笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》 作:バスクランサー
本編どうぞ。
ーーー第35鎮守府
朝日さんのガソリンスタンドでのアルバイトを終えて、那珂の調子は目に見えて以前より良くなった。自然とみんなと打ち解けたり、たまに見かける鼻歌を歌う姿だったり、さらに遠征時の深海棲艦の反応にも、過剰な恐怖を示さなくなった。那珂自身も、成長を感じているようで、それが彼女をさらに奮い立たせていく、という好循環が感じられる。
「提督!今日も那珂ちゃん、頑張ってくるね!」
駆逐艦を連れた遠征では、旗艦も務められるようになった那珂。しかし、彼女にとって最後の試練、その時は確実に来ようとしていたーーー
ーーーその時、俺は食堂で、川内型の3人と昼食を食べ、のんびりと談笑していた。そこへ、響、さらには大淀が息を切らして駆け込んで来た。
「大変だよ司令官!大本営経由で、この鎮守府にSOS通信だ!」
「この鎮守府の担当する海域を航行中の客船からです!正体不明の青い球体に襲撃されているということです!」
「なんだって!?わかった、すぐ行く!」
俺はすぐに席を立った。後ろからは川内型の3人も着いてきたーーー
ーーー「こちら第35鎮守府!大丈夫ですか!?状況報告をお願いします!」
執務室に駆け込んだ俺は、すぐに客船に呼びかける。
「なんとか船の無人防衛システムで距離は取れたが、おそらくもう使い物にはならんだろう…。浸水も確認されているし、レーダーで見る限り球体との距離はだんだんと縮まっているから、いつまで持ちこたえられるか分からない!」
「おおよその乗客数は!?」
「スタッフは全部で10名ほど、修学旅行中の小学生たちと引率の教員を足せば100名余りだ!」
「分かりました、至急救助艦隊を送ります!」
「頼む!できる限り急いでくれ!」
俺はすぐに、メンバー編成に移った。この場合、主目的はあくまで救助、襲撃してきたという青い球体は最悪追い払えればいい。だが…
「おそらくあの球体は怪獣だ、おそらく攻撃力はかなりのものだ…。ここはスピードの軽巡洋艦とバランスの重巡洋艦の艦隊で行くべきだな…」
すると、俺の後ろから声が上がった。
「提督!だったら、那珂ちゃんに行かせて!」
「!?」
その顔から、覚悟を決めたということがひしひしと伝わってくる。これが那珂にとって最大の試練となるであろう、しかし、那珂は今、その試練に真っ向から立ち向かおうとしているのだ。だったら…
「よし、分かった!」
「那珂ちゃん…大丈夫!?」
「無理しなくていいんだよ!?」
心配で声をかける姉たちにも、那珂は強く微笑んで返す。
「那珂ちゃん…今、本当に艦隊のアイドルとして、みんなの笑顔を守りたいって思う。だからお姉ちゃん、お願い…!」
真っ直ぐにふたりを見つめて宣言する那珂。2人もその大きな気持ちを受け取ったようだ。
「那珂ちゃん…分かりました!」
「私たちも那珂の気持ち、受け取ったよ!」
「ありがとう、お姉ちゃん…!」
この感動のシーンをしばらく見ていたいが、生憎今は一刻を争う事態だ。俺は気持ちを切り替え、メンバー編成に戻る。
最終的にメンバーは、川内型の3人、阿賀野、そして妙高、足柄の合計6人となった。正体不明ということもあり、ヘタに球体を刺激して被害を拡大させないよう、今回俺のジオマスケッティによる出撃はなしにした。
「よし、救援艦隊、出撃!」
6人は鎮守府を出て、客船へと急行したーーー
ーーー「船長!また球体が迫ってきました!」
「くそっ!全速力で振り切れ!」
「駄目です!先ほどの襲撃による損傷、さらにその際の全速回避によって、冷却装置が正常に作動しません!ここで全速を続けると、全機関停止は時間の問題ですっ!」
「何!?客室部分は!?」
「こちら客室担当、小学生たちは何とか今、引率の教員たちのお陰でパニックから一旦脱しました…ただ、現在集合しているホールは客室の最下階にあり、浸水の被害を真っ先に被ります!」
「くっ…危険はあるが、浸水のリスクは避けねばならん!判断をそっちに任せる、状況次第で全員を最上階の展望室に移すんだ!」
悪い状況ばかりが報告される船の無線。と、そこへ一筋の光が差し込んできた。
「こちら第35鎮守府の救援艦隊!只今より救助活動を開始します!」
救援艦隊旗艦の妙高の声が、操舵室内に響き渡る。
「助かった!待っていたよ、ありがとう!」
「私たちがあの球体を足止めします!その隙に逃げてください!」
「分かった!」
那珂と阿賀野が船の後部について護衛し、残りの4人が球体に向かっていく。
「妙高、参ります!皆さんも続いてください!」
一斉に球体目掛けて、4人の砲撃が放たれる。が、球体はそれを易々とかわして、4人に急接近してきた。
「うっ!やってくれるじゃないの!
弾幕を張りなさいな!撃て、撃てぇー!」
集中型から弾幕型へと攻撃方法をチェンジしたおかげか、数発の弾丸が球体に命中する。しかし次の瞬間、球体はお返しと言わんばかりに、青色の熱線を連射して反撃してきた!
「!?全員、回避行動をとって!」
だが、砲撃よりも速度が速く、正確な狙いの熱線を回避するのは至難の技だ。数発が艦隊に直撃し、直撃部分の艤装が焦げる。
「くっ…!もう、降参してください!」
力の限り砲撃を繰り返す4人。せめて少しでも距離を稼いでおきたい。だが、球体はそんな彼女達を嘲笑うかのように軽々と弾を避け続け、さらに熱線で水柱を作り、逆に彼女たちを封じ込める。
「ど、どこ!?」
「…まさかっ!!」
そう、神通の悪い予感は当たっていた。球体は4人をスルーして、客船を猛追する体制に入っていたのだーーー
ーーー「那珂ちゃん!球体が!!」
「えっ!?」
猛スピードで迫ってくる球体。那珂、阿賀野は迎撃体制に入る。
「迎撃開始!」
だが2人の砲撃より僅かに早く、球体の熱線が放たれた。
「やめてー!!」
那珂と阿賀野の目の前に熱線が当たり、水面を大きく揺らす。
「はっ!客船が!!」
「急ごう、那珂ちゃん!」
しかし、振り返ったその時には…球体は客船へ、最初の熱線攻撃を命中させていた。深海棲艦の備えとして、客船にもガッチリとした装甲が備え付けてあるが、それさえも次々と剥がされていく。
「船が、どんどん沈んでいってる!」
熱線は船底を狙った後、最上階の屋根を一部ぶっ飛ばした。ちょうどそこに避難しようとしていた小学生たちの悲鳴が聞こえる。
「早く助けに行こう!」
「うん!」
那珂は救助に向かいつつ、妙高に球体の注意を引きつけてくれるよう通信を入れる。
そして2人はすぐに客船に到達、絶えず続く大きな揺れと格闘しつつ、外壁をよじ登って、空いた穴から展望室に入り込む。
「皆さん、救助に来ました!大丈夫ですか!?」
「落ち着いてください!」
声をかけながら、船の乗員乗客を整列させ、人数確認を行う。ほとんどの者は怯えきった顔で、小学生の中には泣いている子もいた。だが、さらに悪いことが発覚する。
「えっ、うそ…足りないっ!」
クラス委員と思しき子が叫んだ。
「どうしたの!?」
「ふ、2人いないんです!!」
「えっ!?」
ここまでの状況を、那珂は瞬時に思い出す。ここでいないということは、揺れではぐれ、どこかに取り残されている可能性が高い。
「待ってて!すぐに探しに行くね!」
那珂はそう言うと、階段を駆け下りて、浸水の進む下の階へと向かったーーー
ーーーかつてのトラウマと似た状況、それは探索中の那珂に確実に恐怖を与えていた。しかし、もう彼女は以前の彼女ではない。
「大丈夫、みんながいる…私は一人じゃない!」
阿賀野から教わったこと。手を開き、皆の支えがあることを胸に改めて刻み、那珂は進んでいく。そしてついに、探していた小学生たちを見つけた。
「助けて!お姉ちゃん!」
「動けないよぉ…!」
「大丈夫、すぐにどけるね!」
次々と障害物を撤去、2人の小学生を救出する。そして、急いで2人を両脇に抱え、その場を離れる。数秒後にその場所の天井が落下したことを考えると、奇跡のようなタイミングだった。
だが外部ではまだ戦いが繰り広げられているのか、時折大きな揺れが襲いかかる。その影響で、先ほどの道が障害物で寸断されていた。
「大丈夫だよ!」
那珂はすぐに別ルートを探す。階段を見つけた。上の方向には崩れてしまっており通じていない。下の階から回り道はできそうだが、もう自分の首を出すのがやっとの程に浸水している。
一瞬の躊躇い。しかし、那珂は自分の中でら朝日から教わったことを思い出す。
「君も、勇気だったら、持っているはずだよ」
そうだ。私はこの子達の笑顔を守らなくてはいけないんだ。今こそ、私の勇気を発揮する時なんだ!
「那珂ちゃんにだって…勇気、あるもん!」
那珂は艤装を解除、近くにあった大きなビニールのゴミ袋を二つ取って小学生に被せて空気を確保し、自ら水に飛び込んだ。
慣れない水中、鈍る動き。しかし、那珂は着実に、前へと進んでいく。
「絶対、守り抜いてみせる!!」
その思いが通じたのか、水中を抜けた。小学生たちも無事だ。ゴミ袋をすぐに取り除き、展望室へと上がる。
「救助、しました!」
「えっ!?」
駆け寄ってくるクラスメイトたち、そして教師や船のスタッフ。
「よかった、よかった…!」
しかし、その感動のシーンは、一瞬で恐怖と絶望に塗り替えられた…
ドガァァーーーン!
爆発音と共に、展望室の屋根が全て吹き飛ばされた!そして、空いた大穴から青い球体が姿をのぞかせる。そして、その球体は不気味に二度三度発光したかと思うと、その正体を展望室にいる人たち、さらに救援艦隊のメンバーたちにも誇示した!
グィィィャァァァアア!!
「か、かかか、怪獣だぁぁーっ!!」
禍々しい黒い体、背中に生えた無数の棘。さらには体中に装備された無数の深海棲艦の艤装。その姿を表現するとしたら…「宇宙の平和を乱す悪魔」、これ以上の表現はないだろう。
川内はすぐに提督に援護を要請、同時に怪獣の出現を報告、データを送る。
「提督、こいつは何なの!?」
「待ってろ、今調べてる…あった!科学特捜隊のドキュメントに同種族を確認!
こいつは、宇宙怪獣ベムラーだっ!!」
今回も読んでいただきありがとうございました!
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ではまた次回で。