そして、スザクが、ナイトオブゼロとして彼の右腕に……
かつて無い強敵を前に、黒の騎士団は……
神根島での反乱鎮圧後、神楽耶様と星刻にゼロの正体とギアスの事を説明した。神楽耶様は非常に衝撃を受けていたが、何とか俺達の措置への同意は得られた。
その後、シュナイゼル宰相と会談し、日本の返還について交渉を行った。
しかし、植民エリアの開放には皇帝陛下の承認が必要で、シャルル皇帝が居ない今、シュナイゼル宰相の権限で日本を開放する事はできない。生死不明なので、新たな皇帝を即位させる訳にもいかない。
そのような理由で、皇帝の消息がはっきりするまでの間は、エリア11を超合衆国と神聖ブリタニア帝国の中立地帯とする事になった。“日本”の名前は取り戻せないが、エリア11全体が“行政特区日本”と同等の扱いになる。ブリタニア人、日本人間の差別は無くなり。対等の立場での共存が可能となった。これにより、蓬莱島から帰って来る日本人も多く、逆に、ブリタニア本国に帰って行くブリタニア人も多かった。
この会談後、シュナイゼル宰相も何処かへ姿を隠してしまった。そして、ディートハルトも、シュナイゼル達に付いて行ってしまった。最も、彼は元々ブリタニア人なので、それを疑問に思う者も少なかった。
1ヶ月後、突然、シャルル皇帝が重大発表を行うとの報道がされた。
この様子は、帝都ペンドラゴン後宮より国際生中継で全世界に流された。黒の騎士団も、幹部全員斑鳩のブリッジに集まり、メインモニターでこの会見を見ていた。しかし、そこに現れたのは、シャルル皇帝では無かった。
「うそ……どうして?」
カレンが呟く。俺達も、驚いてただ佇むだけだった。
ステージに現れ、皇帝の玉座に腰を降ろしたのは、1ヶ月間消息不明だったルルーシュだった。
『私が、第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです!』
後宮内は、騒然としている。そんな中、オデュッセウス第一皇子が、ルルーシュに歩み寄る。
『良かったよルルーシュ。ナナリーが見つかった時に、もしかしたらと思ったけど……しかし、いささか冗談が過ぎるんじゃないか?そこは、父上の……』
『第98代皇帝、シャルル・ジ・ブリタニアは私が殺した。よって、次の皇帝には私がなる!』
『何言ってんの?あり得ない!』
『あの痴れ者を排除しなさい!皇帝陛下を弑逆した大罪人です!』
ギネヴィア第一皇女の命令で、ブリタニア兵がルルーシュに迫る。しかし、颯爽と天井から舞い降りた人影が、兵達を一掃する。その人影は……
「スザク……どうして?」
動揺するカレン。
『紹介しよう。我が騎士、枢木スザク。彼には、ラウンズを超えるラウンズとして、ナイトオブゼロの称号を与える!』
「あの方と、スザクが?」
神楽耶様は、信じられないという顔で呟く。
オデュッセウス皇子が、再度ルル-シュとスザクに声を掛ける。
『いけないよ、ルルーシュ。枢木卿も、国際中継で、こんな悪ふざけを……』
『そうですか。では、分かり易くお話しましょう。』
ルルーシュは立ち上がり、右手を両目に翳す。そして、一言。
『我を認めよ!』
すると、今迄不満を述べていた皇族や貴族達が、一斉にルルーシュを認める。
『イエス・ユア・マジェスティ!』
『オール・ハイル・ルルーシュ!』
こ……これは?あれだけ、不満を募らせていた人々が、一瞬で……
これが、ギアスか?
ルルーシュ皇帝は歴代皇帝陵の破壊を強行し、貴族制度を廃止した。それにより、皇族も平民と同等の扱いを受け、事実上ブリタニア帝国内では身分の差は無くなった。更には財閥の解体、ナンバーズの開放も行い、そのお陰で、日本はその名を取り戻した。
「すっげえなあ、あいつ!」
ルルーシュ皇帝の大改革のニュースも見ながら、玉城が言う。
「完全にブリタニアを造りかえるつもりか?」
「“壊す”の間違いじゃないの?」
藤堂の言葉に、ラクシャータが茶々を入れる。
「ルルーシュの、ブリタニアに対する怒りは本物だった。」
改めて、それを再認識する。自分を捨てた、シャルル皇帝への恨みと思っていたが、ブリタニアの体制そのものを憎んでいたのか?
「逆らう勢力は、全て潰しているし。」
「超合衆国でも、ルルーシュ皇帝を支持するという声が殆どです。」
千葉と神楽耶様が言う。
「やっぱりあいつは、俺達の味方だったんだよ!」
玉城は、まだゼロを信じているようだ。
「民衆の、正義の味方という報道もありますし。」
という香凛の言葉に、
「報道といえば……ディートハルトは?」
と、杉山が聞いて来る。
「戻る気は無いんでしょ?」
「ああ、シュナイゼルやコーネリアと身を隠した以上……」
千葉、藤堂がそれに答える。
ある意味、俺が追い出したようなものかもしれない。ゼロが居なくなった今、彼の本当の理解者は黒の騎士団内には居ない……いや、彼の創作意欲を掻き立てる人物が居ないと言った方が良いか?
「それよりさあ、どうすんだよ、これから?」
玉城が聞いて来る。
「これからって?」
ラクシャータが聞き返す。
「だってよ、ブリタニアの皇帝がいい事やってんだからさあ……」
「それは……」
神楽耶様が、何か言い掛けたところで、
「いいや、違う!」
『え?』
星刻が玉城の意見を否定する。その言葉に、皆、彼の方を振り向く。
「そうだな。」
藤堂は、既に分かっているかのように頷く。
「ルルーシュ皇帝の、いや、ゼロの目的は、世界の実権を握る事だ!」
『ええっ?』
皆、驚きの声を上げる。
一件、ブリタニアの悪政を正しているかのようなルルーシュの行動を、世界制覇のためだと言い切った。星刻には、ルルーシュの企みが見えているのか?
そんな中、今迄沈黙していたナイトオブラウンズが、ルルーシュ皇帝に対し反乱を起こした。ナイトオブワンを中心に、4人のラウンズが配下を引き連れて帝都ペンドラゴンを襲った。自分達はシャルル皇帝の配下であり、ルルーシュ皇帝を認めないと。
それを迎え撃ったのは、ナイトオブゼロ、枢木スザクひとりだった。この様子は、全世界に中継で流された。
並居る強敵を、圧倒的力で撃破していくランスロット・アルビオン。紅蓮聖天八極式と同じ第九世代ナイトメアの前に、ナイトオブラウンズとはいえそれ以前の機体はもはや敵では無かった。そして、ナイトオブワンまでも、スザクの前に敗れ去った。
『全世界に告げる!今の映像で名実共に、私がブリタニアの支配者とお分かり頂けたと思う。』
この映像に合わせて、ルルーシュ皇帝は語り出す。
『その上で、我が神聖ブリタニア帝国は、超合衆国への参加を表明する!』
『な?』
「それって?」
「ブリタニアが、仲間になる?」
ラクシャータに続いて、俺も驚きの言葉を放つ。
「ほら見ろ!やっぱりあいつは、俺達の味方だ!」
玉城が、またゼロ寄りの発言をする。
『交渉には、枢木スザクを始めとする武官は立ち合せない。全て超合衆国のルールに従おう。但し、交渉の舞台は、現在ブリタニアと超合衆国の中立地帯となっている、日本、アッシュフォード学園を指定させて頂こう!』
これで、中継が切れる。
「やはりな、超合衆国への加盟を求めて来た。」
星刻が言う。
「どういう事だ?」
俺は聞く。
「超合衆国の決議は、何で決まる?」
『あっ?』
ほぼ全員が、はっとする。そうか、ルルーシュの狙いは……
そして、交渉当日、皇帝専用機でルルーシュ皇帝がアッシュフォード学園に到着する。超合衆国の要人が集まっているのと、ルルーシュ皇帝が“武官は立ち合せない”と宣言した事もあり、アッシュフォード学園内部は黒の騎士団の団員が警護していた。
学園の外には民衆が集まり、ルルーシュ皇帝に声援を送っている。悪政を正しているだけあって、かなりの人気だ。
案内役のカレンが、ルルーシュと対峙する。俺達は、斑鳩のブリッジでその様子を監視していた。
「ゼロは……ルルーシュは、ここで何か仕込むつもりか?」
「無理だ!机上のシステムは全て停止させたし……」
おれの疑念を、千草が否定する。
「警護の者達には、ゴーグルの着用を徹底させてある。ギアス対策は問題無い。」
「紅月からは、自分がギアスに掛かっていると思われる場合は、狙撃して欲しいとの申し出も受けている。」
洪古と千葉も、ギアスによる仕込みはできないと断言する。
「心配しすぎだろ?あいつは、仲間になりに来たんだからよ!」
と、また玉城が、何も考えていないかのような発言をする。
こいつ、神刻の話を聞いて無かったのか?いつまでそんな事を言ってるんだ?
カレンとルルーシュは、遠回りをして最高評議会会場に向かう。カレンは盛んにルルーシュに問い掛けているが、ルルーシュは何も答えない。痺れを切らしたカレンは、ルルーシュに口付けをする。見ているこっちは、思わず目を伏せる。しかし、それでもルルーシュは何も言わない。淋しそうにカレンは会場の場所を伝えて立ち去った。
ルルーシュは会場の体育館に到着し、最高評議会が開始される。
檀上に最高評議会議長の神楽耶様が立ち、床側の申請者席にルルーシュが立つ。その申請者席後方を、各国代表の席が囲む。
『超合衆国最高評議会議長、皇神楽耶殿、我が神聖ブリタニア帝国の超合衆国への加盟を認めて頂きたい。』
ルルーシュ皇帝が、神楽耶様に加盟の申請をする。
『各合衆国代表、2/3以上の賛成が必要だと分かっていますか?』
『もちろん、それが民主主義というものでしょう?』
『そうですね。』
そう言って、神楽耶様は卓上のスイッチを押す。すると、ルルーシュの周りに鋼鉄製の衝立が競り上がり、彼を遮蔽空間に閉じ込める。
『やはりこれは失礼では無いかな?』
『ブリタニアの悪業は、先代シャルル皇帝のせいかと。』
各国の代表は、この措置に異議を唱える。ギアスの事は余計な混乱を招くので、各国代表には伝えていない。理解を得るのは困難だが、ギアスを使われては元も子もないので仕方が無い。
衝立の中にはモニターとカメラが有り、神楽耶様と、斑鳩内の俺達の姿が、ルルーシュを囲むように映し出される。逆にルルーシュの姿は、中のカメラでこちらのモニターに映し出される。
『あなたの狙いは何ですか?悪逆皇帝ルルーシュ?』
まず、神楽耶様が切り出す。
『これは異な事を?今のブリタニアは、あなた達にとっても良い国では?』
「果たしてそうかな?超合衆国の決議は多数決によって決まる。」
と、星刻。
「この投票権は、各国の人口に比例している。」
と、藤堂。
「中華連邦が崩壊した今、世界最大の人口を誇る国家は……」
「ブリタニアだ。」
星刻の言葉に、俺が続く。
「ここで、ブリタニアが超合衆国に加盟すれば、」
「過半数の表を、ルルーシュ皇帝が持つ事になる。」
『つまり、超合衆国は事実上、あなたに乗っ取られてしまう事になるのでは?』
この神楽耶様の言葉に、
「そうか!やっぱりあいつは悪人か?」
と、やっと状況を理解する玉城。
「あなたって、本当にお馬鹿さんだったのね?」
「何だと!」
ラクシャータに馬鹿にされ、怒鳴る玉城。
俺はもう、こんな馬鹿は無視して話を続ける。
「どうなんだ?ルルーシュ皇帝?」
「違うと言うのなら、この場でブリタニアという国を割るか、投票権を人口比率の20%まで下げさせて頂きたい。」
しかし、俺や星刻に問い詰められても、ルルーシュは顔色ひとつ変えない。そして、
『神楽耶殿、ひとつ質問してもいいだろうか?』
『何でしょうか?』
『世界を統べる資格とは何ですか?』
『矜持です。人が人を統べるには。』
『いい答えだ。』
『え?』
『あなたはやはり優秀だ。しかし、私の答えは違う。』
『聞かせて頂けますか?』
『壊す覚悟!』
『壊す?』
『世界も、自分自身すらも!』
そう言って、ルルーシュは右手の人差し指を立てて天に翳す。
これを合図とばかりに、突然、体育館の天井を突き破り、ランスロットが会場に乱入した。
『皇帝陛下に対する無礼は許しません!』
ランスロットは、スーパーヴァリスを各国代表たちに向け、会場を占拠した。
「索敵班!何をしていた?」
藤堂が怒鳴る。
『申し訳ありません!海中からいきなり!』
やられた!俺達が多数決の事に気付くことなど、全部計算の内だったんだ!
「アッシュフォード学園に急げ!神楽耶様を救い出すんだ!」
と、艦長の南が指示を出すが、
「ブリタニア軍が、移動を開始しました!」
オペレーターが叫ぶ。
「何?」
「黄海から、日本の領海に入りつつあります!」
「ここで奇襲とは、」
驚く藤堂。
「超合衆国への加盟も、学園を指定したのも、全ては自分自身を囮とするため……」
「しかし、国際的な信用を裏切ってまで……」
俺は、星刻の言葉に異を唱えるが、
「いいえ、もはや信用などいらないという事でしょう。」
と周凛が言う。
「やっぱり、目的は独裁政治。」
「貴族性を廃止しながら、自らは皇帝を名乗り続けた男。」
ラクシャータ、藤堂に続き、星刻が決定的な言葉を口にする。
「そうだ、ゼロは、ルルーシュは世界の敵となった!」
校内に隠してあったナイトメアで、出撃しようとするカレン達を星刻が制止する。
「引け!ここは引くんだ紅月くん!」
『ルルーシュを倒すのは私です!それに、あのランスロットと闘えるのは紅蓮しか……』
「ここで戦闘になれば、各国代表も失う事になる。いきなり国の指導者が居なくなったら。」
『でも、天子様だって危ないのに!』
「分かっている!だが、相手はルルーシュだ。人質を殺す覚悟があってのこその行動。ここは、各国の判断を待たねば、超合衆国そのものが崩壊する。勝つのは、ブリタニアとなってしまう!」
衝立もカメラも破壊され、もう斑鳩からは、体育館内の様子は全く分からなくなってしまった。
「大変です!」
また、オペレーターが叫ぶ。
「今度は何だ?」
俺も、思わず叫んでしまう。
「て……帝都ペンドラゴンが、しょ……消滅しました!」
『なにいっ?!』
ブリッジの全員が、大声を上げる。
帝都消滅?そ……そんな事ができるのは……フレイヤ?
という事は……遂に、あの男が動き出したのか?
ルルーシュが、皇族や貴族達をギアスで従えるシーン。
ルルーシュやスザクの登場に、黒の騎士団が驚く場面はあったんですが、肝心のギアスを使うシーンのリアクションが無かった。話は聞いていても、その目で見た事は無かった筈です。何かリアクションが欲しかった。
伝説巨神イデオンのギジェ・ザラルの“これが、イデの、発現か……”みたいな。
原作では、アッシュフォード学園での交渉の場で、黒の騎士団幹部皆でゼロの目的を暴露していましたが、オープニングのところでは星刻以外は、皆ゼロの偽善行動に完全に騙されていました。(藤堂は違ってたかもしれませんが)“玉城だけが馬鹿”みたいに描かれていましたが、最初から見破っていたのは星刻だけです。
さすが星刻、ゼロに勝るとも劣らぬ戦略の才があります。でも、シュナイゼルの企みには全然気付いていませんでした。最後は、シュナイゼルの思い通りに駒として使われていました。所詮星刻も、世界を統べる器では無いか……