黒の騎士団を始め、日本人の参加者は誰も集まらなかったところに、ゼロからの指令が出ました。
“全員、特区日本に参加せよ”と。
この命令に、扇や藤堂達は……
ゼロの特区日本への参加表明により、戦闘は中断されブリタニア軍は撤退した。
俺達幹部は潜水艦の作戦室に集まり、ゼロが来るのを待っていた。
「行政特区に入るって、何考えてんだろうね?」
「さあ?」
朝比奈と千葉が、ゼロの命令に不満を漏らしている。
「扇、ゼロの判断が、我ら日本人のためにならないものなら……」
「藤堂さん?」
まさか、クーデターを起こすつもりか?だとしたら、まだ早過ぎる。
今は、戦力が無いに等しい。ここでゼロを失ったら、昔のレジスタンスに逆戻りだ。さっきだって、ゼロの指示が無ければ俺達は全滅していた。ゼロを切るのは、ブリタニアと十分戦えるだけの戦力が整ってからだ。それまでは、まだまだゼロを利用しなくては。
ゼロが、作戦室に入って来る。
「ゼロ……その……」
「ゼロ様~っ!新妻をこんなに待たせて~っ!」
カレンが話し掛ける前に、神楽耶様がゼロに抱き付いていく。
「神楽耶様、変わらぬ元気なお姿、安心しました。」
「ゼロ様こそ、相変わらず人を驚かせてくださいますのね?特区日本に参加するだなんて。」
「そ……そうだ、あれは、どういう事なんだ?」
ちょっと遅れて、俺は問いかける。
「だから、誘いに乗った振りして、ブリタニアを潰すんだよ!」
考え無しの玉城が、適当な事を言う。
「戦って、戦って、それでどうする?」
『ええっ?』
ゼロの返答に、皆、驚きの声を上げる。
常に戦う事ばかり選択して来たのは、お前じゃないのか?
「待てよ!仲良くしようってんじゃねえよな?」
と、玉城。
「それとも、あるのか?戦わずに済む方法が?」
俺は、ゼロに問う。
さっきは地の利を利用できたが、いつもこうは行かない。戦わずにこの場を凌げるのなら、それに越した事はない。
「ブリタニアの中から変えるつもりか?我らは、独立のために……」
「藤堂!日本人とは何だ?」
「んんっ?」
藤堂の言葉に、ゼロは逆に問いかけで返す。
「民俗とは何だ?……言語か?それとも土地か?」
「な……何を言っている?」
「私は、ブリタニアに交換条件を出す。特区に百万の日本人を参加させる、その代わりに、ゼロを国外追放処分にせよと。」
『何?』
また、全員が驚きの声を上げる。
「じ……自分だけ逃げる気か?」
玉城が吠える。
「そうでは無い!」
「じゃ……じゃあ、何だってんだよ?」
「扇、」
玉城の問いには答えず、ゼロは俺に話し掛けて来る。
「ん?何だ?」
「お前は特務隊を連れて、ゲットーへ行け。そして、行政特区に参加する日本人達と協力して、これを作れ!参加者全員分だ!」
そう言って、ゼロは俺に何かの描かれた紙を渡して来る。
ん?何か前に、似たような事があったような?
「な?こ……これは?」
「な……何だあ?」
そこに描かれたものを見た俺と、覗き込んだ玉城が驚きの声を上げる。
『ええ~っ?』
神楽耶様やカレンも、何事かと覗き込んで来て、驚いて声を上げる
「外見だけ、それらしく見えればいい。」
「い……いや、しかし……」
「急げ!式典まで、時間が無い!」
「面白そ~!私も手伝います!」
急かすゼロに、神楽耶様が答える。
「神楽耶様が?」
「私、こう見えてもお裁縫得意なんですよ!幼い頃から、習い事は厳しく仕込まれてますから。」
「それは頼もしい、是非お願いします。」
「は~い!」
神楽耶様がここまで乗り気になってるのに、断る訳にも行かない。それに、これを見た事で、ゼロの目的も理解できた。
「分かった、何とか、式典までに間に合わせる。」
そして、式典の当日、シズオカ・ゲットーの式典会場には、ゼロに動員された百万のイレブン……いや、日本人が集まっていた。その中には、俺達、黒の騎士団のメンバーも入っていた。
会場の周りには、暴動が起こった時の備えにナイトメア隊が待機している。例の、ナイトオブラウンズの機体も見える。
「あっ!」
俺は、思わず帽子を深く被って顔を隠す。ステージの上に、ブリタニアの女士官が現れたのだが、その女性は……
まさか?千草か……どうして、彼女がここに?
千草は、誰かを捜すかのように、辺りを見回している。俺を、捜しているのか?何故?
そうしている内に、式典の開始時間となり、まずはナナリー総督が挨拶をする。
「日本人の皆さん、行政特区日本へようこそ。沢山集まって下さって、私は今、とても嬉しいです。新しい歴史のために、どうか力を貸して下さい。」
続いて、特区に関する契約内容が、総督の補佐官の女性から語られる。
「それでは式典に入る前に、私達がゼロと交わした確認事項を伝えます。帝国臣民として、行政特区日本に参加する者は、極謝として罪一等を減じ、三級以下の犯罪者は執行猶予扱いとする。しかしながら、カラレス前総督の殺害など、指導者の責任は許し難い。エリア特法十二条第八項に従い、ゼロだけは国外追放処分とする。」
『ありがとう!ブリタニアの諸君!』
そこで、ゼロの姿がモニターに映し出される。
『寛大なる御処置、痛み入る。』
「来てくれたのですね?」
ナナリー総督が答える。
「姿を現せ、ゼロ!自分が安全に、君を国外に追放してやる!」
そこに、枢木スザクが割って入り、ゼロに語り掛ける。
『人の手は借りない。それより枢木スザク、君に聞きたい事がある……日本人とは、民族とは何だ?』
「何?」
『言語か?土地か?血の繋がりか?』
「違う!それは……心だ!」
『私もそう思う。自覚、規範、矜持、つまり、文化の根底たる心さえあれば、住む場所が異なろうと、それは日本人なのだ!』
「……それと、お前だけが逃げる事に、何の関係が?」
この言葉を合図に、全員鞄に仕掛けた装置を起動し、会場全体にスモークを発生させる。
異常事態に、新総督は避難させられ、待機していたナイトメア各機が戦闘態勢に入る。
「待て!相手は手を出していない!」
枢木がこれを制止する。
そして、煙が晴れるとそこにゼロの姿が……
「ああっ?」
「ゼロが?」
枢木も、ブリタニア軍も驚愕する。そこには、会場を埋め尽くす、百万人のゼロの姿があった。ゼロの指示で、俺達がゲットーの日本人達と協力して、徹夜でこのコスチュームを作り上げたのだ。
『全てのゼロよ!ナナリー新総督のご命令だ!速やかに、国外追放処分を受け入れよ!何処であろうと、心さえあれば我らは日本人だ!さあ、新天地を目指せ!』
「ゼロの皆さ~ん、新天地へ行きましょう!」
「皆で国外追放されようぜ!俺達は、ゼロなんだからよ~っ!」
ゼロの言葉に続き、神楽耶様ゼロ、玉城ゼロが掛け声を上げる。
「そうだ!俺達はゼロだ!」
「国外追放だ!」
「行こう、ゼロ!」
掛け声に釣られて、会場中のゼロから声が上がる。
このタイミングで、海の向こうから、この岸に向かって巨大な解氷船が接近して来る。
「あれに乗るの?」
「でも、氷だよ?」
「溶けちゃうじゃないの?」
「大丈夫よ~、あの解氷船は特性の断熱ポリマーと超ペルチェフィルムでバッチリ氷をガードしているから。」
不安な声を上げるゼロ達に、ラクシャータゼロが説明をする。
その時、千草が、ステージを降りて来てゼロ達に銃を向ける。
「仮面を外せ!イレブン共!」
「けっ、ブリキ女が!」
対抗して銃を抜く玉城ゼロ。
「撃つな!」
俺は、玉城ゼロの銃を下げさせ、彼女の前に出る。
「我々は、戦いに来たんじゃ無いんだ!」
「まさか?扇?」
「あ……いえ……俺は、ゼロです。」
千草に問い掛けられ、俺は、とっさに誤魔化した。
一方、メインステージでは、先程契約内容を述べた女が、銃を装填する。
「枢木卿、百万の労働力、どうせ失くすなら見せしめとして……」
「待って下さい!」
枢木はそれを制止し、ゼロに向かって訴える。
「ゼロ、皆に仮面を外すように命令しろ!このままだと、また大勢死ぬ!」
「スザクくん、正体を誰も知らぬ以上、そこに意味は無いよ。」
藤堂ゼロが呟く。
『枢木スザク!これは反乱だろう?攻撃命令を!』
「違う!これは、戦う以外の方法として……」
会場を包囲しているギルフォードからの声に、俺は反論する。
『どうするんだスザク、責任者はお前だ!』
ラウンズのひとりが、スザクに判断を問う。
迷っている枢木を横目に、さっきの女が、銃をゼロのひとりに向ける。
「死になさい、ゼロ!」
しかし、枢木はこれを止める。そして、
「ゼロは国外追放!約束を違えれば、他の国民も我々を信じなくなります。」
「国民?イレブンの事か?あなたがナンバーズ出身だからと言って……」
「ナンバーは関係ありません!それに、国策に賛同せぬ者を残して、どうするのです?」
「この百万人は、ブリタニアを侮蔑したのですよ!」
「そのような不穏分子だから、追放すべきではないんですか?」
「しかし……」
「約束しろ、ゼロ!彼らを救って見せると!」
『無論だ!枢木スザク、君こそ救えるのか?エリア11に残る日本人を?』
「そのために、自分は軍人になった!」
『分かった、信じよう。その約束を……』
そこまで言って、モニターからゼロの姿が消える。
『聞こえたか?全てのゼロよ!枢木卿が宣言してくれた!不穏分子は追放だとな。これで我らを阻む者は無くなった。いざ進め、自由の地へ!』
本物のゼロが解氷船上に姿を現し、百万のゼロに指示を出す。
『おお~っ!』
百万のゼロが、一斉に解氷船に向けて歩き出す。俺も、千草に別れを告げて歩き出す。
「さ……さようなら、ブリタニアの人……」
千草は、何とも言えないような表情でそれを見送っていた。
こうして俺達は、一切戦う事無く、安全にエリア11を脱出できた。
しかし、特区日本の条件を逆手に取り、百万人全てをゼロにして合法的に国外に脱出させる。ゼロ以外、いったい誰がこんな事を考えつくだろうか?まだまだこの男は、俺達に必要だ。
ただ、あの時、もし枢木が攻撃命令を出していたら?何の武力も無かった俺達は、一方的に鎮圧されるしか無かった。ゼロは、枢木が攻撃命令を出さない事を確信していた。何故、そこまであの男を信じられる?自分をブリタニアに売って、ラウンズの地位を手に入れた男を?それも、ゼロの正体と関係があるのか?
そして……千草。
何故、彼女はここに来た?どう見ても、警備兵として来ていたようには見えなかった。
俺に会いに来たのか?どうして……俺との関係を清算するために、あの時お前は俺を撃ったんじゃ無かったのか?
この話の原作でスザクがゼロの事を“犯罪者”と言っています。ナナリーも“私の一存で全ての罪を許す事は”とゼロを罪人扱いです。これって、“ブリタニアが正義”という前提の話ですよね?綺麗事ばかり並べていますが、結局はふたりともシャルルと同じ“勝者こそ正義、敗者は悪”の考えに染まってるんです。
ワンピースのドフラミンゴの言葉を思い出します。
「正義は勝つって?そりゃあそうだろう。勝者こそが、正義だ!」
という事で、スザクは何ひとつ変えられていません。最初から間違ってるので……
またこの話とは関係無いのですが、ナナリーとローマイヤさんの絡みが、クララとロッテンマイヤーさんみたいに見えてしまうのは私だけでしょうか?