神転オリ主で人理修復をする話   作:倉木学人

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男の子なら特に理由はなくとも、世界を救ってみたくなりますよね?
え? ならない?


本編
神々の黄昏と魔術師と造花と聖人と


 あるところに、可愛らしいお人形さんがいました。そのお人形さんはとある貧乏な男が持っていて、まるで人間のように世話をしていました。男はそのお人形さんに、恋をしていたのです。男は常にこう言っていたものです、

 

「ああ、この愛しい子が人間だったのならなあ」

 

 ―なんと、馬鹿馬鹿しい。

 

     ~とある作家の書いた、捨てられたメモより~

 

**

 

 花は枯れ、鳥は墜落し、空は辺り一面と共に焼かれ続けている。

 

 日本という国は、世界において稀にみる平和な国の一つであるはず。なのだが、そんな片田舎の冬木の街、その全体が今、燃えるに燃え盛っていた。

 そこには昨日まで、平和な街並みがあり、そこにいる人たちが暮らしていたはずなのだ。しかし今は、その全てを燃料とせんと燃え続けている。

 この光景を、一体だれが想像できようか?

 

 しかし、魔術師という人間だけは知っている。彼らは言うであろう。これは神秘の仕業である、と。

 この世に隠れ住む神秘は、ある時いとも簡単に、我々の日常を崩壊させるのだと。神秘を扱う人間である彼らは知っているのだ。

 

 まあ、知っているからどうにかなる、かというと、それはまた別であるのだが。現に、この街に住む魔術師は、皆仲良く焼け死んでいる。

 

 焼けた街に人影は無く。代わりに骸骨の化け物であるスケルトンと、人の形をとっただけの影たちが。この世の終わりを示しながらにうごめいている。

 

「なんで、なんでなのよ」

 

 街の中に彷徨い人が一人。

 彼女の名前は、オルガマリー・アニムスフィア。

 この街の異常を事前に察知していて、対策を取っていた魔術師たちの一人である。

 

 ただ、本来ならば彼女は現場で指揮を執る人間ではない。最重要地にこもるべき、最重要の指揮官であるのだが。

 

 ことの始まりは2016年、標高6,000mの雪山の地下、人理継続保証機関カルデアから始まる。

 カルデアは、魔術と科学を融合させるという、魔術の徒として異端の試みを行っている機関でもある。そうした技法の結晶として、過去の英霊をサーヴァントとして従える、時間旅行を行うなどの、優れた技術を持っていた。サーヴァントを従えるマスターの力を持って、時間旅行により歴史の異常を正し、人類滅亡を防ぐ。それがカルデアの任務だった。

 彼女はこの地、この時代における事態を察知し、マスター候補となる魔術師たちを集めていた。そうして彼らの統領として演説を行っていたのだが、そこで謎の爆発に巻き込まれた。そして、気がついたら2004年、冬木の街にいたのであった。

 

 わけがわからない。

 なぜ自分は爆発に巻き込まれたのか。

 なぜ自分は適正のなかったはずの時間旅行(レイシフト)を行っているのか。

 なぜ自分は一人でいるのか。

 

 彼女は混乱の中で誰かに助けを求めようと、人無き街を彷徨っていた。

  

 そうして探し回り、必死に隠れ、歩き続ける中、幸運にも人間は見つかった。

 

「レフ! レフなの!?」

 

 オルガマリーは自らが信頼する副官の名を呼ぶ。

 ひょっとしたら、ひょっとしたら彼がここにいるのかもしれない。そんな期待を抱きながら。

 

 しかし、それはレフではなかった。だが、見知った顔ではある。

 

 それは豊満な肉体を病人服で身を包んだ女性だった。

 白磁の肌と肩まで伸ばした髪、くすんだパールの眼を持っていて、ぼうっと突っ立っている。

 彼女はカルデアが外部から購入したホムンクルスであり、一応はカルデアのマスター候補の一人だった。

 マスター候補ではあり、一応は魔術を使えるのだが、信頼がおけるほどの魔術師ではない。

 彼女は魔術師と呼べないし、魔術使いと呼べる程の腕前やら、心構えやらを持っている訳でもない。

 

 その実、身体は完璧ながら精神は脆弱であるのだ。彼女に何があったのかはオルガマリーは予想はつく。恐らく、聞きたくもない目にあってきたのだろう。

 とにかく、この場において、その眼は現実を直視できているか。かなり怪しい所である。

 オルガマリーの姿を見ても眉一つ動かさずに、何をするでもなく。茫然とその顔を見つめている。

 

「っ! しっかりしなさい! ロクサーヌ! マスター候補のくせに、そんな姿を私の前に晒さないでよ!」

 

 ホムンクルス、ロクサーヌの姿を見たオルガマリーは、カルデアの所長としての姿をなんとか取り戻した。

 このホムンクルスの情けない姿を見て、これと同じ醜態を晒すのが嫌だ。せめて自分だけでもしっかりするべきだ、と感じたのであった。

 自分より劣るものを見下し誇りを得るという、ある意味で魔術師(人間)らしい認識を用い、魔術師オルガマリーとしての姿を取り戻すのであった。

 

「ごめんなさい、所長。あー。うん。ごぶじ? でしたか」

「ふ、ふん。それでいいのよ」

 

 細く小さい声で、ロクサーヌは呟いた。

 ロクサーヌとしては、いつもと変わらないようには見える所長の姿を見て、ようやく多少なりとも安心することができたのだった。

 彼女の存在はどうであれ、自分にとってとても、心強かった。

 

 オルガマリーとしても、一安心ではある。マスター“候補“とはいえ。サーヴァントのマスターとなりうる人材が、この地において見つかったのだ。

 オルガマリー自身がマスターとなれるのであれば、それはそれで良かったのだが。残念なことに彼女は、マスターとしての資質が無かった。

 これで後は、ロクサーヌにサーヴァントを召喚させれば、この事態の調査と解決に向けて動き出すことができるはずである。

 

「所長」

「何よ」

「おれは、どうしたらいいのでしょうか」

 

 それを聞いたオルガマリーは、自分で考えなさい、と言いかけるがそれを寸前で飲み込む。

 それをこのホムンクルスに求めることは酷だからだ。その真っ白な頭に、自体の深刻さを考えるだけの知能と知識があるのかどうか。彼女はそう、思い出した。

 

 とはいえ部下としては、何も間違った行動ではない。上司が指示を出し、部下はそれに従う。ロクサーヌは頭が悪いが、オルガマリーを上司として認め、その指示に従順だ。他のマスターである魔術師たちのように、下手に小賢しく、勝手なことをされるよりは遥かにマシであった。

 

 オルガマリーは考える。さて、自分たちは何をすべきであろうか。

 

 現状は、何が起きているのか、さっぱり分からないままだ。歴史の特異点たる冬木の街にレイシフトした、というのは分かっている。

 だが、それ以外は以前として不明のままだ。

 

 とはいえ、状況は最悪の一歩手前でまだ留まっている。一応は予定通りに、現場の指揮官が居て、マスターがいる。

 ここは本来の予定通りに行動を起こしていくべきであろう。

 

「まずは、ベースキャンプの作成ね。これから霊脈のターミナルを探します。そこで、カルデアとの連絡を取り、取り寄せた召喚サークルを基にして、英霊の召喚を行います」

 

 まずは情報収集だ。必要な情報を集めるのと、そして、身の回りの安全を確保しなければならない。

 安全の確保、つまりは英霊の召喚だ。

 

 そう、英霊の召喚。

 過去の英雄をサーヴァントとして使い魔に落としこみ、使役する。その力は使い魔として最高クラス。戦闘が本分ではない魔術師にとって、この上ない剣となり盾となる。

 その技術をもってカルデアは、人理を修復しようとしていたのであった。

 

「ベースキャンプってどこでしたっけ」

「貴女。そんなことも覚えていないの?」

 

 オルガマリーはあまりの部下の使えなさに、ため息をついた。

 

 そうして、ベースキャンプを作るため、二人は移動していくことになる。霊脈のターミナル、つまり魔力の集積地を使ってカルデアとの通信を取り、カルデアの召喚システムを呼び出すために。

 

 道中、骸骨の化け物と遭遇することはあったが、そこはオルガマリーでどうにかなるのである。

 彼女は魔術師として優れている。

 つまり、優れた由緒ある魔術の家に生まれ、優れた才能を持ち、優れた教育を受けている。そうした環境の中で、神秘に対抗するための神秘は当然、相当に身に着けているのである。

 スケルトンといえど、所詮は現代生まれの怪物。神秘をたいして持たぬ素材が、現代の魔力に中てられて生まれた存在である。神秘は古いほど強いのだ。つまり、このスケルトンの実力など、たかが知れているのである。

 神秘を積み重ねてきた優秀な魔術師である彼女が。現代生まれの有象無象の怪物を倒すぐらいの技量は、もって当然のことであった。

 

 そんなオルガマリーの姿に、ロクサーヌは心打たれているのである。

 オルガマリーのガンドの魔術により、スケルトンは崩れ落ち、動かなくなる。そうして、自分の安全は保障されるのであった。

 なんとも現金なもので、ロクサーヌの中のオルガマリーの株は、上がるに上がっていた。

 

 とはいえ、オルガマリーは内心穏やかではない。

 彼女は思わずにいられない。どうして指揮官の自分が前線に出て、こうして部下の安全を守っているのだろう、と。普通逆ではなかろうか。戦うのは部下で、守ってもらうのは指揮官たる自分だろうに。

 戦うことの出来ない箱入り娘を思わせる、ホムンクルスのことが嘆かわしくてたまらない。本来なら自分も箱入り娘のはずなのに。自分は保護されるべき存在であるはずなのに。

 

 ああ、本当に嘆かわしい。

 さらに悲しいことに、オルガマリーは一流の魔術師でありながら、何故かサーヴァントのマスターとしての適性を持ち合わせていなかった。それが、どんなに魔術師として屈辱であったことか。

 それに反してこのホムンクルスは、魔術師としては三流以下でありながら、マスターの適性を十二分に持っているのだ。

 カルデアにもサーヴァントは所属しているが、そのサーヴァントは魔術師(キャスター)のサーヴァントだ。つまりは、自分との関係はあくまでも、魔術師としてのそれである。

 

 自分はあんなに頑張ったのに。どうしてぼんやりしたコイツなんかが。サーヴァントは自分をマスターとして認めないというのか。どうして皆、もっと自分を認めてくれないのか。

 それが情けなくて、泣くに泣けなかった。

 

 とはいえ、それももう少しの辛抱である。

 コイツがサーヴァントを召喚してしまえば、自分はサーヴァントのマスターのマスターである。

 つまりは、自分が間接的に支配しているサーヴァントができるのだ。自分に忠実な、最強で最高の使い魔が手に入るのだ。

 

「ここでつうしん、するのですか?」

「ええ。そうよ」

 

 オルガマリーは苛立ちを隠さないままに肯定する。

 ここで立ち止まったのだ。言わなくとも、ここをベースキャンプにするのだと分かるだろうに。

 

 ああ、ここにレフが居てくれたのなら。

 彼なら自分が何も言わなくても、言いたいことを察して従ってくれるのに。

 

「ほら。さっさと通信しなさい」

「わかりました」

 

 カルデアの持つ全ては科学と魔術の結晶である。

 そうしたカルデアのマスターに配られた制服は、魔術の触媒、魔術礼装としての機能を持っている。

 ロクサーヌの着ているそれも勿論一級品である。が、カルデア統一規格のものではない。本来、持ち主がレイシフトの前線に参加する予定がなかった故に、礼装としての機能は兵士のものではないのだ。

 その礼装は正しく病人のそれであり、着用者の精神安定に機能を大きく割いている。

その機能の一つとして、通信機能は含まれていた。老人のヘルスモニタリングと理屈は一緒である。持ち主に何かあった時のため、常にカルデアと通信を取れるようにはなっているのであった。

 

 通信を取ると通信相手のDr.ロマンにより、ある程度情報が手に入った。

 謎の爆発により、カルデアスタッフの多くとマスター適性者の全てを失ったこと。

 生き残りの中でも位の高い人間がDr.ロマン以外に存在せず。医療部門トップのDr.ロマンが、現在カルデアの指揮を執っていること。

 カルデアの機能も大きく低下し、辛うじて現状を維持していること。

 

「わかったわ。では最優先で、召喚用の礼装をこちらに送りなさい」

『へ? でも、レイシフトの修理が終わってませんが』

「あのねぇ。私にはサーヴァントがいないのよ! どうやって、私の身の安全を確保するっていうのよ!」

『あ、そうか!? 所長もロクサーヌも、レイシフト予定になかったからか! 了解しました!』

 

 これで事態を把握することはできた。

 しかし、現状は過酷である。地獄のようなこの場所で、恐らくは届くのに時間がかかるであろう、救援物資を待たなければならないのである。

 

 この現状でこれから原因を探るにしても、今は流石に無謀が過ぎる。

 魔術使い以下の出来損ない一体と、一流と言えど万全でない魔術師一人である。この状況は二人には重過ぎる。

 

「所長、お気をつけ下さい」

「何をよ。とにかく今は待つしかないでしょ。それに、ここにいるのは低級な怪物だけだから」

「いえ、それなのですが。てきのサーヴァントが、いたりしませんか?」

 

 オルガマリーは敵のサーヴァント、という言葉に戸惑いを見せる。

 

「ハァ? 何を言っているの?」

「あの、ですから。冬木市って、せいはい戦争がおきたばしょですよね」

 

 聖杯戦争。礼装である聖杯を、完成させるための魔術儀式。

 魔術師たちは七人の英霊をサーヴァントとして呼び出し、殺し合わせる。そうして得た魔力により、聖杯を完成させる。

 

 それが過去に、この冬木の地で人知れず行われていたはずであった。

 オルガマリーもサーヴァントというものを知る人間である。その儀式のある程度の実態は、当然知っている。

 

「そうと言われているわね」

「ここがこうなってしまったのも、その、せいはい戦争がげんいんだったりしませんか?」

「そんな馬鹿な―」

 

 その時、彼女たちの背後で、物が崩れる音がした。

 振り返ると、黒い影で出来た人型がにじり寄って来るのが見える。

 余りにも濃いエーテルの塊を見て、魔術師であるオルガマリーはその正体を理解した。

 

 シャドウサーヴァント。使い魔としてのサーヴァントの出来損ない。

 超級の使い魔ではないが、されどそこらの怪物を卓越する強力な兵器。

 

「い、いやああああああああああああああ!」

 

 オルガマリーは叫ぶ。

 一方、ロクサーヌは、シャドウサーヴァントをじっと見ていた。

 そのサーヴァントは、背の高い女性の姿を取っていた。長い髪を持ち、体のラインがはっきりと見え、大人の女性の魅惑というものをこれでもかと伝えてくる。

 その姿を直接見たのは初めてではあるが、その姿に見覚えはあった。

 

「ライダー、メドゥーサ」

「おや。私のクラスと正体を知っているのですか」

 

ロクサーヌの呟きに、メドゥーサは立ち止まる。

 

 メドゥーサ。

 古き信仰の女神にして、ギリシャ神話の代表的な怪物である彼女は、“女神に比肩し得る美貌を持った人間”としての逸話を持つ。

 それ故に、彼女は聖杯戦争に“いずれ怪物となる人”として召喚されていた。

 強力な格と神秘を持ちながら、しかし人間の騎兵(ライダー)という型に押し込まれ。さらにシャドウサーヴァント故に大部分が損なわれ。それでも怪物としては十二分に脅威な存在。

 

「まあ、いいでしょう。どうせ、貴女達はここで死ぬのですから」

 

 さて、魔術の徒である彼女たちが勝てるかどうか。

 

「サ、サーヴァントよ! サーヴァントを。サーヴァントを召喚しなさい!」

「どうやってですか?」

「とにかく! つべこべ言わずに召喚しなさい!」

 

 一流の魔術師たる彼女はひょっとしたら、まあ、ひょっとしたらだが、勝てるのかもしれない。

 相手は元女神とはいえ怪物で、サーヴァント程度に落とし込まれ、さらにそれの格落ち品である。神代当時の怪物が相手なら無理だっただろうが、そのハードルは大分低くなっている。

 極端な話、 “勇者ペルセウス”としての行いができるならば、“怪物メドゥーサ“は倒されるはずである。

 

 ただ、彼女にそれが出来るのは、万全の状態なら、であろう。シュミレーションを数回繰り返せば出来るのだろうが、今回はぶっつけ本番だ。

 この場で錯乱したオルガマリーには無理な話だろう。

 

 ロクサーヌは言わずもがなである。魔術師オルガマリーに出来ないことを、魔術使い未満の彼女に期待しても無駄だ。

 

「わかりました」

 

 とは言え、ロクサーヌにも出来ることがある。彼女は、サーヴァントの召喚と従えることができる故、カルデアのマスターなのだ。

 これはオルガマリーに出来ないことであり、それが故に、彼女の選択は間違っていない。サーヴァントにはサーヴァントをぶつけるのが、正しい魔術師としての認識である。

 

 さて、彼女が魔術礼装もなしに英霊召喚を行うことは、無謀ではある。

 魔術の行使というのは、魔力を用いて奇跡を再現することである。魔術礼装はその過程の中で重要ではあるが、必須ではない。

 ただ、奇跡を起こすにあたって、触媒というものはあった方が安定する、という話であって。

 

 決して出来なくはないのだ。ロクサーヌはカルデアの召喚システムに触れ、一応はマスターとして登録されている。

 つまり、カルデアのシステムが維持されている限り、彼女はマスターとして活動可能であるのだ。明確に、彼女は召喚システムとの繋がりが時空を超えて存在しているのだ。

 

 もう少し駄目押ししてみるのならば、オルガマリーがある意味触媒だ。

 彼女はカルデアの責任者であり、彼女こそがカルデアである。

 そうした彼女の存在が、英霊召喚といった魔術を安定させている、のかもしれない。

 

「ぐ、あ、う」

 

 魔力が唸り魔術回路に、身体に痛みが吹き荒れる。ロクサーヌの体は震え、へたり込む。

 それでも彼女は、魔術を行使することを止めない。止めれば、それは死を意味するが故に。

 

 メデゥーサはそれを止めようとする。したいのだが。

 だが、恐怖が止まらないし、体も動かないのだ。

 巨大な英霊の召喚に、自身を倒す英雄の登場に、怪物としての本能が震え上がる。

 

 不安定な中で。奇跡を求めて。僅かな縁を基に。魔術を行使する。

 そうして結果が出ようとする。

 

 結果的にこれが、彼女の運命だったのだろう。

 

 

「サーヴァント、ランサー」

 

 その男は黄金の輝きを持った、槍兵であった。

 一見とても不健康そうな男であるが、その身体からは黄金の輝きを放っている。

 その手には異形の、隠し切れぬほどの神秘を纏う槍がある。

 

「真名、カルナという。よろしく頼む」

 

 彼こそがインド神話に語られし、大英雄カルナ。

 サーヴァントにしてなお強大な戦士であり、高潔な聖人であり、数多の武装を持ち、そしてそれらは全て失われる定めを持った、そんな英霊である。

 

「カッコいい」

 

 そう呟いたのはオルガマリーであった。

 彼女はサーヴァントというものを知っていたが、この男の眩しさに勝るものではなかった。

 彼女の思い描く、理想のサーヴァントがそこにいたのだ。

 

 カルナは魔術の徒二人を見つめる。

 そしてロクサーヌの方に視線を合わせる。

 見つめられることで、ロクサーヌは恐怖ですくみ上る。

 

「さて、オレのマスターはお前だな? 神々の造花よ。そこの魔術師ではマスターに成ることはできまい」

「あ。は、はい」

「マスター。指示を」

 

 ロクサーヌは茫然とする。

 目の前の男が、自らのサーヴァント。

 その巨大すぎる力を目の前にして、震えて声も出ない。

 

 だが、必死でその言葉を紡ぎだす。

 

「た、たすけて!」

「分かった。これよりオレはお前の槍となろう」

 

 ここにサーヴァントの契約は完了し、ロクサーヌの手の甲に紋章が浮かび上がる。

 これこそが令呪。サーヴァントに対する絶対的な三画の命令権にして、マスターの証。

 

 マスターを得たサーヴァントは、己が敵の方へと向く。

 

「待たせたな。女神でありながら怪物に堕ち、そして奴隷に身を堕としてなお、堕ち続けた女よ。お前の願いは知らぬが、欠けるに欠けた体ではどんな願いも叶いはしまい。オレがその首を打ち取ることで仕舞いとしよう」

「っ!」

 

 カルナはメドゥーサに、その槍を向ける。

 それに対してメドゥーサは、両手に鎖付きの短剣を構える。

 

「行くぞ」

 

 カルナが突進し、そうして戦闘が始まる。

 

 とはいっても、長くは続かなかった。

 同じサーヴァントといえどカルナは万全で、メドゥーサはサーヴァントの(シャドウ)なる型落ち品でしかない。

 おまけに、カルナは神の血と武装を持つ英雄で、メドゥーサはかつての神性を失った怪物でしかない。

 勝ち負けは既に、決まっていた。

 

 カルナが突き、払い、そして払う。

 メドゥーサはそれを持っている武器でいなし、回避しようとする。が、大半が捌ききれない。乗騎のない騎乗兵では、優れた槍兵の速度に対抗できない。そうして着々と損傷が増えていく。

 

 たまらず彼女は大きく後退し、彼女の代名詞である石化の魔眼を解放した。彼女はこの眼で数多の人間を、そして数多の英雄を石にして殺してきた。

 

 だが、相手が悪すぎる。

 カルナは太陽神スーリヤの子であり、優れた性質を持っている。

 その身体は痩身蒼白であるが、生まれながらに優れた資質を持ち。神代インドの地で十二分に鍛え上げられてきたものである。

 おまけにその身体は黄金の鎧を宿している。その鎧は神々の力をもってして、壊すことができぬもの。神々すら干渉すらできず、どうにか手放させるように仕向けたほどのもの。

 

 戦士として、カルナは臆せず突進する。

 相手が大技を用いる隙、ここが好機と見た。

 

 石化の魔眼はカルナを射止めたが、それでもカルナの動きを完全に止めることはできず。槍がメドゥーサの首を貫いた。

 

「ガァッ!!!?」

(アグニ)よ」

 

 槍に魔力が集い、炎として顕著する。

メドゥーサの体は燃え上がり、エーテルの身体を焼き尽くす。

 

 彼女は悲鳴を上げ、生存へとどうに助かろうともがくが、もうどうにもならなかった。

 逸話の首を取られ、その上から、神に連なる一撃だ。

 もはや死、あるのみ。

 

 こうして彼女は、僅かなエーテルの跡を残して、この世から消え去ることとなった。

 




とりあえず、チュートリアルまでは書きました。
その後の予定は未定です。

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