コードギアス・謀略のカナメ   作:JALBAS

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遂に、ゼロをリーダーに据える事に成功した扇。しかし、彼はゼロの言う“ブリタニアとの戦争”について、深く考えてはいませんでした。
“正義の味方”としての断罪行為は、結果的に賞賛される心地の良いものでしたが、いざ、本当の戦争に突入する事になると……




《 第四話 ―― ナリタ攻防戦 ―― 》

ホテルジャック事件の華々しい登場以降、世間は黒の騎士団一色に染まった。黒の騎士団は、ゼロの宣言通り弱者の味方だった。民間人を巻き込むテロ、横暴な軍隊、更には汚職政治家、営利主義の企業、犯罪組織等、法では裁けない悪を一方的に断罪していった。

俺達は、あっという間に英雄になった。協力者も増え、参加希望者も集まり組織が大きくなった。更には、ナイトメアまで再び手に入れる事ができた。京都が無頼を始め、最新型の紅蓮弐式まで回してくれた。完全日本製の、初のナイトメアだ。

もちろん、表立っての話しでは無い。リーダーのゼロはクロヴィスを殺しているのだから。仲間内でも、彼の素顔を知りたがっている者も多い。でも、無理強いすれば彼は居なくなってしまうだろう。それでは困るので、俺が何とか仲間を言いくるめた。もう、俺達は、彼無しではやっていけないだろうから。団員の中には、玉城のように未だに不満を漏らす者も居るが、大多数は、ゼロの行動を支持していた。

何より、日本人からは圧倒的な支持を得ていた。ブリタニアは嫌いだが、テロという手段には賛成できない。それが、大多数の日本人の意見だ。

おかげで集団での行動が取り易くなった。民衆が、大勢側に通報しないだけでも大助かりだ。情報提供も、格段に増えた。

逆に、日本解放戦線の方は酷い有様だ。

ホテルジャック事件の件で、ブリタニア軍の一番の標的にされた上に、日本人からの信頼も失われた。あの事件で草壁中佐以下大勢のメンバーが減った事もあり、組織は大きく弱体化していた。

ちょっと気の毒な気もするが、逆に俺達を逆恨みしていないかという不安も感じる。

 

そんな折、入団希望のブリタニア人から、ブリタニア軍の極秘作戦の情報が通報されて来た。送って来たのは、ディートハルト・リートという報道局の人間だ。その内容は、“コーネリア軍が、日本解放戦線を完全に壊滅させるため、成田連山を攻める”というものだった。

発信者が、ブリタニア人というのが気に掛かる。入団希望者なので“主義者”とも思われるが、罠という可能性も有る。当然俺には決められないので、早速ゼロに相談する。

「ゼロ、ちょっといいか?」

紅蓮弐式の前で、カレンと何やら話しているところに割って入る。

「変な情報が上がって来た。入団希望のブリタニア人からだ。」

俺は、通報内容が書かれたファイルをゼロに渡す。

「我々を誘い出す罠じゃ無いのかな?裏を取ろうにも、この男にうかつに接触するのは危険だし。けど、無視するには大きすぎる情報だ。どうすればいい?」

ゼロは、ファイルを閉じて即答する。

「週末はハイキングかな?成田連山まで。」

「え?……それじゃあ……」

意外な反応だった。ゼロは、日本解放戦線のやり方には否定的だった。見捨ててもおかしくないと思っていたが、やはりここでも“正義の味方”を貫くのか?それとも、ここで日本解放戦線に恩を売って、我々に従わせようという腹か?

いや、まさか……

「ゼロ、まさかこのタイミングで、ブリタニアに戦争を仕掛ける気か?」

「……そうだ。」

「ええっ?」

カレンも驚く。

「じゃ……じゃあ、日本解放戦線と共闘するのか?」

「いいや……奴らが、日本解放戦線に気を取られている隙に、奇襲を掛ける。」

「何だって?」

 

週末、俺達は現時点の全部隊を率いて、成田連山に来ていた。コーネリア軍にも、日本解放戦線にも見つからないルートを使って。

麓で一端待機し、ゼロからの連絡を待つ。先行したゼロからの合図で、山を登る。

「ゼロからの合図を確認した。我々は、第2地点へ移動!」

移動しながら、団員達が疑念の声を上げている。

「ハイキングって、どういうつもりかしら?」

「軍事教練だろ?」

「ゼロだけ別のところに居るってのに?」

「温泉でも掘るんじゃないの?」

「ああ、そのための掘削機か?」

団員達には、目的は何も伝えていない。ゼロからの指示で、目的を知っているのは俺とカレンだけだ。

「カレン、何か聞いて無いか?」

玉城が聞いて来る。

「さあ?」

「扇は?」

「いや、何も……」

ゼロは、通信による逆探知を裂けた。やはり本気か?元々、黒の騎士団はブリタニアと戦争をするために作られた組織だ。ようやく地盤固めが終わって実戦という訳だが、いざその時が来るととても平静ではいられない。だが、ゼロは戦略に長けた男だ。勝算も無しに戦いを挑む事は無いだろう。この場は、奴を信じるしか無い。

 

第2地点で、俺達はゼロと合流した。合流して直ぐ、ゼロは掘削機で辺り一面を掘らせる。地下水脈まで掘り進み、電極をセットさせる。

「なあ、本当にやるのか?」

掘削機の進行具合を見ながら、俺はゼロに問い掛ける。

「相手はコーネリア、ブリタニアでも屈指の武力を誇る軍だ!」

「だから、日本解放戦線と協力して……」

「今更?扇、私を信用できないか?」

「何言ってるんだ?俺が君に頼んだんだぞ、リーダーになって欲しいと!」

「なら、答えはひとつだ。」

「あ……ああ……」

そう言われても不安になる。本当に、コーネリア軍をこの小部隊で相手にできるのか?俺には、勝利の方程式が全く見えない。まあ、元々俺にそんな才能は無いんだが……

 

しばらくして、遂にコーネリア軍が行動を開始した。山の麓から、次々とナイトメアが山頂に向けて進行して来る。更には、何機もの輸送機が空を覆い、ナイトメアを降下させて行く。その数は優に100を超えている。

「始まったな?」

俺達は、呆然とその光景を見詰めていた。

「冗談……冗談じゃねえぞ、ゼロ!あんなのが来たんじゃ、完全に包囲されちまう!帰りの道だって……」

玉城が吼える。

「もう封鎖されているな!生き残るには、ここで戦争するしかない。」

「戦争?ブリタニアと?」

「真正面から戦えってのか?囲まれてるのに?」

「しかも、相手はコーネリアの軍。今迄と違って大勢力だぞ!」

ゼロの言葉に、井上、玉城、杉山が噛み付く。

「ああ、これで我々が勝ったら奇跡だな?」

「ゼロ!今更?」

その言葉に、俺まで、思わず叫んでいた。勝算があって、この作戦を決行したんじゃ無いのか?俺はてっきり、この劣性を覆す秘策があるとばかり思っていたのに。

「メシアでさえ、奇跡を起こさなければ認めて貰えなかった!だとすれば、我々にも奇跡が必要だろう?」

こ……これも芝居か?本当は策があるが、あえて退路を断って団員の底力を出そうとしているのか?

「あのなあ、奇跡は安売りなんかしてねえんだよ!やっぱりお前にリーダーは無理だ!俺こそが……」

玉城がキレて、肩に掛けた機銃をゼロに向けようとする。だが、それより早く、ゼロが玉城に銃を向ける。

「あっ?」

皆、固まって動けなくなった。しかし、ゼロは引き金から指を外し、銃を回転させ俺達に差し出すようにする。

「既に退路は絶たれた。この私抜きで勝てると思うのなら、誰でもいい、私を撃て!」

未だに、皆は固まって動けない。

「黒の騎士団に参加したからには、選択肢は2つしかない!私と生きるか、私と死ぬかだ!」

口論している間に、戦闘は開始される。包囲された日本解放戦線は一点突破での脱出を試みるが、ブリタニアの大群の前に次々と撃破されていく。

「どうした?私に挑み、倒してみろ!」

結局、玉城達は根負けする。

「けっ!好きにしろよ!」

「ああ、あんたがリーダーだ。」

「ありがとう……感謝する。」

ふっ……見事な誘導だ。ここまで追い込めば、皆ゼロに頼るしかない。生き残るためには、ゼロをリーダーと認めるしか無い。俺も、もう腹をくくるしか無い。団員達が認めているのに、俺だけゼロを否定する訳にはいかないからな。但し、生き残るために、俺はお前の側を離れないぞ。

「よし、全ての準備は整った!黒の騎士団、総員出撃準備!」

全員、覚悟を決め、武器を取り出撃の準備をする。

「これより我が黒の騎士団は、山頂よりブリタニア軍に対して奇襲を慣行する。私の指示に従い、第3ポイントに向け一気に駆け降りろ!作戦目的は、ブリタニア第二皇女、コーネリアの確保にある!突入ルートを切り開くのは、紅蓮弐式だ!」

カレンの駆る紅蓮弐式が、その鋭い爪の付いた右手で、掘削機により掘られた貫通電極のひとつを掴む。そして、輻射破動を放つ。

すると、凄まじい轟音と共に地面が大きく揺れ、岩が弾け飛ぶ。地下水に輻射破動を浴びせて、水蒸気爆発を起こしたのだ。山の一部が砕け、巨大な崖崩れが発生する。その崖崩れは、ブリタニア軍の一角を飲み込んで行く。約半数近くのブリタニア軍が、この崖崩れの餌食となった。更に、これによりコーネリアの部隊が他の部隊と孤立することとなった。

そこへ、俺達黒の騎士団が奇襲を仕掛けた。

やはり、ゼロは策を練っていた。日本解放戦線を囮に山頂近くに敵を集めさせ、崖崩れで大半を一蹴する。更にコーネリアを孤立させ、山頂から一気に攻め込む。これなら少数部隊でも、十分に勝機はある。

しかし、ここにジェレミア率いる純血部隊が現れたため、思わぬ苦戦を強いられてしまう。

最初はカレンの駆る紅蓮弐式が、ジェレミア達数機を次々と撃破したが、作戦のため紅蓮は離脱。それにより、ゼロを含む俺達の部隊は純血部隊の攻撃に圧され、防戦一方となってしまった。このままでは作戦は失敗かと思われた時、遅れて参戦した日本解放戦線の精鋭部隊が介入して来た。俺達はこれを機に転進して、作戦エリアに向かう。

ゼロ、まさか、ここまで読んでいたのか?それとも、運か?どちらにしても、これでより勝率は高くなった。

そして、完全に部隊と分断されたコーネリアを、紅蓮弐式と俺達で包囲した。抵抗するコーネリアだが、紅蓮相手では分が悪く苦戦を強いられる。その上、ゼロに背後から撃たれて機体は大きく損傷する。

「卑怯者!後ろから撃つとは!」

「ほう?なら、お前達の作戦は卑怯では無いと?」

これで勝利は確実と思われた時、また、奴が現れた。

突然、岩の壁を吹き飛ばして、白いナイトメアが我々の前に飛び出して来る。

「おい、まさか、あのナイトメア?」

「ああ、新宿や、河口湖に居た奴だ。」

俺達の腕と無頼では、全く歯が立たない。カレンの紅蓮弐式で、やっと互角の闘いだ。しかし、運悪く崖を背にしたため、足場が崩れて紅蓮は崖下に落ちる。

「おい!大丈夫か?」

俺と玉城は、崖を下って紅蓮の所に行く。そこに、ゼロからの通信が入る。

『扇、紅蓮は?』

紅蓮の右腕が、回路がショートしたのか火花を散らしている。

「右手が駄目だ、修理しないと……」

『ぬうううう……引くぞ!』

「えっ?」

『全軍、脱出地点に移動させろ!これ以上は消耗戦になる、撤退だ!』

俺達は指示に従い、3機だけで脱出地点に向かう。ゼロと離れるのは不安だが、今はカレンの紅蓮の近くに居た方が安全だろう。いざとなれば、玉城を弾除けにもできる。

「なあ、本当に引いちゃっていいのかよ?」

玉城が問う。

「勝ったのは事実だし、これ以上は……」

ゼロの目的のコーネリアの捕縛はできなかったが、戦いは俺達の勝ちだ。正攻法では無かったにしても、ブリタニア軍に、特にコーネリア軍に土を付けたという事実は大きい。

「日本解放戦線を囮にして、逃げるしか無いってかあ?」

「そんな言い方、嫌いなんだけど。」

玉城の言葉に、カレンが苦言を呈す。

「ああ、人間はゲームの駒なんかじゃ無いんだ。ゼロだって、そんな事は考えていない筈さ。そうじゃなきゃ、俺達まで駒として使われてるって事になってしまうよ。でも有り得ない、彼のブリタニアに対する怒りは本物だ。怒りを知る人間は、悲しみも知っている筈だから……」

なんてな……全て、ナオトの受け売りさ。俺の本心じゃ無い。

間違い無く、ゼロは俺達も駒として使っている。完全に捨て駒の、日本解放戦線よりはマシだがな。ゼロとは少し違うが、俺も奴を利用しているから良く解る。ただ、ゼロがブリタニアを憎んでいるのは確かだ。異常な程にな……

 

ブリタニアは俺達を追って来る事は無く、ゼロとも無事合流して俺達は逃げ延びた。後で知った事だが、日本解放戦線も大きな打撃は受けたが、生き残った者は何とか逃げ延びたようだ。俺達に手酷くやられ、ブリタニア軍も撤退を余儀無くされたのだろう。結果的に、日本解放戦線にも貸しを作る事が出来た。本気の戦争で生き残った事により、団員達には自信も付き、士気もより高まった。そう、また奇跡を起こしたのだ。ゼロは…………

 





多少危ない展開はあっものの、ゼロの勝運か、扇の悪運か、藤堂と四聖剣の介入でコーネリア軍に勝利した黒の騎士団。これにより、名声はまた高くなり、協力者も増えていきます。
組織も大きくなり、扇もどんどんおいしい思いができるようになっていきます。
そして、次はいよいよ京都と……

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