日本を揺るがす出来事が起きて1週間が経過した。
朝間政権は崩壊し、またそれによって資産も没収されてしまう。その結果、更識家も芋ずる式のように崩壊を余儀なくされた。
しかし、日本による問題は山積みであった。特に―――今回の件に関わった4人組。
しかもその内の1人は男性操縦者であり、現在もまだ行方知れず。大規模な爆発が起こった場所はどの領地にも属さない場所という事でIS委員会が調査に乗り出そうとしているが、突発的に起こる波により入ることすら難しくなっている。
「………一体、何が起こっているんだ」
千冬はこの記事を読んで本気で束が怪しいと思っている。透が消えて得するのは束だと考えているからだ。
それもそのはず、透はいつの間にかISを纏った状態で操縦者を殺す方法を身に着けていた。それを発揮すればISの真価が疑われ、最悪の場合はISのことで第三次世界大戦すら起こる可能性があると踏んでいる。
「……今回の事件、本当に謎ですね」
「4人は無事だが……更識姉は、な」
そう、今回の事件―――更識楯無が犠牲になることですべてが集束した―――だが、それは大きな間違いだった。
今回の事件、一番得したのは誰か―――それはロシアのIS関係の代表者である「キール・ニコリスキー」だった。
彼は今回、ログナー・カリーニチェを通じて亡国機業に楯無を誘拐を依頼してロシアに裏での帰国をさせてある目的を達成しようとしていた。しかも、その結婚を大々的に行ったことで日本に対して多額の賠償金を要求する。理由はどうあれ、国家代表をさらうきっかけを作ったため、同時にある少女も要求した。もっとも、それは今回取引する相手の要望であり、「おそらく中古とはいえ貴重な高適性姉妹を同時に囲えるのは名誉のこと」らしい。
その取引により、ロシアは一方的に得をする。これによってキールは政治界隈でさらなる各位を得る。思わず笑いそうになるが、それは我慢する。
目的の場所に到着したキールと楯無。楯無はIS学園の制服のままだがこれも取引相手の要望だ。
「さて、降りるぞ」
楯無を連れてキールは降りると、執事服を身に纏った男性が1人待機していた。
「ようこそおいでなさいました。旦那様がお待ちです」
「出迎えありがとう。それで、彼はどこに?」
「今か今かと待っていますよ」
笑顔で対応する執事。とても顔が整っており、IS学園に通えばおそらく一夏と人気を二分する程だろう。それほどのイケメンがどうしてここにいるのかと疑問を思ったが「おこぼれ狙いか」と思いキールは楯無を引き連れさせる。そして、部屋に案内されたキールは―――蹴り飛ばされた。
「ガハッ!?」
「ニコリスキー様!?」
部下の1人が容体を確認し、他の人間が蹴った犯人―――執事に向けて銃口を構える。
執事はマスクを取って楯無の唇を奪った。
「………え?」
「ど、どういうことだ………まさか貴様が私の―――」
「ああ、そいつらはそこの花瓶を移動させたらわかる」
言われてキールは近くにいる部下に花瓶を退かさせると、秘密の部屋なのか壁が動いて廊下が現れた。
「……これは……」
廊下からは何かが聞こえてくる。
『全員の睾丸が……潰されています』
瞬間、兵士たち全員は場違いにも革ジャンを展開して着て、楯無の制服も綺麗にする。
「………ねぇ、今のって―――」
「いやぁ、自白剤って面白いよね。おかげで色々聞けたよ。アンタから楯無を買って、おまけに簪も後から買うとか言ってさぁ………ホンっと。舐めてんだろ、下等種族が」
すると透の周りにそれぞれ形が違う武装が現れ、それらが廊下を通過してその場にいる男たちの断末魔が響いてきた。
「貴様、今何をしたのだ!?」
「殺した。ああ、安心しろ。部位限定で生き返らせて……というよりも高速治癒をさせている。まぁ、睾丸が潰れていたらそれまでだ。まぁちゃんと膿まない程度の修復はしているから」
「そういう問題ではない!! 貴様は我々のビジネスを邪魔したのだぞ?!」
その言葉を聞いた透は笑みを浮かべ、見下す様に言った。
「それがどうした?」
透はハルバートを展開してキールの腕を切り落とす。
「あッ! ……あぁああああああああああああッッッ!!!」
「キール・ニコリスキー、残念ながら貴様はIS委員会から除名されたよ」
「な、何ッ!?」
「アンタ、モテるんだって?」
キールは以前から代表候補生から顔が良いことや政治食に30代という若さで着いていることから人気があり、そう言ったスキャンダルも多々あった―――だが、相手はいずれもパッタリと消えている。
「いやぁ、まさか助けただけですべての証拠が出てくるとは、まさしく亡国機業様々だよなぁ。おかげでお前が定期的に少女を売って金を得ている証拠が手に入った。で、それを―――委員会に平和的にお話ししたらお前の委員会追放を約束してくれて、これからは俺の家族も狙われる心配はないしな。ホント、やるべきはやっておくことだよなぁ」
そう笑いながら透は言うが、実際は―――
「……本当に話をしただけ?」
「大丈夫。重傷者が出た程度だから」
「それは話じゃない!! 脅迫でしょ!?」
思わず素で突っ込んだ楯無。透は彼女の手を取ってまたキスをするが、今度は深い方だった。
「………ふざけている……こんなこと……あっていいわけがな―――」
「あ、これロシアにはとっくにバレているから。だからアンタの娘は今頃売られた女たちの親に強姦されているだろうなぁ。ま、親のしたことがしたことだし、仕方ないよネ?」
明らかの暴論であり、キールは隠し持っていた銃を出して透に向かって引き金を引く。楯無は咄嗟に守ろうと入るが先に透がAICで止めてそのまま受けた。もっとも、全く効果はないが。
「………嘘……だろ……」
「まぁ仮にも天才ですから。こうして、方向転換して、ぶっ放すのは普通だZE☆」
銃弾を返してキールの耳が吹き飛ぶ。しかしすぐに回復されて何事もなかったように元通りになった。
「つ・ま・り、俺を相手にするということは下手すれば篠ノ之束を相手にするよりもよっぽど辛いわけよ。だって俺、容赦なんてないし」
「………狂ってる」
「でもまぁ仕方ないよ。だって俺、男な上に強欲だし。だから無理矢理認めさせたから。あ、でもお義父さんにはちゃんと挨拶したから。「崩壊した更識家の人間を全員矯正するから娘2人ともいただきますって」
「………………(バタッ)」
とうとう付いていけなくなったのか、楯無は頭から湯気を出しながら倒れる。透はさりげなく受け止め、お姫様抱っこして去ろうとした。
「ああ、最後に言っておくよ。一応、アンタの娘は無事だ。まだ10歳にもなってないし、流石に可哀想じゃない? だからしばらくは俺が立ち上げたプロジェクトの間で教育してやる。いざとなったらちゃんとした場所に紹介してやるが―――あくまで娘だけだ」
―――テメェのことは切り捨てるけど
不敵な笑みを浮かべてその場を去る透。しばらくしてIS委員会から派遣され、負傷者を保護してキールに対して厳しい尋問が数日続くことになった。
それはこの日から数日前のことだった。
「ということなので、あなた方はまだ新規の仕事は探さなくて構いません。すべて私が受け入れます」
「………それはありがたい。しかし、何故あのようなことができた? 仮にも君の血縁者だろう?」
楯無と簪の父である茂樹は透にそう尋ねると、透はさも当然のように答えた。
「「俺の物は俺の物、世界の物は俺の望む限り俺の物」―――それが私の考え方です。つまり、あれは「血縁者」という血の繋がりがあるだけの存在。いらない存在にかける慈悲はありません。―――それに、邪魔だったので」
まさしくそれが本音だったが、透は1つだけ訂正を入れた。
「でも、これだけは言えます。あなたの娘さん方、そして子供たちだけは絶対に守ります。どのような手段を用いても」
その時の殺意は本物だったと、後に茂樹はとある人物に語った。
■■■
「説明、してもらいましょうか?」
あ、その、なんかすごく怖いんだけど……。
開放された楯無と一緒に俺が持って来たオートパイロット式の飛空艇で移動していると、楯無が迫ってきた。というか、さっきまで風呂に入っていたから良い匂いをするので今にも押し倒しそうです。
「説明もなにも、簡単な話。俺が強すぎたからIS委員会に直訴しに行っただけだっての。「世界壊さないから日本で一夫多妻制採用してくれ」って」
「………あなたなら本気でしそうね」
「ま、してないんだけど」
「してないのかよ!?」
興奮して大きく息をする楯無。何だ。そんなに人工呼吸が必要なら俺がしてやるって言うのに。
『どうでもいいけど、どっちに帰るの? IS学園? それともあそこ?』
「IS学園は明日で良いよ。俺も柄にもなく頑張ったから帰って寝たい」
それに帰ったら帰ったらでまた織斑千冬に説明しないといけないし。
「………おかえり」
「か、簪ちゃん!?」
「……どうしたの?」
急に現れたからだろうな。実は別室で溜まった宿題をしていたなんて思わないだろう。
簪も空気を読んでシャワーを浴びていたのか髪が塗れている。
「………全く。俺はその気はないっての」
「………大丈夫。ちゃんと拘束具はあるから。後はお姉ちゃんに注射をすればOK」
「待って、簪ちゃん。私は何もされていないから大丈夫よ?」
そう言って青い顔をして簪から距離を取る楯無。俺は2人を見てようやく元に戻ったと痛感してベッドに座った。もちろん、楯無を確保するのは忘れない。
「待って。まだ私たちにはこういうのは早いっていうか」
「大丈夫だ。俺の長年の夢を実現させるだけだから」
「それ、意味がわから―――」
楯無を押し倒して思いっきりキスをする。もちろん、両足は確保済み。しばらくして離れると今度は簪に襲われたが、
「先に言ったが俺はもう寝るからな」
簪は渋々といった感じで俺の隣に陣取る。そして俺は今までできなかった楯無を抱き枕にするという行為をして、約束の地に着く寝て、翌日IS学園に帰ってIS学園の理事長、学園長夫妻と織斑千冬にだけ今回の事の顛末は話した。
あのトンでも騒ぎから10年。俺は今、割と普通の生活をしている。まぁ、やっていることは割と普通じゃないんだけど。
無人島を手に入れ、楯無を飼おうとしていた下等種族から金をもらったのだが考えてみればあまり使い道がない俺は、人を呼んで生活をしていた。まぁ、住民のほとんどが処分に困っていたらしい子どもとかで、俺はそこの技術部部長として働いている。総指揮はお義父さんに任せているのが現状だ。
「………できた」
元々ほとんど壊れているとはいえ設備は充実しているし、復興は思いのほか早かったな。
「部長………何しているんですか?」
「ポリスイーグルを作ってみた」
これなら人間の視界外から強襲できるし、いち早く駆けつけることはできるだろう。数か所にポリスボックスならぬポリスバードボックスでも作っていれば充電できるし………逆に巣が作られそうでそこがネックだが、これからはその開発もするべきか。
「………ところで、簪」
「なんでしょう?」
「……本当に変わったな。兄として嬉しく思う」
そう言って改めて簪を見る。身長は5㎝ほど伸びて流石姉妹と言うべきか胸も大きくなった。……それでもアイツには劣るが。
「……夫でもある癖に」
そう言って色っぽく耳に吹きかけてくるが、ヤバいエロい。そして気持ちいい。
「ちょ、簪、ストップ」
「この書斎には誰も入って来ないからセーフ」
「俺のライフが0になるからマジでタンマ!」
そう言って俺は簪を止めると、キスを要求してくるので俺は優しく返した。
そう、あれから10年。俺たちの周りはかなり変わった。
まず女権団も男権団も完全に崩壊が確定し、朝間政権が終わって朝間修蔵の悪事が明るみになって掌を返した民衆。そこから動いた新政権による女性優遇制度の完全撤廃だ。
だが、それでは「今までの復讐」と称して女狩りが始まるのが目に見えているからか、特に性に関することには厳しい処分を下すことをすぐさま発表。また、痴漢に関しても冤罪者に対して例え学生に対しても厳しい処分を下すことにしたようだ。
さらに変わったこととは、第三次ベビーブームが来たことだろうか。悠夜はもちろんだが、静流もラウラと結婚したらしい。父親とガチで殴り合ったとか、ドイツ軍に入ったとか聞いているがこっちは学生同士の結婚をしたことで色々と忙しかったのであまり詳しいことに聞いていない。織斑姉弟は………まぁ、お察しだな。それでも聞いた話によれば織斑千冬は一般の高校の教員免許を取得したようで体育の教師として頑張っているようだ。30代も中ごろだが美貌は衰えていないようで、生徒からのプロポーズが多いらしい……ただし、男女問わずだが。
「……さて、帰るか」
そろそろ5時半。今頃アイツが食事を作って待っているだろう。
一番変わったのは、ISの立場だろう。
俺がISのほとんどの機能を使って本当の兵器を開発したことで、ISは兵器としてお祓い箱になった。絶対防御とかはないが、一撃食らっただけではそう簡単には死なないようになっている。空を飛ぶのは背部のスラスターの設定によるため、言うなれば男女とも扱える準ISみたいな感じだ。
最初の3年は俺は各国の科学者のための勉強会をして、後は基礎基盤というかモデル販売の版権を微々たる程度だがもらうことで話はついた。動力源もISコアみたいにブラックボックスってわけじゃないし、おそらく配備はこれからはそっちがメインになるだろう。ISはますます宇宙開発やスポーツの道具として扱われることになる。
他の奴らはどうしているか知らないが、荒鋼のコアだったゼロは今、世界公演らしい。ガチでネットにしか存在しない歌手が世界デビューに乗り出したみたいだ。金曜日の夜に放送される音楽番組に新曲を出すたびに出演している。今ではマネージャーが投影するだけで普通に会話できるから便利な世の中になったなぁって思う。
なんて思っていると、中心街に入って元無人島に珍しい一軒家に入ると、子どもたちが俺の所にわらわらと集まってきた。
「おかえりなさい、あなた」
「ただいま、刀奈」
おかえりのキスを済ませると、今度は簪と。すると俺たちが帰ってきたのがわかったのか、もしくは察したのか子どもたちがこっちに来て対応に追われた。
あのトンでも騒ぎから10年。最終的に残虐帝王と呼ばれた俺は―――妻2人に子どもが10人と大家族だけど、それなりに楽しい毎日を送れている。……ちなみに、
「あ、今度は3つ子だって」
「………私も仕事を辞めた方が良いかな」
「………………孫が1000人超えそうだな」
刀奈はまた妊娠した。お金の心配は全然していないけど、簪の発言の方が心肺です。
そして彼は、死ぬまで幸せに暮らしました。これはそんな話。
今までありがとうございました。さて、今度は―――Lost Boyですね。
ということで新作は書かず、Lost Boyに集中する予定です。