IS-Lost/Load-   作:reizen

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ep.4 休み時間は平和に過ごしたい

 入学式が終わり、俺は2度目の高校1年生になった。対外的に見れば自分たちよりも老け、尚且つデブとなればそれはそれは注目を浴びた。……まぁ、奇妙なものを見るような目で見られるが。

 

「全員揃っていますねー。それじゃあSHRを始めますよー」

 

 教員が入ってきて、俺たちに向かってそう言った。………あ、あれ、俺の入試の相手じゃねえか。

 その教員は自身のことを「山田真耶」と紹介し、IS学園の説明をする。

 

「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」

 

 しかも誰も挨拶をしない。それもそうだろう。俺は元々自分から目立つような人間じゃないし、周りの注目は今では織斑一夏の方に行っているからだ。俺の席が窓側の一番後ろというのもあるだろうが。

 

「じゃ、じゃあ、自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」

 

 丸投げしました。

 まぁ、あんな無反応だったら普通は怒る。それでも高校生か、とか言われてもおかしくはない。……そうしないのは山田先生が優しいんだろう。

 

 さて、勉強するか。自己紹介なんて興味ないし。………というか、色恋沙汰に現を抜かす暇なんてないし。

 しばらく大人しく勉強していると、どうやら問題が起こったようで騒がしくなった。

 

「あ、あの、大声出しちゃってごめんね? 怒ってる? 怒ってるかな? ごめんね? でも今、織斑君の番だから自己紹介してほしいんだけど……いいかな? だめかな?」

 

 ………何故か、あの副担任の声を聞いていたらようやく手に入れた☆4のロリが脳裏に過ぎる。

 織斑はすると言って立ち上がり、こっちを見る。………考えてみると、野郎の紹介なんざ大して期待してないから聞く必要はない。……大体性欲のことばかり聞かされた俺の身にもなってほしい。

 

「えー……えっと、織斑一夏。よろしくお願いします」

 

 頭を下げてから上げるが、周りは期待していた。イケメンだから期待していた。………諦めろ織斑。それがイケメンの宿命だ。だが俺はブタメンだからお前みたいな自己紹介の方法でもまったくもって問題ないんだ。これがブサイクの特権である。することはあくまで大人しく。波風立たせずに過ごすことだ。

 

「以上です!」

 

 しばらく考えた後、出てきた言葉が意外だったのかクラスのほとんどがこけた。

 

「え? あの、何かマズかったです―――」

 

 ―――ゴンッ!!

 

 織斑の後ろからまるで当たり前のように拳が振り下ろされる。織斑は痛がったのも少しだけで後ろを向き、

 

「げえっ、関羽!?」

 

 女性に向かって関羽呼ばわりはどうかと。………そう言えば、女で関羽という名前の奴がいたようないなかったような……。三国志見てないからわからないんだよね。

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

 まぁ、流石に今のは織斑が悪い……あれ? 織斑って織斑千冬の親戚?

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」

「ああ、山田君。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

「い、いえ、副担任ですから、これくらいはしないと……」

 

 ………もしかして織斑千冬……もとい、織斑先生は女泣かせかもしれない。レズキラーと言えば別のものが頭に過ぎるがな。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を1年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私のいう事はよく聞き、よく理解しろ。できない者にはできるまで指導してやる。逆らっても良いが、論破できない場合はわかっているな?」

 

 うわぁ。早速ひでぇ。

 性格悪いとは思ったけど、まさかここまでとは―――と、思ったのは俺だけだろう。

 突然起こった教室内にソニックブーム。心なしではなく、マジで窓がカタカタと音を立てている。

 

「………毎年、よくもこれだけ馬鹿者が集まるものだ。感心させられる。それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

 正直、IS学園の偏差値が怪しく思えてくる。

 というかこの状況でそんな馬鹿なパフォーマンスしている場合か。さっさと止めろ。

 

「きゃあああ!! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

「でも時には優しくして!」

「そしてつけあがらないように躾してー!!」

 

 こんなところが日本……いや、世界最高の偏差値の高校だと言うのだから笑えるよな。本気で鼻で笑いたい。

 しばらくしてようやく収まった。今にも倒れそうだ。まるでランニングを5時間連続でさせられた気分になる。

 

「で? 挨拶も満足にできんのか、お前は」

 

 ………アンタのも大概だよ。あんな自己紹介とかマジで初めて聞いたわ。

 

「いや、千冬姉、俺は―――」

 

 また前で殴られる織斑。なんというか、ご愁傷様だ。

 

「織斑先生と呼べ」

「……はい、織斑先生」

 

 ………別に殴る必要、なくね?

 必要性に疑問を抱きながら、俺はゆっくりと状態を起こす。周りはヒソヒソと会話を初めたかと思うと、何故か俺の方に視線を向けられる。

 

「………夜塚、自己紹介をしろ」

「勉強したいんでパスでお願いします」

「その志は褒めてやらんでもないが、このままじゃ終れそうにない。さっさとやれ」

 

 ………何で命令口調?

 全く。どこかの誰かさんのせいで体調を不良にされたというのに。親は一体どんな教育をしてきたんだが。

 ため息を吐きながら立ち上がり、軽く自己紹介をした。

 

「夜塚透。趣味はゲームやパソコンで整備科志望だ。俺に関わるの自己責任だから肝に銘じてから接するように。以上だ」

「………まともな自己紹介を期待したんだがな」

「まだまともだと思いますけど?」

 

 わざわざ俺と関わる時に忠告する人間なんていない。大抵の奴はハーレムだなんだと勘違いして女を開拓するからな。だが、俺は別だ。現状は既に把握済み。今は勉強をして知識を集めることが先決だ。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で身体に染み込ませろ。いいか、私の言葉には返事をしろ」

 

 周りは返事をするが、俺は内心従わずに自分のペースでやることに決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休み時間と共に俺は寝ていた。おそらくここ最近続いている寝不足と運動を始めたから体力がなくなっているのだろう。授業の内容は理解できるが、少しでも体力を回復させたい。その時間の間、誰かが来たようだけど俺は構わず寝た。

 そして2時間目、ある問題が発覚する。

 

「ほとんど全部わかりません!」

 

 挙動不審だった織斑が質問され、その答えである。山田先生は涙目だったけど、決して彼女の教え方が悪いわけではない。まだもう1人の方はわからないが、山田先生はとにかくわかりやすい。というか、この内容ってまだ参考書の最初の方だぜと思ったんだが、どうやら織斑は電話帳と間違えて捨てたらしい。

 

(……意識低すぎだろ……)

 

 昔からイケメンは屑っぽいイメージがあるが、こいつも典型的な「顔が良いからモテるんだぜ」って感じの奴なんだろう。

 そして酷いことに、何故か俺にとばっちりが来た。

 

「夜塚、お前は参考書はちゃんと読んでいるか?」

「……理解と記憶という意味では、1/3ぐらいです」

「ではお前も残りを1週間以内に覚えろ」

「わかりました。じゃあ今日はこれで失礼します」

 

 そう言って帰る用意を始めると、周りは心底不思議そうに俺を見て織斑先生は慌てて止める。

 

「何をしている!? まだ授業中だぞ!?」

「え? 残り2/3を覚えろってことでしょう? だから授業を休んで勉強するんですが」

「確かに言ったが、だからと言って勝手に帰ることは許さん」

「随分と無茶苦茶な注文ですね。私はあなたと違って天才でもなんでもないんですよ? ならばその対策としてちゃんとした勉強環境を形成し、努力するまでです。何か問題でも?」

「………わかった。ならば1週間以内じゃなくてもいいから座れ」

「はい」

 

 ………何で従うと思ったんだろ。

 

「え? じゃあ俺は―――」

「お前は捨てたことを報告しなかった罰だ」

 

 それは妥当だと思った。

 捨てたなら相応の対応を取るべきだった。だけど織斑は怠ったのだから仕方ない。………あんな奴に筆記じゃ負けたくないって思ったけど、焦った所で変わらない。

 

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解できなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

 

 ………正論だけど、もしこれを他の女が知っていたら男を見下すという事はならなかったと思う。ISを兵器だと言うならば女たちは人殺しと言ってもおかしくはないし、女たちは人を殺すために優遇されているのだから。むしろ自ら拒否するだろう。

 

「………貴様、『自分は望んでここにいるわけではない』と思っているな?」

 

 仕方ない状況だったとしても、女子校に通いたいと思う男は少ないと思うんですが……。

 

「望む望まざるに関わらず、人は集団の中で生きなくてはならない。それすら放棄するなら、まず人であることを辞めるんだな」

 

 ―――それ、不当に逮捕された人たちに言えるんですか?

 

 思わずそんなことを言いそうになったが、これ以上目立つのは嫌だったから自重した。

 

「えっと、織斑君。わからないところは授業が終わってから放課後教えてあげますから、頑張って? ね? ね?」

 

 俺も参加したいと思ったが、邪魔するのは野暮か。………もし織斑のペースに合わせられたら時間の無駄だし、こっちはこっちでやろう。

 何故から山田先生は織斑に頼まれたら変な妄想を始めたけど、もしかして男に耐性がないのだろうか? またはイケメンの特権か。山田真耶という人物は教えるのは上手いが教師としてはイマイチ信用できないというか頼りない。

 

(………俺、この学校でちゃんとやっていけるのだろうか……)

 

 正直不安だった。というか不安しかない。だから更識のおっぱい揉んで癒されたかった。そんなことを言ったら間違いなく色々な方面から始末されるから黙っているけどさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休み時間になり、次の授業の準備に不備がないか確認して寝ようとしたら織斑がやってきた。

 

「ちょっといいか」

「全然良くない」

「俺、織斑一夏って言うんだ。よろしくな」

 

 織斑は人の話を聞かないタイプの様だ。

 

「知ってる。じゃあ寝るから―――」

「ちょっと、よろしくて?」

 

 ………また妙なのが現れた。

 織斑は間抜けな返事をして、俺は無言で突っ伏して軽く観察する。貴族ってイメージを彷彿させるドリルヘアー……もとい、縦ロール。改造アリの制服だからか、スカートから黒いスカートの裾のようなものが出ていた。

 

「聞いてます、お返事は?」

「ああ……聞いてるけど、どういう用件だ?」

「まあ! 何ですの、そのお返事は。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら? 特にあなた、わたくしに話しかけられたというのにその態度は何ですか!?」

「………寝たいからどっか行って話してくれ」

 

 というか、何故わざわざこのようなタイミングで……? 俺、興味ないんだけど……。

 

「悪いな。俺、君が誰か知らないし」

「わたくしを知らない? このセシリア・オルコットを? イギリスの代表候補生にして、入試主席のこのわたくしを!? あなたはどうなんです?」

「………知らないけど」

 

 そう答えると彼女のこめかみ辺りに筋が入った……というか、

 

「そろそろどこかに行ってくれ。俺は寝た―――」

「あ、質問良いか?」

「だから寝かせろ!」

 

 突然叫んだから2人は驚いた風に俺を見る。

 

「さっきから言ってるけど、俺は眠たいの。今度の授業のために鋭気を養うからどこか行ってくれ」

「このわたくしに話しかけられているというのに寝るなどあるまじき行為でしてよ!?」

「いや、知るかよ。そもそも俺はお前の名前しか知らねえし、そして俺は日本の国家代表の名前しか知らん」

「な!? あなた、本当に勉強しましたの!?」

「……男がISに興味を持つとしたら機体の方だけだ。生身に興味を持つのはただの馬鹿か成金かのどっちかだと思うんだが……」

 

 そもそも、ISの登場のせいで男が不利になったのだから興味を持つのはロボットとかが好きな奴だけだ。

 

「あ、質問いいか?」

「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

「……じゃあ、俺の要求にも応えろよ」

 

 だが無視された。こいつら絶対に性格が悪い―――

 

「代表候補生って、何?」

 

 聞き耳を立てていた奴らは全員こけた。ここはいつからお笑い番組のスタジオになったのだろうか。

 

「あなた! 本気でおっしゃってますの!?」

「おう、知らん」

 

 オルコットが頭を抱えて始めた。日本人が後進的、みたいなことを言っているが織斑の情報力を考えると思われるのは仕方ないかもしれない。

 

「それで透、代表候補生って何だ?」

「「さん」を付けろよカス野郎。代表候補生ってのは将来は国家代表になるかもしれないエリート集団の1人のことだ」

 

 馬鹿のために嚙み砕いて説明すると、概ね合っているからかオルコットは腰に手を当てて威張るように言った。

 

「そう! エリートなのですわ!」

 

 なお、そのエリートは他にもたくさんいる模様。

 

「本来ならわたくしのような選ばれた人間とは、クラスを同じくすることだけでも奇跡……いえ、幸運なんですのよ。その現実をもう少し理解していただけます?」

「そうか。それはラッキーだ」

「………馬鹿にしていますの?」

 

 いや、その発言は「私は馬鹿です」と言っているようなものだがな。

 そもそも男のIS操縦者は俺と織斑以外は誰もいない。だから敢えて言うとオルコットの方が幸運だと言うべきだ。………ま、織斑が馬鹿だという事は否定できないがな。

 

「大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。希少な男性操縦者と聞いていましたから、少しくらい知的差を感じさせるかと思っていましたけど。あなたの方は少しはマシかと思いましたが、わたくしにそのような態度を取るだけでなく生活習慣を乱らせるようないい加減な体型をしている以上、どんな育ちか想像できますわ。ま、どちらも期待外れですわね」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「今時の貴族は市民の要求を平然と捨て去るのだということはよくわかった」

 

 そう言うとオルコットは何か言いたそうになっているが、我慢して言った。

 

「ま、まあでも? わたくしは優秀ですから、あなた方のような人間にも優しくしてあげますわよ」

「さっきまでの一連の行為が「優しく」なら、お前の方こそ育ちが良くないって言われるだろ」

「……あ、ISのことでわからないことがあれば、まあ……泣いて頼まれたら教えて差し上げても良くってよ。なにせわたくし、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですから」

 

 ………まぁ、前々から動かしていたんだったらそれくらいできるだろ。というか他の競争相手が素人が大半な時点で、なぁ?

 

「入試ってあれか? ISを動かして戦うって奴?」

「それ以外に入試などありませんわ!」

 

 俺は筆記試験あったんだけどな。……まぁ、事実上入学できるから意味がないのは確かだが。

 

「あれ? 俺も倒したぞ、教官」

「は……?」

 

 ………うわ、こいつ何さりげなく凄いことをやり遂げているんだ?

 

「わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子ではってオチじゃないのか?」

 

 あ、今のでたぶんダムが決壊した。

 だがチャイムが鳴り、結局オルコットは捨て台詞を吐いて席に戻った。……結局寝れなかったじゃねえか、ちくせう。

 

 そして俺は、運命の出来事を迎えた。




一夏は透の年齢を知りません。

一夏のスケジュールとして、IS学園入学決定→IS検査→家の掃除でしょうから。
そして一夏自身、テレビをあまり見ない人間ですし、透のことはそこまで報道されていませんから。

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