IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.43 吠える残虐王

 もし立場を変えることができたら、俺はどうしただろう。

 もし力を思いっきり奮えるなら、どうするだろう。

 もし、俺が篠ノ之束みたいな性格だったら―――いや、むしろそんな性格だったら良かった。

 

「………………立場なんて、クソ食らえだな」

 

 しかしもう、それは変えられない。

 今日は結婚式―――おそらく俺の初恋の相手は今日、俺が一番嫌いな相手と結婚する。

 

 

 とか考えていると、思うんだ。

 

「世界ぶっ壊してぇ~」

「―――ちょっ、物騒なことを言わないでよ!?」

「そ、そうだよ! 君がそれを言うとシャレにもならないんだよ!?」

 

 どうやら近くにいたらしく、俺の些細な発言に大げさな反応をする。全く、

 

「ただ呟いただけじゃねぇか」

「ただ? アンタ今ただって言った!?」

「……落ち着け、鈴。確かに夜塚があの発言をすると全くシャレにならないが、実際する根性は………ない………はずだ」

「信用ねえのかよ!?」

 

 まさかそこで溜められるとは思わなかった。

 

「篠ノ之……お前なぁ」

「仕方ないだろう。ここにいるのは正直姉さんみたいに色々とおかしい奴なんだから」

「それ本人の前で言う!?」

 

 なんて酷い。ガラスのハートでできた俺の心は大いに傷ついたと言っても過言ではない。

 全く。相変わらず容赦がない連中だ。少しは世界平和とか考えるべきだと思うよ。まぁ、俺も1年に1回ぐらいしか、しかも長く考えても1分持てばいい方だけどな。

 

「まぁ、おかしい奴というのは否定しないが」

「否定しないんだ……」

「シャルロット、こいつの事で色々と突っ込んでたら埒が明かないわよ」

 

 凰に言われて「だね」と答えるデュノアの頬を引っ張った俺は悪くない。

 

「………ところで、オルコットとボーデヴィッヒは?」

「ああ、あの2人なら本国に帰ったよ」

「………お前らは?」

「「………………」」

 

 あぁ、なるほど。

 まぁこっちにいればそれなりにアドバンテージは取れるしな。精々頑張れ。

 などと比較的平和な会話をしていると、電話が鳴った。相手は………えっと、何でだ?

 とりあえず出ると、その相手からとんでもないことを言われた。

 

『あ、透? ちょっと警備員を倒してしまったんだけど………今すぐこっち来てくれない?』

 

 悠夜からそんなことを言われた俺は、本気で顔を引き攣らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その教会はとても豪華だった。それもそのはず、セレブ御用達の結婚式場であり、とても綺麗な装飾を施しているからである。不思議なことにその教会は「カメラ席」も設けており、有名な俳優や歌手すらも時折利用し、メモリアルとして複数のカメラマンを呼んだりするからだ。もっとも、今回は相手が相手という事もあって各国の政治家たちが集まるだけでカメラを呼んではいない。

 

「中々似合うじゃないか」

 

 その式場の控室で、ウエディングドレスを着用した楯無の姿を見に来た勝也はニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべる。当然、楯無は苦い顔をした。

 

「何か用かしら?」

「酷い言い草だな。これから結婚する相手だと言うのに」

「好きでするんじゃないわ」

 

 そうはっきりと答える楯無。厳しい言い方だが実際そうだった。

 これはあくまで朝間家と更識家の同盟を結ぶ儀式そのもの。更識がここ数年財政難である事、そして透と親しい関係を築いていたことが目を付けられたのだ。また、最初は簪が勝也と結婚することになっていたが楯無が立候補したのである。

 

「そうだ。我々は好きでするんじゃない。よくわかっているじゃないか」

 

 勝也はそう言い、楯無の顎を取ってキスしようとしたがそれよりも早く楯無が勝也の頬を叩く。

 

「それ以上するって言うなら、あなたの顔を潰すわよ」

「おお、怖い怖い。だが鍛えているとはいえ、今の君にそれができるのかな?」

 

 実はこの結婚式の間、楯無には2つさらに弱みを握られていた。1つは「ミステリアス・レイディ」。いざという時に結婚を破綻されては朝間家が赤っ恥をかかされる。更識家としてはそれはないと踏んでいるが、念には念を入れておきたい。そしてもう1つは簪だった。

 彼女はある目的のために訪れていたが、今は捕まってしまっている。しかしそのことは当然楯無は把握していない。式場に連れて来られてすぐに控え室に連行するような形で移動させられ、虚や本音、そして親とも連絡が取れない状態だった。さらにこの状況で暴れたところでウエディングドレスという拘束服を着せられた上に相手が勝也となれば相手が悪い。勝也は一度負けて信じらない遂げており、生身で相手をしようものなら並大抵の相手では瞬殺できるほどの反応速度とパワーを持っていた。

 

「先程のことは見逃してあげるが、次はないぞ」

 

 次―――それは即ち結婚式のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてそれは2人の会話から30分後開始された。

 とても簡易式のものではあるが、それを経て2人は演台の前に立つ。神父がいつもの言葉を述べている間、楯無は勝也に尋ねた。

 

「……簪ちゃんはどこかしら?」

「彼女は辛そうだったから休んでもらったよ」

 

 そしてまず、勝也が「誓います」と言ったところで―――天井が破壊されISが侵入してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――異変から5分前

 

 俺は今、悠夜の運転する車の後部座席に乗っていた。いや、正直学園長から「見聞を広めるために自由に行動を許可する」と聞いていたが、それが早速使われることになるとは思わなった。

 ちなみに移動は空飛ぶ車。透明機能なんて不要なんです。偉い人にはそれがわからんのですよ。

 

「で、一体どういうつもりだ?」

「いやぁ。友人ならやっぱり「花嫁強奪作戦」のよしゅ―――手伝いくらいはしないとね」

「おい今「予習」って言わなかったか?」

「気のせいだよ」

 

 というかこいつ、本当に黒葉にいる時より明るくなったな。元々も暗い上にあのヤンデレだったから正直引いていたが。……ところで予習ってことは、幸那ちゃんを合法的に奪った相手から強奪するのか?

 

「面白そうじゃないですか!!」

「……バックアップなら任せてください」

「大体、奪ったところでどこに隠れるんだよ。今使っているこの車だっていずれバレるだろ。言っておくけどな、相手はただのインテリ社長じゃねえ。国の長だぞ」

 

 日本はISが出た時点で完全に変わったと言っても過言でもない。そもそも大体多くて4年位で政権交代していた時期に10年という長い期間「総理」の椅子に座っていたのだ。その間、どれだけあのジジイが汚いことをしていたか。下手すれば自衛隊―――IS部隊すら出てくる可能性もある。

 

「良いから引き返せ。お前ら殺されるぞ」

「………今だから言うけど、何で女尊男卑だった幸那が僕に従うようになったかわかる? 義母は女としてクスリ含めて目覚めたからだよ。そして幸那はその様子を僕に女にされながら映像で見せられたんだ。そんな屑共を従わせるしか能がない相手を倒すなんて簡単簡単」

「衝撃的すぎるはそのカミングアウトは!!」

 

 色々と突っ込みたかったか、今はこれくらいで許してやらぁ!!

 

「だって大人って弱いじゃないですか。ジブンはもっと強い大人と戦いたいっスよ」

 

 まぁ、静流君って100人のヤが付く職業の人を相手に壊滅という事実を突きつけた男だから―――って、そういうレベルじゃねえよ。

 

「…………セクハラはしません。誓って」

 

 人命救助だから間違って胸を触っても仕方ないよね―――じゃねえよ!!

 

「お前ら今一度考えなおせ!! この作戦が上手く行く保証は―――ああ、ガチ装備か」

 

 悠夜はダークカリバー、そして静流君は変形式トンファー、瞬君は木刀を出したので俺は思わず納得してしまった。…………そう言う俺もガチ装備である。

 

「……………もういいわかった」

 

 悠夜はともかく、静流君も瞬君も合って1年もしない俺にそんな装備で挑むんだからもうどうこう言えねえか。

 俺はため息を吐いてシートに座席を預ける。しばらくすると、目的地の式場から煙が上がったのを確認した。

 

「透さん、アレって」

「言うまでもない。そこに行け」

 

 そもそも車が空を飛ぶ考えがないので攻撃されない。時速200㎞近く出したそれは式場に近付くとISが去って行く。ハイパーセンサーで確認するが、見知らぬ子どもが攫われただけだった。

 

「………ん?」

「どうしました?」

「いや、今ミステリアス・レイディの反応があった気がするんだが……まぁいい、ともかく着陸してくれ」

「了解」

 

 なお、着陸は安全を考慮してホバリングしつつとなる。横に倒されたタイヤが縦になったのか、軽い衝撃が走ったが俺たちはすぐに出ると優秀なのか近くにいたのか重装備をした兵士たちが俺たちを囲っていた。

 

「………透! お前、招待状を送ったのに何故来なかった!!?」

「誰がお前のクソ晴れ舞台なんて行くか」

 

 おそらくその場で神父とパイプオルガン諸共首を飛ばしていただろう。まぁ、楯無にとってデメリットしかないなら言って骨を壊しつつ蹴り飛ばした自信はある。

 

「それよりもこれは何の騒ぎだ。……楯無は?」

「………連れ去られた」

 

 ………ほう。

 こいつ、これだけの兵を集めてまんまとやれたというのか。それはとても―――不愉快だな。

 

「………透か。今更何の用だ」

「え? この人って確か………」

「朝間修蔵。現総理大臣にして、透のおじいさんだよ」

「じゃ、じゃあ透さんって大臣の孫なんですか!?」

 

 本気で驚く静流君。まぁ、これが普通の反応だよな。学年別トーナメントの後は誰も触れてこなかったが。………ああ、あれだけやってれば言いたくても言えないか。

 

「………暴露していたはずだがな」

「すみません。試合の時はあんな単調な動き如きについていけない相手チームを笑っていました」

 

 ちょっと傷ついた。いやまぁ、仕方ないよね? キレてたし。

 と、内心で言い訳していると、あることに気付いて「ミステリアス・レイディ」と「簪」の反応を辿るために投影ディスプレイと投影型キーボードを展開した。

 

「………これ、どういうことだ?」

 

 簪は日本の代表候補生を辞めた。当然、機体は没収されたがその代わりに俺はAIC技術を使用した防壁を渡しておいたのだ。そこには発信機があり、いつでも持ち主の同行を探れる。

 ミステリアス・レイディは所詮はIS。最悪放置でも問題ない。だが簪は襲われた教会に反応がある。

 そのディスプレイを見せると首を傾げる。

 

「これは簪がいる場所だ! テメェの後を継ごうとしている男の妻になるはずの女の妹だ!! そいつに発信機を持たせていたがどうしてこの場所から大して動いていない!! 答えろ!!」

「―――それは、彼女がこの地下に拘束されていたからですよ」

 

 全く別の方向から瞬君の声がした。見ると、布仏本音と一緒に簪に肩を貸して移動している。

 

「簪様!」

 

 ボロボロになっている布仏虚が簪に近付いていく。彼女もどうやら知らなかったようだ。

 おそらくメインの主人である楯無に付きっ切りだったか、まぁそれはいいか。

 

「……大丈夫です。少し傷ついていますが…………」

「………こんな………ことって………」

 

 ………そうか。俺は……勘違いしていたようだ。

 俺はおそらく信じていた。いくら富豪同士の結婚とはいえ、多少の愛はあるんじゃないかと思っていた。だが結果はどうだ。下らない茶番の末、おそらく楯無は誘拐されて簪はどういうことか監禁されている始末。こんなの………おかしいだろ。

 

「……悠夜。全員を撤退させろ」

「君は?」

「殿」

 

 今日、俺は―――人生最大の本気を出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 女尊男卑の時代が到来したが、男が主体であり続けている朝間家の時代は到来した。

 10年という歳月。しかし彼らはまだそれを続けるつもりだった。いや、実際続くだろう。彼は分家「夜塚」とはいえ、「朝間」として血が流れている。

 しかして「朝間」はこの10年の間、決して何もしていないわけではなかった。私兵を増やし、自分たちを守るための壁を多く生み出し、末裔であり強者となった兄妹もいる。

 そもそも、修蔵の子どもは勝也や希美の父、透と朱音の父以外にもたくさんいるが、孫の多くは中学生やそれ以下がほとんど。20代を超えるほどの人間は数人いるが、彼らもまた屈強の戦士であった。

 全員が透たちを囲もうとする。ISによる襲撃によって更識家の人間がいち早く動いたことでかなりの人間が辛うじて死亡していないとはいえ重傷者が多数出た。故に動ける者は本当に少なく、襲撃の影響で野次馬たちが集まっている影響、そして救急車が同時に数台来たこともあって道は混乱し始めている。

 

「止まれ!!」

 

 そう叫びながら男の1人が銃を撃つ。それが静流の方に一直線に飛ぶが静流は平然と銃弾を受け止めた。

 

「警告しながら撃つってどういう神経してんだよ!!」

「黙れ!!」

 

 その反応に静流は舌打ちしてトンファーを出そうとするが、悠夜がそれを止める。

 

「何するんですか!? やらないとこっちがやられますよ!!」

「気持ちはわかるけど落ち着いて」

「でも―――」

「あなたたち、良いんですか! あなた方がこっちに構っている間に、あなた方全員死にますよ!」

「何を馬鹿な―――」

 

 悠夜に銃口を向けた男の手が吹き飛んだ。その男の前には氷推があり、それが吹き飛ばしたようだ。

 

「………は?」

「だから言ったのに」

「え? 今の何ですか?」

「……そう言えば静流君は初めてだっけ? 透が本気でキレるのを見たのは」

 

 悠夜が笑みを浮かべて言うと、静流は透の方を見る。

 

「たぶん、瞬君が助け出した女の子も、連れて行かれた女の子も透にとって大切な人なんだよ。だからこれをした相手を―――全員殺すよ。今の透は」

 

 まさしくその通りだった。

 あらゆる武術に精通している朝間家。その次期当主である勝也は本気で顔を青くしている。何故なら、透に仕掛けた希美は、ISを展開していると言うのに肉体を氷推で貫かれていたからだ。

 

「―――まさか俺が、ただのフェイカーだと思ってたか?」

 

 その言葉で全員理解する。自分が相手にしている者がどういう存在か。

 

「俺に言わせれば第三世代機は―――すべてが第一世代で実現して然るべき存在だ! 自惚れんじゃねえぞ、クソミソカス共ガァアアアアアアアアアッッッ!!!」

 

 透が叫ぶや否や、私兵たちは氷推の攻撃を受けた。




ついノリに乗って書き上げていますが、感想はしっかりと読ませていただいています。
明日明後日を使ってすべて返すつもりです。本当にすみません。

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