疲れですかね? スランプってことはないでしょうし。
……とりあえず、別のネタで書いて勘を取り戻しましょうかね。
「じゃあ、最初からセシリアちゃんを襲うつもりはなかったの?」
「だからそうだって言ってるし、拘束したのはISを取られてここを破壊されたくなかったんだっての」
どうやら更識は俺がオルコットを本気で襲うと思っていたらしい。
全く。いくら日頃からセクハラしてるからってその思想はあんまりだ。
「俺は織斑みたいに簡単に挑発に乗るような馬鹿じゃない。その証明に、俺はまだオルコットにそんなことをしていないだろ?」
「……た、確かにそうみたいだけど……」
「まぁ、庶民シャンプーなのは悪いと思ったけどな。で、そっちこそ聞かせてもらおうか? 何でガチのメイドがこんなところにいるんだ? まぁ、美人だしストライクゾーンに入るかどうかと言われれば割と本気で狙いたいとは思いたいが」
そう言いながら俺はオルコットを怒っているメイドを見た。
「ああ、こっちから別口でセシリアちゃんの問題発言をしたことを伝えたのよ。いくら軽はずみとは言え、彼女が日本を侮辱したのは変わりないしね」
なるほどね。納得したが……
「あいつの親は?」
「セシリアちゃんの両親は3年前に亡くなられているわ。だから今、彼女1人で家の事を切り盛りしているの」
「………なんか、悪いことしたな」
思わず同情する。いくら仕返しとは言え故人を馬鹿にしたのは変わりないからな。
「これじゃあちょっと今度する作戦は難しいかもしれないな」
「作戦?」
「ああ。詳細は明日言うつもりだけどな。これにはオルコットの参加は不可欠なんだ」
……と言っても、それを思いついたのは土曜日だけど。
「そうなの? じゃあ、クラス代表はセシリアちゃんにするつもり?」
「それなんだよな。オルコットをクラス代表にすれば他の奴らを圧倒できるが………どうせあのババアは織斑にするつもりだろうな」
「あなたはどうなのよ?」
「俺は無理。そもそも、他人に対して攻撃できない時点で戦えねえよ」
俺の場合、そこがネックだ。もし相手が織斑なら問題はないだろうけど……
「―――攻撃できないんですの!?」
後ろからオルコットの声が聞こえたので振り向くと、どうやら説教は終わったようで正座から解放されている。
「これと戦っている時に露見した」
「これって言わないでよ。一応、学園最強よ?」
「更識楯無と書いて、抱き枕と読む」
「そう読むのはあなただけよ!?」
鋭い突っ込みを流していると、オルコットとそのメイドのチェルシー・ブランケットが頭を下げた。
「申し訳ございませんでした、夜塚様。私の教育の不行き届きでご家族の事を―――」
「いや、いいよ。こっちこそ悪かったな、オルコット。俺もされたからと言って返すのはマズかったし」
「………ところで夜塚君、今眠い?」
「凄く眠い。お前らの乱入がなければオルコットを抱いて寝てた自信あるほど」
すると顔を赤くするオルコット。もしかして変な想像をしていたわけではないだろうか?
「悪いけど俺、寝るわ。アンタらは使った奴で悪いがベッドで寝てくれ」
そう言ってソファの上に移動して寝転がった。電気は点いているけど激しい運動をした後だからすごく眠い。
翌朝のSHRは荒んでいた。
俺の姿を見ると全員が敵意を持って視線を飛ばす。悪口を言う。織斑が心配して近付いてくるが、篠ノ之がそれを止めた。そして、
「おはようございます、みなさん。今日はまず、クラス代表の決定をお知らせします」
「そのことですが、それは私から説明してもよろしいでしょうか?」
「……えっと、夜塚君から、ですか?」
織斑先生に確認を取る山田先生。だが許可は出たようでオルコットを連れて前に出る。
「さて、まずは質問だが、昨日の戦いに異論がある奴はまず挙手しろ」
何人か手を挙げていないが、織斑や篠ノ之は挙げていた。あの2人は正々堂々とか好きそうだもんな。
「その割には乱入しなかったな」
「だってあの紙に書いてたろ! 乱入したら庇われた奴が失格になるばかりか、千冬姉やセシリアを裸にしてその写真をばら撒くって!」
「ああ、そうだったっけ?」
正直こいつの条件なんて覚えてねえや。突発的に書いてただけだし。
「話を戻すが、確かにあの戦いはフェアプレーでもなんでもなかったが、最初からルールは「武器の持ち込み禁止」と「ロープ外に出たら負け」だけだ。でも逆に聞くけどお前ら、男に襲われそうになったら金玉蹴るだろ」
言われて想像したらしく、クラスメイトは揃って複雑そうな顔をした。
「ということでだ。ああいう卑怯な手はいずれお前らが狙われた時に使うんだな。んで、話を大筋に戻すが、昨日も言ったがクラス代表は織斑一夏。お前がやれ」
突然話を振られ、織斑は仰天した。
「な、何でだよ!?」
「改めて決めるまでもない。はっきり言って投票を行うことすら時間の無駄だ」
「いや、でも―――」
「でだ、オルコット。お前はこれから織斑の専属コーチを務めてもらう」
そう言うとやっぱりというか、篠ノ之から抗議が来た。
「一夏の担当は私だ! 他には必要ない!」
「そしてオルコットは織斑に近接のことを教えてもらえばいい。苦手だろ?」
「え、ええ……もしかしてチェルシーに聞きましたの?」
「いや、織斑に懐に入られても近接武器を出さなかったから、もしかして苦手なのかと思ってな。不意打ちは食らったが、考えてみればそこまでパンチが強いわけでもないしな」
代表候補生だからそれなりに強いだろうが、俺が受けてきたのは鍛えられた男のパンチだ。比べる方がおかしい。
「おい! 無視するな!」
「そうよ。そもそもどうしてあなたが仕切ってるのよ!」
「大体、本当にオルコットさんって強いの?」
クスクスと笑い声が広がる。オルコットはバツが悪い顔をしたが、俺は順を追って説明する。
「まず織斑がクラス代表をやる理由だが、大きな理由は2つ。1つは織斑姉弟の俺を犠牲にする思考にムカついたこと」
「ちょっと待ってくれ。俺はお前を犠牲になんか―――」
「私もお前を犠牲にしたつもりはない。戦えると判断したから出したまでだ!」
「アホ姉弟は黙ってろ。そして2つ目。俺がISで相手を攻撃できないからだ」
オルコットは俺を驚くような目で見てくる。そりゃそうだろう。今のは俺にとっては弱点に等しい事実なのだから。それを明かすなんてどうかしているとしか思えないな。
なんて考えていると、クラスメイトが笑い始めた。
「アンタ、バカじゃないの? ISには絶対防御があるっていうのに」
「おっかしい! ただの臆病者じゃない」
とりあえずムカついたので、俺は女尊男卑気味だと思った奴の所に行き、隠していたナイフを出して机に転がして言った。
「それで前の奴を刺せ」
笑いは一瞬で止んだ。そこから訪れるのは沈黙。言われた奴は自分が何を言われたのか理解できなかったようだ。
「今お前、俺のことを臆病者って言ったよな? じゃあ刺せよ。前の奴を………早く!!」
「む、無理よ!? そんなことした死んじゃうじゃない! 私、殺人なんてしたくない!!」
「これから似たようなことをするくせに?」
それを聞いた女はもちろん、他の奴らも徐々に顔を青くしていった。
「ようやく理解したようだな。ISで戦うとは剣で斬り、銃で人を撃つ予行練習でしかない。国家代表がどれだけ狭き門か理解しているか? むしろお前らが国家代表になる確率は俺ら男性IS操縦者よりも低い。だというのにお前らは、せっかく偶然が含まれるとはいえ専用機を持つ代表候補生がいるんだからその手を利用するどころか馬鹿にする。それとも何か? お前らは冷やかしでこの学校に受験して自分の人生を潰しに来たのか?」
誰も何も言わなくなった。どうやら刺激が強すぎたようだが、実際そうだろう?
本来ならば自らそう行い、より有利な立場を得るのが普通だ。俺の場合は蹴り続け、回り道をしてエリートコースに入ったつもりだったが、残念ながらそれは蹴らされたというのが正しい。
「それにだ。せっかく俺が教師共とお前らアホ共の意見を尊重してやっているのに不満か? ………ああ、そう言えば俺が仕切るのに文句を言っていた奴がいたな。その質問に関しては「俺は勝負の勝者であり、状況を理解しているから」と答えておいてやる。そして敢えて言うなら、お前らがこの状況を仕切れるか? ブリュンヒルデや剣道の全国大会で優勝した奴に睨まれた状態で仕切ると? なんなら変わる?」
「…………結構です」
まぁ、俺でも正直きついしな。仕方ないから少しだけあのクソジジイに感謝してやる。
「というわけでだ。クラス代表は織斑一夏とする。他に意見は?」
「ああ、ある! 何故私が一夏の指導から外されなければならない!?」
「じゃあ逆に聞くが、お前はデザートパスが欲しくないのか?」
予想外の返しだったのか、篠ノ之はフリーズする。
「はっきり言って、俺たちの今の敵は4組だけだ。それにオルコットをぶつければ余裕でデザートパスは手に入る………が、オルコットは今回の話し合いで些細とは言え日本に対して宣戦布告に近い発言をしている。まぁそれはこいつもだが、今回のクラス代表は罰ゲームも兼ねている」
「………罰ゲーム?」
「クラス対抗戦で優勝して俺たちにデザートパス無料券を持って帰らなかったら、こいつの自腹で寮の特大パフェをクラス全員におごらせる」
「な、何だって!? 俺そんなこと聞いてないぞ!?」
「だってさっき決めたからな。それに、オルコットにだけ罰を与えてお前にだけ罰を与えないってのはどうかと思うがな」
織斑は俺に信じられないという顔をするが、なーに気にするな。
「安心しろ、織斑。何もお前だけに背負わせるわけじゃない」
「そうなのか。悪いな透―――」
「お前の姉も一緒だ」
教室内の気温が下がったのは、決して気のせいではないだろう。その証拠に織斑の顔は見る見るうちに青くなっていく。
「…………………ほう? 良い度胸だな。この私も巻き込むとは」
「そもそも、誰の独断のせいで俺がオルコットと戦う羽目になった? ほら、言ってみろよ織斑千冬? それともあだ名で「ちーちゃん」もしくは「ちっぴー」とでも呼ぼ―――」
出席簿が飛んできたので俺は咄嗟に回避した。
「何をするんだ? 俺の話はまだ終わってないぞ?」
「ふざけるのも大概にしろ、夜塚」
「最初にふざけたのはアンタだ。それに俺はここの女共みたいに高がアンタが出てきた程度で馬鹿みたいに騒いだりしない。それに俺は当たり前のことを要求するだけだ」
「………当たり前のこと、だと?」
「そうだ。それで、俺の機体はいつになったら支給されるんだ?」
それを聞いた織斑千冬は苦虫を潰した顔をする。何か悪いことでもあったのか?
「………別に俺は訓練機でも構わないんだがな。後で改造するし」
「素人の改造など自ら死にに行くようなものだぞ?」
「それならさっさと用意をしてくれ。俺はアンタの弟と違ってまともな護身道具がないんだからな。もし用意よりも早く俺が襲われて生き残ったら―――その時はそこの馬鹿を殺す。道理だろう? この馬鹿のせいで俺の人生は狂ったんだからな」
織斑は何もわかっていない様子だが、姉の方は理解しているようだった。
「さて、話は以上だ。ここから先はお前らが勝手にやれ。俺に迷惑が掛からない程度にな」
そう言い、俺は席に着いた。ようやく俺はお役御免だろう。…………というか、いい加減に俺の話をまともに聞いてくれる人間が現れてほしい。いるがそいつ学年違うしなぁ。
それからというもの、俺は静かに過ごしていた。
移動以外は休憩時間は基本的に寝て過ごし、ただ授業中だけは真面目にしている。織斑が何度か話に来ようとしていたが、オルコットが俺の最初で最後の命令を聞いているのか織斑を抑えていた。
「一夏! いつまでそんなところにいる! 早く降りて来い!」
外でISの基礎の基礎演習をしている最中、篠ノ之が山田先生からインカムを奪ってそう叫んでいた。突然のことでびっくりしたが、織斑千冬に叩かれているのは自業自得としか言いようがない。
ちなみにオルコットが現れてから、俺が中途半端に篠ノ之を指導係から外したので指導要項で衝突しているのを何度か目にしている。こっちはこっちの勉強があるので大半はスルーしているが。
そして今は、目標を10㎝に設定されあ急下降と完全停止の指令が出され、オルコットが綺麗にやり遂げた。流石は代表候補生といったところか。織斑の場合は、なんというか悲惨なことになっていた。
「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」
「………すみません」
クスクスと笑っているが、おそらくクラスメイトたちはオルコットみたいにはできまい。俺も含めてな。
「大丈夫ですか、織斑さん」
「ああ。大丈夫だ。心配してくれてありがとうな」
「いえ。ですが、ISには操縦者の保護機能があるとはいえ場合によっては怪我をします。今回は運が良かったと思ってこれからも精進してくださいね」
オルコットが教師に向いている気がすると思ったのは俺だけではないはずだ。……篠ノ之はあまり嬉しくないみたいだが。
今度は織斑に武装を出すように言われて実践したが、
「遅い。0.5秒で出せるようになれ」
……さっきこの人、織斑が白式を展開する時に「熟練の操縦者は1秒もかけずに展開できる」とか言っていたが、そもそも織斑は熟練者じゃねえよ。
「ちなみに夜塚の展開速度は0.3秒だ」
「え? 何でできるんだよ!? 普段から手の中に武装を展開するイメージなんてできるわけがないだろ!?」
周りも驚いて俺を見ているが、やっていることはそんなに大したことじゃない。普通に展開しているだけだ。
「夜塚、お前はどんなイメージをして展開している?」
「……ゲームとかアニメとか、バーチャル関係の知識を深めたら自然と展開できるようになるだろ」
「こいつ一体どこから出してるんだ」と突っ込みたくなる展開方法なんていくらでもある。
それからオルコットも同じように指示されたが、ライフルの展開はともかくナイフっぽい近接武器の展開速度はあんまりだったようだ。………それでも早くなったらしいがな。
しばらくして解散となり、織斑は俺の方に声をかけてきたが無視した。………世話を焼く気はないしな。