IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.40 荒ぶる鋼-calamity-

 またこの世界だった。まさか1日で2回も来ることになるとは思わなかったが……

 

「で、一体何が目的だ?」

 

 不気味な笑みを浮かべる少女。不気味だが、どこか満足気な笑みを見せる。

 

「ようやくできたわ」

「何が?」

「あなたのIS。あなただけのとっておきよ」

 

 そう言われて、俺もまた笑みを浮かべた。

 

「―――ようやくか」

「ええ。あなたが福音を倒すことしか考えていなかったら一気に進行したの。まさかあの天災に感謝しないといけないとはね」

 

 一応は生みの親だろうに、何とも哀れな物言いである。とはいえ、これでも俺のパートナーか。

 

「………じゃあ、暴れるか?」

「あら? 聞かないの? てっきりここに呼んだ理由とか聞くかと思ったんだけど………」

 

 そんなの、すべて推理した。

 おそらくこいつはコアだが、篠ノ之束に属した存在ではない。その割には扱いが酷いというのもあるが、何よりも彼女が言葉を発するたびに何かを拒絶しているようだからだ。

 

「全く。お前は随分と面倒な存在だな」

「褒め言葉として受け取っておくわ。それとついでに話しておくわ。私と、あなたの今の状況について」

「それくらいはなんとなく察しているし理解はしているさ。今更―――」

「あなたがISだとしても?」

 

 俺は思わず動きを止めた? 俺がIS? 何を馬鹿なことを言っているのだろうか? そんなことがあるわけがないだろうに。

 

「現実を受け止められないのはわかるけど、あなたがISなのは事実よ。何故ならあなたは一度死んでいるから。それを私が生き返らせたの。すべてのISを無に返し、愚かな人間たちからISというものを没収して思い知らせるの。自分たちが所詮、篠ノ之束如きにおんぶにだっこされているだけの存在だったって」

 

 ―――そうした方が、また世界が狂って面白いじゃない

 

 それに関しては否定はしないが、まさか俺が死んでいるとは……。

 

「1つ勘違いしないでほしいんだけど、あなたはまだ生きているわ。ただ、「1度死ぬ」というきっかけを得たことで、身体能力が向上しただけ。そこまで怯える必要はないわ」

「…………仮に怯えたとしたら、俺にはまだ人としての心が残っている証拠だな」

 

 ―――馬鹿らしい

 

 おそらく俺は、思いっきり笑っている。その証拠に少女の笑みが徐々に消えていく。

 

「まぁいい。お前はさっき荒鋼が完全に第一形態になったって言ったな。今すぐ元に戻せ。試したいことがある」

「良いの? 戻しても今は海中だし―――」

「問題ないな」

 

 呼び出すのはすぐに済むか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました俺はすぐに投影式のキーボードを展開して操作した。予備のマーカーは準備しておいてよかったよ。おそらく旅館は電波障害に襲われるが、敵味方に知られるわけにはいかないからな。

 荒鋼は俺の思い描いた姿となっていて、装甲のみを解除して球体の状態で海上に出るとタイミングよく追加の装甲が来たのでそれらを球体の中にドッキングさせ、球体を解除する。

 全システムが正常に作動することを確認した俺は、操縦桿を握った。

 

「ようやく、か。待ちくたびれた」

 

 そう。荒鋼は4つの姿を持っている。1つ目はISとしての形態。2つ目飛行形態。3つ目はマジシャン。4つ目は―――今みたいなロボットの形態。もっとも、IS形態も本気を出せるが好みとしてはロボットの形態だ。

 

『と、透か!? 一体どうしたんだ、それは!?』

 

 オープンチャネルが開き、織斑の顔が映る。白式自体の姿も変わっているようで、その後ろでは紅椿が単一仕様能力を発動させていた。そう、俺の役目は終わったのだ。

 

「白式の二次移行、紅椿の単一仕様能力の発現。こっちのするべきことはすべて済ました。ここから先は俺のロードだ。たかが俺程度にすら及ばない世界すべて風情が―――俺のすべてに逆らうな!!」

 

 福音が雄たけびを上げる。どうやら向こうもやる気の様だ。………穏便に済ませる必要もないようだ。

 

(せっかく、単一仕様能力で機能停止させて終わらせてやろうと思ったが)

 

 ならば遠慮なくやらせてもらうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 福音は押されていた。いや、もう福音には打つ手がないようにしか見えない。

 相手は自分の倍はある所属不明機。それもあるが何よりも攻撃方法が無茶苦茶であり、突如として風を起こしながら氷塊を風に乗せて福音を襲わせる。そんな単調な攻撃で終わらせてくれる相手ならまだしも、操縦者は透だ。さも当然のように後ろに回った透はマニピュレーターを激しく福音にぶつけて相手の動きを封じにかかる。かと思えば背中に氷塊を浴びせつつ自分は正面から頭突きを食らわせるなど、器用なことをする。相手は1人のはずなのに福音は複数の相手を想定し始めるも対応しきれていない。

 

「………あの………もう止めた方が……」

 

 一夏は福音に同情してそう声をかけるが、透は福音に対する猛攻を止めない。むしろ心なしか激しくなっている気さえする。

 しかし、状況は一瞬に変わった。

 福音の攻撃を透はかわし切れなかったのか、胸部に攻撃を受け、爆発したのだ。

 

「透!?」

 

 通常、ISがダメージを食らって爆発は起これど肉体はよほどのことがない限り無事だ。だが、透の機体は胸部に穴が開いていた。そのせいか、透は動かずその場で停止していたのだ。

 

「危ない!!」

 

 一夏は透の助けに入ろうとしたが、すぐに信じられないことが起こり動きを止めた。

 その光景は、まさしく常識を覆すこと―――ダメージを受けた上部が分離し、残った脚部で蹴りを入れたのだ。

 流石にデータ外の動きをされた福音は対応できずに吹き飛ばされる。

 

「データ、取れた。故に眠れ」

 

 今度は下部が分離し、福音に接近して蹴り飛ばす。そして最後は足で福音にしがみ付き、死角からの攻撃と脚部をレーザーで貫いたことで爆発を起こしたが故にダメージを食らう。

 

「と、透!? 無事なのか?! おい! 返事しろ!!」

「無事に決まってんだろうが。俺を誰だと思っている」

 

 まるで本物の翼のそれを広げた透はそう言い、姿を消した。

 

「遅い」

 

 福音の後ろに現れた透は掌打を放つ。おそらく相手がIS以外ならば間違いなく操縦者は骨も残さず消し飛んでいただろう。それほどまでの威力を見せつけた透は福音の頭部に手を乗せる。

 

「―――そろそろ、時だろう。力は見せた。それでも貴様はなお、抗うか? 抗うならば抗えば良い。抗えるものならばな?」

 

 ―――ゾクッ

 

 決して一夏に向けられたものではないが、一夏は身震いする。そしてそれは箒や簪も同様だった。そしてそれを至近距離で受けた福音は、徐々に動きを鈍くする。

 

「汝のあるべき姿に戻れ、シルバリオ・ゴスペル」

 

 すると福音は自ら球体を生成し、それは2つに分かち姿を現した。1つは操縦者、そしてもう1つはISコア。

 透は滞空する2つを受け止めると、操縦者を手放した。

 

「って、何やってんのよ、アンタは!?」

「計算通りだ。そいつは任せる。………年上の女を抱く趣味はないんでな」

 

 そう言って透は福音のコアを手に、その場からの離脱をしようとしたところで一夏が透に声をかけた。

 

「待てよ透! 今のは一体―――」

 

 すると透は素早く反転し、一夏にビームを撃った。一夏は咄嗟に回避したが、透は一夏に対して容赦なく攻撃を行う。

 

「な、何するんだよ!?」

「何を? すべてが終わったんだから粛清するだけだろ?」

「一体何をしたって言うんだよ!?」

 

 そう叫ぶ一夏に対して透は冷たく言った。

 

「下らん正義感を振りかざした。それだけだが、弱者の分際で貴様はこの俺の計画を大きく狂わせたのは事実だ。下らんその機体諸共、死ね」

 

 一夏の周囲を荒鋼のビットが囲み、攻撃する。

 

「白式だって、二次移行したんだ!!」

 

 そう叫びつつ、一夏は攻撃を回避する。だが、その自信が罠だった。

 唐突に白式に向けて熱線が放たれる。一夏は咄嗟に二次移行したことによって手に入れた『雪羅』の機能の1つである、零落白夜でできたシールド《霞衣(かすみごろも)》を展開して防ぐが、それによってシールドエネルギーが大きく消費した。

 

「何を勘違いしているんだ、織斑。その欠陥機がいくら強くなろうが、お前やお前の姉が俺に勝つ確率は常に0%だ」

 

 そう言った透は最大威力の攻撃を放とうとした時、その場にいた全ISが未確認の物体を複数感知する。

 

「透!?」

「………どこのどいつだ。粛清の邪魔をし―――」

 

 最後まで言う事なく、透は顔を青くした。

 それを見た一夏は驚きを露わにする。そして、緊張する空気を遮断するように軽快な音楽が鳴り響いた。透の電話であり、一応のつもりかうるさくて切っていた通信回線を開いた。

 

『夜塚、貴様には言いたいことがたくさんある―――』

「それよりも今すぐ電話に出たい。おそらく、緊急を要する」

『…………良いだろう。ただし、手短にな』

 

 許可が出たので透はすぐに電話を出ると、少し予想外の相手だった。

 

『あ、透さん! 大変です!! 幸那ちゃんが今行方不明で―――』

「彼女ならこっちで姿を確認した」

『そ、そうですか。ただちょっと、問題が発生して………』

 

 言いにくそうにする電話の相手である舞崎静流。透は彼の心情を理解しながら言うのだった。

 

「……言ってもいいぞ」

『………悠夜さんが、ダークカリバーを持ち出しました』

「わかった。後はこっちで何とかする」

 

 透は軽く深呼吸し、全員に言った。

 

「作戦は終了だ。全員、今すぐ撤退」

「ちょっと待って! それよりも僕らは君に言いたいことが―――」

「デュノア、それは後だ。死にたくないなら今すぐ撤退だ」

 

 全員が、透の声の高さで何かが起こることを察した。ただ1人を除いて。

 

「なに言ってんだよ! あそこに女の子が―――」

「良いか、織斑。あれは助けてはいけない女の子だ。あれを助けてみろ。花月荘から半径50㎞は消滅するぞ」

「………何言ってんだ? そんなことあるわけ―――」

 

 ごねる一夏に対して透は容赦なく強制的にISを解除し、コアを保有したまま一夏を箒に預けようとしたが―――遅かった。どれだけスピードを出しているのかと叫びたくなるほどのうるさいエンジン音が迫ってくる。

 

「―――邪魔だ」

 

 その運転手が剣を出すや否や、乱暴に薙いで近くにいるラウラを攻撃した。どういうことかラウラは吹き飛び、何事もなかったようにバイクは崖を飛ぶと形態が変化して操縦者の翼となった。

 

「ラウラ!!」

 

 シャルロットがラウラを助ける。見るとただ攻撃を食らっただけなのに福音からもらったダメージもあってか装甲が一部吹き飛んでいた。

 しかし、いきなり現れた乱入者はそのことを全く意に介さず次々と船を沈めていく。乗組員は辛うじて生きている者がほとんどだが、それすらも無視。ただ乱入者に対して銃口を向けた場合、容赦なく剣戟を飛ばしては曲げ、腕を切り落とした。

 

「よぉーし、撤退だ。撤退しようぜ」

「………アレに関しては?」

「ノーコメントだ。帰ったら説明してやるから今は大人しく帰ろう。このままじゃマジで洒落にならん。船員共は自業自得ってことだ、OK?」

 

 いつもは自信に満ち溢れている透が本気で震えていることから異常を察した専用機持ちたちは、文句を言うよりも先に撤退を選択した。ちなみにこの時点で一夏は簪に眠らされていた。

 

「あー、織斑先生。俺が良いと言うまでこの海域には人を送るな。死人が出るから」

 

 そう念押しする透。しかしそれは手遅れだった。何故なら花月荘を見張っていた教員の腕が切られていたから。

 

 

 

 

 IS操縦者たちがいなくなったが、その殺戮未遂は行われていた。

 そもそもの話、今回の乱入は女尊男卑に抗うための組織である「男性権利主張団体」通称、男権団が透に傘下に下るように人質を取ったのである。ちなみに、最初の作戦時点の乱入も彼らで、その時はまだ幸那を誘拐していなかった。元々その作戦はあったが、間に合わなかったのである。

 だが、さらった相手が悪かった。もしこれが朱音ならば、「首謀者の斬首」程度で済んだかもしれない。だが、相手は「桂木幸那」―――つまり、あの桂木悠夜の妹にして、ちょっとしたアウトな噂が流れるほどだ。

 もし、透に「シスコンでランキングを作るなら1位は誰?」と尋ねたら、彼は迷わず「桂木悠夜」だと答える。義理とは言え兄妹だが、前々から幸那に対する悠夜の目線に違和感を感じていたこともそうだが、以前泊まった時の幸那の態度が明らかにIS学園入学以前とは違っていたからだ。その時点で2人の間に何かが起こったのは確信していたが「所詮他人の家の事情だし」と言及するのは敢えて避けていた。

 

「幸那、大丈夫」

「…………うん」

 

 悠夜は幸那に対して優しく抱きしめ、頭を撫でる。ちなみに彼が立っている船は既に半壊していた。

 後に、男権団の暴走が明るみになるが悠夜のことは一切出なかったのは、全員が「黒い剣を持った男」というワードに震え、怯え、絶叫し、自殺を図るなどと言った異質な行動に映るからだ。ちなみにこれは、一部の女性にも見られる症状だった。




ということで、一部蛇足が付いていますが討伐と粛清のお話でした。
ちなみに悠夜は神樹人ではありません。次回にその真相も明かす予定です。たぶんね。

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