6番目のアーウェルンクスちゃんは女子力が高い   作:肩がこっているん

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エヴァ「なに、中編?ここで3話も使うというのか!?」
茶々丸「これも想定外だそうです」


お子ちゃま先生vsジャスティスレンジャー〜中編

「そうか、彼がネギ・スプリングフィールド君だったのか」

 

 公衆わいせつ事件?の現場に駆けつけた5人の魔法先生(ガンドル、葛葉、神多羅木、弐集院、瀬流彦)は、その場に居合わせた高畑から説明を受けていた。

 

 なんでも、下着姿でうずくまっていた少女の目の前にいた少年。彼こそが、先ほどカフェテラスで5人が話題にあげていたサウザンドマスターの息子、天才少年とも名高いネギ・スプリングフィールドだったのだ。

 

 サウザンドマスターの容姿は5人とも記録写真等を通して知っている。なるほど、確かに生前の彼に瓜二つである。

 新たな時代の幕開けーーそのような感情を、実際にネギを目の前にした5人は感じていた。

 

 しかしこの天才少年、優秀ではあるのだが、決して未熟さが残っていないという訳ではなかったようだ。

 なんでも魔力の制御を怠っていたのか、咄嗟に出たくしゃみを引き金に辺りに魔力を発散させてしまったというのである。

 ちょうど目の前にいた少女はその直撃を受けてしまい、身につけていた衣服は下着を残して四散、あのような光景が生まれてしまったーーこれが事件の真相だった。

 

 

「魔力の暴発か……」

「うーん、流石の天才魔法少年も、根っこの所は未だ未熟な子供……ということかな。まぁ、仕方ないよね」

 

 

 当事者であるネギと、服を剥かれてしまった少女はすでにこの場にいない。

 

 今ネギ達は学園長室へと向かっている。高畑がそうさせたのである。

 事件の現場にはこの2人と高畑、それともう一人、学園長の孫娘である近衛木乃香がいた。

 近衛木乃香は、祖父からネギのお迎えを頼まれたらしく、ひん剥かれた少女は彼女の付き添いだったそうな。彼女からしたらとんだとばっちりを受けてしまったことになる。

 いつまでも公衆に肌を晒しておくわけにもいかないので、彼女の着替えついでにそのまま学園長の元へ挨拶に向かわせたのである。

 

 結果この場には高畑を含めた6人が残ったというわけだ。

 

 

「初めて訪れた土地で緊張しているのかもしれないな、肩が張っていまいち調子が出ないんだろう。我々大人でもそういったことはあるからね」

「被害を受けてしまった彼女に心傷が残らないか心配ではありますが……その辺りのケアは当事者であるネギ君を交えて、私たちもサポートしていきましょう」

「フッ……今はあまり気負わせるな、といったところか」

 

 

 5人の意見はあらかた現状維持の方向でまとまりそうだ。

 高畑はその様子を見ながら、うんうんと頷く。

 

 

(うん、これこそ魔法先生のあるべき姿だ)

 

 

 高畑は目の前の同僚の姿に感動していた。

 

 魔法による被害の防止、及び隠蔽は魔法関係者にとって何よりも重視するべきことである。

 ガンドルフィーニを筆頭に、彼ら5人は麻帆良に在籍する魔法関係者の中でも、そのことに対して特に気を張っている面々と印象が強い。(ほとんどはガンドルフィーニのイメージなのだが)

 

 それ故ネギが起こした此度の騒動に彼らが駆けつけてしまったことに、いささか不安の念があったのだ。

 

 高畑は幼い頃からネギとは付き合いがあり、常に等身大の彼の姿を知っている。

 サウザンドマスターの息子という肩書きが先行して、周囲からのプレッシャーに潰されてしまうのではーー高畑はそれを危惧していた。

 しかし、目の前の彼らを見て高畑の不安は晴れ、同時に彼らを侮っていたことへの反省の念まで生まれた。

 

 

(これも刹子君が麻帆良に与えた影響の一つ、なのかもしれないね)

 

 

 高畑は脳裏に1人の少女を思い浮かべ、笑みを浮かべた。

 すると、少女と彼ら5人の麻帆良での出来事が断片的に湧いてくる。

 

 

ーー六戸君、胸元のリボンはきちんと閉めなさい!君はもう少し魔法生徒として……いや、まずは女子としての自覚をだね……。

ーー私こう見えても家庭科の成績は常に最高評価なんですー。ガンドル先生だってネクタイ曲がってますよぉ?……ほら、直してあげるからじっとしてて?

 

ーーいや〜、財布を落としてしまった私なんかのためにこうして奢ってもらえるなんて、皆さんお優しくて感激ですよ〜♪あ、高畑先生と神多羅木先生?タバコなら私気にしないので吸っていいんですよ?

ーーフッ……いや、ここは遠慮しておこう。お前も飯に匂いが移っては嫌だろうからな。

 

ーーなぁ、刹子君。いつもうちの娘にお土産でぬいぐるみをくれるのはいいんだけど……このグッドナイト†エヴァって結構高いんじゃないかい?無理しちゃダメだよ?

ーーい〜んですよ弐集院先生。こうして小さい子に布教させるのは将来的に私にとってプラスに繋がるんですから。……それに私の場合タダで手に入りますからね……ごにょごにょ

 

ーーお願いします六戸刹子!どうか私に……私に粋のいい男を紹介してください!!!このままじゃ私は……。

ーーいや紹介しろと言われても……私だって彼氏探してますし〜……ってああもう泣かない泣かない!……あぁ〜、ほらハンカチ。あそこの喫茶店で話だけも聞いてあげますから、ね?

 

ーーガンドル先生に怒鳴られた〜〜〜!!!私今回は何もしてないのに!ヒドイと思いません?ね、瀬流彦先生!

ーーう、うん///そ、そうだね〜///よ、よし!僕がガツンと言っちゃたりしちゃおうかな〜?///アハハ……

 

 

(……………………)

 

 

 あれ、仲良すぎじゃないかな。

 

 というか、取り込まれてる……?

 

 

「高畑先生」

「……っと、はい、なんでしょう?」

 

 いつの間にか話し合いも終わったようだ。

 

「それでは、我々はこれから彼の……ネギ君の様子を観察しに行きますので」

「ええ、ええ、そうですか、それはよか……えっ、観察って……」

 

 さっきの話し合いからして、てっきり僕に任せてくれるものだとばっかり……。

 

「ご心配なく、高畑先生。あくまで観察です。私たちから彼に接触することはいたしませんので」

「はぁ……いや、でもそれは僕の仕事であって」

 

 なんだ?彼らはどういう結論に至ったんだ?

 

「高畑先生も学園長から頼まれた仕事とかで、1日中ネギ君を見てられるわけではないでしょ?」

「フッ……その点、今日の俺たちはオフだ。いや、ひょっとしたらしばらくオフかもしれんな」

「我々は今や六戸君専属の指導員。その彼女がいない故に、こうして暇を持て余しているんです」

「つまり、他にやることがないから……と」

 

(大の大人5人集まってやることがないーーとは何とも複雑な気持ちにさせてくれるね……)

 

「それに、高畑先生はネギ君とは親しい仲なのでしょう?それだと、どうしても贔屓目で彼を見てしまう部分もあるはずです」

「そうそう。何事も、自分の目で見て判断した上で厳正な評価を下すべきだよね」

 

 言っていることは正しい。

 しかしこの5人、いや僕を合わせて6人でネギ君を観察するって?それはどうなんだろうか。

 

「さすがに大人数だと観察するにも……それにネギ君にだって気づかれるでしょう」

 

 高畑はそう5人に訴えるもーー。

 

「皆、いいかな?彼がどのような失敗を犯したとしても、決して彼を煽るような言動は避けるんだ。刺激などしてはもってのほかだ」

「当然。幾多もの先人たちがそれで手痛い失敗をしてきたんだ、同じ轍を踏む気などさらさらないよ」

「私たちの成長した姿をジャスティス神様に示しましょう。さすれば、きっとまた私たちに応えてくれるはず」

 

 うん、聞いてないね。

 でも間違ったこと言ってるわけじゃないんだよなぁ……。

 それと幾多もの先人ってなんだい?貴方達と似たような人たちが過去にいたのかな?

 あと、今聞きなれない単語があったような……

 

「では高畑先生、我々は先に」

「まずは最初の授業風景の見学をしながら様子を伺いましょう」

「フッ……お手並み拝見、と言ったところだな」

 

 ズレてる。

 何かがズレてる。

 彼らの思考回路に深刻なバグが発生している。

 そのことに彼らは気づいていない。

 おかしいな彼らはもっと聡明だったはずだが。

 

 ……刹子君か?

 刹子君との日々の触れ合いにより溜まった疲れなのか?このポンコツ化の原因は?

 う〜ん…………。

 

「高畑先生」

「っ!ああ、瀬流彦先生。どうしたんです?他の4人と一緒に行かないので?」

 

 気づいたらすでに他の4人は校舎の中へと入っていく姿が見える。

 周りには登校中の生徒もいない。

 この場に高畑と瀬流彦の2人しかいない。

 

(なんだろう?いつになく真剣な表情だな、瀬流彦先生。ーーそういえば、さっきのやり取り中ずっと黙ってたな)

 

 いつもと様子の違う瀬流彦に思わず強張る高畑。

 瀬流彦は真っ直ぐと高畑を見据え、深く息を吐いた後、こう口にした。

 

 

 

「高畑先生は……せ、刹子ちゃんのことを、どうお考えなのですか?」

 

 

 

 ………………

 

 

 

「はい?」

 

「刹子ちゃんが高畑先生の家によく出入りしていることは存じています!刹子ちゃんが貴方を見る時の目が僕ら……いえ、僕とは違うということも!……心の底から貴方を頼りにしていると言わんばかりの、あの、熱を帯びた眼差し!ーー刹子ちゃんと貴方はただならぬ関係、違いますか!?」

 

 なんだなんだ、僕と刹子君がただならぬ関係って……。

 そりゃ僕は彼女の正体も、彼女の抱える問題も知ってるから、君よりは彼女に信用されているという自負はあるけども。

 いや、だからといって…………あぁ、瀬流彦先生、つまり貴方は、そういうことなのか。

 

「瀬流彦先生、僕はーー」

 

「いや、言わなくていいです。僕にはわかってますから「いや、聞いてきたのは君のほ」ーー僕は!だからと言って彼女を諦めるつもりはありません!……これが言いたかっただけです、すいません、時間を取らせてしまってーーでは、僕はこれで」

 

 そう言って駆け足で校舎へと去っていく瀬流彦。

 高畑は黙ってそれを見届けた後、頭を掻きながら胸ポケットからタバコを取り出す。

 

「……刹子君のことをどうお考え、か……」

 

 タバコに火を付け、ぷかぷかと煙をふかしながら空を見上げる高畑。

 

「僕が彼女のことをどう思ってるのかは置いておいて、瀬流彦先生。君が本気で刹子君をどうこうしたいと言うのなら……その気迫を向けるべき相手は他にいるよ……この学園の、地下に……」

 

 手強い、強敵がねーー高畑はそう独り言を呟くと、今度は胸の内ポケットから1枚のカードを取り出し、それを見ながらこう思った。

 

 

(刹子君、早く帰って来てくれ……そして、早く彼らの手綱を握ってくれ)

 

 

 カードに写るゴスロリ衣装に身を包んだ少女、先ほどの5人の支離滅裂な思考すらも彼女が一枚噛んでいるということを、高畑は知る由をなかった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「今日は大変な一日だったなぁ……」

 

 その日の夜、ネギはとても疲れた表情で今日一日の感想を述べていた。

 

(クラスの皆さんは歓迎会も開いてくれたし、アスナさんとも何とかやっていけそうだけど……問題はあの人たちだよなぁ)

 

 修行で麻帆良学園に教師としてやってきた初日、その日の出来事を振り返るネギの脳内映像には、常に同じ5人の姿があった。

 

(朝、僕がアスナさんの服を吹っ飛ばしちゃった時からだよね、あの人たちが僕に付きまとい始めたの……タカミチが言うには魔法使いらしいけど、やっぱあれがいけなかったのかなぁ……)

 

 あの人たちとは言わずもがな、ガンドルフィーニを始めとした5人の魔法先生達である。

 彼らは高畑と別れた後、丸一日ネギを監視(そう呼べるかは疑問だが)し続けた。

 

(最初の授業はあの人たちの視線が気になってそれどころじゃなかったよ……)

 

 ネギが2ーAの教室に初めて足を踏み入れた際、生徒の仕掛けたトラップに盛大に引っかかった。

 

 その音を聞きつけた彼ら5人は、なんだなんだと教室に乱入。

 現場監督である指導教員のしずな先生がその場を収めたが、その後も彼らは教室のドア窓から教室の様子を除く始末。

 

 ネギはおろか生徒達も、ドア窓越しから見える5つの顔が気になって仕方がない。

 困ったものだとしずな先生が頭を悩ませていた矢先、教室のドアが開き、入ってきたのはガンドルフィーニ。

 

 そのガンドルフィーニの言ったセリフはーー

 

「ネギ君、僕が君の踏み台になろう」

 

 いきなり授業中に教室に入ってきて何を言っているのかと思うかもしれないが、一応は彼の言動にも理由があった。

 

 なんでも、黒板に板書をする上で身長の関係上背伸びをしなければならないネギの様子を見兼ねてこのようなセリフをはいたらしい。

 優しいんだか何なんだか、どちらにせよ生徒の目の前でそんな姿を晒させるわけにもいかないと、しずな先生はその申し出をやんわりと断った。(踏み台は別に用意した)

 

 このまま教室から出ていくかと思いきやしれっと「せっかくだからこのまま見学させてもらいます」などと言い出し、5人は教室の後ろに立ち並び授業の続行を促す始末。(その間、一番後ろの席の金髪少女がものすごく不機嫌だった)

 

 気を取り直して授業をーーと思ったのも束の間、再度事件発生。

 今朝方ネギに服を吹っ飛ばされた少女が、黒板に向かうネギに対して消しゴムの切れ端を当て始めたのだ。

 少女自身はとある理由があってそのような行為を行なったのだが、これを見ていた5人の魔法先生達がざわつき出した。

 

「や、やはり今朝の事件を根に持っていたか!?」

「いかん、彼を刺激してはいけない!」

「フッ……撃ち落とす!」

「それがあの方に誓った私たちのジャスティス!」

 

 などと言いながら、少女が射出する消しゴムの切れ端を無詠唱魔法で撃ち落とそうとしたり(某金髪少女が糸で止めた)、少女に対して「馬鹿な真似はやめなさい!」などと大声で叫んだ後、そのまま教室から締め出された。

 

 授業が終わった後も、彼ら5人による謎の監視体制は続き、結局彼ら5人の顔が今日一日で最も印象に残る結果となってしまった。

 

 

「宮崎さんを助けた時にタカミチが近くにいてくれて助かったよ……あの時も近くで僕のこと見てたみたいだし、あの人たち」

 

 

 そう、何を隠そうこのネギ、初日にして盛大にやらかしてしまったのである。

 

 一般人に魔法を使う現場を見られた、また、魔法使いだとバレてしまったーーそういうことである。

 

 ここでは割愛するが、言い逃れのできない事態に陥ってしまったネギ。

 そこに、自分を監視していた5人、を監視していた高畑が彼らを抑えつつもフォローを入れてくれたため、事なきを得たのだ。(結局その一般人に魔法はバレてしまったのだが)

 

 

「これからずっと僕を監視するつもりなのかなぁ、あの人たち。……はぁ、僕、ここでやってく自信がなくなってきたよ。……キティちゃん、僕どうしたらいいんだろうね」

 

 ネギは自身の膝の上に乗せていた、金髪少女のぬいぐるみにそう語りかける。そこへーー

 

「なぁ〜にガキがため息なんか吐いてんのよ、ったく、ため息吐きたいのは私の方よ……」

「あ、アスナさん」

 

 やってきたのは神楽坂明日菜。今朝方、ネギに服を消し飛ばされた張本人の少女である。

 これまた訳あって、ネギは今日からここ、女子寮に存在する彼女の部屋に居候させてもらうことになったのだ。

 

「あんたも色々あっていっぱいいっぱいなのはわかるけど、私だって今日だけで何回ひどい目にあったか……高畑先生には裸見られるし」

「うぅ……すいません」

 

 ある意味自分以上にひどい目にあったのは彼女だというのは本当のことだ。

 そう思うとネギはただ素直に謝ることしかできなかった。

 

「あのジャスティスレンジャーも、刹子が長期旅行に行ったおかげでようやく顔を合わせないで済むと思ったのに……なんでまた今度はあんたの監視なんて……」

「ジャス、ティス?ひょっとしてあの5人組の……アスナさん、あの人たちのこと知ってるんですか?」

 

 ネギは驚く。

 

「知ってるも何も、ウチ(麻帆良)じゃ有名よ。麻帆良学園一の問題児、六戸刹子(ろくのへせつこ)の愉快な取り巻き……じゃなかった、指導員としてね」

「も、問題児?ここにそんな人が……」

 

 いわゆる不良って言う……人なのかな?

 

「日頃から包丁持ってたり「えっ」、未成年で車の運転したり、あ、しかもそれ盗んだ車ね「うわぁ」、他校に殴り込みかけたり「う…」、昼間から街中で包丁振り回したり「アウトじゃないですか!?」、男性教論を誘惑したり「うわぁ…」……まぁ、表に出てるやつでもざっとこれくらい。ーー裏ではもっとヤバいことしてるって噂よ」

 

「え、えぇ……これだけで充分捕まっててもおかしくないんですが……これ以上ヤバいことなんて……」

 

 うぅ、なんだろう。ひょ、ひょっとして、ひ、人ごろーー。

 

「ま、安心しなさい。さっきも言ったけど、ソイツ今旅行行ってて麻帆良にいないから」

「そうなんですか!?」

 

 よかった〜!

 あ、でも旅行ってことはいつか帰ってくるんだよね……。

 ど、どうしよう、もし会ったら今日以上に僕、酷いことされるんじゃないかな?カ、カツアゲ?とか。

 ……こ、怖いなぁ〜。

 

 ーーそうだ、会わなければいいだけじゃないか。

 

 たぶん、高校生とかだよね?なるべく近づかないように心掛ければ……。

 

「ア、アスナさん!その不良の人は、お年はおいくつなんですか?出来るだけ会わないようにしたいんですけど……」

「え?いくつも何も、私たちのクラスの同級生だけど?」

 

 

 え…………

 

 ええぇえぇぇぅぇぅぇええええええ!?!?!?

 

 

「ーーーーーーーーーッ!!!」

 

 そうだーークラス名簿!!!

 

 

「……出席番号32番。六戸刹子(ろくのへせつこ)……そ、そんな……」

 

 いた。

 ウチのクラスに……麻帆良一の不良が……。

 そ、そんな……僕、こ、この不良の人の先生だなんて……む、無理だよ……。

 

「さっき、ジャスティスレンジャー……あの5人組の先生たちのことだけど、言ったでしょ?ようやく顔合わせないで済むって。刹子のこともあってよくウチのクラスに来るのよ。まぁ今日みたいに授業中まで監視付けなんてことはなかったけど……」

 

「そうなんですね……」

 

 白髪で色白で、キレイな人なんだな。名簿の写真を見る限り、麻帆良一の不良だなんてとても思えないけど……。

 でも、人は見かけによらないって日本語であるし……。

 

 タカミチの書き込み……「姉」って書いてあるけど、なんだろう?

 ま、まさか、姉御とかそういう意味合いで!?

 舎弟ってこと!?

 僕、舎弟……逃げられないぞってことなの!?タカミチ!?

 

「あ〜。まぁ、そんな心配しないでもいいと思うわよ?問題児であることに代わりはないけど、クラスメイトには普通に接してるし。私も刹子って呼んでるくらいだしね」

 

 どんどん顔が青ざめていくネギの様子を見兼ねたアスナがそう言うも、あまり効果は見られない。

 

「あれ、2人ともまだ起きてたんー?アスナ明日早いんやろー?」

 

 近衛木乃香がバスタオル片手にやってくる。

 木乃香もこの部屋の住人であり、ここの女子寮は基本的に相部屋が多いのだ。

 

「いけな、もうこんな時間じゃない!ほら、あんたもいつまでうじうじしてんのよ!とっとと寝る用意しなさい」

「は、はい……」

 

 ネギは寝床として与えられたソファーまでふらふらと覚束ない足取りで歩き、布団に入り込もうとする。

 

「……ねぇ。あんたそのぬいぐるみと一緒に寝るつもり?」

「え、えぇ、そうですけど……」

 

 先ほどからネギの膝の上に鎮座していた金髪少女のぬいぐるみ。(メイド服着用)

 それを抱えたままネギは布団に入り込み、そして一緒に寝るというのだ。

 

「そのぬいぐるみかわええなー♪ネギ君そういうの好きなん?」

「あんた男のくせにそんな女の子みたいな趣味してるわけ?どうなのよそこらへん」

「え!?い、いや、キティちゃんは……このぬいぐるみは特別な思い入れがあって……」

 

 

 ネギは2人にこう語った。

 

 

ーーこのぬいぐるみは、ネギが生まれて間もない頃に亡くなってしまったお姉ちゃんが生前、趣味で作ったもの。

 

ーーネギの従姉のネカネと、そのお姉ちゃんは仲が良く、よく2人して赤ん坊のネギの面倒を見ていた。

 

ーーネカネは、お姉ちゃんが亡くなる前に、そのぬいぐるみを譲り受けた。

 

ーーぬいぐるみはいくつかあったので、その内の一つを幼いネギに与えた……とのこと。

 

 

「そんなわけで、このキティちゃん……あ、キティって言うのはそのお姉ちゃんが付けた名前らしいんですけど、小さい頃からずっとこのキティちゃんと一緒だったんです。それこそ寝る時だって。なんと言うか、会ったこともないお姉ちゃんの温もりみたいなのを感じまして……」

 

 アスナと木乃香は黙ってネギの話を聞いている。

 木乃香に至っては少し涙ぐんでいるようだ。

 

「だから、キティちゃんを抱いてないと寝付けない体になっちゃって……アハハ、恥ずかしいですね、男の子なのに」

 

 アスナと木乃香はお互い視線を合わせる。

 アスナは少し気まずそうながらも、木乃香に頷く。

 

「え〜と、ネギ?ご、ごめん!出会ったばかりの私たちに話しづらいこと話させちゃって……軽い気持ちで聞くことじゃなかったわ」

「い、いや、いいんですよ……僕の方こそ、寝る前に変な空気にさせちゃったみたいで……」

 

 お互い頭を下げあうネギとアスナ。

 

 木乃香はその様子を見て、「この2人ならしばらく上手くやっていけるかな」と思い、頰をほころばせる。

 

 しかし、このままだとお互い謝罪の姿勢を崩さないと思った木乃香は、不器用な2人に心の中で苦笑をこぼしながら、助け舟を出そうと話題の転換を試みる。

 木乃香の目に留まったのは、ネギが今も大事そうに抱えている金髪少女のぬいぐるみーーキティだった。

 

「……にしても、そのキティちゃん、えらく出来がええなー。これ、売り物でもいけるで?」

 

 木乃香は素直に驚いていた。

 ぬいぐるみの出来は素人が家で自作するレベルをゆうに超えているからだ。

 

「確かに……改めて見るとすごいわね。縫い目なんか全然見えないじゃない……これを趣味で作っちゃうなんて、あんたのお姉さんとんでもなかったのね」

「ネカネお姉ちゃんとほぼ同い年で、僕が生まれた頃に作ったって言ってたから……多分、今の僕とほとんど変わらないくらいの年に作ったんだ……今考えるとすごかったんだなぁ、お姉ちゃん。家事も完璧にこなしてたって聞いたし」

 

 余談ではあるが、ネカネはネギにこのことを話した後、ふと当時25歳だったナギの年齢を逆算して、やってしまったーーと冷や汗を流していた。

 ネギにそう話してしまった手前、後の祭りである。

 15歳の時にできた子供って……。

 

 

「あんたも、しっかりしないとね。……そのお姉ちゃんに負けてられないわよ」

「はい、頑張らないと、ですね」

 

 

 しんみりとした空気にはなってしまったが、ネギの緊張は少しばかり解れた様子。

 

 今日一日の間で、ようやくネギがーー落ち着いた、と感じた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「はい、お久しぶりですネカネちゃん。……今ですか?大丈夫ですよ、ついさっきお風呂から上がったところですから」

 

 

 …………

 

 

「……サプライズ?なんのことですか?……はいはい、私を驚かせようと……」

 

 

 …………

 

 

「あ〜。ネカネちゃんに言ってませんでしたね。私今麻帆良を離れてまして……ええ、仕事の関係で……」

 

 

 …………

 

 

「申し訳ないです……いえいえ、いいんですよ……それで?サプライズとはなんだったのですか?」

 

 

 …………

 

 

「……メルディアナ魔法学校を卒業ですか?ネギ君が?時が経つのは早いですね〜……ええ……それも首席で…」

 

 

 …………

 

 

「さすがネギ君ですね……はい……それで修行の地が………………はい……は、ええ!?………」

 

 

 …………

 

 

「……麻帆良で教師を、やることになった……ですって……」

 

 

 …………

 

 

「……はい……あ、はい……ですね……今日はもうこの辺で……お休みなさい……」

 

 

 ……プツン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………やっば」

 

 

 

 

 




これはアンチ方面には含まれない、はず?

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