6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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10連仮契約って……なんか儲かりそうな響きですね

 〜セクストゥム 

 

 村の方角から謎の轟音が聞こえた私たちは、その場からとにかく離れようとむやみやたらに走り続けました。

 正直な所を言うと、私たちは大きな音にびっくりした、ただそれだけでした。

 そこら辺は私もネカネちゃんも外見相応の反応でした。

 今日初めてネカネちゃんの子供らしい反応を見れたので、この後からかうのが楽しみだなぁ〜と思ったのも束の間ーーー

 

 

「なんでこんなちっこい嬢ちゃんらがおんねん。この嬢ちゃんらが今回の標的なんか?」

「なーー」

 

 なんで、こんなところに魔族がーーネカネちゃんがそう零す。

 見上げるほどに巨大な背格好、黒々とした肌はまるで鎧のよう。口は耳元まで裂け、鋭利な牙が覗いている。

 魔族の軍団が私たちの眼前に立ちはだかっている。

 数は……?いやこんな数えたってどうしようなない。

 恐怖による硬直で動けない私達を尻目に、魔族たちは私達の周りを囲み始める。

 

 

「金髪の女言うたか?片方の嬢ちゃんがそうかいな」

「ちゃうな。標的は大人の女や。……なんや儂等だけ変なとこ飛ばされたようやの、他の仲間はもっと先行っとるで」

「かぁ〜、じゃ今から行っても間に合わんやんけ。召喚場所くらいちゃんとしてほしいわ、今回の術者はヒヨッコかいな」

 

「「…………」」

 

「おう、ところでこの嬢ちゃんらどないすんねん。とりあえず殺っといた方がええか?」

 

「「……ッ!?」」

 

「命まで取る必要はあらんやろ。……嬢ちゃんら、はよここから去れや。見た所迷子かなんかやろ。とっととウチ帰りぃ」

 

 そう言って魔族は、道を開ける。

 私たちは助かる。

 このまま今来た道を引き返せばいい。

 それなのにーー 

 

 

「……セッちゃん」

 

 

 私の足は動こうとしない。

 意思は折られたも同然。身がすくんでしまったのだろうか。

 

 

 …………

 …………

 …………

 

 

 

ーーーああ、またこの感覚だ。

 

 ナギさんたちが行方不明になったと知った時にも味わった、まるで世界から私が遠のいていくような、そんな感覚。

 この世界に、私の居場所などなかったんだーーあの時、そう思ってしまった私の心。

 

 目の前の魔族たちは言ったーー標的は大人の女、他の仲間はもっと先に行った。

 それが誰であるか、その言葉が何を意味するか、さすがの私でもここまできたら嫌と言うほどわかる。

 

ーーーアリカ様が殺されてしまう

 

 魔族たちは、もう間に合わないと言った。

 おそらく、アリカ様は今にも捕らえられようとしているのかもしれない。

 ナギさんがいなくなってしまった、今度はアリカ様が……

 私のーーお母さんが……

 

 怖いーー

 逃げたいーー

 早くこの場所から立ち去って、楽になりたいーー

 行ったところで間に合わないのなら、いっそこのまま引き返したいーー

 

 

 でもーーそこに私の居場所は……

 

 

 

「あっ……」

 

 ふと、ネカネちゃんと目があった。その瞳は震えている。

 私をここまで連れてきてしまったことに対する罪悪感か。

 はたまた、私にまだ何かを期待している、のか。

 そのどちらでもあるかもしれない。

 

ーーー私は試されている

 

 ネカネちゃんを通して、世界が私を見ているかのような、錯覚。

 私が、この世界で舞台に上がることができる器たる者なのか、そう問われているかのような。

 

ーーー今、この世界にお前の居場所はない

 

ーーーわざわざ居場所を用意してやるほど、この世界は甘くなどない

 

ーーーお前は、居場所が欲しいのなら、自分でどうにかしなければいけない

 

 

 

 

 

 

 

ーーーそれだけの力は、儂は用意してやったつもりじゃ

 

 

 

 

 

 

 誰かに、そう言われた気がした。

 

 

 

 

「ネカネちゃん……私、逃げたくない」

「……セッちゃん」

 

 逃げたくないーーその言葉は意図せず私の口から出ていた。

 

「私は……この先に行きたい……」

 

 ネカネちゃんには迷惑をかけてしまうかもしれない。

 もしかしたら、私は取り返しのつかないことをしようとしているのかもしれない。

 もし自分に甘えがなかったらなんて……ネカネちゃんをただ危険にさらしてしまうことも……

 なんて都合の良いことを私は考えているのでしょうか。

 それでも……それでも私は……

 

 

 

「私……私、アリカ様に会いたい……っ!!!」

 

 

 

 

 ネカネちゃんは、「ホント、しょうがない子に付き合っちゃったな」と、困ったような、それでいて笑ったような表情を浮かべた。

 

 

 

 私とネカネちゃんは、改めて目の前の魔族を見据え、これからの動きについて言葉を交わし合う。

 

「セッちゃん、身体強化の魔法は使える?」

「……いま、魔力が封印されてまして」

「……そう、だったね。うん、私もすっかり忘れてたよ……」

「申し訳ございません」

 

 ホント、私ってば完全にやらかしてます。

 足手まといとかそんなレベルじゃないです。

 こんな大事な時に私というものは……!

 

「ないものねだりしてもしょうがない。セッちゃんがそんな状態だったのを忘れてた私のミス……だったら……」

 

 静かになるネカネちゃん。

 それから間も無く、ネカネちゃんが小声でボソボソと言葉を発し始めます。

 

 

「ーー逆巻け、春の嵐、我らに風の加護を……『風花旋風 風障壁』!!!」

 

 

「なんや!?ぬぅうう!!!?」

 

 私とネカネちゃんを中心に、竜巻が吹き荒れる。

 その余波で何体かの魔族を巻き込んだようだ。

 これは、今ので相手を怒らせちゃったかな……

 ある程度まで広がった竜巻は、その勢力を保ったまま停滞。

 そして、私たち二人と魔族を分かつかのように、今も両方の間を隔てる壁として機能している。

 

「こ、これって!?」

「あくまで時間稼ぎ、持って3分かな……でも、今はそれが重要だから」

「これで完全に敵対宣言というわけですね……」

 

 今の魔法で魔族たちもこちらに敵意があると悟ったのだろう。

 竜巻の向こう側から、この壁を突破しようと試みている音が聞こえる。

 すごい、ネカネちゃんこんな魔法まで使えたなんて……

 私がネカネちゃんの魔法行使の力量に驚いているとーー

 

「さぁ、今なら邪魔は入らないよ」

「え、なんで私の肩を掴んで……」

 

 肩を鷲掴まれ、目の前には真剣な眼差しのネカネちゃん。

 

「いくよセッちゃん、初めてが私なんかで悪いけど……」

 

 そう言って顔を近づけてくるネカネちゃん。

 互いの吐息が唇にかかる。

 時間稼ぎって……現実逃避のための!?

 私は、ネカネちゃんがおかしくなってしまったーーそう思って、思いっきり暴れた。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

「え!仮契約!?」

 

 突如私の唇を奪おうとしだしたネカネちゃん。

 必死な抵抗を示した私に対して、ネカネちゃんが言った言葉がそれでした。

 

「そうだよ、たった今私が地面に仮契約の魔法陣書いたでしょ?」

 

 それ見て把握してくれないと困るよ?まったくーーどことなく会社の上司みたいなことを言うネカネちゃん。

 すみません、私、勉強不足でした……

 

「いつのまにこんな綺麗な魔法陣を……いつ練習したんですか?」

「こういうのは得意なんだよ、来るべき日のたまに練習してたんだから……って、馬鹿言ってないで、さっさとやるよ?セッちゃんが今この場であまりに無力なのは、さっきわかっちゃった事なんだから」

「そ、その事に関しては……大変申し訳ない気持ちでいっぱいです」

 

 まったくこんな一刻も争うって時にーーネカネちゃんはそう言いますが、事情を知らない人から見れば緊急事態時にキスを迫る少女ですけどね……この場合。

 

「いい?何も仮契約で戦力補強をして、あの魔族たちと正面からやり合えだなんて言わない。だからこの仮契約でーーー」

 

 ネカネちゃんから、今回の作戦のプランが聞かされる。

 

「私がセッちゃんを従者として仮契約すれば、魔力供給でセッちゃんの身体能力を強化できる。この風障壁の効果が切れると同時に、私がなんとか道を作るから、セッちゃんは全力であの魔族たちの中を突っ切ることだけを考えて」

「そ、それだと……ネカネちゃんが!?」

 

 私が囮になるーーネカネちゃんはそう言っている。

 確かに、いくら私が仮契約でアーティファクトを得たとしても、二人であの数を相手にするには心もとない。

 それに、この場合ただネカネちゃんに負担がいくだけだ。

 

「セッちゃんの我儘に付き合って死ぬつもりはないよ。大丈夫、私はある程度引きつけたらすぐに逃げるから」

 

「ネカネちゃん……どうしてそこまで……」

 

 ネカネちゃんはどうしてそこまで私のことをーー

 

「セッちゃんみたいな子供がいちいち気にしない。それに、私だってウェールズの村の住人、サウザンドマスターに憧れる一人の魔法使いなんだから」

「そんな……そんな理由で、何もネカネちゃんが……」

 

 私がそう言うと、「もう、時間がないって言ってるのにしょうがないなぁ」と言って、ネカネちゃんは互いの額を合わせます。

 

「これからのセッちゃんにアリカさんは絶対必要。セッちゃんったらまんま、お母さんとはぐれた子供だもん。このまま離れ離れなんてダメ、そんなのセッちゃん耐えられないよ。私もそんなセッちゃん見たくない」

「…………」

「ネギ君のことなんてもっと任せられない。ネギ君のことは私とか、他の村の人に任せてくれればいい。今のセッちゃんがお世話するより全然マシだよ」

「……っ!……うぅ、ネカネちゃん……」

 

 思わず目がにじむ。

 情けない。

 目の前のネカネちゃんに比べて、今の私はとにかく情けない。

 今まで私を呪ってやりたいくらい。

 

「覚悟を決めて、アリカさんに、お母さんに会いたいんでしょ?さっきのセッちゃんの言葉が嘘だったなんて言わせないよ」

 

 心に決めよう。

 いつか、目の前のネカネちゃんみたいになるって。

 こんな、こんな素敵な女の子になるって。

 だから今はーーー

 

「決めたよネカネちゃん、私、もう逃げないから。だからネカネちゃん、私に、私に力を貸して!!!」

「うん、今まで一番いい顔だよ、セッちゃん」

 

 改めてお互い姿勢を正す。

 

「セッちゃん、今度は暴れないでね?じゃあ……いくよ?」

「ネカネちゃん、お願い…………」

 

 

 

 

ーーー『仮契約(パクティオー)!!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーキィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!キィン!

 

 

 

 

 

「「!?」」

 

 聞いたことのない音が連続で鳴り響く。

 思わず目を見開いたら、私たち二人がようやく入れるくらいの大きさだった魔法陣が、視界を覆うほどの光を放ちながら周囲に展開していく。

 

 最後にひときわ輝かしい光を放った後、頭上から何枚かのカードが落ちてくる。

 

 

 

 

 そのカードの枚数は、10枚だった。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

ーーねぇねぇねぇ!なんかメール来たよ?

ーーアハトアハト

ーー開いとけばどうせ勝手に見るでち

ーーわぁお!開封!開封!

 

 

(……………………)

 

 

 

ーー「仮契約(パクティオー)カード・2G(セカンドジェネレーション)」による初のシリーズテーマ「きせかえごっこ」のマスターとして選ばれた方に本メールを送付させていただきます。

 

ーー本メールでは、「仮契約(パクティオー)カード・2G(セカンドジェネレーション)」(本メールでは「2Gカード」と略)の取り扱い、またこれからの仮契約ライフを快適にお送りいただくための注意事項をご紹介いたします。

 

 

ーー2Gカードは、「C(コモン)」「R(レア)」「SR(スーパーレア)」「SSR(ダブルスーパーレア)」の4種のランクに各種分類されます。

 

ーー2Gカードは、「C(コモン)」ランクのカード群を除いて、従来の仮契約(パクティオー)カード通り、来たれ(アデアット)去れ(アベアット)でアーティファクトの開閉が行えます。

 

ーー2Gカードに、「魔法使い側のカード(マスターカード)従者側のカード(コピーカード)」といった概念は存在しません。よって2Gカードの複製を行うことはできません。

 

 

ーー2Gカードを用いた「魔力供給」を行なう場合〜 魔力供給を受けたい相手に、自身が所持する2Gカードテーマ群の中から、どれでもいいので一枚贈呈してください。2Gカードを渡した相手(ゲスト)と、自身(カードテーマのマスター)との間で、相互の魔力供給を行なうことが可能です。

 

 

(…………な、なんですかこれ)

 

 

 仮契約(パクティオー)カードにこんな要素は存在しないはず!?

 し、しかも地味に書いてあること多い!

 

 

 

ーー追加の2Gカードの入手は、仮契約(パクティオー)一回につき1枚入手できます。

ーーまた、基本的に同じ相手との仮契約(パクティオー)は1日に1回という制限が付いています。

 

ーー10連仮契約(パクティオー)を行なう場合、一回の仮契約(パクティオー)で10枚の2Gカードを入手できますが、それを行なった相手とは10日間の間、仮契約(パクティオー)を行なえません。

 

 

 

(これって仮契約って言うより単に見境ないただの……って!悠長に読んでる場合じゃありません!)

 

 

「セッちゃん!?」

「ッ!」

 

 もう猶予はあまりない。

 私は急いで足元に散らばった10枚の仮契約(パクティオー)カードをかき集める。

 

 

ーーきせかえごっこ〜「花嫁修業(ハナヨメシュギョウ)」(C(コモン)) 〜9枚

 

ーーきせかえごっこ〜「紫陽花の指輪(アジサイノユビワ)」(R(レア)) 〜1枚

 

 

 私は「花嫁修業(ハナヨメシュギョウ)」と書かれた、9枚もダブっているカードを1枚ネカネちゃんに渡す。

 ちなみに「花嫁修業(ハナヨメシュギョウ)」のカードに写っている私は、今身に着けている使用人服の姿で、なぜか包丁を握っていた。

 

「このカードで私に魔力供給して!」

「!うん、わかった!ーー契約執行、180秒間、ネカネの従者、セクストゥム!!!」

 

 ネカネちゃんも今回の仮契約(パクティオー)の結果に戸惑っていることだろう。

 それでも、ネカネちゃんは何も言わずに私の言うことに従ってくれる。

 

「…………!」

 

 来た!

 ネカネちゃんの魔力が体に流れてくる!これなら……!

 

「セッちゃん、障壁が解けるよ!準備して!!」

「いつでもいいよネカネちゃん!」

 

 お互い各々の構えをとる。

 ネカネちゃんは呪文の詠唱を始めたようだ。

 タイミングは外さない。

 しっかりと合わせてみせる!

 

 

 

「雷を纏いて、吹きすさべ、南洋の嵐ーーー『雷の暴風』!!!!!!」

 

 

 

 

 私は今、ようやく前へと走り出せた。そんな気がした。

 

 

 

 

 

 


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