笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》 作:バスクランサー
もうすぐ期末考査…そこまでに那珂の章は終わらせたい。
本編どうぞ。
ーーー自慢ではないが。
俺の祖父はすごい人だった。かつては様々な防衛チームを整備士として渡り歩き、影で前線の隊員達を支え、彼らからも大きく信頼されていた。また、チームが解散する時には必ず、所属基地にあったあらゆるメカの設計図を貰ってきて、まだ小さかった自分に色々と見せてくれた。
しかし、そんな祖父のすごさはそれだけではない。ある日、いつものように寝る前に祖父とチームのメカなどについて(機密事項はもちろん言わず、自分もこの話のことは絶対他言しないと約束の上で)話していた時、不意にこう祖父が言った。
「今じいちゃんが入ってるとこのチーム…ほら、この雑誌の写真」
そこには、当時のチームの集合写真。不意に祖父は1人を指さした。
「この人は…きっと、ウルトラマンだ。」
小さい俺は「えぇっ!?」と聞き返したが、
「なあに、じいちゃんは今までのチームでウルトラマンだった奴を、ぜーんぶ当ててきたんだ。間違いないぞぉ…!」
その頃は半信半疑だったが、後にGUYSのミライさんがウルトラマンメビウスだと雑誌報道された時はびっくりした。ニュース自体もそうだが、何より以前に祖父がGUYSの紹介パンフレットの写真を指さして「ウルトラマンかもしれない」と言っていたのが、ミライさんだったからだ。
祖父がなぜ分かったか、それは祖父が天国にいる今は永久に分からない。だがきっと、前線の彼らをいつも影で見守っていたことから、何かしらの勘があったのだろう。
話を戻そう。
そう、俺がなぜ今目の前にいる朝日勝人さんを頼れる人かもしれないと思ったかというのは、彼が祖父の言っていた「ウルトラマンかもしれない」人の1人だからだ。
俺は思い切って、朝日さんに事情を話して、協力を仰ぐことにした。
「あの…朝日さん、少しお話をいいですか?」
「?」ーーー
ーーー朝日さんと出会ってから、俺は執務の合間を縫って、朝日さんと電話で話し合いをし続けた。那珂のことを話すと、朝日さんは、「昔の自分とよく似ている」と言っていた。親しみを持ってくれたようだ。しかし、今朝日さんは店長というだけあって、こちらの都合で通うというのはいささか迷惑になるかもしれない。
その件について、今日も俺は朝日さんと話し合っていた。そこへ、響がやって来た。
「司令官、話し合い?」
「あぁ。」
響も話し合い最中ということを察してくれたようで、無言でお茶のお代わりを注いで来てくれた。
「お代わり、ありがとうな」
すると、響はこう言ってきた。
「いえいえ。それでさ、司令官。通うのがダメなら…
いっそさ、朝日さんのスタンドでバイトさせる、とかどうかな?」
………………!!!!
「司令官?すまない、冗だ…」
「「その手があったかぁっ!!」」
俺とシンクロするように、電話口から朝日さんの大声が聞こえたーーー
ーーーそこから話はトントン拍子だった。那珂も海自体はすっかり大丈夫になっているため、海沿いのスタンドでのバイトのことを意外とすんなり受け入れてくれた。大本営にも、これが大丈夫か聞いたところ、
「あぁ、結構他の鎮守府では、地域交流事業の一環として、バイトしている艦娘がいたりするから前例は豊富だし、大丈夫よー」
はい、OKいただきました。
というわけで、早速那珂のバイトが始まったーーー
ーーー初日朝早く、響、川内、神通と一緒に、那珂をガソリンスタンドまで送った。二十四時間営業のそのスタンドは、どちらかと言うと田舎のこの地ながらも、俺たちが到着した時には既に数台の車の相手をしていた。
ジオアトスの派手なカラーリングで分かったのか、朝日さんが出迎える。
「朝日さん、よろしくお願いします。那珂も、ほら」
「うん。
那珂です。今日からお世話になります、よろしくお願いします!」
「こちらこそ。よろしくお願いします」
互いに礼をして、早速那珂は朝日さんに案内されて事務所へ。数分後にスタンドの制服に着替えて戻ってきた。
あ、めっちゃ似合ってるわこれ。
「じゃあ、早速那珂に初仕事だ。この車を充電させてもらいたい」
「はい!では、こちらへどうぞ!」
前もって接客マナーなどを教えておいたおかげか、那珂はしっかり言葉を使い分け、笑顔で接してくれた。
充電が終わり、俺たちがガソリンスタンドを去る時も、那珂はしっかり挨拶して、見えなくなるまで見送ってくれていた。後部座席の川内、神通は、少しだけ心配と名残惜しさが混じったような顔をしていたーーー
ーーー那珂の仕事の様子は、執務に使うパソコンでいつでも見られるようにした。何かあれば、その様子は随時パソコンで朝日さんが報告してくれることになっている。
時々、川内や神通、阿賀野が様子を見に来ることもある。朝日さんからの通知を見る度に心配したり、もちろん夜にはこちらに帰ってくるが、その時には一直線に那珂を出迎えに行く。こういうのを見ていると、なんか温かい何かを感じる。
そして、那珂がバイトを始めて数日後の夜、朝日さんから連絡が来た。
「日を追うごとに那珂さんは仕事に慣れ、元気に働いています。今日はお客様からもお褒めの言葉を頂き、店長である私としても誇らしいです。明日、様子を見つつ那珂さんと少し話をしようと思います。」
良かった、様子は良くなっていっているらしい。
「毎回ありがとうございます。
よろしくお願いします」
俺はそう返信し、今日の仕事を終えたーーー
ーーー翌日 ガソリンスタンド
今日も、那珂は取り戻したその本来の明るさで、次々と接客をこなしていく。その様子を、自身も仕事をしつつ見守る朝日。
「…今日で、よさそうだね」
その日の夕方。
那珂のシフト時間が終わり、他の皆や交代のスタッフに挨拶をして、那珂は鎮守府へと帰ろうとしていた。と…
「那珂さん」
朝日が、那珂を呼び止めた。
「少し、場所移して、話し合わないかい?」ーーー
ーーー2人は、ガソリンスタンド近くの、海が見える堤防へやって来た。
「あの、店長…」
「今は店長じゃなくていいよ。」
「え…?」
「君のことが知りたいんだ。今の君の抱えていることも含めてね」
「て…朝日、さん…」
「君のところの提督さんから、少し話は聞いているけど…あまり詳しくは分からないし…君がいいなら、君の口から詳しく話してほしい、な」
「…分かり、ました」
那珂は覚悟を決めた。そして、朝日に全てを話した。
救助中に死にかけ、そこに深海棲艦の襲撃を受けたこと。
今もその恐怖が焼き付いてしまっていること。
そして…自分もこの状態が嫌ということ。
「私だって…みんなと一緒に、海の平和を守りたいよ…。
私だって…艦隊のアイドルとして…皆を笑顔にしてあげたいのにぃ…!」
涙が溢れてくる那珂。朝日は、ただ優しく那珂の手を握った。
「朝日さん…私って…ダメな娘なのかなぁ…?」
涙でぐしゃぐしゃの顔を向けてくる那珂に対し、朝日は、
「そんなことないよ」
微笑んで優しく言った。
「え…?」
「僕も昔、君と同じような時があった。
自分の弱さが、自分で嫌になった。
すごく怖い思いをして、立ち上がれなくなった時もあった。」
自身が昔持っていた苦手なこと、さらに未熟な能力で戦うことすらままならなかった頃。
強敵に完膚なきまでに叩きのめされ、恐怖に押しつぶされそうになった頃。
朝日はそんな過去を思い出しながら語った。「朝日さん…」
「でもね、那珂さん。今からいうこと、これだけは覚えていてほしい。」
「…うん」
朝日は海を向いた。美しく広がる夕焼け空が、海に反射している。
「那珂さん。
君も、勇気だったら、持っているはずだよ」
夕焼けに照らされながら、朝日は言った。
「勇気…?」
「そう。那珂さんはダメな娘なんかじゃない。君だって、勇気溢れる、立派なアイドルさんなんだよ」
「で、でも…私…」
「大丈夫。
君には沢山の支えがある。そして、強い気持ちもある。
後は、最後まで諦めないで、自分を信じることさ。そうすれば誰だって、明るい未来を掴めるんだよ」
優しく那珂に語りかける朝日。
「朝日さん、私にも…出来るかな?自分を信じることも、勇気を出すことも」
「もちろんだよ!」
「本当に…!?」
「ああ!!」
ニッコリと真っ白な歯を見せて笑う朝日。那珂の冷たく凍っていた心は、その新しい朝日のような彼の笑顔に、もう溶かされていた。
「ありがとう…朝日さん…!!
那珂ちゃん、頑張るよっ!!」
那珂の顔は、またしても涙でぐしゃぐしゃだった。しかし、今度の涙は、那珂がはっきりと未来への一歩を踏み出した証のように、眩い希望の光を反射していたーーー
ーーー数日後。
那珂の状態もだいぶ良くなったということで、朝日のガソリンスタンドでのアルバイトが終了となった。
「那珂さん、お疲れ様。」
「こちらこそです、店長!」
「朝日さん、でいいよ。ね?」
「あ…はい!朝日さん!」
迎えに来た俺たちも、那珂の様子が良くなったみたいだと、しっかりと実感できた。それほどに彼女の笑顔は輝いていた。
「じゃあ、またね」
「はい!…あっ!」
那珂は付け加えるように、一旦去ろうとした歩みを朝日さんの元へ反した。
「朝日さんも、これからは私のこと、那珂ちゃんって呼んでくれると…嬉しいな」
一瞬驚いた顔になる朝日さん。しかし、すぐにその顔はいつもの微笑みに戻り、那珂に言葉を返す。
「分かった。
那珂ちゃん、これからも頑張ってね!」
「ありがとう朝日さん!じゃあ…またねー!」
ジオアトスに乗り込んだ俺達は、ガソリンスタンドを去っていく。後部座席から手を振り続ける那珂に、朝日さんはお辞儀をして、確かに「まいど!」と言っていたーーー
ーーーその更に数日後 某海域洋上
既に深海棲艦から奪還したその海域を、修学旅行中の小学生たちが大勢乗った客船が航行していた。
しかしそこに、不吉な影が忍び寄っていたーーー
ーーー客船 操舵室
「あの、船長」
「ん?なんだ?」
「あの…あれ、なんですかね?」
船員が指さす先を、目を凝らして見つめる客船の船長。
「は?どれどれ…んん?」
彼も、船員が言ったことの対象に気づいた。
「なんだ、あの青い球体は…??」
これが、那珂にとって最後の試練となることを、この時誰も予想してはいなかったーーー
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!
感想や評価、よければよろしくお願いしますm(_ _)m
それと、前書きでも述べた通り、筆者の学校の期末考査が近づいているため、近々更新ペースが大幅に遅れると思われます(というかほぼ休止状態になる可能性もあります)。
ご了承くださいm(_ _)m
何はともあれまた次回!