笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》 作:バスクランサー
物語はまだまだ続くので、どうかこれからもよろしくお願いしますm(_ _)m
本編どうぞです。
大本営本部会議
ーーーその日。
富士山の麓の道路に、何台もの物々しい黒塗りの大型バスが通っていく。
外からは見えることのない客室部分では、様々な国からやってきたであろう人々が、黙って前を向いていた。
沈黙の中、車内にはバスのエンジン音とタイヤと路面の摩擦音だけが響き、雰囲気の異様さをより強くしていた。
やがてバスはトンネルに入る。
しばらく行ったところで、分岐点に差し掛かる。速度をほとんど緩めず、バスは左側の道へと入っていった。
ちなみにここのトンネルは一般道でもあるが、今日は工事という名目の元、「一般車両」は通行禁止となっている。地図を見ても、このトンネルは単に右に緩やかにカーブするだけ。地図にない左側の道へとバスは進み、それを確認したかのように、トンネルは轟音とともに、壁を動かして分岐点を消したーーー
ーーー富士山。世界文化遺産にも登録され、古くからこの日本のシンボルとして、人々に愛されてきた、標高3,776mの言わずもがな日本一の山。
しかし、その山にもう一つの顔があることを知る者は少ない。
かつてのウルトラ警備隊、TACなど、防衛チームの拠点にもなっており、防衛拠点でもあるのだ。
そして今、ここは陸海空の軍、大本営の全てを統括する本部基地となっている。
シークレットトンネルを進んできたバスは、やがて入口と思しき部分で停車する。
そこから降りてきたのは、各国の大本営支部の長官たち。極東支部のサコミズ・シンゴをはじめ、南太平洋支部のアーサー・グラント、西アメリカ支部のラッセル・エドランドなど、古くから世界を守り抜いてきた歴戦の勇士たちが、厳重に警備された入口から本部内へと入っていく。
今日は半年に一回の、各国支部の長官などの重役たちによる大本営本部会議の日。ここに入れるのは、大本営の中でもごく限られた上層部の人間だけである。
しかしこの日は違った。極東支部の海軍・第35鎮守府の提督とその秘書艦・響が、会議出席者の中に名を連ねていたのだからーーー
ーーー「長官、このような機会を頂き、ありがとうございます。」
「礼はいらない。それよりも、報告内容については大丈夫だね?」
待機室で長官と話す。今回俺と響は、レイの件についての報告のため、特別にこの会議に出席することになったのだ。
「時雨、久しぶりだね。元気にしてた?」
「私は元気だよ。
…長官の隣は、譲れないからね。とは言っても、いつもは極東支部直属の艦隊にいるから、隣にいること自体は、そこまでおおくないけどね」
「色々と相変わらずで、安心したよ」
響はサコミズ長官の秘書艦・時雨と話し中だ。ちなみにこの時雨、長官に出会って0.5秒で一目惚れしたらしく、少女マンガを読みまくって、一人称が「私」である。僕っ娘の響、私っ娘の時雨、なんだか一部が入れ替わったようだが、響が極東支部にいた時からの仲良しである
「さて、そろそろのようだ。我々も移動しよう」
「はい、長官」ーーー
ーーー大本営本部 第一会議室
「では、これより大本営本部会議を始める」
大本営のトップ・所謂元帥の男がそう告げて、会議が始まった。
広々とした会議室の中は薄暗く、重々しい雰囲気を醸し出している。
この会議にて話し合われるのは、大方各支部ごとの戦況報告、並びにそこから導き出される地球全体の戦況。さらに、何か新しく判明した事実があれば、それを世界中の大本営支部で共有する場でもある。
「では極東支部、超深海生命体についての進捗状況について、発言を。」
「はい。」
元帥に指名を受け、サコミズ長官が立ち上がる。
「極東支部では現在、レイと仮名を付けた超深海生命体を保護していることは、ここにいる方々も承知のことと存じます。そして、一ヶ月ほど前、城南大学附属物理学研究所の協力のもと、現地点で深海に存在するレイの仲間の超深海生命体との交信に成功しました。
この件について、今回、保護元の第35鎮守府の提督、及び秘書艦の響に、詳細を話していただきます。
色々と意見があるかと思いますが、まずは彼らの話をお聞きくださるよう、お願いします」
サコミズ長官は礼をして席に戻った。いよいよだ。緊張する体を必死に制御し、俺は席から立ち上がった。
「ご紹介に預かりました、極東支部、第35鎮守府の提督です。」ーーー
ーーー高山さんと藤宮さんの協力のもと、レイの仲間の超深海生命体との交信に成功してからというもの、俺達は超深海生命体の現状について聞いた。
その結果、分かったことは。
龍脈のある地点ならば、超深海生命体はどこでもエネルギーバランスの修正を行うことが出来る、ということ。
現在でも、その数は減り続けていること。
少なくなった超深海生命体たちは、身を寄せるようにレイとの交信を行っている地点、ただ一箇所に集まりつつあること。
そしてそれは、敵の密集地のうちのひとつ…
そのど真ん中の海底ということーーー
ーーー「…主な報告については以上です。それから…」
俺は周りに気づかれないように息を整え、この会議で最も伝えたかったことを伝える。
「我々は、サコミズ長官の許可の元…
生き残っている超深海生命体の、救出と保護を検討しています」
静寂に包まれていた会議室が一気にざわめく。
「…静粛に」
元帥の重々しい一言で、そのざわめきはおさまったように見えるが、明らかに先程までと、雰囲気は異なっていた。
「しかし、我々だけでは救出はほぼ不可能です。そこで、無理を承知で皆様にお願いします。
どんなことでも構いません。
救出作戦に、協力できるという方は、いませんでしょうか」
先程とは違い、今度は異様すぎる沈黙がその場を支配した。
「…極東支部第35鎮守府からの報告及び要請は、以上です」
緊張を悟られないように座る。
「では、この件について質問及び意見がある者は、挙手をして述べるように」
いくつかの場所で手が上がる。
「救出作戦について、方法などは決まっているのでしょうか」
「厳しい状況にあり、まだ有効な方法は見つかっていません」
「敵の密集地のど真ん中、とありましたが、そこまで行くこと自体、可能なのですか?」
「周辺の基地や鎮守府に協力を要請する予定でいます」
その後も質問が絶えない。しかも、だんだんと作戦自体に否定的なものが多くなっていく。
「というか、まず超深海生命体自体、助けるほどの価値があるのですか?」
「そこまで超深海生命体なんかに、情けをかける必要があるのですか?」
俺は今にも爆発しそうな心を抑えつつ、なんとか質問に答えていく。終わった時に、机に置かれた水を飲むことも増えてきた。
「司令官…」
「…大丈夫だ」
「風潮もかなり厳しい、無理そうならいつでも私に言ってくれ」
響、サコミズ長官が声をかけてくれる。そのおかげで、なんとかもう少しは持ちこたえられそう…そう思っていた。
だがその幻想は、次の発言でいとも簡単にぶち壊された。
大きな円形の机、ちょうど自分の向かい側に座っていた男が、嫌味たらしくこちらを見ながら口を開いた。
「そもそも、あなたはここがいかなる場所か分かっているのですか?
先程から口を開けば自身の理想論や夢物語ばかり語っていますが、そういったことは全く馬鹿馬鹿しく、そして無駄なんですよ!」
「…!」
「もっと現実に目を向けて、くだらない夢など捨ててからここに来てください?完全で矛盾の無い、我々が納得できるような意見が出来たら、ですが」
落ち着け…落ち着くんだ…!
自分の拳が震えている。俺があいつの顔面を砕いてやろうか、そう拳が訴えている。しかし、そんなことなんかしたら、後どうなるかは明白だ。理不尽だが、ここは抑えねばならない。
「酷い…酷すぎる…!」
響も、いつもの冷静さを失いかねないほどの敵意をその男に向けている。
「確かに…。
これは意見なんかじゃない、侮蔑発言だ…!提督くん、ここは私がなんとかしよう」
サコミズ長官も、表情こそそれほど変わらないが、その語気の中に怒りを容易に見いだせる。そして長官が、席に備え付けてあるマイクを取ろうとした時だったーーー
ーーーバンッッッ!!
静かな会議室に、突如響く大きな音。その場の全員が向き直った、その視線の先には…
机に腕を立てて席から立ち上がっていた、元帥の姿があった。
「さっきから聞いてみれば、ふざけたことをベラベラと…!」
誰がどう見ても激怒している様子の元帥。
先程の侮蔑発言の男は、こちらを勝ち誇った顔で見ている。ほうら、元帥閣下もそう言っているだろう?そう言いたげに。
しかし男は気付いていない。そして彼以外の全員が気づいている。
元帥の視線は、他でもない彼に向けられていることに。
数秒遅れて気づいた男は、顔色を一変させた。
「い、いやしかし元帥殿、彼の言っていることは荒唐無稽ですし、くだらない夢を語っているのは…」
「うるせえ!!」
男にとっては必死の弁明だったが、それは元帥の怒りの炎に油を注ぐことになった。再び机を叩く元帥。その振動で小さくズレた彼の机のネームプレートには、「元帥 ヒビキ・ゴウスケ」の文字が刻まれていた。
「お前は何も分かっちゃいねえ。お前は、俺達が何のために深海棲艦と戦っているのか分かっているのか!?」
「ひぃ…」
蛇に睨まれた蛙とはこのことか、男は先程の余裕に満ちた表情はすっかり消え去り、青ざめている。
「俺達が戦って、人を守るってことは…その人たちの持っている、大切な夢を守るってことなんだ。
お前はそんなことも分からないのか!?」
「あ…ぁあ」
「第35鎮守府の提督の語ってくれたことは、今は確かに実現の可能性は低い。だがよ!
だからって言って、それを可能性だけで、現実性だけで判断していいわけがねえだろ!」
一呼吸置いて、元帥は語り出す。
「前、俺の部下が言っていた。
『夢がある限り、人は前に進めます。どんな困難にも、何度でも挑戦できるはずです』ってな。
あいつは、本当にそれをやって見せたんだ。かつて地球に迫った危機を、あいつは救ってくれたんだ。
今はこの星にはいないだろうが、あいつはきっと今も、この宇宙のどこかで夢を追いかけ続けてる。そして、自分と同じように夢を見る者達を救っているはずだ」
「伝説の英雄、ウルトラマンダイナ…いや、アスカ・シン…」
サコミズ長官の口から、ヒビキ元帥のそのかつての部下の名が、小さな声で呟かれた。
「不完全でもいいじゃないか!矛盾だらけでも構わねえ!人の数だけ夢がある、俺はそんな世界の方が好きだ!
ここは軍の会議室だが、同時に、守りたい夢を、叶えたい夢を語る場所でもあるんだ!本当にここがどういう場所か分かってねえのは…お前の方だ!」
もはやその男のみならず、その周りで、提督に向けて心無い意見をぶつけていた者達までも、顔が強ばっていた。
「くだらねえだの無駄だの、そんな言葉で人の夢を蔑むなんてことは、絶対にやっちゃならねえ事なんだ!そいつだけじゃねえ、周りの奴らも!
もう一度そんなことを言うようなら…すぐにここから出ていってもらうぞ!!」
「す…すみませんでした…」
ガタガタと震えながら、男はおずおずとこちらに頭を下げてきた。それを見届けたヒビキ元帥も、こちらに頭を下げる。
「…中断させてしまい、済まなかった」
「あ、いえ、その…ありがとうございます」
緊張のあまり、言葉が詰まってしまった。しかし、元帥は先程の鬼の形相はどこへやら、とても爽やかな笑顔を向けてくれた。
「そう固くならなくても大丈夫だ…さて。
君の夢の続きを、私に聞かせてくれないか?」
「…はい!」
自分はさらに救出作戦について語った。先程の元帥の言葉もあってか、頭ごなしに否定されることはなくなった。
こうして、波乱もありながら、大本営本部会議は幕を閉じたのであったーーー
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました。
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それではまた次回。