最初から決めていた事とはいえ、何とも言えない後味の悪さが残ります。
そんなところに、ディートハルトから、悪魔の囁きが……
「蜃気楼の現在地は?」
ディートハルトが、捜索部隊に問い合わせる。
『それが、未だ……』
「ブリタニアの協力も得られている。確認次第、全軍を挙げて蜃気楼を破壊するんだ!」
『分かりました!』
その後も捜索を続けたが、黒の騎士団もブリタニア軍も、蜃気楼を発見できなかった。
「仕方無い、ゼロの戦死を発表しましょう。」
両手を机に付き、ディートハルトが言う。
「まだルルーシュが見つかっていないのに?」
「既成事実にしようと言うのか?」
俺と、藤堂が問い掛ける。
「あのさあ、ゼロが裏切っていたってのは分かったんだけど、ギアスの事も発表するつもり?」
シートに寝そべりながら、ラクシャータが聞いて来る。
「私達がおかしくなったと思われ、放逐されるだけです。あり得ない!」
ディートハルトは、ギアスの事は伏せるつもりだ。ならば、ゼロの正体もこのまま伏せるつもりだろう。
「本物のゼロが出て来たら?」
との藤堂の問いに
「本物だとどうやって証明するのですか?」
「あ?」
俺は、はっとする。
「仮面の英雄など、所詮は記号。認める者が居なければ成り立ちません。」
そうか、だからゼロの正体も伏せる。幹部の俺達が認めなければ、今後ルルーシュが現れて何を言っても、それはゼロの名を語るニセ者でしかなくなる。
幹部の皆も同意し、ゼロは戦死と公式に発表する事となった。但し、神楽耶様や星刻には事実を伝えなければならないが。
話が終わり部屋に戻ろうとすると、部屋の前に千草が立っていた。
「千草……」
「扇……」
「コーネリア達と、一緒に戻らなかったのか?」
「……ど……どんな顔をして、戻れと言うんだ?私は、お前と……敵の幹部と内通していたんだぞ!ゼロに使われていた事は、ギアスのせいにすれば済むかもしれないが、そっちは、言い訳のしようが無い!」
「あ……ああ……」
「爵位は剥奪され、軍法会議に掛けられるだけだ!戻っても、もう私にブリタニア軍人としての未来は無い!」
「す……済まない……」
「だ……だから……」
「え?」
俯きながら、か細い声で彼女は続ける。
「せ……責任を取ってくれ……」
「あ……ああ、分かった!」
俺の言葉に彼女は、満面とはいかないが、優しい笑みを返してくれた。
その後、ブリタニアとは正式に停戦が成立し、細かい話はカゴシマから神楽耶様や星刻が戻ってから、改めて行う事になった。この事は、ゼロの件も含め、メディアで発表された。
『こちらは、KTテレビです。スタジオが無くなってしまったため、ここ、アッシュフォード学園臨時スタジオより緊急速報をお伝えします。先程シュナイゼル殿下は、黒の騎士団と停戦条約を結んだと、公式に発表しました。また、黒の騎士団からは、CEO“ゼロ”の死亡が発表されています。ゼロは東京租界での戦闘で負傷し、旗艦斑鳩内で治療を受けていましたが、本日未明、艦内で息を引き取ったとの事です。』
このニュースに、蓬莱島の合衆国日本の人々は大いに悲しんだ。
休息室で、かつてのレジスタンスメンバーだけで話をしているところに、公式発表を聞いたジェレミアから通信が入った。
『どういう事だ扇?ゼロが死亡したとは真なのか?』
「ああ、残念ながら公式発表の通りだ。」
『では、せめてお顔だけでも。』
「済まない、今は何かと立て込んでいて、この件は後で。」
そう言って、俺は通信を切った。
「本気なんですか?」
カレンが聞いて来る。
「黒の騎士団に、もうゼロは必要無い!」
そう、もうゼロが居なくても、俺達はブリタニアと十分戦える。何より、ゼロを切ったおかげで、今は停戦もできている。このままうまく和平にもって行ければ……
「あたし達、ゼロのおかげでここまでやって来たのに……こんな、使い捨てるような……」
俺は、戦死した吉田や井上の写真に合唱しながら、カレンに答える。
「皆を使い捨てたのはゼロの方だ!彼は、皆を騙していたんだ、ギアスなんて卑劣な力で!」
やはり、言っていて少し気が咎める。俺だって、皆を騙していたんだからな。だが、利用し、使い捨てるのはお互い様だ。この点は、彼に同情はできない。
「俺だってさ、親友だって思っていたんだよ。好きだったんだ、あいつの事が!」
玉城が吼える。しかし、親友だと思っているのはお前の方だけだろう。誰が、お前みたいな奴を親友だと思うのか?ゼロだって、お前の事なんか何とも思って無い。
「でも……」
杉山は、ゼロに同情気味だ。
「あいつは、ブラックリベリオンの時も、扇を使い捨てにしようとして……いや、それ以前からも。」
南は、ゼロを許せないようだな。
「そうだ!人は、皆は、ゲームの駒じゃ無いんだ。生きているんだよ!」
そう言いながら、何か、自分の言葉に矛盾を感じる。
そうだ、俺は自分達が駒扱いされていた事を知っていた。それを承知で、あいつを利用していた。じゃあ、俺も同類じゃ無いのか?間接的に、俺は皆を駒扱いしていたんじゃないのか?
「扇さん、少し宜しいですか?」
そこに、ディートハルトが入って来る。
「何ですか?」
「これからの事で、話があります。」
俺は、先日千草の件で脅された部屋で、ディートハルトとふたりだけで話す。
「いや、私はあなたを見くびっていたようです。感心しました。」
「ん?何の事ですか?」
「あなたの豹変ぶりには驚きました。とても、いつもの温和な事務総長と同一人物とは思えません。」
な……何を言っている?まさか?
「あれが、あなたの本性だったんですね?私も、まんまと騙されましたよ。」
「言っている意味が分かりませんが?」
「確かに、あそこでゼロを庇っても、組織が分裂するだけです。あなたの判断は正しい。」
こ……こいつ……
「あなたは、最初からゼロを信用していなかったんですね?自分達が、駒として使われているのも承知の上で、彼の力を利用していた。」
やめろ……
「そして、黒の騎士団がブリタニアに対抗できる組織になるのを待っていた。そうなった暁には、容赦無く彼を切るつもりで。」
もう、やめろ……
「そう、ブラックリベリオンの時、彼があなた達にしたように……」
「やめろっ!」
俺は、思わずディートハルトを殴り付けた。
「……ふふ……図星を突かれて、頭に来ましたか?」
俺は、ディートハルトを思い切り睨み付けた。だが、奴は話を止めない。
「残念ながら、ゼロはもう退場してしまいましたが、あなたがこの物語を引き継ぐ気はありませんか?」
「何?」
「ゼロをも謀った男、扇要が、今度はブリタニアを倒し、世界を手に入れるんです!」
「ほ……本気で言ってるのか?」
「確かに、あなたにはゼロのような才覚も、ギアスも無い。しかし、今迄培って来た人脈がある。ゼロよりも、友好的に他人を駒として使える。」
この言葉に、俺の中で何かが切れた。
「シナリオは私が書きます。戦略は星刻総司令、戦術は藤堂幕僚長も居ます。紅月隊長を、今度はあなたの親衛隊長に……」
「もう、やめろおおおおっ!」
俺は、無我夢中で奴を殴り付けていた。気付くと、奴はその場に蹲っていた。顔中腫れ上がって、口からは血を流している。
俺は、項垂れる奴に背を向け、部屋を出て行こうとする。
「……野望は無いんですか?」
奴は、掠れた声で俺に問い掛ける。
「あなたには……野望は無いんですか?……なら、なぜ……ゼロを利用した……」
「……俺は……ただ、平和に暮らしたいだけだ……」
「ふん……要は、強者の影に隠れるだけの……」
「……好きに取ってくれていい……」
「いいんですか?……私が、あなたの本性を……皆にばらしても……」
「ふん、お前の言う事など、誰が信じるんだ?お前の言った通り、俺には今迄培って来た人脈がある。それに、ここは合衆国日本。俺は日本人で、お前はブリタニア人だ!」
そこまで言って、俺は部屋を出て行った。
しばらくして、カゴシマから神楽耶様達がやって来た。ブリッジに通信が入る。
『扇か?洪古だ、着艦許可を頼みたい。天子様と、神楽耶様をお連れした。』
「あ……ああ、じゃあ、シュナイゼルの方にも連絡を取るから。」
ディートハルトは、仏頂面でこちらを睨み付けている。顔を腫らしている理由を周りに聞かれたが、“派手に転んだ”と言うだけだった。俺が言った通り、自分の味方がこの艦には居ない事が分かっているようだ。
ただ、俺に言った誘いを、他の幹部に唆す心配もある。しばらくは、目を離さない方が良いかもしれない。
シュナイゼルとも連絡を取り、シズオカ・ゲットー上空で停戦条約及び日本返還についての協議を始めた。
ブリタニア側は前回と同じく、シュナイゼル宰相、コーネリア第二皇女、カノン伯爵の3名。こちら側は、神楽耶様、天子様、星刻総司令、そして、俺とディートハルトだ。
しかし、開始早々、神根島に向かったブリタニア皇帝が、クーデターに合ったという情報が飛び込んで来る。その一方で、ゼロの身柄を受け取るために斑鳩に留まっていたナイトオブシックスが、突然何処かへ姿を消してしまった。
「モルドレッドとは、まだ連絡がつかないの?」
カノン伯爵の問いかけに、
『はい、目的地は、神根島かと。』
との報告が返って来る。
「とすると、先程の情報を受けて、皇帝陛下の元へ移動したのかな?」
そう言って、シュナイゼル宰相は立ち上がる。
「神楽耶様、申し訳ありません。これから、神根島に向かわなければなりませんので……」
「では、私達も参ります。」
この言葉に、皆はっとする。
「この状況下で、ブリタニア皇帝に刃を向ける人物に、私はひとりしか心当たりがありません!」
「私も同じです。」
神楽耶様の言葉に、同意する星刻。
「とすると、確認すべき点が幾つかありそうです。会談の続きは、この件が済んでからと致しましょう!」
涙目で、俺達を見ながら、神楽耶様は言う。
時間が無かったため、ゼロの正体と公式発表が嘘である事は、まだ神楽耶様達には話していなかった。この会談の席で、それも話すつもりだった。
結局会談は仕切り直しとなり、俺達はシュナイゼルと共に神根島に向かう事になった。
反乱鎮圧の為に、黒の騎士団も力を貸す事になり、戦闘可能な者はナイトメアで出撃する事になった。
黒の騎士団幹部には、反乱鎮圧以外にも、もうひとつ指令を出した。
そう、“ゼロの抹殺”を。
「ああ、俺はこれから、神楽耶様や星刻総司令に事情を説明する。理解を得られるか分からないが、ひとつだけはっきりしている事は……」
『分かってるよ!ゼロは、もう生きてちゃいけないんだろう。』
泣きながら、命令を受け入れる玉城。この時ばかりは、少しこいつが気の毒に思えた。
だが、俺達がゼロ……ルルーシュの姿を、神根島で見る事は無かった。
反乱は鎮圧されたが、ルルーシュ、C.C.、シャルル皇帝、枢木スザクは、この時を境に我々の前から忽然と姿を消してしまった。
蜃気楼の確認・破壊を指示するディートハルト。
“蜃気楼が奪取された!”
誰に?
“ブリタニアの協力も得られている”
え?じゃあ、第3勢力なの?相手はEUの亡霊ですか?
まさか、幹部以外にもゼロの正体ばらした訳じゃ無いでしょ?通信だけで説明できるとも思えないし……
ヴィレッタは、何と言って扇の所に留まったのか?
あのプライドの高い強気の性格で、素直に恋の告白をするとは思えません。その時だけ、記憶喪失時の性格に戻る訳もありません。
となると、照れ隠しでそれと無く伝わるような感じでやるでしょう。相手が玉城で無くて良かったです。玉城なら、こんな言い方じゃ絶対伝わりません!
扇が“皆を使い捨てたのはゼロの方だ!”と言っていますが、やられたらやり返すでは憎しみの連鎖は止まりません。ゼロに駒扱いされた事を怒っていますが、同じ事をした時点で、もう自分達もゼロと同類になっている事を分かっているんでしょうか?
もしここにオーブ首長国連合のカガリさんが居たら、こう言いそうです。
“駒扱いされたから、駒扱いして、それで最後は本当に平和になるのかよ!”
“扇も少しは変わったかと思ったが、やはりミスキャストか“
ディートハルトのこの言葉の意味を、ずっと考えていました。“ミスキャスト”と言っているという事は、扇をキャスティングしているという事です。何の話の?
それは当然、扇のストーリー。ゼロを、魔王をも欺いた男の物語です。
しかし、生涯ナンバー2主義の扇が受ける訳がありません。逆鱗に触れられ、怒ってディートハルトを殴りまくった。その結果が、あの顔です。
『ラグナレクの接続』での玉城のセリフ。
“分かってるよ!ゼロは、もう生きてちゃいけないんだろう”
思わず、“お前もな”と突っ込んでしまいそうですが、何で泣きながらこんな事言ってるのか?原作では語られていませんでしたが、神楽耶や星刻は、まだゼロの生存を信じています。既成事実を公表した事を説明はするでしょうが、その前に既成事実を真実にしてしまおうとしたんでしょう。
殆ど“暗殺”です。カレン以外はこの命令を受け入れているんですが、昔、ディートハルトがスザクを暗殺しようとした時、何て言いました?あなた達?