神転オリ主で人理修復をする話   作:倉木学人

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カルナさん描くの面白い。面倒だけど。

6/4 指摘により、戦闘表現をちょっと修正。ついでにサブタイを修正。


巨人の足跡と騎士の王

 カルナがライダー、メドゥーサのシャドウサーヴァントを撃破した。そのことで、オルガマリーは大喜びであった。

 助けを求めて召喚させたサーヴァントが、見事サーヴァントとしての役割をしっかり果たしたのだ。

 これ以上の何を望もうか。

 

「すごいじゃない! 流石は私のサーヴァントね!」

 

 そう褒められても、カルナは顔色一つ変えずに淡々と事実を口にする。

 

「それほどでもない。神々より授かりし武装と身体、そして師から授かりし技が良かっただけだ。あと、オレは貴女のサーヴァントではないのだが」

 

 カルナは相手の本質を見抜く眼力と、優れた洞察力を持った英雄である。

 この英雄にあらゆる虚偽は通用しない。

 正に、天成の嘘発見器である。

 

「私はコイツの上司なのよ! カルデア所属のサーヴァントは私の管理下にあります。だから私に従いなさい!」

「その通りだ。お前はマスターの王だ、天文台の統領よ。しかし、己の武器を手にしたことがそれほど嬉しいのは分かるのだが。己を律することができないのは、魔術師として失格ではないのか?」

「そ、そんなことはないわよ」

 

 しかし、何でも見抜いてしまうが故か、ある不都合がある。

 この英雄には、その場の空気だとか、言葉を飾るとか、隠すだとかという概念がないのだ。

 つまり、コミュニケーション能力が欠落している。

 見抜いたことをそのまま口に出したり、自身が思ったことを口に出さなかったりするのだ。

 

 オルガマリーにとって、カルナの存在はありがたい。

 間違いなく、カルナは強力なサーヴァントだ。

 その武勇は申し分なく、優れた品格を持ち。そして何なりと申し付け下さいと言わんばかりの腰の低さを持っている。

 これ以上の使い魔を想像することはちょっと難しいだろう。

 ただ、もうちょっと。自分に気遣いができるサーヴァントが欲しかったのだと、思わないでもないが。

 

「よかった」

 

 ロクサーヌも安堵していた。

 彼女は召喚により呼ばれるサーヴァントが、完全にマスターに従う訳ではないと知っていた。

 

 だが、そう考えても、決してカルナは自分を裏切るまい。

 彼にとっては乞われるままに行動すること、そしてそれに伴う強敵との戦いだけが望みであるのだと。彼女は知っている。

 そうしたサーヴァントを引き当てたことが、とても心強かった。

 

 自らの行いにより、危機が一旦は去ったこと。

 サーヴァントの手を借りたとはいえ、脆弱な自分でも戦いの場に立てるのだ。

 そう思うと微かに勇気が湧いてくる。

 

「ヒュウ。やるじゃねえかお嬢ちゃん方」

 

 男の声がして、その人影が前方から現れる。

 敵か、とロクサーヌは思ったが。それならカルナが気づく。

 カルナが存在に気づいていて、それでいて何も言わなかったことから、相手に敵意は無いのだろう。

 

 水でなくエーテルで構成された人間、そして影ではない格を持ったサーヴァント。

 その姿にも、ロクサーヌは見覚えがあった。

 

「クー・フーリン?」

 

 いかにも魔術礼装らしい杖を持ち、ローブを羽織った青髪の男。

 ケルト神話の大英雄にしてルーン魔術の使い手、魔術師(キャスター)のサーヴァント、クー・フーリンであった。

 

「おい、嬢ちゃん。何故俺を見ただけで分かった?」

「ひい。あの。その」

 

 ケルトの大英雄のすごみにロクサーヌは質問に答えることができず、ただ、口を開け閉めするばかりであった。

 彼女には誰かに言い辛い、秘密の事情がある。

 厳密には、言っても信じてもらえないであろう、であるのだが。

 

「マスターはお前の正体を見抜いただけだ、光の御子よ。そう気にするまでもあるまい」

 

 とはいえ、相手を見抜くことに長けた人物というのは、神話の時代においてそこまで珍しい者でもない。

 ここで言えばカルナがそうであり、あまり著名ではないが預言者と呼ばれる存在がそうである。

 とはいえ、じゃあなんでそんな人物が現代にいるのか、という問題があったり。相手を見抜ける眼を持った人間が、信用に値するかといえば、また違うのだが。

 

「まあ、いい」

 

 クー・フーリンは納得したわけではないが、恐らく聞いても無駄であろうと思った。

 怪しいが別に敵意はない。

 何より目の前の、恐らく自分以上の力を持つ高潔な戦士が、とても嘘をつくとは思えない。自分より父なる太陽神の威光を感じる、というのもある。

 この男は信用に値するだろう。そうして杖を収めた。

 

「あんた等の実力を見込んで、頼みたいことがある」

 

 そうして、クー・フーリンは現状を語り始めた。

 聖杯戦争のあらましと、それに伴うサーヴァントたちのこと、そして、この地に起きた怪奇についてを。

 

 

 

 

「よく来た」

 

 鍾乳洞の中、暗闇の甲冑を身をまとった女騎士が立っていた。

 彼女の名前はアルトリア・ペンドラゴン。

 性別は伝承とは違えど、彼女こそがブリテンの騎士王、アーサー王その人である。

 

「お前たちの求めるものはここだ」

 

 そうして、アルトリアは自身の背後をその剣で指した。

 そこには宵に光る巨大な水晶体、聖杯戦争の象徴たる聖杯が鎮座していた。

 

 彼女は祖国の救済という、生前と何ら変わらぬ願いを叶えるために聖杯を求め、この地の聖杯戦争に参加していた。

 その最中、彼女は戦争に勝利することなく、何者かに聖杯を与えられていた。

 

 しかし、そうして手に入った聖杯は、まともなものではなかった。

 彼女の体は呪いに汚染され、無限に湧き出る聖杯の魔力をもって戦争の秩序を崩壊させ、揚句街を壊滅させた。

 カルデアが観測した冬木の異常は、彼女の持った聖杯が原因であるのだ。

 

「しかし、今は私のものだ」

 

 勿論、彼女もこんなことがしたかった訳ではない。現に、聖杯の暴走はこの街を崩壊させたが、世界を崩壊させるほどではない。

 彼女も元々、根っからの善性の英雄である。

 こんなことはしたくない。のではあるが。

 彼女はどうしても、聖杯というものを手放すことができないでいた。

 

 元々、聖杯を求めて参加した身であるのだ。

 どれほど、祖国にこの聖杯があれば、と思ったことか。

どれだけのものを切り捨てて、これを得ようとしてきたと思っているのか。

 そう思うと、捨てるに捨てれなかった。

 

 まあ、そういった思考も、呪いのせいかもしれないが。

 ただ、聖杯を持っていながら聖杯が欲しい、という思いは間違いなく本物なのだ。

 

「奪ってみるがよい。……できるものなら」

 

 とはいえ、自分を操るものが、この事態の黒幕として控えているのも事実なのだ。

 少なくともそれは聖杯というものを持っていて。それなりの格と力を持っている自分を操るような輩である。

 自分程度、ここで超えてもらってもらわねばそれはそれで困る。

 まだ彼女たちの運命は始まってすらないのだということに、彼女たちは気づくべきなのだ。

 ここは、超えるべき壁として、彼女たちに立ちふさがろう。

 

 だが。だが、そうして負けることは。自分が聖杯を諦めてしまうということと同義ではないのか?

 私は、全てを諦めているのか?

 

 彼女は自身の心というものを見失いながら、それでもなおサーヴァントとして、立ちふさがろうとしていた。

 

「ああ、そうしよう。理想を追い求める中で潰え、なお諦めきれずに理想を求める円卓の王よ。そのあがきは見るに耐えん。今こそ、その任から解放される時だ」

 

 アルトリアはカルナの言葉に眉を潜め、その身に纏う魔力を増大させる。

 膨れ上がるプレッシャーにロクサーヌは、ひい、と小さく悲鳴を上げた。

 目の前の王からは、己の誇りを傷つけられたことに対する怒りと、己の意思を曲げないという強いメッセージを感じる。

 ロクサーヌはアルトリアのことも知っていたし、クーフーリンから聞かされていたものだが。それでも目の前にすると、恐怖を感じるものがある。

 

「おい、伊達男! お前も出てこいよ。隠れて奇を狙おうったって無駄だぜ」

 

 クー・フーリンが叫ぶと、アルトリアの背後から男の形をした影が出てくる。

 彼の名はエミヤ。

 無名の英雄にして本来は人類の抑止力、守護者の任にある男である。

 

「やれやれ。私のことは御見通しかね。どうして分かった?」

「冗談はよせ、錬鉄の英雄よ。オレと光の御子の眼を誤魔化せると思う理由の方がないはずだが」

「私も本気で思っている訳ではないのだがね」

 

 そう言ってため息を見せるエミヤ。

 彼は聖杯戦争に弓兵(アーチャー)として参加しており、とっくに敗退した身だ。今はアルトリアの命に従い守護する、シャドウサーヴァントである。

 とはいえ、彼はシャドウサーヴァントとして、比較的理性を保っている方である。

 ライダーたちのように破壊や殺戮に対してやる気がある、という訳ではない。

 

「これも仕事だと言いたいが。まあ、なんだ。それだけの力がそちらにあるのだ。彼女を早く楽にしてやってくれたまえ」

「準備はいいな。構えろ」

 

 そうしてここに、聖杯を求める戦いが始まった。

 

 

 

「流石だな」

「それはこちらの台詞だ」

 

 アーサー王の逸話といえば聖剣エクスカリバーとその不死をもたらす鞘が有名。あとは、聖槍ロンゴミニアド、乗騎、そして円卓の騎士たちが有名だろう。

 しかし、彼女がサーヴァントとして落とし込んで召喚される以上、それら全ての再現は不可能である。

 剣士(セイバー)として召喚された彼女は、彼女自身の事情もあり、聖剣とその仮初の鞘のみを武装としていた。

 

 しかし、それでもアルトリアは一級のサーヴァントである。

 セイバーというクラスの高水準の身体能力、魔力放出による能力のブースト、神秘の濃い時代の英雄という格、そして身体能力を底上げする龍の因子を持っている。

 極めつけは聖剣エクスカリバーと優れた直感。

 この剣は星の一振り、この宝具の真の力を解放すれば倒せぬ敵はほとんどいない。

 また、直感により戦術において常に最適解を叩き出すことが可能。

 数あるセイバーの中でも、彼女は最上位に位置することのできるスペックを持っている。

 

 だが、カルナは超級のサーヴァントである。

 ランサーという身体能力に秀でた者が選ばれるクラスの身体能力、魔力放出による能力のブースト、神代の中の神の血を引く者にして死後に神と一体化したという最高の格、それに神々すら恐れた武勇を持っている。

 極めつけはその槍と鎧。

 この槍はインドラより鎧と引き換えに渡されたものであり、一回きりではあるが使えば神すら殺して見せる。

 鎧も既に述べたように太陽神より賜れた太陽の鎧であり、神々をして破壊は困難を極める。

 数あるランサーの中でも、彼は最高に位置することのできるスペックを持っている。

 

 簡単に言って、ただ打ち合うだけで、アルトリアは押すに押されていた。

 ランスロットに負ける程度の武の腕しか持たぬ彼女では、神代の中でも武勇に優れた彼と打ち合うことができない。

 彼女は状況を見抜く優れた直感を持ってはいたが、それは最適を打ってしても彼に勝てない、という事実を示していた。

 そして、最大の問題が彼の鎧。これにより、彼女が何とか一撃をカルナに入れたとしても、ほとんどダメージが通らないことを意味する。

 

「オラオラオラァ!」

「くっ」

 

 エミヤもまた、クー・フーリンに押されていた。

 

 エミヤはその特異な才能により人類の抑止力に見込まれ、守護者の任についている。

 その才能はあらゆる武具を解析し、複製するというもの。

 その才能の蓄積と豊富な戦闘経験から、どんな相手でもそれなりに戦えるという強みがある。

 

 とはいえ、現代生まれの人間であり、しかも今はシャドウサーヴァント。

 

 相手であるクー・フーリンは、影の国の女王スカサハに見込まれるほどの才を持つ、ケルト神話最高の男。

 そのルーン魔術の才能も非凡のものではない。

 戦闘が苦手な傾向にあるキャスターというクラスでありながら、その戦闘の才は十分に発揮される。

 

 エミヤは剣を撃ちだし、クー・フーリンはルーンの炎を撃ち出す。

 互いに万全な状態ではなかったが、元々の格の違いもあり、エミヤは防戦一方に回っていた。

 

 援護としてスケルトンや竜牙兵が差し向けられたりしているが、これは戦闘の余波で簡単に吹き飛んだり、あるいはオルガマリーにより打ち取られている。

 

「武具など不要、真の英雄は眼で殺す!」

 

 カルナの眼力により、インド神話を代表する必殺技、梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)が放たれる。

 アルトリアの背後には、エミヤ。彼にはこの一撃に耐えられまい。

 そもそも、この攻撃は追尾性であり回避不能。

 その身と剣で、そして魔力放出を最大に加えて、かろうじて攻撃を受ける。

 そうして決して軽くないダメージが、アルトリアの体に蓄積することになる。

 

 おかしい。

 この技はもう三度目だ。

 なぜ。なぜここまで力を出し続けられる。

 

 アルトリアも聖杯を真剣に求めるサーヴァント。

 負けを心のどこかで望んでいるとはいえ、戦いに手を抜く理由など、どこにもない。

 勝利への策を練って、戦いに挑んだはずであった。

 

 カルナに代表される超級のサーヴァントの最大の欠点は、その燃費につきる。

 基本的にサーヴァントというものが魔力で編み出されている以上、その動力には魔力が必要である。

 つまり、優れたモンスターマシンを動かすには、相当の代償が必要なのだ。

 現代の魔術師では、例え一流の魔術師であって、何かしらのバックアップを受けたとしても、カルナという超級のサーヴァントを動かすには長期間の維持は無理なはずなのだ。

 

 聖杯という無限の補給線がこちらにあり、相手はそれに劣る補給であるはずである。強力だが燃費の悪いカルナに頼るカルデアは、短期決戦を決めるしかない。

 だからこそ、エミヤの特性により、カルナというサーヴァントが召喚されたと知らされた時。エミヤをここに残し、籠城により相手の消耗を待つ作戦を選んだのだった。

 

 聖剣の力を積極的に解放する、という作戦も考えてはいた。だが、解放には大きな隙ができる以上、そこを相手が突いてくる、というのも考えられる。

 元々、アルトリアは多くの蛮族を退けた逸話からして、防戦向きの英雄である。

 ならばこうして持久戦を選ぶべきであるはずなのだ。

 

 しかし、こうして戦闘が長引いても未だ、カルナの動きは熾烈を極める。

 こちらは魔力放出を全力で防戦しているにも関わらず、である。

 あちらも魔力放出を、多少の加減が見て取れるが、それなりに用いているようだ。

 

 アルトリアがカルナの背後を見ると、そこには苦しみながらも魔力を供給し続けるマスターの姿があった。

 直感的に、彼女は相手のマスターの性質を見切っていた。

 

「マスターが、魔力供給に特化したホムンクルスか」

「その通りだ。我がマスターは身体以外、殆ど不要ではあるが。こうしてオレ達に魔力を供給することができる」

 

 さて、どうしたものか。それを聞いてアルトリアは考える。

 これでは、持久戦を選んだ意味が薄いではないか。

 アルトリアの直観は、あちらの魔力が尽きる前にこちらが撃たれることを示していた。

 

 今思えば、己の認識が甘かったのだ。

 自分はそもそも、聖杯の維持のために全力を尽くそうとしていたのか?

 

 今更になるが、聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは七基であり、それぞれが異なるクラスを持っている。

 剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)槍兵(ランサー)騎兵(ライダー)魔術師(キャスター)狂戦士(バーサーカー)暗殺者(アサシン)

 セイバーたるアルトリアは、キャスターを除く他のサーヴァントをシャドウサーヴァントとして支配下に置いている。

 アーチャーたるエミヤは現在、この場において戦闘を行っている。

 バーサーカーはなんとヘラクレスであるのだが、バーサーカーとしての狂化とシャドウサーヴァントとしての欠損、ヘラクレスという格によりアルトリアにも制御が出来ず、結果森へ放置している。

 ランサー、ライダー、アサシンは、シャドウサーヴァントとなったことで理性のほとんどを失ったためマスターに特攻し、結果容易く打ち取られてしまった。

 キャスターは打ち取ることが出来ずに、こうして敵に回ってしまった。

 

 この場においては、アサシンの損失が痛かった。

 この場にアサシンがいれば、戦線の維持に集中しているマスターを狙って、打ち取ることが出来たはずだった。

 アサシンの語源たるハサン・ザッバーハがいれば、容易く出来たはずのことではあったのだが。

 

 何でアレは理性を失って特攻などしたのか、アルトリアには理解できないでいた。

 アレは己の神に仕える、恐るべき狂信者ではなかったのか。

 何を殺戮に飢えた怪物もどきに成り果てているのか。

 

 実のところは、これも無理もない話ではあるのだが。

 この地に呼ばれたアサシンは山の翁の一人、“呪腕のハサン”と呼ばれた男である。

 男はその能力の一環として、自己改造という能力を持っていた。

 これは、自分の肉体でないものを自分の肉体にくっつける、という能力である。

 強力な能力ではあるが歪であり、そんな力を持つ者がまともな者、まともな英雄のはずがない。

 結果として、英雄の格を大きく落とすことになる能力なのだ。

 今、彼が血に飢えた暴走機械となっているのも、英雄としての格が低いが故に、理性を損なってしまったからであるのだ。

 

 因みに、エミヤも格が低い英雄なのだが、彼は理性を保っている。

 彼は例外の多い男である。それと抑止力の守護者であることも関係しているのだろうか。さて。

 

 いや、話が逸れた。話を本筋に戻そう。

 

 それでも思えばアルトリアは、もっと聖杯維持のために、使える戦力を保持しておくべきであったのだと考える。

 聖杯は万能の願望器にして、無限の魔力の窯である。

 発揮できる出力は持ち主により限度があるが、それでも尽きることのない魔力は大軍の維持という難題を容易くこなす。

 自分は聖杯を用いて、扱いやすくて便利な怪物を召喚するなり、円卓の騎士を召喚するなり、失った聖剣の鞘を探すなりして、防御を万全にするべきであった。

 四騎のサーヴァントを劣化させて手元に置き、容易く蹴散らされるスケルトンや竜牙兵程度を大量に作り出したぐらいで万全だと思いあがった、自分の失敗だった。

 

「なるほど。認めよう。私では貴様らには勝てないということを。貴様らは私を撃つに相応しい刃を持っているのだと」

 

 撃たれて当然なのだろう。

 聖杯などという、生前得られずじまいだったものを得たことで、自分は浮かれすぎていたのかもしれない。

 こんな王など、撃たれて当然なのだろう。

 

 それをアルトリアは理性と感情により納得していた。

 

「だが私としても、ここで諦める訳にはいかん。これを守るものとして、その鎧の守り、試させてもらうぞ!」

 

 それでも、彼女に戦うことを止めるという選択肢はなかった。

 戦士として、戦いを放棄することはできず。

 騎士として守るべきものを守るために立ちはばかる。

 何より、王は役目を果たすものなのだ。

 

 この程度の苦難、生前も経験したことだ。

 この程度で諦めるほど、騎士の王は軟弱ではないということを知れ。

 

「卑王鉄槌! 極光は反転する。光を飲め!」

 

 魔力放出により瞬時に距離を取り、聖剣を大きく振りかぶる。

 万策は尽きた、ならばその場で出せる最大の力を放つまで。

 聖杯から魔力を受け、己の最大の状態を引き出す。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!」

 

 この剣は星の一振り。

 持ち主の思いを乗せた、闇の波動が放たれる。

 その思いでカルナを、そしてマスターたちを飲まんと、襲い掛かる。

 

「れ、令呪をもって、命ずる」

 

 だが、切り札を持っているのはカルデアでも変わりはない。

 ロクサーヌは令呪による絶対命令権により、サーヴァントの能力をブーストすることができるのだ。

 

「守って!」

「了解した、マスター。この身では足りぬかもしれないが、オレはお前の盾となろう」

 

 カルナはマスターの前に立ち、そうして襲い掛かる闇に向かって、躊躇なく身を投げた。

 

(アグニ)よ。そして、父よ」

 

 その身に宿す炎を最大限まで放出する。

 襲い掛かる闇を、消し飛ばさんとする程に。

 その姿はまさに闇を照らす太陽のごとく。

 

「やはりか」

 

 聖剣を放った後、いかなる敵も残るはずはなかったのだ。

 少なくともアルトリアの生前ではそうだったのだ。

 そうして多くの、ブリテンを狙う蛮族共を葬ってきたのだから。

 

 しかし、その男は聖剣の波動を受けて、なお立っていた。

 理解はできないでいたが、それでも納得はしていた。

 これがカルナという英雄であるのだと。

 

 この男の特筆すべき点は、その英雄としての精神力なのだ。

 

 かつて、哲学者ニーチェは言った。精神とは肉体の奴隷にすぎないのだ、と。

 ガッツがあれば何でもできるという精神論があるが、どうしても無理が生じるのが普通なのだ。

 肉体は精神を支えるが、精神は肉体を支えることはできないのである。

 

 だが、この英雄は精神で肉体を、ある程度だが支えることができる。

 彼は自らの血肉でもあった鎧を、乞われただけで差し出した男。

 それだけの確固たる意思と行動力、それに伴う実績を持っているのだ。

 

「令呪をもって命ずる、倒して!」

「わかったぜ。そらよ、とっておきをくれてやる。燃やし尽くせ、炎の巨人!」

 

 敵は大技の一撃を放った後である。

 ならばこちらも大技を放ってその隙をつき、相手を打ち倒すまでである。

 事前に打ち合わせた通り。ロクサーヌは二つ目の令呪を切った。

 

灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)!」

 

 クー・フーリンにより木の枝で出来た、燃え盛る巨人が現れる。

 これはドルイドたちの宝具。

 巨人は神々への生贄を求め、アルトリアたちをその腕と胸をもって包まんとす。

 

「我が骨子は捻れ狂う」

 

 だが、アルトリア側もそれを黙って見ているわけにもいかない。アルトリアは再び聖剣に魔力を集中させているが、エミヤは未だフリーである。

 エミヤは今出せる、最大の火力をもってこれに対抗しようとする。

 その弓につがえるのは、ケルト神話の魔法剣。

 

偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)

 

 捻じれた剣が巨人へと襲い掛かる。巨人と言えど、それを受け止めきれるか怪しいほどの。

 

 さて、実際に直撃し、巨人が倒されたならば、また戦闘は拮抗状態になるのだろうか。

 実際は、そうはなるまい。

 アルトリアは聖杯という無限の魔力の窯を持っている。つまり、もう一度、聖剣の波動を放つことができるのだ。勿論、サーヴァントの出力の関係上、今すぐとはいかないのだが。

 それでも、これをしのげば。あの一撃を、もう一度繰り返すことが出来るはずだった。

 

「真の英雄は眼で殺す!」

 

 だが、カルナがここで動いた。その身体は聖剣の直撃を受けてすでにボロボロ。

 それでも英雄としての精神力で体を動かし、捻じれた剣へと技を放つ。

 

 眼光は剣に直撃し、大きな爆発を起こした。辺り一帯は煙に包まれる。

 

 

 アルトリアたちの視界が晴れると、目の前には炎の巨人が、今まさに、自分たちを包まんとしていた。

 

「見事だ」

 

 炎の巨人に抱かれながらアルトリアは微笑みを浮かべて呟き、そうして二人は炎に飲まれていった。

 

 ロクサーヌたちの視界が晴れると、そこには炎と僅かなエーテルの残骸が残っているだけであった。

 

 今、ここに、この地の復元が終了したのであった。


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