あれから1週間が経った。
織斑はずっと篠ノ之と剣道しかしていなかったらしい。それで口論になっていたので「気付かずにそのまま篠ノ之に頼ったお前の頭が腐っているのが原因だと思う」というと、織斑は黙った。
そしてISが来た。どうやら織斑には専用機が与えられるようで、名前は白式。読みを聞かずに名前だけ読んだら「しろしき」である。
という下らないことはともかく、織斑は負けた。オルコットが油断していて隙だらけ。後で試合を見た更識に確認すると「手を抜いている」ことだった。
そもそも一次移行していない状態で出すのもどうだと思ったが、それでも善戦できたのは彼自身の技量だろう。そこは素直に褒めてやる。
「悪い、透。勝つことができなかった」
「え? むしろその装備で最初から勝てるなんて思ってねえから」
そう言うと織斑は肩をガックリと落とした。というかそもそも、こいつの試合なんて最初からアテにしていないからな。勝てたら俺が楽できるなと思っただけで。
それから俺たちは教室に移動して、今度はゲーム対決………なのだが、
「………オルコット」
「何ですの?」
「パーティゲームだったら、まだお前にも勝機あると思うんだ」
「結構ですわ!!」
圧勝でした。まぁ、容赦なくボコったからなぁ。……ここまで弱いとは思わなかったんだけどな。
そして翌日、俺たち2人は意外に広いリングの上にいる。
四方をロープで囲まれていて、オルコットには声援が、俺には野次と罵倒が飛び交っている。
「お前みたいな屑は死んでしまえ!」
「オルコットさん頑張って!!」
「そんな奴なんてボコボコにしちゃえ!!」
………気のせい、ではないだろう。
何故か1組以外にも人が入っている。おそらく織斑先生のことだから「人払いしろとは言われていない」と言う理由だろうな。言われなければできないのか、あの女は。
(………さて、どうするかな)
ネットではやはり限界がある。オルコットの生身での戦い方は測れなかった。つまり俺は向こうの戦法を全く知らない。だがそれは向こうも同じだ。
「この時を待っていましたわ。昨日は私が後れを取りましたが、この戦いでは負けませんわ!」
「………そうか」
オルコットのISの待機状態が外されていることを確認する。オルコットは嫌がっていたが、過去に一度IS操縦者が誤ってISを展開して相手を病院送りにしている事件があるので外してもらったのだ。
レフェリーなのか織斑先生が間に入ってくる。
「では勝負を始める。両者とも、本当に構わないんだな」
「構いません」
「問題ねぇ。始めようぜ」
そう、問題ない。この勝負に勝てばいいんだから。
「では、初め!」
合図が出されると同時にオルコットの攻撃。俺はそれを回避した。
「やりますわね」
「まぁ、喧嘩売っててこれくらいはな」
「ならば、これはどうですの?」
そう言ってオルコットは―――俺の玉を狙って足を蹴り上げる。
―――だが、それだけではなかった
足を回避するために最小限の動きで防御し、打ち込もうとした瞬間に俺の顔にオルコットの拳が直撃した。
頬に当たったのは幸いだな。にしても……意外に重い。
「油断しましたわね。いくら訓練を積んでいると言えど所詮は女、大したことはないとお思いですか?」
「ああ、そうだな。だが、所詮は女だな」
そう言って俺はハーフパンツにタンクトップ姿のオルコットを観察し、ある一点を集中する。
「………あなた、どこ見ていますの?」
「さぁ。当ててみろよ」
「股を見過ぎですのよ、この変態!」
拳が飛んでくる。それを回避するが今度は足技も飛んできた。
「正直驚いたわ。こんな野蛮なお嬢様は所詮漫画だけかと思ったが」
回避してからそう言うと、オルコットは勝ち誇るように言った。
「わたくしもこういったものはあまり好きではありませんが、あなたのようなド変態には良い薬と思って習っておいて正解でしたわね」
「………その割には昨日は織斑に懐に入られていたよな」
「そ、それはそれ、これはこれ、ですわ!」
いや、素人に対してそれはマズいだろ。
「まぁいい。そんなことよりかかって来い。そして証明してやる。お前は俺に勝つことができない現実をな。その後は晴れてお前は俺の奴隷と化す」
「……この外道」
「なんとでも言え。ただ、この試合の文句は事を大きくし過ぎた自分自身に言うんだな」
オルコットは俺に迫り、拳を突き出す。俺はそれを回避するとオルコットは足払いをした。
「くっ!?」
ちょうど浮いていた状態での足払い。そして俺は喧嘩も素人だ。対応できるわけがない。
そのままマットの上に倒れると歓声が湧き、オルコットに声援が飛ぶ。
「マウント、頂きましたわ!」
「そうか」
俺は何のためらいもなくオルコットの胸を揉んだ。
オルコットは飛び退いて俺から離れたので立ち上がる。
「あ、あな、あなた!? 何をしましたの!?」
「普通に胸を掴んで揉んだだけだが?」
「なんて破廉恥な………。あなたは勝負を侮辱しすぎですわよ!?」
「………ハッ、最初に俺の金玉を狙っていた女が言うセリフじゃねえな」
やれやれ。こいつはまだこの勝負の意図を理解していないようだな。
「これだから女は。これは武器の持ち込み禁止とロープ外に出されたら負け以外はルール無用の戦いだ。つまり俺がお前の胸を揉もうが尻を触ろうが裸にしようがセックスしようが、周りの奴らに一切の介入は許されない。それがルールだろ?」
「………あなたという人は……!!」
誇りやプライドなんてもの、あると思っているのだろうか?
「………さて、学習の時間だ」
「何ですって?」
「男と女の違い、デブの特権、そしてお前らの認識がどれだけ無様だったか教えてやる」
そう宣言した俺はオルコットに捨て身タックルをかました。
オルコットは咄嗟に回避し、ロープで戻ってくる俺の腕を掴んだ。
「さぁ、わたくしの唯一使えるじゅどー技、バックスロウを披露してさしあげ―――」
「残念だったな。背負い投げ系の技の弱点を突くには、相手が投げる方向とは逆に移動することだ」
胸を揉みつつそう答えてやるとオルコットは俺を付き飛ばそうとする―――が、無駄だ。
「……な、何で……」
「ただ足に力を入れているだけだ。それに俺の足の位置を見ろよ。ちょうど、押されてもいいような位置に置いているだろ?」
オルコットは徐々に顔を青くしていく。なので俺は敢えて調子に乗ってオルコットの首を右腕で固定した。
「……く………くるし……」
「デブだから動けないという固定概念は捨てることだな。お前がどれだけ訓練を積んだ奴だろうが、ここは俺のポジションだ。そして、この体勢に入った女は男に抗えない。死ぬか、薬を盛られて気絶されている間に拘束されて犯されるかのどちらかだろうな」
さて、どう決着をつけるか。どっちにしろ、顔を傷つけるのは趣味じゃないから、大人しくロープ外に出すか。
オルコットの腰部分を持って外に設置されているマットに投げる。マットに落ちたオルコットは自分が無事であることに気付いたのか、ヨチヨチと四つん這いで移動を始めた。
(………そんなに怖かったか?)
ギリギリ、ギリギリなってないからセーフのはずだ。
俺はとりあえずISを取られて暴れられても困るので、先回りをする―――前に、
「おい、試合は終わったぞ」
「そうだな。勝者は夜塚だ。……よってオルコットは―――」
俺は名乗りを上げる前にISの方に立ちあがって移動するオルコットの後ろから首輪を嵌めてリードを引っ張る。
「さぁて、ここからは楽しい楽しい大人の時間だ」
「……待って……私は……」
「なぁに。ブルー・ティアーズは今日から俺のものだし、財産整理もキッチリするさ」
オルコットに猿轡を噛ませて足を手錠で拘束し、抱きかかえつつブルー・ティアーズを回収して競技場から飛び出す。
「ということで、1組のクラス代表は織斑な」
そう宣言した俺は自分の部屋に戻った。
■■■
それは試合前のことだった。
千冬はこれまでの顛末を包みなく話した。学生が財産と自分を賭けて戦う事。そして自分には収拾することができないことを。
「本気ですか、学園長!」
「ええ。本気です」
机を叩いて迫る千冬に学園長である轡木菊代は1歩も引かずに答える。
「それとも、何か問題が?」
「ええ、問題です。これは―――」
「ならば何故、あなたはさっさとオルコットさんに厳重注意をせず、しかも夜塚透君を参加させたのです?」
「それは……私は彼に才能を感じたからです。それに夜塚は推薦されていました」
「でもそれはあなたの弟さんの、しかも逃げのための推薦でしょう? 意味のない戦いを仕組んで無駄に被害を拡大させたあなたの責任です。それにあらかじめ言っておいたはずです。2人目の男性IS操縦者の扱いには気を付けろと」
「………そう……ですが……」
千冬は歯軋りをする。それに構わず菊代は言った。
「なに、いざとなれば生徒会長に頼みます」
「……そんなことができるわけ―――」
「できますよ。幸い、彼女は夜塚君から信頼を得ることができています。あなたと違って、ね」
その言葉が辛く、試合が終わった今、千冬は透のために建てられた防御性能が高い家の前に来ていた。チャイムを押そうにも周囲にはバリアが張られているため近付くことすらできない。
歯噛みしているしていると、後ろから複数の足音がしたので千冬は振り向くと、楯無と見覚えのない女性が立っていた。
「貴様は誰だ?」
「初めまして、ブリュンヒルデ。私はオルコット家のメイド長をさせていただいております、チェルシー・ブランケットです」
「彼女には今回の透君の説得役として同行してもらったんです。織斑先生、あなたは通常業務に戻ってください」
「……だが、私には―――」
「今回の事で学んだでしょう? この件はもうあなたでは対処できないことです」
はっきりと言う楯無に千冬は一瞬怯んだ。
「ともかく、この件は私に任せてください」
「だが、家の周りにはバリアが張られている。それを解除する術でもあるというのか」
「ありますよ。ですが、あなたの前では使うなと理事長直々の命令があります」
それはつまり、千冬に去れと言っているのだ。
千冬は渋々背を向けて校舎の方へと向かう。その姿がちゃんと校舎の方に入ったのをハイパーセンサーで確認した楯無はバリアを解除した。
■■■
「さぁ、お楽しみの時間だ」
俺の予備のパジャマに着替えたオルコットを改めて拘束した俺は、指をなまめかしく動かしながらオルコットに接近する。オルコットはと言うと今にも泣きそうな顔をしているが、そんなものは俺に効かない。
「というのは冗談だ」
「……………はい?」
「まぁ、俺も一応日常会話程度ならば英語はできなくもないが、だからと言って英語圏での生活をする気はないしな。どうせなら女王というか王女を襲うし………いや、リアルのロリはクソだという事は最早常識だしなぁ」
「………えっと……あの……」
まぁ、困惑するのも無理はない。ついさっきまで「お前とやるぜ!」的な雰囲気が180度移動したかのような展開だしな。
「ああ、簡単に説明すると実のところ俺はお前とセックスする気は一切ない」
「………いや、その……何故?」
「ま、確かにセフレを持って利用するのはアリだとは思うがな。ほら、お前って代表候補生じゃん? 仮にイギリスの代表候補生と関係を持ったらそのことで俺をイギリスに連れて行かされる可能性があった。修学旅行で回ってみたいと思うが、流石に永住はちょっとな」
イギリス人の前で祖国ディスってるけど、本人からは突っ込みなしだった。
「………では、何故あんな変態的なことを?」
「そりゃあ、勝つためであり他の奴らに俺の存在を知らしめるためだ。高が織斑の引き立て役だなんて言われたくないからな」
あんなアホの引き立て役なんかにされるぐらいなら、殺人犯とかになった方がマシだ。
「それに、俺がある程度の強さを持っているなら認める奴はいるだろうしな。一種なパフォーマンスであり余計な物を除外するためだよ」
「……そのためにわたくしにあんなことを………」
「まぁ、家族を馬鹿にされてムカついたっていうのもあるけどな」
途端にオルコットの動きは止まった。
もしかして今更ながら俺の家族を馬鹿にしたことを思い出したとか言うのではないだろ―――
「そこまでよ! その変態行為を終わらせに来た……」
俺は途端に後ろを向くと、そこには更識の他にもう1人いた。
「ちぇ、チェルシー!」
「お嬢様。ご無事でなにより………」
俺は思わず呆然としていた。というか、興奮していた。
「リアルメイド………リアルメイド、来た!!」
俺は思わず叫んだが更識に叩かれて仕方なく収まったのだった。