笑顔は太陽のごとく…《決戦の海・ウルトラの光編》   作:バスクランサー

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最近更新が遅れておりすみませんm(_ _)m

一応この章での主役は利根とミライさんです。

それから、今回精神的に結構残酷な描写があるので、苦手な方は無理しないでください。

では本編どうぞ。


忌まわしき記憶の果て

 ーーー医務室

「ん…こ、ここは…?」

 利根は目を覚ました。知らない真っ白な天井が見える。

「吾輩はいったい…

 えーと、確か、部屋で…そうか…倒れたんじゃったっけ…」

 ふと、隣を見る。そこには、ベッドに寝かされた、馴染みの妹の姿が。

「!?ち、筑摩!?どうしたのじゃ、しっかりするのじゃ!」

 

 ガチャリ

 

 不意にドアノブの回る音。

「ひぃっ…!!」

 ドアの方を見ないよう、布団にこもってうずくまる利根。医務室に入ってきたのは…

「利根さん、気がついてたんですか、よかった。でも静かに…筑摩さんが起きちゃいますよ」

 水の入ったグラスを二つ載せたお盆を持つ、ミライだった。

「…はぁ、はぁ…なんじゃ、憲兵殿か…びっくりさせるでない…」

「ごめんね、急に。まだ寝てるかなって思って」

「いや…わしの方が勝手に驚いただけじゃ…こちらこそすまぬ」

 利根は布団から顔だけを出した。すると隣のベッドから声。

「筑摩…!」

 筑摩の目が覚めたようだ。

「ここは…?えーと、私は…はっ!」

 先程のことを思い出したのか、筑摩は素早く利根に振り向く。

「姉さん、大丈夫ですか!?」

「わしも今起きたところじゃ…体の方は心配せんで大丈夫じゃ」

「そう、ですか…良かったです…」

 利根の無事を知り、ほっとした筑摩はミライの方を向いた。

「憲兵さん…先程は大変申し訳ないことを…」

「大丈夫ですよ筑摩さん、気にしないでください。

 …昔のことが、フラッシュバックしてきたんですよね」

「…はい。その、通りです。本当にすみませんでした…」

「…筑摩?お主、何をしたんじゃ?」

 質問を受け、自分の先程の件を利根に説明した筑摩。それを聞いた利根は、驚きはしなかったものの、暗い顔をして俯いてしまった。

「吾輩のせいで、筑摩のことも煩わせてしまった…こんなの姉失格じゃ…やっぱり吾輩は…出来損ないの能無しだったんじゃ…」

 利根は先程の筑摩のように、大粒の涙をこぼしながら嗚咽を漏らし始めた。

「利根さん…」

 ミライは利根の隣に腰掛けた。

「もし、利根さんが良かったらだけど…あなたの身に何があったか、僕にも話してくれませんか?」

「…え?」

 それを聞いた利根は、少し考え込む素振りをした後…

「吾輩も、このままは嫌じゃから、ここに来た訳じゃ。

 …頑張って、憲兵殿に話してみるのじゃ」

 俯いたままでも、その瞳には恐怖感と戦う覚悟がしっかりと見てとれた。

「…ただ、その代わり…」

 利根はミライと筑摩を交互に向いた。

「やっぱり吾輩1人では無理じゃと思うから…吾輩の両の手を、2人に握っていてほしいのじゃ…頼めるか…?」

 その問への答えは…無言で、ミライは利根の左手、筑摩は右手を握る。

「2人とも…ありがとうなのじゃぁ…!」

 感極まったのか、再び涙を流す利根。それから話されることになる、利根の過去を考えれば、これも無理もないことだったーーー

 

 ーーー利根は、無人島に設けられた第102泊地に配属された艦娘だった。時期的には、まだ戦いが始まってから一年が過ぎようとしていた頃だった。

 当然、深海棲艦に奪われている海域は今よりずっと多く、加えて泊地という条件のため、必然的にそこは激戦地だった。

 配属された利根も、ほんのわずかな練習航海の後は、すぐに戦場へと駆り出されるような状況だった。

 

 そんなある時、大本営極東支部から大規模作戦の報が各鎮守府に届いた。

 当然その泊地も対象となり、近くにある敵の主な拠点を叩くこととなった。

 中大破者が毎日のように出ながらも、なんとか攻略を進めていき、遂にあと1歩で作戦完遂というところまで来た。

 そして、万を辞して送り出された最終攻略連合艦隊。利根もその内の1人だった。

 

 これまで以上に強大な深海棲艦が、艦隊の行く手を阻んでいく。しかし艦娘たちは、その意地で強引に突破して行った。そして、敵拠点の最奥部近くまで到達した。

 当然ここに来れば、いつどこから敵が襲ってくるかわからない。今まで以上に索敵の重要性が増す。

 航空巡洋艦へ既に改装されていた利根は、水上偵察機を用意した。数隻の空母も艦隊にいたが、既に撃ち落とされている。利根の索敵機がまさに頼みの綱だった。

 

 が。

 

「…!?ど、どうしたんじゃ…!?これ、動け!動くのじゃ、おい!」

 ここに来て、利根のカタパルトが、原因不明の故障を起こしてしまったのだ。

 史実においてカタパルトに不安があった利根は、この日のために何度も何度もチェックを重ねてきた。だが、いくら利根が呼びかけても、カタパルトは作動しない。周囲の仲間達の不安気な視線は、無意識に利根を追い込んでいく。

 

 そして、一番恐れていたことが起きた。敵が襲って来たのだ。体制が整わないうちに戦いに突入した艦娘たちに、勝ち目があるはずも無く、ほぼ全員が大破して帰還した。当然、海域の完全奪還は果たせなかった。

 命からがら鎮守府に帰還する途中、利根はみんなに謝った。仲間達は、戦いにトラブルはつきものだ、次こそ奪還しよう、そう利根を励ましてくれた。

 

 しかし、これが利根の地獄の日々の始まるきっかけとなってしまった。

 その泊地の提督は、異常なほどの完璧主義者で、鎮守府に艦隊が帰投するなり、張り手一発を利根に食らわせ、大声で怒鳴りつけた。利根も泣きながら、土下座までして謝ったが、怒りが収まらない彼は、その後もずっと利根を痛めつけた。

 さらに翌日、利根が仲間と話そうとすると、そこを偶然通りかかった提督が、無理やり2人を引き離したのだ。

「あいつのせいで作戦失敗になったのを知らないのか!?恥晒しと関わろうとするな!」

 利根は何も言えなかった。仲間も言い返したが、「上官反逆罪で解体するぞ」の言葉に、黙り込んでしまった。

 それから、そんな日々が毎日続いた。執務室への呼び出しは提督からの暴行の合図。そこに他の艦娘がいようがお構い無し。誰とも関わることを許されず、更には提督が仲間に指示し、仲間の手で暴行、暴言を受けることもあった。もちろん仲間も本心では無かったが、提督の前では逆らうことなどできず…利根は一人ぼっちになった。

 

 そんな中、そこの泊地で建造されたのが筑摩だった。姉を強く慕う性格の筑摩は、すぐに利根の受けている仕打ちに気づいた。提督に直談判しても他の仲間と同じように突き放されたが、ならばと彼女は、なんと言われようとひたすら利根を支え続けた。提督に怒鳴られようと、毎日、毎日…

 

 そしてその思いが通じたのかもしれない。

 当時、少し前に起きた、第11鎮守府での金剛の事件(第一作参照)、さらにブラック鎮守府横行などを受け、大本営の憲兵制度が始まったのだ。もちろん第102泊地にも憲兵が配属され、すぐにそこの提督は更迭された。

 

 しかし、利根の心の傷は癒えず、筑摩とともに大本営に引き取られた。提督はもちろん、本心ではないにしろ暴行を受けたことにより、仲間に対してもとてつもない恐怖感を今も持っている。筑摩も、大切な姉を傷つけられたことにより、他人を信じることが出来なくなった。

 だが、自分があの状況から逃げ出せるきっかけになった憲兵に対しては、僅かながら信頼を寄せているのだそうだ。

 そして、大本営の方で長きに渡る休養期間を経て、着任可能と彼女たちの同意の元に判断され、今日ここ、第35鎮守府にやって来たーーー

 

 ーーー利根はそう語る中、何度も何度も、深呼吸をしたり、呼吸が荒くなったりした。言葉は何度も途切れ、泣いていて、一度聞いただけでは何を言っているか分からない所もあった。

「利根さん…」

 ミライも地球にいた時、少なからず仲間との衝突はあったが、利根の受けたことはそのレベルを遥かに超えていると彼は思った。

 彼女に今出来ることは、何だろう…。

 ふと、利根が絞り出すように言った。

「ここの提督も、仲間も、前にいたところの様なことはしないと、本当は吾輩も筑摩も分かっておるのじゃ…でも、でも…どうしても昔の事が…!

 吾輩はっ…吾輩はいったいっ、どうすればいいのじゃぁ…!!」

 ついに限界を迎えたのか、大声をあげ号泣してしまう利根。

「姉さん…!」

 筑摩も、利根を握る手が震えている。助けて、そんな心の声が痛いほどミライに聞こえてくる。

「2人とも…教えてくれてありがとう。

 これからは、僕が2人を守るから」

 偽りのない、心からの言葉。ミライは、そのまま2人が泣き止んでもずっと、彼女たちを見守り続けたーーー

 

 ーーーその夜

「…そうか、そういうことが…」

「……」

 俺はミライさんから利根の話を聞いた。響は震える腕で俺の服の裾を掴んでいる。

「とにかく…俺からも全力でサポートはするが…今回の療養については、基本的には君に一任したいと思っている。大丈夫かな?」

「はい!頑張ります!」

 ミライさんの瞳に燃える使命。

 こうして、彼と利根の奮闘の日々が始まったーーー




今回も最後まで読んでいただきありがとうございましたm(_ _)m

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暑くなってきたので、熱中症、日焼けにご注意を!←日焼けで鼻の水膨れが酷い筆者より

ではまた次回!

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