、ここで黒の騎士団に入ったのでしょう。
扇が昔教師だったというのが、原作の設定ですが、大学生の時代にブリタニアに占領されたので、占領後に教師をやっていたとは思えません。ゲットーじゃまともな学校も無いだろうし、名誉ブリタニア人でも無い扇が、アッシュフォード学園の教師にはなれないでしょう。
最後に、ヴィレッタは“千草”という名前を何時知ったのか?自分で付ける訳は無いし、扇がそう呼ぶのはブラックリベリオンの時が初めてです。という事で、その名を知るのはこのタイミングしか無いかと。

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