IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.6 夜塚透はマイペース

(………正直、舐めていた)

 

 織斑千冬は心の底から敗退を感じていた。

 舌戦にはかなりの自信があった。だが所詮井の中の蛙だということを知らされたのだ。

 千冬とて人間、間違えることはあるが今回の件は千冬には少し確証があったのだ。夜塚透は勝つのはともかくかなり良い戦いをするかもしれない、という確信が。何故なら彼女は、透と楯無の試合を見ていたからだ。

 ISの適性は操縦しやすさにも影響は出て透は「D⁻」。普通なら動かすのもやっとだというのにいとも簡単に飛んでいた。

 

(……教師としては止めるべきだったのはわかっていたが…ああいう小競り合いは将来的にはないわけではない。そのための耐性を、と思ったのだが……)

 

 自分の弟は簡単に挑発に、透は逆に挑発し返した。いや、透の場合は燃えている炎にさらにガソリンを撒いて被害を拡大させたのだ。クラスメイト全員に喧嘩を売る行為をし、敢えて一夏を―――いや、一夏に巻き込まれた腹いせか、有無を言わさずに巻き込んだのだろう。

 何よりも千冬を驚かせたのは、人生そのものを賭けた戦いに発展させたことだ。

 

(………孤立する気か)

 

 さらに問題があるとしたら、「毒殺できる」と宣言したことだ。

 もちろん不可能ではない。千冬も「確かにできる」と言う他ない。―――が、そんなことを何もあそこで言う必要はないはずだ。

 

(……何はともあれ、前途多難だな)

 

 盛大にため息を吐き、千冬は使用許可を取りに学園長室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何であんなことを言ったんだよ!!」

 

 HRが終わるや否や、帰る準備をしていると織斑が俺の所に来てそう言った。

 

「騒がしいな。いくら放課後だと言っても適度な声で話せ」

「そんなこと言ってる場合じゃ―――って、何で帰る用意しているんだよ!?」

「これから対戦に使うゲームの厳選と勉強するんだよ」

 

 ただのゲームじゃ流石にマズいしな。まぁ、積んでる奴から適当に選んで遊べばいいだろ。

 テストの成績がトップとかで何故か俺にゲームをたくさん買ってくれたからな。俺、流石にそこまで子どもじゃないよ? ……厳選という程でもないな。

 

「大体、お前のテンションとか正直どうでも良いんだよ。そんなことよりも2戦で終わらせるためにISの勉強でもしてろ」

「………そのことなんだけど、その教えてくれないか? 俺、何が何だかわからなくて―――」

「知るか。それくらい自分でやれ」

 

 鞄を持って立ち上がり、教室を出ると周りから敵意が飛んできた。

 

(あー、ここまでの敵意って逆に新鮮だな)

 

 高校時代は先に獲物を狙う目で見られていて、案の定暴力を振るわれたから警察に証拠を出して逮捕させたらあら不思議、一気に周りは俺の敵になった。

 

(………で、こいつらは一体何をしてくるのかね?)

 

 今度戦えるのはおそらく1週間後、そしてすべての試合が終わってから戦うことを認めるようにサインしてある。それはあくまで生身での暴力を極力防ぐためだ。問題は、織斑の勝利で終わるかどうかだ。もし織斑の勝利で終わるならゲームで叩き潰せれば後はオルコットのすべてを好き勝手にする。女だらけの高校じゃ何かと不便だからな。イギリスから完全に手を切らせてただのセシリア・オルコットとしてあそこに拘束すれば問題ない。

 

(……脱童貞が外国人とはかなり貴重だよな、これ)

 

 というボケはともかく、今はゲームの練習も入れておくか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝、俺は寮で食事をしていると周りから視線が突き刺さった。更識からは「騒ぎを拡大しすぎよ」とメールで注意されたし、夜遅くまで起きていたから少し疲れている。だがな、

 

「ねぇアンタ」

「……来い、来てくれ頼む。俺に癒しを……!」

「ちょっと、聞いてるの!?」

「うるせぇ! ちょっと黙ってろ!」

 

 この時をどれだけ楽しみにしていたことか。ようやく……ようやく我が女神たちを一気に手をすることができるこのチャンスを一体どれだけ待ち望んだか……!!

 

「違う……ゴミが……!!……来た……!! よし来……いやまだだ…………よし光った!!」

「いや、あの、私の話を―――」

「………やっと来た………」

 

 これでようやく……超レアキャラを……一気に俺の主力格になる戦力を手に入れた……。

 俺は思わずガッツポーズをする。ヤバい。超が付くほど嬉しい……。

 

「私の話を聞きなさいよ!!」

「悪い。これから強化するからまた後でな」

 

 カレーを食べて咀嚼しながら貯めに貯めた素材をそのキャラに与えていく。そうやって何かをしていた方が効率が良いからな。……ところで、

 

「誰?」

「……ようやくこっちを見たわね」

「………で、誰?」

 

 にしても勇気あるなぁ。2日目にして俺に話しかけてくるなんてオルコットのように様子を見てきたか、織斑のような馬鹿か……もしくは織斑目当てか。

 どっちにしろ、相手にするのは時間の無駄か。

 食べ終わった俺は立ち上がって食器を食器置き場に戻して食堂を出ると、後ろから誰かが来たのでそこらにいる女を盾にした。

 

「いきなり何しますの!?」

「………あ」

 

 オルコットだった。なんという引きである。いや、この場合はちょうどいいか。

 

「オルコット、ゲームでの試合だがISVSにするつもりだからググって対策立てるようにな」

「待ちなさい! あなた、この状況でそれを言いますの!?」

「というか待ちなさいよ!! 私はあなたに用があるのよ!!」

「じゃあ、お前が死んで成仏したら話を聞いてやるよ」

 

 今の俺は勉強とゲームの特訓が優先事項……ああ、筋トレやジョギングもだが。

 ともかく今は基礎の体力作りからだ。整備科に進むにしろ体力はいるだろうからな。

 後ろで何か騒いでいるが、ともかく今は開いている時間でできるだけトレーニングやポイントを探すべきだろう。どこかの天才も「足場作りはしっかりと」って言ってるしな。……って言っても、この時間じゃ遠出はできない。勉強しかできないか………いや、どうせなら―――

 

 ―――ちょうど素材に良さそうなゲームがあるから同時にそれもしよう

 

 

 

 

「というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどが上げられ―――」

「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、体の中を弄られているみたいでちょっと怖いんですけども……」

 

 文章にすれば確かに恐ろしい何かに巻き込まれているように見えるな。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出るという事はないわけです。もちろん、自分に合ったサイズの物を選ばないと型崩れしてしまいますが―――」

 

 すると織斑と目が合ったようで話を止める山田先生。そして恐る恐る俺を見て顔を青くする。

 

「え、えっと、いや、その、男子はしていませんよね。わ、わからないですね、この例え。あは、あははは………」

「要は一般的なサポーターとは違い、ISは装着するだけで全身の保護をしている、ということですか?」

 

 俺が続けて質問すると山田先生は慌てて返事する。

 

「は、はい! そうです! そういう認識です!」

 

 にしても、何でブラジャーの話をしただけでこっちが睨まれることになるのだろうか? まさか、俺が童貞だからこの状況を楽しんで襲おうとか考えているとか思っているのか? だとしたら不名誉極まりないんだが。

 

「そ、それともう1つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話―――つまり、一緒に過ごした時間でわかり合うというか……操縦時間に比例してIS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

 意識……ねぇ。

 そんなものがあったら是非聞いてみたいな。どうして俺なんかが動かすことができたのか。

 

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

 ……物言わぬ機械をどうやってパートナーと思えと?

 だがまぁ、これでなんとなくだが山田真耶という女の事は把握できた。授業はいらない部分は少しあるが全体的にわかりやすい。……だが、あまり主張しないタイプだろう。おそらく俺でも勢いで押せば体の関係に持ち込めるレベルだ。

 パートナーを彼氏彼女とか例えている馬鹿のことを放置して俺は勉強を進めていくとチャイムが鳴った。

 

「あ、えっと、次の時間では空中におけるISの基本制動をやりますからね」

 

 授業から解放された俺はそのまま机に突っ伏す。

 普段しないことばかり連続でしているから色々と疲れが溜まっているのだろう。俺は眠ってしまっていたが、物凄い衝撃を食らわされて目を覚ました。

 

「いっつつ……」

「起きろ。授業の時間だ」

「………後2分もあるんだが?」

 

 時計を確認してそう言うと「気にするな」と言って教科書の6ページを音読するように言ってきた。

 

「そこは篠ノ之束という女にしかISコアを製造できないことと、国はあるだけのコアを使って研究や開発をしているというページだろ。何で今更そんな初歩的なことをしているんだ」

「………………いや、その……すまん」

 

 何で織斑が……ああ、そういうことか。

 周りが俺を見て本気で驚いている。別の場所では確認して「合ってる」とか言って驚いているし。

 

「…………では聞くが、コアの取引に関しては―――」

「アラスカ条約第七項によって禁止されている」

「………あー、そのだな……」

 

 煮え切らない態度で俺を見てくるクラスメイト。……ちょっと待とうか。

 何だこの態度は。こいつら全員舐めてんのか? 俺が本気で勉強できないとか思ってたのか?

 

 ―――調子に乗んなよ

 

 あー、あれだ。今ならクラスメイトをボコっても良い気がする。まだ授業中でもないのに叩き起こされた挙句、勉強できないとか勝手にレッテルを貼られて、これで誰も殴っていないのが奇跡だろ。いや、マジで。

 

「はっきり言って、これくらい常識だぞ。まさかアレか? 「織斑君が勉強できないからどうせこの豚もできないでしょww だからISで戦えないんでしょww」とか思ってんのか? 調子に乗るのも大概にしろ。こっちはとっくに高校レベルの勉強は終わらせてISに関する計算式の勉強してんだよ!」

 

 気分が悪いわ。全く、IS学園がこんなにレベルが低いとは思わなかった。

 俺はすぐさま帰る用意をし始めると、織斑先生が制止する。

 

「おい待て。何をしている」

「帰る。少なくともこんな馬鹿の巣窟で勉強したら俺の知能数すら低くなる可能性もあるからな。文句あるなら俺を別のクラスに移動させるか、アンタら姉弟が死ぬかしろ。それまではこんなところに来るか」

 

 腕を握ってくるのを回避してドアを思いっきり開ける。そこであることを思い出したので言うことにした。

 

「オルコット、昨日お前俺に言ったよな? 「期待外れ」だと」

「…ええ。それが何か」

「………この際だからはっきり言っておくわ。俺からしてみればここのクラスは屑の巣窟。素人に対して優しくしない自称エリートに教師2人は生徒の暴走を止めないアホ。もう1人の男子は盲目ゴミ野郎にその他大勢は勘違い共だ。俺は学歴云々は気にしない人間だが―――はっきり言ってあの屑共の巣窟って言われている黒葉高校程度の場所に、また3年間も同じような場所に通わないといけない現実に、はっきり言って失望したな」

 

 こんなところで授業なんて受けるなら、定期的にテストを受けている方がまだマシだということはよくわかった。不登校だなんだとレッテルを貼ればいい。こっちはこっちでしたいことをするさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう。そんなことがあったの」

 

 楯無はため息を吐く。

 今は生徒会室で仕事を片しているのだが、緊急の電話の対応をしていた。要は1年1組にいる密偵である。

 

『そのせいか~やっぱりクラス内はピリピリしてるよ~。「あんなデブに負けないで」ってオルオルに応援する人がいるほどにね~』

「………で、あなたはどうなの?」

『まぁ、あまり良い気はしないけどねー。それでもまだやっつーの気持ちはわからなくもないしー。でも、あの話はホントなのー?』

「あの話って?」

『やっつーが、本当は日都大学の総合工業学科を首席合格していたって』

 

 楯無が肯定すると、向こうからは唾を鳴らすを音が聞こえた。

 電話の相手が驚くのも無理はない。日都大学は国際的な大学だがその偏差値は全国トップ。IS学園の生徒ですらアドバンテージがあるのに中々合格できない環境にあるのだ。ましてや総合工業学科は男にとって最後の砦であり、ISのことを勉強して女よりも上を目指そうとしている男が多く受験し、倍率はIS学園にはギリギリ及ばないというほどなのだ。ましてや受験者は30を過ぎた男ですら受けているほどで、そんな学科を現役でしかも主席合格をしていたとなれば並大抵の賢さではない。ISに関する勉強はしていなくとも、IS学園で出る一般教科の勉強はすべて終わらせているということを意味する。そのこともあって、世界は透を「操縦者」としてではなく「科学者」として見ている。透は自分のことを上に見ているのは「難関大学を不良校にいた自分が合格した」からだが、世界は「超がいくつも付くほどの難関大学に現役で合格した天才レベル」として見ている。

 仮にセシリアが透に負け、関係を持って子どもを孕むことになったとしたら、イギリスはかなりリードすることは間違いない。

 

「まぁ、彼はああいう容姿しているし、世界的には顔が良い人を選んだ方がいいじゃない」

『なるほどー』

 

 そう説明する楯無。彼女の視線の先には、教科書の山の中で疲れ果てて眠る透がいた。




まぁ、あれです。彼の場合は「過去の経験から知識を求め続けた結果」です。チートじゃないのでかなり勉強しています。

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