笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》   作:バスクランサー

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ミライさん主人公の番外編でも作ってみようかな、と思っていたりする今日このごろ。

拙作をいつも読んでいただき感謝しております。
今回から千代田の章です。
では、本編どうぞ。


千代田の章
千代田の苦悩


 ーーー「千代田さんか…何があったんだろう」

 近づいてきた大本営の車を見ながら、響が言った。

「これからの関わりの中で理解していくしかないな。

 さて、ご到着だ」

 車のドアが開き、スタッフに連れられて千代田が降りてくる。

「こんにちは、その…千代田です。…よろしく、お願いします」

 …やはり、挨拶にも元気がない。もちろん強要するつもりは無いが、過去のなんらかの理由で、彼女も壁があるのだろう。

「私が第35鎮守府の提督だ。こちらこそ、よろしく」

「秘書艦の響です」

「憲兵のヒビノ・ミライです。」

 軽く挨拶を済ませ、ミライさんに千代田の案内を任せた。その場に残る俺と響。

「…千歳は、いないのか」

「確かにね。パターンからしたら、絶対一緒に来るはずなのにな…。千代田さんは、千歳さんを強く慕う傾向があるからね。」

「…だが、もしかしたらそれこそが、彼女の心の影の部分を解くヒントかもしれない。いずれにしても、しっかり見守ってやらねばな」

 この時、俺はあくまでも勝手な推測のつもりでそれを言った。

 しかし、それは思わぬ形で、当たっていることを後に知ることになるーーー

 

 ーーー「ここが、千代田さんが今日から過ごす部屋です。

 何かあったら、周りの他の仲間や僕、提督さんにいつでも言ってください。」

「あ、ありがとうございます…」

 千代田に笑顔を向け、退出するミライ。ここまでの短い間でも、彼は千代田の異変に気づきつつあった。

「…千代田さん、コミュニケーションをとりたがらなかった。だけど、前の利根さんみたいに、みんなの姿を見て怯える、なんてことはなかったし…」

 あれこれと思考を巡らせつつ歩いていると…

 

「あ、憲兵さんこんにちは」

「やあ、ミライさん」

 ちょうど掃除をしている、レイと長門に出会った。

「二人とも、こんにちは。」

「千代田の案内か?」

「といったところです。」

「様子はどうでしたか…?」

 レイの問いに、ミライは「一応、あまり人に言わないでね」と前置きして、彼女の状況をありのままに話した。

「そうか…」

「まだよくわからないですけど、他の人とコミュニケーションをとりたがらないんですね…」

「僕と話している時も、終始怯えに近いような表情をしていました。」

「…近いような…?」

「…何かが、違うような気がして…」

「そうですか。一応私達も、注意深く彼女に気を配らないとですね。」ーーー

 

 ーーー翌日

 千代田は昨日、夕食のため食堂に訪れたが、結局誰とも話をしないで部屋に帰ってしまった。

 そして今朝の食堂でも、注文などといった最低限の言葉しか話さず、黙々と食事をしていた。もちろん一人で。

「また一人で食べてる…」

「そっとしておくべきか…だが、いつまでもそのままには出来ないからな…」

 俺は千代田に声をかけてみることにした。

「おはよう、千代田。よかったら、一緒に朝ごはんを食べないか?」

「…提督…響ちゃんと2人で食べれば?」

「僕も一緒に食べたいな、千代田さん」

 響の言葉に、千代田は少し考えた後、結局了承してくれた。

「お邪魔します、っと。」

「いただきます」

 しかし、そこからなかなか話は進まず、結局何の進展もなく終わってしまった。

「ごちそうさま」

「…おう」

「またね」

 響がさり気なくまたの機会を作ろうとするも、彼女は一礼だけして去っていった。

「どうするか」

「どうしよう…これじゃ埒が開かないね…」ーーー

 

 ーーー千代田個人部屋

 朝食を食べ終えた彼女。

 何をするでもなく、ただベッドに突っ伏していた。

 頭の中をめぐるのは、過去の後悔。そしてそれは、彼女を自己嫌悪のスパイラルへと誘う。

「千歳お姉…ごめんね…今、どこにいるの…」

 負の念は心に収まらず、言葉にも出てきた。それでも、彼女の心は決して晴れない。

 

「千代田、いるか?」

「千代田さん?」

 ふと、ドアの外からの声。千代田は恐る恐る、といった感じでドアを開けた。

「…何でしょう?」

 そこに居たのは、サイズ違いでお揃いの割烹着を着た、長門とレイだった。ちなみにレイの件は、大本営にて千代田も聞いたことがあり、あまり驚かない。

「休んでいたところすまない。布団とかの交換に来た」

「ちょっとだけ、お邪魔しますね。」

「…どうぞ」

 だいぶこの鎮守府に馴染んできたレイ。用務員としての仕事も、すっかり板についてきた。長門と二人で布団、枕、シーツなどを回収、即座に洗いたてのものへと交換する。

「ありがとうございます、お邪魔しました」

「なんかあったら言ってくれ。よっこらしょ!」

 布団などを持ち上げ、千代田の部屋から出た二人は、入渠場近くの洗濯ゾーンへせっせと歩く。

「…やはり、何も話がなかったな」

「ですね…ん?これって…!」

 レイが何かに気づいた。

「どうした?」

「シーツが濡れてる…。多分これ、涙ですよ!」

「千代田のやつ…だめだ、放ってはおけない。提督たちに知らせよう」ーーー

 

 ーーー執務室

「…そうか。」

「まだ何も彼女のことは知らないが、唯一言えるのは相当の苦しみを抱えている事だ。ここは一刻でも早く話を聞く必要があると思う」

「私も長門さんに同意です。このまま見過ごすわけにはいきません」

「よし、分かった。響」

「ん」

「千代田の部屋に行くぞ」ーーー

 

 ーーー再び 千代田個人部屋

「千代田?すまないが、少し話をしたい」

「…提督?」

 千代田がドアを開けた。若干驚いている。

 まあ、俺の他に響、長門にレイまでついて来ているのだからしょうがない。ごめん。

「邪魔するぞ」

「うん」

 机の周りに五人が腰掛ける。

「…千代田。単刀直入に聞くが…君のことを知りたいんだ」

「………」

「教えて欲しい。君に過去、何があったのかを。」

「…そうだよね。

 どうせ、教えなきゃ、だよね…」

「すまない、辛いことだろうが…俺達もそばにいるから」

「分かった、あのね…」

 

「すみません、提督?ここにいますよね?」

 千代田が話をしだそうとしたタイミングで、ちょうど大淀が入ってきた。

「…その…なんか、ごめんなさい。

 大本営極東支部の方から、提督に電話です」

「俺にか?分かった。

 悪い、ちょっと抜けることになる。

 千代田のことは…頼む」

 響が頷いてくれた。きっと、千代田の件に関しては上手くやってくれるだろう。俺は彼女たちを信じ、執務室へ向かったーーー

 

 ーーー「すまなかったね、突然。」

「いえ。それで、なんの御用でしょう?」

 電話は長官からだった。少し緊張する。

「レイ君の件についてのことだ。」

「…!」

「一応こちらとしても、レイ君のことは心配でね…。今度そっちの鎮守府に、調査員を一人、派遣したいんだが。」

 俺は気づかれないよう、唾を飲んだ。そして言葉を返す。

「あの、調査って…?」

「心配する気持ちもわかるが、大丈夫だ。派遣予定の人はとても優しくて、こういったことに理解があり、経験も豊富な方なんだ。もちろん内容も、カウンセリングが中心で、決して拷問じみたことはない。」

「そうですか。ならよかったです、すみません」

「いやいや。できるだけ早く派遣させたかったのだが、あいにく経歴上人気でね」

「一体、どのような方なんですか?」

 心配はなくなり、むしろ興味の念がわく。

「そうだな…」

 電話の向こうで、長官が一呼吸おいたのが伝わる。

「君はもちろん知っているね?

 

 かつて活躍した、怪獣保護を目的としたチーム。チームEYESのことを」ーーー

 

 ーーーついつい長電話になってしまった。響たちとは、話を終えたのだろう、こちらと廊下で合流する形となった。

「みんな、長くなってしまった。それで、千代田は?」

「大丈夫、話は済んだよ。ただ、やっぱり少し辛そうだったから、今は部屋で休んでる」

「それで提督、お前の方はどうだったのか?」

「そうだな。ここで話すのもあれだし、執務室へ場所を移そう。そこでお互い、情報交換だ」

 

 そして再び執務室にて。

 響たちが、千代田のことを俺に教えてくれたーーー

 

 ーーーかつて第15鎮守府に、千代田は姉の千歳とともに在籍していた。千代田が着任した時、すでに千歳は着任しており、そこの第一艦隊でエース級の活躍をしていた。

 同一の艦娘は基本的に性能は同じだが、たまに他より能力が高い個体が発見されることがある。今は第35鎮守府の明石もそれに当たり、そしてこの千歳もまさにそうだった。

「お姉、これから頑張るから、よろしくね!」

「あなたが来てくれて嬉しいわ、千代田。こちらこそ、一緒に頑張って、海の平和をまもっていきましょ!」

「うん!約束!」

「約束!」

 

 姉に追いつこうと、千代田は必死に日々の鍛錬を重ねた。

 しかし。

 なかなかその成果が出ず、練度がなかなか上がらない。出撃も、ほとんど中破以上の状態で帰ってくることが多かった。提督は優しい人だったから、別段責めることもなかったが、千代田を責めたのは、他でもない千代田自身だった。

 片や第一艦隊で活躍を続ける姉、一方の自分はいわゆる「落ちこぼれ」。そう思い込んだ彼女は、更に鍛錬に励むも、次第に心の闇がそれさえも妨害していった。

 無力感。劣等感。そんな感情が、いつしか彼女の心を支配していった。

 

 塞ぎ込みがちにな千代田の事が、同じ鎮守府の仲間として、そして姉として、千歳は心配だった。大丈夫?声をかける機会が増えた。初めのうちは、千代田もなんとか応答出来ていたのだが、次第にその声さえ聞けなくなった。

 そんなある日…

 

「千代田…あなた、本当に最近大丈夫?」

「…ほっといてよ」

「千代田…?私、あなたのことが心配なの、ね?だから…」

 

「うるさいっ!!」

「!!」

 

「お姉になんか、私の気持ちは分かるはずないよ!どうせ私なんか、お姉みたいにすごい人になれないもん!

 

 もういいから!どっか行ってっっ!!」

 

 ごめんね…そうとしか千歳は返せなかった。

 それから、二人は一切言葉を交わさなかった。いや、とても交わせなかった。

 そして、事件は起きてしまう。

 

「何!?千歳が行方不明!?本当か!?」

 言い争いの件から数日後、千歳は任務のため、第一艦隊のメンバーと海に出た。

 そして…千歳だけが行方不明になった。

 証言によると、突然任務中に冷たく濃い霧が立ち込め、気づいた時には千歳の姿が見えなくなっていたという。

 長時間の捜索も虚しく、彼女は消息不明扱いになってしまった。

 

「どっか行ってっっ!!」

 そんなことを、自分が言ってしまったから。

 もしあの時、言わなければ。

 もし、着任したときのように、お姉と仲良くいられたら。

 タラレバは彼女を極限まで追い詰め、彼女はその心に深い傷を負い、活動が出来なくなってしまったのだったーーー

 

 ーーー「そうか…千代田にそんな過去が…」

「千歳さんの行方不明事件は、数ヶ月前に起きたみたいだ。本当は、心の底では姉のことを強く慕う千代田さんだからこそ、心のダメージが大きかったんだろうね…」

「きっと彼女は、他人を傷つけないために、出来るだけ他人とのコミュニケーションを絶とうとしているのだろう。」

「でも一方で、千代田さんは救いを求めているのかも知れない…彼女を見ていて、何となくですけど、そんな風に感じるんです…。」

 長門とレイからの報告を受け、俺はまだ今なら救える余地がある、と考えた。

「そうだな…。とにかく、彼女を見守り、立ち直らせていくしかないな。」

「そうだね…ところで、司令官。

 司令官にかかってきたさっきの電話、あれはなんだったんだい?」

 おっと、千代田のことですっかり忘れかけていた、危ない危ない。

「そうだ。その件なんだが…」

 俺は先程の電話の内容を簡潔に伝えた。レイも最初こそビクビクしていたが、最後には安心して、調査に同意する意向を示してくれた。

「ちなみに司令官?

 その人って、どんな人なんだい?」

「ああ…

 元怪獣保護チーム・チームEYES隊員で、今は地球から遠く離れたジュランという惑星で、怪獣保護に当たっている人でね。

 

 春野ムサシさん、というそうだ」ーーー

 




というわけで今回も読んでいただきありがとうございました!

感想や評価、良ければ貰えると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします!
ではまた次回!

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