オケアノス。かつてアレキサンダーが夢見た最果ての場所であり、それは凄く簡単に言ってしまえば、大いなる海と幾らかの孤島があるだけの特異点である。
そんな場所でロクサーヌたちは、そこに居た海賊たちや敵サーヴァントやらをしばきながら、旅をしていた。
その中でカルデアは、幾らかの協力的なサーヴァントたちと出会った。
例えば、
健脚の女狩人、アタランテ。
ゴルゴン三姉妹が次女、エウリュアレ。
女神の寵愛を受けし狩人、オリオン(とその女神アルテミス)。
そして、イスラエルの偉大な王にしてソロモン王の実父、ダビデ。
全てのサーヴァントと仲良くできたわけではないが、この地においても一定の味方は確保できたのであった。
ここで特筆すべきは、アタランテであろうか。
曰く、彼女はアルゴーノーツとして、聖杯を所持したイアソンに召喚された。
曰く、彼の計画に賛同できず、彼の元を離れた。
曰く、イアソンの下には王女メディアと、狂ったヘラクレスがいる。
彼女により、この特異点における大体の状況を把握することができたのであった。
さて、問題はヘラクレスである。何しろ彼はギリシャ神話最強の、それどころか星の中でも屈指の実力を持った、もの凄え大英雄である。
彼は賢者ケイローンに師事した頭脳と、大神ゼウスの血を引いた男なら誰もが憧れる肉体美を持っている。神のあらゆる難題を解決し、最後には神へと祭り上げられからこそ
バーサーカーとして狂っているとはいえ、いや、狂っているからこそ、彼は危険なサーヴァントとなっている。
そんな彼に近接戦闘で勝てる英雄は存在しない、と言っても過言ではなかろう。
とはいえ、カルデアはそんなことが分かりきっていて、ヘラクレスに近接戦闘を挑むことをしないのである。
幸い、こちらには遠距離攻撃に長けたサーヴァントが多い。という訳で、ヘラクレスをアルゴー船ごと撃ち殺してしまおう、という訳になった。
相手がヘラクレス、アルゴー船といえど、倒すための火力は恐らく足りていることだろう。
神代出身のアーチャーが数人いて、おまけにカルデアの面子がいるわけである。
ギルガメッシュもヘラクレス退治と聞くと、カルナに“英雄殺しの弓矢”とやらを貸し与え、高みの見物を決めこんだ。
ギルガメッシュこそ参加しないが、その弓矢を見たギリシャ勢が、顔を引きつらせていたので、恐らくは大丈夫であろう。
「ねえ、おうさま、おうさま」
「ん? どうしたんだい?」
と、各々が戦いの準備をする中。ロクサーヌは、暇そうにだらけているダビデに話しかけていた。
彼は簡素な服を着ていて、だらっと杖と投石器を持っている。それがダビデという男であった。
ダビデはアーチャーとして召喚されており、巨人を倒した逸話を持つ投石器を宝具として持っていた。その名は“
これも立派な飛び道具だとはいえ、他のサーヴァントが持つ宝具と比較すると大した威力の宝具ではない。まあ、この程度のものでヘラクレスが倒せるなら、人理修復も苦労はしないのである。
そんな訳で彼は、自分が手を出すまでもないであろうと、適度に怠けているのであった。
しかし、彼の象徴たる宝具はまた別にあり、そして本人の真価はそのどれらでもないのだが、さて。
「おねがいが、というよりたのみがあるのだけど。このちのしゅうふくが上手くいったら、カルデアにきてくれないか?」
それを聞いた彼は、改めてロクサーヌの姿を見る。
「へえ。僕が欲しいってことかい?」
どうも、目の前のマスターはホムンクルスと言う存在らしい。ダビデは生前、このような存在に出会ったことはない。
与えられた知識によると、彼女は完成している美だということらしいが、中々どうして悪くはない美しさだ。ぜひ、自分の妻に迎えたいところである。
「うん。それはまた今度ってことで」
カルデアの提案を、彼はあっさりと断っていた。
断られるとは思っていなかったのか、ロクサーヌは間抜け面を晒していた。
「どうして?」
「そうだなあ」
わざとらしくうんうん唸りながら、ダビデは考える素振りを見せる。
あまりの露骨さと阿呆らしさに、ロクサーヌの傍で様子を見ているアンデルセンの顔が歪む。
「はっきり言って、君たちには僕の力が必要には見えなくてね。なら、僕が居なくてもいいかなーって」
現段階においてカルデアの持つ戦力は、数は少なくとも十分強力なサーヴァントが揃っている。
全ての英雄の原点にして頂点である、英雄王ギルガメッシュ。
ギルガメッシュが同格と認める誇り高き英雄、太陽神スーリヤの仔であるカルナ。
ギルガメッシュが“それなり”に認める詩人、世界三大童話作家アンデルセン。
意外なことにも文武両道であるケルト版ヘラクレス、狂王クー・フーリン。
それらを支えるのはカルデアのシステムと、完成された神の作りしホムンクルス、ロクサーヌである。
この面子が揃っていて、打ち勝てない存在というのも、それこそサーヴァントをも遥かに超えるような存在だけであろう。
「でも、王さま」
「そこなんだよね。君は僕のことを、王さまって呼ぶだろう?」
ロクサーヌはそこで何かに気づいて、口を開けっ放しにする。
彼が死後も王であることに縛られるのが嫌だ、と言っていたことを思い出したのだ。
「ごめん」
「いいさ」
ダビデは、気にしている様子も見せずに軽く笑って見せる。
「でも、僕はサーヴァント、ダビデだ。ダビデ本人ではないし、それ以上でも以下でもないんだよ。人類最後のマスターちゃん」
それに対して、ロクサーヌは首を傾げる。
「どういうことをいいたいの?」
「うん。良い質問だ。そうやって質問をする子は偉大だよ」
ロクサーヌは、サーヴァントという存在を人一倍理解している存在ではある。
しかし、それも完全ではなかった。
彼女は多少、サーヴァントというものを誤解しているのであった。彼女と言えど少々、サーヴァントに夢を見すぎているところがある。
「君は自分の奴隷である王様が欲しいのだろう? でも、考えてごらん。カルデアの最後のマスターがそれでいいのかい?」
「それは、アンデルセンにも言われた。がんばろうとはおもうけどさ。でもどうしてなのだろう。おれにはよく分からなくってさ」
サーヴァントは人の夢と希望の詰まった存在である。本来の役割は人類側の守護者。その力は綺羅星の如く輝かしい。
そして、それを従えるマスターには、それ相応の力量が求められる。人理修復とまで至れば、さらにその難易度は跳ね上がる。
「おうさま、いや、ダビデが王さまをやりたがらないのはしってるよ。でも、おれがじぶんの王をほしがるのが、そんなにだめなのかな」
これはロクサーヌが怠惰、という訳ではない。本人は人理修復に向けてやる気を出し、必死に頑張ろうと努めている。
ただ、正直な所、ロクサーヌにとって、人理修復の使命はそれでも重過ぎるのだった。
元々、本人の精神状態は一杯一杯な所もある。
そこから、誰かに縋ろうとするのは、何ら不思議ではないはずである。
彼女のサーヴァントが指摘していたように、それは正しいとは言えないのであるが。
「オルガマリーしょちょうは、なんであそこでしぬべきだったのかな」
そういう意味で、オルガマリーが生きていた頃はロクサーヌもそれなりに安定していたのだ。オルガマリーは駄目な点を多く抱えていたが、それでも責任はきっちり取ろうとしていた。トップの彼女に身を委ねることで、ロクサーヌは精神の安定を図っていたのだった。
しかし、今のロクサーヌは縋るべき人物がいない。
カルナはロクサーヌを完全に主と認めているが、その英雄性故に人を導く素質が欠けている。
アンデルセンも主の下僕であるが、実際はかなり好き勝手に創作活動をしているだけだ。
ギルガメッシュは暴君だ、縋ろうものなら無価値と判断し、処されることだろう。
クー・フーリンは狂乱の王として、ただ戦うのみである。
Dr.ロマンとレオナルドは心理的に近いのだが、二人は二人で忙しいのだ。
ロクサーヌは二人の様子を見ると、とても縋ることはできないでいる。
「うーん。でも、一応君は人類最後の希望なんだろう?」
「うん」
「つまり君は、人類の全てを背負うべき存在なんだ。そんな君が誰かに縋ろうとするなんて、駄目な話じゃないかい? 危機が迫っているのに責任者が負うべき責任から逃げるなんて、とんでもないだろう?」
ロクサーヌは己の不満を、喉を鳴らすことで表現した。
「まあ、そうなのだけどさ。でも、おれがしゅじんこうだなんて、やっぱりにあわないとおもうんだよ。あたまはわるいしさ」
「頭の良し悪しなんて、大いなる問題の前には些細な問題さ。君の元にも王様と呼べるサーヴァントが複数いるようだけど、いずれも君に判断を委ねているだろう」
「それはおれしかいないからだし。おれもやりたくてやっているわけじゃないんだけどなあ」
「でも、君が背負わなければならないのさ。未来は断じて、死人が背負うべきものではない。それが今、ここに生きるものの務めだよ」
結局のところ、死人に責任を求めても、死人はどうもこうもできないのだ。
今ある問題は、今に生きている人間か、未来の人間に託さなければならない。
そして、未来は、今ここで切り開くしか託すことは出来ないのだった。
「いやだなあ。おれもしにたくなってきたぞ」
「君には同情するよ。この戦いなんて失う物のほうが多いよね」
ダビデは、優しく微笑んだ。
「でも、きっと終わった後は好き勝手にできるって。多分、主もそう言っているよ」
「おい、惑わされるな。マスター。コイツは適当なことを言って、お前を言いくるめたいだけだ。絶対、これ以上の仕事を背負いたくないだけだぞ」
アンデルセンが横やりを入れる。そして、カルナたち他のサーヴァントも主人の元へ近づく。
「だが。この男の言っていることは概ね正しい。誰かを頼ろうとするのは良いことだ。だが、誰かに縋ろうと醜い姿を見せるのは、サーヴァントのマスターとして相応しくない。いい加減誰かに、契約を打ち切られるかと冷や冷やしていた所だ」
カルナにそう言われても、ロクサーヌは困惑するばかりだった。
言っていることは大まかには分かるのだ。今の自分には何かが欠けているのだと、そんなことは分かっている。
だが、自分の何が間違っているのか、根本的に何をすればいいのかが分からなかった。
「えー。まえもおもったけど、たよるとすがるはどうちがうのさ」
「君は君自身の王さまであるべきなんだと思うよ。それに多分、君に与えられている“それ“はそういう方向なんだと思うのだけど、違うのかな?」
その言葉を聞くと、ロクサーヌは俯き、何かを考え始めた。
自身の持つ力について、何か思う所があるらしかった。
「ま、そもそも僕らが王であるならまだしも、人様の奴隷であるなんてのも、ちゃんちゃら可笑しい話だよねぇ。僕は仕えるのに慣れてはいるけど、今回は御免だね」
「ほう? 良く在る雑種かと思ったが、貴様は中々に賢き選択をするではないか、羊飼い?」
「古の英雄王サマに褒められるなんて、光栄だねぇ。はっはっは」
ギルガメッシュはダビデと共に、共に笑いあった。
「ところで、マスター。思っていたのだが、俺に何の不満があるのだ?」
「え? な、な、どうしてわかったの?」
「こいつの知恵に縋ろうということは、つまりはそういうことだろう。現状に不満があるとしか思えん」
アンデルセンが、鋭い口調で責め立てる。何故、俺たちを信頼しないのか、と。
「えー。アンデルセンだって、おれはどうわさっかにすぎないって言ってたじゃん、で、月ではじっさいその通りだったじゃん。カルナやクー・フーリンだって、さくにほんろーされてばっかだったんだし。ギルガメッシュはまんしん王だし。ダビデのおうさまをかんゆうするおれのせんたくは、なにがまちがっているのさ」
ロクサーヌとしては、カルナやアンデルセンは頼りになるとは思っているのだ。
思っているのだが、正直、不満や不安がないと言えば嘘になる。
ただ、本人たちの人生や来歴を知るロクサーヌとしては、彼らを頼り続けていいのか疑問には思っているのだった。
「そうか。そうか。そうだな」
アンデルセンは今まで見たことのないほど俯いている。
ロクサーヌが見るに、どうやら面倒くさいおっさんの心を傷つけてしまったようだった。
「ごめん。アンデルセン。おれがむしんけいだった」
「いや、お前の懸念は当然だ。俺もお前にはどうも、主人公性がないと思っていた所なんでな」
アンデルセンとロクサーヌは、ダビデの方を見る。
見つめられても、ダビデは何でもないように笑っているばかりである。
「大丈夫。僕なんかがいなくたって、今の君が間違えなければ、きっと人理は守られるだろう。この程度の試練も楽々と超えてみせるだろうね」
話は第四特異点、死の霧に包まれたロンドンでの話になる。
そんな特異点に召喚された者(というか他の召喚に無理やり付いてきた)の中に、玉藻の前というサーヴァントがいる。それは狐耳で、妖しく着物を着こなす女性の姿をしていた。
玉藻の前といえば、日本三大妖化生の一角であり、紛れもなき反英霊である。その美貌と博識から帝の寵愛を受け、人でない故に追われ、撃たれた怪物。
とはいえ、彼女には人知れぬ生まれがあった。
彼女こそは天照大神の一部にして生まれ変わり。人に憧れた御魂のなれの果てであるのだ。
そんな彼女の望みはただ一つ、生前と何ら変わりなく、人に尽くすこと。
そんな思いを秘めて彼女はイケ魂を欲せんと、旅行感覚でこの世に彷徨い出たのであった。
「え、えーと。へーい、かのじょ。おれでだきょうしない?」
だったのだが。これはどういうことなのだろうか。
目の前には、明らかに何所ぞの神による、作りもののマスターの姿があった。
背後には、どいつもこいつも月で見知った顔である奴らが揃っていた。
というかこの場に、自分と同じ太陽神の系列が二人もいるのはどういうことなのだろうか。太陽神の威光はそんなに安いものだったのか。
コイツ等、何かがおかしい。カルデアの面子を見て、玉藻の前はそう思わざるを得なかった。
「えーと、何でしょう? 新手の
「そう」
どうやら、冒頭の台詞はナンパであっているようだった。マスターがナンパということは、どうやらサーヴァントである自分を欲しているらしい。
「なるほど。ですが、どうして私でしょうか? それだけの戦力が揃っているなら、私、要らなくないですか?」
言っちゃあ何だが、玉藻の前はそんなに強いサーヴァントではない。
太陽神の系列であるが、化生扱いであるし、何よりキャスターでしかない。
超級の呪術使いではあるが、自分で自分の能力を嫌っているのも相まって、強いサーヴァントとは言えないのだった。
玉藻の前としての頭脳や美しさぐらいは誇れるだろうが、そんなのをこの場で誇ってどうするのか。
未知魍魎の策略も、傾国の美しさも、古今東西から見ればありふれたものであろう。
「それでもきみが欲しいんだ」
「えーと。その、そこの。これはどういうことですか?」
とはいえ、これは理由を聞くべきだろう。玉藻の前は、アンデルセンの方を向いた。
「久しぶりだな。いや、この場合初めましてか? 俺に何の用だ、狐耳」
「確かに、時系列的に面倒くさいですけど。それで、彼女は“何”ですか?」
これは説明不足であったが、人理が崩壊した以上、システム・フェイトの状態は極めて不安定な状態にある。
故に、サーヴァントが本来知りえない自分の可能性を知っていたりと、通常なら不可解なことが起こり得る。
玉藻の前がアンデルセンたちを知っているのも、その一環である。
「とうとうボケたか? 何って、サーヴァントのマスターだろう」
「そういうことを聞いているんじゃねーですよ」
アンデルセンはむかつくぐらいに深く、ため息をついた。
「見損なったぞ。お前は人一倍人を見る目があるのだと、評価していたつもりだったのだがな」
「そりゃあ、私も人を見る目はそれなりに自信があると思っていますけどー」
玉藻の前は眼を細めた。
「彼女、本当に人というか、ただのホムンクルスって訳でもないですよね? 見た感じ、こっち側の存在じゃないですか」
「お前もそこまでは見抜けるのだな。こちらとしてはだからどうした、と言いたいところだが」
「アンタ達が付いているのは納得できますけど。英雄王? よくコレに憑こうと思いましたね?」
彼女としては、ギルガメッシュ以外の彼らが、仕えるものとして一流だと知っている。
だが、どうしてもギルガメッシュの存在がおかしかった。コレクターにして孤高の裁定者たる彼が、存在が二・三流のマスターの元に附いているのは考えにくいのである。
「フン。此れも戯れよ。其れに、貢物が一流と為れば断る謂れは無いのでな」
「ああ、道理で。羽振りは良さそうですもんねぇ」
英雄王サマはどうやら“何か”を鑑賞中のようだ。
彼は人の業をも愛する孤高の王である。傾国の美女たる玉藻の前からしても、どうせ禄でもないことだろうが。
「で、どうするのだ? 契約しないのか?」
「ぬぬぬ。どうしましょう。見た感じ、どっちかっというとイケ魂というより、イケモンですし。でもー。ここを逃せばこれ以上の出番がー」
何やらぶつぶつ独り言を繰り返す彼女。
そんな中、アンデルセンが頭を下げた。
「こうやって、お前に頼み込むのは甚だ遺憾であるが。頼む。マスターのサーヴァントになってくれ」
そんな彼の姿に、彼女は僅かながらに驚く。
「何で、また。私なんかに。他にもっと良いサーヴァントがいるでしょうよ」
玉藻の前は、眉を潜めるばかりである。
「こちらも我がマスターからの情報で、候補は幾らか吟味しているのだがな。それでもやはり、お前や色ボケ皇帝ほどの逸材というのは中々おらんのだよ」
「それは何を根拠に? まさか私の体が目当てだとか?」
「それも否定はせんがな。お前がいるとマスターは色々と楽が出来るだろうな。俺もサーヴァントの端くれだ、俺なりに主人の体を気遣ってやりたいのだよ」
カルデアは人理修復のため、日々サーヴァントの検討を行ってはいる。
出来るだけ対応力を挙げるために、色んなサーヴァントを抱えたい所であるが、それでもカルデアがサーヴァントを簡単に増やさない理由がある。
まず第一に、サーヴァントを増やせば増やすほど、ロクサーヌの負担が増えることがまず問題となる。
第二に、今のカルデアで上手くやっていけるサーヴァント、というのが結構難しいのである。
現状でカルナとギルガメッシュがいる時点で、下手したらクー・フーリンですら霞む程度の戦力である。
つまり、下手なサーヴァントは邪魔なのである。
勿論、性格的な問題もある。
例えば、特異点セプテムでのネロは良いサーヴァント候補であった。
しかし、ネロ本人がロクサーヌとギルガメッシュを嫌っていたことで、結局は触媒を貰えず仕舞いであったのだ。
サーヴァントも人間だ。人類皆友達を実践するのは、中々に難しいのだった。
「さて、俺が思うに、お前は俺が持っていないものを持っていると感じている」
「私が、ですか」
「率直に言おう。お前の宝具と頭脳が欲しいのだよ」
玉藻の前は、カルデアから見ても合格点なサーヴァントであった。
規格外相当の呪術使いであり、その能力は防御と補助に向いている。
その宝具は“
本人自身も仕える者として相当に心構えができていて、頭も切れる。補助役、あるいは参謀役として、今のカルデアでも十分に機能することだろう。
「後衛ですか。でも、貴方と英雄王がいれば、私はいらないのでは?」
「バッカ、お前。アレと童話作家に何を期待しているのだ? そもそも俺があの月で何を残せたと思っているのだ?」
玉藻の前と比較するに、アンデルセンは“はずれ”とも言っていい。
著作にちなんだ魔術もどきは扱えるが、実力はキャスターとしての平均を下回っている。
宝具は一人の人間を完成させる力があるが、本人が気難しく、完成には時間と当人の素質が必要である。
仕えるものとしては一流だが、元々がそんなに頭が切れるほうではない。彼の特異性を勘定しなければ、補助役としてはるかに玉藻の前に劣るであろう。
「月での俺は、俺なりに良い、いや、俺にとっては最高のマスターに出会うことができた。だが、思えばそれでも正直、お前たちには負けて当然だったと思っている。俺のような三流では、キアラに、魔王の役しか用意出来なかった」
彼の人生は苦難と絶望に満ちていながら、何とか己の光を見出そうとあがいている。
アンデルセンとはそんなサーヴァントであるのだ。死してその在り方は変わっていない。
月の聖杯戦争では、己のマスターを神へと近づけ、そして“最弱”のマスターたちに敗北し、潰えることとなった。
仮初の肉体にはその記憶が刻み込まれている。
「お前は、月での記憶をはっきりと持っていないようだが。あの“ご主人様”とやらに出会う予感はあるのだろう? 俺が思うにあれは、凡庸だが
「それを持ち出すのは卑怯でしょうよぅ」
だが、サーヴァントとして最低の幸運を持つ、この惨めで哀れな下僕にも、己のプライドというものはあるのだ。
サーヴァントとしてあるからには、己の
彼はひねくれ者ではあるが、読者への奉仕精神というのを心得ているつもりであった。
「このマスターは結構なロクデナシだが、まあ、これでも人間のために戦うような存在だ。どうだ。これも練習と思って仕えてくれないか?」
しばらく玉藻の前は考えていたが、やがて、大きなため息とともに頷いた。
「はあ、わかりました。これを逃せばしばらく暇でしょうし。私が人の役に立てるのであれば、異存は我慢しましょう」
「すまんな。感謝する」
こうしてロクサーヌのサーヴァントに、玉藻の前が追加されたのであった。
アンデルセン「さーて、来週の人理修復は? やめて! カルナの