ゼロにリーダーを頼んだのも、レジスタンスの組織や日本を取り戻すためでは無く、単純に自分に都合の良い居場所を作るためだけだったとしたら……
第2回は、扇達レジスタンスが“ゼロ”と初めて顔を合わせる話。
全て、扇視点で書いています。
例の声の主との待ち合わせに、俺達は旧東京タワーの展望室に行った。
“カレンひとりで来い”との指示だったが、俺は杉山と吉田を連れて、3人で少し離れた所で様子を伺っていた。ここで取り逃がす訳にはいかない、絶対に正体を掴まなければ。
杉山達は“枢木スザク”が軍に捕らえられる前に連絡して来たのではないかと疑っていたが、俺は違うと思った……いや、そう思いたかっただけかもしれない。もし、声の主が
枢木だったら、もう俺達のリーダーに宛がう事も出来ない……
指定の時間に、カレンに連絡が入った。俺達共々、環状5号線外回りに乗れとの指示だ。
俺達が一緒に来ている事もお見通しか、やはり、こいつは抜け目が無い。
電車の中で、また連絡が入った。租界とゲットーを比較させ、カレンのコメントを求めた。そのコメントに納得したのか、今度は先頭車両に来いと指示があった。俺達は、指示に従った。
先頭車両に着くと……居た!
そいつは、車両の端にこちらに背を向けて立っていた。何故か、この車両には乗客がひとりも居ない。隣の車両には沢山乗っていたのに、誰もこの車両に移ろうとはしない。何故だ?こいつ、いったいどんなマジックを使ったんだ?
「なあ、新宿のあれは……停戦命令もお前なのか?」
カレンが尋ねる。しかし、彼は答えない。
「おい、何とか言えよ!」
杉山の言葉に、彼は振り向くが……その顔は、黒い仮面で隠されていた。
「租界ツアーの感想はどうだ?」
彼は、俺達に尋ねて来る。
「正しい認識をして貰いたかった、租界とゲットー。」
彼の質問の意図は分からなかったが、とりあえず俺は答える。
「確かに、我々とブリタニアの間には差がある。絶望的な差だ。だから、レジスタンスとして……」
「違うな!テロでは、ブリタニアは倒せないぞ!」
俺は、言葉に詰まる。まあ、口論は得意では無い。理詰めで来られると、反論出来なくなる。
「やるなら戦争だ!民間人を巻き込むな!覚悟を決めろ!正義を行え!」
し……痺れる台詞だ……やはり、こいつにはリーダーの資質が備わっている。
「ふざけるな、口だけなら何とでも言える!顔も見せられないような奴の言う事が、信じられるか!」
カレンが叫ぶ。
「そうだ!」
「仮面を取れ!」
杉山達も続く。ここは、俺も合わせておかないとまずいと思い、
「ああ、顔を見せてくれないか?」
と続ける。これで、本当に顔を見せてくれれば儲けものだ。
「分かった、見せよう……但し、見せるのは顔では無い、力だ!不可能を可能にして見せれば、少しは信じられるだろう?」
な……何を、見せてくれるというんだ?やはり、この男の言葉には魔力がある。つい、何かを期待してしまうような魔力が!
「で……いったい何をする?」
俺は尋ねる。
「そうだな、枢木スザクを救って見せようか?」
『な……何だと?!』
全員、驚きの声を上げる。
「お前達も、薄々感づいているんだろう?クロヴィスを殺したのは、奴では無い!」
「ま・・・まさか、お前が?」
「そうだ!クロヴィスを殺したのは私だ!」
「やはり……」
「しかし、どうやって救う?牢獄に潜入するのか?」
今度は、カレンが尋ねる。
「奴は明日の夜、沿道を軍事法廷まで護送される。そこを狙う。」
「馬鹿な!どれだけ厳重な護衛が、配備されると思ってるんだ?」
「だから言っただろう、不可能を可能にすると!」
俺達には、もう言葉が無かった。
「ただ、お前達の協力も頼みたい。」
「何?」
「1時間後、新宿ゲットーのスクラップ置き場で待っている。そこで、返事を聞かせてくれ。」
「ま……待ってくれ、せめて、名前を聞かせてくれ。」
俺は、最後にそう尋ねた。
「我が名は、ゼロ!」
『ゼロ?!』
アジトに戻って、俺達はゼロと名乗る男からの言葉を皆に伝えた。
皆、やはり直ぐには信じ難いようだが、先日の新宿の件もあるため迷っている風だった。俺がうまく懐柔すれば、その気になってくれるかと思ったところに、玉城が口を挟む。
「俺はごめんだね!あんな胡散臭い奴を信じたら、命が幾つあったって足りねえや!」
お前がそれを言うのか?こっちこそお前なんかと一緒に居たら、命が幾つあっても足りないぞ。
しかし、玉城のこの言葉に引っ張られ、皆“協力はできない”方に流れてしまった。協力を受け入れたのは、結局、俺とカレンだけだった。
本当に邪魔な奴だ、何の役にも立たない癖に、俺と同じで悪運だけは強くていつも生き残る。ナオトが生死不明になった時だって、生き残ったのは俺とこいつだけだった。先日の新宿で、死んでくれればどれほど良かったか……
仕方なく、俺とカレンのふたりだけで、ゼロとの待ち合わせ場所に向かった。
「そうか、お前達だけか?」
「すまない、もう少し時間をくれないか?ちゃんと話せば、他の皆も……」
だが、俺の言葉にゼロは、
「いや、ふたりも居れば十分だ。」
『え?!』
「馬鹿言うな!相手が何人いると思ってるんだ?」
カレンが怒鳴る。
「お前達が協力してくれるなら、条件はクリアしたも同然だ……」
そう言ってゼロは、設計図のような紙を渡した。そこに描かれた物を、明日までに作れと言うのだ。ただ、外側だけそれらしく見えれば良いとの事だ。
それは、クロヴィス専用の御料車だった。
「本気で、あんな奴の言う事を信じてんのか?頭がおかしいんじゃねえのか?お前ら!」
相変わらず玉城は文句ばかり言って、何も協力しない。俺はこんな馬鹿は無視して、手を貸してくれる仲間達と、ゼロに依頼された御料車の張りぼてを作った。
彼は言ったんだ。不可能を可能にして見せると……あの男、枢木スザクを救って見せると。彼は、根拠も無しに強がりを言う奴じゃない。ナオトもそうだった。奴をレジスタンスの皆に認めさせるためにも、この計画は絶対に成功させたい。
翌日、何とか造り上げた“クロヴィス専用の御料車の張りぼて”を持って同じスクラップ置き場に行く。ゼロは、俺たちが強奪しようとした毒ガスのカプセルを用意していた。ただ、中身は空っぽだった。それをニセ御料車に乗せ、衝立で隠す。カレンは運転手として、ゼロと行動を共にする。俺は脱出用のトロッコを引いて、骨格だけのナイトメアもどきで沿道脇の線路上で待機した。
全てゼロの指示だが、この配置なら、万一作戦が失敗しても俺だけは逃げ延びられる可能性が高い。カレンには申し訳ないが、相変わらず悪運は強いようだ。
カレンは運転、俺は脱出の手助け、それ以外は細かい指示は無かった。
だから、ゼロがいきなり護送車に正面から接近したのには驚いた。
「馬鹿な、真正面から……どうするつもりなんだ、あいつ?」
その後、ゼロはその名を名乗り、敵が隠していたサザーランドを出し包囲されたところで、
毒ガスのカプセルを見せて脅す。その後、カプセルと枢木スザクの交換を持ちかける。更に、クロヴィス殺害犯が自分である事も告げる。
最初は、交換には応じないの一点張りだったジェレミアだが、ゼロがジェレミアに近づいて何事か告げた時、状況が一変する。
「分かった……おい、その男をくれてやれ!」
ジェレミアが、ゼロに枢木スザクを引き渡す事を命じたのだ。
その場の、誰もが驚いた。当然、俺とカレンも。
周囲の反対を跳ね除け、ジェレミアは枢木を開放する。ゼロ、カレン、枢木が沿道の中央集まったタイミングで、ゼロがカプセルからガスを噴出させる。当然、毒ガスなんかでは無いが、これが脱出の合図だ。
俺は、トロッコの上に着地用のテントを張る。その上に、ゼロ達が飛び降りて来る。テントがクッションになり、3人は無事トロッコ内に着地する。
「やった!これで……」
喜んだのも束の間、護衛のサザーランドの銃撃で俺のナイトメアもどきは破壊される。
「うわっ!」
俺は、脱出ポットで脱出。そのサザーランドは、何故かジェレミアに制止されて追って来なかったので、ゼロ達もトロッコで無事脱出した。
アジトに戻って来て、俺とカレンは一息付く。見事に、枢木スザクの救出は成功した。皆も、驚きの声を上げる。
「まさか、本当に助け出すなんて……」
「何なんだ?あいつは?」
感心する杉山達。しかし、玉城だけは、
「馬鹿馬鹿しい、あんなはったりが、何度も通用するかっての!」
馬鹿はお前だ!あの男が、同じはったりを何度も使う訳が無いだろう。だが、ここは無難なコメントをしておこう。
「しかし、認めざるをえない。彼以外の、誰にこんな事ができる?日本解放戦線だって無理だ。少なくとも、僕には出来ない。皆が無理だと思っていたブリタニアとの戦争だって、やるかもしれない、彼なら。」
そう、俺達の……いや、俺の隠れ蓑になるリーダーはあの男しかいない!
ゼロは、枢木スザクを仲間に引き込もうとしたが拒否されたようだ。枢木は、せっかく命を拾ったというのに、自分から軍事法廷に出頭するため戻って行った。
枢木が去った後、俺は、ゼロと2人きりで話をした。
「ゼロ、俺達のリーダーになってくれないか?」
「何?」
「今日、あんたの力を見せて貰った。あんな事は、俺でも、他のレジスタンスにだってできない。あんたなら、信頼できる。」
直ぐにOKが貰えると思ったが、意外にもゼロは無言だった。そして、少し間を置いて、
「……少し、考えさせてくれ。」
「何故だ?俺達を引き込むために、あんな忠告をしたり、力を見せたんじゃ無いのか?」
「それはそうだが、お前の仲間は納得しているのか?」
「そ……それは……」
「今日の作戦も、協力したのはお前とあの女の2人だけだ。いきなり私のような余所者がリーダーになって、はいそうですかと従ってくれるのか?」
確かに、カレン以外はまだゼロに対して懐疑的だ。特に、玉城に至っては全く信用していない。いきなりゼロをリーダーに据えるのは、思わぬ反発を呼ぶかもしれない。
「また連絡する。それまでに、お前は仲間達をまとめておけ。リーダーを引き受けるかどうかは、その時に改めて話をしよう。」
「あ……おい!」
そう言って、ゼロは去って行った。
あいつ、枢木を救出するために、一時的に俺達を利用しただけなのか?それとも、他のレジスタンスにも声を掛けていて、品定めをしているのか?どちらにしても、奴を他の組織に取られる訳には行かない。
逃がさないぞ、ゼロ!俺は、絶対にあんたを俺達のリーダーにしてみせる!
本編中で、扇が玉城を罵倒するようなシーンは一度もありませんでしたが、玉城を頼っているシーンもありませんでした。内心では、この話のように思っていたのでは無いでしょうか?
何か、扇のキャラがどんどん崩壊して行きます。この話を最後まで書いたら、扇ファンの恨みを買いそうです。