笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》   作:バスクランサー

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基本的に筆者の執筆作業は(気分によりますが)土日休業です。
土日を挟んだ更新はこうして遅くなることがそれなりにありますm(_ _)m

はいすみませんでした本編どうぞ。


那珂の章
海の呪縛


 ーーー第35鎮守府 正面玄関

 正面玄関に着いた大本営の専用車から、係員に続いて、3人の艦娘が降りてきた。

「こんにちは!川内型軽巡洋艦一番艦の川内だよ!提督、よろしくね!」

「はじめまして。同じく川内型の二番艦、神通です。これからよろしくお願いします。」

 そして、彼女たちの後に続いて、

「…川内型軽巡洋艦の三番艦、那珂です…。あの、よろしく、お願いします…」

 暗そうに挨拶した娘が、今回療養を依頼された艦娘・那珂だ。この様子からでも、彼女の心の傷の深さが伺い知れる。

「ようこそ、第35鎮守府へ。俺がここの提督だ、こちらこそ、これからよろしくな」

「司令官の秘書艦・響です。よろしくお願いします」ーーー

 

 ーーー療養を要する艦娘は、前と同じように姉妹艦がいても個人部屋となる(もちろん隣同士)。

 俺は早速那珂の部屋に入り、話を聞くことを試みた。

「那珂、これからよろしくな。

 …それでさ、もし君がよければ…君がここに来た理由を、教えて欲しいんだけど…」

 しかし、那珂は依然として俯いたままだ。

「…うん、わかった。今は無理には聞かない。何か話したいことがあったら、気軽に声をかけてな」

 去り際、那珂の絞り出したような声が聞こえた。

「ごめんね、提督…那珂ちゃんのために…」

 その声に振り向いてみたが、やはり那珂は座り込んで俯いたままだったーーー

 

 ーーー川内の部屋

 そっとノックをして、中に入る。部屋の中には川内に加え、神通と響もいた。

「きっと提督が話を聞きに来るだろうって響ちゃんが言ってたからね。それまでみんなでお話してたんだ。」

 と川内。

「そっか、わざわざありがとうな」

「いえ。それよりも、那珂ちゃん…どうでした?」

 俺は神通の問に、首を横に降った。

「…そう、ですよね。」

「川内、神通。一体、那珂に何があったんだ?」

 すると、川内と神通はこう切り出して、那珂にあったということを話してくれた。

「これはね、私たち3人が前の鎮守府にいた時の話なんだけどね…」ーーー

 

 ーーー「SOS信号受信!SOS信号受信!

 〇〇海域にて、輸送船が深海棲艦の襲撃を受けている模様!

 艦隊は直ちに出撃、要救助者の救助にあたれ!繰り返す、直ちに出撃、要救助者の救助にあたれ!」

 那珂たち川内型の三姉妹のいた第29鎮守府に、ある日大本営から、1本のSOS信号が届いた。

 ちょうど当時の主力メンバーであった川内型の3人は、機動力と雷撃力を買われ、救助艦隊に揃って任命された。

 普段は「艦隊のアイドル」としてキャピキャピしている那珂も、こういった任務の時は至って真剣に挑む。ましてや今回は人命がかかっているということで、彼女のやる気もMAXだ。

「救援艦隊、出撃!」ーーー

 

 ーーーやがて那珂たちの艦隊は、現場の海域に着いた。

「輸送船は…あそこだ!」

 川内が指さした先に、小さく輸送船が見えた。時々、船体の至るところに火の手が見える。

「輸送船船長と連絡が取れました!船の状況、搭載の自動防衛システムが攻撃を受け稼働不可、装甲も一部の損傷が激しくなっています!後部ブロックでは浸水も始まった模様!」

 と、その時、船の下から大きく水柱が上がった。

「敵の駆逐艦からの魚雷よ!」

「損傷甚大、浸水が大きく進行!このままでは、轟沈は時間の問題です!」

 

「脱出艇の方は!?」

「まだ損傷はなく、使用は可能です!」

「じゃあとにかく、脱出艇護衛部隊と敵攻撃舞台に分かれよう!」

 那珂の提案で、六人の艦隊は半々に分かれ、那珂たち川内型の3人は船内の乗員の救助を担当することになったーーー

 

 ーーー輸送船内

 船に乗り込むまでの間にも損傷及び浸水は進んでいたようだ。もう長くは持たないだろう。

「船長によると、無事が確認されている乗員たちは操舵室に全員が集まっているけど、まだ6人の安否が不明だって!」

「ありがとう、那珂ちゃん。とにかく船内も狭いし、分散して探しましょう!」ーーー

 

 ーーー数日後「大丈夫ですかー!?誰かいますかー!?返事をしてください!」

 夜戦忍者の異名を持つなど、特に暗所での行動に優れた川内。受け取った船内地図のデータを読み取り、探照灯で素早く下へと進んでいく。そこには…

「助けてくれ!俺は動けるが、こいつの足がやられた!」

 二人組の乗員。片方の人は船の損傷の衝撃で

 足を負傷してしまったようだ。

「怪我をした人は、私に掴まってください!安全な場所に連れていきます!」ーーー

 

 ーーー「救助に来ました!すぐに助けますからね!」

 神通も川内同様、3人の要救助者を発見した。崩れた設備に進路を阻まれて、身動きが取れなくなってしまったようだ。

「すぐに障害物をどかします!」

 艦娘としての力を生かし、神通は素早く3人の道を開けて先導するーーー

 

 ーーー「わかった、残りは1人だね!」

 川内、神通からの通信を受け、那珂は残る1人の乗員の捜索を続ける。

「返事をしてください!誰か!」

 その時、微かなうめき声が那珂の耳に入ってきた。

「こっち…!?」

 障害物をかき分け、既に少しづつ浸水している船の廊下を無我夢中で走る那珂。その先には…

「ここだ…た、助けてくれ…!」

 そこには、苦しげに顔を歪めた1人の乗員。倒れてきた設備に、体を挟まれているようだ。

「待っててください!すぐに助けます!」

 那珂は障害物撤去を試みるが、複雑に組み合っているようで、艦娘の力をもってしてもなかなか撤去ができない。

「艦隊のアイドルを…なめないでぇーっ!」

 那珂は必死に持ち上げ、挟まれている乗員が辛うじて脱出できるほどの隙間を作り出す。

「はやく…!」

「は、はい!」

 どうやら奇跡的に怪我の度合いは軽いようだ。安堵する那珂。

 しかし、次の瞬間…

 

「さあ、早く脱しゅ…きゃあっ!?」

「うわっ!」

 どこか…おそらくすぐ近くで爆発が起こったのか、船体が大きく揺れて傾いた。そして、那珂が気づいた時には…

「ぐっ…う、動けない…!?」

 なんと、新たに倒れてきた障害物に、今度は那珂が挟まれてしまった。

「だ、大丈夫ですか!?」

 自分を案じてくれる乗員。しかし、自分の任務は救助。とにかくこの乗員の命を救わなければならないのだ。

「私はいいから、早く皆さんの所へ行ってください!」

 那珂は躊躇う乗員に、何回もそう叫んだ。そして、なんとかその乗員はこちらを振り返りながらも逃げ去っていった。

「とにかく、私も早く脱出しなきゃ…!」

 那珂は艤装を展開して、力任せにもがく。しかし、覆いかぶさった障害物は自分が抜けられるほどの動きさえも出来ないほど重い。

「どうしよう、どうしよう…!やだ、やだやだやだ…どうしよう…!!」

 水位が上がり、自身の生存率は下がり、冷静さは失われていく。地獄のような状況だ。

「いや…!いやぁっ…!!」

 それでも、もう本能的にもがく。そして…

 

 ガコッ

 

「やったっ!?」

 

 這いつくばるように抜け出す。敵の攻撃による損傷を受けていない那珂の服は、中破した時と同じようにはだけていた。もがきまくったせいだろう。

「とにかく上に!!」

 荒い息。何度も手足が滑る。爆発がどこかで起きる度に船が揺れ、転ぶ。

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…!!」

 登っていたその階段はそれほど長くなかった。しかし、もはやパニック状態の那珂には、それが途方もなく長い時間となる。浸水してくる水は次々と、さっき登ったばかりの階段のステップを飲み込んで行く。その光景が恐怖を増幅させる。そんな中、目の前が突然眩しくなった。

「…出口っ!!」

 那珂は無心で光に向かって走った。

 そして知った。

 それは、出口ではなかった。

 

「出られ…きゃあああああああああああああああああ!!」

 外に出た瞬間、襲いかかる敵艦載機の機銃の嵐。そう、那珂が見つけた穴は、攻撃で、船の側面に空いた穴だった。

「いやぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」

 出口という誤信が、彼女に一瞬の安堵と慢心をもたらしていた。そしてそれらの後に前触れもなく襲いかかる恐怖は、彼女の心をどん底、いや、さらに下にまで簡単に一瞬で追い込んでいく。

 絶え間なく振り続ける機銃弾。かつて敵の空襲によって沈んだ那珂にとって、それがどれほどのものだったかは、他人のいかなる想像をも超えるだろうものだったーーー

 

 ーーー「那珂ちゃんはその後…奇跡的に生還…厳密に言うと救助されました。船の乗員も、那珂ちゃんが助けた方も含め、全員が無事保護されました。しかしその代償として、今でも那珂ちゃんは海に出ることができないほどの心の傷を負ってしまったんです…。」

「今の那珂にとっては、海はもうトラウマ以外の何物でもないんだ…。お願い提督、那珂を…私たちの妹を助けて…!」

 目に涙を浮かべながら懇願してくる2人。響も話の壮絶さに、うっすらと涙目になっている。

 彼女が再び海で、艦隊のアイドルとして躍進できることを、川内と神通は強く望んでいる。

「わかった…やれるだけやって見よう…!」

 俺は強くそう返した。響も強く頷いたーーー




というわけで最後まで読んで頂きありがとうございますm(_ _)m

この章では誰とクロスオーバーさせるか、お楽しみに!
感想や評価もよければお願いしますm(_ _)m
ではまた次回!

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